提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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青葉の横須賀鎮守府取材、本格的に始まります!


第二百十九話

大淀に連れられて歩く横須賀鎮守府は率直に言って、これを本当に司令長官に言っても大丈夫なんだろうか…と言うくらい他の泊地や基地なんかとは違う作りに激変していた。

 

食堂…ご飯は電気の炊飯ジャーなどではなく、かまど。水は勝手口の外にある井戸水(地下のだいぶ深いところからくみ上げているらしい。ちなみに海の近くにあるのだから海水だろうと思ったが、煮沸消毒された水を飲んでみたら真水だった。間宮いわく、妖精さんの技術で真水に濾過されているらしい)

 

「これでご飯を炊くとふっくらご飯が炊けておいしいし、お味噌汁なんかを作るととってもおいしいんですよ!」」

 

間宮がにこにこしながら厨房を紹介していく。大淀が厨房に行く前に話してくれたが、以前は安久野を悦ばせるためだけの厨房だったのだが、今は提督、艦娘、来賓問わずに誰もが顔を綻ばせる厨房に変わった。

 

食事だけでなく、間宮特製のアイス、羊羹。玲司が作るスイーツ。その他にピザを焼くと言う窯まである。厨房やこれから見せる施設は全て妖精さんが玲司に言われたわけではなく、玲司とよく相談したうえで自らの意志で作るらしい。

 

そこはさすが司令官の妖精さんですね…と思った。ショートランドでは資材などが離島のせいで限られていたため、好き放題施設の増設、拡張などはできなかった。今は日本中に住まうらしい妖精さんの所へ赴き、おほしさま…金平糖を通貨として最高級の素材を手に入れて来ては改造に励んでいるらしい。

 

「ところで…万が一ですけど司令官が異動になって横須賀を離れてしまった際などは…この施設もとに戻せるのですか…?」

 

「くちだけはたっしゃのとーしろがそんなことをいうもんじゃあないですよ」

 

「むっ…」

 

「ただのかかしですな。わたしたちならまばたきするあいだに」

 

パチン、と指を鳴らしてふふん、とものすごいどや顔をしている。

 

「もとどおりにできる」

 

「そ、そんなことが可能なんですか…」

 

「もちろん。ぷろですから」

 

ドヤァァァァ…と言う言葉が後ろに漂っていそうなくらいのどや顔で妖精さん達がふんすと鼻を鳴らす。つまり、今から紹介されるであろう艦娘の娯楽施設達は玲司がいる間のみ機能し、玲司がいなくなるとわかるや安久野の時の様なボロボロではないが、ごくごく普通の鎮守府に一瞬で戻せるらしい。日本の妖精さんだけではなく、ブロンドヘアでブルーアイな紅茶をこよなく愛する妖精さんもいた。

 

「わたしのこうちゃをのんだのはだれだ!?てぃーたいむをこうちゃなしですごせというのか!?」

 

思いっきり日本語ペラペラじゃないか。妖精さんは100の言語を駆使するらしい。よくわからない。

 

「すこーんもなくなっている…」

 

青葉は思う。緊張感のきの字もない鎮守府ですね!と。食堂ではこの寒い中、白いセーターに茶色のミニスカート。黒ストッキングをはいた重巡摩耶がアイスをご機嫌な顔で最上と食べていた。最上は半纏姿だ。ここでは私服で艦娘が歩き回っている。彼女たちは今日は仕事はオフらしい。

 

演習や遠征、執務をしている者たちはちゃんとした正装であるが。私服は近くの商店街の洋服屋で買ったりもらったりするらしい。いいなぁ…と青葉は思う。ここまで自由が許されているのはさすが司令官だろう。

 

「悪いなぁ。どうせならみんなも私服着て楽にしてほしいんだけどなぁ」

 

ショートランドではよくそう言っていた。寝間着も何とか司令官がわがままを言って得たおそろいの簡素なものだったが、ここではパジャマやらネグリジェやらジャージやら。いろいろな寝間着で寝たりもしているらしい。

 

「寒い中で食べるアイスってなんでこうもぜいたくな気分になれるんだろうねぇ」

 

「あたしゃさみいけどな…うまいけどよ…」

 

「むっ、摩耶さんの頬にアイス!これは萌えポイントです!」

 

無駄に洗練された無駄のない鮮やかな動きで青葉が摩耶をファインダーに捉え、一瞬のうちにシャッターを押した。パシャリ、と言う音に気が付いた摩耶がカメラを自分に向けている青葉に気が付いた。

 

「おいコラ青葉ァ!!!何撮ってんだよ!!」

 

「いやぁ、そんな幸せそうな顔でアイスを食べる摩耶さんがかわいくてですねぇ…それにほら、ほっぺにアイスまでつけて」

 

「んなぁ!?」

 

 

「はい、チーズ!」

 

青葉がそうやってカメラを構えると最上がいえーいとピースをし、摩耶もなぜかほっぺにアイスをつけたまま「にひー!」とスプーン片手にピースをしていた。

 

青葉の固有能力「約束されたベストショット」…なんてものは存在しないがなぜか青葉に写真を撮られるとその写真はとてもよいものになると言う。現像してみないと何ともまだわからないが、これは絶対にいい写真だろう。青葉は確信した。

 

「わーい!ねねね、青葉。写真見せてよ!」

 

「おいいいいい!!!何で体が勝手にピースして笑顔になっちまったんだよおおおお!!!消せ!!!!今すぐ消せよおおおおおお!!!!」

 

「あー、申し訳ありません。青葉の写真はフィルム式で今流行りのデジカメとは違うので…大本営に帰って写真を現像ってことをしないといけないんですよー。ほら、こんなフィルムっていうやつにですねぇ…っておおっと!?」

 

「それをよこせえええ!!!あたしの写真を消してやるんだあああああ!」

 

「こ、これは予備のフィルムですから摩耶さんは写ってませんよぉ!?」

 

「えっ?写ってない?あたし、写ってないのか?」

 

「は、はい(こ、これでこのままカメラの中のフィルムにばっちり写ってるって言うことを伏せれば…)」

 

(いいよぉ青葉…きっと摩耶はわけがわかってないっぽいからそのまま押し通しちゃえ…)

 

最上はデジカメではないフィルム式カメラの存在を喫茶「ルーチェ」のマスターが使っていることから知っている。最上も「キャロットケーキを見てぐぬぬ顔になっている熊野」をマスターから写真をもらって大笑いしたことがあるものだ。あわや熊野に捨てられそうになったものだが、鈴谷や三隈からかわいらしいので全力阻止され、今も捨てたと偽って実は三隈の机の引き出しの秘密のアルバムに収められている(玲司からデジカメで印刷してもらった最上の寝顔や鈴谷が初めて軽空母になって艦載機を飛ばした瞬間の凛々しい姿などが綴じられている。

 

一方で摩耶は機械に疎いのでデジカメだのフィルム式のカメラだのと言うことは知らない。大体いたずらで最上に玲司のデジカメで写真を撮られることが多いが、その消し方の操作はつい最近覚え、へっへーん!と得意顔になっているが、今回ばかりはそれもできない。

 

「ふう…ならよし!あー、こんな姿撮られたらたまったもんじゃねえぜ…」

 

(うまくいったね!青葉!!)

 

(ありがとうございます!!!)

 

ビシッと摩耶に気づかれないように親指を立て合うのであった。大淀はやれやれ…と呆れた顔。間宮はクスクスと笑っている。賑やかな食堂が大好きだから間宮は事情はよくわからないが最上が楽しそうだし、この改善された素晴らしい食堂をいいように紹介してくれるのは嬉しかったのだ。

 

「ああ、青葉さん、今日は提督がオムライスを作ってくださるようですよ。楽しみにしておいてくださいね」

 

「ほ、本当ですか!?うわあ、司令官のオムライスを食べるのは久しぶりなんですよぉ!よぉし、もっといっぱい鎮守府のいいところを撮りまくってお腹を空かせて夕飯に臨みますよぉ!!」

 

「ふふふ。楽しみにしておいてくださいね」

 

これで食堂の取材は終わりだ。たくさんの写真を撮り、摩耶と最上のお宝写真も撮れ、間宮アイスに羊羹などもしっかり撮っておいた。これは新聞どころか雑誌でも作れるんじゃないかと言うようなボリュームになりそうだと青葉は思った。

 

「あ、そうだ!間宮さんもお答えください!この鎮守府は、司令官は皆さんにとってどう思いますか?」

 

「どう思うって言ったってよぉ…」

 

大湊や新しく九重提督が着任した宿毛湾泊地、岩川基地のいろんな艦娘に聞いてみたことだ。青葉の質問が漠然としすぎているために誰もが返事に困る質問なのだが。

 

「鎮守府はボク達が帰る家。提督は…お兄ちゃんのような…お父さんのような…あー、文月や皐月からしてみたらお父さん、ボクからみたらちょっとドジで過保護なお兄ちゃんかな?ボク達や朝潮達を深海みたいな暗いところから引っ張り上げてくれた恩人。ってとこかな」

 

「ああ、そういうことかよ…あたしも最上と一緒かな。兄貴…?お父…さん?そういうのはわかんねえけど、まあ、みんなを笑顔にしてくれるし、うまいご飯は作ってくれるし、いい人だよな!あ、ほかの人間はあんま…まあ、商店街の人は信用してるけど…大本営とか海軍の人間は信用してねえけど…」

 

「そうですね…こうしてお料理を作る楽しさを教えてくださる素敵な方…そして私はこの鎮守府の台所をお任せされた身…粉骨砕身の精神でもっとお料理に励みます!」

 

この鎮守府の艦娘は最初に出会った響や電達も含めて目の輝きがほかの艦娘よりももっと輝いているように見える。さすがに摩耶の言う通り、ここの艦娘は人間から酷い仕打ちを受けた艦娘が多い。特に今の腐った海軍の連中に不信感を持つのは司令長官も含めて当たり前か…。司令長官から聞いたが、司令官以外の人間は信用していないと見ていい、と言われている。未来に希望は持っているようでよかった。海軍なんて放っておけばいい。ここで司令官とやっていくのが彼女達にとっては一番安心できるだろう。

 

「なるほど、取材のご協力ありがとうございましたー!」

 

「おい!本当にさっきのは写真に写ってないだろうな!?」

 

「あーあー、摩耶は疑り深いなぁ。大丈夫って言ったでしょー?(適当にだけど)」

 

「は、はい。本当に写っていませんよぉ!(ばっちり頂きました)」

 

「おう!ならよし!」

 

またしても摩耶が見えないようにヨシ!と親指を最上と立てて厨房を後にした。久しぶりに食べられるであろう司令官のオムライスに期待に胸を膨らませて。

 

「さ、青葉。次へ行きましょう」とタイミングよく大淀にも促された。

………

 

「次はドック…と大浴場です」

 

「は、はい…?」

 

この時間なら誰もいないだろうと言うことでやってきたのは横須賀の艦娘に大人気。傷を治すドック、プラスおそろしく広い浴場が姿を現す。ちなみに脱衣所は資料で見た銭湯を思い起こす作り。ちなみに、最新式にしようと言う考えはないこと。そしてそうしようとすると妖精さんが断固反対すると言うおまけつき。

 

「あの…これも妖精さんが?」

 

「元は…ここで傷を治した艦娘を罰としてこの浴場で…いかがわしいことをするための場所…だったんだけれど…」

 

浴場で欲情…いやいや、そんなしょうもない冗談を言っている場合じゃない。そうだった。ここは前提督、安久野の爪痕が残る場所でもあった。そうか…そうだったのか。

 

「今はそんなことはみんな忘れて癒しの場所になっているけど。妖精さんが安久野提督…いえ、安久野の悪い思い出を全部壊してここまで大改築したの。広さは…たぶん、そのときの2倍近くあると思う…」

 

「え、ええ…」

 

「みるくぶろにしてみたり、おにわのばらをいれてみたり、はーぶをいれてみたりあきのこないくふうもしていますよ。ちなみにやくそうぶろはだいふひょうでしたので…」

 

なぜそんな悲しそうな顔をするのか。絶対に気に入ってもらえると思ったら、霞の「このおふろくちゃい!」のひと言で妖精さんの心に絶大なダメージを与えてしまったことで薬草風呂は二度と用意されることはなかった…。

 

「サウナに水風呂…これは武蔵さんが図書室で読んだ本を見て熱い要望で作られたものですね、あっちの露天風呂は妖精さんの提案で作ったもの。提督が快諾してくださったんです。海が見れてとてもいいお風呂なのよ」

 

「ひょえー…さすが司令官。そう言うことはすぐにオッケーを出しますからね。うわぁ、夜に入っても向こうの街の光が見えてきれいそうですね!うーん、今日はお泊りですから夜が楽しみですねぇ!よぉし、ここもバッチリ写真に撮って紹介しますよ!傷を癒し、心も疲れもバッチリ癒せる最上級のくつろぎの空間!うーん!いい記事が書けそうですよぉ!」

 

「ふふ、いっぱい撮っていい記事を書いてほしいわね」

 

もちろんです!とパシャパシャ写真を撮っていた。そしてなんとサウナまであるんですよ!と言う記事を頭で考えていた時…ガチャリとサウナの扉が開いた。

 

「はっはっはっは!!やはり寒い日に入るサウナは格別だな!なあ皆!」

 

「は、はひぃ、ひゃ…ひゃるなはだ…らいじょうぶれ…れふ…」

 

「し、しらぬいに…おち、おち、おちどどど…でも…」

 

パシャリ。

 

「武蔵さん!?は、榛名さんに不知火さんまで!?ど、どうして!?この時間は…誰も…いないと思って…?」

 

「む?どうした大淀。何、榛名や不知火が寒そうにしていたのでな。ならばサウナで温まろうじゃないかと連れてきたわけだ」

 

「ちょ、ちょちょちょ!!!!榛名さんと不知火さん、もうフラフラじゃないですか?!どれくらい入っていたのですか!?」

 

「む?そうだな、小一時間くらいか?いい汗をかいたぞ」

 

「いやいやいやいや、武蔵さんと違ってサウナに慣れていないお二人にはとんでもない時間ですよ!!」

 

「ならば水風呂に入ればいい。そうすればスカッと体も冷えるぞ」

 

「あ、ああ!?榛名さん、ダメです!!!」

 

「は、はひ……………きゃああああああああ!!!!!!!!」

 

「しらぬ…しらぬいは…だいじょう…ぶ…です…」

 

「それは榛名さんのセリフです!!!!あああ、す、すぐお風呂に入って…って青葉あああああ!!!!!!」

 

「あ、青葉撮っちゃいましたああああああああ!!!!!!!!」

 

すっごい。すっごい…何て言うかいろいろ大きい。いや、すっご…高雄さんや陸奥さん、赤城さんなんか比べ物にならないほど…胸部装甲も…榛名さんもシュッと…いやいやいや…こ、これは、これはお宝ですよ!お宝!!!!って言うか早めに引き上げないとカメラが湿気で壊れてしまいます。

 

「青葉ぁ!!!今武蔵さん達の裸、写真に撮ってませんでしたか!?」

 

「ああん?写真?別に私の裸なんぞ撮ったところで何かあるのか?減るものでもないだろう?」

 

「大問題です!!!!今青葉はここの取材をしていてこれが新聞に載るかもしれないんですよ!?」

 

「えええええええ!?!?!?!?は、ははははは、榛名はそれは大丈夫じゃありません!!!!」

 

「…不知火は別に…」

 

「大・問・題・です!!!!」

 

「い、いやぁ、これはさすがをさすがに新聞に載せると憲兵に青葉が連れていかれちゃいますんで…」

 

公序良俗に反する新聞など作ってしまったら即刻憲兵の御用になってしまう。し、しかし…これは何というお宝写真。あの噂に名高い…『暴虐の姫君』をぶん殴ったと言う大和型戦艦。本来なら彼女と大和の砲撃シーンでも撮れればと思っていたのだが…まさかすっぽんぽんの武蔵を撮ってしまう…とは…。

 

ついでに榛名に不知火…いや、これを誰かに渡したりなどは絶対にしないが…こういう時、デジカメでないと消去したりできないのは…参った。

 

「……じとー」

 

大淀の目が青葉をこれを使って何か悪さを企んでいるのではないかと言う疑いの目で見ている。

 

「大淀…青葉は!誓って!この写真は使いません!!」

 

「むーーーさーーーーしーーーーーー!!!!!!榛名さんと不知火さんを連れてサウナなんて良からぬことを…は、榛名さん!?不知火さん!?だ、大丈夫ですか!?武蔵!!!ちょっと来なさい!!!今日と言う今日はもう許さないわ!!!!」

 

「いででででで!!!!おい!本気で耳を引っ張るな!ちぎれるだろう!!!!おい、聞いているのか!?」

 

「は、榛名は大丈夫です…」

 

「不知火に落ち度でも?」

 

武蔵は耳を姉である大和にちぎれそうな勢いで引っ張られながら退場した。そして不知火や榛名もフラフラとしながら去って行った。

 

「………とりあえず、撮っちゃいますね…」

 

「そうして…」

 

大淀ははああああ…とでっかいため息を吐いて青葉が写真を撮り終えるのを待った。榛名さんと言い、武蔵さんといい…うらやま…何を言っているの私!?と青葉に気づかれないようにブンブンと頭を振るが、その立派な胸部装甲が目に焼き付いていた。いつも一緒にお風呂に入ったりしているのに何で今日は…。

 

「はい、終わりました。あれ?大淀、顔が真っ赤だけど…」

 

「な、なんでもないれふ!!!!」

 

「???いだぁ!?」

 

バシィ!と大淀に背中を思いきり叩かれた。そして謎の赤面に首を傾げる青葉であった。

 

………

 

図書室があると言う元整備員や憲兵詰め所である建物へ向かうため、中庭を歩く大淀と青葉。大淀はさっきから顔を真っ赤にして喋ろうとしないし、青葉は困惑するばかりである。話しかけても無視される。青葉、何か悪いことしました?とずっと考えているところだった。

 

「おや?」

 

青葉が目を向けた先は少し開けた広場。そこでは何か遊んでいる駆逐艦がいた。

 

「けーんけーんぱーけーんけーん…わったたたたた!!!!」

 

「あ~、皐月ちゃんわっかから出ちゃったねぇ~。えへへ~、文月の勝ちぃ~♪」

 

「むー!また負けたぁ!!ね、ね、文月!もう一回やろうよ!」

 

「え~?まだやるのぉ?」

 

「まだやるの!!ボク3連敗だもん!!」

 

「おうっ!皐月はたいかん?をもっと神通に鍛えてもらった方がいいと思うな!」

 

「ええっ!?じ、神通さんの訓練はぁ~…」

 

「文月、神通さんの鍛錬がんばってるよぉ~?足がいたた~ってなるけどね~」

 

「島風も!夕立との勝負に負けないために頑張ってるもん!」

 

「ううー…じゃ、じゃあ次はボクも参加する~…霰はどうする?」

 

「霰は…いつも…参加、して、るよ」

 

「えっ」

 

「参加してないのは皐月ちゃんだけだよぉ~」

 

「そ、そんな…ボクだけ仲間外れなんてずるいずるいー!!!」

 

「え~?いつもお誘いしてるけどぉ…逃げちゃうもん~」

 

「う、うううう…」

 

駆逐艦がこの寒空の下で遊んでいた。と言ってもちゃんと冬の私服はちゃんとした冬用でコートの様なものもベンチに置かれていたりと寒さ対策はしっかりしている。寒いけれど体を動かす遊びをしているからかちょっと暑そうだ。

 

大きな丸を書いてけんけんぱーをやっていたようだ。遊んでいたのは皐月、文月、島風。そしてもこもこのマントの様な防寒着を着て本を読んでいる霰。この寒空で読書…?

 

「あ、大淀だー!」

 

島風が気づいて手を振ってくる。大淀も小さく手を振って近づく。青葉もそれに続く。

 

「大淀さん、こんにちわぁ~」

 

「お疲れ様だよ!」

 

「こんにち、は…」

 

「こんにちは。みんなはお外で遊んでいるのですか?寒くないですか?」

 

「うん!体を動かしていたから寒くないよ!…へっくち!」

 

「あらあら…風邪をひいてしまいます。ちゃんとジャンパーを着ましょうね」

 

「うう、動かなくなったら寒くなっちゃった…くちゅん!」

 

「皐月ちゃん…大丈夫…?霰のこれ…使って、いい、よ」

 

「ありがと…ううー…すとーる…だっけ?これ暖かいよー。でも、霰も寒いよね?よーし、じゃあ霰にも…えっへへ、これで霰も暖かいよね!」

 

「ん…あった、かい♪」

 

大きなストールだったので小さな皐月と霰。2人を巻いてもなお余裕があるストール。扶桑がお外は冷えるから一緒に暖まってね、と霰に渡したものだった。

 

「あ~、霰ちゃんも皐月ちゃんもいいなぁ~。じゃ~あ~、文月は島風ちゃんとぐーるぐるー♪」

 

「にひひー♪あったかーい!」

 

そのやりとりは何と言うか…尊い。語彙力が消失するほどの尊さであった。文月も大和から借りていたのだった。扶桑や大和は駆逐艦に対して多少過保護なところがある。とくに皐月、文月、霰、島風や雪風には甘い気がする。

 

「まほーびん…だっけ?お茶…も、あります。はい、皐月…ちゃん」

 

「ありがとう!んん!?あちゅ!あちゅ!!」

 

「皐月ちゃぁん…熱いから気を付けてね~って扶桑さんが言っていたよ~…」

 

「ううう…やへろ(火傷)しらぁ…」

 

「おうっ!?ドック行く!?」

 

「い、いえ…舌のやけどはドックでは治らないと思います…」

 

「ひょ、ひょんらぁ…」

 

べぇと舌を冬の冷たい風で冷やしている皐月。見ていて…ああ、ほっこりするなぁ…と青葉は思う。その一連のやり取りを青葉はずっとシャッターを切って撮っていた。

 

「……へんたい、ふしんしゃ…さん?」

 

「ぶほぉ!?」

 

「あー…霰ちゃん…そうじゃなくてね?」

 

駆逐艦の間では青葉は「へんたいふしんしゃ」で通ってしまっている。響からの情報はいち早く駆逐艦に駆け巡り、今鎮守府にはへんたいふしんしゃがいるから気を付けてね、と広まってしまっているらしい。

 

「そう、なんですね…ごめんなさい」

 

「あ、あはは…ま、まあこんなカメラを無言で向けてパシャパシャ撮ってたら不審者ですよねー!」

 

もうどうにでもなぁれ。青葉は開き直ることにしたらしい。事情を大淀が説明する。この今の状況も新聞?と言うものに載るかもしれないと言うことだ。新聞の意味をよく分かっていなかったが「今、横須賀鎮守府はこんな風にやってますよー」と言うことをいろんな人に知ってもらうために写真を撮っていると説明すると何となくわかったらしい。

 

「えー…あの人たちにこんなことしてるって言ったらまた文句言うよ」

 

島風だけは大本営のことを知っているだけに不機嫌そうな顔をしていた。

 

「いやぁ、島風さんが知っているあの連中じゃなくて若い職員の皆さんが横須賀はまだひどい目にあってるんじゃないかって心配している人が多くてですね…」

 

「むー…まあ、いいけど…いろんなお姉ちゃんは優しくしてくれたし…おばさんも…でも男の人は嫌い」

 

大本営の艦娘の扱いもひどいものなのだな…と大淀は思う。そういえば提督もボロクソに言っていたっけ…。

 

「最近は艦娘への感情も変わってきています。古い人たちはまだまだ艦娘を兵器だ何だと言いますけど若い職員の人たちは艦娘への態度は柔らかいものですよ。この間は…あー…五ヶ丘って言う人が艦娘の事を悪く言ったご老人にむちゃくちゃ怒ってましたし…」

 

最近リンガの提督になりましたねーと言ったが知らない人だ。信用できる提督は一宮提督、七原提督、九重提督…あとは…うーん…刈谷提督…だろうか。

 

「へぇ~。文月たちがそのしんぶんって言うのに出るの~?」

 

「はい!こんな仲良しのほんわかしたシーンはとても貴重です!ありがたく使わせてもらいます!」

 

「あ、じゃ~あ~、青葉さぁん。あたしとぉ、みんな、んしょっと、こうしてぇ、4人で集まってるところを撮ってほしいな~」

 

「あ、島風もそれいいなー!」

 

「ふふふ、それは名案!えっと、霰さんのその本は…」

 

『写真でわかりやすい名刀図鑑』

 

「し、渋い本を読んでいるんですね…」

 

「……この…鶴丸…国永さん…が、お気に入り、です」

 

そんなことを言われてもわからない。あとは小竜景光もいい、いいです…と言うことだが…。大淀も寡黙な霰が刀について熱く語ろうとしている様には驚いた。まさかそんな趣味が…頼むから武蔵さんみたいに砲撃ではなく、明石に刀を打ってくれとか言わないか心配になってきた。

 

霰は本を自分の後ろに、ちょうどストールで隠れるようにして写真に写る準備を整えていた。かわいらしい4人が集まり、しっかりと寄り合う。

 

「はい!いい写真を撮りますからねー!笑ってー!」

 

「「「にー!!!」」」

 

「あ、霰…さん?」

 

「にゃに?」

 

「ぷっ!あははははは!!!霰なにそれー!!!!あはははは!!」

 

「あははははは!霰ぇ!それじゃあ無理やり笑ってるみたいだよぉ!!」

 

「ふふふ、ふふふふふ!!!!霰ちゃぁん!お、おかしくって写真が撮れないよぉ!」

 

「……?ありゃれすまいる」

 

「ふふ、ふふふ、もう、霰ちゃんったら!」

 

霰は自分の指で口の端をつり上げ、笑っている(ような)顔を見せた。霰は感情が乏しいため、にーっと笑うことができない。だから無理やり笑顔を作っているようだが皐月たちが大笑い。この自然な笑顔も素晴らしいのと、霰のおちゃめな仕草がかわいらしかったのでそれもフィルムに収めた。

 

最後は「いちたすいちは!?」と青葉が問いかけ、「にー!」とみんなで言ったところ、霰も何となく笑っているように見えた。これはこれでかわいらしかった。

 

ちなみにこの時の霰スマイルは大本営の若い女性職員陣のハートを鷲掴みにし「尊死する」と言う声が続出したそうだ。他にも「フミィ…フミィ…」と言い出す男性職員やらいろいろと危なかったと言う。

 

「いやぁ、これはかわいらしい写真が撮れました!新聞に載せると女性職員の方々がキュン死しないか心配ですけど…」

 

「何よそれ…」

 

「あはは…なんかこう、駆逐艦の子の無邪気な笑顔に母性本能が刺激されるとかなんとか…」

 

大淀はよくわからない…と言う顔を青葉にむけていた。大本営の特にまだ結婚していない独身女性や、結婚はしているけれど子供がまだ…と言ったご婦人達は自分の産まれてくる子がこんな子になったなら…素敵な男性と出会ってこんな子を授かりたい…そんな思いに駆られるらしい。中には曙や霞など、「クズ」や「クソ」言うんだけど大丈夫だろうか?と言う子にまで母性本能が…と言うご婦人までいるくらいだ。

 

「ねーねー何の話ー?」

 

「あー、いえいえ、こちらの話ですよ。そうだ、皐月さんたちにとって司令官とこの鎮守府をどう思いますか?」

 

ドックもとい大浴場では武蔵は大和に無理やり連れて行かれるし、榛名や不知火はサウナでフラフラになっていたので聞きそびれた。この子達は純粋な子たちだ。どう言う反応が返ってくるだろうか。

 

「司令官?司令官はねぇ…司令官といると、文月、とぉ〜っても胸があったかくなるんだよぉ。優しいしぃ、ご飯もおいしいし〜、いつも司令官に恩返しがしたいよぉって思うんだけどね?文月達じゃあんまりお返しが思いつかなくてぇ…」

 

「司令官にご飯を作ったことはあるよ!いつもありがとうって!そしたらね、ありがとうってぎゅってしてくれたんだよ!あの時の司令官、かわいかったなぁ!」

 

「司令官は…とっても…優しくて…あったかい、人です。司令官のため…なら、霰、がんばる。ここは…みんなが、安心して…過ごせる、おうちだから」

 

「おうっ!お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!髪の毛を乾かしたり、お風呂で頭を洗ってくれたりしてくれるんだよ!ここに来てお友達もいーーーっぱいできたし!龍驤お姉ちゃんや川内お姉ちゃんもいるし!明石もいるし!陸奥お姉ちゃんや高雄お姉ちゃんがいないのはちょっと寂しいけど…でもとーっても楽しいところ!」

 

「し、司令官と一緒にお風呂!?」

 

「文月たちも入ったことあるよぉ〜。頭をわしゃわしゃーってしてくれるのが気持ちいいんだぁ〜」

 

「司令官に頭…洗ってもらうの、いい、です」

 

「司令官の背中を流してあげるんだよ!」

 

「こ、ここ、これは司令官に取材をしなければなりませんねぇ…」

 

「やましいことは一切ないんだけれど…雪風ちゃんも含めて提督専用のお風呂場に突撃することが多くて…」

 

「司令官はたぶん…妹さんの面影を見ながら入っているんでしょうねぇ…ま、まあお兄ちゃんのように思われているなら憲兵さん案件ではなさそうですね…」

 

「おうっ!翔鶴さんと仲良くいつも入っているよ!」

 

「し、島風ちゃん!」

 

島風から爆弾発言が飛び出した。スチャリ…とペンとメモを持って玲司に突撃しなければ。取材魂が騒ぐ。

 

「さ、皐月ちゃん、みんな、ありがとう!さ、青葉、図書館の取材に行きましょうね」

 

「お,大淀!そんなことより司令官に聞きたいことがぁ!くっ、この!?なんでぇ!?どこからそんなチカラが出てくるのよぉ!?は、離してぇ!」

 

ばいばーい!と皐月や文月、島風が言い、霰はふりふりと手を振って見送ってくれた。戦艦並みのチカラで引きずられながら、青葉は次の目的地、執務室…ではなく図書室へ向かうのであった。




青葉の取材回、まだまだ続きます。

大湊や岩川、宿毛湾では皆答えられませんでしたが横須賀では明確に「家」であると答える艦娘が多いようです。そして提督は父であり兄であり、家族のような存在。これが確立しています。
家を、家族を守るために戦う。この一致団結があるからこそ横須賀の艦娘は強く「女王」さえ生まれます。

いずれはほかの若手提督のところも玲司のところのような信念を持って戦うのでしょう。刈谷提督の鹿屋基地はそれができ始めています。今後が楽しみですね。

次回も青葉の取材編。ドタバタいっぱいの取材をお楽しみください。

それでは、また。
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