青葉が大淀に引きずられながらやってきたのはかつて人間がこの横須賀鎮守府に駐在していたときにつくられた大きな宿舎を妖精さんが(勝手に)大改造して作った図書館だった。
マンガから小説、図鑑に絵本。様々な本が集められている。玲司が自宅に置いていたマンガ(主に少年漫画)、近所の商店街の人たちの厚意。なんと横須賀市からの寄贈もあると言う。それから艦娘達の趣味で買った(玲司が出資している)ものなどさまざまである。
後に司令官が出資しているとのことだが…?と聞くと…
「あーいいのいいの。どうせそんなお金使うことないし。主に俺たちの食事代、慰霊碑や北上達が作ったお墓の献花代金、この子達の私服とかに使ってるよ。たまに翔鶴とのデート代だけど、それでも余るからさ。みんなが好きな本読んでストレス解消になったり、満潮みたいに勉強に励むためのものになるならそれでいいのさ」
玲司はそう言っているが、実は五十鈴のようにえっちな本に使われているとは知りもしない。なお、五十鈴は鳥海に没収されてしまったえっちな本を取り戻すため、コソコソと偽装工作を繰り返し、今のところほぼ復活(絶版で手に入らない貴重なものについては涙を飲んで諦めた)し、さらに新たな本も増えているとか。
ちなみに姉妹である名取、阿武隈は止めるどころか協力者となっているむっつり姉妹である。古鷹も実は協力者であると言う。鳥海にバレてもいいように隠し本棚や古鷹の自室に置いてあったりと悪知恵が働いて収集がはかどっているそうなのは誰にも内緒である。
「な、なんて言うか…他の場所では見たこともない施設ばかりですね…ショートランドの時も司令官の妖精さんがいろいろと改築したりはしていましたが…」
ほかの泊地などに比べて妖精さんの数が数倍は多い…。
「やまとさんやむさしさんをけんぞうしたことがいちばんおおきいですね。あと、れいじさんがだいたいのかいちくはおっけーをだしてくれるのですきほうだいやらせてもらっています」
艦娘の娯楽、ストレス解消になるなら好きなようにやってくれて構わないと言われ、リフォームから増築、そしてこの図書館、遊戯室…とにかく先ほども別の妖精さんが言っていたが、万が一玲司が横須賀から去る場合は一瞬で元通りにすると言うことだ。
「ほかのにんげんはまずじぶんのためにこのしせつをつかうでしょうからね。ぜいたくはてきだ!!」
「いやいや、これ、艦娘にとっては贅沢ってレベルじゃない待遇なんですが…」
そうは言いつつもパシャパシャと写真を撮っていく。
「これは…」
「私達が艦だったころの史実や写真集…これは提督と私達がよく話し合った結果、集めたものです。主に妖精さんがですが」
横須賀に現在在籍している艦娘の艦時代。つまり先の大戦の史実に関する書物。それは暗い内容のものだ。自らのトラウマを抉るかもしれないもの。
「いいえ、私たちのトラウマは…安久野提督と過ごした日々ですから」
「………」
艦の記憶がよみがえり、パニックを起こす艦娘もいると聞く。戦争を生き抜いた艦でさえ、仲間を雷撃処分せざるを得ない状態になり「私はあなたを殺してしまった!!!」とパニック症状が起き、艦娘の精神病院へ入院し、壁に向かってごめんなさいとひたすらに呟く毎日に陥る艦娘がいたと言う話も聞く。
自分達が自分達であることを自覚するための艦の魂。それがヒトガタとなり、心を持ち、女性の姿となってこの世に顕現した存在…「艦娘」。その史実、最期は切っても切り離せないが…それよりも辛かったと言う安久野が居たころの痛みや悲しみに比べれば…いや、自分達に乗り、そして散っていった人々のこともやはり忘れられるはずもないが…それでも前者の方が大淀は辛かったと語る。
「まったく…それほどまでの悪行を働いていたとは…記事にできなかったのが本当に悔しいですね」
「…公に出た方が辱められると言う方もいらっしゃいました。ですから、これは私たちの心にしまっておくだけでいいと思うの。あまり掘り返さないでもらえると嬉しいかも」
「大淀がそう言うなら…っとと、暗い話になってしまいましたね」
「まあ、この書物は皆さんの最期や戦争の悲惨さを伝えるための物です。決して明るい話には発展しないでしょう」
「そう…ですね。ですが?」
「ええ、ほとんどの艦娘は興味を持って読んでいましたよ。駆逐艦の子はちんぷんかんぷんだから提督に読んでもらったりとか…朝潮さんは号泣して大変でしたねぇ…」
「ダンピールの悲劇…ですね」
「ええ。そして今でもやはり…人と人が争うことが世界中で起きている。極めつけは人類の存亡を賭けたこの艦娘と深海棲艦との戦争。この世界は争いで満ちている…嫌な世界かもしれませんが、その中でしか得られない幸せもあります。私達のように」
「うーん、横須賀の皆さんの強さの秘訣は司令官との絆、自分達をしっかり受け入れているからこそあるのかもしれませんね」
「強さに関しては明日は防空演習や発艦の練習、砲撃演習などがありますからそちらも楽しみにしておいてね」
「はい!それよりも今はこのおもしろすぎる横須賀鎮守府を余すことなく取材と撮影ですよぉ!」
図書館には寝そべってマンガを読む艦娘や難しそうな文学小説を読む軽巡。「よくわかる人体の構造」を読む艦娘…いやいや、人体の構造を知ってどうするんだ。
「どうもー!青葉です!満潮さん、すごいものをお読みになっていますね!」
「ふぁっ!?び、びっくりさせないでよ!」
「満潮、図書館ではお静かに…ハラショー」
「なのです。しー…」
「……青葉さんにも言ってくれないかしら?」
「満潮。本は静かに読むもの…あそこにも書かれているでしょう?」
「うふふふ、でも驚いた顔もかわいかったわよぉ~♪」
「……ふ、ふん!」
マンガや魚の図鑑などを読む響…電。漢字の勉強をしているらしい朝潮。字の勉強をしてもっと本を読めるようになりたい。そう思っているらしい。少女漫画を読む荒潮。一言も発さずに少年漫画を読む大潮、第八駆逐隊。その中で満潮だけは異質を放つ本を読んでいた。
「ああ、満潮さんは調律者ですから…」
「ちょ、調律者!?ま、まさか秋津洲さんの!?」
「青葉さん…しー…」
「あ、す、すみません…」
調律者。それは艦娘の中でも極わずかしか…その中でも完璧にできるのは「旋律の女王」秋津洲しかいない。
「満潮さんは秋津洲さんに師事し、立派な調律者になりつつあるわ。私もやってもらったけど…すごかったわ…」
なんでそこで顔を赤らめてもじもじしているのか…えっちな感じがしますよ!ときゅぴーんと今の大淀を写真に撮ろうとしたが、それよりも速く大淀のチョップが青葉の脳天に直撃した。
「うぐぐぐ…」
「何してるのよ……?青葉さんから聞こえる音…しあ…あっ」
「しあ?しあってなんで「ぶぇっくしょーい!!!」」
しあと言う言葉に大淀がまずい、と思った顔をした瞬間…おっさんくさいくしゃみにずっこける青葉や満潮。大潮のくしゃみだった。
「大潮…静かにしなさいと今青葉さんに響さんが言ったところなのに…」
「えへへ…ごめんなさーい、我慢ができないくらい急にきちゃったからー…」
「もう…仕方ないわね…」
「あー、びっくりしたぁ…ん?あちらには長良型の方…あちらの方々は何を読んでいるのでしょうかー?」
話の腰が大潮のくしゃみで折れてしまったことで青葉の興味は次のターゲット…五十鈴、名取、阿武隈に移った。
大淀は青葉に気づかれないように大潮達に親指を立てて微笑んでいた。
実は大潮の大げさなくしゃみは満潮が紫亜のことをこぼしてしまい、それを問い詰められそうになってしまったため、大淀に朝潮や荒潮、電たちがドキリとしたのをいちはやく大潮が感づいてうやむやにしてしまおうと放ったわざと図書館中に響き渡るくしゃみであった。
大潮は場の空気を読むのがうまい。それも瞬時に察するチカラがある。このチカラがあるからこそ、教練である鹿島の堪忍袋の緒が切れる瞬間をいちはやく察し、朝潮や響の痴話喧嘩のせいでだだっ広い演習場を20周罰として走れ、と言う罰の巻き添えを食らわないように逃げることができることが可能となった。最初こそ巻き込まれていたがいつのころからか察せるようになり、気が付けばいない。そうして朝潮と響だけがグロッキーになると言う状態に至るようになった。
「姉さんの賜物だけど…こんな賜物は嬉しくないかもー…もっとドーンと姉さんの『女王』みたいなチカラがほしかったなぁ」
どこか遠い目をして空を見上げて満潮と電には語っていた。
「さすがは大潮ね」
「ハラショー。特別にウォッカをあげ「いらない」」
大潮の即答。
「……」
そんな即答しなくてもいいじゃないかと若干しょんぼりする響であったがそれよりも妙な気配を察知したことで顔色が変わった。
「ひ・び・き・ちゃん?図書館は飲食物持ち込み禁止なのです。昨夜も飲んでいたのです。今日はダメと言ったはずなのです」
ゴゴゴゴゴ…と電から強烈なオーラが立ち上る。
「大潮、お花を摘みにいってきまーす…」
「……荒潮、そう言えば間宮さんの所へおやつを食べに行く時間よね?」
「あらあら大変、そうだったわねぇ。朝潮姉さんもいきましょ~?」
「ええ…そうね」
「ちょっと待ってほしい、私を置いて行かないで…」
うるうると少し目を潤ませて朝潮達を見る響であったが…そそくさと電の気配のやばさを感じ取り、逃げる朝潮達であった。ちなみにこれは響の嘘泣きである。
「う、裏切者…」
「ひ・び・き・ちゃん…なのです?」
「ダー。響だよ。不死鳥と「そのキメゼリフはもういいのです。そのウォッカはどこから持ってきたのか説明してほしいのです、今すぐに、なのです」
「あ、いや、それはだね…」
「なのです…?」
なぜ私ばかりこんな目に…と嘆く響であったが自業自得である。
………
英語がびっしりと並んだ書物をかわいらしいフレームレスのメガネをかけて読む名取。同じく文学小説を読んでいるらしい五十鈴。元奴隷の少年が天下の大将軍を目指して戦う熱いマンガを読む阿武隈。三者三葉。それぞれ読むものが違う。特に名取はすごい。辞書もなしに英文をすらすらと読んでいる。
とりあえず1枚写真を撮ってもいいかと聞くと快諾してくれた(五十鈴、阿武隈は熟読しすぎていて聞こえていなかったが)ので読んでいる様をパシャリ。そうすると大淀がツカツカと五十鈴の下へ行き本を取り上げる。
「ちょっ、大淀、何をするのよ。人が読書を楽しんでいるって言うのに」
非難をする。青葉もさすがにひどいのでは?と思った。しかし大淀は意にも介さず表紙を取り払う。するとどうだ、文豪の文学作品ではなく「お姉さんに甘えちゃいなさい♪」と言うタイトルが出てきたではないか。
「………鳥海さんに「そ、それだけはやめて!また没収されるじゃない!って言うか、タイトルだけでなんでわかるのよ!」
「五十鈴さんのことですから…ね?」
「ね?じゃないわよ!内容も知らないくせに!」
「小さな男の子大好きな女性が男の子を家に招いて…はっ!?」
「ふふふ、マヌケは見つかったみたいね。そこまで言うと思っていたわ。五十鈴には丸見えよ!」
「く、くうう…」
な、なんてものを読んでいるんだ…か、官能小説…?い、いや…それにしては…挿絵が見えてしまった。うわっ、うわっ、男の子がお姉さんにすご!うわー!うわー!ってか大淀もしっかり読んでるんじゃないか!
「大淀は小さな男の子好き…と…へぶし!!!!」
先ほどよりも重く、鋭いチョップが脳天に突き刺さる。顔を真っ赤にして殴っているあたり、図星なのかもしれない。五十鈴とは話が合うのかもしれない。
「何も知らない男の子を…うふふ…」
「………」
五十鈴がそう言うとゴクリと生唾を飲む大淀。「未来視」の高雄に並ぶかもしれない大淀の恐るべき嗜好…。
「いいえ、大淀はこっちよりも女の子同士でシている小説や漫画のほうが好きよ?ひょっとして大本営の高雄さんのことを想像へぶし!!!!!」
チョップが見えなかった…光の速さのようなチョップを何回も何回も五十鈴に叩き込む大淀……これは無視していよう。
「名取さんは何を読まれているのですか?な、なんて言うか…英語のすごい…」
「ああ、これはドイツ語の本ですよ。グリム童話の原書みたいなものです」
「うう、名取姉の読んでるグリム童話って本当は怖いグリム童話だから…あたし的にはよくないです…」
「え…?」
「ああ、これは『灰かぶり』と言いまして、いわゆるシンデレラですね」
そう言うと名取はもう20回は読んだと言うので物語の最後までをダダダーっと語るのだが最後がとんでもなくグロテスクと言うか…。え?姉妹の足を切り…え?え?王子様と幸せに暮らす話って言うのは?白雪姫は焼けた靴で死ぬまで踊れ?いや、もう勘弁してください。
「な、名取さんストーップ!あ、青葉…と、鳥肌が…」
「他にもヘンゼルとグレーテルのお話も…最後はお菓子の家を作ってくれた老婆を暖炉にけり「わー!わー!」」
それ以上いけない。青葉はそう言う話は苦手だ。阿武隈曰く、日本の幽霊などの話は怖がるくせにこういう物語は嬉々として読むそうだ。ええ…と青葉は言葉が出なかった。
「ちなみに…阿武隈さんは…?」
「ああ、あたしはマンガですよ。今ちょうどいいところでして…『火を絶やすでないぞ』…とだ、大将軍が…ぐ、グスッ」
ああ、阿武隈さんだけはまともだった。何か大淀と五十鈴は握手を交わして「これで協定は成立ね」「ええ。五十鈴さん、今後とも鳥海さんにはくれぐれも気を付けて」と何かダメな協定を結んでいるようである。
「さ、次は艦娘寮にでも行きましょうか」
「いや、あの…五十鈴さんのその本は風紀において「何も問題はありません」」
「いやいやいやいや!!!風紀に反してますって!」
「何も、問題は、ない」
大淀の凄まじい気迫。くっ、こ、これがあの「戦艦レ級」を退けた艦娘達の気迫か…さらに追及したいところだし、これで五十鈴のいかがわしい小説の件をうやむやにしようとしている!だが…
「何も、問題、ありません」
「よろしい。では寮へ行きましょうか。駆逐艦寮なら今頃賑やかだと思うわ」
「はい…」
「いってらっしゃーい」
五十鈴はにっこりと大淀と青葉に手を振り、また文学小説の表紙を被せて小説を読み始めた。
「あー、五十鈴まーたえっちぃ小説読んでんのー?お願いだから商店街の男の子連れ込んだりするのだけはやめてよー」
「はあああ!?!?!?!?そんなことするわけないでしょ!?何言ってんの北上!ノータッチの精神こそ淑女よ!!!」
「やー、それは淑女って呼ばないわー。あーあぶぅ、それあたし読みかけなんだけどー」
「一回も読んだことないですよねぇ!?」
「バレたかー。あ、五十鈴ー。古鷹がこの間の小説とってもよかったってー」
「あらそう。ならこれも楽しんで読んでもらえそうね。まったく。マンガは鳥海にすぐバレるから…小説だとうまくごまかせそうね。ふふ、ふふふふふ」
「あんまりやりすぎると鳥海にバレるから気を付けるんだよー。あたしは見ないふりしとくから」
ここの艦娘はのびのびやっている…けど…なんか危ない性癖の方々が…?これが…目下「最強」と呼ばれる日も近いと言われている横須賀鎮守府の艦娘の日常…なのだろうか。
横須賀鎮守府の艦娘の性癖の一部を見た青葉は今度は艦娘寮へと連れていかれるのだった。
………
「あ、大淀さん!いらっしゃいませ!!!」
「やあ、大淀さん。どうしたの?ああ、取材だっけ」
「あっ、青葉さん!朝潮さんたちがご迷惑をおかけしたようで…すみません!すみません!」
にぱーっと歓迎してくれたのは雪風。状況を把握しているのが時雨。正門でへんたいふしんしゃと呼ばれたと聞いて謝り倒すのは吹雪か。
雪風さん。ああ…彼女の最期を見届けただけに…今のパァッと花が咲いたかのような笑顔はやっぱり見られことは嬉しい。ショートランドの雪風とは違うが、やっぱり雪風さんの笑顔はこちらの心を暖かくする笑顔だなぁと思う。
「青葉さん、初めまして!陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です!」
「はい、雪風さん。初めまして!時雨さんも吹雪さんも初めまして!ああ、吹雪さん、そんな謝らなくて大丈夫ですよぉ」
雪風が自己紹介している間もすいません!すいません!と謝り続けていた吹雪を止め、取材の旨を伝えた。その中に1人、怯えているかのような目をした駆逐艦と…見知った大きな女性。
「やまとおねえちゃん…こあいひと…きた?」
「霞ちゃん、大丈夫ですよ。怖い人じゃないですからね?」
「ほんと?んー…」
霞?ああ、言われてみれば朝潮型駆逐艦の霞であった。髪型が全然違う。ウェーブがかけられた銀色のサイドテール。何でも村雨のかわいい髪型の練習台にされたのだと言う。霞は「かみのけがふあふあー!」と大喜びだったようでそのまま今日を過ごしているのだと言う。
青葉は知っている。この霞を。非道な実験…と言うか艦娘を虐待するだけの研究所とは名ばかりの施設で先ほど見た第八駆逐隊と共に連れ出された霞だ。舞鶴鎮守府の木曾にマントにくるまれ、ボロボロになって保護された艦娘。その時の写真は大本営の職員に大きな衝撃を与えた。
「こんにちは」
ぺこり、と頭を下げて挨拶をする霞。
「はい、こんにちは。青葉と申します。あなたは…ええっと…霞さん…ですよね?」
「あい。かすみだよー。よろしくおねがいします!みょうこうおねえちゃん!ちゃんとあいさつできた!」
「ふふふ、偉いですよ。ちゃんとご挨拶できましたね」
「霞ちゃんは偉いです!」
「ふふ、霞はおりこうさんだね」
「はい!とってもおりこうさんですね!」
「えへへー♪おねえちゃんたちにほめられたー♪かすみ、うれしい♪」
何と言うことだ。あの時の霞さんはこんなことになっていたのか…。まるで…幼い子供になってしまっている…。雪風達と絵を描いていたらしい。まあ…霞の描いた絵は何と言うか…うん、本当に子どもの絵のようにぐちゃぐちゃだ。
「こ、これは…」
「しれーかん!こっちがねー、かすみ!こっちがー」
きゃっきゃっとはしゃぎながら説明してくれた。雪風のほうもクレヨンで司令官だろう笑顔の大きな人、雪風や北上であろう女の子の絵が描かれていた。
そして…この子達の今保護者の代わりをしているのが…妙高だ。彼女も宿毛湾泊地…霞たちと同じ場所から救出された艦娘だと言う。本当に…人間と言うのは艦娘に対して容赦がない。どうして…こんなことをできるんだ。腹が立つ。
妙高はにっこりと抱き着いてきた霞を受け止め、頭を撫でている。その顔はなんだか…お姉さん。いや、母親のように見えた。
すると妙高はこっちを見てに゛っ゛ごり゛と言う表現がふさわしい感じで笑みを浮かべて見つめてきた。
「私は母親ではありませんよ」
そう言っているようであった。横須賀鎮守府の艦娘は心でも読めるのか。す、すみませんでしたと心の中で謝り、会釈をした。怪しげな笑みを向けるのをやめ、霞を撫でている。恐ろしい。下手な考えを浮かべないようにしなくてはいけない。
「ほえー…寮…と言うか高級旅館みたいですね…ここも妖精さんが…?」
「ええ。私達の重巡寮も…空母寮も、戦艦寮も等しく同じようになっていますよ。ああ、確かお隣の夕立さんや時雨さん、白露型のお部屋は洋室です。旅館…と言うものは本でしか読んだことはありませんが…確かににているかもしれませんね」
妙高が答えた。それは私が答えるところ…と少し口をとがらせている大淀がかわいらしかった。妙高はくすくす笑っている。妙高と言えば真面目一辺倒と言うイメージが強いがここの妙高は少しおちゃめなところもあるらしい。かわいい。
まあショートランド時代に最長8時間にわたるお説教を食らったこともあるのでやっぱり変なことは言うことはできない。「本当はマジで怖い妙高さん」…ショートランドではそう言われていた。あ、また妙高がこっちを見てに゛っ゛ごり゛とした笑みを浮かべて見つめてきた。い、いけない…ここの妙高さんも…あ、いけない…。
「こ、この照明も趣があっていいですねー!あ、お布団…ええ、こんなすごい手触り…」
無理矢理話題を逸らすことにした。妙高さんの笑みがもうやばい。お説教は嫌ですお説教は嫌ですお説教は嫌ですと何度も念じながら話題を逸らす。
「たたみはきょうたたみ。しょうめいも『わ』をおもんじております。たたみにふろーりんぐはじゃどうですのでそれはゆるせません。おふとんはかんむすのみなさんにさいこうのねむりをあたえ、あさにはつかれなんてのこさないようにしたものをおとりよせです」
司令官の妖精さんだろう。彼女が語ってくれた。京畳…それに布団もこれ…水鳥の高級羽毛布団に…人間が寝ても腰や首に負担のかからない敷布団、枕…贅沢ってレベルじゃない。本当に贅を尽くしに尽くした一流旅館にふさわしいものだろう。う、うらやましい…ショートランドでもここまでの待遇はなかった…。
「にほんですからわれわれようせいかいわいのぶつりゅうもさかんです。ですのでこれだけのものがよういできるのです。ふふふ…われわれのたーんはまだおわっていないぜ」
つまりまだ改善するつもりでいるらしい。そしてこの改造の快楽を味わった妖精さん達が野に解き放たれ…宿毛湾や岩川…大湊を好き放題するつもりなのだろう。また取材に行かねば…。
生まれ変わった宿毛湾はまだ見れていない。だが噂では三条司令官の妖精さんが入り込み、好き放題やっていると噂に聞いた…想像したくないが…きっとド派手にやっているのだろう。
「もちろん。ぷろですから」
「や、その言葉もういいです」
そういうやり取りをしていると霞がじーっとこちらを見ていることに気が付いた。
「しれーかん?」
「え?」
「しれーかんとおなじ」
「青葉が…ですか?」
「どういうことですか?」
「うーんと…うーんと…わかんない!」
あははは…と妙高が苦笑いする。つまり青葉は司令官と雰囲気が似ていると言うことか?ああ…そうだろう。司令官の血が青葉には大量に入っている。そうして自分は艦娘でも深海棲艦でもない存在となっている。司令官も人間でも艦娘でも深海棲艦でもない存在。つまり…同じだ。霞はそれが言いたいのだろう。
「あはは…青葉は司令官に血を分けてもらっていますからね。きっと、それが原因でしょう」
「むぎゅ!」
「わあ!霞さん!?」
「んふー…しれーかんとおなじかんじがして…おちつくの…」
「お、驚きました…霞ちゃんがよそから来た人に…提督のおかげ…なのかしら」
「当たらずも遠からず…でしょうねぇ…まあ何せ青葉は艤装も装備できない、海も走れない…かと言って深海棲艦でもないですから」
「むー!おねえちゃん、なにいってるかわかんない!」
「あ、ああ、す、すみませんね…司令官とはちょっと違うと思いますよ」
「むー…」
不満そうに離れ、ぷいっとされ、妙高に抱き着いていた。どうやらのけ者にされたようで機嫌を損ねてしまったらしい。これは…ここにいるとよけいに嫌われてしまいそうだ。
ひとまず写真を撮らせてもらって退散することにした。何かよくわかっていない霞は指をしゃぶってきょとんとした顔をしていた。
ちなみにこの霞の写真を見た大本営の男性職員はなぜかその姿を見てゴフッと血を吐き「ここに教会を建てよう」「よう犯罪者。イエスロリコン、ノータッチこそ紳士だぞ」と言いあったり、「俺…結婚したらこんな霞ちゃんみたいなかわいい娘を作るんだ…」と野望を決意したり、女性職員はこれまた母性本能がくすぐられたのか「娘を産みたい」とか「今すぐここに連れてきて。養子縁組をしましょう」などと大騒ぎになった。そう…あの霞が…指をくわえてこんなかわいらしい顔を見せることなんて絶対ないのだから。
隣にいる満面の笑顔の雪風に対しても「ふふ、こんな娘を産むわ…」と独身女性がなぜかお腹をさすってみたりと大本営は大混乱に陥ったとか。
吹雪に関しては「お兄ちゃんって言われてえ…」「ああ!?こんな娘を芋くせえとか言った提督がいる?そんなことを言う奴は殺す野田!!」「おお、腹をグリングリーン!しようぜ!」と男性陣から人気であった。そう言った提督は…今は監獄島で死ぬより辛い目に遭っているわけだが…職員は知るわけもない。
「今日は艦娘は取材のために全員自室待機…ですが、こうして自由にしてもいいと言われているから…きっと隣も…賑やかだと思うわ。あと、巡洋艦寮も。空母の皆さんは自主練として弓道場にいるはずよ。青葉、どうする?」
「うーん、白露型の皆さんのお部屋も気になりますね。でも、和室と洋室はどこも変わらない感じ?」
「ええ。けれど、その部屋の子達の趣味が出ているから、見ていて飽きないかもしれないわね」
「五十鈴さんたち長良型…「はい?いまよく聞こえなかったんだけれど」
……五十鈴とのえっちな本の協定のせいか。そこまでして五十鈴が持っているお宝は貴重なものなのか。何と言うか…他のところの艦娘より女の子女の子してるなぁ…と言うイメージだ。私服もそれぞれの個性が出ている。こだわりが違いすぎる。あの島風が黒タイツを履いていたりするのは貴重だった。Z旗のアレのイメージしかないだけに、一瞬誰かわからないくらいだった。そう言ったらめっちゃくちゃ頬を膨らませていたが。
「ああ…そういえば…洋室でしたら一番個性があるのは…ウォースパイトさんたちが居る英国艦のお部屋かしら。たぶん、ジャービスさんやジェーナスさんたちのお部屋に皆さん集まっていると思うけれど」
「おお!?イギリスの艦娘!?ほかの泊地なんかにも海外艦はいましたがイギリスは見たことがありません!時雨さんたちには申し訳ありませんがそちらへ行かせてください!」
(…五十鈴さんの本の件はごまかせたみたいね…これ以上言及されて鳥海さんの耳に入ることが厄介だもの…)
横須賀最強の頭脳が五十鈴とタッグを組んでいるのだ。「常に最悪の状況を想定せよ」と言う高雄に言われたことをこんなことに使うのはいかがなものかと思うだろう。しかしわかってほしい。私達だって女の子なんです。そう言うことに興味を持ってもいいじゃないですか?ふう…と青葉に気づかれないように小さく息を吐いてジャービスたちがいる英国艦娘の部屋に行くことにした。
基本的にはここは駆逐艦寮なのでジャービスとジェーナスの部屋なのだが、ウォースパイト、アークロイヤル、ネルソン、シェフィールドまで集まって休みの日は一緒に過ごすことが多い。特に他の艦娘達と遊んでいないわけでもない。だが、やはり同じ国の艦娘だからなのかよく集まっている。
青葉も見てきたがそこはやはり同じか…と言うイメージだった。一宮提督のところのアメリカの艦娘も、アイオワが過去に初めて見た時はえらくハイテンションな艦娘だったなぁと思ったら、一宮提督のところのアイオワは私室ではメガネをかけ、何だかおとなしかった。アトランタと言う艦娘とボヘーっとしていたっけか。
さて…見目麗しいと言う英国艦…いや、まあアメリカの艦娘も美人ぞろいだったが。特にサラトガやレンジャーは美しかった。人気を博したアメリカの艦娘に続いて今度はイギリス艦!その英国淑女と呼ばれる艦娘たちの新聞を青葉が見事に書き上げて見せますよ!
そうして大淀がジャービスたちの部屋のドアをノックする。
「カミーン!」
Come in…入ってきてください、そういうことだろうか。大淀が失礼しますよ、と言いドアを開ける。青葉はわくわくとカメラを構えてとつげーき!
「うむ!ジャパンの酒もうまいものだな!」
「ネルソン、今日はゲストが来ているのだぞ、飲みすぎだ」
「ジャービス、みかん取って」
「シェフィ、食べすぎじゃなぁい?手がベリーイエローダヨー」
「…このコターツと言うのに入ると何でかしら…止まらないの」
「ティーが入ったわよー!ずぃーうーん!って言うグリーンティーよ!」
「ジェーナス!センクス!」
大きめのこたつに全員で篭り、ミカンを食べたり熱い緑茶を飲んでいたリ、おちょこで日本酒を飲んでいたリ。しかも全員半纏姿。
英国…艦娘…?ドコニイルノ…?
青葉はずっこけるしかなかった。夢をぶち壊すようで申し訳ないわ…青葉…と憐みの目で見る大淀であった。
新たな横須賀鎮守府の闇!?それは五十鈴のムフフな本…でしょうか。悪用するわけではりませんのでご安心を。あまり増やしすぎると隠し場所に困るので同じ本ばかり繰り返し読むことになっていますが飽きのこない素晴らしい本(大淀談)ということです。
さて、突撃、青葉のお部屋訪問ですが英国艦はすっかり日本に溶け込んでいると言うか…なんというか。ドタバタコメディの鎮守府取材はまだまだ続きます。
次回もお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また。