提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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まさかの清州副司令長官が暗殺されると言う事態になりました。それも、艦娘による暗殺により、大本営は騒然となっています。

そして、父のように慕っていた彼が本気で動き出す姿勢を見せます。


第二百二十九話

それは大本営を激震させる出来事であった。清州副司令長官が白昼堂々、大本営内で暗殺されたのである。それも「艦娘」にである。

 

本来艦娘は艤装を陸では装備できないし、艤装のない艦娘は人間の年相応の女の子(例外もいるが)程度のチカラしか発揮する子は不可能。そして、よほどの例外がない限り、提督を含む人間への殺害へ及ぶ思考へは至らないようになっているはずである。

 

艦娘が艤装を装備し、海から大本営や鎮守府などだけではない。深海棲艦のように街への攻撃を開始すれば、人間はなす術もなく滅ぼされるだけの存在だろう。海を奪われ、内陸部へと逃げることしかできず、人は溢れかえる。生存できる場所を求めて内乱が起きても不思議ではない。

 

だが艦娘はそのような考えを持たない。「人間と共存し、深海棲艦を討ち倒す」…それこそが艦娘の存在意義であるから、それが覆る時は人間が余りにも自分達に危害を加え、精神が崩壊した時、異常を来した時だろう。妹である瑞鶴を穢そうとする(と思った)玲司を翔鶴が襲った時のように。

 

大本営の人間は戦慄した。艦娘が人間に楯突いた。刃向かった。ましてや重鎮である副司令長官を殺害するなどと。

 

「やはり艦娘は危険な存在だったのだ!共存など無理に決まっておろう!」

 

「全員解体して我々人間だけで深海棲艦を倒す術を考えるべきだ!」

 

艦娘をこの世から消せ。滅ぼせ。艦娘などこの世にいらない。艦娘兵器派はここぞとばかりに息を吹き返し、騒ぎ立てた。

 

「貴様ら、国を命を賭して戦ってきた者を弔う前に…そしてその遺体の前でそのような下らぬ考え、恥とは思わんのか、戯けが!!」

 

慌てて駆けつけてきた虎瀬提督が棺桶の中で眠る清州副司令長官の前で騒ぎ立てる連中を蹴散らした。

 

虎瀬も混乱していた。なぜこのようなことが起きた?普段冷静沈着な虎瀬でさえ、この状況を…清州が本当に棺桶で眠るように亡くなっているのを見て初めて死した、と理解せざるを得なかった。

 

「しかしだ虎瀬提督!その歴戦の勇敢な者を艦娘が殺したのだぞ!?それを捨て置けと言うのか!?愚かにもほどがある!貴様の後ろの艦娘もいつお前に寝首をかくかわからんのだ!」

 

「なっ!?オレはそんなことしねえ!」

 

「わからんぞ!艦娘は…人を殺すような存在に「うるせえよ」」

 

がなり立てる職員の薄くなった髪を思いきり引っ張り、思いきり低く…冷たい声がした。

 

「ぎっ!?ひぃぃ!?か、刈谷!?」

 

「うるせえんだよ。臭え息吐く口で喚くな。会場が臭くなるだろうがよ」

 

「し、しかしだ!「うるせえっつってんだろうが」」

 

ブチブチ!!と髪の毛を抜きながらパイプ椅子に男を叩きつけた。前歯が折れた。

 

「失せろ。テメエみてえなクソ野郎はここに居る資格はねえ。さもなければ俺がテメエを冥途へ送ってやる」

 

「刈谷、やめろ。ここは仏の前だぞ」

 

「………ケッ」

 

「ひ、ひいいい!!!」

 

艦娘兵器派は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。それを追い払った刈谷提督の顔は憤怒の表情で満ち満ちていた。

 

「刈谷…」

 

刈谷提督が清州副司令長官の前に立つ。その時の表情は憤怒とも悲哀とも違う顔だった。

 

「……おっさん。お疲れだったな」

 

そう一言声をかけると、叩きつけた男の血が少しついた椅子に座った。虎瀬はその後ろ姿が、まるで何かの抜け殻のように…生気がなかったように見えた。

 

………

 

「虎瀬のおじさん」

 

「玲司か。よく来てくれたな。忙しいところを…」

 

「いや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ…」

 

「それも…そうだな」

 

玲司は足早に清州副司令長官の亡骸の前に立つ。

 

 

三条、君は…艦娘をどう思う。

 

 

そう言われたのが初めて彼と言葉を交わした出来事だったな。ショートランド時代はなるべく目立たないようにしていたから彼と話した記憶はない。

 

「私にとっては良きパートナーであり、部下…いえ、家族のように思っております」

 

そう返したとき、顔を僅かにしかめたようにも見えたが…玲司は何だか少し口角が上がったようにも見えた。この人が艦娘兵器派のトップ?冗談だろ?と思うようになった。

 

交わした言葉こそこの程度だが、自分たちの邪魔をするわけでもない。要望書なども彼が処理していると聞いたが、艦娘の嗜好品の要望書に関しても却下を食らったことはない。たまに付箋でほどほどにしてくれと注文を受けたことはあったが。

 

影ながら俺たちを支えてくれていたのでは?そう思うと少しだけ鼻がツンとした。数珠を手に…静かに彼に手を合わせた。

 

「刈谷提督…」

 

「うるせえ、話しかけんな」

 

ダメか。彼の周りは怒りのオーラが凄まじいように見えた。そして同時に喋りかけるなと言う雰囲気をビンビンに出していた。顔は…憔悴しきっているような…ボーっとしているような…生気が感じられない顔だった。ハッと手を見ると…手に血が滲むほど強く握りしめていた。

 

「提督…手を開いて。血が出ているわぁ」

 

「…………」

 

龍田も軽口は言わない。ただ静かに彼の右手に白いハンカチを巻いていった。

 

混乱しているのは刈谷提督も同じか…。

 

「ごめんねぇ、三条提督。この人、清州副司令長官とと~っても仲が良かったから~。そ~っとしておいてあげて、ね?」

 

「は、はあ」

 

清州副司令長官と?信じられない。いや、この人の事を俺は全然知らない。だから信じられないと言うのは失礼か…冷静に思った。

 

艦娘による副司令長官暗殺…これから先、レイテ沖海戦と言う大きな戦も待ち構えていると言うのに…これでは盤石はめちゃくちゃだ。この混乱した最中でそんな大きな戦…深海棲艦を相手にできるのか?不安しかなかった。

 

………

 

執務室の電話が鳴った時、清州のおっさんがまた菓子類の申請が多いと文句をつけにでも来たか、そう呑気に構えていた刈谷提督。電話に出た能代は「え?あ、はい。おります」といつも通りの対応だった。ふん、またどうせ文句だろうな…少しだけおっさんと話ができるのは嬉しい気持ちを隠して能代が受話器を渡してくるのを待った。

 

「提督…古井司令長官からです」

 

「ああ?」

 

「ああ?じゃありません。早く代わってください」

 

「チッ、うっせえな。もしもし?」

 

「ああ…刈谷君…」

 

「どうかしたんすか。何か緊急の出撃ですか?」

 

「落ち着いて聞いてほしいんだ」

 

「……」

 

昨日感じた嫌な予感の時と同じだ。背骨に氷…いや、液体窒素でもぶち込まれたような寒気が体を奔る。

 

「清州が…………」

 

「何すか、早く言ってください」

 

「死んだ」

 

頭をハンマーで殴られた時という感覚はこんな感じか?現実的でない言葉にそんなことを思う。

 

「……は?」

 

「清州が…暗殺された。それも…艦娘の舞風に、だ」

 

舞風。あのおっさんが一度だけ大失敗をして沈めてしまった艦娘。提督を離れるに至った原因になった艦娘。そいつに殺された?亡霊になって地獄から迎えに来たか?海の上に居て海の底から刈り取りに来たわけじゃないだろうに。バカバカしい。

 

「で、その舞風は?」

 

声が震えるのを必死で抑えて古井司令長官に返した。そこは冷静だ。取り乱している場合じゃない。犯人となった艦娘は確保できているのか?そうすれば誰がやったかわかる。

 

「それが…消えた」

 

「何?」

 

「いないんだ。今監視カメラを調べてもらっている。どこへ連れていかれたのか…もしかしたら…解体されている可能性がある」

 

「………」

 

ギリッと歯を鳴らす。その顔は激怒した顔だった。相手が相手なだけに怒鳴れない。舞風をおっさんが沈めてしまったことを知っていて舞風を送り込んだならそいつはとてつもなく陰湿な奴だ。おそらくは、それを知っての事だろう。

 

含沙射影(がんじゃせきえい)…本当に腐れ外道だな」

 

「がん…何だって?」

 

「何でもねえ。おっさんは助かる術はなかったのか?」

 

「うむ…急所である腎臓を深く刺されていた。第二憲兵の隊員が駆け付けた時には血の海だったそうだ…指紋は検出されたがおそらく舞風君のものだろうね」

 

「それすら追いかけることができねえか」

 

「すまない…君と清州は…」

 

「あんたが謝ってもおっさんは帰ってこねえ。それよりも舞風をどこかへやった奴を探さねえといけねえ。俺の持てる全てを使って全てを暴いてやる。その際に海軍、防衛省への影響が出るかもしれねえがいいな?」

 

「む、そ、それは困る。それは高浜君をとおし「いいな?」」

 

その声は肯定以外聞かないと言う強い語気だった。

 

「わかった…高浜君には伝えておこう…それで…葬儀なんだが…」

 

古井のおっさんもだいぶ憔悴してんな。これ以上はこっちも強く出ないようにしよう。とりあえず、葬儀には出たい。あのおっさんを放っておくなんて俺にはできない。

 

電話を切ると何だか心配そうに能代がこちらを見ていた。龍田はいつものニコニコ顔ではなく、真剣な表情。

 

「……お前らちょっと席外せ。龍田、俺の礼服用意しとけ。能代、お前は長門を呼んで来い」

 

「わかったわ~」

 

「は、はい…あの…提督。どうか、お気をつけて」

 

「何もしてねえのに気を付けてってなんだよ。お前はほんと心配性だな。俺の心配してる暇があるならテメエのだらし姉から目ぇ離すんじゃねえぞ」

 

「なんですか!人が心配しているのに!!!!もーう!!!!クソ提督クソ提督クソ提督!!!!」

 

「能代ちゃん、曙ちゃんになってるわよ~。それじゃあ提督、後でね」

 

「ああ」

 

そうして全員を退室させた。固定電話ではなく、持っていたスマホで誰かに電話をかける。

 

「ああ。久しぶりだな。あ?真っ当に提督やってるっつーの。大将様だぞ。態度がでけえんだよ。わりいけど頼みごとだ。ああ、調べつくしてくれたら相応の報酬は出すぜ?ああ」

 

彼はスマホで何回も何回も誰かと話しては電話を切り、そしてまた別の人間にかける行為を繰り返した。

 

直接的な死因は舞風の暗殺だが裏に必ずあいつがいる。もう大本営内だけのことではどうしようもねえ。全てを丸裸にしてやる。そして…海軍の誰もが恐れる無毒だが最悪の場所へ送り込んでやる。そしてそこで野垂れ死にさせてやるよ。俺から大切な奴を奪い続けると言うのなら、俺はテメエを刺し違えてでも地獄へ叩き落としてやる。

 

「死なんて生ぬるい罰なんてくれてやらねえ…死ぬより惨めで屈辱的な最期にしてやるよ。俺を怒らせたな…なあ?」

 

誰に言うわけでもなく、彼は執務室で一人呟いた。スマホが握り潰されそうなくらいの握力で握りしめて。

 

………

 

棺桶の前でボーっとしているとバタバタと騒がしい。うるせえ。静かにしろよ。口に出すのも今はめんどくさい。

 

「き、清州副司令長官…」

 

「七原さん…」

 

「どうして…なしてか…なしてこがぁなこつ…うち、うち…まだなぁんもお返しばできておらっど…」

 

「清州副司令長官…」

 

「三条クン、こんな日が経たずにまた会うなんてねぇ…」

 

「ああ、俺もそう思うよ」

 

若手か…こいつらは馴染みが薄いはずだろうにわざわざ来たのか。ご苦労なこったな。おっさん、あんた意外に信用されてんのか?わかんねえよ。

 

「提督よ!!!!」

 

ああ、うるせえな…また誰だ…と思ったが…長門か。長門はズカズカと棺桶に詰め寄った。そして目を大きく見開き、そして口を押えてワナワナと震えている。しかし首を振り…冷静に振る舞おうとしているようだった。その目にはうっすら涙が浮かんでいるが。

 

「……提督、いや、副司令長官殿。お久しぶりです。貴方が私を刈谷提督の下に行かせて…もう何年になるか。また会おう、と言う約束をこのような形で再開することになるとは…思ってもみなかったぞ」

 

副司令長官の頬にそっと触れる。努めて冷静に。震える手で。

 

「提督。見えるか?私は刈谷提督のおかげで…改二になれた。提督には笑われるが…特殊な砲撃もできるようになったのだ。これであの『戦艦レ級』を三条提督の大和と共に食らわせてやったのだ。ふふ、あの時は胸が熱かったよ」

 

ぽつぽつと眠る副司令長官の頬に雫が落ちる。

 

「褒めてほしいよ…昔のように頑張ったな、と…撫でてほしいよ…貴方に…優しく…撫でて…ほし、うぐっ…うぐううう…!!!!!」

 

雫はやがて堰を切ったように止まらなくなり、長門の頬を濡らしていく。

 

「提督!!!!!なぜだ……!!!なぜ…このような仕打ちを受けねばならぬ!!!!貴方のような方が…うああ!!うああああああああああああ!!!!!!!」

 

大きな声で泣き崩れる長門。お前は…おっさんの総旗艦だったもんな。一番信用されて、戦果もまだおっさんが右往左往して慣れないながらもあげて。おっさんが提督から身を引いた後、しばらくおっさんの秘書艦もやっていたな。俺が飛龍を沈められた後、もう一度提督をやるってなった時、お前はおっさんに離れたくないと直談判したらしいな。おっさんの身の危険から守るためにと。俺もそう思うぜ。長門を置いてりゃこんなことにはならなかったかもしれねえのにな。もう今更だな。

 

長門が頑張ったぜと報告したら「当たり前だ。俺が育てた長門だ。負けるはずがなかろう」とドヤってたな。提督…ああ、副司令長官に報告してくれ!改二になったぞ!とうるせえ長門に負けておっさんに報告したらたっけえ酒送ってきやがって。長門が下戸だって忘れたのかよ?

 

「ボケたか?」

 

「阿呆。その酒は長門をそこまでにしてくれたお前への感謝の気持ちだ。長門にはちゃんと別の物を送ってあるわ」

 

「そうかよ」

 

「感謝する」

 

「明日は槍でも降っかなー」

 

「返せ、その響21年」

 

「お断りしまーす。ククク!」

 

「お前…覚えておけよ。まあいい。長門によろしくと伝えておいてくれ」

 

「へいへい」

 

長門に伝えると鼻息を荒くして「そうか、それは嬉しいものだ。提督よ、私は酒は飲めん。それは提督が飲んでくれ。私は提督がくれたリンゴジュースで乾杯といこう」と乾杯したっけか。確か「神々のりんごジュース」とか言うやつだった。響に比べれば安いがジュースにしてはだいぶ高価なものだったな。

 

「ふん、艦娘が泣いている場合か。泣いている暇があるならさっさと深海棲艦を一匹でも潰してこいと言うものだ」

 

まだ汚いおっさん連中がうようよいやがったか。長門を侮辱する言葉に、長門やおっさんとの思い出から現実に引き戻された。そして、俺の長門…いや、おっさんと俺の長門を侮辱しやがったな……ブチ殺してやる。グツグツと煮えたぎるかのような怒りが込み上げてきた。目の前が青くなっていくようだ。

 

「テメ「ふざけんじゃねえ!!!!」」

 

「な、なんだ貴様!!!」

 

刈谷提督が怒りで長門に文句を言った男に掴みかかろうと思ったがその前に玲司が男の胸倉を掴みかかっていた。その表情が怒りに満ちていた。ああ、その直情的な行動、大府に足元を掬われるぞって言ってんじゃねえかよ…いい加減直せよ、それ…。

 

「艦娘が人の死を悼んで何が悪いんだ!しかもお世話になった方なら悲しむのはなおさらだろうが!!」

 

「艦娘に心などいらんのだ!深海棲艦を倒すことだけを考えて大府提督のように淡々と戦わせればいいんだ!大府提督を見習え若造!!!」

 

「それで大府提督のところの艦隊は大きな戦果をあげれたのかよ!!!!艦隊全滅した挙句に降格してんじゃねえか!!!それのどこが見習うべきところだ、このクズが!!!」

 

「なにぃ!?」

 

三条が大府を馬鹿にしているところを聞いてスッキリした。何か怒るのがバカバカしくなった。

 

「て、提督よ…その眼はどうしたのだ…?」

 

「あ?」

 

「刈谷…提督?その眼…」

 

啞然としながら刈谷提督を見つめたため、口論はいったん止まった。

 

「……俺に何かついてんのかよ?」

 

「その…蒼い眼は…三条君も」

 

「あらあら、何だか素敵な眼をしてるわねぇ。天龍ちゃんがカラコンでよくそんな眼してた気がするけど」

 

「ど、どがぁしだっど!?」

 

玲司、そして刈谷提督の眼が深海棲艦のflagship改とも違う蒼い眼をしていた。その眼に一宮提督達は惹きこまれていた。

 

「刈谷提督…その眼…」

 

「ああ?テメエこそなんだよその眼はよ」

 

「あ、あとで説明します…それよりか…長門に謝れテメエ!!!!話が逸れたけど俺は怒りを忘れたわけじゃねえぞ!!!」

 

「ひ、ひいい!!ま、まさか深海棲艦の回し者か!?」

 

「馬鹿かテメエは。だったらレ級をおびき寄せて日本壊滅も可能だろうがよ。俺らは提督だ。テメエみてえな無能とは違えんだよ。俺にブチ殺されたくなかったら…今すぐ消えろ」

 

「そうでなけりゃ…俺がぶん殴る」

 

「いいや違うね。それは…俺の役目だ」

 

蒼い眼をより輝かせ、殺意を込めた目で睨みつける。玲司と刈谷提督の恐ろしい眼と形相に男は少しズボンを濡らしながら逃げて行った。

 

「今後、長門を侮辱した奴は俺がこの場で殺す。絶対殺す。別室で待機しているこいつらの艦娘を侮辱しても殺す。魚の餌にしてやる」

 

「それはやめてくださいね。ここは御霊前です。物騒なことはやめて頂きたい」

 

堀内提督が制止に入る。刈谷提督はチッと舌打ちしてドッカと座り込んだ。玲司もバツが悪そうに椅子に腰かける。それを真似してみな座り込む。静寂。

 

「ほ、堀内提督…彼らは深海棲艦の仲間だ!眼が蒼く…!」

 

「はて、何のことでしょうか?彼らの眼は私には黒に見えますがね」

 

「と、とぼけるんじゃない!確かに蒼…あ、あれ?」

 

「危ない薬でもやってんじゃねえのか、テメエ」

 

「ならば、人事課にこいつらを追い出すようにして!」

 

「…清州副司令長官の御霊前であると言ったはずですが。しかし、この際ですから言っておきましょう。今の人事課の人間は更迭致します。人事権は剥奪とします」

 

「なっ!?」

 

「今の人事課は自分たちの意向に合う者しか採用しようとしません。清州副司令長官が新しい風が必要だと若い方々を採用しておりましたが、このままでは人事課の思うつぼになってしまいます。ですので、私の権限を用いて剥奪とさせていただきました。この場を借りて、今度の大本営会議を前に通告しておきますが、私と刈谷提督が副司令長官を二人三脚でやっていくことになりました。正式には後日発表致しますがね」

 

ふん…と刈谷提督は鼻を鳴らした。堀内提督の言葉にその場にいた全員、古井司令長官、虎瀬提督以外は驚愕の表情を浮かべた。

 

「え?じゃ、じゃあ刈谷提督は提督でなくなるんですか?」

 

「馬鹿言ってんじゃねえよ七原。俺も堀内もいなくなったら誰が鎮守府を見るんだ」

 

「それこそ大府提督が…」

 

「寝言言ってんじゃねえよボケ。あいつは一生タウイタウイだ。本土に上がることはねえ。それだけは明言しといてやる」

 

「何…」

 

「艦娘を駒扱いするような奴は本土にはいらねえ。俺が佐世保に移ったら鹿屋に来るのは五ヶ丘だ」

 

五ヶ丘提督…確かケンカがめちゃくちゃ強く…何人かセクハラ親父の顔面を陥没させて退職させた人だったはず…そして金剛と共に演習艦として戦っていた漣たちの話では彼と一緒に今リンガへ行ったはず。なるほど…堀内提督と刈谷提督でそう動かしていたのか。

 

「それはさておき…何度も言いますがここは清州副司令長官を弔う場所…長門さん、そのまま刈谷提督の隣へ。まもなく告別式が始まります。邪魔をするのであれば…出て行って頂きますよ」

 

「全員邪魔だ、出て行け」

 

「それはいささか暴論ですね。私も副司令長官には並ならぬ恩があります。私も弔わせてください」

 

「……ケッ」

 

本土の提督…柱島の三好提督や佐世保の上郷提督も参列した。残念ながら五ヶ丘提督や大府提督など、遠い泊地の提督は参加が急すぎてできず、電報を送るにとどまった。この場に大府提督が来ない、と言うことは幸いだったんじゃないだろうか、と玲司は思う。そうでなければ大府提督と刈谷提督が殺し合いでも始めそうだったから。

 

玲司は清州副司令長官の功績を堀内提督が紡ぐ言葉から知った。黎明期…それこそ艦娘が現れる前から戦う者であったと言う。残念ながら安城のおじさんと同じく、艦娘を轟沈させてしまったことから一線を退き、艦娘を避け、艦娘兵器派のリーダー。大府提督の祖父といろいろと策を練っていたようだ…しかし…玲司には彼がどうしても艦娘兵器派とは思えなかった。

 

一度、ゆっくり話をしてみたかった。あの時、どうして俺に艦娘をどう思うと聞いたのかを。家族ですと答えた時、一瞬嬉しそうにしていたのを玲司は見逃さなかった。だからゆっくり話をしたかったのだが…もう語らうことはできない。悔恨の念が浮かぶ。悪人ではなかったはずだ。だからこそ、清州副司令長官を。しかも艦娘を使って殺害すると言う俺が考えうる中で最低の卑怯な方法で彼を殺した奴を許せなかった。

 

刈谷提督ほどではないが、ギリリ…と手を強く握りしめ、艦娘を仕掛けた誰かに対する怒りがこみ上げた。

 

読経が終わり…最期の別れとなる。

 

「間もなく棺桶の蓋を閉めます。そうなると、もうお顔を見ることはできなくなります。皆さま、お花を添えて差し上げてください。そして、お別れを告げてください」

 

堀内提督の言葉に参列者が立ち上がる。

 

「清州副司令長官…あなたは偉大な人だった…艦娘兵器派の筆頭を失ったことは痛恨の極みであります…」

 

「副司令長官、あなたの御遺志は必ずや大府提督が継がれますよ」

 

艦娘兵器派の意志を次ぐなどと戯言を言う者。

 

「うっうぅぅぅ!!清州副司令長官…さようならです…グスッ…」

 

「……清州副司令長官…あんたを艦娘を使って殺した真犯人は必ずグリンして地獄へ送ってやりますから…」

 

「………椎心泣血。あなたを殺した下衆は必ず斬り捨てます」

 

第二憲兵隊が彼を囲み、涙する。彼は第二憲兵隊と仲が良かったのか。第一憲兵隊の皆も涙していた。多くの人々が清州副司令長官に涙を流していた。艦娘兵器派だけではない。それだけ、彼の人望は厚かったのか。玲司は感嘆した。

 

「清州副司令長官…貴方の功績は偉大でした…志半ばで…共に歩むことができなくなること…無念の極みです…」

 

鉄仮面とまで言われた堀内提督でさえ涙した。彼は何を共に歩もうとしていたのか。それはわからない。

 

「清州…長い間ご苦労だったな…本当に…お疲れ様だ。しかし…悔しいぞ清州。お前と共に…揉めながらもこうしてここまでやってこれたのはお前のおかげでもある…お前が目指していたものは…必ず刈谷君や玲司達が成し遂げてくれるだろう…それを、見守ってやってくれ」

 

おやっさんとは犬猿の仲だったはず…なのに泣くほど…そして俺たちが清州副司令長官の遺志を?どういうことかわからない。上郷提督や三好提督も泣いていた。ああ、この方は本当は悪い人ではない。艦娘を思いやる心を持っていて、そして部下への情も厚かったのだろうな…そう遠巻きに見ていた。

 

七原提督も大泣きしていた。優しい人だよな、誰かのために泣くなんてことは優しいからできることだ。そういう俺も…何だか目頭が熱いな。俺も…泣いているのか。九重提督や一宮提督は静かに花を添えていた。

 

あれだけ怒り狂っていた刈谷提督は、涙も流すことなく静かに花をいくつも清州副司令長官の顔の周りに置いていた。

 

「おっさん…ほんとにお疲れだったな。まあ、ゆっくり寝ろや…」

 

見たことのない優しい顔をして…静かに頬に触れて清州副司令長官を労っていた。

 

「刈谷君…惜しいのはわかりますが…」

 

「ああ。もう済んだ。閉めるか」

 

いつもの顔に戻り、淡々と清州副司令長官のご遺体が収められた棺桶の蓋が…閉じられた。

 

………

 

火葬もつつがなく終了し、荼毘に付された清州副司令長官。そのお骨はしばらくの間、副司令長官室に安置され、献花台も置かれ、四十九日には墓へと移されるとのことだ。彼は身寄りがなかった。天涯孤独だったのだと聞かされた。妻は早くに病死。子もできず、親戚との縁も海軍に反対するばかりだったので切ってしまったそうだ。

 

だから彼の遺骨を引き取る者がいない。後に玲司がおやっさんから聞かされたことは、おやっさん、虎瀬のおじさん、堀内提督、三好提督、上郷提督、そして刈谷提督が私財を出し合って墓を作り、そこに入れるのだと言う。玲司もお線香やお花くらいは供えてあげてほしいと言われた。

 

 

こうして葬式会場に戻ってきた玲司達。執務や出撃の際とは違う緊張感に疲れが見え隠れしていた。一宮提督達も同じようで、ふう…と重苦しく息を吐いた。

 

「よお」

 

片づけが始まっている会場で座り込んでいると刈谷提督が声をかけてきた。

 

「刈谷提督…に堀内提督?」

 

「皆さん、お疲れ様でした。三条提督達はもうお帰りになられますか?」

 

急に飛んで出てきたものだからきっと皐月や雪風達が怒っているだろうな…事情は大淀達には伝えてはあるが…。

 

「泊まってけ」

 

「はい?」

 

「いえ、私も戻らなくてはと思い…」

 

「泊まってけ」

 

刈谷提督が同じことを繰り返した。その目は拒否を許さない目だったように見えた。

 

「刈谷君、言葉が足りなさすぎますよ。これから刈谷君と清州副司令長官を偲んで飲もうかと思いましてね。ほら、大本営の前の鳳翔さんのところで」

 

「は、はあ」

 

「あの、わたしも…ですか?」

 

「アタシも?」

 

「テメエら全員だ。来い」

 

「はあ…」

 

「刈谷君は言葉が足りなさすぎます。あなた方にも大切な話があるのですよ。まあ…7割は私と刈谷君との清州副司令長官の思い出話になりますが…お付き合いください」

 

堀内提督も帰ることは許さない、と暗に言っている。つまり、付き合うしかない。念のためと思って私服を持ってきておいたのは正解だったか。

 

「すみません、大淀に電話してきます」

 

「クック…艦娘にふくれっ面されて大変だなぁおい。フォローはしてやれよ」

 

「わかってますよ…もしもし、大淀か?」

 

ちょっと怒られているらしい。悪いとかすまんとか夕立が?ああ、わかったって…と困った顔をして電話をしている。

 

「彼は本当に慕われているようですね…」

 

「あいつがいなきゃ横須賀は機能しねえからな。ああ、刈谷だ。わりいな大淀。旦那を一晩借りるぜ。あ?違う?翔鶴が嫁?ほーん」

 

「大淀!ばらすんじゃねえよ!」

 

「ククク、そりゃおもしれえ話ができた。俺が無理やり連れてったって言っとけ。それで収まんだろ。じゃあな」

 

はあ…厄介なことを聞かれちまった…。

 

「心配すんな。今日はそのことは言及しねえよ。また今度聞かせてもらうぜ」

 

「ウス…」

 

「あーらら、アンタも大変ねぇ」

 

「くそぉ…」

 

皆にご愁傷様…と言われた。

 

/小料理屋「鳳翔」

 

「堀内提督、刈谷提督。あら…」

 

「若えのも連れてきたぜ。おっさんだけだとつまんねえだろ」

 

「いえ、そのようなことは…」

 

「クックック。冗談だ」

 

「もう…あの…この度は清州副司令長官ことは…誠にご愁傷さまでございます…」

 

「……ああ」

 

「このような形でお亡くなりになるとは予想できませんでした」

 

本当にな、と玲司達も思うくらいに急だった。何より…清州副司令長官亡き後、どうなるのだろうか…それももう予想ができない。これも何者かの思うがままの状態なのだろうか。

 

「さあどうぞ。本日は貸し切りです。心ゆくまでごゆっくりと。そして、最高のおもてなしをさせて頂きます」

 

「ありがとうございます、鳳翔さん。いつもお世話になります」

 

「ああ。本当ならもうちょっと後にある大本営会議の後、おっさんと来るつもりだったんだがな」

 

「え?そうだったのですか?」

 

「ああ。うまい刺身をごちそうしてやると言われててな。うまい刺身が食える店って言ったらここしかねえからな」

 

「……そう…でしたか…」

 

「それはさておき、俺はどぶろくを頼む」

 

「私はビールにしましょうかね」

 

「え?俺は…あー日本酒で」

 

「テメエらも好きに飲め。俺と堀内の奢りだ」

 

「ええ?そ、そんな」

 

「私達がお誘いしたのです。ですから良いのですよ」

 

「あ、あら…それじゃあ頂こうかしら…ワインはあるかしら?」

 

「私は呑めませんので…ウーロン茶があれば…」

 

「なんだ、つまんねえ奴だな。こういう時は無理してでも飲むんだよ」

 

「アルハラですよ。一宮君、お気になさらず」

 

「す、すみません」

 

「わたしは…カルアミルクで…」

 

「飲みすぎで潰れんなよ?」

 

「は、はいい!!」

 

「ふふ、では準備して参りますね」

 

どういうわけだかわからないが、清州副司令長官を偲ぶと言う名目で、気の重い飲み会が始まってしまった。これからどうなるんだろう?玲司は不安だった。




清州副司令長官を見送りましたがいろいろと悶着がありました。そして刈谷提督も蒼い眼に…?

次回でその説明、そして刈谷提督達から語られる清州副司令長官の真実を書いていこうと思います。彼は本当に「艦娘兵器派」だったのか?果たしてその真実は?

次回をお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。

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