提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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久しぶりの戦闘回になります。
実は実戦は初参加の漣たち。はたしてうまくいくのかどうか…そして何か思惑があるようです。


第二百三十四話

漣を旗艦に隼鷹、加古、鬼怒、霞、衣笠。この6人でソロモン諸島へ向かう漣たち。実際に深海棲艦と戦うのはこれが初めての漣たち。霞と衣笠も実戦経験は記憶にあるが、洗脳状態だったため、初陣に等しい。

 

(あたし達はこれは実際初めての戦闘、と言ってもおかしくない。かすみんやがっささんは戦闘経験があるけど洗脳されてたから練度はないに等しい…それにあのご主人様の顔。明らかにやべー顔してましたね。こるるぇは何かありますねぇ…)

 

漣は人間の感情を読み取るのがうまい。自分みたいな駆逐艦に対して欲情しているような気持ち悪い顔するハゲに対してはサラリと距離を置いたり、艦娘を見てすぐに嫌な顔をするような奴もスルー。面倒は避けたい娘だった。

 

しかし今回ばかりは面倒ごとと言っても避けられない。これはスルーすればご主人様…五ヶ丘提督に迷惑がかかるし、五ヶ丘提督と離れ離れになるなんて考えられない。もちろんそれは泊地でご主人様の頭脳として活躍しているゆっきーも同じことだ。

 

妙な予感…と言うか嫌な予感しかしない。無事に帰って来いと言われたが…帰ってこれるのだろうか?

 

「ね、ねえ…あんた達も実戦は初めてなんでしょ?こんな水雷戦隊でもない編成でで…戦艦もいないし…大丈夫なの?」

 

「おー?空母のあたしもいるぜー?それに加古の攻撃力や鬼怒の洞察力も侮れねえよ。実戦はからっきしだけど、何百…あー…それこそ1000回以上は演習で鍛えられてっからなー」

 

隼鷹が呑気に言っているように見えるがその顔はピリついている。隼鷹も提督の表情を見逃さなかった。無理もない。大府とは連絡ができて刈谷提督や三条提督には確認ができないと言う不審すぎる状況。加古も鬼怒も同じだった。その緊張感は霞と衣笠に不安を与えたのだが、そんなことは気にしていられない。

 

「戦闘が始まったらあたしの側にいてよね。じゃないと…死ぬ」

 

歯ァ食いしばれ。じゃねえと…死ぬの口癖がある五ヶ丘提督の口癖が少しうつっている加古。しばらくして…戦闘海域に突入する…。

 

 

「クソ!!!妖精さんに見てもらったけど通信網のケーブルなんかがイカれた可能性はねえ!どうなってやがるんだ!?」

 

白雪と2人しかいない執務室で焦りを隠せない五ヶ丘提督。

 

「海底ケーブルをやられたのでは…それにしてはピンポイントすぎておかしすぎます。万が一の援軍を呼ぶことが不可能なのは…」

 

「生きて帰って来いとは言ったけどよ…もしかすると…」

 

「全滅でもするのかしら?」

 

ニヤニヤと笑いながら陸奥が入室してきた。白雪の表情が一気に険しくなる。

 

「陸奥…お前、何かこの事態の事を知っているのか?」

 

「さあ?私を疑う前にいろいろと調べた方がいいんじゃないかしら?」

 

「………そうだな。今はそれをやってもらっている最中だ」

 

「そう。ならいいけれど。それで、あなたの艦隊は大丈夫なのかしら?」

 

加賀も入室してきた。この件、もしかして陸奥や加賀も絡んでいる?どうなっている。いや、艦娘がここまで手の込み入ったことをして。ましてや霞や衣笠。ここの艦娘達がいる。彼女らを切り捨ててまでオレを追い出そうとするか?

 

「……!?司令官、レーダーから漣さんたちの姿が消えました!」

 

「何!?」

 

突然の知らせに五ヶ丘提督はモニターを掴むようにして見た。確かにレーダーから消えた。

 

「おい、こんなところで機器まで障害かよ!?」

 

「…もう1つ考えられることがあります…考え得る限り…最悪のパターンです」

 

「何だ…どういうことだ…?」

 

「………姫級の深海棲艦が現れた可能性が…あります」

 

「はぁ!?」

 

そんな話は聞いていない。水雷戦隊の討伐だったはず。簡単な…任務のはずではないのか!?

 

 

「漣!おい漣!聞こえるか!!??」

 

無線で呼びかけてもサーと言うノイズしか聞こえない。無線まで封じられた!このままでは……五ヶ丘提督は焦りを隠し切れない。陸奥や加賀が冷たい目で提督を見ていた。

 

「…もし霞さんや衣笠さんを沈めた時には…わかっているのでしょ「うるせえええええええ!!!!!!!」」

 

その怒号に加賀は身を竦めた。陸奥も驚いている。

 

「お前らは自分の仲間を!!!!何とか生き抜いてきた仲間を沈めたらとか、そんな悪い話でしか物事を捉えられねえのか!!!!俺がくたばろうがどうなろうが関係ねえ!!!仲間に対してそうやって簡単に沈めたらとか言ってるお前らは一体何なんじゃあ!!!」

 

部屋の空気がビリビリ震えるほど五ヶ丘提督は怒鳴り散らしていた。自分の事はどうでもいい。叫んだことで額の傷が開いてしまったのか、包帯が赤く滲みだした。

 

「お前らは!!!!無事に帰ってこれるんだろうなとかそういうことが言えねえのか!?霞や衣笠が沈んでも喜んで俺を追い出したいって言うのか!?そんなこと言う奴が、仲間だなんだと気やすく口にするんじゃねえ!!!!!!!」

 

ドォン!とさらに机まで叩いた。このただならぬ怒りに白雪まで委縮してしまっている。さらには外で様子を見ていた朝霜や秋霜たちでさえカチカチと歯を鳴らして怯えている。

 

五ヶ丘二郎。仲間のためなら命だって張る漢だ。だからこそ仲間の命よりも自分を追い出すことを優先するような天秤のかけ方をしていることに怒り狂っている。

 

「お前らのやっていることは最低だ!!!!仲間よりも俺を追い出したいことを優先してるんだからな!!!!!ふざけんじゃねえ!!!!」

 

ひとしきり言い終わるとカチカチと言う音が響く。それは…加賀が歯を鳴らしている音だ。怯えている。

 

「ひっ…うぁ…ごめ、ごめ、んな、…」

 

「か、加賀さん…?」

 

「怒らない…で…嫌…痛いの…いや…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

壊れたレコードのようにごめんなさいしか言えなくなってしまった。彼女も烏丸の犠牲者だ。怒鳴られ。怒鳴られ。その心は恐怖にまみれていた。

 

「やめて…怒鳴らないで頂戴…加賀さんはトラウマになっているのよ?」

 

冷静に陸奥が言うが、陸奥も同じように怒鳴られることには恐怖を感じている。手が震えている。クッ!と言いながら五ヶ丘提督はバツが悪そうに椅子に座った。

 

(こいつらには黙っておく必要がある。頼む…本当に間に合うんだろうな…)

 

切り札はある。それは白雪だけへの秘密だ。漣たちにも伝えようと思ったが無線が封じられているのでは伝えようがない。

 

(司令官、慌てているフリは完璧ですが…今はそれどころではないかと…)

 

(悪い、カッとなった…)

 

(いいえ、悪いのは間違いなく陸奥さん達です。ですが、彼女たちが諜報をしている可能性もあります。変に悟られないようにしてくださいね)

 

(ああ…)

 

そう。切り札はあるのだ。絶対に安心できる切り札が。ただ、それまで漣たちがもつのか。それが大問題だった。

 

「提督…」

 

「長波?」

 

「……陸奥さんたちの言うことは許せねえ。あたし達は提督につくって言った。わりいけど…心底見損なった。何か事情があるんなら聞かせてほしいけど。言わねえならマジで許さねえ。そこで震えてる加賀さんも一緒だ」

 

長波は朝霜や秋霜たちが怯える中、冷静だった。肝が据わってんな、と思う。

 

「提督。提督は諦めてないんだよな?」

 

「ああ。俺が諦めたらあいつらは終わりだ。俺はどうにかして通信を回復させる。それまでは…悪い、あいつらの無事を祈るしかねえ。漣はすげえ奴だ。頭の回転が早い。姫が現れたとなっても…打開策をきっと見つけてくれる」

 

「あのあっぱらぱーがか?マジかよ…わかった。朝霜、みんな!部屋に戻るぞ!あたしたちは霞たちの帰りを待とう!」

 

長波の強い一言によって夕雲型の提督に味方してくれている娘たちは部屋に戻って行った。

 

「悪いけど陸奥、加賀、お前らも出て行ってくれ。今はお前らに構っている暇はねえ。それと、次にあいつらを切り捨てるような発言をしたときは、艦娘だろうと殴る」

 

「ひっ!?い、いやぁ…痛いの…いやぁ…」

 

「司令官!!!」

 

「はっ!?す、すまねえ…」

 

「………るわ」

 

「は?おい、今何て?おい!」

 

陸奥が振り向き様に何か言っていたが聞き取れなかった。もう一度聞きなおそうと思ったが、それは憚られた。なんせ、加賀をあそこまで恐怖に陥れてしまったのだから。陸奥や加賀たちの様子、そして長波たちの様子も気になったが今は通信を回復させることに全力を注いだ。

 

 

「なあ、漣よー」

 

「なんすかー、隼鷹さーん」

 

「あたし達ってばさー、水雷戦隊をぶっ潰すって言う話だったよなー?」

 

「そうっすねー」

 

「でさー、何あれ?」

 

「漣チャンも聞きたいでーす」

 

戦闘海域に辿り着いた時に見たものは夥しい数の深海棲艦。戦艦ル級、タ級。重巡リ級、ネ級。水雷戦隊いると言えばいるがそれよりも水上機動部隊の方が多い気がしてならない。

 

「んで、あれ何?」

 

加古が指を指す先にいるのはヒトの形をした何か。蛇?何だろうか。よくわからない軟体生物のような艤装のそれぞれの先端には巨大な砲塔。その深海棲艦がまるで漣たちを見下すように見つめていた。

 

「あれ重巡棲姫じゃん!やばいよ!姫級がいるじゃん!指令と違うって!!」

 

鬼怒が慌てだす。ああ、やっぱり漣たちは嵌められたわけですなぁ。やっべーですお。でゅふ。いや、んなこと言ってる場合じゃないなぁ。

 

さてどうしたものか、と漣は考える。こりゃまず囲まれますなぁ。と呑気に構える。だって漣たちは6人だし?相手はわんさかさっさっさーだし?何か姫がいますし?絶望じゃーん!漣たちが指示された海域ぃ、姫級とかいるんスけどぉ、沈んでかない?ああ~いいっすね~とかそんな話じゃん。

 

そいでもって頼りになるのは…うーん、悪いけどかすみんとがっささんは役に立たないなぁ。けどまあ改二にはなってるしー…やるっきゃないなー。

 

「フフフフフ。馬鹿ナ奴ラメ。コレシキノ艦隊デ私タチヲ相手ニスルト?ナメラレタモノダ。バカメ。ヤクタタズドモメ。シズンデシマエ」

 

「嫌どす。漣たちは帰って来いって言われてるんでー、その話はお断りします」

 

何だかふざけた格好をして重巡棲姫を挑発する。重巡棲姫はプライドが高い。と言うか姫級は総じてプライドが高い。格下の駆逐艦なんぞに挑発されればすぐに激昂する。

 

「ククク、イイダロウ。私ヲ侮辱シタコト…海ノ底デ後悔スルガイイ!!!」

 

「ちぃ、囲まれたぜ。漣、どうする?どうやって逃げる?」

 

「ちょーっとお待ちくださーい。とりあえず空母がいないのは夜戦狙いっすかね?なら夜まで何とか粘りますかい?」

 

「それだとあたしがただの浮き台にしかなんねーなー。それまでにガッツリ数減らせりゃいいけどな」

 

考えろ。包囲されている。辺りを見回す。砲を構えて重巡棲姫の合図を待っているのだ。

 

9時方向の水雷戦隊。これを破って穴を空けてみるか?いや、たぶんその後ろにはごっつい戦艦とかがひしめきあってると思う。真後ろの重巡部隊。これなら突破できそうだけどー…いやー、これも後ろに何かあるだろうなー。うーん…ってことはー。

 

「隼鷹さん、あっちの水雷戦隊をぶっ潰してください!加古さん、鬼怒さんは背後からの攻撃が鬱陶しいんで重巡部隊を潰してください!かすみんとがっささんは漣とあそこの戦艦部隊とぶつかりますよ!!」

 

「ほいきたー!!ヒャッハー!者どもかーかれー!!!!」

 

先手必勝、ではないが漣と号令と共に素早く隼鷹が式神を飛ばす。すぐさまそれは艦戦、艦攻、艦爆に変わる。制空権は確保。これはありがたい。空母が相手にいないのはありがたいことだ。

 

「ホウ?」

 

重巡棲姫は余裕だ。先に動かれたか。まあいい。これくらいだ。こんな羽虫のような艦隊などいくらでもなぶり殺しにできる。あがけあがけ。最後に絶望のどん底に叩き落として沈めてやろう。泣き叫んで助けてと命乞いをするくらいまで追い詰めてやる。

 

鬼怒、加古は一気に走り出し、魚雷と同時に砲撃を喰らわせる。威力はあるがやはりflagshipともなると固くてダメージが思うように通らない。しかし、穴を空けなければ。包囲されたままではやられたい放題。横に並んで水面を疾るが途中から二手に分かれ、砲撃を開始。

 

「鬼さんこちら!手の鳴る方はこっちだよー!」

 

「いっけええええええ!!!!」

 

対艦娘とは言え演習を繰り返してきた鬼怒と加古だ。砲撃の気配、狙いはどちらか。それくらいは読める。ただ、当たれば痛いやペイント弾でベタベタになるなんて生易しいものではない。直撃すれば死を覚悟せねばならないと言うことか。少しでもいい。ダメージを与えて鈍くさせていけばいい。

 

「ちょっと!隼鷹さんを放っておいていいの!?」

 

「今はこれしかないっすね!しっかりついてくるんだお!」

 

隼鷹はある程度は護衛なしでも艦載機を飛ばして何とかできる。ちょっとちょっかいをかけるだけだ。そうした後は3人で隼鷹の護衛に回る。

 

(くぅ~!かすみんとがっささんの動きがにぶーい!)

 

「かすみん!がっささん!もっと速く動かないと死ぬよ!!」

 

「ま、待って!ちょっと!」

 

(ちぃ、あのクソ提督、マジでぶん殴りたい)

 

烏丸提督の洗脳のせいで練度がないのだ。改二なのに練度1?なーんかどっかで山城さんの改二が神のいたずらで出たーとか言う話を聞いたことはあるが勘弁してほしい。

 

「砲撃用意ィ!!!!撃てえええええ!!!!!」

 

「撃て!撃て!!」

 

「そこ!!!」

 

漣との連携。コンマ数秒ずれる。1秒近くずれたのではないか?ええい、連携がうまくいかない。当たらない。漣の攻撃は命中したが霞と衣笠の攻撃は外れた。実際演習場で鍛錬もやってないわけだから連携も何もない。

 

「きゃっ!?やってくれたわねこのクズ!!!」

 

「かすみん!ちょっとまっ!」

 

霞が砲撃を受けた。それに激昂した霞がやり返そうと軽巡「ヘ級」に反撃。もちろん、当たらない。その当たらないことがよけいに霞を苛立たせ、乱射のような形になる。

 

「止めろ!!止めろ!!!!!弾薬を無駄にすんな!!!!死にたいの!?」

 

「!!!!」

 

霞を強く制止する漣。無駄に弾を消費したくない。敵がどれだけいるかわからないし、夜戦までもつれこませれば何とかなるかもしれない。

 

「衣笠さん!あのへ級何とかなりませんか!?」

 

「あ、うあ…あっ…」

 

衣笠の構える砲は震えている。この状況に呑まれている。そこはやはり付け狙われるものだ。

 

「危ない!!」

 

ガィイイイン!と漣が咄嗟に手を伸ばして12.7cm砲を盾に衣笠を守った。しかし、それにより漣の攻撃力が落ちる。砲が使えなくなったからだ。

 

「ボーっとすんな!!!撃てないのは仕方ないにせよ足を動かせ!!!!止まったら死ぬんだ!!!!ご主人様の所へ帰るんだろ!?だったら動け!撃たなくてもいいから動け!!!!!」

 

漣は頭脳だ。厳しい口調で言うのは死なせないため。とにかく動かないと演習でもすぐやられてしまっていたからだ。

 

「もっと足を動かそう。撃てなくてもいい。動き回ってて当たらなかったらいいのさ。そしたら弾切れを狙うのもありだな」

 

かつて三条提督が言っていた言葉だ。それを厳しく言っているだけ。これは演習じゃない。実戦だ。実戦で当たれば死ぬのだ。ガードした左手がビリビリしびれている。あちゃー、困りましたね…と漣はさっそく苦戦を強いられる。

 

「あーくそ、ちらっと見えた!やっぱ後ろに戦艦いますわー。てっしゅー!てっしゅー!隼鷹さんのフォローに回ります…!?魚雷!!!!」

 

漣はうっすらと見える雷跡を見た。まっすぐこっちを狙っている!!!

 

「回避いいいいいい!!!!旋回だあああああ!!!!!」

 

「遅カッタナ」

 

「ウフフフフ…来タノネェ…獲物タチガァ!アッハハハハハハ!!!!」

 

「潜水棲姫!?やっべえ…マジやっべぇ…」

 

「さ、漣…」

 

「とにかく隼鷹さんのところへ!!!くっそぉ!!!!」

 

一方で加古と鬼怒も潜水艦がいることに気を遣って重巡をうまく攻撃できないでいた。

 

「くっそー!潜水艦とか聞いてねえぞ!?」

 

「重巡棲姫自体も聞いてないってば!あたしが処理するから、ごめん、少しの間お願い!」

 

「あいよー!!」

 

持っててよかった、万が一の爆雷。とにかく潜水艦を何とかしないと攻撃に集中できない。鬼怒は対潜を鍛えられた。白雪が得意としていたのだが1人ではまずいと玲司に鍛えられていたのだ。

 

「あで!」

 

砲撃を喰らう。艤装の一部を抉り、煙が噴き出す。

 

「っの野郎!!!やらぁやがったなー!!!」

 

「ソ級かぁ…だー!ひょいひょい避けるなー!」

 

「アハハハハハ!!!ヤッテオシマイナサァイ!!!」

 

潜水棲姫が楽しそうに嗤っている。砲撃をぶちかましたいがすぐに潜って逃げるだろう。さらに重巡棲姫もいるし護衛もいる。しっかり守られて随分と余裕だ。

 

「おい漣、大丈夫か!?」

 

「何とか!こっから隼鷹さんの護衛をしますヨ。てりゃー!」

 

隼鷹を狙おうとしている戦艦の邪魔をする。しかし、ル級の分厚い盾を兼ねたような砲塔は駆逐艦の砲撃などものともしない。

 

「オラァ!喰らっとけー!!!」

 

バッシャアアアアン!!!と水柱が何本も上がる。それは隼鷹の艦攻の魚雷だ。戦艦の隊列が崩れたところに連撃かのように今度は空から艦爆が爆弾を投下し、何隻かのル級を始末する。

 

「うお!?」

 

ヒュン!と隼鷹のみみたぶを少しちぎるかのように弾が通って行った。その後ろでズガァン!と爆発音がする。

 

「ぎゃあ!!!」

 

「!?しまった、加古!!!んの野郎、いい腕してんじゃねえか」

 

隼鷹を掠める形で加古を狙ったのは重巡棲姫。その一撃は戦艦ル級をも凌ぐ破壊力を持っている。

 

「ぐ、ぐおお…目が覚めるねぇ…つつつ…」

 

「加古、大丈夫!?あっ!」

 

ドゴン!!!と爆発音。鬼怒はネ級の砲撃が直撃。中破。

 

「くうう…これくらいじゃ…鬼怒は沈まないよ…!!!」

 

ちまちまと敵を潰しているが穴が空くどころではない。少しずつ包囲の幅が縮まり、攻撃が激しくなってきた。

 

「ど、どうすればいいの…いや、死にたくない…死にたくない!!」

 

霞が頭を抱えてうずくまる。チュン!とこめかみを掠めたために血が流れ出た漣が無理やり霞を立たせて再び怒鳴る。

 

「泣くな!喚くな!!!死にたくないなら撃て!!!1隻でも!駆逐艦でもいいから倒せ!!!ガタガタ震えてるだけなら建造したての駆逐艦でもできる!!!!仮にも改二だろうが!!!いつもの強気はどこへ行った!?撃て!死にたくないなら撃て!!!!」

 

「アッハハハハハハ!!!ココニキテ仲間割レカ!見テイテ痛快ダナ!イイゾ…モット絶望シロ…ムッ!?」

 

ガイイイイン!!!と鈍い金属音が聞こえた。艤装に傷がついている。

 

「うるせえんだよクソババア!!!愉悦に浸って楽しいでちゅかー!袋叩きにしてさぞ楽しいでちょーねー!諦めはクッソ悪いですからねぇ!そんな簡単に死んでやるもんかってのー!ベー!!お前の親玉デベソー!!!!」

 

「漣ぃ、お前まーた口すんげー悪くなってるって…ちっ、ツ級にやられていってんなぁ…あたしもまだ踏ん張るっつーの!」

 

「オラアアアアア!!!!こんのヘンタイ野郎共があああ!!!五ヶ丘提督の加古さんをなめんじゃないよ!!!歯ぁ食いしばれ!じゃねえと死ぬぞ!!!!!」

 

ズガァン!!と20.3cm砲を撃つ。重巡を何とか屠る。

 

「潜水艦、こっちは始末したけど…まだいそうだね…加古、手伝うよ!!」

 

「おう!助かる!いっくぞオラァ!!!!!」

 

………

 

「諦め悪くいこうや。すぐ諦めるのはよくないことだよ」

 

………

 

三条提督に言われたこの言葉が彼女たちをここまで奮い立たせた。それと同時に五ヶ丘提督の勝利の為にも。この戦い、三十六計逃げるに如かず。逃げるが勝ちだ。何としてでも穴を作りたい。あるいは夜に持ち込ませたい。いや、しかし損害がでかい。自分も砲は1本ダメになっているし、加古さんや鬼怒さんも中破。隼鷹さんは夜は何もできない。練度が低い霞と衣笠さん。ええい、八方塞がりじゃないか。無線通じないしさ。

 

「クククク、ドコマデモツカ楽シミダナ」

 

「エエ…クスクスクス」

 

姫2人が優越感に浸っている。ちくしょう、ふざけやがって。ああ、とにかくかすみんとがっささんが砲撃を始めてくれたのは助かる。

 

「ソコダ」

 

「きゃああああ!!!」

 

「がっささん!?クッソ!!」

 

頼みの攻撃の要、衣笠が重巡棲姫の砲撃で大破。もはや攻撃はできない。霞は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら戦っている。あーかすみんもこんな顔になるんですねぇ、と呑気に思う。ちくしょう、これじゃマージで全滅ですネ。

 

じりじりと迫る艦隊たち。逃げ道はもう分厚い層によってない。もう、ここまでか…?夕暮れがすぐそこまできていた。

 

「アハハハハハハハ!!!!ドウシタ!モウオシマイカ!?威勢ガヨカッタノハサッキマデダッタナァ!ナニ、心配ハイラン。ソコノ駆逐艦ノヨウニ全員鼻水ト涙デ絶望ニ暮レテ沈ンデイクガイイ。ソシテ、貴様ラノ提督ノ無能サヲ恨ムトイイ」

 

ガォン!!!

 

再度漣が発砲。今度はかわされたが。

 

「貴様ァ」

 

「ご主人様を馬鹿にするやつはぶっ殺します。さっきからうるせえBBAですね。BBAって意味わかりますぅ?ババアって言うんですよぉ。あっ、言っちゃった、テヘペロ☆」

 

この期に及んでまだ重巡棲姫を挑発する漣。隼鷹も砲撃のダメージが積み重なり、中破。もう艦載機は飛ばせない。

 

「チッキショー!!!!ここまでかー!!!!!だったらぶんなぐーる!!!!」

 

「漣チャンもまーだやりますよー!!!」

 

「へっ、面白くなってきた!目ぇ覚めてきたよ!」

 

「え?加古今まで半分寝てた?」

 

「寝てねえけどもっと目ぇ覚めた!!!」

 

「………死ぬのはうぐっ嫌ぁ…」

 

「……こんなの、どうしろって言うの…」

 

霞、衣笠は絶望に顔を歪めているが漣たちはまだ笑っていた。絶望しようが撃たなければ死ぬ。さきほどの漣の檄はまだ生きているらしい。霞も衣笠も叫びながら砲撃を繰り返す。

 

「脆いけど加古とか衣笠の盾くらいにはならぁ!!」

 

砲撃を自分の体で受け止める隼鷹。みるみるボロボロになっていく。

 

死ね

 

「ガッ!?」

 

加古の艤装がもうボロボロだ。動けなくなった。鬼怒が何とか引っ張るがそこを狙い打ちされる。

 

死ね

 

「痛いいいい!!!」

 

重巡リ級の砲撃が霞に刺さり、もんどりうつ。

 

死ね

 

「ぎゃっ!?」

 

潜水艦の魚雷がいつの間にか迫っていた。衣笠がやられた。

 

死ね

 

「くっそぉ!!!!!」

 

最後まで奮戦したが…重巡棲姫の砲撃で大破し、もはや何もできなくなる漣。

 

死ね

 

死ね

 

死ね

 

死ね

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

しずめしずめしずめしずめしずめしずめしずめしずめしずめ

 

シズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメ

 

360度、どこを見渡しても殺意しかない。

 

「ハッ、ここまでかよ…」

 

「ちっくしょー…こいつはきつかったぁ…」

 

「提督…ごめんね…」

 

加古も、鬼怒も、隼鷹も…諦めていた。

 

ここからどうすればいい?漣たちはどうすれば助かる?

 

そこで問題です!漣ちゃん達はこの大破した6人でどうやってこの群れから逃げ出すか?一つだけ選びなさい。

 

1、キュートでチャーミングな漣チャンは突如反撃のアイデアがひらめく。

2、別の艦隊が助けてくれる。

3、逃げられない。現実は非情である

 

漣としては答えを2に〇をつけたかったが、無線は通じないわここの作戦が他の…たとえばブルネイが知っているかどうかさえも怪しい。助けに来てくれることは期待できない。

 

やっぱり…答えは1しかないようですネ!!!

 

漣は隼鷹に無理やり立ち上がらせてもらって重巡棲姫にありったけの砲撃をぶちかまそうと言うアイディアをひらめく。しかし、その隼鷹さんももう立ち上がるチカラも残っていない。失敗に終わる。万策尽きた。

 

答え-3、答え3、答え3

 

「………けて…」

 

「ドウシタ?何カヒラメキデモシタカ?」

 

「助けてよぉ!!!死にたくないよぉぉぉぉ!!!ご主人様!!!!!助けてよおおおおおおお!!!!」

 

「クハハハハハハハ!!!!!!惨メダナ!!ソノ顔ダ!!!ソノ顔ガ見タカッタ!!!アハハハハハハ!!!ヤクタタズドモメ!!!ソレデハ終ワリとイコウ!!!沈メロオオオオ!!!」

 

漣たちを取り囲む重巡や戦艦が砲を構えた時だった。漣たちも、深海棲艦達も、何か耳が痛くなるような高音が聞こえたような気がした。

 

キイイイイインと。耳鳴りか?

 

「ナンダ、耳鳴リ?」

 

「耳ガ痛イワァ」

 

「貴様モカ…ナンダ…?」

 

そこで深海棲艦達が砲撃を辞めたのが失敗だった。その耳鳴りのような音は、やがて耳をふさぎたくなるような轟音に変わった。

 

キイイイイイイイイイン!!!!!!!

 

何だ、何か来る…。敵か…ああ、援軍ですか。もう、終わりですね…ごめんなさい、ご主人様。本当はご主人様のこと…。

 

ズガアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!

 

目を閉じた時、轟音。ああ、誰か撃たれたのかな。苦しまずに沈めてほしいなぁ。そう思っていた。

 

「ナ、ナニィ!?」

 

重巡棲姫が慌てふためく声が聞こえた。目を開けるとあちこちから立ち上る黒い煙。爆撃…深海棲艦に…?

 

しばらく遅れて空からブロロロロロロ…と言う音が聞こえた。

 

「敵機直上!急降下ァ!!」

 

気付いた時にはもう遅い。それはもう爆弾を投下準備に入っていた。遥か上空から超高速で、まるで墜落するかのように落ちてきた艦載機が爆弾を投下していた。またしても轟音。周りの深海棲艦が爆散する。

 

「エエイ!何ヲシテイル!!サッサトソイツラヲ沈メロ!!!!」

 

そうして戦艦タ級や重巡ネ級が砲を構えた。しかし…

 

ドッゴォ!!!!

 

ザン!!!!!

 

漣を撃とうとしたル級は彼方へ吹っ飛んでいき、リ級達は両断されていた。何だ…?何が起こった?

 

バシャアアアアアアアアン!!!!!!

 

巨大な水柱。魚雷が炸裂したらしい。呆気に取られていると、誰かが立っていた。夕陽に照らされ、金色に輝く美しい髪。それと対照に黒い服。駆逐…艦?

 

「大丈夫っぽい?」

 

なんちゅう呑気な…こっちゃあ重傷ですよ…。覚えがある。この娘は…夕立…?いや、それにしては…目が…なんて…きれいな…紅色。

 

「あー、大淀聞こえるー?みんな無事ー。みんな死にそうだけど。おーい摩耶達さんや。早く来て保護しておくれよー。あーうっさ。ぽいぽいー、先に暴れておいてー。朝潮も神通ももう来るっしょ」

 

「了解っぽい!」

 

その瞬間、ニタァ…と狂気にも似た笑顔を浮かべた。目の輝きがさらに強くなった。

 

漣たちもわけがわからなかった。しかし、援軍と言うことはわかった。思いきり蹴り飛ばされたル級は胴が凹んでいて、絶命…撃沈されたようだ。ブクブクと泡になって沈んでいく。今の蹴り、正直言って駆逐艦ができるような蹴りじゃないっしょ…。

 

「た、助けが…きたのか…?」

 

あまりに突然の事。不可解な出来事なために隼鷹も頭が働いていない。殺されると言う危機が過ぎたと言うことだけはわかった。隼鷹も、加古も鬼怒も思っていた。間違いなくこの金髪に黒い服。夕立だろう。ぽいぽい言う陽気な性格だが…ひとたび戦闘となると改二は特に攻撃的な艦娘だ。

 

なぜだろうか。夕陽に照らされる金色の髪。その後ろ姿が、自分達は助かると言う安心感があった。後ろでは誰かが無線で話をしていた。北上か…?これまたすさまじいオーラを醸し出している。なんだ、この艦娘達は…どこの艦娘だ…?

 

さらに別の方向から爆発音と共に駆逐ロ級やホ級などが蹴散らされているようだ。

 

「オラァ、ザコはどけクマァ!!!長月ィ!菊月ィ!!道をもっと開けろクマァ!!!」

 

「任せろ!!!」

 

「ああ…!」

 

「ナ、ナンダ。ナニガオキテイルノダ…!」

 

球磨と…多摩、長月、菊月、三日月、望月の艦隊。戦艦はいるがほぼ水雷戦隊だ。

 

「助かる…んだよね?」

 

鬼怒がそう漏らした。

 

「そうっぽい。みんなを助けに来たっぽい」

 

くるりと振り返る夕立。その瞳の美しさに、漣たちは惹きこまれた。

 

「大淀さん。命令を頂戴」

 

その瞳は、宝石に見えた。

 

「うん…うん…」

 

美しく人を魅了する紅玉。双眸に紅玉をはめ込んだかのような瞳。

 

「わかったぽい!帰ったら提督さんにいーっぱい褒めてもらうっぽいー!」

 

しかし、本物の紅玉にも見えた。

 

「じゃあ、ちょっと待っててほしいっぽい。もうすぐ摩耶さんたちも来るだろうし、球磨さん達が連れ出してくれるっぽい」

 

全ての命を刈り取る死神の瞳にも見えた。

 

その艦娘の名は…

 

「さあ、最っ高に素敵なパーティー…始めましょ?」

 

駆逐艦「夕立」…『紅玉の女王』




大ピンチに陥った漣たちの前に現れたのはすさまじい勢いで敵を屠る艦娘の艦隊だった。

現れた艦娘、夕立。次回はその凄まじき殲滅戦をご覧いただければと思います。

そして、謎に包まれていた球磨、多摩。どこの球磨と多摩かはご存じかと思いますが彼女たちの本気も少しだけ垣間見れます。

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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