提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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五ヶ丘提督のリンガ泊地立て直し計画の続きになります。

しかし、そこには陸奥が邪魔をしようと暗躍しています。果たして五ヶ丘提督はこれを乗り越えていくことができるのでしょうか?

今回は様々な障害が五ヶ丘提督に襲い掛かります。


第二百三十二話

陸奥の宣戦布告にも似たことを言われてからしばらく。相変わらずリンガ泊地の艦娘とはうまくいっていない。

 

唯一変わったことは食事係である潜水母艦「迅鯨」と「長鯨」が提督に食事を振る舞ってくれるようになったことだろうか。なぜそうなったかと言うと…。

 

「え?迅鯨と長鯨が…俺に?」

 

「みたいよ。青葉さんが思いきり説得してくれて、あたし達を守るために銃で撃たれても睨みつけている写真を見せたら信じるんだって」

 

霞が少し不機嫌そうに説明をしてくれた。なぜ不機嫌かというと、食事をいつも作っていたのは霞である。しかし、ある日突然「霞ちゃん、今日からは私達が提督にお食事を用意するわ」と言われたことでその仕事を奪われてしまったからだ。

 

(司令官の事を信用してくれるのはありがたいけど…何かしら、何だかよくわからないけど…もやもやするわね…)

 

その感情がどういうものかは霞に知る由もない。

 

そして彼女たちも「まあ一度くらいならいいだろう」と言う理由だった。リーダー格である陸奥がすごい目つきで作る必要なんてないからと言っていたこともあって恐怖があった。

 

しかし、青葉が必死になって司令官は悪い人ではない。栄養失調になってここを去られて、また変な司令官が来ても困る。自分の命が危うかったのに自分たち艦娘を守ろうとした、などなどとにかく五ヶ丘提督の食生活を何とかしてほしいと必死の説得を試みたのだった。

 

そして作った料理は和食だった。

 

「うん、この卵焼きうまいな。オレ、この卵焼き好きだな」

 

この言葉がいけなかった。

 

霞が不機嫌そうに言う。

 

「迅鯨さん、司令官。ちゃんとご飯食べたわよ。特に迅鯨さんの作った卵焼きが好きみたいよ。この卵焼き好きだなですって」

 

「す…き?私の事…好き?」

 

「は?」

 

「ね、姉さん!好きなのは卵焼きの味付けだって!」

 

「好き…好き…!提督が私の事を…好きって…!ふふ、ふふふふふ!!!!」

 

目がおかしくなった。異常なまでに輝いているし、まるで周りに桜の花びらか何かが花びらが舞っているかのような幻覚が見えた。それ以来、迅鯨に巻き込まれる形で長鯨も食事作りをすることになったのであった。

 

「ところで霞、なんでそんなに機嫌が悪そうなんだ?オレ、何かしたか?」

 

「別に!何でもないわよ!」

 

「ご主人様はほんっとーーーーに朴念仁ですなぁ。霞たそは自分のお仕事を取られてやきもむご!」

 

霞に口をふさがれる。霞は顔を赤く染めてしーーー!しーーーーー!と慌てて漣を黙らせようとしたのだった。

 

「ん?ああ、そうか。今まで霞が飯を作ってくれてたのか。ありがとうな」

 

「べ、別に!!!あんたが栄養失調とかで倒れてまた変な奴が来たら困るし別にあんたのために今日は何にしようかメニューを考えたりしてたわけでもないし迅鯨さんたちのせいでクズ司令官に料理を作れないことが悔しいとかそんなこと思ってるわけないじゃない何考えてるの馬鹿じゃないのこのクズ!!!!」

 

「すんげー早口」

 

「おおー、霞はずいぶんと提督に熱心なんだなぁ。まるでお母さんか…んー…」

 

「お嫁さんみたいだよね!」

 

(司令官は渡しません司令官は渡しません司令官は渡しません司令官は渡しません司令官は渡しません)

 

「ゆっきー、ボールペンが折れるって…加古さんあれッスね。お嫁さんみたいですなー!」

 

「はーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!なんであたしがこんなクズのお嫁さんにならなきゃならないのよ!?!?!?!?そんなのこっちからごめんよ!!!~~~~~~~!!!覚えてなさいよこのクズ!クズクズクーーーーーーーーーズ!!!!!!!」

 

「お、おーーい!食器ひっくり返すぞー!!!」

 

「なんかまるでザコザコザァコ♪って言うメスガキみたいでしたなぁwwwwwふごっ!?」

 

笑う漣の脳天にげんこつが落ちた。五ヶ丘提督のものだ。

 

「うおお…」

 

「こら漣!どこでそんな言葉を………って…秋雲かぁ…あいつは本当に…」

 

秋雲。青葉と同じく広報部に所属する艦娘だ。演習艦も同時に努めている。しかし、青葉がパパラッチならこちらの秋雲はマンガを描くのが趣味なのだが、時々ヤバいマンガを描いていることがある。

 

ペンネーム「オータムクラウド」

 

とある界隈ではその名を知らない者はにわかとまで呼ばれるほどのマンガ家であると言う。あらゆるジャンルに参戦し、それでいてクオリティが高いために大人気である。大本営の職員の中にも過激ファンがいるくらいである。なぜか、外にそのマンガが漏れ出ているのかは職員が秘密裏に印刷会社、出版社に持ち込みを「オータムクラウドの代理です」と言って出すからである。

 

一般人はこのオータムクラウド先生が艦娘「秋雲」であることは知らない。むしろバレたらドえらいことになるのでSNSなどもやっていない。ある日突然発売日が告知される。そうすると全国の書店で戦争が勃発するくらいである。

 

なお、転売ヤーがこれを転売しようと大量買いし、販売サイトで転売しようものなら本名、自宅の住所、職場など全てを調べ上げられ、その後チェストされるとか、されないとか。

 

「はぁ…まあそれはいい…しっかし…長鯨や迅鯨はオレに好意をよせてくれて飯を作ってくれたみたいだけど…他の進捗が壊滅的だよなぁ…」

 

「霞や衣笠が必死になってもぜーんぜん…梨のつぶてらしいなぁ」

 

「困ったもんだ…どうすればいいんだろうなぁ…」

 

「あぁぁいしてるんだぁぁぁぁ君たちをぉぉぉぉ!ってみんなに言ってみたらどうですかね?!」

 

「泊地ごと吹っ飛ばされそうだな」

 

「ちぃ…」

 

「それぜってぇ煽ってるだけじゃねえか?しかもそのあと狂ったように笑うんだろ?」

 

「だよねぇ…」

 

「却下な」

 

「く、くぅ…何も言えねぇ…」

 

結局具体的な案が出るわけがなかった。迅鯨の好感度が振り切ったくらいであろうか。さらに言うとつられて長鯨の好感度も振り切った。

 

余談であるが五ヶ丘提督は非常に病的なまでに女性に好かれることがある。中学からの幼馴染、絵里子と言う女性もそうであるし、実を言うと白雪たち5人も病的なまでに五ヶ丘提督が好きである。だからこそ大府提督に対しては本当に殺してやりたいくらいの憎しみを持っているし、万が一ここの艦娘が提督を殺そうと画策しているのなら全力で叩き潰すのみ、と考えているくらいである。

 

はたして…ここの艦娘達は白雪たちの逆鱗に触れずにいられるのだろうか…。そうとは知らず陸奥とその仲間による五ヶ丘提督への嫌がらせが始まる…。

 

………

 

ある日、そろそろ昼飯かぁ…と五ヶ丘提督が思っているとドアがノックされた。入室を促すと入室してきたのは…

 

「はーい提督!もうお昼の時間よ!今日は迅鯨さんたちに無理を言ってこの足柄さんが提督のためにカレーを作って来たわ!勝利のカツカレーよ!!!さあ、召し上がって頂戴な!」

 

勢いよく入ってきたのは妙高型重巡「足柄」だ。その右手にはお盆。その上にはカレーが乗っている。

 

「ゴッホゴホ!!!!な、なんですかこの匂い!?目!目がいた!!は、鼻ものども…ゲホゴホ!!!」

 

漣が盛大にむせ返っている。白雪もせき込んでいる。加古はあまりの匂いに飛び起き、隼鷹も鼻をつまんでいる。

 

「さ、催涙ガスか何かですか!?」

 

「失礼ね!私のカレーのこの香ばしい香りが催涙ガスですって!?(私もちょっとヤバいんだけど)」

 

白雪は一目で足柄が嘘をついていると見破った。足柄でさえ、この催涙ガスを吹きかけたかのような目の痛み、のどの刺激に顔をしかめている。

 

「お?カレーか。そう言えば大本営にいた頃以来食ってねえなぁ。んー…結構辛そうな匂いだな」

 

「「「「は????」」」」

 

全員が啞然とした。この人は嗅覚が死んでいるのか?目は何か粘膜で保護されているのか?おかしいだろう普通。足柄だけはニヤリと笑った…かのように八重歯を見せた。

 

「本当!?さ、さ、遠慮なく食べて!私のカレーはおいしいって大評判なんだから!!」

 

「おう、それじゃあいただきます」

 

「司令官、まっ!」

 

待ってと言う前にもう口にしてしまった。その瞬間、足柄は「勝った!」と思った。

 

(ふふふふ!食べなさい食べなさい。そして…のたうち回るがいいわ!そのカレーにはね…どうにか手に入れた激辛のサドンデスソースを一瓶まるまる入れたのよ!その辛さは一滴舐めただけでも…死ぬかと思ったわ…)

 

提督を追い出すための嫌がらせである。こうして食事でも嫌がらせをすれば今度は毒が入っているのではないか?ならば危険すぎるからここを去らせてもらおう。そう言うに違いないのだ。完璧な作戦よ!ただ、何か迅鯨さんの目が異様なまでに怖かったけど…。

 

五ヶ丘提督は顔をしかめる。ほら来た。辛いでしょう?駆け込みなさい、トイレへ!そして醜態をさらせばいいのよ!

 

「なあ、足柄」

 

「な、なにかしら?」

 

「これさあ…ニンジンやジャガイモが少し芯が残ってて硬くないか?オレ、もっと柔らかいのが好きなんだよな。肉も何て言うか炒めが甘い?ちょっと固いな。いや、本土と違って文句言える場合じゃないんだけどな…材料限られてるし」

 

またしても全員が啞然とした。違う、そうじゃない。その殺人級の匂いを放つカレーに対して何か違和感はないのか?

 

「ね、ねえ?提督…?その…辛くないの?」

 

「辛いっちゃあ辛いな。でもうまいなこれ。ただなぁ…野菜がなぁ…ほら、玉ねぎだってシャキシャキしてんだよ。もうちょっと溶ける寸前くらいまで煮込んだやつがいいんだよ…って、すまねえ、せっかく作って来てもらってんのに文句ばっかりだな。ん、カツはうまいな!!」

 

「ご、ご主人様?漣チャンも一口もらっていいっすか?」

 

「相当辛いぞ?大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない。はい、んじゃ、あーん」

 

「漣ちゃん?」

 

「白雪から絶対零度の雰囲気が漂ってきたがここは甘えさせていただきマス!!ふひひ♪とその気配を感じないようにした。ご飯と一緒に口に入れられるカレー…刹那

 

「ぶっほぉ!!!!!!」

 

「うお!きたね!!!!おい、漣!?だから言ったろ!?」

 

カレーを提督に噴き出し、一目散へどこかへ行ってしまった。ちなみに向かったのは食堂で、大慌てで冷蔵庫に入っていた牛乳、1リットルのパックを全力で飲み干した。そしてダッシュでまた執務室へと帰って来た。口の周りに牛乳の白髭はそのままに。

 

「漣…お前女の子なんだからそういうのはよくねえだろ…」

 

「ごひゅひんひゃま…よひゅひょれひゃべられまひられ。なんれひゅひゃひょれ。へいひれふよへいひ(ご主人様…よく食べられましたね。何ですかそれ。兵器ですよ兵器と言っている)」

 

「いや?普通にうまいけど」

 

「ひゃらなみひゃんひはわふぁりまふぇん(漣チャンにはわかりませんと言っている)」

 

常人が食べれば口の中が大火事では済まない。もしかするとショック死してしまうのではないか?と言うくらいの辛さである。いや、もはや辛さを超越した漣が言うように兵器であるように思う。

 

しかし、この五ヶ丘提督は味覚が壊れているわけではないのだ。本当にうまいと感じて食べている。他人が悶絶する辛さの食べ物をスイーツのような感覚でうまいうまいと平らげてしまう男である。某カレーチェーン店では一番辛い15辛では物足りず、彼専用の30辛があると言う。ちなみに、某閻魔がパッケージの極悪な辛さを誇る焼きそばを3つ平気で平らげる。甘いものも大好きであることをここに余談ではあるが書き記しておく。

 

「なあ、足柄。作ってくれるのはありがたいんだけど…これ相当慌てて作ったんじゃないか?足柄のカレーってさ、じっくりコトコト煮込んであって…野菜が溶けるほんと手前までしっかり煮込んであってさ。マジでうまいんだよ。ああ、でもそうか…お前はあのクソ外道に洗脳されてたから…クソ、何か腹立ってきたな。やっぱあいつ生き返らねえかな。そしたら俺が海までぶん殴ってぶっ飛ばしてやるのに」

 

「まーた烏丸のことぶん殴りてえって言ってるよこの人はさー」

 

漣の唇が腫れて見事なタラコになっていることを心配しつつ「出されたものは全て食べるのが礼儀」とパクパク食べる提督を見て、「あれ?私サドンデスソース入れ忘れた?単に漣ちゃんが辛い物が苦手なだけで?」と思うようになっていた。

 

「ちょ、ちょっと提督。私にも一口頂けないかしら…その…煮込みが足りないんじゃないかとか…確かめたいのよ」

 

「ああ、いいぜ。ほら、あーん」

 

「んにゃあ!?じ、自分で食べりゅから!」

 

突然のあーん攻撃に戸惑う足柄だったがそれはやめさせて一口食べた。

 

「ぶっふぉ!!!!!!」

 

「うお!?」

 

辛いなんてもんじゃない。痛いってレベルじゃない。足柄は一目散に走りだし、食堂の冷蔵庫へ向かい…氷水2リットルを一気飲みした。それでも消えない口の痛み。腹が立つほどに…辛い!

 

(何よ…本当にサドンデスソース1本まるまる入れてあるのは間違いないじゃない!)

 

なぜだ。なぜ普通のカレーのようにパクパク食べているのだ?

 

「足柄さんのカレー…私のお料理じゃなくて…足柄さんのカレーを…私のこと…好きって言ったのに…」

 

ギリッと歯ぎしりをして何だか能面のような表情で足柄を見つめてきた迅鯨にうすら寒さを覚えたので逃げるように執務室へと戻った。

 

執務室へ戻ると霞が居た。怒っているような表情だ。いや、いつも怒っているかのような表情だが…テーブルには…隠し捨てたはずの…サドンデスソースの空き瓶。

 

「足柄さん、やってくれたわね。これ、めちゃくちゃと言うか普通に料理に使えないくらいの辛い調味料よね?」

 

「あ、う…」

 

「どういうつもり?これで今度は毒でも入れそうだからここにはいられないから出て行くって言わせたかったの?やっていることが子供ね!」

 

その言葉に白雪も冷たい目で足柄を見ていた。

 

「え?そうだったのか?」

 

「司令官は少し黙っていてください」

 

「お、おお…」

 

「誰が仕向けたって…陸奥さんしかいないわよね。あと加賀さんかしら?ほんっとうに情けないわね!あたし達艦娘は司令官がいないと生きていけないのよ!?戦闘も司令官がいなければ練度がないに等しい!ドックだって使えない!食料の手配は!?誰がするの!?」

 

霞の激怒。彼女は本当に司令官を追い出されることを恐れている。それは…なんでだろう?まだ霞は知らないが、とにかくこいつはあたしがお世話してあげないと何にも役に立たないクズなんだからあたしがいないとダメじゃない!と思っている。

 

だからこそ足柄に激怒した。このクズを追い出すことなんて絶対させない。おはようからおやすみまであたしがお世話…って何考えてるのよ!

 

「ごちそうさま。うまかったよ、足柄」

 

「はあ!?」

 

激怒していた霞の怒りの矛先が五ヶ丘提督に向かった。あんた何言ってんのよ!と言おうと思ったが…。

 

「足柄、今度はさ。しっかり煮込んだ完璧な足柄カレーが食いたいな。ほら、やっぱりカレーってみんな大好きなもんだからさ。俺の辛さ好きに合わせたようなんじゃなくて駆逐艦も一緒に食べておいしいって言ってもらえるようなカレーを作ってくれよ」

 

五ヶ丘提督は笑っていた。もう一度、ごちそうさま、と足柄に手を合わせて言った。

 

「あ。う…は、はい…その…提督。ごめんなさい…それは本当は嫌がらせのために作ったものなの…霞ちゃんの言う通りよ」

 

「そうか。オレはうまかったから不問にするよ」

 

「はあ!?それじゃあ示しがつかないでしょこのクズ!どう落とし前付けるのよ!」

 

「こっわ、なんかヤクザみたいですぞ」

 

「ひえー、嫁候補はおっかねえなぁ」

 

「隼鷹さん?」

 

「ひぇっ!?じょ、冗談だよー…」

 

「いいんだ、まあ…漣がちょっと食べて被害は出ちまったけど…他の艦娘達には?ちゃんとしたカレーを振る舞ったか?」

 

「え、ええ…もちろん」

 

「ならいい。艦娘がおいしいってご飯を食べることは大事だ。戦いのストレスなんかも解消されるしな」

 

この人はなんて大きな心を持っているんだろう。不問にしたどころか他の艦娘の心配まで…。ああ、私が間違っていたわ。青葉が言っていたことは本当だったのね…。いい提督だって。

 

「本当にごめんなさい。お詫びといっては何だけど…今度は完璧な真・足柄カレーを振る舞うわ!もちろん、カツカレーでね!」

 

「わがままを言って悪いんだけど、カツ2枚にしてくんねえかな。1枚じゃ足りねえ…その辺の食材の調達は何とかするからさ」

 

「もっちろんよ!!任せてちょうだい!!!提督、楽しみにしているわね!!それと、楽しみにしておいて!!!」

 

そう言うと顔を輝かせて皿を下げつつ退室していった。

 

「ふう、大きな騒ぎにならなくてよかったぜ…」

 

「あの…漣チャンは大騒ぎだったんですが?」

 

「ああ、そうだったな…すまんすまん」

 

「ぶー…なでなでだけですか…ってなわけでドーン!」

 

「おっと、おい、そんな勢いよく乗ってきたら危ないだろ?」

 

「なっ何してんのあんた達!ふ、不潔よ!!!」

 

「へ?これが漣チャンのスキンシップなんだが?」

 

(漣ちゃんはずるい漣ちゃんはずるい漣ちゃんはずるい)

 

「白雪ちゃーん、戻っておいでー」

 

「不潔よ!このクズ!!そうやって変なことしてるんでしょ!!!このクズ!別に羨ましいとかなんて思ってないんだから!!!このクズ!クズクズクーーーーーーーーーズ!!!!」

 

「まーた始まったwwwww」

 

「好きだなぁあのフレーズwwww」

 

漣と隼鷹が大笑いしていた。霞は首から上がトマトのように真っ赤になって走って出て行ってしまった。白雪はボキリ、とボールペンを折ってしまった。加古と鬼怒は白雪に恐れるしかなかった。

 

………

 

「足柄のやつめ。すっかりあんな男に手懐けられよって…フン、私は足柄のように甘くはないぞ…必ず出て行ってもらうからな。ふふん、私の得意分野で…勝負と行こうか、提督」

 

妙高型重巡の2番艦「那智」が不敵に笑った。

 

………

 

夜、白雪たちも寮に戻らせてしばらくした時、ノックもせずに執務室に入ってくる艦娘が居た。

 

「失礼する。提督、今いいか」

 

「ん?お前は那智か。どうした?」

 

「昼間は足柄が随分と世話になったようだな。その礼と、貴様に勝負を挑みに来た」

 

「勝負?」

 

「ああ。何、簡単なことだ」

 

ドン!と机に何かを置いた。それは茶色い瓶。通称ダルマと呼ばれるウイスキーだ。

 

「私と飲みで勝負をしろ。先に酔いつぶれた方が負けだ。簡単だろう?」

 

「へえ。で?勝った時の条件は?」

 

「知れたこと。私が勝ったら貴様はこの泊地から出ていけ。貴様が勝ったら私は貴様の下に着こう」

 

負けた時のリスクはこちらの方が大きい。しかし、ここで注文をつけようものなら激昂し、勝負にもならないだろう。那智とはそう言う性格だ。

 

「いいぜ。で、この一瓶だけで潰れねえぞ、オレは」

 

「心配はいらん。酒なら前の提督がウイスキーが好きだった奴らしくてな。しこたまある」

 

「そうか。じゃあ、試合開始と行こうか」

 

(馬鹿め、こいつは私の酒の強さをなめているな?必ず酔い潰してこんな奴はさっさと追い出してやろう!)

 

こうして時間無制限の酒飲み勝負が始まった。

 

ルールを説明しておこう。簡単である。酔いつぶれて寝るかトイレに駆け込み、吐いた方が負け。酒は例えば那智がグラスを空にしたなら五ヶ丘提督もグラスを空にし、同じ量だけ飲むこと。五ヶ丘提督がロックで飲むと言うのならロックで。ストレートで飲むと言うのならストレートで。なお、ロックにしても時間をかけて氷が解けて薄まったところを飲むのはダメ。水割り、ハイボールは女々な飲み物なので禁止。以上である。

 

時刻は2200…試合開始!

 

「さて、一杯目は加減してロックでいくか?」

 

「ああ、そうだな。いきなりストレートは胃にも悪いしな」

 

「ふん、軟弱だな。まあいい。勝つのは私だ。ほれ。これだけだ」

 

「ああ、ありがとう」

 

グラスに注がれたダルマ。そして見事にカットされた氷。なるほど、那智はこういう才能もあるのか、と提督は感心した。

 

そうしていると那智は一気にグラスを空にした。

 

「飛ばすな」

 

「ふん。これくらい問題はない。さあ、私のグラスは空になったぞ。貴様も空にしろ」

 

「ああ。んぐっ…ふう。うん、うまいな」

 

「その余裕、いつまでもつかな?」

 

「さて…オレも酒の強さには自信がある。せいぜい頑張るよ」

 

無駄な抵抗を…ふん、強がっていられるのは最初だけだ!!!!

 

/2330

 

「なかなか強いではないか。もう一瓶空いてしまったぞ」

 

(ペース的には…うーん、遅いな)

 

五ヶ丘提督はちょっと物足りない感じであった。それでも、700ml入りの瓶が1時間半で空いてしまった。那智は次のダルマを持ち出した。

 

「よし、温まってきた。氷は捨てて…ストレートでいこうか」

 

「ほう?もう勝負に出てきたのか?ずいぶんと早いじゃないか」

 

「いや、ロックに物足りなくなっただけさ」

 

(ふん、ここから畳みかけたいのだな?だが…この那智、この程度ではまだ沈まんぞ!)

 

そうして那智はなみなみと五ヶ丘提督のグラスにストレートでダルマを注いだ。もちろん、自分にもだ。チビチビ飲んで時間稼ぎか?そんなことは…

 

「んぐっ、んぐっ、んぐっ…プハァ!ああ、やっぱストレートだな」

 

「!?」

 

馬鹿かこいつは!?ビールやカクテルではないんだぞ!?自分から負けにいくつもりか!?

 

「さ、注いでくれよ、那智」

 

「待て、私がまだだ。んっ、んっ、んっ…ふう…よし、次だ」

 

若干の焦りは生じたが那智は冷静だった。まだだ。これでまだ落ちん。ふふん、これで私の勝ちは…決まったようなものだな!!!!

 

/0100

 

「ふー…ん?ダルマももう3本空いたか。ちょっとダルマばっかりも飽きてきたな。んー…お、これなんかいいんじゃねえか?グレンフィディック」

 

「う、うむ。そうだな。また、ヒクッ、ストレートか?」

 

「ああ。あ、ちょっと待ってくれ。ボウモアがあるじゃねえか!これにしよう」

 

「うむ。いいだろう…ヒクッ」

 

いかん。少し…回ってきている。しかし提督は…どうだ。まだ何だか…いや、飲み始めるより生き生きとしていないか?嬉々として新しいウイスキーの瓶を開けだした。

 

「ちょっと休憩がてらロックにするか?」

 

五ヶ丘提督からの提案。む、むう…本来ならば断わりたいが…。

 

「うむ…そうさせてもらおう」

 

「はいよ」

 

これで少し…時間が稼げるかな…。那智はそう思った。

 

「俺は…ストレートでいいか。この香りを楽しみたいしな」

 

「な、そ、それではルールが違うではないか!?」

 

「お前ちょっと回って来てるだろ?オレはまだまだいけるから、気にしなくていいよ」

 

「く、くう…ならん!それではフェアではない!」

 

「んー…じゃあ俺もロックな」

 

「私に情けをかけているつもりか!?」

 

「そうじゃねえって。オレもロックな気分になっただけ」

 

「く、くう…」

 

何なのだこの男は…こやつが飲んでいるのは麦茶か?そんなはずはない。一緒の瓶の酒を飲んでいる…だがこの男…酔いもしていないように思う。まだだ…この程度では…まだ終わらんぞ!!!

 

/0300

 

「れーろくよ…ちゅぎはらりをのむろら?(提督よ…次は何を飲むのだ?)」

 

「そうだな。次は…ん、これがいいな。『フロム・ザ・バレル』」

 

「おお。うけれたひゅじょ(受けて立つぞ)。すひょれーひょれこーい(ストレートで来い)」

 

「おい、大丈夫か?もうだいぶ呂律が回ってないぞ?」

 

「うるひゃい!わらひはれーーーーーったいまけんのら!!!」

 

「わかったよ…」

 

少し那智の様子が心配になってきた提督だった。

 

/0500

 

「提督、少しいいかしら?那智姉さんが部屋にいないのだけど…酒くっさ!?」

 

「ん?お、足柄か。いい時に来たな。そろそろ那智が限界だろうから部屋に連れて帰ってあげてほしいんだ」

 

「な、なにしてたの?」

 

「飲み勝負。2200からやってるんだ」

 

「にゃにおう…わらひはまらのめるおー!しゃけをもっれこーい!」

 

「な、那智姉さんがこんなへべれけ状態になるまで…て、提督は?」

 

「ん?んーちょっと足がふらつくかな?まだ飲めるけど…ちと飲みすぎたな。もうみんな起きる時間だし、ここらで一旦打ちk「ならん!まりゃひょうぶはちゅいておらん!わらひはまだー…」」

 

飲むつもりなのか…「ほら姉さん、もう帰るわよ」と足柄が促しても「やら!」と暴れる始末。ああ、待て、いまそんな暴れたらやべえんじゃねえか?

 

「…………」

 

「な、那智姉さん?どうしたの?」

 

「足柄!手伝ってくれ!トイレに連れていく!トイレの前までは連れていくからそこからは足柄、頼む!!」

 

「え?え?!」

 

「ぎ、ぎぼぢわる…」

 

「那智ねえさあああああん!?」

 

咄嗟に五ヶ丘提督が那智をおんぶし、トイレへと走る。横須賀などと違い、提督の部屋も寮にあり、離れている。そこが仇になった。

 

「おい、もうすぐだからな!頼む、もってくれよ!」

 

「う、うう…うっぷ」

 

「那智姉さん、しっかり!!!」

 

「うう……ううっぷ!!!」

 

「おいおいおいおいおいおい!!!もうちょいなんだからまっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくそのままでお待ちください。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「何て言うか…那智姉さんがごめんなさい…」

 

「いや、…オレもおんぶしてるの忘れて揺すりすぎたな…事故だ…事故」

 

「そ、そう…」

 

「ああ、今日はもう足柄も何もしなくていいからな。那智がたぶん大変だろうから…」

 

「そ、そう…」

 

「オレも部屋に戻ってシャワー浴びて…寝る」

 

那智がマーライオンになってしまい、それをもろに食らった五ヶ丘提督はとにかくシャワーを浴びたかった。ちなみに床にこぼれた噴水は妖精さんがきれいに掃除してくれた。ありがとうと言うとビッと親指を立てて笑ってくれた。

 

「じゃあ…那智を頼んだぜ」

 

「ええ…提督…重ね重ね…ごめんなさい」

 

「気にすんな。じゃあおやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

こうして一晩中続いた那智との飲み勝負は五ヶ丘提督の勝ちで終わった。

 

余談ではあるが、大本営の職員たちも、酒が大好きな隼鷹も同じことを言うが、彼は酒に関しては「ザル」ではなく「穴の空いたバケツ」と言う。

 

見ての通り、絶対に潰れないのだ。一度隼鷹が加古と鬼怒と結託し、提督を酔い潰して貞操をゴニョゴニョしようとしたときも真っ先に潰され、失敗に終わった。白雪には黙っているが、バレたらシャレにならないこととして、3人の秘密になっている。

 

那智はこの日、超最悪の二日酔いにより、1日中寝込んだとか。五ヶ丘提督は空き瓶の処理を忘れてしまったこと。起きてきたのが夕方近くだったため、白雪に説教を食らったとか。

 

………

 

「え?提督側につくですって?」

 

陸奥が不機嫌そうに那智と足柄を見る。しかし、2人とも臆することなくしっかりとした目で陸奥を見つめ返す。

 

「ああ。私は勝負に負けたからな。そのルールを破るのは私の信念に反する。だから私は約束通り、提督を追い出さず、提督の指示に従う」

 

「悪い人でないことはわかったの。私のカレーを楽しみにしてくれるって言うし…那智姉さんもこうでしょう?私も申し訳ないけど、提督の方へつくわ」

 

「そう…好きにしてちょうだい。けど、気を付けることね」

 

「それは脅しか?フン、下らん脅しに屈するほど、この那智は甘くはないぞ」

 

「来るならかかってらっしゃい。私も提督につくと言ったからにはいろいろと覚悟はあるわよ」

 

駆逐艦たちがオロオロする中、那智たちは出て行った。

 

「減ってしまったわね」

 

「気にすることはないわ。これしきのことで私達は折れることはないわ」

 

「そうね。次は…大井さん、いけるかしら」

 

「ええ…任せて」

 

暗い表情をしている重雷装巡洋艦「大井」が動き出した。五ヶ丘提督へのトラップはまだまだ終わらないのだ。

 

………

 

そしてまた五ヶ丘提督は白雪たちを寮へ帰らせ、自分1人で仕事をこなす。烏丸元提督のせいで書類が溜まりすぎているのだ。本当にぶん殴りたい。それから艦娘への支援をするための新たな申請書などをバリバリと片付けていた。

 

「いい布団で寝ないとしっかり疲れは取れないからな。ったく…あの野郎自分だけいいベッドを用意しておいて…長波たちに聞いたら何だよあの簡素なベッド…あれじゃ気持ちよく寝れねえよなぁ…頼む、審査通ってくれよ…」

 

独り言が多いのはいつものことだ。それでも動く手のスピードは恐ろしく早い。それは大本営で培った能力だ。さて、今日は何時までやろうかな…そう考えていた時だった。

 

「失礼します。提督、今お時間よろしいですか?」

 

突然ドアが開かれ、入室してきたのは大井。暗い表情ではあるが。一体どうしたのだろう。火急の知らせではなさそうであるが。

 

「大井?どうしたんだ?」

 

大井も声をかけたが「魚雷、撃ちますよ」と冷たくあしらわれたものだが…いきなりどうしたのだろう。

 

「提督…お疲れかと思いまして。提督を癒しに参りました」

 

「疲れか…いや、俺疲れてないぞ?」

 

「ずっと座ってのお仕事ですし、陸奥さんたちに冷たい対応をされたり…精神的に参っておられるのではないかなと思いまして。ですから…」

 

パサリ…とスカートを下ろす。

 

「お、おい!」

 

「ですから…私の体で…すっきりしてください…ね?」

 

上の服も脱ぐ。下着姿になり、肌色の面積が増える。なるほど、性的な奉仕と言うわけか。

 

「前の提督にも同じことをされていました。提督は私の事を気に入ってくれたので、きっと気に入ってもらえると思いますよ?」

 

「………」

 

実はこれはハニートラップである。こうして五ヶ丘提督が大井の言葉に同意し、事に及ぼうとした場合に大井は大声で叫び、中継の艦娘を置いて陸奥がいる部屋へ伝令が行く仕組みである。そして大井は提督に乱暴されかけたと言えば陸奥の判断ですぐさま提督を追い出すことができるだろう。それを目的に大井はやってきた。

 

「さあ、提督?私、いつもこのソファで抱かれていました。ですから、ここでしましょ?」

 

妖艶な雰囲気を纏い、ソファに腰かけ、提督を誘い出す。来なさい。そしてあんたを追い出してやるわ…汚らわしい男なんていなくなればいい。

 

提督は立ち上がる。かかった。大井はそう思った。ふぅー…と提督は大きく息を吐いて上着を脱いだ。大井はもう完全にこっちに来ると思った…その時だった。

 

「歯ァ食いしばれ…じゃねえと…死ぬ…!」

 

何かをボソッと言ったと思ったら「フン!!!」と言う掛け声と共に…壁に思いきり頭突きをかましたではないか!!!!

 

グシャアアアア!!!

 

壁が思いきりへこみ、ヒビが花火のように広がっていく。ポカーンとする大井。

 

「フン!!!!」

 

バキャアアア!!!!!とさらに壁がへこむ。もう鉄筋が見えるくらい穴が空いている。クルリと大井の方へ向き直る。頭はパックリ割れて血がダラダラと垂れている。ひぃ!と大井は怯えるくらいだった。

 

「大井、悪い!寝不足のせいかよろけちまった!!頭こんなことになっちまったからそう言うのはなしで!」

 

パサリと下着姿の大井に自分の上着を着せる。

 

「大井!自分の部屋に戻れ。俺はちょっと医務室に行ってくる。悪いな。あと、女の子なら好きでもない男に裸を見せるもんじゃねえぜ。前のクソ野郎の時は仕方ねえだろうけど、オレの時はそういうことしなくていいから!じゃあな!」

 

ドタドタと五ヶ丘提督は去っていった。執務室には大井1人。呆気に取られて上着をギュッと握る…。

 

「は…?はぁ?????」

 

顔から火が出そうになるほど恥ずかしい。死にたいくらい。「女の子なんだから」だとか「あのクソ野郎」だとか…女の子…私を女の子と言うのか。

 

「お前はええ人形やなぁ!気持ちよすぎるわぁ!あーたまらん!人形はええわー!」

 

そう言われ続けてきた大井にとって、人扱い。そして女の子扱いされたことが大井の凍った心を動かした。

 

「何よ…何なのよ………あの提督はああああ!!!」

 

ギュウウウウと提督の上着を破れんばかりに握りしめ、顔に上着を埋めるのだった。その時に僅かに香る石鹸の香りが、何だか落ち着いた。

 

「ふふ、ふふふふふ…逃がさない…絶対逃がさないわ…逃げようものなら…沈めるから…」

 

何だか危ない目つきで大井は一人でボソッと呟いた。その後、自分が下着姿であることを思い出し、顔を真っ赤にして慌てて服を着て自室に戻り、寝床で朝まで悶え続けていたとか、いないとか。




提督追い出し作戦は全て失敗に終わってしまいました。むしろ陸奥にとっては非常に都合の悪い展開になってしまいました。

しかし、まだまだ提督を恐れる、怒りに身をやつす艦娘は多いです。

ところで…おや?大井の様子が…?

次回も五ヶ丘提督のお話になります。血塗れになってしまった五ヶ丘提督ですが、大丈夫なのでしょうか?

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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