提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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引き続きまして五ヶ丘提督のおはなしを書いていこうと思います。
やっぱり元ブラック泊地だったリンガ泊地…四苦八苦する提督にリンガの艦娘は心を開いてくれるのでしょうか?


第二百二十五話

「ご主人様、なんで仕事してるんですか?包帯グルグル巻きで」

 

そう問う漣の目は恐ろしい程冷たい…。当たり前の話である。つい先日やって来た大府提督に銃弾を受け、さらには右手をあわや使い物にならないようにされてしまう寸前だった。

 

銃創2発。右肘関節脱臼、靭帯損傷、上腕骨骨折。言うなれば満身創痍の状態であった。ひとまずこの泊地に突然訪れた自称闇医者軍団と言う妖精さんが現れ、重傷だった五ヶ丘提督を治療。いや…そんな妖精さん聞いたこともないけど…と思うが風のように治療ををしたあと「ぜったいあんせい」とだけ言い残して去って行ってしまった。

 

「絶対安静って言われてたよね?何で仕事してんの?あたしおにおこになるよ?」

 

「そうは言ってもなぁ…あのクソ外道が死んだ後、書類がほったらかしにされてるし…俺、こう言うの得意だし…」

 

「あたし達だって提督のお手伝いしてたから得意だってーの!!あんた絶対安静にしてねえと傷口が開いてとんでもねえことになるかもしんねえんだぞ!?」

 

「そんときゃ隼鷹の酒で消毒して自分で縫うからいいよ」

 

「あげませんよ!!!!!」

 

「おい、その発言はやべえぞ」

 

「いやいやいやいやいや、そう言って手を止めないで仕事するのやめてっつってんのー。あたしも寝ずに頑張るからさー。提督は寝ててよー」

 

「うお!やべえ、このことを刈谷さんに報告しなきゃならねえ!!ってか左手で物書くのって…大変だな」

 

「ガン無視イクナイ!!!」

 

「おにおこ!!!!」

 

「しーーー!!!!」

 

静かに、と言いその後「あ、もしもし、俺です、五ヶ丘です」と電話を始めてしまった。

 

とりあえずここで愚痴を言うと刈谷提督に聞こえてしまうし邪魔になるだろうから執務室から退出した。

 

「まーったく…提督はワーカーホリックってやつかい?働かないと死ぬのかい?」

 

「ぷんぷん!!ご主人様は自分がいかに重体かがわかってないですぞ!漣ちゃん達と違って一歩間違えたら死んでたんですYO!」

 

「司令官には困ったものです…お電話が終わりましたらすぐにでも医務室へ行ってもらいます」

 

「それだね。じゃねえとマジで傷が開きそうで怖いよ…」

 

白雪を筆頭に漣、鬼怒、加古、隼鷹が提督に不満そうに愚痴をこぼしたり心配している。

 

まあ愚痴2、心配8くらいの比率だ。本気で心配している。自分達は撃たれたくらいなら入渠すればすぐ治る。提督はそうはいかないのだ。治るのに全治1か月から2か月くらいはかかると言われている。この泊地の明石に闇医者(?)集団が治療法などを教えてあるが故、問題はないとのことだが…。

 

「明石さん、ちゃんと提督の面倒見てくれるのかなぁ」

 

「青葉さんの写真を見てある程度信用はしてくれたみたい。けど、やっぱり他の艦娘はちっとしんどい状態さね。あたし達にさえビクビクしてっかんなー。酒飲む?って言ったら逃げられちったよ」

 

「隼鷹さん、お酒を飲みすぎると仕入れるのに苦労しますよ」

 

「酒が一番手っ取り早く仲良くなる方法じゃーん!盃を交わして深める親交!これが一番だってー!」

 

「もしかして内緒で大本営からくすねてきたんじゃ…」

 

「な、ななななななにを言っているのかなぁ!?白雪ちゃんはさぁ!?

 

「………司令官には黙っておいてあげます…ですが、ほどほどにお願いいたしますよ。司令官、真面目ですから大本営に通報…そして返却も考えられます」

 

「ゲッ、ちょ、ま、待ってくれよぉ!」

 

「ギンバイ…隼鷹さんマジぱない…」

 

そんなやり取りをじっと壁からそっと眺める艦娘が1人…銀色のサイドテールがちらちらと…丸見えだったが。同時に柳の下の幽霊のように片目だけが白雪たちに熱い視線を送る黒髪の少女…も見つめていた。

 

………

 

「はい…そうです…襲われました」

 

『烏丸の馬鹿が死んでより良い洗脳装置を取っていこうとした。が、お前が破壊しちまって使い物にならねえ。ならお前もいらねえから死んどけってか。写真で見たけど、お前執務してて大丈夫だのかよ?』

 

「は、はあ。一応痛みますし、左手で物書くのしんどいッスけど…」

 

『テメエ、しばらく執務は白雪たちに丸投げろ。傷を治してから執務やれ。全治の時間はどれくらいかかる?』

 

「明石に言われたのは…まあ1ヶ月くらいかと…」

 

『その間執務はやめろ。傷が開いたら本土じゃねえんだぞ。テメエが死んだら大府がそこを手中に納めちまうだろうがよ』

 

「ウ、ウス…」

 

『やるんだったら今のうちにそこの艦娘とのコミュニケーションを取れ。それくらいはできんだろ』

 

「いや、怯えられるばっかりで…」

 

『だからどうした。一定の信用を得られた艦娘はいねえのかよ?』

 

「長波や朝霜…それから秋霜なんかは…」

 

『だったらそいつらを中心に自分は無害だってアピールくらいできんだろ。それくらいサルでもできんだ。執務はそっちの白雪が完璧にこなすだろ。いいな?』

 

「いや、決済くらいは『いいな?』」

 

「ウス…」

 

やべえ、これ以上うだうだ言ってるとマジで本土に帰った時に何されるかわからねえ…電話越しなのに面と向かってしゃべってるかのような威圧感…この人マジでオレ勝てねえんだよな…。刈谷提督は心配しているだけなのだが。銃創2発、靭帯損傷に骨折くらいで大府相手に良く生きてたな…と思うくらいである。ケンカだけはクソ強え奴なのはわかるが銃持った相手に襲い掛かるとは命知らずもいいところである。

 

『ま、あのクソバカに一発見舞っておめおめ何の成果もなしにタウイタウイへ帰らせたことに関してはざまあみろとだけ言っておいてやる。よくやった。帰ってきたら寿司でも奢ってやんよ』

 

「………」

 

『テメエ、俺の優しさを怪しんでやがるな?』

 

「い、いや!そんなことはありません!」

 

『ククク、帰ったら楽しみにしとけよ。それから、盗聴、盗撮の類は烏丸の馬鹿が入念にやってるだろうからねえと思うけど、違和感を見つけたら報告しろ。わかったな?』

 

「ウス…」

 

『テメエは年内に今俺がいる鹿屋に移す。そこはあくまで仮の着任だからな。俺は佐世保に移るからよ。お前を大府っつー地雷原から離す必要があるし、お前は艦娘に好かれてる。そういう連中を本土に集めて固めておきてえんだ。それまで死ぬんじゃねえぞ』

 

「わかりました」

 

『じゃあ、次会う時を楽しみしてっからよ。クックック』

 

「ちょっと!?刈谷さん!何スかその怪しい笑い方!!オレ何されるんスか!?あ、ちょ!切りやがった!あいってええ!?」

 

痛いと言う声が聞こえた瞬間、白雪たちが飛び込んできた。

 

「司令官!?一体なにがあったのですか!?お怪我は!?まさか、またあの人の襲撃…狙撃…!?」

 

「彩雲!!飛んでくれ!周囲の警戒を厳に!!」

 

「あいあいさー!」

 

脇腹を押さえてうずくまる五ヶ丘提督。まさか…本当に…!?

 

「い。いや、落ち着け…でけえ声出したら傷が…いててて…」

 

その言葉を聞いた白雪たちはほう…と安堵の息を吐いた。

 

「司令官!だから言ったじゃないですか!ご無理はなさらないでくださいと!白雪たちの事が信用できないんですか!?おねがいだから…やすんでください…ひぐっ…って、いっだのにぃ…!」

 

白雪が目じりに大粒の涙を溜めている。それはボロボロとこぼれ落ちる。白雪は心から五ヶ丘提督を信頼している。だからこそどこまでもついて行くと決めていたし、司令官が大府に襲われて意識を失った時、片時も離れずにいた。隼鷹や加古に代わるから一旦寝なと言われても、無言で首を横に振って側にいるくらい。

 

白雪はそのおとなしい性格故、馬鹿な老人たちのセクハラを良く受けていた。尻を触られたり発言がもうやばかった。

 

「いいじゃないか。どうせすることもないんじゃ、儂だって溜まっておる。田舎の芋っぽい娘みたいなお前を儂のモノで虜にしてやるわ」

 

「いやっ…離してください!!」

 

そう言って無理やり連れ去られそうになったことがある。かねてから男性不信だった白雪はそれにより恐怖が爆発。抵抗はするが恐怖でどうにかなりそうだった。

 

「おいおっさん」

 

白雪の後ろから声がした。強面の男の人が拳をポキポキ鳴らしながら歩いて来ていた。

 

「い、五ヶ丘…!?」

 

「嫌がっとる娘を無理やり手籠めにしようなんざ許せる話じゃねえよなぁ…歯ぁ食いしばれ…じゃねえと…舌を噛むぜ」

 

「ひっ!?ま、待て…!?儂と白雪は合意のもとでだな…」

 

「白雪は怖がってたじゃねえか!!!テメエみてえなクソ野郎が!!!海軍の品位を落として艦娘からの信頼を失わせとるんじゃ!!!!いっぺん顔面陥没しとけええええ!!!!」

 

「ごぶぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

グシャ、という鈍い音と共に数メートル吹っ飛ぶセクハラ親父。騒ぎを聞きつけた憲兵がやってきた。

 

「五ヶ丘君、お疲れ様…こいつは俺たちが処分するから。今回の件、不問にしておくよ。オラ、行くぞ。兄貴がアイスピック持ってお待ちかねだよ」

 

「ひ、ひいいい!!!」

 

「お、お手柔らかにッス…」

 

腰が抜けて動けない白雪に向かって強面の男は土下座をした。

 

「すまねえ!!!バカな人間が迷惑ばっかりかけてほんとにすまねえ!!!」

 

地面に頭をこすりつけるほどの土下座。五ヶ丘…と言っていたか。噂で聞いたことがある。漣ちゃんがよくお話をする人だ。お話をすると面白い人なんだよとよく言っていた。それと同時に、謝る必要がこの人にはないのに、人間が迷惑をかけてすまないってよく言ってるほんとにいい人だよ、と。ま、顔は怖いけどネと一言オマケがついていたが。

 

「あ、あの…頭を…あげてください…助けてくださって…ありがとうございました…」

 

「お、おお…けがはねえか?何もひどいことされてねえか?ああ、クソ、アイツのせいでちょっと手が赤く腫れてんな…夕張んとこ行こう。手当てしてもらおう」

 

「えっ?あ、あの、ドックへ行けば…「早く!女の子にこんなケガさせやがってクソッタレが!」」

 

ああ、話は聞いてくれないのですね…と思いつつも手を引かれて夕張さんのいる工廠へ行きましたね。ドックに行って手を入れたら一瞬で治りますよ?と夕張に言われて「なにぃ!?」と驚いていたな。もう、五ヶ丘さんはそそっかしいですねーと笑われていた。

 

………

 

「えっ?提督…司令官の資質がある?」

 

「おう、妖精さんが見えるんだよ、オレ」

 

驚きだった。まさかの発見と古井司令長官も驚いていたっけ。それから艦隊運営の指南などは白雪が率先して教えた。現三条司令官が訓練生だった時に無敗の演習艦隊と言われていた時のみんなも五ヶ丘司令官のもとに集った。

 

「は?オレがリンガに?烏丸提督が…亡くなった?で、オレが?ちょ、オレまだ訓練中なんですけど!?」

 

リンガ泊地への着任が決まった。異例の初期艦を選ぶ時間もない。無敗の艦隊全員がついていくことになった。嬉しかった。司令官と一緒に…これから頑張っていける!私はあの人に襲われそうになったところを助けられたときから…きっと心を奪われていたのだろう。だから…命を張って自分達を守ろうとしたり、リンガの艦娘を何とかしようとする司令官を見てより心惹かれていった。そんな司令官…無茶ばっかりして…。

 

「う、うわああああああああん!!!!」

 

「白雪!?」

 

「なーかしたーなーかしたー!!!!ご主人様が無理ばーっかりするからー!白雪ちゃんはずーっとご主人様を心配してたんです!それを無茶ばっかりして!」

 

「あー…さすがにこりゃ看過できねーわー…はい、おとなしく医務室にハウス!」

 

「オレは犬か!!」

 

「うええええええええんん!!!!」

 

「あ、ああああ!わかったよ!!!!いてて…」

 

大泣きする白雪にごめんな、と頭を撫でて退室した。しっかりしてるようでも少女なのだ。女の子泣かせちまった…婆ちゃんに何て言おう…女の子を泣かしちゃいけないよってめっちゃ言われてたのに…。ああ、やっちまった…とまた自分より白雪たちのことで反省する五ヶ丘提督。漣もちょっと泣いてたな…やっちまった…はああああ…と深いため息を吐いた。

 

/医務室

 

「あの…痛くなかった…ですか?」

 

「いや、そりゃ痛えけどよ…これくらいでピーピー言ってらんねえよ」

 

「麻酔なしで縫ったのに…ですか…」

 

「俺は男だ。これくらいで泣いてられねえの。それよりも…白雪や漣を泣かせちまったことのほうが…はあ…」

 

「ひっ!?な、なにをしたんですか!?」

 

傷が開いてしまっていたので明石に縫ってもらった五ヶ丘提督。白雪たちを泣かせてしまった理由を話した。

 

「え…それだけ…ですか?」

 

「それだけじゃねえよ…大事だってば…あー…婆ちゃんの言いつけ…女の子泣かすんじゃねえぞって約束…破っちまってよぉ…」

 

女の子。白雪たちをそう言った。記憶が残っているので思い出すが、前の提督は自分達を物扱いだった。おいそこの、とかくらいの言い方だった。怒った時だけはおどれとかお前とか言っていたけど…基本的には物としてしか見ていなかった。

 

この提督は…青葉が言うように…大丈夫なのだろうか。秋霜ちゃんや朝霜ちゃん、長波ちゃんなんかは信用するって言ってたけど…。

 

「しっつれいしまーす。提督、医務室に戻ったって言うから来てみたんだけどー…大丈夫?」

 

「…お前は、秋霜か?どうした?オレに何か用か?」

 

「うちとお話しよーって思って。ほらほら、はやはやもそんなとこから見てないでおいでよー」

 

「……ふふ、ふふふふ、見ています…司令官を…見ています」

 

「いや、怖えからこっちにおいで…ゆっくりしてろ、絶対安静だって言われたからな。いいぜ」

 

「やたー!うち、提督にいろいろと聞きたいことがあったんだー!」

 

「ん?聞きたいこと?」

 

「まずー、はやはやから聞いたんだけど白雪さん?が大泣きしてた理由って何?まさか、暴力でも振るったの?」

 

「誓っても手は出してねえ!いででで…」

 

「提督、縫ったばかりなんですからチカラをあまり入れないでください!!」

 

「す、すまねえ…いや、あのな…」

 

白雪が大泣きしている顛末を早霜から秋霜、それからゾロゾロやってきた夕雲型…長波、巻波、朝霜…などに伝わってやっぱりひどい提督なのだろうか?と状況が聞きたかったので集まってきたわけである。

 

長波が主にリーダーになり、提督を信じてみないか?と提案したら巻波、朝霜、早霜、秋霜が青葉からのよくやってきた怖い提督から艦娘を守るかのように撃たれたり殴られたりしたところを反撃、追い返したと言う話を聞いて信じるようになったとか。

 

「提督、それはうちもドンビキ…」

 

「クソ真面目っつーか…提督は人間なんだからさぁ…」

 

「いやー…なんつーか…早死にしそうだな、提督。あたいそう思った…」

 

「うっ、何も言えねえ…」

 

白雪が大泣きしていた事の顛末を聞いた秋霜たちはドンビキ。長波に至ってはため息を吐いている。

 

「提督…さすがに私も擁護できません…妖精さんに絶対安静って言われてたのに…」

 

「いや、刈谷さんに電話報告をしようと思ってだな…」

 

「執務までしてた、と伺っていますけど…」

 

「ついでにだな…書類…クソ外道のせいで溜まってたし…」

 

「はああああ…」

 

「でっけえため息…だな」

 

「ため息もつきたくなりますよ!私達を部屋に隠して漣さんたちを守るために身を挺して銃から守ったと聞いていますが…」

 

「オレ、守られただけなんだけど…漣や隼鷹、加古に守ってもらってこれで済んでんだ。まあ、腕はぶん殴ろうとして掴まれちまったからなんだけどさ」

 

「青葉が言ってたのとちょっと違いますね?青葉からは身を挺して艦娘を守ろうとしてたって言ってたんですけど」

 

「……話盛ってないか?」

 

「青葉さんだしねー」

 

「青葉さんだしな」

 

うんうん、と長波たちが頷く。いや、ほんとに違うんだってば。オレが守られただけなんだよと説明した。情けないことだぜ…とがっくり俯いた。

 

コンコンコン!!

 

ちょっと乱暴にドアがノックされた。明石がどうぞーと言うと眉間にしわを寄せた霞が入ってきた。

 

「霞?何か、怒ってね?」

 

「ええ、怒ってるわよ。あんたね!銃で撃たれて死にかけてたくせに執務しようとしてたですって!?絶対安静って言われたんならおとなしく寝てなさいよ!!!白雪が大泣きしてたから何事かと思ったら…あーもう!どいつもこいつもバカばかっかり!!!」

 

「あっつ!?」

 

ダン!とうどんが乗せられたお盆を置いたが為、あつあつの汁が提督に跳ねたのだ。霞も提督を信頼しようと思っている身。そして何より命を助けられている(と思っている)。だからこそ、無茶をしようとしている司令官が許せなかったのだ。白雪を泣かせて暴力でも働いたのかと思ったのだが、この人はそんなことしないだろうし…と完全に思っていた。理由を泣きながら説明する白雪にワナワナと肩を震わせて「あのクズに文句を言ってきてやるわ!ご飯を出すのと一緒に!!」とズンズン歩きながら執務室を退室したと言うことだ。

 

「これからここを立て直していくんでしょう!?それなのにここで無茶して死なれたら!?誰がここを立て直すのよこのクズ!!!………ひぐっ、あんだをじんようずるっで…いっだ矢先に…このクズゥ!!」

 

………また泣かせてしまった。霞は大泣きまではしていないがひっくひっくとしゃくりながら泣いている。婆ちゃん、マジでごめん…と天を仰いだ。

 

「提督、大丈夫!?無理してなぁい?衣笠さんがうどん食べさせてあげよっか…って…えーっと、これはー…」

 

事情を説明して同じようなことに。長波たちはもう苦笑するしかない。それどころか長波は「こりゃあたし達がいねえとダメな提督になりそうだよなぁ…ん?何だ…この気持ち…え?」と何やら母性本能をくすぐられたようだがそれにはまだ気づかない様子。

 

一方で衣笠は完全に母性を全開にし、しばらくはこの衣笠さんがお世話してあげるね!さ、服も着替えさせてあげる!といきなり服を脱がそうとするわ、それはあたしもやるわ!と霞までなぜかお世話を始めようとする始末。

 

「……なあ、あたいら空気じゃね?」

 

「あははは!うちもじゃあお世話するー!うどん食べさせてあげるね!はいあーん!」

 

「おい秋霜!」

 

「うおおお!なんだなんだ!あっち!!!おい秋霜!!!冷ましてから食わせて熱いっての!!!!」

 

「はーい!じゃあ衣笠さんがふーふーしてあげるね!!」

 

「ちょっと!あたしが持ってきたのよ!?あたしがするのが普通じゃない!?」

 

「えっと…なあにこれ…どうなってんのかしら…?」

 

「陸奥さん!?」

 

抵抗する提督。明石が傷口が開くから全員ストオオオオオオップ!!!!と言うとハッ!?と騒いでいた面子は落ち着いた。それと同時にまたしても来客のようだ。騒々しい…傷口は痛えし腕は痛えし…唇はやけどするし…何なんだよ…と思う提督。しかし…これだけの艦娘の心を先日の騒ぎだけで開かせたのは彼の人徳だろう。

 

白雪たちと和気あいあいとしていたのが効果があったようである。そうして…この泊地で唯一の戦艦、陸奥がやって来たのだ。

 

「いでで…む、陸奥か」

 

「はぁい、戦艦陸奥よ。ああ、うどんを食べながらでいいわよ。伸びちゃったらおいしくないものね」

 

「お、おお…」

 

「衣笠さんが…「いやいい…」」

 

「あらあら、仲がいいのねぇ。それで、聞きたいことがいくつかあるんだけどいいかしら?」

 

「ズズズ…んぐっ、おう、いいぜ。ん、うま…」

 

「ふふふ、食べる元気があるならいいことね、さて…」

 

腕を組んで少し目つきが鋭くなった。この陸奥はオレを敵視しているんだろうか?宣戦布告か何かか?

 

「提督の着任を拒む娘も多いのだけれど…私達も提督がいないと生きていけないからね。私はまず言っておくわね。完全にあなたを信用しているわけじゃない」

 

「おお、そりゃしょうがねえことだもんな。烏丸のクソ外道があんなことして、挙句に暴力に暴言までだもんな。生きてたら成層圏までぶっ飛ばしてやろうと思ってるところだ」

 

「あら、意外ね。もう1人にそそのかされてたんだから許してあげてくらい、庇うと思ってたわ」

 

「庇う気なんてねえ。艦娘を物のように。使い捨ての何かのように使ったあいつと、まだそれをやってる外道共だ。これでオレはあいつを完全に敵と思った。別の協力してくれる提督にもちゃんと言っておいたし、大府の野郎にも宣戦布告はしてやろうと思ってる。まあ…止められちまったけどな」

 

「ふぅん…で、あなたはここで何をしていくの?」

 

「何をって…そりゃもちろん運用はする。ただし、轟沈ゼロが目標だ。大破撤退はもちろん、補給、食事、入渠、自由時間だって設ける。さっきちらっとだけ戦闘詳報を見させてもらったけど、みっちり働きづめだったんだな。そんなんじゃ効率も下がる」

 

「効率のためにそうしたいわけね?」

 

ギロリ、と陸奥の目つきがより鋭くなった。こういう時、五ヶ丘提督は口下手なために余計な誤解を生みやすいのだ。効率重視のためでもない。噂に聞いている横須賀鎮守府のようにのんびり生活してほしい。けど戦闘の時はキチッと成果を出してほしい。ただそれだけのことなのだ。

 

この時点で大本営の青葉の取材の新聞はまだ出来上がっていない。だから横須賀の状況がどういうことになっているかはわかっていない。ただ、聞く話だと大浴場やのびのび遊べる自由時間など、よその泊地や過酷に戦わされている基地などに比べると夢のような場所らしい。

 

堀内提督のところもそうらしいが、横須賀の比ではないらしい。

 

「あー、ご主人様は効率重視ーってわけじゃなくて、のびのびここで生活していきましょうYO!そんでもって戦うときはきちっとしましょうネって言いたいだけですぞ~」

 

「え?」

 

「漣?どうしたんだよ」

 

「いやぁ、たはは、漣チャンって事務のお仕事さっぱりっしょ?ゆっきーからうるさいって追い出されちゃって…あ、漣チャンもここでうどん食べよーっと。いただきまーす」

 

「……漣…あんたねぇ…」

 

「ズズズッズッ…ん、うんまあああ!!」

 

陸奥が殺気に近いオーラまで出していたと言うのに話の腰を見事にボッキリと折った。何なのよこの子…と漣を威圧したがそんな威圧はまるで効いていない。

 

「ふふん、そんな威圧は漣チャンには通じませぬぞ。おほほほほほ」

 

「こら、煽るな…」

 

その威圧は霞や長波たちでさえ引いていると言うのに。

 

「そりゃあもーっとこわーい陸奥さんのオーラを嫌ってくらい浴びてますからネ。あの人の前じゃあさすがにちびっちゃいそうですけど」

 

「飯中だぞ…」

 

「おっとっと、失礼しやしたー。それでー、ご主人様を威圧してる理由は何でしょうかねぇ?いくらここが元ブラ鎮でも…さすがにちょっと容赦はしませんよー」

 

ブワッと何か冷たいものが陸奥や長波たちの背中を撫でていった。それは漣が出す威圧だ。彼女は実戦はそこまで出ていないが玲司が訓練生の時から。いや、それ以前から何十、何百。数えきれないほどの演習戦闘を繰り返してきている。戦闘能力自体はここの艦娘達より高い。自分で考え、行動し、時に修羅場の様な演習だってやってきている。経験が違いすぎる。

 

「ご主人様はここに来る前からずーっとここのみんなとどうやったら仲良くできるか。どうやったら立て直せるか。そればーっかり考えてました。ま、直情的過ぎてごっついハンマーであの機械ぶっ壊しちゃったりとか、銃を持ったクソ提督相手に徒手でいっちゃったりとか危なっかしいですけどネ」

 

うどんをすすり、強烈なプレッシャーを与えながら語る漣。こういう時、漣は提督の足りない言葉を埋める役を担う。

 

「そそ、提督は単にここに着任してみんなとなかよーくやっていこうってだけさー。それ以外はなーんも考えてないと思うぜ」

 

もう1人の補足役、隼鷹だ。

 

「でさー、この間からその隙間っからのぞき見するのやめねえ?早霜~。マジで怖えんだって」

 

「ふふふ…見つかって…しまいましたね」

 

「バレバレだっつーの。なあ提督?提督はここの立て直し、練度向上、海域の制圧はもちろんだけど、あたしらみてーにのーんびりやってこうぜって言いたいんだよな?効率は確かに大事さ。みんな死なせねえようにって思ってんだからさ」

 

絶対に誰も沈ませんじゃねえぞ。沈めたら殺す。そうまで刈谷提督に言われていた。言葉が足りなさ過ぎて効率重視、なんて言うもんだから陸奥が怒ってしまったのだ。

 

「お、おう…みんな今はそりゃ怖えよな。どんな奴かもわかんねえ奴が仲良くしてえなんて言ってもよ…だから夕雲たちは怯えてるし、他の艦娘の子たちだって…オレはあんま頭良くねえからうまく言えねえけど…オレはここをみんなが笑いあってうまい飯食って楽しんで生活できる場所にしたい。んで、みんなと一緒に本土の泊地に移りたい。オレァとりあえずの提督って今は位置づけだかんな…」

 

「仮ぃ?それじゃ困るんだっつーの!あたいらはあんたを司令って認めてんだからさー。まあ、姉貴たちの説得もうまくいってねえけど…」

 

「それに本土って…うちらも行くの?わあ、行きたい行きたい!」

 

「んだよ、そうならそうってもっときっちり言ってくれよな…」

 

「ふふ、ふふふ…早霜は…司令にずっと…ついていきますよ…」

 

「はやはや怖すぎ…」

 

「まあ、そういうわけだ…で、いきなり大府のクソッタレにこんな目にあわされて足止め喰らってんだよ…」

 

「命を助けてもらったこと。あのクズからあたし達を助けてもらったこと。まあ、感謝してなくもないわ。あんたについていくわ。け・ど!あんたが変な采配したり変な行為に走ってあのクズみたいなことしたら蹴り飛ばしてやるんだから!」

 

「わかったよ。霞に蹴っ飛ばされねえように、しっかりしなきゃな」

 

「ふん!せいぜい気を付けることね!」

 

「ゆっきーにかすみんかー。ご主人様、がんばってくださいネー」

 

「おお」

 

「ふう…なんか一気に何も言う気が失せたわ…まあ、まだ信用していない艦娘が多数いるってこと、忘れないで頂戴ね」

 

「ああ。けど、必ずみんなに信用してもらえるように頑張るよ」

 

「………ふん」

 

「おー漣ー。頑張ったなー!お前の言うようになったじゃねえかー!」

 

「…………ちょっとお花摘みに行ってきます」

 

「は?お前まさか…?」

 

「ちょ、ちょっち陸奥さんに気圧されて…いちごぱんちゅが染みちゃったッス」

 

「ぶほぉ!?」

 

「きたな!?」

 

「おおい!?男が居る前でんなこと言うなよな!?」

 

「て、提督!?せ、せき込んで大丈夫!?傷口は開いてなぁい!?わたしがしっかり看病してあげるからね!?」

 

「せっかくのいい話が台無しじゃねえかよ…」

 

「あはははは!提督がきておもしろくなったね!うち、やっぱり提督が来てくれてよかったなぁ!」

 

「ふふ…ふふふ…漣さんはイチゴ柄の下着を10枚…もっています」

 

「何で知ってんの!?」

 

「あ、やば、まぢでちびりそうなんで、アデュー!!!」

 

「ゴホッゴホッ…ったく、あいつはもうちょっとデリカシーってのをだな…女の子なんだからよ…」

 

「うちらのこと女の子って言ってくれんの!?やったぁ!うちそういう人だいかんげーい!」

 

「いってええええ!!!」

 

「………秋霜さん?」

 

「あ、え、は、ははは、はやはや…その、提督も…ごめん」

 

騒がしい医務室。最後は明石に傷に触りますから出て行ってください!!と怒鳴られるまでギャーギャー騒いでいた。

 

………

 

「………提督なんて、信じないんだから…!!!」

 

優しさを知らない陸奥。ここの艦娘は優しさを知らない。だからこそ信頼ができない。陸奥はギリッと強く歯を噛んだ。絶対に追い出してやるんだから。

 

そう強く決意を固め、仲間を募ろうとするのだった。ドン!と強く壁を叩いて。




五ヶ丘提督が大府提督に襲撃されてからの後日談でした。

ある程度の信頼は得ましたがやはり追い出そうとする艦娘がいます。これから先、彼女たちの信頼を勝ち取るのは難しそうですね。衣笠、霞や長波たちを筆頭にした信頼しようとする派。陸奥を筆頭に追い出そうと画策する派閥。

当面は彼女たちがバチバチの争いを繰り広げてしまいそうです。彼女たちのわだかまりをほぐし、さらにこのリンガでやっていくことができるのでしょうか?いったんここで話を止めますがしばらくしてからまた書こうと思います。

次回も未定です。お待ちいただけましたら嬉しいです。

それでは、また。
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