提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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演習の日がやってきました。はたしてブランクありの提督+ほぼルーキーな艦娘はどうなるのでしょう?

いざ、尋常に勝負!

追記…少々追記しました


第二十三話

演習当日。朝早くから翔鶴は弓道場にいた。吐息は白く、空気はキンと冷えて引き締まっている。翔鶴は寒さなど気にせずに鋭い表情で矢を射る。矢は中心を外れることも多い。少し外れた矢を見つめてふう、と息を吐く。

 

「翔鶴姉、今日は演習だよ?翔鶴姉も出るんだからあんまり無理しちゃダメだよ?」

 

瑞鶴が心配になって覗きに来たようだ。瑞鶴は姉がパーティー以降、朝は早くから弓道場。昼からは演習に参加するメンバーと一緒に演習場で龍驤の特訓。膝をつき、肩で息をするほどのハードな特訓を欠かさずこなした。何せ演習まで時間がない。厳しく叩き上げられたら6人。雪風はケロッとついてくるが残りの5人はブランクが空きすぎ、初めての戦闘と言うことで激しく疲労する。夕方の風呂で全部吹き飛ぶが、それでも次の日が来てほしくない…と思う厳しさだったと姉が言っていた。そして自分は参加していないがどうしても姉が心配で毎日翔鶴の様子に目が離せないでいた。演習に動けるのか心配であったが…。

そうして迎えた演習の日。瑞鶴の心配とは裏腹に翔鶴はいつも通りの朝の鍛錬を行っていた。

 

「あら瑞鶴。おはよう。もうご飯の時間?」

「え、ええ?そうだけど…てっきり緊張でガチガチしてると思ったら…」

 

「私は大丈夫よ。迎えに来てくれてありがとう。あとは…やるだけよね」

「うん…。そう、だね」

 

いつも以上に緊張していない翔鶴に呆気に取られる瑞鶴。ふと瑞鶴が的を見ると、地面に刺さった矢。そして普通より低い位置にある的が目に付いた。一体何をやっていたのか?演習の作戦…?わからないが翔鶴が何か変わろうとしているのは確かだと思った。

 

……

 

朝食を終えてすぐ、古井司令長官とその隣を歩く長身の艦娘がやってきた。玲司が出迎えるやいなや艦娘が走って来る。

 

「れ・い・じ・くーーーーーん!!!」

「うごふっ!」

 

まるで車に轢かれるかのような物凄い衝撃に変な声が出る玲司。しきりに頬ずりする艦娘に一部の横須賀の艦娘の顔が不動明王のような険しい顔になる。

 

「玲司君会いたかったー!ああ、ひさしぶりのこの感触…ああ、やっぱり私はこのためだけに生きていたいわ…ショートランドから帰ってきてくれてからは二年間ずっと近くにいてくれたけどまたお姉さんから離れてもうお姉さん寂しくて死んじゃうの…ああ、玲司君玲司君玲司君…」

「こ、こら離れろって!みんな見てんだろ!なんつー馬鹿力!ま、まって、背骨折れる…!あがががが…」

 

「ちょ、ちょっと!やめてください!私達の提督に何をなさるんですか!?」

「やめんか、陸奥。三条提督を殺す気かね」

 

「え?あ、あらやだ…。ごめんなさい」

「て、提督、ご無事ですか?」

「あ、ああ…。死ぬかと思った…」

 

「申し訳ない。うちの陸奥が迷惑をかけた。久しぶりだね、大淀君」

「ご無沙汰しております、司令長官。私達、提督のおかげで何とか立ち直れております。感謝いたします」

 

大淀が丁寧なお辞儀をする。その目には光が宿り、キラキラしていた。二ヶ月ほど前に見たときとはまるで違う。総一郎も思わず笑みがこぼれる。

 

「うむ。うむ。しっかり傷を癒しなさい。そこは誰にも口出しはさせないからね、君達には本当に申し訳なかった。私も出来うる限り、ここのケアはさせてもらいたい。何でも困ったことがあれば言ってくれたまえ」

「ありがとうございます、司令長官。いざという時には、ぜひ」

 

「うむ。では三条提督。さっそくだが、彼が今回君に演習を申し込んだ提督だ」

 

総一郎がそう言うと、横にいたスラリと背の高い青年が一歩前にでる。スラリと細い身体。銀縁の細身のメガネ。整った顔。朗らかな笑顔で玲司に話しかける。

 

「はじめまして、三条提督。大湊警備府の一宮 涼介(いちのみや りょうすけ)と申します。階級は中佐です。突然のことで申し訳ありませんでした。ですが、伝説の英雄にどうしてもお会いしたかったのです。このような形でしかお会いする方法が思いつかず…。大変な失礼を」

 

「こうしてまで会いに来てくれるのは嬉しいですが…次回からは演習の名目などと言うのはやめて頂きたい。普通に来てくれればいいですので。自分はご存知とは思いますが三条 玲司です。階級は大尉です。今日はどうぞお手柔らかに」

「…大尉?三条提督の階級は准…「さて、ちょっとこちらも準備があります。大淀、一宮提督と艦娘の皆さんを待合室へ案内をしてあげてくれ」

「はい、提督。かしこまりました」

 

一宮提督の言葉を遮り、玲司は翔鶴達が待つ準備室へと向かった。…よほど聞かれたくないことを言おうとしてしまったのか…?メガネをかけ直し、少し反省した。念願叶って三条提督に会えたことで舞い上がってしまったようだ。強引に演習を取り付けてしまったことで不信感を持たれているだろうに、ずけずけと踏み込みすぎた。ふう、と一息ついた。

 

「すまないね。彼はショートランドのことでいろいろとあるんだよ」

「いえ、私も余計でした。それでは私達もこれで」

「うむ。お互いの健闘を見させてもらうとするよ」

 

大淀に案内され、一宮提督も準備室へと向かった。ふむ…と顎に手を当て、何かを考え込んでいるようだった。

 

……

 

横須賀鎮守府 非公式演習

 

横須賀鎮守       大湊警備府

 

翔鶴(旗艦)      日向(旗艦)

扶桑          飛龍

五十鈴         利根 

雪風          曙

時雨          吹雪

村雨          伊168

 

「潜水艦か。五十鈴、頼めるか?」

「任せておいて。その後はそうね、時雨のサポートに回るか翔鶴さんの護衛に村雨の協力をするわ」

 

「ああ。雪風は扶桑の護衛だ。日向の邪魔を徹底的にやってくれ。頼むぞ。時雨は翔鶴の護衛を。利根は…扶桑に任せる」

「わかりました」

「了解しました!」

 

「戦艦を放っておくのは確かに危険だ。けど、それよりも利根を放っておくほうがまずい。動きが速い分、こちらは五十鈴も時雨たちも装甲がないし、翔鶴や扶桑はまだ戦闘に不慣れだ。利根は勢いに乗ると一気にこちらを攻め崩しに来るぞ。扶桑、利根は扶桑を狙ってくるだろうから、ギリギリまで引き寄せて潰してくれ。その際、日向にやられるかもしれんが…」

 

「私が利根さんを扶桑さんヘ誘導してみるね!うまいことやってみる!」

「村雨…わかった。頼む。指示は出す。とりあえずやれることをやろう。翔鶴、怒ったりしないから、気楽に行こうや」

 

「……はい」

 

震えていた体から震えがぴたりと止まる。一度目を閉じ、大きく息を吸って吐く。再び目を開けた先には真剣な眼差しの玲司の姿がある。あの男じゃない。怖くない。私を信じてくれるなら、自分は…羽ばたいて見せる。

 

「よし、んじゃま、いきますか。おし、手出せ、手」

 

スッと円陣を組む真ん中に、玲司が左手を出す。6人はわけがわからず手を見つめている。

 

「こうしてな、誰でもいいから俺の手に自分の手を乗せる。次の奴も同じことをする。やってみな?」

 

まず村雨が玲司の手に自分の手を乗せる。少し嬉しそうな村雨。その次は扶桑。時雨、雪風、五十鈴。最後に翔鶴。うん、と頷いた玲司。

 

「よし、全力で行こうぜ。目いっぱい、お前たちの戦いを見せてくれ!行くぞ!」

 

おお!と6人が声をあげた。その目はやる気に満ちている。艤装にはたくさんの妖精さん。そして明石の特別整備、海へと向かう6人の背中を笑みを浮かべて見送った。

 

……

 

海に立とうとした際にまた扶桑が「きゃん!」と言って転ぶ。その様子を見ていた日向たち。

 

「何あれ?日向さん、あれなら余裕じゃない?」

「曙ちゃん…だめだよ…」

 

「あはは、ほんとに新米って感じだねぇ。ま、手加減できないけどね!」

「……提督の話は聞いていたか?決して油断するなと言われているだろう?」

 

「それはそうだけど…あんな転んだりするようなのが戦艦なんてね…まあいいわ。圧倒して勝ってあげるわ!」

 

曙はもう完全勝利を目指すつもりでいるようだった。吹雪も曙を窘めつつも、扶桑や次に転ばないように手を繋いで持ち場へ着こうとする時雨や雪風を見て、どこかで余裕な様子だった。飛龍も同様らしい。

 

「のう、日向。あの雪風只者ではないように見えるぞ。あと扶桑じゃが…何か嫌な予感がする」

「ああ、私もそう思っている。今はああだが…何か見ていて寒気がするな」

 

「さすがはうちのえーすじゃのう。提督の油断すまいぞと言う言葉、嘘ではないらしいの」

「……。あの扶桑と翔鶴。そして雪風。一筋縄ではいかん。利根、お前の動きが頼りだ。頼むぞ」

 

「任せておけい。吾輩も本気じゃ」

 

そう言って持ち場へと向かう利根。いつもお気楽にのほほんとしている利根が真剣な表情だった。つまり、相手を危険視していると言うこと。曙や吹雪、飛龍は気づいていないようだが…何かある。扶桑と翔鶴を気にしながら、日向も持ち場へと向かう。何か胸騒ぎがする。一抹の不安を残して。

 

 

「それでは各艦準備はよろしいでしょうか。演習、はじめ!!」

 

大淀の掛け声と共に、五十鈴が周囲を見渡す。翔鶴はまず矢を空へ向けて放つ。飛龍の艦載機との航空戦のためだ。それとは別に、矢をつがえる。向きはやや遠くの水面めがけて。

 

(大丈夫…できる…。私も瑞鶴と違うけれど…私は羽ばたくの!)

 

パシュッと矢が水面めがけて放たれる。誰が見ても射るのを失敗したと思ったものだ。時雨や村雨は目を丸くしていた。その矢は複数の艦載機となり、水面すれすれを飛ぶ。バランスを崩すことなく整然と編隊を組み敵へと飛んでいく九七式艦攻。非常に危なっかしい飛び方ではあるが、着実に敵へと向かっていく。

 

「敵の艦載機確認!高射砲、撃ち方用意!!」

「やるよ、時雨!私たちだって、役に立ってみせるんだから!」

「もちろんだよ!ここで負けられない!」

 

翔鶴の艦載機と戦闘になり、若干数は減らしたがそれでも多い。飛龍の艦載機「天山」が魚雷を投下する準備に入っていた。

 

(翔鶴さんを狙っている!)

 

時雨が翔鶴の前に立つ。高射砲の斉射により、少しだけ数は減らせたもののそこそこの数が残った。魚雷が投下される。

 

「魚雷!来るよ!」

「時雨!危ない!」

 

翔鶴共々回避行動を取るが、一発の魚雷が時雨の近くで爆発。巻き込まれた時雨が負傷。状況から見て中破に陥る。

 

「時雨!大丈夫!?」

「心配いらない…。これくらい、まだ動けるよ…」

 

(雪風を助けに行ったときは全然動いていなかったからな…ここまで鈍ってるなんてね…)

 

悔し気に唇を噛み締める時雨。1年のブランクがあるとは言え、こうも簡単に中破にさせられてしまっては自分の動きの鈍さに悔しさがこみ上げる。しかし、まだ動ける。まだ、一矢報いてから退場したい。悔し涙を拭って砲を構えた。遠くでは魚雷が炸裂したような音が聞こえた。

 

……

 

「敵艦載機との戦闘を抜けて翔鶴に攻撃を絞ったわ。でも、おかしい。艦戦しか飛んでなかった…攻撃はしないってこと?」

「まだ何があるかわからん。対空警戒を厳だ。制空権を取られては厄介だ」

 

(何だ?嫌な予感が止まらん…一体何が起きる?)

 

日向は一つも気を抜くことなく敵の動きを見る。何かがザワザワと胸を騒がせる。

 

「来るなら来なさいっての…撃ち落としてやるわ!」

「うん、私がみんなを守るんだから!」

 

そう言って対空砲を空へ向け、待ち構える曙と吹雪。しかしそれは、予想だにしないところからやってきた。

 

「日向ぁ!水面ギリギリを何かが飛んでくるぞ!何じゃあれは…艦戦…魚雷!?艦攻か!?速度がおかしい!」

「何!?」

 

空を見上げていた曙や吹雪も慌てて前を見る。キラリと何か水面が光ったかのように見えた。それは魚でもなく、紛れもなく艦載機。腹に魚雷を搭載し、まっすぐにこちらへと向かってくる「九七式艦攻」…高度はかなり低く、速い!

 

「くっ、この!馬鹿な!こんな、こんな速度の艦攻があるものか!!!」

 

冷静で低い声でしかあまりしゃべらない日向が大きな声をあげる。それほどまでの想定外の攻撃だった。

一つ間違えば全部が海にたたきつけられてバラバラになるような危険な飛行。しかし、そんなことは気にしないかのように、搭乗した妖精さんの真剣な表情に、日向は戦慄した。

おそろしい集中力でこちらめがけて飛んでくる翔鶴の九七式艦攻。特筆すべきはその速度。まるで艦戦の如くの速度で飛来する。

「契の女王」明石がチューニングを試みた特別な「九七式艦攻(明石改)」。耐久度と速度を大きく上昇させた特別製だ。その脅威のスピードは水面を舞う鶴の幻影を見せ、日向達へと迫ってくる。吹雪と曙が慌てて照準を向けるも、遅すぎた。

 

「魚雷来るぞ!回避!」

 

放たれる魚雷。まっすぐに飛龍のいる方向へ進んでいくが、ややずれている。その魚雷の狙う先は…。

 

「!!吹雪!!」

「え?きゃあああ!!」

 

ドオオオン!と爆発する魚雷。巨大な水柱が立った矢先、吹雪が魚雷にやられ、ボロボロになっている。だが、まだ大破とまではいっていないようだ。大破に近い中破と言った具合か。

 

「す、すみませ…。私、まだやれます!」

「くっ、退場ではないにせよ、こっちの動きも鈍っちゃうね…こっちも時雨を中破させたけど。私も小破だね」

 

高度を上げ、敵地から去っていく翔鶴の艦載機。完全に不意を突かれたと同時に、また水面を飛んでくるのか、今度は上空からやってくるのか。その攻撃が読めないと言うことが日向と飛龍を悩ませた。かといって飛龍には翔鶴の真似はできない。この状況はよくない。

 

「くそっ、飛龍、何とか翔鶴を狙えるか?」

「やってみる。このままじゃ終われないよね!」

 

(やはり嫌な予感は当たったか。提督。手ごわいぞ、向こうの鎮守府の連中は…)

 

……

 

五十鈴が仲間からやや離れた場所で何かを探っていた。そう、水中に隠れて気配を断ち、こちらを狙っている潜水艦をだ。聴音機を使っても異音はない。しかし、居る。息を潜め、自分が遠のいたり隙を見せればすぐにでも魚雷を撃ってくるであろう潜水艦「伊168」が。

 

(なんで…なんで!?音も出してないし、ずっと戦闘開始から隠れてるのに!!)

 

少しずつ。じりじりと五十鈴とイムヤの距離が近づいているのだ。探しているふりをして、すでに場所を知っているのにわざと自分を探しているかのような。イムヤは何とか息をひそめて隠れているが、焦りが生まれていた。動かず、音も立てずにただ海中で必死に息を殺している。

そしてついに。五十鈴は水中にいるイムヤに聞こえるかのように声を出す。

 

「残念ね。どんなに隠れていても、五十鈴には丸見えよ?」

 

そう言うと同時にドポンドポンと何かが投げ込まれた音がする。それは、まごうことなくイムヤを狙う爆雷。正確にイムヤを取り囲んで投げ込んだ爆雷にイムヤは為す術がない。爆雷の檻はドゴンドゴンと爆発を始める。そして爆発が直撃。

 

「ぐっ、ごばっ!!」

 

爆発が止むと、静かに手を挙げて水面に出てくるイムヤの姿。イムヤは五十鈴はおろか、相手の艦隊に何もできぬまま戦闘不能となった。

 

伊168 戦闘不能 退場

 

「な、なんでイムヤの場所がわかったの…?」

「言ったでしょ、五十鈴には丸見えよって。気配で丸わかりよ!じゃあ、ご機嫌よう」

 

スカートの裾をつまみ、軽くお辞儀をして仲間を向かう五十鈴を呆然と見送るイムヤ。潜水艦を狩る者。水中の千里眼。五十鈴によりイムヤは呆気なく退場となった。

 

「イムヤが戦闘不能!?馬鹿な…まだ砲撃戦も始めていないぞ!」

『あちらの五十鈴さん、潜水艦との戦闘によほど慣れているのか…誤算でした。ですが、予定通り扶桑さんと翔鶴さんを狙い続けてください。利根さんが仕掛けます』

 

「わかった。実行する」

 

イムヤの戦闘不能を聞いて日向は驚きを隠せない。噂には潜水艦の気配をいち早く察知し、砲撃戦開始前に潜水艦を攻撃できる「先制爆雷攻撃」と言うものはにわかに聞いていたが…。イムヤの雷撃で五十鈴、もしくは雪風を離脱させてくれていれば有利に進めたのだが。かなりの間隔が空いてと初めて海での戦闘を行う者なのかが怪しくなってくるほどである。

 

「日向、吾輩。行くぞ。見ておれ。何隻か退場させてやるわい!なーっはっはっは!」

「おい、利根!気をつけろ!彼女らは何か違う!」

 

「任せておれー!さあ行くぞー!」

 

意気揚々と敵サイド目掛けて動く利根。その反対側を行き、サイドアタックを仕掛けようとする吹雪。中破していると言うのに…。

 

「いいだろう。負けはしない。この先、油断などしない!」

 

日向は敵正面から立ち向かう。目標は扶桑だ。扶桑を潰し、飛龍が翔鶴を叩いて甲板をつぶせば、戦艦と正規空母を大破させるほどの火力を持つ艦はいなくなる。夜戦に持ち込まれた際に恐ろしいが、その前に無力化すればいい。勝機はある。ここからは完全に勝利してやろう。奇をてらった作戦はもう通じない!

 

……

 

「イムヤはやったわ!五十鈴も無傷よ!」

「さすがだね…。さあ、次…!」

 

戦闘領域に入るや否や自分たちを囲むかのように吹雪と利根が両サイドから迫る。前方遠くには日向が主砲をこちらに向けている。

 

「時雨、翔鶴さんを…。雪風ちゃん?」

「艦隊をお守りします!」

 

扶桑を守るかのように雪風が扶桑の正面に立つ。主砲を素早く構え、日向へ向けて撃つ。

 

チューン!と日向の艤装を掠める雪風の攻撃。今まさに放とうとしていた瞬間の出来事に「ちぃ!」と日向が漏らす。

 

『利根!雪風を何とかしてくれ!攻撃に集中できん!』

「よーし、任せよ!まずは、その艦もらったぁ!」

 

20.3cm砲が火を噴く。村雨が素早く動き、反撃を撃つ。利根からだいぶ離れた海面に着弾。五十鈴も続くが意外にすばしっこい動きで攻撃をかわされてしまう。

 

「なははは!遅いわい!」

「言ってくれるじゃない!」

 

そう言って砲を構えた五十鈴であったが…背中に衝撃を感じた。艤装に命中したようだが…その瞬間、正面から衝撃を二度受けてぶっ飛んだ。いくら模擬弾とは言え、当たれば衝撃は凄まじい。

 

「うぐっ…ごほっ…し、しまった…」

『村雨、利根に構うな。吹雪を退場させろ』

 

「え、ええ?五十鈴さんが…」

『吹雪が思ったよりやる。雪風も吹雪を止めろ。扶桑、頼んだぞ」

 

「わ、わかった!村雨、行きます!」

「雪風、行きます!」

「了解しました。扶桑、参ります…」

 

「ぐうっ…油断した!」

「ふふん、良いぞ吹雪!これで終いじゃ!」

 

ドンッと主砲を放ち、艤装を撃つ。模擬弾が着弾した証拠として、大破戦闘不能判定の朱色のインクがべちゃりと艤装に塗りたくられる。艤装、ないし艦娘に大量のこの塗料がついたら戦闘不能である。

 

五十鈴 戦闘不能 退場

 

「だあああああ!!!」

「わっ、あぶなっ!」

 

吹雪の鬼気迫る砲撃に村雨が攻め込めない。機銃も主砲も何から何まで手を休めない。雪風も弾幕にうまく狙えない。しかし、雪風は吹雪をちらりとしか見ていない。見るは日向。扶桑を狙おうとした際には吹雪を無視して日向を牽制する。

ついに痺れをきらした日向が砲を動かした。それは確実にこちらを…!

 

「村雨さん!危ない!」

 

ドッゴオオ!と遠くから轟音が響いたと思えば刹那、村雨が吹き飛ぶ。35.6cm砲の衝撃は駆逐艦には強烈すぎた。艤装も村雨もインクで真っ赤に染まり、気を失っていた。

 

「村雨さん!…このっ!」

 

雪風が吹雪に向けて砲撃。連撃を与える。すでに中破状態かつ無理に弾幕を張ったせいで機銃が熱だれ。一瞬の隙をついて雪風に艤装を執拗に狙われ、吹雪も大破、戦闘不能判定。

 

「くっ…ごめん、なさい…」

 

村雨 戦闘不能 退場

吹雪 戦闘不能 退場

 

「よし、これでこちらが…雪風は無視だ。利根!頼むぞ!」

「任せておけい!」

 

雪風が利根の前に立ち、照準を向ける。

 

「ちぃ、このちっこいのが邪魔じゃ!じゃが、大物をもらい受けるぞ!」

「雪風!僕だって!」

 

懸命に時雨も翔鶴の様子を見つつ、利根を牽制する。しかし、その隙に日向が扶桑目がけて照準を向ける!

 

「もらったぞふそ…う」

 

その時日向は見た。利根には目もくれず、凄まじい形相で日向を睨みつけ、まっすぐに日向に照準を合わせていることを。金縛りにあったかのように体が緊張する。

 

「これ以上は…好き勝手にはさせないわ…扶桑型の力、見せてあげる」

 

低く鋭い刃のように研ぎ澄まされた声。そしてその深紅の眼だけで、日向を、飛龍を。そして時雨や翔鶴さえ威圧する。首を捕まれているかのような威圧感が辺りを包む。

 

「なはははは!もらったぁ!」」

 

そんな空気はいざ知らず、利根が雪風に砲を向ける。日向も扶桑に照準を絞り…。

 

演習場に今回最大の轟音が響き渡り、硝煙が周囲を包んだ。

 

ここまでの状況。

 

横須賀鎮守

 

○ 翔鶴(旗艦

○ 扶桑

× 五十鈴

○ 時雨 中破

× 村雨

○雪風

 

大湊警備府

 

○ 日向(旗艦)

○ 飛龍 小破

○ 利根

○ 曙

× 吹雪

× 伊168




戦闘は難しい…後半戦は今しばらくお待ちください。
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