提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

22 / 258
翔鶴のその後+おまけにもなるか?のクリスマスパーティーのお話




第二十二話

12月24日。世間ではクリスマスイブであり、せわしなく街は賑わい聖夜を祝福する日である。もっともその宗教とは関係もなくただただ祝うことがこの国ではほとんどであるが。

 

そんな日に、鎮守府の弓道場では矢を撃つ音。そして的に矢が刺さる音が響き渡る。それ以外の音はない。そこに佇むは美しい白銀の髪をたなびかせ、一心不乱に矢を撃つ空母、翔鶴があった。その目は真剣な眼差しで的を見、静かに矢を放つ。矢は的に刺さるが中心部より大きく外れていた。

 

「ダメ。全然ダメ。10本やって真ん中に2本しか刺さらんとか問題外やで。こんなんで年末の演習、ほんまに出るんか?」

 

古井司令長官から大湊の提督と演習を行ってほしいという連絡があり、その人選を行ったのが前日。先方からの是非にとのことだったので玲司に確認。玲司は少し考えた後、その話を受けた。

演習のメンバーは扶桑。五十鈴、雪風、時雨、村雨。そして翔鶴。瑞鶴がこの選抜に異を唱えようとしたが

 

「五十鈴、時雨、村雨はリハビリがてら。雪風は立候補。扶桑と翔鶴はとりあえず戦闘の流れを掴んでほしいからって選抜だ。勝てなくてもいい。けれど、ふざけてやるなら俺も怒るからな。実戦は実戦だから」

 

そう言われては瑞鶴も口出しできないようだった。さらにその旗艦を任されたのが翔鶴であった。五十鈴達はやる気に満ちていたが一人、緊張の面もちで立ち尽くす翔鶴。

空母の代表を任されている上、さらに旗艦。その重圧が今、翔鶴にのしかかっていた。結果としてひどいことになっている。

 

「艦載機を操るっちゅうんは集中力との勝負や。艦載機に乗った妖精さんと心を通わせて、意のままに連携を取る。集中が切れた、連携が途絶えたら妖精さん海に落ちてまうで。うちもよう妹と勝負したもんや。集中力を鍛えるためになぁ。あいつのほうが弓使うのが得意やし、うちは式神やから畑違いやけどな。ええ勝負はしとったよ。おっ、ええ弓あるやん」

 

そう言うとどこからか指貫を取り出し、胸当てを付け、矢を射る仕草に入る。以前玲司へ刃を向けた際に対峙した時に自分に見せたような鋭い目つき。視線は一点に的の中心を目で射抜くのではないかと言うほどに集中している。

 

ヒュパン!と言う音と共に矢が放たれ、矢はど真ん中に刺さる。さらにもう一本。さらにもう一本と真ん中に当てていく。ほう、と翔鶴が息を吐く。その音でさえ龍驤には聞こえていない。それほど集中していた。残心。ふう、と息を吐いて龍驤が向き直る。

 

「ま、こんなもんやな。妹は刺さった矢を割いてさらにど真ん中射抜きおるけど、うちには無理。翔鶴、プレッシャーはわかる。せやけど、戦場では悠長に集中集中って言うてる場合やないんやで。空母代表、旗艦。それが何やねんって打ち勝たな、立派な鶴にはなれんでー」

 

バシッと背中を叩かれる。しかし、ますます自信はなくなる…。それでも、と集中をして矢をつがえる。ふとその時奴の顔が思い浮かんだ。ニタリ…と笑う醜い顔。それは紛れもなく。鶴を地に墜とし、傷つけ、汚した男。安久野の顔。ひっと小さく悲鳴をあげて弦を離してしまった。鈍い衝撃とともに左腕に痛みが走る。やってしまった…こんな初歩的な失敗……。

 

「大丈夫か?どうしたんや?」

「はっはっ…痛っ…」

 

「翔鶴。今日はもう終わりや。風呂入ってゆっくりし…これじゃ練習は無理や」

「す、すみません…急に…急にあの人の顔が…もう、いないのに…」

「……そうか。ならなおさら今日はおしまいや。これ以上は、危ない」

 

顔を青くし、カチカチと歯を鳴らして震える翔鶴。何かから身を守るかのようにぎゅう…と強く自分の体を抱く。あの汚い手から身を守るかのように…

 

(うちの手では限界やなぁ…翔鶴。あんたの翼はもうちゃんと飛び立てる。あとは、あんた次第やで…)

 

これ以上は何があっても手を貸すなと玲司には言われている。これまでの玲司なら飯でも食って、と言って励ますよう言うはずだがそうは言わずにいた。

 

「翔鶴は自分で飛び立たなきゃいけないと思う。俺や姉ちゃんが手を出すと、あいつは飛び立てない。飛ぼうとしない。助けたいけどこればっかりはな…」

 

(たぶん、陸奥姉やんかなぁ。玲司も雪風の一件でだいぶ参ってたし…)

 

そう思いつつ、翔鶴の背中をさすりながら声をかける。

 

「ほら、いつまでもへたり込んでんと。玲司がやるパーティーもある。今日はもう休も?な?」

「うう…ぐす…ありがとう…ひくっ、ございます…」

 

よろよろと立ち上がり、龍驤の小さな体に支えられて歩く。小さい。けれど翔鶴にとっては大きな師と呼べる存在。師、龍驤。大切な妹、瑞鶴。見るたびに胸が温かくなる玲司。そして大事な仲間たち。みんなの為に、もっと強くならなくては。けれど圧し潰されそうな心が涙を流す。その足取りは重い…。

 

……

 

「なあ翔鶴。このままじゃ玲司の役に立てんーなんて思ったらあかんで」

 

意気消沈している翔鶴に龍驤が言う。うまく射れない。安久野を思い出す。演習のプレッシャー。たくさんの負のモノが翔鶴を追い込んでいる。龍驤が何を言っても塞ぎ込む。

 

(こりゃあ重症やなぁ。まず前提督のことを思い出すっちゅうんがなぁ…仕方ないんやろうけど。ほんまにろくでもない奴やな!)

 

「…私、空母の代表って言われて嬉しかったんです。れ、玲司さんがそう言うのならって…でも、瑞鶴と弓を一緒に射ると…瑞鶴がすごく真ん中に当ててすごいねって言ったら…こんなの全然ダメって言って…」

 

瑞鶴はどうもミリ単位のズレが何本もあったことが許せなかったらしい。翔鶴にしてみれば、すごいことではあったのだが、そこで空母代表と舞い上がっていた自分にとってはレベルが違いすぎるとショックを受けたようだ。その後の瑞鶴は集中力を増大させ、ズバズバ真ん中に当てていく。それでも微妙なズレが気になり、時々舌打ちしたりもしていたそうだ。それがさらに翔鶴を萎縮させた。妹に追いつけると思ったら、遥か天空を飛んでいるかのような…。

 

「あんなぁ、そりゃ瑞鶴はバンバン出撃しとったわけで、翔鶴は出撃させてもろてないんやから、その辺は当然やで。まあ確かに、腕を競い合うんが瑞鶴しかおらんわけやけども…。レベルが違いすぎるよ。目標を遙か先に決めすぎや。まずは半分でも真ん中に当たるようにくらいでええんやで?姉妹そろって完璧主義やなぁ」

 

競争相手が熟練の瑞鶴のみ、と言うのも酷な話であるとは思う。目標が高すぎる。瑞鶴の弓の腕はまだまだ荒削りではあるが素質があると思う。龍驤から見ればまだまだ甘いとは思うレベルであるが、それこそ龍驤は潜ってきた死線が違いすぎる。さらには原初の艦娘。別次元の存在故のあまり多くを教えることができないジレンマが龍驤にもある。

 

けれど彼女は根っからのお人好しであり、一度受け持ったからには決して見放そうとはしない。玲司と波長が合うと言うのはこの辺りである。何とか翔鶴を羽ばたかせてやりたい。その一心で翔鶴を励ます。師としてもある。あの夜から自分の妹のように見ている龍驤の優しさである。その優しさが翔鶴に染み渡る。

 

「龍驤さん…ありがとうございます。龍驤さんの優しさに、あの夜癒されて…また、癒されます…」

「あんたに今必要なんは癒しや。おいしいご飯食べて、いっぱい笑って。いつまでも後ろを振り返って立ち止まらんと前へ歩き。怖いんやったらうちが一緒に歩いたる。瑞鶴もおる。玲司もおる!水面スレスレしか飛べんでもええ。まずは飛び立つことや」

 

「はい…ありがとうございます…龍驤さん…」

「さ、ほな上がろか。パーティー、始まってまう」

 

「は、はい!」

 

ザバアと立ち上がると、背の小さな龍驤の前に…たわわな翔鶴の…。

 

(くっ…まるでうちの方がちんちくりんの妹みたいやないか!赤城と言い翔鶴と言い、ご立派なもん持ってからに!!!)

 

ギリギリと何やら自分の胸を凝視し、歯を鳴らす龍驤。それが何なのかは翔鶴にはわからなかった。けれど、翔鶴は龍驤の水面スレスレを飛ぶ、と言う言葉に何かを思いついたように天を仰いだ。

 

(瑞鶴が高く空を飛ぶのなら…私は水面を…?やってみよう。私には私のやり方で戦う…!)

 

むん、と力んでたわわなものを両腕で挟む。龍驤の顔が般若のように怒りに染まる。

 

(アテツケか!うちにそんだけ立派なたわわを自慢したいアテツケか!!クッソー!うちかていつかはセクシーダイナマイトになるんやからな!!!)

 

翔鶴と龍驤の考えに大幅な間違いがあるようだが、2人は知る由もない。

 

/前日

 

大本営から電話があり、何でも演習を行えと言う内容であった。玲司がショートランドの提督であることを知った提督がぜひともと総一郎に掛け合った結果だった。玲司になってから全くの出撃なし、遠征なし、演習もなしではさすがに良くないと思った総一郎の苦肉の策で演習が決まった。

 

「では、そういうことだ。急で申し訳ないが、頼むぞ」

「わかりましたよ…。まったく急に何なんだ…」

 

「着任1年でずいぶんと戦果をあげていてね。艦娘の士気も良好と実に素晴らしい提督だよ。お前も久しぶりに指揮を執ったほうがいいだろうし、いい刺激になる。負けても構わないよ。これは非公式な演習だからね。私が見には行くがね。よろしく頼んだよ」

 

ふう…とため息をつく。少しは皆の刺激になるだろう。そう思った。電話を切ろうとしたとき、また総一郎が「こら、待ちなさい!」と怒っていた。何となくわかる。きっと、総一郎から受話器をひったくろうとした姉に怒っているのだろう。

 

「もしもし、玲司君?」

「陸奥姉ちゃん、またおやっさん怒らせて…」

 

「そんなことはどうでもいいのよ。ねえ、玲司君。今ため息ついたでしょ」

「え?そうかな…?」

 

「私の耳はごまかせないのよ。お姉さんは玲司君のどんな些細なことも見逃さないのよ」

「あ、はあ…そうですか…」

 

「で?何かあったの?きっとあなたのことだから、艦娘のことで悩んでるんでしょう?」

「……どうしてそうだと?」

 

「あなたが悩むときなんて十中八九艦娘のことでしょ?ショートランドのときからどれだけ私があなたの悩みを聞いてると思って?それとも、お姉さんに言えないこと?ま、まさか、艦娘にいじめ…」

「ちょっと待って姉ちゃん、いじめられてねえから。そこはほんと心配しないで。ほんとにお願いします」

 

陸奥は玲司が総一郎に引き取られてからショートランドへ赴く直前までずっと玲司の面倒を見てきた。それもかなり献身的に。家族を失い、身も心もボロボロの玲司を一生懸命、時に拒否されようとも見てきた。最終的にとてつもない過保護になり、ショートランドからまたボロボロになって帰って来てより一層過保護になった気がする。けれど、玲司はそんな陸奥の献身的な世話により、今のように明るく毎日の生活が送れている。

 

「はあ…姉ちゃんにはほんとごまかしがきかねえなぁ…」

「当たり前よ。何年あなたを見てきたと思ってるの?私に玲司君のことでわからないことはないのよ」

 

「……いや、実はその…ちょっと、いろいろあってさ。料理でみんなを笑顔に、ほんとにできるのかなって」

 

玲司は雪風の件を未だにもやもやさせていた。おいしいものを食べてもらって元気になってもらおう。しかし、その実は雪風を追い込み、あわや深海棲艦にさせるところだったのではないかとショックを受けたのだ。それ以来、料理を作って癒しをと言う自分のポリシーが大きく揺らいでいた。

 

「確かに、玲司君の料理はおいしいし、辛い時に食べると元気になれるかもしれないわね。でも、それだけでは無理よ」

「なっ…」

 

陸奥の言葉は玲司にとっては意外だった。陸奥ならば、当たり前じゃないと笑って返してくれると思っていたのだが…

 

「人間もそうだし、艦娘だって心はそんな単純じゃないのよ。たくさんの感情が入り混じっているの。だから、おいしいものを食べただけで元気になる人もいるかもしれないけど、そうすることで心を追い込むことだってあるのよ。あなた、ショートランドで何をしてきたの?大本営の厨房でコックになって、ショートランドのことを忘れてしまったの?」

「………」

 

左手を強く握りしめる。陸奥の口から現実が語られる。自分の言っていることは理想だ。それでも、それでも自分はそうすることで救われると信じてきた。現実は…違ったと自分の目で確かめたのだが。

 

「玲司。あなたはもう料理を作るだけのコックじゃないのよ。あなたはコックだった。けど今は提督よ。その本分を忘れて料理にかまけて艦娘の心もケアできないようなら、こっちに帰って来てまたコックでもやってなさい。そこの艦娘はひどい目に遭わされてきたんでしょう?ならより注意深く見てあげて、しっかりケアしてあげなきゃ」

 

言葉が出なかった。健全な心身の人や艦娘を見ているわけではない。ここの艦娘たちは…本当に心から助けてほしいと心が悲鳴をあげている子たちばかりなのだ。ショートランドも、大本営も。ちょっと傷ついたくらいの子たちならばそれでよかった。けど、横須賀の子たちはレベルが違う。あらゆる面でのケアが必要だ。

 

「別に精神科医になりなさいとも言わないけど…。心に深刻なダメージを負った子たちばかりなんでしょう?まあ、玲司君のご飯で心の栄養にはなるかもしれないけどね。コックとして横須賀でやっていくなら無理よ。コックだった提督としてやっていくのなら、料理は救いの足しになるかもしれないけど」

「………」

 

「しっかりしなさい!艦娘は提督が全てなのよ。横須賀の子達はあなたの手にかかっているの!あなたが迷っていたら艦娘は全滅するかもしれないのよ!ショートランドの時とは違う悲惨な最期を迎えるかもしれないの!逃げないでちゃんと向き合いなさい!」

 

陸奥の怒鳴り声だ。これを聞くのは中学を卒業する直前に一度あったと思う。夢に迷い、料理人の道を選ぶか、艦娘の手助けがしたいと軍学校に行くか。いつまでもうじうじと決めかねていた時だ。あの時も陸奥が道を自信を持って選ぶように叱咤激励を飛ばさなければ今頃ここでこうしていない。本当に、姉には頭が上がらない。

 

「提督はコックだった、か。それはそれでおもしろいネタになるな。なあ、姉ちゃん」

「そうかしら?私は胸を張って堂々とショートランドで日本を守り抜いた英雄だった、のほうがいいと思うけど?そのほうがかっこいいもの」

 

「英雄なんて大それたもんじゃない。『英霊』はいれど『英雄』なんざいない。俺は俺のやり方でここの子達を守る。よそから酷い目に遭わされた子達だって引き受ける。おやっさんにそう言っといてほしい」

「そ。ならそう伝えておくわ」

 

「…ありがとな、姉ちゃん。もっと艦娘に向き合うよ」

「そうね。向き合ってもっと悩みなさい。きっとそれがあなたのためになるわ」

 

生半可な気持ちでここへ来たわけではない。初めて横須賀鎮守府の現状を目の当たりにして、何とかしてあげたい。みんなを笑顔にしたい。その気持ちは間違っていないし、決してこれだけはやり通す。その思いでがんばろうとやってきた。みんな本当にいい子たちだ。より頑張らねばと思う。バシッと顔を思いきり叩いて気合いを入れる。

 

「よし、じゃあまずは演習の編成でも考えるかな」

「そうね。しっかり頑張ってね。あ、それと私も当日行くからね。もう23日も会ってないのよ?お姉さん寂しくて死んじゃう!玲司君成分の補給に行くからよろしくね~、うふふ♪(龍驤も〆なきゃいけないし)」

 

「え、ええ…ってか何か言ったか?」

「さあ、知らなーい。うふふ、じゃあ楽しみにしてるからね、またね」

 

電話は切れた。シーンと静まり返る執務室。料理は人を救うと言う言葉は忘れずに。それでいてより艦娘のケアをしよう。コックだった提督は一層艦娘のために働く提督を目指して、演習のメンバーを決めるのだった。

 

(翔鶴はまだヒキガエルに囚われているな…。演習で何か一つ羽ばたける要素が見えてくれればいいけど…)

 

気がかりな翔鶴。何か化けるものがあるとみている扶桑。この二人は即決だった。何かが起きるかもしれない演習。それを玲司は心待ちにしていた。自分も実に2年ぶりに指揮を執ることを楽しみしていた。

 

/12月24日 食堂

 

「それでは皆さん、コップに飲み物は入りましたか?では、コップを持って提督に注目!」

 

大淀の掛け声で全員が玲司に注目する。

 

「あー、みんな。今日はせっかくこうして俺が横須賀に来たから、みんなとこれからよろしくやっていこうってことで開いたパーティだ。クリスマスってのもあるけど、あんま気にせず楽しんでくれ。酒がないのはすまん。まあ飲んで食って楽しもうぜ。んじゃ、乾杯!」

 

玲司の音頭で一斉にかんぱーいと言う声が聞こえる。扶桑や霰たちはややぎこちなかったがそれでも楽しそうにコップを当てて乾杯のふりをする。

 

「たくさーんありますから言ってくださいね!」

「間宮さん!その鳥!鳥が気になるっぽい!」

 

「げっ、ちょっと提督さん!七面鳥なんて冗談じゃないわ!!」

「ず、瑞鶴…落ち着いて…」

 

「ん?ああ、それ、お前がターキー嫌がると思ってチキンにしてあるよ。それなら食えるだろ?」

「さっすが提督さん!ほら、翔鶴姉も食べよ!」

「瑞鶴…手のひらを反すのが早すぎないかしら?」

 

「フライドポテトうっまー!鳥海、これうまいぞ!」

「うん、これもおいしいわね。こっちの鶏肉もいけるわよ」

「サンキュー♪あ、このポテトにゃんこさんの形だ!かわいい~♪」

 

各々がパーティを楽しんでいる。霰はハムスターのように頬が膨らむほど唐揚げを頬張っていたリ、文月と皐月はポテトを食べさせあいっこさせてたり。

 

「しれえ!ここに座ってください!」

「ん、こうか?」

「はいっ!よいしょっと!えへへ!」

 

「あーあ、雪風にひっかけられたねぇ。にしし」

「なんだ雪風ー。こいつー」

「ひゃー♪」

 

「雪風ちゃんずるいのですぅ!」

「あーはいはい、あたしの膝のっけてあげっから」

「わあ!北上さんのお膝の上も柔らかいのですー!」

 

一方で龍驤と明石は何やら日本酒(龍驤と明石が自前で持ってきたやつ)を飲みつつ気分が沈んでいた。

 

「三日後…三日後陸奥姉やんが来るって…うち、もうあかんわ明石…。玲司としっかり生きるんやで…殺される…この間の件で殺される…」

「だ、大丈夫だよ龍驤お姉ちゃん。殺しはしないって…」

「半殺しやろ!?姉やんの半殺しがどんなんかわかるか!?ヒック。あんなんほぼ全殺しやんか!あーあーええなー!陸奥姉やんは島風と明石にくっそ優しくて!あーええなー!どうせうちの命はあと3日やー!」

(うわぁ、酔った龍驤お姉ちゃんほんとめんどくさい…)

 

「ま、まあ。ずいぶんとハイカラな祭典なんですねぇ…くりすます…」

「そうですねぇ。あ、扶桑さん、お肉どうぞ」

 

皆がパーティを楽しむ中、玲司は翔鶴に声をかけた。

 

「隣、いいか?翔鶴」

「提督!!はい、どうぞ」

 

コップ片手に翔鶴の横に座り、話しかけてくる。

 

「や、悪いな。空母代表と言った矢先にさらに演習まで組み込んで。んでもって旗艦。緊張するだろ?」

「は、はい…やっぱり、皆の代表であると言うのは…」

 

「緊張するくらいがちょうどいいのさ。そのほうが統率も取りやすい。姉ちゃんからいろいろ聞いた。お前が安久野を思い出して怪我したことも。未だに過去を振り切れていないことも」

 

「そうですね…。過去を振り切れない私が悪いのでしょうけど…」

「それは違うよ。お前は悪くない。お前をここまで追い込んだ安久野が悪いんだよ。今すぐ克服しろってのは無理だからさ。少しずつ、忘れて行こうな」

 

そう言って翔鶴の頭をなでる。じんわりと頭が温かくなり、胸に幸せな気持ちが押し寄せてくる。

 

「提督。もし、私が頑張ったら…その…二人でお買い物に行きたい…です」

「買い物?俺はいいぜ」

 

「摩耶さんたちが一昨日、一緒にお買い物に行ったとき、本当に楽しそうに帰って来て…私も行ってみたいなって…」

 

以前のようなどうにかしてやろう、と言う面持ちではなく、頬を赤らめ恥ずかしそうに玲司に買い物に行きたいとおねだりする。

 

「ん、わかった。お前にいろいろ任せちまったってのもあるし、頑張って毎日練習も欠かしてないし、頑張ってるもんな。けど、絶対無理だけはするなよ?」

「はい。提督のご期待にお応えできるよう、精一杯がんばります!」

 

少し何か吹っ切れたようだった。翔鶴も先日の件でどこか負い目を感じて遠慮しがちだったが、少し近づけたのだろうか?

 

「ん?2人で…?おい、翔…」

「うふふ、約束ですよ?では私、扶桑さんとお話ししてきますので」

 

呼び止める前に逃げられた?でも、少し翔鶴の笑顔が見れてよかったのか、とも思う。玲司は苦笑いをしながら頭をかく。

 

「なになに?翔鶴姉とデートの約束なんかしちゃって!そっかー、翔鶴姉よかったねぇ!ちゃーんとリードしてあげてね!」

「ばっか、瑞鶴何言ってんだお前!」

 

「またまた照れちゃってー。にくいねこのー!」

「瑞鶴お前、ほらこれ食え。うまいぞ。ほら、早く食え」

「ちょ!?七面鳥じゃない!冗談じゃないわよ!爆撃されたいの!?」

「うるせー!早く食え!おらー!」

「いやー!翔鶴姉助けて!提督さんがひどいことするのー!」

 

そうしてターキーを持って瑞鶴を追いかけようとすると夕立が飛んできてターキーを食べられてしまったり、結局そのせいで皐月や文月に親鳥のごとく料理を食べさせてあげたりと賑やかにパーティーは進んでいく。

翔鶴はある考えを胸に、来る演習のために英気を養うことにした。以前とは違い、玲司を笑顔で見つめて、少し顔を上気させながら。




次回、演習編。扶桑や翔鶴を始め、みんなの戦闘シーンをなるべくうまく書ければいいなと思っています。

次回もお待ちいただければ嬉しいです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。