提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第六駆逐隊集合!横須賀鎮守府巡りの回です。



第二百二十七話

横須賀鎮守府の響、電。宿毛湾泊地の暁、雷が集ったことにより、響、電は久しぶりに第六駆逐隊が揃ったことを喜んだ。暁も雷も…安久野のせいにより非業の死を遂げており、電はひどく悲しみ、毎日のように泣き、響は深海棲艦の因子を安久野への怒り、怨みのせいで蓄積させ、最後には轟沈してしまい、深海棲艦として復活。電の前に立ちはだかった。

 

響は電の蒼い眼からこぼれ落ちた「奇跡の蒼き聖水」と明石が呼ぶ奇跡のチカラにより、響として横須賀鎮守府に帰って来た。こうして電と響は非常にフリーダムに毎日を楽しく生活している。

 

「横須賀鎮守府と言えば食堂、食堂と言えば横須賀鎮守府なのです!毎日間宮さんや司令官さんがおいしいご飯を作ってくれるのです!」

 

 

ここに港湾棲姫の茉莉の名前を出せないのは少し寂しい。茉莉も大切なお姉さん。おどおど…気弱そうだけれど抱き着くととてもふかふかで柔らかい…そして温かい。

 

明石が難しいことを言っていた気がする。

 

 

「本来深海棲艦って冷たくて鈴谷さんの言葉を借りるとヌメヌメするらしいんだけど、茉莉さんや紫亜さんは違うのよねぇ…食事や生活の問題かしら?これ、レポートにすると横須賀が怪しまれるしなぁ…文字にしてハッキングでもされると厄介だし…あー!もどかしいなぁ!」

 

明石さんが言うヌメヌメなんてしないし髪の毛はサラサラでツヤツヤ。いい匂いのする安心できるお姉さんだ。本当ならおいしいお料理を作ってくれるとっても優しいお姉さんなのです、と紹介したかったが深海棲艦が鎮守府にいることは大問題である、と言うことは横須賀鎮守府の全員が理解していることなので口が裂けても言えなかった。

 

「今日はオムライスって言っていたわね!ふふ、雷も手伝おうかしら!雷もお料理は得意なのよ!」

 

「雷のお料理はとってもおいしいのよ!司令官の作るすいーつ?もおいしいのよ!」

 

現宿毛湾泊地の小さなお母さん、とも呼ばれている。お料理のお手伝いからお茶くみ、お洗濯からお悩み相談まで何でもやっているらしい。前宿毛湾の馬鹿な提督のせいでトラウマを持つ艦娘は、九重提督にそう言ったトラウマのカウンセリングではないが相談をし、話もよく聞いてもらうそうだが、それとは違う包み込むような優しさを持つ雷の抱擁、「もう大丈夫だからね。何かあっても司令官や雷が守ってあげるわ!」と言う言葉に大泣きすると言う。泣いている間も片時も離れず、嫌な顔一つせずに頭と背中を撫でてくれるのだそうだ。

 

「大海の心を持つ駆逐艦」「お母さんのような存在」…宿毛湾泊地では雷はいなくてはならない存在らしい。

 

「ふふん、雷のぼせーは半端じゃないのよ!」

 

ドヤァと暁がしているが、暁はいつも夜トイレに行くときに雷を起こしてついてきてもらわないといけない怖がりだ。雷はそれでも嫌な顔も見せずにはいはい、暁はお子様ねぇ…と言いながらついてきてくれる。

 

「子ども扱いしないでよ!」と言うが…うん、まあ…あれだ…お母さんに付き添ってもらわないといけない手間のかかる娘くらいに雷は思っているが、それを言ってしまうとまたぷんすかしてしまうため、言わない。

 

「さあ、ここが食堂だよ。ハラショー…ん?熊野さん達だね」

 

「うわぁ、暁たちの食堂よりおっきーい…」

 

「作り甲斐がありそうね!今日は雷にまっかせてね!」

 

「ええと…お客様にお手伝いしてもらうわけには…」

 

「なに言ってるのよー!おもてなししてもらうだけじゃだめよぉ!真心を受けたときは真心で返さないとだめよ!間宮さん!」

 

「え、そ、そう…提督が納得されるかしら…」

 

「雷がお願いしてみるわね!」

 

雷は間宮に料理のお手伝いの交渉を始めた。あまりに押しが強すぎて間宮がタジタジしている。そう言っている間にも、雷は袖をまくってお手伝いを始めようとしていた。

 

「ま、まずはね?せっかく電ちゃんや響ちゃんが鎮守府を案内してくれるって言っているんだからそっちのほうがいいんじゃないかしら?」

 

「はっ!?それもそうだったわ!ありがとう間宮さん!あとでお手伝いに来るわね!」

 

結局お手伝いに来ることにはかわりないのね…とあはは…と苦笑した間宮。提督も個性的だったけれど…やっぱり艦娘も個性的なのかしら…そう思うがどこからか「テメエらが言うな」と返ってきそうな思いである。

 

………

 

「ぐぬ…ぐぬぬぬ…」

 

「くまのん、一口も進んでおりませんわよ。ニンジンを克服するのはいつになりますのやら…」

 

「って言うか、駆逐艦の子がニンジン食べてるのに熊野だけが食べられないって熊野のレディって言う奴が根幹から揺らぐじゃん」

 

「いや、レディってそれだけじゃないからね?いろいろと熊野はレディからかけ離れてると思うよ」

 

「むきー!最上!それはどういうことですの!?」

 

「やー、喋り方や振る舞いはレディだとしても他がねぇ…脱ぎ散らかし、食べ散らかし、提督にあれこれ注文付けすぎ。提督が怒らないからってやりたい放題だよねー」

 

「レディには必要なものなんですの!」

 

「権利を主張するなら義務を果たさなきゃー。さ、キャロットケーキはニンジンそのものを食べてるわけじゃないでしょ?ニンジンジュースだって熊野が好きなリンゴとか入ってるわけだしさー」

 

「それとこれとは話が別ですの!」

 

「はぁ…」

 

「じーーーー」

 

「ほわぁ!?!?!!?」

 

ケーキを目の前にじーっと見つめる小さな見たこともない駆逐艦がいた。紫色の髪で見たことある帽子をかぶっている。ああ、響さんがかぶっている帽子に似ておりますわね、と思った。

 

「あ、暁?」

 

最上がそう言った。最上は知っている。暁…響と電のお姉ちゃん。最期は語りたくもない。ああ、そういえば宿毛湾の提督が来ていたんだっけ。そこの子かな?

 

「やあ、暁。このケーキが気になるのかい?電たちに案内してもらってるのかー。これはニンジンが入ってるんだよ?食べられるの?」

 

「子ども扱いしないでほしいわ!暁はニンジンが大好きなんだから!くんくん…これ、ニンジンジュース?おいしそうね!」

 

「なん…だと…」

 

熊野がカラーンとスプーンを落とした。おいしそうだと?そんなはずはない。このニンジンの風味…嗅いだだけで体が拒否反応を起こすと言うのに。

 

「まあ、暁ちゃんはニンジンが好きなの?よかったらおやつとして食べる?」

 

「じゅる…お、おいしそうね…せ、せっかくのお誘いだから頂くわ!」

 

「暁ったらおやつには目がないんだからー。あ、でもおいしそうね!」

 

「雷も食べたいだけじゃない!」

 

「ふふふ、じゃあ第六駆逐隊の皆さんもおやつにしましょうか」

 

「ハラショー」

 

「なのです!」

 

電達にも出されたキャロットケーキ。それをみんなおいしそうに食べ、ニンジンジュースもおいしそうに飲んでいた。

 

「ま、まったくの抵抗もなく…食べるだなんて…あなた方…本当に艦娘なんですの?」

 

「いや、それだったら熊野以外艦娘じゃなくなるじゃん」

 

鈴谷の冷静なツッコミ。ぐうの音も出ない熊野。

 

「暁ちゃんはニンジンが好きなのです?」

 

「ええ、大好きよ。カレーやグラッセ、細切りにしてサラダにしてもおいしいわ!」

 

「ハラショー。スティックサラダも悪くはない」

 

「ふふ、暁はね、実は食べ物の好き嫌いがないのよ!」

 

「へー、それはすごいねー。どっかの誰かも見習ってほしいくらいじゃん」

 

「鈴谷、それは誰の事をおっしゃっているのかしら?」

 

「そこでさっきからケーキを一口も食べない航空巡洋艦かなー」

 

「ぐ、ぐぐぐ」

 

「暁ちゃんすごいのですー」

 

「当然よ!一人前のレディになるには好き嫌いなんてしてられないもの!」

 

「あとは夜に雷を起こしておトイレに行くことがなかったらねぇ…」

 

「い、いずれ克服するわよ!見てなさい!暁はもーっと、レディになるんだから!」

 

「期待してるわね!!」

 

おしゃべりをしながらもパクパクとケーキを食べ、ジュースを飲む。食べ終わるころにはナプキンで口を拭き、ごちそうさまでした!と元気よく挨拶をする暁たちがあった。熊野は口を押え、なんだか今にも…リバースしそうなくらい顔が青かった。

 

「ふふ、暁ちゃん達、お粗末様でした♪おかげでケーキは売り切れね♪」

 

「くまのんが食べないから…」

 

「ジュースもなくなったね」

 

「こ、これで…わたくしも地獄から解放され「さ、新しいニンジンジュースを作らなきゃ♪」」

 

「はああああああ?!!?!?!?」

 

「ぷぷーっ!熊野、頑張ってね!」

 

「くまりんこ♪」

 

「あんまりですわああああああ!!!」

 

「もう、うるさいわねぇ。そんなんじゃ立派なレディになれないわよ!」

 

「プークスクス!!!!暁ちゃんにそう言われたらレディになるために頑張らないとね、くーまの!」

 

暁と雷は間宮にごちそうさまでした!ともう一度丁寧にお礼をして食堂を響たちと後にした。

 

………

 

響、電に連れられた暁と雷は今度は中庭の花壇にやってきた。ここは艦娘達が主に水やりや雑草抜きなどを行っていると説明した。ただ、本当の花壇の主である戦艦棲姫である紫亜の名前を挙げられないのがやっぱり響や電には寂しいものだと感じた。

 

紫亜。扶桑さんとは違う優しさ、そして時に厳しいアドバイスをくれる人だ。そしてどんな時でも包み込んでくれるような安心できる人。悪い深海棲艦だけではない。それを教えてくれた人でもある。どんな時でも笑顔でここにいる。そんな紫亜さんがいないのは…やっぱり寂しいな。

 

でも、たとえ司令官が信頼している司令官だろうと、外部に深海棲艦が横須賀にいるなんて絶対に知られてはならない。それは龍驤さんや川内さん、司令官に懇々と言われたことだ。

 

「ここはみんなで管理している場所だよ。季節に合わせていろんな花が咲く」

 

「なのです。あそこには大きな桜と去年の春に植えた小さな桜があるのです。ちょっと大きくなったのです?」

 

「へえ、そんなことをやっているのね!」

 

「今年も響ちゃんやみんなとするお花見、楽しみなのです!」

 

「ハラショー。去年は楽しかったね」

 

「お花見ですって!?そう言えば雷の司令官も今年はやっとお花見ができるわねーって言っていたわ」

 

「お花見ってどんなのかしら?」

 

暁の質問に電が答える。歌って飲んで食べて…舞い散る桜の花びらに満開の桜…それはそれはとても楽しいものだったのですと答えると暁も雷も、響も目を輝かせていた。

 

「ハラショー、楽しみだね。早く咲くんだ、ウラー!!」

 

「響ちゃん、お花が咲くのは3月から4月の間なのです。ウラーと言っても咲かないのです」

 

「もう、響はせっかちねぇ。そんなんじゃレディにはなれないんだから」

 

「お料理…お花見の準備…これは雷が頑張るしかないわね!

 

しゃがんでは手を大きく伸ばして早く咲けと呼びかける響。それを呆れた表情で見ている暁。きっと準備で忙しく、このわたしがしっかりしなきゃ、と今から全力で頑張ることを想像している雷。三者三葉、それを見ている電はクスリと笑った。

 

ああ、暁ちゃんも雷ちゃんも沈まずにいたらこうなっていたんだろうな…そう思うと胸が締め付けられた。

 

「ひぐっ、ひぐっ…いなづま…ひびき…ごめんね…」

 

「わたしたち…いってくるね」

 

行ってくる…いや逝ってくるだろう。補給もなく、入渠もなく、大破したまま北方海域へ行かせた挙句…彼女たちは帰ってこなかった。

 

「電、私がまだいる。お姉ちゃんに任せるんだ。大丈夫。電は沈ませはしないさ」

 

あの司令官の時の悲劇。今でも悪夢で見てしまうもの。そのたびに怖くなって響に抱き着いたり、響を起こして悪いと思った時は夜遅くてもほぼ起きている紫亜のところへ行くのだ。

 

「あら…電、また怖い夢を見たのね?大丈夫。今の提督がいるなら…あなたが体験した最悪な思いをすることはもうないのよ。昔のことを忘れることはできない。けれど、前をしっかりと向いて響と一緒に、素敵な未来をいっぱい作りましょう?そうすれば、きっと…沈んでしまった暁も雷も安心できるでしょうから」

 

そして優しく抱きしめてくれる。お姉ちゃん?お母さん?よくわからないけれど…紫亜さんもとても大切な人。そうして朝になると「私を一人にしたね?」と膨れた響が紫亜さんの下にやってくるのだ。

 

「はわわ、ごめんなさいなのです…」

 

「ほら、そんなに膨れていないで。響もずっと一人だったから怖いのよね?大丈夫。もう誰もいなくならないわ。おいで?電もここにいる。私もここにいる。みんな鎮守府にいるから、ね?」

 

「…ダー」

 

「ふふふ、ケンカはしないのよ?」

 

「はいなのです」

 

「ダー」

 

「いい子ね。さあ、朝ごはんに行きましょうか。茉莉がご飯を作ってくれているわよ」

 

過去は変えられない。けれど未来はいくらでも変わる。暁や雷が笑って見守っていられるような未来を築いていきましょう。紫亜さんの教えはちょっと難しいけど何となくわかる。だから、見ていてくださいなのです。電は…毎日を笑って過ごすのです。

 

楽しそうにしている三人を見ながら電はそう誓った。

 

「離れていても第六駆逐隊はずっと一緒なのです」

 

「え?電、今何か言った?」

 

「な、なんでもないのです!あ、あそこにいるのは…ウォースパイトさん!なのです!」

 

危うく呟きを聞かれるところだった。しっかりと…響だけはそれを聞いていたが。離れていても…か。そうだね。だからこそ、私は電と再会し、こうして楽しい毎日を過ごせた。この奇跡には感謝しなくてはならない。スパシーバ。

 

電についていった暁と雷が「ほわぁ…」と思わず声をあげるほどの美人だった。長い金色の髪。優雅な佇まい。冠のようなものがついたヘアバンド。

 

「レディ…レディだわ!」

 

「Hi、イナヅマ、ヒビキ。あら?彼女たちはSisters?」

 

「なのです!」

 

「ダー。お姉ちゃんの暁と妹の雷だ。電にとっては二人ともお姉ちゃんだね」

 

「あ、暁、です!」

 

そう言ってスカートのすそをつまみ、お辞儀をする。

 

「Wow!アカツキはレディなのね」

 

「ほ、ほんと!?あ、えっと…ほんとですか!?」

 

「ええ。とても素晴らしい挨拶だったわ。コホン。Nice to meet you.私はBattle ship『Warspite』よ。よろしくお願いするわ」

 

「ほ、ほわぁ…レディ…なのです」

 

「初めまして、雷よ!困ったことがあったらなーんでも言ってね!」

 

「イカヅチ…ああ!Sir Falleの!」

 

「さー…ふぉーる?」

 

「Yes.Sir Samuel Falle…イカヅチと言うデストロイヤーの話を彼が一冊のとあるBookに取り上げていてね…?」

 

ウォースパイトが語る男性の名はかの大戦時、スラバヤ沖海戦で起きた出来事だった。戦闘に敗北し、漂流した400人以上の日本からしてみれば敵兵…イギリス海軍兵をちょうど通りかかった雷が救助に入ったと言うのだ(のちに電も救助にあたったと言う)。雷の艦長は彼らを「あなた方は日本海軍の名誉ある賓客であり、非常に勇敢に戦った」と言ったと言うのだ。

 

敵であろうと救助する日本の誇り高き武士道に感心した彼は一冊の自分の半生を書いた本に、雷の艦長のことを書かれたと言う。

 

「ああ、工藤俊作艦長だね。最後は私の艦長だった人の事だ」

 

「響、知っているの?」

 

「ああ、第六駆逐隊…暁や雷、電の史実は全て読んで勉強したからね」

 

ふんす、と無表情のようでちょっと得意げに話した。そうして響は雷の艦長のことを語った。そして、ウォースパイトが言うフォール氏が艦長を訪ねてきた話も。

 

その話をすると電も暁も泣き始めた。

 

「い、雷はほんとにいい子なんだからぁ…」

 

「う、うう…雷ちゃんはすごいのですぅ…」

 

「なに言ってんのよー!雷は…あっ、えっと…艦長がしたことは当然のことよ!特別なことなんて何もしていないわ!」

 

雷が言っていることは艦長の部下である航海士の方もきっとこう言うだろう、と語っていた言葉とほぼ同じだった。どこまでも深い優しさを持つ雷。彼女の優しはきっと、彼に似たのだろう…。響はそう思った。

 

「ふふ、ヒビキはさすがね。そしてイカヅチ…あなたの行ったことは…彼が語らなければ日の目を浴びることがなかった…これは…奇跡と言うべきかしらね…」

 

「ふふふ!そうだったの!気にしなくていいわよ!それから、何かあったら救助でも何でも、もーっとわたしを頼っていいのよ!」

 

雷は腰に手を当て、えっへん!と得意げに語った。これが雷の強さ、優しさなのね…ウォースパイトはにっこりと雷に笑いかけ、頭を撫でた。えへへ、とちょっと恥ずかしそうにしていたが、すごく嬉しそうに笑っていた。

 

………

 

「昔はひどいところだって聞いていたけど、全然ひどいって言うところがないわね」

 

「なのです!今の司令官さんが来るまでは本当にひどいところだったのです…けど、今は司令官さんと妖精さんが協力してとーっても変わったのですー」

 

「ハラショー。あの大きなお風呂…露天風呂…最高だね。ご飯はおいしいし。おっと、そこに北上さんが作ったお墓があるよ」

 

お墓。慰霊碑じゃないの?と聞いたが違った。北上が作ったバカな提督のせいで沈んでしまった艦娘達の艤装の破片などを埋めた場所。

 

「あ、北上さんなのですー!」

 

「ハラショー、北上さんに突撃だ」

 

「んー?おーっと、嫌な気配がするから華麗に回避だー」

 

回避するそぶりを見せる北上だったが、墓石や献花の筒を壊されては困るとやっぱり抱きしめられることにした。

 

「うぶっ…ちょっとあんた達さー。もうちょい手加減してよー。お昼に食べたタコ焼き出るとこだったじゃん」

 

「はわわ、それは危険なのです。ごめんなさいなのです…」

 

「すまない。それと…このまま突っ込んでいるとお墓の石を蹴飛ばしてしまうかもしれなかった」

 

「そういうこと。あんた達いつも摩耶や時雨に言われてんでしょ」

 

「はうぅ…ごめんなさいなのです…」

なんとまあ…いいお姉ちゃんな北上さんだろうか…と思う。別の泊地と演習で見た北上は駆逐艦に割と興味なさげで淡々と指示し、甘えさせないオーラが漂っていたのだが。

 

「なんか、ローマさんみたいね。ツーンってしてる感じだけど暁たちに優しいお姉さんみたい」

 

「ああ!わかるわかる!シロッコちゃんの口の周りについたクリームをぬぐってあげたりとか!」

 

「ふふふ、北上さんもソースがほっぺについていると拭いてくれたりするのです!優しいお姉ちゃん!なのです!」

 

「ハラショー」

 

「はーーー?あたしをそのローマ?艦娘?そんなんと一緒にしないでちょーだいよ」

 

あ、ローマさんも「は?そんな艦娘と一緒にしないでくれる?私はこのままだと提督の服を汚したり部屋を汚されたりするのが困るからよ」とツーンとした表情で言うだろうな、と思った。しかし、特徴的なメガネをくいくいさせているだろう。実はこのメガネをくいくいさせる行動は、ローマが嬉しいのを隠すときにするクセだ。

 

ちなみに北上は照れ隠しをするときはおさげを手でさわさわしている。これが北上の嬉しさを隠すクセである。そして、横須賀の誰もがうざいうざいと言いながらも駆逐艦が大好きな北上だ。

 

「んでー?何しに来たのさー。うわ、うるさいいちにんまえのれでぃがきた」

 

「うるさいって何よー!暁はレディなのよ!?そんなに「はーいはいはい、うるさーいでーす」」

 

「きー!!!」

 

「北上さん、暁ちゃんをいじめないでほしいのです…」

 

「ハラショー」

 

「はいはい…てか響はハラショーしかさっきから言ってない」

 

北上が花を献花台に供える。電と響も当たり前のように手伝い、線香も用意する。「火はあんたらには危ないからねー」と言うと「子ども扱いしないでほしいのです!」と電がぷんすかしていた。電は子供ねぇ…と暁はクスッと笑ったが、北上にさっきぷんすかしていたのでどっちもどっちだ。

 

手を合わせ…黙祷…。磯波や浦波から聞いた前の司令官の時の宿毛湾泊地。それよりもひどい場所だったのね…雷はグスリと少しだけ泣いた。

 

「私が来た時からここはとても素晴らしい場所だったわ。けれど、昔の話を聞いて耳を疑った…けど、キタカミやみんなが言うのよ。昔は昔、今は今。忘れられないけど…前を向いて行かないと沈んでしまった艦娘達に申し訳ないと」

 

暁たちは九重提督の建造で生まれた艦娘だ。彼は轟沈なんて絶対にさせないわ!と決め込んでいるため、今までの轟沈は大規模な作戦でもない。だからこそ、轟沈の悲しみ、恐ろしさはわからなかった。暁が轟沈寸前になって初めて、九重提督も…彼が率いる艦娘も轟沈の恐怖を感じた。

 

「私やシェフィ…イギリスから来た私達も多くの同胞が女王陛下を守るために沈んだ…アーサー…私たちの本当のAdmiralは怒っていた。だから私達をここへ私達が沈まないように送った。ここでの生活は楽しいわ。けれど…私達は艦娘。楽しいばかりではない。けれど、この楽しい生活を守るために、私達はフソウやショウカクを始め…頑張っているわ」

 

夕陽に照らされたウォースパイトはとても美しい。暁はその美しさに惹かれた。暁も…ぜーったいウォースパイトさんのようなレディになるわ…!と心に誓った。

 

………

 

夕飯前、厨房のカウンターにかじりつくかのようにして玲司や間宮がフライパンを振るう姿があった。第六駆逐隊だ。お腹がグウグウ鳴る凄まじい香りと鮮やかなフライパン捌きに釘付けだったのだ。そこに神通、夕立がいるのももはや恒例。

 

「あのなぁ、あぶねえから離れろっていつも言ってんのにさぁ…ってか電たちはとにかく…神通に…武蔵ぃ…」

 

「何だ、私も腹が減って我慢できん。まだか!?」

 

「子供じゃねえんだから席に座って待ってろっての!あと1時間はかかります!」

 

「コココ。ここもご飯やおやつの時は大変ねぇ」

 

宿毛湾もパンケーキを焼いている時はリベッチオやグレカーレ…暁たちがワラワラと集まってくる。その風景に似ていた。まあ今はうちの暁や雷もいるわけだが。

 

「三条司令官!お皿はここに置いておくわね!ええっと…次は何をすればいいのかしら!」

 

「雷。雷もお客さんなんだからゆっくりしててくれていいんだぜ?」

 

「そんなんじゃだめよぉ!もーっとわたしを頼っていいんだから!さあ、次は何をすればいい!?」

 

「提督…おとなしく雷ちゃんを手伝わせた方がいいかと思います…」

 

「お、おう…じゃ、じゃあ米を炊いてるかまどの火の番を頼むわ…」

 

「はーい!まっかせて!司令官!」

 

「ハラショー。私も手伝おう」

 

「げぇっ!?響!」

 

「何だい、失礼な。私だって手伝いはできる」

 

「暁も手伝うわ!火を見ていればいいんでしょ?」

 

「なのです!」

 

何だかとてつもなく嫌な予感がする…。かまどと言えばいろいろと事件が多いのだ…。

 

しかし今は茉莉もいない。猫の手も借りたいくらい忙しいのは事実だ。茉莉は最近効率よく料理を進めていくのに感心していたくらいだ。

 

「はわわ、火が弱くなっているのです!」

 

「みたいだね。これはこの竹筒で息を吹きかけて…」

 

「ええ!?何それ楽しそう!暁がやりたいわ!」

 

「いい!?おい電!その役目は電が!」

 

「あ、暁ちゃん!そーっと!そーっと吹くのですよ!」

 

「心配しないで!これくらいらくしょーよ!せーのっ!」

 

結果は言うまでもない。顔を煤で真っ黒にし、前髪をチリチリにした暁のできあがりだった。

 

「あははははははは!!!!あーはははははははは!!!!!!」

 

「ぶはははははは!!!!暁ぃ!いい顔になったなー!!!!」

 

「~~~~~~~~~!!!!!!司令官も天龍さんもひどいわーーーーー!!!!!うわあああああああん!!!!」

 

腹を抱えて笑い転げる九重提督と天龍。ついでに写真まで撮られて激怒する暁であった。ひたすらにぷんすかしていたが、オムライスを食べ終えたころにはニコニコの笑顔になり、響、雷、電と一緒にケチャップで口の周りを真っ赤にする姿があった。

 

………

 

泳げるほどの大浴場でゆったりとした時間を過ごした後、電たちに連れられて電と響の部屋にいた。

 

「はふー!暁たちの泊地にもあんな大きなお風呂がほしいわ!」

 

「あれを管理するのは司令官大変そう…天龍さんと司令官の大きさのお風呂でもお掃除するのが大変なのよ?」

 

「司令官と翔鶴さんみたいだね。そっちの司令官もらぶらぶなんだね。ハラショー」

 

「やっぱり司令官さんと艦娘はらぶらぶになるものなんでしょうか?」

 

「きっとそうよ!ふふ、見ていて楽しいわよ!さ、お茶が入ったわよ!飲みすぎておねしょしちゃだめよ!」

 

「ふ、ふふん…ここへきておねしょだなんてレディとしては恥よ恥!」

 

「飲みすぎ注意!なのです!」

 

「最上さんみたいだね、ふふ」

 

こうして夜の座談会は続く。

 

「明日は商店街なのです~♪ルーチェに行ってケーキを食べるのですー♪」

 

「ハラショー、ベリータルトが食べたいな」

 

「ふふん、司令官のパンケーキよりおいしいのかしら?」

 

「司令官のパンケーキは絶品だものね!あっ、暁!もう寝る時間だからおやつはもうおしまいよ!?」

 

「えーー!?そんなぁ…」

 

「ダメなものはダーメ。明日を楽しみにしましょうね♪」

 

「はぁい…」

 

「雷ちゃんは間宮さんみたいなのです~」

 

「暁はお菓子を食べすぎなのよ!特に宿毛湾に来てからは気軽にお菓子を買いに行けるからってお菓子にパンケーキに…困ったものだわぁ」

 

レディとは…?と響が思うほどであった。しかし、久しぶりの第六駆逐隊が集まってのおしゃべり会。暁や雷があの馬鹿な司令官のせいで沈まなかったら、今のように毎日楽しい生活が彼女たちにも待っていたのに…そう思うとあの司令官に怒りが込み上げてきた。

 

「響?響!大丈夫?」

 

雷に覗き込まれて声をかけられ、ハッとなった。いけない。せっかくの楽しい時間を怒りに使ってはいけない。今日しかないこの時間を…今は目いっぱい楽しもうと思う。

 

「すまない。ちょっと考え事さ。暁、レディを目指すなら寝る前に食べるのはやめたほうがいい。食べてすぐ寝ると牛になるんだよ」

 

「う、牛ぃ!?ぞ、ぞおぉ…こ、これは輪ゴムをして…お、置いておくわね!ぶ、ぶるぶる…」

 

「電も牛さんになるのは怖いのです…」

 

「ふふふ!響、ありがとう!暁ったらすーぐおやつを食べちゃうから困ってるのよぉ。牛になる、使えるわね!」

 

「い、雷ぃ!?」

 

「ふふふ、それはよかったよ。おや、もう2130。寝る時間を30分も過ぎてしまった。本当なら朝潮達も呼びたかったんだけど…姉妹水入らずもいいからね」

 

「今日はこの4人で寝るのです!ふぁ~あ…あしたがおきれなくなるのれふ…」

 

「そうね、電気を消すわよ!」

 

「い、雷…で、電気はそのぉ…」

 

「ウラーめしやー…」

 

「ぴゃあああああああ!!!!!!」

 

「ちょ、響!そんなことしたら!」

 

「あ、あうう…べ、別におもらしなんてし、してない…あ、あああ…」

 

「はいはい…お手洗いにいくわよ。パンツは持っていくのよ!」

 

「も、漏らしてないわよ!」

 

「響ちゃん?ちょっとお話するのです」

 

「い、いや、ちょっとしたロシアンジョーク…だったんだが…」

 

「そんなじょーくはロシアにないのです。暁ちゃんを怖がらせたこと、どういうことか説明してもらうのです」

 

ちょっと布団を頭からかぶり、お化けをやってみただけだったのだが何だか大事になってしまった。電の目が笑っていない。とんでもないことになってしまったぞ…。

 

「さ、もう寝なければ。おやすみなさい」

 

「響ちゃん、正座」

 

「いや、もう寝るじか「正座」」

 

結局響はお説教を食らい、2300まで起きる羽目になってしまった。同時に暁が「おばけこわい…おばけこわい…」と寝れず、さらにもう1時間追加で寝れない第六駆逐隊の姉妹であった。

 

何事もやりすぎには注意しようね。




第六駆逐隊のお話でした。ちょっと途中で湿っぽくなっていますが雷と工藤艦長の話はどうしても入れたかったのです。間違っていたらご指摘ください。よろしくお願いいたします。

最近書きたいネタが増えてきております。書きたいのですがまずは九重提督達との交流のお話を終えてからになります。これが終わりましたらシリアスなお話に戻ろうかと思います。

では、次回、へんたいふしんしゃの洋服屋さんも登場しますのでお楽しみにお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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