大井にも変化がありますし、頭が割れてしまった五ヶ丘提督はどうなっているのやら…?
「はあ?提督側につく?」
「ええ、そうよ。私も提督の側に着くことに決めたわ」
「…そう」
陸奥は狼狽え、加賀は何やら呆れたようにため息を吐く。大井はと言うと執務室から持ってきた提督の上着の匂いを時々かぎながら提督を追い出すグループから離脱すると言う宣言をした。追い出すのはやめだ。
「理由を聞かせてもらえるかしら?」
「………」
そう言うとポッと顔を赤らめていた。まさか、提督に抱かれて…堕ちた?
「………って……くれたの」
「何?よく聞こえないわ。あと、それの匂いをかいで何をしているの?」
「私を…女の子って…物扱いじゃなくて…女の子だから…好きでもない男となんかする必要がないって…」
「女の子扱い?たった…それだけで?」
「それだけ?」
その言葉に大井はムワァ…と黒いオーラを放ったように見えた。瞳に光がない。何だと言うのだ。重雷装巡洋艦なのにまるで戦艦を相手にしているかのような威圧感があった。
「私が何て言われていたか、知っているわよね?」
「え、ええ…」
卑猥なおもちゃの名前呼ばわりだった。大井などと呼ばれた記憶はない。意識はないが記憶には残っている。そうして毎日のようにおもちゃにされた。男なんて所詮私達をそう言ういやらしいおもちゃや人形のようにしか見ていない。だからこそ汚らわしい男をここから追い出そうとしたのだが…。
「女の子なんだから」
その言葉は衝撃的だった。私を人として見てくれると言うの?
「こら漣!パンツが見える!足閉じろ!お前は女の子なのにそんなはしたなくてどうするんだ!」
「ふひひ、ご主人様だから見せてるんですよー?漣ちゃんのいちごぱんちゅはお色気たっぷりでしょー?」
「いや、ちっとも」
「は????」
「少なくともいちごぱんつって言うのがな…子供って言うか」
「はああああああ!?漣ちゃんがおこちゃまって言いたいんですかーーーー!?ひどい!ひどすぎるわーーー!!!」
「胸はねえしパンツはイチゴ柄じゃお子ちゃまでしかねえなぁwwwww」
「隼鷹さんまでひどすぎませんか!?」
「あたしのパンツは今こんなだぜー?」
「ふごっ!?な、なん…これ…み、見え…」
「お二人とも…?」
「「アッハイ」」
「もー、2人はデリカシーがなさすぎ!ってわああああ!加古ちゃんもレギンス履いてるからって足広げすぎだってばーーーー!!」
「んにゃー…パンツじゃなきゃいいだろー(提督もこれなら注意しねえからなぁ…ふっ)」
「あっ、提督ー!この子パンツじゃなきゃ足広げても怒られないだろって思ってる!」
「ふにゃ!?」
「おい加古…お前も年頃のかわいい子なんだからよぉ…はしたない真似すんなよな…」
「う…は、はい…(くっそー…鬼怒のやろー…)」
(ふふん、そうはいかないんだよ、加古ちゃん♪)
「司令官に恥をかかせるような真似はやめてくださいね…きゃああああ!!!!」
「むむ、普通の白ぱんちゅ…んじゃあブラはどうなってるのかぁ!?」
「オレ、ちょっと退室するわ」
脱兎のごとく部屋を飛び出した提督。すると、ゴゴゴゴゴと空間が歪むくらい危険な殺気を感じた。
「ふふふふふ…白雪を怒らせましたね…」
「あの、どっかの戦艦さえ射殺す目の艦娘みたいなんですけど…」
「やっべ、逃げ」
「鬼怒、走り込みいってきまーす」
「あたしゃ部屋で寝るおー…」
「あ、あ…」
「さあ、漣さん。お覚悟を…」
「ぎゃあああああああ!!!!!」
………
そんなやり取りをしていると言う話を聞いたことがある。あの提督は艦娘を女の子扱いしていると監視役から報告があった。陸奥は知っている。加賀も一応興味はないが知っていた。そして、この大井である。
「提督のことを…んふー…悪く言うのは…スハー…許さないわ…スンスン」
「ねえ、その匂い嗅ぎながら言うのやめてくれる?」
「しょうがないじゃない。クセになってるんだから…はあぁぁぁぁ♡」
ダメだこれは。説得は不可能だろう。提督の上着の匂いを嗅いでトリップしている。人間がやっているらしい危ない薬がキマっているようだ。
「…わかったわ。もう好きにして頂戴。抜けるなら私達に話しかけないで頂戴ね」
「ええ。あ、そうそう…もし提督に危害を加えようとするなら…」
部屋を出る前にぴたりと立ち止まり…ドロリと濁った眼で陸奥と加賀を笑いながら見て言った。
「容赦はしないからね?クスクス…」
そうしてドアが閉じられた。
はぁ…ともう一度ため息を吐いた。わけがわからない。たかが人扱いされただけであんな簡単に向こうに着くとは思えない。一体何があったのか…?
「ねえ、ちょっと。話を聞かせてもえらえないかしら、巻雲ちゃん?」
「あ、あわわわ…は、はいい…」
夕雲型駆逐艦の2番艦「巻雲」…彼女が陸奥が遣わせている諜報係だ。何か怯えている。服には…赤黒いシミ…血痕?
「巻雲ちゃん!?それ、血よね!?どうしたの!?提督に何かされたの!?」
「………!あの男…」
「ち、違うんですぅ!こ、これは…!そのぉ!」
巻雲は自分の腕には長すぎる袖をブンブン振りながら身振り手振りで説明を始めた…。
/
「クッソ…ちょっとやりすぎたか…」
額からドボドボと血を流しながら廊下を走り、医務室兼工廠へ向かう五ヶ丘提督。思いきり頭を2度も壁に叩きつけた提督はパックリと額が裂けてしまい、出血が止まらないのだ。おまけに激しく頭をぶつけているため、少しフラフラする。まあ大府の銃撃などに比べれば何ともないレベル。
「オレの体はサイボーグだ。これくらいで倒れるかっての」
そう言えば漣たちにサイボーグかと問われて人間だけど、と言った覚えがあった。言ってることがめちゃくちゃじゃねえか、とふらつく頭で思った。
さて…この廊下を曲がって下へ降りて…ああ、クソ。工廠までが遠いな!なんちゅう設計しとんじゃ…と悪態を吐きたくもなる。
ドシン!
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
曲がり角で何かとぶつかった。声がしたから艦娘か?騒ぎを聞きつけた白雪だろうか?あいつはなぜか地獄耳のようで何かあるとすぐ飛んでくるからな…しかし、薄暗い蛍光灯に照らされ、しりもちをついているのは…桜色のような髪をお団子のようにまとめ、長い袖で手が見えないメガネをかけた娘であった。覚えがある。
「ま、巻雲?」
「いたたたぁ…は、はわぁ!?」
「シッ!静かに…今この状況で見つかるのは俺もやばい…医務室に行きたいだけだ…黙って行かせてくれねえかな…あ、すまん…血が飛んじまってる…悪い…!」
「あわわわわ…」
巻雲は卒倒しそうになったがなんとかこらえた。怖い怖い司令官。しかも顔は血塗れ。ぽたぽたと司令官の服が血に濡れていく。
「立てるか?」
「ひ、ひいい!!」
怯えて後ずさる巻雲…ああ、そうか。夕雲や巻雲はあのクソ野郎にボロクソに言われたり暴力を振るわれたりしたんだっけか…怯えるのも無理はねえか…いや、その前に目の前に血まみれの男がいたら誰だって怖がる。当たり前だ。
「う…ふらついてきやがった…悪い巻雲…ちょっとやべえから行くな…ごめんな…」
そういうとポンと頭を少しだけ撫でてよろけつつも走っていった。巻雲はちょうどここで待っていたのだ。そう、彼女こそが大井がもし司令官に抱かれ、大井が声をあげたなら真っ先に陸奥に知らせに行くつもりだった。
結果は全然違った。叫び声は聞こえず、ここにまで響く轟音と振動が2度。そうして出てきたのは…司令官だった。口を押えて気配を震えながら必死で殺し、司令官が通り過ぎるのを待っていたわけだが、運悪くこっちへ曲がって来てぶつかってしまったのだった。
その後、なぜかひたすらに司令官の上着を顔に近づけ、蕩けた顔をした大井が後から現れた。
「スー…ハー…はぁぁぁ♡巻雲さん。作戦は失敗よ。事情は全部…陸奥さんに私が話をするから…んふー…」
「は、はい…あの、そ、それって、司令官様の…」
「ええそうよ。私にくれたものだから私が何しようと構わないわよね?」
最後は光のない目で巻雲を見たため、巻雲はもうおしっこを漏らしそうなくらいの恐怖だった。血塗れの司令官。そしてこの目に光のない大井。しばらくは悪夢で毎日うなされそうだった。
………
「一体…壁になぜ頭を…?」
「さあ?人間の行動はよくわからないわ。巻雲ちゃんも…見てないわよね」
「は、はいぃ…巻雲は廊下の陰で大井さんが叫ぶのを待ってただけですからぁ…」
「くっ…頼みの綱だった大井さんまでとはね…」
しかし、と巻雲は思う。いくら司令官を追い出したいからと肉体関係を無理やり持たされた大井さん。それを使って追い出させようなんて…ひどすぎないだろうか?
大井さんはそれを心底思い出しても吐き気がするくらいに嫌がっていた。それを強要させて…大井さんも提督がそれで出て行くなら、と顔が物凄く嫌そうに承諾していたが…あれは陸奥に今楯突いたらどうなるかわからない。むしろ同じように迫害を受けることを恐れていたからだろうな…と思った。
巻雲は陸奥と加賀のやり方に疑問を持ち始めていた。あの大井さんが簡単に心を開くくらいだ。悪い人では…ない?夕雲姉さんに相談してみようか。ああ…怖がられちゃうかな…司令官、と言うだけで怯えるから…。
/
「まーーーーったく!!!私は提督の主治医でも何でもないんですよ!?」
「いや、ここではお前だけがこういうときに頼りになるんだ…銃で撃たれた時とかも縫ってくれたじゃねえか」
「私は工作艦なんですけどねぇ…何でこの短期間で提督の体を縫ってるんですかねぇ…瞬間接着剤を額に塗って何してるのかと思いましたよ…」
「整備士の人がな、手をサンダーでうっかり切ってパックリいったときにこれで血ぃ止まるんだよ、って言っててな。俺じゃあ縫えねえし、それしかねえなって。そんで包帯巻いてしばらくほっときゃ治るだろ」
「治りません!!って言うか提督…前回もそうですけど、麻酔なしで本当に痛くないんですか?」
「これくらいで痛いって言ってたら男じゃねえだろ」
「理由になってないんですけど…で?今度は何があったんですか?襲撃ですか?」
「ああ、実はな」
大井がやってきて抱いてくれと言うからこうして壁に頭を叩きつけて流血させて医務室へ行ってくると言って逃げてきたのだと言う。
「いや、それやりすぎですって!?」
「それしか思いつかなかった」
「し、しかも大井さんがハニートラップだなんて…あれほど…前の提督に性的なおもちゃにされていたことを恨んでいたのに…陸奥さん、ちょっと許せないなぁ」
「なあ、ほんとお前のチカラで烏丸生き返すことできねえか?俺が本気でぶん殴って太平洋へぶっ飛ばしてやりてえんだけど」
「私はそんなネコ型ロボットでもできなさそうなことができるわけないでしょう!?なんですか!?ボールを7つ集めて願いを言って生き返らせるんですか!?」
「ダメか」
「無理に決まってるでしょう!?私は艤装の整備や修理しかできません!」
「医療行為もできるよな」
「そういうツッコミはいりません!!!!」
明石に猛烈に怒られた。無理もない。工廠には誰もいない。医務室は鍵がかかっていて入れない。なぜなら薬品などを勝手に持ち出し、提督や艦娘に被害が出るのを懸念してのことだ。実際、巻雲が陸奥の命令だろう。薬品室に忍び込もうとしたことはある。鍵がかかっていて明石が「なにかご用ですかー?」と言うと大慌てで逃げていったが。
しょうがないので工廠で何かこの傷を塞ぐものはないか、ときれいなウエスを額にあてがって探していたのだった。そこで工具箱の中に瞬間接着剤が新品で入っていたのでこれを縫ってしばらくすれば血を止められるだろう、と思った。が、運の悪いことに工具箱に蹴躓き、ものすごい音を出してしまったが故に明石が飛び出してきたのだ。
悲鳴をあげられた。なんせ顔は血塗れ。服もあちこちに血の染みがべったり。
「なあ、明石。これ、何とかなんねえかな?」
そう言ってウエスを取って割れた額を見せてさらに悲鳴があがった。防音が施されていてよかった。明石の叫びは間違いなく、防音が施されていなければ泊地中に響き渡り、艦娘に恐怖を与えただろう。
「はい!お終いです!提督…何だかこのままだと本当に命がいくつあっても足りなくなりますよ…」
「うぐ…気を付けるよ…」
「抜糸は1週間後にします。無理なことをすると傷口が開きますので絶対に変なことはしないでくださいよ!」
「ああ…」
白雪たちを泣かせ、霞にはなぜかクズを連呼され、大井に迫られ…明石には怒られ…なんかこの頃ツイてねえな…とトボトボ自室に帰る提督であった。
/
翌日、もちろん包帯で頭がぐるぐる巻きになっている提督を見て、白雪たちが落ちつけるはずもなく、書類を持って入室した白雪は「おはようござ…」とみるみるうちに顔を青くさせて書類をバサリと落とし、大あくびをして執務室で二度寝しようとした加古は目を覚まし、鬼怒も漣も隼鷹も、当然驚愕の表情で提督を見るわけで。
もちろん白雪が動かないはずがない。司令官を心の底から尊敬し、密かに恋をしているのだから。それも病的に。おはようからおやすみまで。願わくば墓に入るまでずっとお側に。ううん、お墓に入るのだって一緒に。貴方のお側にいられるならそれだけで幸せ幸せ幸せ幸せしあわせしあわせしあわせシアワセシアワセシアワセシアワセ。
ただならぬ雰囲気を感じた五ヶ丘提督は退室しようと立ち上がった。
「悪い、仕事を始める前にちょっとトイレ…」
が、そんなことができるはずもなく、艤装もつけていないはずなのに凄まじいチカラ。座らさせられ、白雪が司令官の肩に手を乗せる。いや、押さえつけた。渾身のチカラを込めて立ち上がろうとするが立ち上がれないのだ。師匠であるあの人に「これが発剄の原型のようなものだ。私はチカラを込めているわけではないのだよ」と言われた時のようだ。
白雪は絶対零度の目で五ヶ丘提督の顔を覗き込み、口を開く。
「詳しく…説明してください。今、私は冷静さを欠こうとしています」
「いや、てかこれ見たら何が起きたか一発だろ」
隼鷹が壁を見る。べっこりへこんでいる。鉄筋が見えるくらいへこんでいるのだ。艤装をつけた艦娘にでも頭を叩きつけられたのだろうか?
「いや、これはだな…そのー」
「詳しく…説明してください。今、私は「わかったから。ちゃんと話すから落ち着いてくれ白雪。な?」」
恐ろしい白雪の詰問。これから逃れられることなどできるはずもない。
………
結局自分で頭を叩きつけたと知り、かつ、麻酔もなしで明石に縫ってもらったことが発覚。明石を問い詰めようと白雪が動こうとしたが隼鷹が止めた。明石は何も悪くない。
「それよりも瞬間接着剤で傷を塞ごうとした提督の方がパないよ…」
「そうか?手っ取り早い止血方法だぞ?」
「鬼怒…提督にそんなん聞いたって野暮なだけだって…」
「ご主人様を食べようとした…?処す?処す?」
「落ち着け。たぶんあれは…たぶん強制的にやってこいって言われたんだろうって、おい白雪落ち着けって!」
「シズメシズメ…シズメシズメ…」
「深海棲艦になっちまいますよーーーー!!!!」
白雪の暴走が止まらない。また霞が不機嫌そうに入室し、ケガを見て騒ぎ出す。
「あ、あんた何それ!?あんたを追い出そうとした娘に何かされたの!?痛くない!?けがの具合は!?仕事はあたしや白雪でやるからあんたは寝てなさいな!!!お粥は梅干しがいい!?鮭!?あたしがご飯の面倒見てあげるから!!!ったくなんなのよ!司令官の服の洗濯は大井さんがやるとか言い出すしあたしの仕事が減っていくじゃないのよ!!!!」
ガクンガクンと揺すられる提督。白雪が般若の形相で霞を見ているし、漣と隼鷹が白雪を押さえ、鬼怒と加古が霞を引きはがす。もうカオス状態待ったなし。
………
「……大井さん、そう言うことはもう絶対ごめんよって言っていたのに…あんのクズ戦艦んんんんんんん!!!!!!」
怒りを露にする霞。しかし大井に罪はないと提督は霞に説明した。
「うーん…おかしいですねぇ。普通、そうやって仲間にしたんなら…例えご主人様を追い出すにしてもトラウマを抉ってほじくりかえすって言うかタバスコをぶっかけるようなことしますかねぇ?」
漣が顎に手を当ててうーん、と唸りながら考えている。
「いや、そりゃ大井さんもハニートラップに乗ったー!って言うなら話は別ですよ?けど、おかしくないですか?大井さんも嫌々やってきた感じなんですよね?散々自分がされてかすみんが言うようにトラウマ抱えてるんしょ?」
「誰がかすみんよ。そうなのよね…あたしもそこはおかしいと思ったわ」
「大井に聞いてみりゃいいんじゃ…って」
「大井さんが口は開かないっしょー。陸奥さんが口を割るわけはないと思いますけど、なーんか裏がありそうで気になるんスよねー」
漣は実は頭の回転が恐ろしく早い。いろいろと大井のことで考えを巡らせていたようだ。確かにおかしい、と今になって五ヶ丘提督も思う。
「もしかしたら、陸奥さんたちは誰かに脅されてるんじゃないかなーって思うわけですよ、助手の霞君」
「誰が助手よ」
「誰って…誰だ?」
「大府のクソッタレ―の誰か?」
「漣、口が悪い」
「あーい。けど、この線…濃くないッスか?」
ふむ…と提督は思う。何者かに脅されてどんな手を使ってもリンガから俺を追い出したい…か。大府は言っていた。リンガ、タウイタウイ、ブルネイ。この3つを掌握すると。1人で3つの泊地を統括する話など聞いたことがないが、本土に上がれないならまずはここで実績をあげるつもりか?無駄が多すぎねえか?
「ちょっとオレもツテを使ってみるか。陸軍の憲兵に関西で仕事してる奴がいるから、烏丸のことを聞いてみよう。お前ら、ちょっと席外してくれ」
「提督ぅ~?お洗濯ものはありませんかぁ~?シャツとかぁ、下着とか、何でもいいですけど~」
「うわきつ」
「は????」
話の腰がボッキリ折れるくらいの猫なで声で大井がやってきた。本来、提督に対してはどこの大井も塩対応だし迂闊なことをしたら魚雷をぶち込まれかねないくらいのものだが…。
(おい加古…あの大井、本気でラブモードになった白雪みてえな目してねえか?)
(あ、うん…あたしもそう思う…ありゃやべえ目だよ)
(ねえ、霞ちゃんもやばい目してるよ…マジパナイ…うわ、白雪ちゃんも…)
龍と虎と狼が睨み合っているかのような…三つ巴の無言の勝負。白雪はさておき、霞と大井は一体なぜここまでになったのか?
「提督、額は大丈夫ですか?申し訳ありませんでした…何でしたら、この私が治るまでお世話をしますよ」
「いいえ、司令官のお世話はこの白雪の仕事です」
「執務だけよね?食事や身の回りの世話はあたしがやるから白雪は執務だけに集中しなさいな」
「あら、霞ちゃんもいいのよ?私がちゃぁんとお世話しますから」
「いいえ。執務から身の回りのお世話まで全てやらせていただきます。ご心配は不要です」
(ケッ、初期艦か何かしらないけど正妻ぶって)
「は?」
「いえー?何でもありませぇん♪」
(あたしの仕事がなくなる…それだけは…アイツはあたしがいないとダメなようにしてやるんだから…)
「霞さん?何か?」
「な、何でもないわよ!」
「霞、大井。気持ちは嬉しいけど…その辺は白雪に任せてるから…大丈夫だぞ」
「………」
「ど、どうした?」
大井が能面のような顔をしていた。しかし、にっこぉ…と笑った。
「そうですか。では、何かありましたらお声を真っ先におかけくださいね?大井は提督の味方ですから♪あっ、提督の顔拭きタオル、入れ替えておきますね?」
「お、おお…か、霞?どうした?何で泣きそうなんだ?」
「な、なんでも…なんでもないわよ!!!!ああそうね!あたしじゃチカラ不足ってことね!!??」
「それミッチーの言うことじゃ…」
「メタ発言はやめろよ漣…」
「うぐっ…あんたなんか…あんたなんか…あんたなんか!!!あたしがいないとダメになるようにしてやるんだからあああああ!!!覚えておきなさいよ!このクズ!!!!クズクズクーーーーーーーーーズ!!!!!!」
「お、おい霞ィ!?」
「まーたメスガキのような捨て台詞を…」
「提督も大変だな…」
わけがわからない。オレ、本当にここでやっていけるのかな…。マジで不安しかねえよ…と言う不安感と、後で霞をフォローしないといけないな、と言う思いに駆られていた。
後ほど、霞に「霞の作るご飯が食べたいなぁ」とお願いしに行くとパァッと顔を綻ばせ、「そ、そうよね!!!あたしのご飯が食べないとダメよね!?何が食べたい!?うんと腕を奮ってあげるわ!!!!このクズ旦那!!!」
何か最後に妙な言葉を聞いたがとりあえず提督が好きなざるそばがあったのでそれを作ってもらった。終始ニコニコして食べるところを見ていたが、その横で迅鯨がまた能面のような表情でそれを見ていたことは霞も五ヶ丘提督も知る由もない。
………
『ああ、烏丸ね。あいつを一言で言うなら無能やで』
「いきなりだな…」
『どんな奴かって聞くからそれに答えただけやん。確かに頭はええんかもしれんけど、それだけのアホや』
五ヶ丘提督は陸軍の関西を統括する部隊にいる城戸と言う憲兵と話をしていた。烏丸のことを良く知っていると言うことらしいのでいろいろと話を聞きたかったのだ。
五ヶ丘提督と城戸はもともとはケンカで殴り合った2人だった。関西の舞鶴鎮守府に出張で事務仕事を行いに行った際、帰りの大阪で出くわしたのだ。陸軍と海軍は爆裂に仲が悪い。海軍の方が海を守っていると言う大義があるため、肩身が狭い故に海軍の者に嫉妬するからだ。
酒の席で部下と一緒に飲んでいたら「なんやぁ、何か磯臭いのがおると思ったら海軍様ご一行ですかぁ。磯臭うて酒がまずなるわぁ」と言うケンカが発端だった。
「………」
「何や無視かいな」
「城戸の兄貴…飲みすぎです。すんません、連れて帰るんで飲んどいてください」
「何か答えんかいやぁ。おもんないやっちゃなぁ」
「ケンカを買う気はねえよ。酒に呑まれた勢いで言ってんだったら見逃してやる」
「ハン!ほんま堅物やなぁ!こんなんが海を守てるんかいな!こんなんやったら艦娘も大したことないんやろなぁ!」
「兄貴、あきません」
「おい、今艦娘を馬鹿にしたな?艦娘の事も知らねえでよく言えたな。いいぜ。そのケンカ、買ってやるよ。表出ろ」
「ちょ、五ヶ丘さん、まずいですって!!」
「すぐ戻る。艦娘を馬鹿にしたのなら許せねえ」
そうしてそこから壮絶な殴り合いに発展した。しかし、この城戸と言う男はとてつもなく強かった。ケンカで負けなし。そんな五ヶ丘提督でさえ押された。
「俺は幸せもんやぁ!!こんな強い奴久しぶりで!手加減が利かんわぁ!!!」
「うるせえ!!!艦娘を馬鹿にしたことを謝ったら顔面陥没は勘弁してやらぁ!!!!!」
そうして2人の右拳がお互いの顔面にヒット。お互いに顔はアザだらけ、腫れまくり。服もボロボロで倒れたのだった。気が付いたら五ヶ丘提督はホテルに運び込まれた。陸軍と海軍が揉めたとなると面倒だからと病院は回避した。
後日、ツテを使いに使って城戸から「この間はごめんなぁ。悪いことしたらごめんなさいや」と電話がかかってきて、話をしていたらいいヤツだし話も合うし意気投合。そして、彼は陸軍の中でも諜報も秘密裏にやっている。だからこそ、友人であり大きな何かを本土で掴んでいないかを藁をもすがる思いで聞いてみたのだった。ちなみに彼は、海軍にも精通している。堀内提督のあきつ丸と繋がっているからだ。
………
「そんなアホだったのか…」
『せやなぁ。機械の知識やら何やらの能力は買われとったんやけど、人への当たりが最悪でなぁ。そらもう部署の奴全員に嫌われとったわ』
「で、海軍の大府にその機械いじりの能力を買われたってことか?」
『そういうことや。『わいは海軍に行くんや。この腕を買うてもろたんや!大抜擢や!アホの城戸は一生陸で平和を守ってたらええわ』言われたわ。まあ、後々聞いたら悪事に加担しとるドアホやんけってツッコんだわ』
「大府の邪魔になるから殺されたぞ」
『大府やったらやりかねへんやろなぁ。大府は親も黒いことやっとる。検察がどうしてもアレをしょっ引きたいってうるさいわ。イーッってなー』
「ショッカーかよ」
『はははは!さすがは俺の相棒やなぁ!あー、麻倉が嫉妬しよるわ。んで、話戻そか。まあ、大府についたからには海軍でも鼻つまみもんやったんちゃうか?そんでも仕事はせえへんサボり魔や。適当に艦娘洗脳して、適当な戦果だけあげて…しょうもない戦果ばっかりな。せやけど、艦娘への接し方を変えた。そうなったら大府や烏丸のアホはもうほんまに邪魔でしかないわ』
「だからって、刈谷さんたちについてる三条提督やオレまで消そうとしてるってのはな…」
『そらそうやろ。刈谷さんなんかモロに邪魔やん。せやけど刈谷さんは抜群に頭がええからもう直接手を下すんは無理と判断したんやろ。せやから周りから少しずつ削っていくって言う計画や。そこに陸軍も絡みだしてほらもう大変や』
「陸軍までか?」
『せや。大府のおとんが絡んどるみたいやな。内から外から…海軍をぶっ潰そうって計画や。まあ、こっちはこっちで速攻で邪魔してるんや』
「お前…命は大事にしろよ」
『何言うてんねん。俺は幸せ者やぁ。こんなおもろい任務を任されてるんやからなぁ』
そうだった。こいつは大きな責任が伴う、危険な任務などは喜んで受ける。この通り、俺は幸せ者やぁと言いながら。しかし、その任務の達成率は100%。完璧にこなす男だ。
『城ぃ戸ぉ~。ちょっとお前外部に漏らしすぎやぁ。おもらしするくらい折檻したろか~』
おそらくだが隊長だろうと思う男のドスの利いた声がする。それにやばっとちらっと漏らして慌ててたぶん、引きつっているであろう声で早口でまくしたてた。
『ま、まあそういうことやから気ぃつけてな!また落ち着いて本土へ帰ってきたら飯でも食おうや!ほなな!』
『城戸ぉ、お前ちょぉこっちこいやぁ』
『すんまへん、すんまへん!隊長堪忍してください!』
ああ、これからえらいめに遭うな、あいつ…と思いながら受話器を置いた。しかし、陸軍まで絡めて何がしたい?日本を牛耳りたいのか?一宮君のところの会社を見習えよ…小さなことからコツコツと…そうして政府に大きな信頼を得てきたと言うのに。
さて…どうしたものか。悩んでも新人のオレには何も思いつかない。来た任務を轟沈なしでこなすしかないな…。
/
しばらくして、白雪がある書類を持ってきた。それは出撃依頼…いや命令書だった。必ず参加しろってことか。
「司令官、ソロモン諸島への出撃命令がきております。目的は水雷戦隊の撃破だそうですが…」
「おう、わかった………!?」
その書類を受け取った瞬間、妙な寒気が奔った。なんだ、この作戦書類?とんでもなく嫌な予感がする。
「司令官?」
「いや、何でもねえ…漣たちを呼んでくれ」
「かしこまりました。呼んで参りますね」
白雪が出て行ったと同時に電話が鳴る。これまた悪寒がする。
「もしもし…」
『タウイタウイの大府ですが』
大府…!!この野郎、いきなり何の用だ!?
「ああ、殺人未遂提督ですか。何の用っすか」
『ずいぶんなご挨拶ですね。仮にも上官です。言葉は選ばないといけませんよ』
「…そうっすね。で、何の御用ですかね」
『作戦の命令書は読みましたか?』
こいつが立案者か?だとしたらやべえ。これはとんでもなくやべえ。
「ええ。読みましたが」
『では話が早いです。水雷戦隊を討伐していただく簡単な任務です。新米にはちょうど良いでしょうと思いまして』
「……そうっすね」
『それでは頑張ってください。私が言いたいのはそれだけです。では』
おかしい。それだけのために電話をかけてくるのは怪しすぎる。五ヶ丘提督は確認のため、刈谷提督に電話をしようと思った。大府から指示があったのなら俺に電話してこいと。
「………?繋がらねえ」
電話はうんともすんとも言わない。いや…何度かけても音も鳴らない。横須賀にも電話をかけてみたが同じだった。電話が…死んでいる。この時点で冷静さを欠いた五ヶ丘提督はもはや出撃するしかないとしか考えられなかった。
「ごっしゅじんさまー。出撃っすかー?漣チャンたちはいいんスけど、ゆっきーは司令塔で置いておくとしてー。あと誰出すんですか?」
漣は呑気に出撃の準備を進めていた。隼鷹、加古、鬼怒、そして漣は出撃可能だ。だが…出撃するにしても4人では心もとない。なのであと2人はほしい。
「あたしも行くわ」
「はーい!衣笠さんも行きます!」
何とついてきていた霞と衣笠が名乗り出た。出遅れた大井はチッと舌打ちした。
「………」
「ご主人様?」
「いや、何でもねえ…よし、作戦を説明するぞ」
口が渇いて仕方がない。うまくしゃべれなくなるかもしれない状況を何とかごまかして作戦を練っていった。
大井が仲間に加わりました。ちょっとやべー感じがしますが、気のせいですね(目逸らし)
横須賀のブラ鎮立て直しはかなり重苦しい感じだったのでリンガはコメディチックに立て直しをしていこうかと思います。
次回は戦闘回です。レ級以来の戦闘ですのでうまく書けるかどうか不安ですが頑張ります。大府提督が仕掛けたであろうこの作戦。当然、水雷戦隊の討伐などではなく…大ピンチが訪れます。
次回もお待ちいただけますと嬉しいです。
それでは、また。