お洋服を無理至高のやり着せることを至高の喜びとしている2人。出会ってしまって本当に大丈夫…なのでしょうか?
それでは九重提督、横須賀編の最終話となります。
横須賀鎮守府から車で少し離れたところにある商店街。ここには、老いも若きも問わず、女性に人気の洋服から下着まで衣料品を扱う店があった。
大手の衣料品店が溢れかえる中、その店だけは大型量販店に負けず繁盛していた。それまでは大手のショッピングモールや衣料品店で首を傾げながらこれがいいのか…あれがいいのか…とわからない毎日を送る横須賀の女性達に…一匹狼のファッションデザイナーが現れた。
例えばこの女。
「おー、そこのJK…少しお尻が大きくなったね。下着から尻がはみ出て…ふひひ!」
「スカート越しになんでわかるの!?こわ!!!あー…でも確かにパンツちっちゃくなってんのよね…見繕って!」
「ほいきたー!」
「きゃああああ!!!セクハラ―!!!!」
「松子さん、また公然わいせつだねぇ、全く羨ましくないねぇ!!!!」
………
「赤ちゃんが産まれて胸が大きくなったねぇ?1つ大きめの授乳用ブラはいかがかねー?」
「なんでわかるの…?この人こわい… うーん…でも確かに…じゃあ、見てもらえるかしら…?
「毎度ありー!!!」
「きゃあああ!!!もみに来ないでー!!!」
「びえええええ!!!!」
「セクハラを しまくるおばさん 逮捕する。字余りだな」
群れを嫌い。権威を嫌い、束縛を嫌い、専門のライセンスと叩き上げのスキルだけが彼女の武器だ。あとセクハラ発言。
ファッションデザイナー…黛 松子(まゆずみ まつこ)。またの名を、へんたいふしんしゃの洋服屋のおばさん。
………
伝説のファッションデザイナー。小さいころから女性ものの服を作りたい願望を持ち、それを着てもらうことで女性を輝かせたいと思っていた九重提督。しかし、親は頑固一徹、チャラチャラ、ナヨナヨしたことは絶対に嫌いな父とそれに傀儡のように従うしかしない母のもとでそれは叶うことはなかった。
中学の頃、学校でスケッチブックにデザインを描いていたら女子生徒の多数から「かわいい!こんなの着てみたい!」と絶賛され、校内のイラスト大会でも大変大きな称賛を浴びた。しかし、それが父の耳に入ると女の服を考えるなんざなんちゅう女々しい野郎だ!と顔の形が変わるまでボコボコにされた。
懲りずにコソコソ描いては父に殴られ、恐れる毎日であったが…深海棲艦が現れ、艦娘が現れたことで彼の心情は変わった。
戦闘に明け暮れるこの娘たちの少しでも心の癒しになるのなら、かわいい服を着せてみたい。着てもらいたい。そう思い軍学校に志願。両親と縁を切ることになったがまったくもって後悔はしていない。抑圧された生活など、彼には無理であった。
そうして彼は提督として着任。布を用意してはかわいい洋服を(主に天龍)に着せる。天龍は最初は着せ替え人形のようになったことを辟易していたが、今では提督の天龍のために特別に拵えた服を着ていないと落ち着かなくなっていた。
「かわいい艦娘ちゃんにお洋服を作るのは楽しいことだわぁ。それを喜んでくれる天龍ちゃんやリベ、磯波に浦波…ああ…次は何を作ろうかしらねぇ…」
「次!これ!これがいい!」
「うん?ああ、『闇に飲まれよ!』があいさつのアイドルの女の子の…ゴスロリ?アンタ、こんなフリフリ嫌じゃなかったの?」
「かわいいじゃねえか!こんなの着てえよぉ!」
「フフフ、すっかりアタシの服を着ないと生きられない体になったわね…」
「テートクー!リベ、このお洋服がきたーい!」
「ああ、アンタも…すい、せいせき…?いいじゃない!」
「やたー!!」
「よーし!意欲が湧いてきたわー!!!」
こうして彼女は幌筵から今に至るまでたくさんの服を作ってきた。あの幼き頃に見たカリスマファッションデザイナー、黛松子の面影を追って。
「んー!商店街のこの空気はやっぱたまんねぇなぁ!」
「司令官、綾波もついてきてよかったのですか?」
「いや、九重提督がついてこいって言うから連れてきたけど…綾波にまで磯波たちと一緒の服を着せられて…吹雪も…」
「うう、恥ずかしいよぉ…」
「ふふ、吹雪ちゃんもかわいいですよ♪」
「あやなみちゃ~ん…」
「電も着てみたいのです~」
「ハラショー。天龍さんの服もかわいかったね」
なんと吹雪と綾波も体系が似てるだろうからと何着か特型Ⅰ型のためのメイド服を作っていたのだと言う。まあ吹雪に関しては宿毛湾から何とか生きていた吹雪の話は聞いていた。もう1人くらい三条クンのところならいるでしょ、と適当に作ったのがちょうど綾波にジャストフィット。綾波はかわいい♪と言いながらルンルンと着たのだそうだ。
玲司は梅や竹美に会おうとも思ったがそれよりも速く松子に会わせろとうるさい九重提督に促され、すぐさま松子の店に行くことを余儀なくされた。
「ふふふふふ…やっと会えるわ…いざ、入店よ!たのもー!」
「何で時代劇風なんだ?」
そんなツッコミをするが反応はない…寝ているか?あの人徹夜しまくるらしいし…。いや、玲司はわかった。男が入店したからだ。
「…吹雪…」
「ふぇっ?あ、はい。松子さん、こんにちはー!」
玲司が吹雪に挨拶を促すと一体どこからやって来たのかわからないくらいのスピードで吹雪の尻を鷲掴みにしていた。
「む?これはあたしがあげた下着じゃないね…犯人は…満潮ちゃんか…あの子は吹雪ちゃんに派手な下着を着させるのを阻止していた子…ううむ…あの子も洗脳するしかないかねぇ…」
「あわわわ…」
「いやいや、吹雪にあの下着はやべえって」
「はいてますぅ!時々はいてますからぁ!」
「ああ、昨日もはいていたわね。すごい派手なの」
「九重提督、ばらさないでくださいぃ!」
「ぬう!?吹雪ちゃん、綾波ちゃん、響ちゃん、電ちゃん、北上ちゃんの匂いとは違う艦娘のにほいいいいいい!!!むう!?」
なぜわかるのか艦娘の匂いとやらを…そうして現れたのは昔雑誌で見た時よりは当たり前であろう、黛松子の姿。自分が探し求めていた、憧れていたカリスマデザイナー。彼女はどうでもいい野郎の隣にいた艦娘…磯波と浦波を見た。
(むぅ、これは制服ではない…どこで用意したんだ?いや、待て、これは違う…この細部までこだわりにこだわった作り…これは…オーダーメイド!!!この娘たちのために拵えた一点ものだとぉ!?このフリル…なんて丁寧な刺繍だ…糸の乱れ、ほつれもありはしない…!まさか…この野郎が作ったのか…?)
(ふふん、それを作ったのはアタシよ。そして綾波や吹雪の分もアタシが作ったのよ。そこの刺繡はこだわりにこだわった一点もの…寸分の狂いもなくしっかり縫ったのよ…ホホホ、さあ、アタシの最高の出来のクラシックメイド服、堪能して頂戴!!)
目で語る2人。そして最後には…
「ヨシ!!」
何が?と思う玲司。彼らには通ずるものがあったのだろう。2人揃って親指を立て合っていた。
「ふう、久々にいい仕事の服を見せてもらったわね。あんた、いい仕事するね」
「そう言ってもらえて光栄だわ、黛氏」
「よしてくんな。松子でいいよ。名字でかしこまって呼ばれると寒気が奔る」
「一度あなたに会いたかったのよ。ああ…!この服、素晴らしいわ!市販で売っている服とはけた違いのいい造り!」
「ふふん、あんた、お目が高いじゃないか。そうさ、あたしはそんじょそこらの既製品とは違う注文をつけにつけた服を売っているからね」
作っている業者さん…ご愁傷様…と思っていると脛を蹴られて悶絶する玲司。何でこの人は心がすぐ読めるのか…。答えは簡単である。凄まじい数の人間の顔、目を見てきた熟練の目だからだ。だからこそ、人の心も読める。薄汚いギラギラのセレブの腐った目を一目で看破する。そのせいで店先で怒鳴り合いのケンカに至ることも多いわけだが。
「そういうあんたはあたしと同じ目をしているね。きれいになりたい。かわいくなりたい女の子を特別にきれいに魅せる手伝いがしたい。ほう…あんたみたいなのが提督やってるとはね」
「残念だけど親が毒だったものでね。本当ならアナタのように生きたかったんだけれど…艦娘に目を奪われちゃってね」
「……いいねぇ。艦娘には夢がある。可能性は無限。これって最高じゃない?」
「そうよ!艦娘は無限の可能性を秘めているのよ!それを海軍のお馬鹿さんたちは兵器だのブだの芋だの!!!ふざけんじゃないわよ!!」
そう熱く語る九重提督。松子も夫婦で来た感じの悪い若いカップルが来て地味~だのなんだの文句ばかりだった。
「ねー、これもっと派手にできないのー?てゆうかー、艦娘だっけー?あんな地味ーな連中をイメージして作ってんだっけー?そんなんよりさー、原宿の女の子とかさー。そういうのに目を向けた方がいいって言うかー」
「なんだァ?てめェ………」
松子、キレた!その怒気を感じ取った彼氏と思しき男の子は「おいやべえぞ!謝れって!」と必死に女の子を窘めていたが、それでもなお地味、だの艦娘なんてだっさーいなどと言うものだからこいつを足腰立てなくなってアヘ顔キメるまで蹂躙してやろうかとも思ったくらい怒りに怒った。なに、女の性感帯は熟知しているし、その女がどこが弱点かは一目で把握する。ちなみに松子大好き、摩耶は脇腹、首筋である。鳥海はふとももだ。いや、そんなことはどうでもよいのだが。
このクソアマ…と怒鳴ろうとしたとき、男がいきなり女の頬をひっぱたき、何が何だかわからない顔でひっぱたかれた頬を押さえて男をみる女。
「な、なに…」
「お前がそんな女だったとは思わなかったよ。二度と連絡すんな。店主さん、すんません、これ、とっととどっかへ追いやるんで」
「お、おお…いいのかい?」
「いや、前々からこういうのにうんざりしてたんすよ。あの…今度はちゃんとした女の子と付き合って…また来ます」
「ちょっと!あたしまだあんたと別れるなんてオッケー出してないよ!?」
「うるせえ、お前みたいな性悪、もう付き合う気ねえから。オラ、さっさと来い、ここにいたらお店の人の邪魔になんだよ」
「……いい恋しなよ…あんたいい男になるよ」
「ッス…」
ギャーギャー喚く女を引きずってちょっと離れたらもうスタスタ女を置いて帰ってしまったっけ。あれは痛快だったな。女はご愁傷様だったけど。
そんな話を聞いていたらアタシだって「なんだァ…てめェ…」って言うわね。
「ふ、あんたあたしとセリフが一緒だね。いいね、ますます気に入ったよ」
九重提督、キレた!になったわけではないがやはり艦娘の悪いことを言う人間は好きじゃない。親もそうだったが。いや、暗い話は後だ。今は…このあこがれの松子の服をしっかりと堪能したい。
「これ、叢雲に合いそうね」
「司令官、また叢雲姉さんに怒られますよ」
「ただでさえメイド服着せるって言ったら本気で魚雷撃たれそうになってたじゃないですか…」
「ああ、あれは叢雲の照れ隠しよ。あの娘にはあれくらい際どいスカートがいいのよ」
「ほう、吹雪ちゃんの妹かい?」
「ええ、これがその写真よ」
そう言って見せたのは叢雲がミニスカートのメイド服だった。吹雪たちとは違う出で立ち…これは…
「う、うおおおおおおお!!!!何とも満潮ちゃんのような気の強そうな女の子がこんな恥じらいの顔で生足をさらけ出して…う、うおおお!!しかも何とも生娘っぽいところがああああ!!!!!ハラショーーーーー!!!!ハーーーラーーーーショーーーーーーー!!!!!」
「わかってもらえて何よりだわ!!!ハラショーーーーーー!!!!」
「ウラーーーー!!」
「響、反応しなくていいから…」
「ねえ三条司令官?暁たちの司令官達は何を興奮しているのかしら?」
「暁ちゃんは知らない方がいいと思うのです」
「???」
「ほう…こっちは電ちゃんと響ちゃんの姉妹かい…ふふふ、これはいいねぇ…」
「ぴっ…!?」
「松子おばさん、ゲストなんだから変なことしないでくれよ」
「ひひひ、わかってるよ…」
嫌な予感しかしない…松子はバックヤード…自宅の方へ行き、ガサガサと音を立てて待つこと数分。これを着な、と雷と暁に服を渡した。うわぁ!と目を輝かせて試着室へと向かうのだが。
「な、なによこれーーー!!!!」
「わあ、素敵ねこれ!いいじゃない!!!」
2人の反応が明らかに違う。怒っているのは暁だろう。感激しているのは雷か。
カーテンが開き、見るとボーイッシュな感じのパーカー、そしてジャンパー。キュロットだけれども黒のタイツで足の寒さをガード。ブーツはハーフブーツ。白いボンボンがかわいらしい。
一方で暁はというと…
「幼稚…園児…?」
なんと暁が着せられているのはよく幼稚園で子供が着ているスモック…それはあまりにひどくはないか…と玲司がドンビキするくらいのものであった。ご丁寧にチューリップの形をした名札までつけられ、「きつかあ」と名前まで書かれている。
「うふっ、あはははははは!!!!!暁!似合ってるわよ!!!!」
「似合ってないわよ!!!何よこれ!!!これ商店街で見たことあるわよ!!!幼稚園くらいの小さな女の子が着てたわよ!!!うわあああん!!!あがづぎをころもあづがいじだああああ!!!!!」
あーあ…こりゃまた九重提督の株が下がるな…暁をこんな扱いすると恐ろしい程に彼女の好感度は急降下する。暁のレディの扱いは慎重に…昨日そう教えたはずなんだけどな…。
「あーあー、暁、ほら泣くなって…そうだ、暁は…そうだなぁ…この紺色のワンピースに…この白いタイツを履いて…靴はローファー、足痛くならないか?ほら、なんかに似合いそうだろ?」
「う、グスッ…うん…」
「ほら、着替えておいで」
「うん…」
玲司が暁に服を見繕って試着を促す。大泣きしていたが何とか玲司がなだめ、スンスン言っているがおとなしく従った。
「九重ぇ…俺知らねえぞ…ああなった暁は好感度ダダ下がりだからな」
「む、むぅ…」
「松子おばさんもだよ。レディがわかってねえな」
「ぐっ…」
普段「うーちゃん!」とか「うっそぴょーん」とか「さんま」とかオシャレセンスのカケラもない玲司が暁に見繕った服。大丈夫なのだろうか…と電や響、磯波達まで固唾を飲んで見守った。
「三条司令官!これすっごくかわいいわ!それにレディみたいよ!く、靴はちょっと…歩きにくいわね…」
「ちょっと踵が高いからな。無理ならこっちの革靴でもいいかもしれないぞ。こっちはどうだ?」
「うーん…でもうーふぁー?こっちのほうがレディっぽいわ」
「ローファーな。まあ慣れればちゃんと歩けるよ。足を挫かないように気をつけないとな」
「う、うん!」
「それにほら、このダッフルコートを着たら…寒くないし、大人っぽいだろ?」
「うわあ!三条司令官、ありがとう!ほら、これでレディにみえるかしら?」
「おっ、いいな。レディだな!」
「えへへ♪」
「司令官、すごいのです!あ、でも電のお洋服も響ちゃんのお洋服も電達に合うお洋服だったのです。司令官はどうしてそんなに女の子のお洋服を合わせるのが得意なのです?」
「ああ、妹がよく俺にこれはどうかなとかいろいろ聞いてきたしな。それに、昔から島風の服を考えたりしてたからな」
「なるほど。司令官は女たらしだね」
「なんでそうなる?」
響はおそらく女たらしの意味をわかってなくて言っているだろう。ポリポリと頭をかく。暁はすっかり玲司に懐いてしまった。
「ふふ、よく似合っているわよ、暁」
「………ツーン」
「なぁ!?」
「だから言っただろうが…」
暁は九重提督を見た瞬間にフン!と怒った表情でそっぽを向いてしまった。かなりご立腹らしい。一度やらかしたが、こうなると暁はしばらくの間執務室に近づこうともしない。まあ、九重提督の自業自得であるのだが。
「綾波はシュッと線が細いから…こういうパンツがいいんじゃないか?」
「わあ、かわいいですー!」
「こうすると綾波の足が細く…いや十分細くてきれいなんだけどもっと目立つ。でもこのストールでお尻を隠せばいい感じだろ?」
「ほわぁ…癒されますねぇ…」
「司令官!私もお願いします!」
「そうだなぁ、吹雪はー…」
いつの間にか横須賀の艦娘の服を玲司がコーディネイトしている。驚いた。松子も驚いた。普段はおー、いいんじゃないかー?と適当だったのに、何かに火が着いたのだろう。しっかりとコーディネイトしている。綾波に吹雪、響に電。暁はこれはどうかしら!?と興奮気味に玲司に聞いている。
「んー、そりゃあ暁には似合わないな。ん?でも元気な女の子って感じでいいな!」
「でもこれ、タイツか何か履かないと足が寒いわね…」
「いやー、これはタイツは合わないって」
「むむむ…」
「お、綾波はそのグリーンのロングコート、似合ってるぞ。吹雪は健康的な脚が魅力的だからな」
「えへへ、ありがとうございます♪」
「ふぇええ!?あ、脚ですかぁ…」
「やっぱり女たらしだね」
「だから何でそうなる?」
松子も「ほう」と感心した。これは彼女たちをよく見ていないとできないことだ。自分よりも接する時間が長い故にできる業だろう。しかし、別の所から来た艦娘に対してもしっかりとコーディネイトするのは素晴らしい。
浴衣の提案の時もそうだったが玲司は自分へのセンスが他人へ全振りしているだけで…いや、今はしっかりとグレーのVネックのセーター。落ち着いた感じの黒のデニム。ロングコート。センスが段違いである。
その実はおしゃれに結構こだわる五十鈴に「外を出歩くときに五十鈴達の目も気にしなさいよ!!司令官がダサいと五十鈴達まで変な目で見られるんだから!何よそのうーちゃん!って!寝間着に使いなさい!あーーーもう!五十鈴が見繕ってあげるから!」
まるでお母さんのように五十鈴、摩耶、三隈でたくさん服を見繕ってもらった。ちなみに熊野に頼のもうとしたら「働いたら負け」とか「選んだ道が悪かった!」など、うーちゃん!と変わらないセンスのTシャツを持ってきたので却下となった。
今は梅や竹にも怪訝な顔をされないような服装で玲司もちゃんと商店街を出歩いている。青葉の新聞(まだできあがっていないが)にはおしゃれもできる司令官!艦娘へのコーディネイトも完璧!とあり、司令官にコーディネイトしてもらいました!という青葉の私服姿が記事にあがるとか。
「うし、おばさん、これ全部買っていくよ。雷、暁の服、ちゃんと管理できるか?」
「まっかせて司令官!暁のお洋服は雷が管理してるのよ!」
「そりゃ頼もしいこった。これはタンスにしまうとしわしわになるからハンガーに吊るしてほこりをかぶらないようにしっかりと袋か何かを被せておくといいぞ」
「わかったわ!雷に任せてちょうだい!」
「あ、あの…磯波達の分まで…ありがとうございます…」
「いいっていいって。せっかくだからな」
「大事に着ます!ふふふ、このパジャマ、帰って早く着たいなぁ。磯波姉さんとお揃い♪」
「ね♪」
「「ちょっと待って。アタシ(あたし)達空気じゃない?」」
玲司の本気のコーディネイトを黙って見ていたが、本来彼女たちのコーディネイトをするのは自分たちの仕事のはずだったのに。
「アンタがスモックなんて持ち出してウケを狙おうとするからじゃない!」
「なにおう!?あんただってげらげら笑ってたからこうなったんだろうが!」
「なにぃ!?てやんでぇ!!オイラだって暁たちのコーディネイトをしたかったんでぇ!!」
「あたしだってしたかったよ!何だいこの男!あたしたちの仕事を奪い取って!この泥棒猫!!」
「そうよそうよ!」
「うるせえええええええ!!!!!暁を笑っておいてつまんねえケンカしてんじゃねええ!!!!!」
玲司の怒鳴り声が辺りに響き渡った。それが聞こえたとき、「よくやった、玲ちゃん」と竹と梅が頷き合っていたとか。
………
コーディネイトもできず、セクハラもできず。何もできずに店を去られた松子は自室の隅でうずくまってぶつぶつと何かを言っていた。
「アア…艦娘ちゃん…アア艦娘ちゃん…コーデ…コーデさせて…アア…ふひひ、いいぞぉ…吹雪ちゃんにこのパンツを託すんだぁ…」
「バカ言ってんじゃないよバカ」
梅に怒られると冷蔵庫からビール(500ml)を取り出し、一気に飲み干す。
「ウイイイイ!!!!飲まねえとやってられっかーーー!あたしの仕事をあの無頓着な玲ちゃんに取られたんだぞぉ!!!」
「どうなってたのか知らないけどあんたがまた余計なことしたんだろ?当然じゃないかね」
「プハァ!!ウイイイ!!この傷心の松子ちゃんを慰めやがれー!!」
「あんた、竹のところから持ってきた牛骨で頭をチェストしてやろうか?」
「ア、ハイ。すみません」
酔いも醒める。この後梅とさらに竹も加わり、激しく説教されたとか。
………
チュルチュルと上品にパスタを食べる暁。
「お、パスタ食べるのうまいな。上品だぜ」
「ふふん、当然よ♪」
「そりゃアタシが教えたもの。ね?暁?」
「…フンだ!」
「あ、暁ぃ…」
「提督が悪いですね」
「雷もそう思うわ!」
「ハラショー。私もそう思う」
「なのです!」
九重提督に味方はいなかった。ルーチェのマスターでさえ、それはいけませんな。暁さんはレディなのですから、と。
「ますたー?は紳士ね!暁をレディ扱いしてくれるんだもの。椅子を引いて座らせてくれるなんてお姫様になった気分だったわ!」
「ほっほっほ。これくらいは紳士として当然ですよ」
「本当!?暁の司令官ってば…」
あーー!もう悪かったってばーーー!!と言うくらい暁はマスターにいかに司令官がレディ扱いしてくれないかを熱弁した。ちなみに熊野も懇々と愚痴ったが「いえ、それはわがままでしょう…」と一蹴されたとか。
食事後は商店街を見て回り、宿毛湾より活気があるわねぇ…と感激。魚に関しては宿毛湾より新鮮かも…?と九重提督が唸るくらいだった。野菜や果実、肉も新鮮であった。牛筋の白味噌どて煮はレディの口には合わなかったらしい。けどコロッケはハムハムとリスのように食べてご満悦。他の艦娘はどて煮が気に入ったようだ。
「ふふふ♪磯波ちゃん、あーん♪」
「ふぇっ!?ふ、吹雪姉さん…は、恥ずかしいです…」
「あーん♪」
「うう…あ、あーん…
「あー!姉さんだけずるい!浦波もお願いします!」
どこからともなくあら^~と言うご婦人たちの声が聞こえてきた。綾波も一緒にあーんしてもらってご満悦。またまたあら^~と言うご腐…いやご婦人の声が聞こえてきたとか。やはり駆逐艦は道行く人々に自分の娘、もしくは孫のように扱われる。暁としては不満げだったがやっぱり女の子。かわいいかわいいと言われるのはまんざらではなかったようである。
「頭をなでなでしないでよ!子供じゃないんだから!って、ひゃああああああ!!!!」
そんな言葉が通じるほど横須賀の商店街のご婦人たちは甘くはないのだ。頭がクッシャクシャになるほど撫でまわされた。
綾波ちゃんみたいなながーい髪にするには何年伸ばせばいいんですか!?と聞かれたので「いえ、綾波は生まれた時からこの髪の長さで…」と言うとずるい…と頬を膨らませる中学生。
メイド服を見て大興奮する大きなお兄さん(ちなみにあまりに無理に写真を撮ろうとしたりお触りしそうになっていたのでいつの間にか憲兵が駆け付け、いきなり「刺身になれ~!」と刺身包丁を振り回してきた)が現れたりと賑やかさを存分に楽しんだ。
………
「う、うぐっ…ひびきぃ、いなづまぁ…」
「ひっ、ひっ…あがづぎぢゃん!」
「ハラショー。今生の別れじゃないんだ。生きていればまた会える。私はそれを学んだ。だから、一時の別れだ。ダスビダーニャ。ちなみにダスビダーニャはさよならの意味もあればまた会おうの意味もあるんだよ」
「響の言う通りよ!いつでも会えるんだから悲しむことはないわよ!」
「そうだな。おそらくレイテで一緒に作戦に参加することにもなるだろうしな」
「ええ。刈谷提督からそう言われたわ。アタシ、三条クン、一宮クン、すみれっちと組む手はずを整えているらしいわね」
「そういうこった。三条提督。サンキューな。飯、すげえうまかったぜ!」
「磯波ちゃん、浦波ちゃん。また会おうね!」
「はい、姉さん。あまり派手な下着は身に着けない方がいいですよ」
「うっ…そ、それは…」
「ふふふ!そうだね!」
「浦波ちゃん、さっき派手な下着もらってたよね?あれ、あまり身に着けないようにしてね…」
「ええええ!?なんでわかったの!?」
「浦波ちゃんのお姉ちゃんですもの」
「そ、そんな理由…?」
いろいろと別れを惜しみたいところではあるがあまり長居もできない。執務も溜まっているだろうし、イタリアのフグがきっとまだフグのようになっているだろうから…。
「じゃあね三条クン!みんな!いつ始まるかわからないけどレイテの時は頼んだわよ!!」
「おう。それまでにみんなの練度もあげて、ばっちりな状態で参加するからさ。九重もしっかり練度あげてくれよ」
「言ってくれるじゃない!心得たわ!」
じゃあねー!と手を振って車を発進させる九重提督。窓からずっと曲がって見えなくなるまで天龍たちは手を振り、玲司達も手を振っていた。
「さーて、紫亜と茉莉を迎えに行って、飯を作りますか。今日は…電の好きな肉団子の甘酢和えでもするか」
「やったー!なのです!!」」
「ふふ、実にハラショーだね」
「綾波もお手伝いします!」
「私もお手伝いです!」
「うーし、頼んだぜー!」
提督と艦娘が笑い合う仲間同士の有意義な時間だった。大府提督の問題もあるが、今のところは落ち着いている。何にも代え難い楽しい、のんびりとした時間。
しかし…それはあっと言う間に崩壊してしまうことになるのだった。
/大本営
玲司と九重提督が楽しい時間を過ごしてから数日後、今か今かと大本営の若手職員や親艦娘派が待っていた「青葉、見ちゃいました!」の特別版が発行された。
最悪の元ブラック鎮守府、横須賀が生まれ変わって取材に行ったのだがとてもではないが他の記事と併せては無理だったのでまるまる一部を横須賀鎮守府でまとめ上げた。
「うむ。これは素晴らしい新聞だね。ははは。すごいね、この大浴場や図書館。うーむ、私の時もこうしてあげたかったねぇ」
「玲司君だから成せるものね。ほんと、艦娘と妖精さんには好かれるんだから」
「ふふふ、大淀ちゃんったら朝が弱いのね」
「本当にたくさんの写真を撮ってきたんだねぇ…ん?」
「はい!余すところなく撮って参りました!」
「う、うむ…青葉君、余すところなくはいいのだけどね…?これは…ちょっと、過激ではないかね…」
「はい?」
そうして古井司令長官がピラッと手に取ったのは…裸の武蔵、榛名、不知火が写された写真であった。
「あーーーおーーーーばーーーーー」
「ヒ、ヒェッ!?しょ、しょしょしょしょ処理したはずなのに!?」
「陸奥が拳をポキポキと鳴らしている。ダメだ。このままではエ゛クズベリア゛ア゛ア゛ーーーーッ!!!!と脳天に陸奥の重巡リ級の頭さえかち割ってしまう手刀が炸裂してしまう!
「い、いえ!こ、これはちちちちちがうんです!神に誓ってわざと撮ったわけじゃないんです!!!」
「…見る限りこのドアから出てきた瞬間、シャッターが切れてしまった。そう推理できるものですわね」
「そそそそそそうなんです!!だから助けて!お願いします!すいません許してください!何でもしますからぁ!」
「…そういうことにしてあげるわ。次は…ないわ」
「はいいいい!!」
「オホン…気を付けるようにね…ふふ、大本営の新聞置き場が大混雑だよ。これで反応が変わってくれるといいね」
「はい!きっと変わること間違いなしです!」
「うむ。青葉君、ご苦労だったね。次は宿毛湾を頼むよ」
「任されました!」
ちょっと問題はあったが新聞の反応は上々。青葉渾身の新聞は大成功に終わったようだった。
………
「興味はないが一応読んでおく必要はある。一部頂いていくとする」
清州副司令長官が青葉の新聞を取りに来たことでモーゼのように道が開けた。そして険しい表情で新聞を取っていったのだ。
人気がない会議室でそれを読む。本当は読みたくて仕方なかったのだ。この鎮守府の主、三条玲司と一度相まみえた時、彼は艦娘を家族、仲間と言った。それが嬉しかったのだ。清州副司令長官は艦娘を轟沈させて以来、艦娘との接触をできるだけ避け、一人副司令長官として秘書艦も置かずに執務をこなしてきた。
だが心の内では今の海軍には三条のような艦娘を大切にし、練度をしっかりと上げて絆を深めてこそ強くなる。そう信じている。本当に信用に足る人間だったのか。あの言葉は嘘偽りではないか。それだけが心配だったのだが、杞憂に終わったようだ。
「ふふ、好き勝手やっているな」
時々笑いを漏らすほど、横須賀鎮守府、そして三条を気に入ったのだった。これを見て安心した。これなら安心してレイテを任せられる。刈谷とそして若手の提督一同で頑張ってもらおうじゃないか。そうして新聞を手に誰もいない会議室を出、仕事に戻ろうと自室に戻ろう…そうして部屋を出て歩いていたその時。
トンッ
背中に何かが当たるような感覚。そして…体内に感じる異物感。何だ、と思った時には視界はぐらりと揺れ、痛みを感じることもなく、視線が低くなった。
「な、あ、が」
声が出ない。何が起きている。ゆっくりと背中に目をやる。すると…ナイフのようなものが…自分の背中に刺さっていた。ああ、そこは腎臓か。急所を的確に刺されたわけか。これは…助けも、呼べんな。人が通らない場所だからなここは…と考えを巡らせた。
どうにかして自分を刺した相手を見ようと少しだけだが体を動かすことができた。そこにいたのは…
「ま…い………か、…か、かぜ…」
陽炎型駆逐艦「舞風」…それは…彼が唯一沈めてしまった艦娘。彼女を沈めてしまったからこそ彼は深く殻にこもり、海軍にいながら艦娘との関りを断ち、それでも艦娘の待遇を変える努力を黙々と今日までやってきたのだ。
(ああ、そうか…その目…私を…お前を沈めたことを…恨んでいるのか?ならば…これは…当然の罰…か)
光のない目で舞風は清州副司令長官をじっと見ていた。声を出すこともなく。そして…ズブリとさらにナイフを奥へ押し込んだ。
「ぐがっ…あっ…」
(ああ…刈谷…いや、克巳…すまんな…お前との約束…果たせそうもない)
………
「………?清州の…おっさん?」
………
薄れていく意識。その最期に脳裏をよぎったのは、息子のようにかわいがった刈谷提督のことだった。そして、一緒にいつまで続くかわからん海軍ごっことやらだが、艦娘が良い待遇を得れるよう協力してくれ。その約束を果たせぬまま逝くことをただただ刈谷提督に謝ることしかできなかった。
(克巳…すまん…そして…舞風…今、俺は…地獄へ落ちると…しよう)
清洲一馬。海軍副司令長官。駆逐艦「舞風」の凶刃により、志半ばで散った。
最後が急転直下でした。ほんわかしてたところに突然の出来事…しかし、なぜ舞風が彼を刺したのか?それは次回をお待ちください。
清州副司令長官は本当は艦娘を大事にしたがる過保護な提督でした。しかし、自分の采配ミスで舞風を沈めてしまい、それを安城のおじさん同様ひどく後悔し、自分には提督を名乗る資格はないと指揮を執るのをやめました。
そして自分を殺しに来たのが舞風であった。これは誰かが仕組んだことなのでしょうか?
次回をお待ちいただけますと嬉しいです。
それでは、また。