提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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突如現れた紅色の眼をした駆逐艦夕立。そして見たことのある光景。
「紅玉の女王」…その夕立はなぜ駆け付けることができたのか?
それと同時に何だか大暴れしそうな球磨…こちらもどうやって駆けつけたのか?

今度は漣たちの視点ではなく、彼女たちの視点で語っていきましょう。


第二百三十五話

/リンガ泊地

 

漣たちが出撃してしばらく経ったあるとき、青葉が執務室に飛び込んできた。拭いきれない不安感を抱えていたため、凄まじい形相をし、殺気さえ放っているかのように見えた五ヶ丘提督に恐怖を覚えた。その前にも陸奥と加賀たちに怒鳴ったと言う話を聞いてしまったがために恐怖が蘇る。

 

「し、司令官…今、大丈夫ですか?」

 

「……青葉か、どうした?」

 

ギロリ、と言う音が聞こえそうなくらいの形相だった。たじ…と少し引いたが連絡は連絡だ。きちんとしなければ。

 

「あ、あのぉ…横須賀鎮守府の大淀と…鹿屋基地の球磨さんが司令官に会わせと言っていまして…」

 

「は、は?横須賀と鹿屋…鹿屋!?す、すぐ通してくれ!!!」

 

「は、はいいい!!!」

 

バン!と身を乗り出して青葉に催促した。青葉は飛んでいくかの如く走っていった。

 

神はオレを見放していないのか…今最強になるかもしれないと言う横須賀鎮守府。そして…師であるどうあがいても勝てないであろう刈谷提督が所属している鹿屋基地の艦娘。

 

救いの女神たちが五ヶ丘提督に現れた。そんな気がした。

 

………

 

「横須賀鎮守府の大淀、参りました」

 

「クマー。鹿屋基地の球磨だクマー」

 

「どうして…ここに?」

 

「ここは球磨ちゃんが説明してやるクマ。球磨ちゃんとこの提督がソロモン海域の深海棲艦の討伐の指令を受けたクマ。まあ今は時間がねえから思いっきりはしょるけど、とにかく五ヶ丘提督のとこの艦娘が出撃する可能性が高いから、お前ら救助に行け。んでもって横須賀から2艦隊出させたから援護しに行け。そう言われたクマ」

 

「補足をしますと五ヶ丘提督の艦隊が全滅するおそれがあると刈谷提督に言われましたので…私達横須賀の艦隊は深海棲艦の殲滅とリンガ泊地の艦隊の救助を任されております」

 

「球磨ちゃん達は横須賀の救助隊のために逃げ道の確保と、できるなら親玉の撃沈を任されてきたクマ。まあ球磨ちゃんや多摩がいるし、横須賀の大淀の頭はやべえほどいいから、まあ何とかなるクマ。大船に乗ったつもりでいるクマ。で、ここの艦隊が誰が行ったのかと、出撃した時間を教えろクマ」

 

めっちゃくちゃ偉そうな球磨だな…何て言うか刈谷提督を写したような…。うん、まああまり反論とかすると後が怖そうだクマ…うつったじゃねえか。

 

漣たちが出撃してからそれなりに時間が経つ。まさかとは思うがタイミングまで読んでいた?刈谷提督…こええよ。どっかで見てんじゃねえだろうな。

 

「なるほどクマ。んじゃあまだ全速力で行ったら間に合うクマ、大淀?」

 

「はい、問題はないかと思います。そのために軽めの編成を組んでいます。索敵及び漣さんたちの捜査はお任せください。その後、球磨さんに指示を出させていただきます」

 

「ほいほい、了解クマー。んじゃのんびり待つクマ。てーか急ぐかー」

 

「そうですね。早くしないと姫級がいるとの話です。艦隊も多いでしょうから急ぎましょうか」

 

「りょーかいクマー。姫級…腕が鳴るクマねぇ…グェッヘッヘッヘ…」

 

(ううう…鹿屋基地の艦娘ってこんな方ばかりなんでしょうか…阿賀野さんはまだマシなようにみえましたが…)

 

「す、すまねえ…!漣たちを頼む!!」

 

「任されたクマー。見かけた深海棲艦は全員グリンかまして海の底に沈めてやるクマー」

 

「グ、グリン…?」

 

「見てたらわかるクマー」

 

大淀は球磨に恐怖を感じながらも出撃をしたのだ。五ヶ丘提督は安心していいのか…ダメなのか…よくわからなかったが藁にもすがる思いで球磨たちが無事に間に合ってくれることを祈るしかなかった。

 

なお、電話してもやっぱり刈谷提督にも横須賀にも電話は繋がらなかった。

 

………

 

「この編成、懐かしいよなぁ」

 

「そうですね…あの時の編成そのままですね」

 

摩耶と神通が話し合う。そう、本当にこの編成は偶然か必然か。万が一の救助隊として編成されたのは…

 

瑞鶴(旗艦)、摩耶、北上、神通、時雨、夕立。

 

「雪風を助けに行ったときだね~。いやー、玲司って何を思ってこの編成をしたのかって思うけど…この場合最上のがよかったんじゃない?」

 

「んだよ!あたしだってちゃんと救助に一役買ってただろ!?」

 

「あ~、そうだってね、めんごめんご~」

 

「北上てんめえ!!!」

 

「ま、まあまあ…夕立…あの時のような暴走はなしだからね。単独先行は危険だからね」

 

「わかったっぽいー」

 

「雪風ちゃん救助の時よりも遥かに緊張感がない…」

 

瑞鶴が頭を抱える。時雨が真面目なのが助かる。しかしまあ北上と摩耶は揉めているし、夕立は今にも飛び出しそうだし、神通も同じだ。目を閉じて落ち着き払っているように見えるが…おそらくその目が開いた時は夕立と一緒で飛び出していこうとするだろうな…。

 

しかし、と瑞鶴は思う。このメンバーはベストに近いだろう。あの時に比べて瑞鶴達は遥かに強くなった。瑞鶴も、夕立も、時雨も、摩耶も…みんな改二だ。神通もそうであるし、何より「玉璽(レガリア)」と言う明石が専用で作りだした艤装を装備している。自分だって最強の艦爆隊「黒鶴隊」…そしてジェット機である橘花改がある。

 

間に合え…いや、間に合わすんだ。雪風の時と一緒だ。絶対に助ける。本音を言えば戦闘に入る前に間に合ってくれれば問題ないのだが…。

 

「大淀さん、どう思う?瑞鶴達、漣ちゃんたちに間に合うと思う?」

 

「最悪のパターンとしては戦闘中…それもやられかけ一歩手前…と言うのが想定されています。時間的にも、おそらくは着いたときには戦闘状態になっていると思われます」

 

「で?着いた時には夕方になると思うんだけど、日没ギリギリに潜水艦を処理しろって随分無茶なことを言ってくれるわよね?」

 

横須賀第2艦隊旗艦、五十鈴がちょっと膨れている。無理もない。間に合った時には夕方。おそらく日没まで幾ばくもない。そんな中で大急ぎで五十鈴、潮、響、朝潮、名取と大淀で潜水艦を片付けないといけないのだ。しかも、満足な対潜装備を持っているのは五十鈴、潮、大淀だけだ。朝潮、響は夜戦を見込んで水上戦での装備だ。

 

「う、うぐ…そ、それは申し訳ありません…」

 

「ま、いいわ。五十鈴の目があれば何とかなるわよ。この五十鈴がちゃっちゃと潜水艦を撃沈してあげるんだから!」

 

「ちょっと、あたし達も忘れないでほしいわよね!」

 

満潮だ。何と横須賀は潜水艦隊を潰すためにもう1艦隊出撃させていた。

 

阿武隈(旗艦)、霰、朝雲、山雲。響たちと同じく夜戦を見越して綾波。そして朝潮の『牙』の調整及び他の艦娘達の調律を現地で行うための満潮。

 

過剰出撃では?同時に鹿屋基地からの出撃が少ないのでは?と思うが横須賀の方が戦力が今回は充実していると言う判断だった。そして…朝潮、神通と言う『女王』を使うこと。明石がもういつ開花してもおかしくないと言う、夕立。

 

現地でも調律をできるように修行してきなさいと秋津洲に言われた満潮。いろいろと豊富すぎる経験になるであろうから横須賀はこれだけ出した。一方で鹿屋基地はこれまた戦力過剰なくらいだ。

 

鹿屋では戦艦よりも恐ろしい球磨と多摩。鹿屋最強の駆逐艦姉妹長月、菊月。的確に周囲を見回して状況を判断する冷静な三日月。ブレイン望月。救出するための穴づくりをするための戦力であると言うが…

 

「何の姫がいるか知らねえけど球磨、多摩、お前らでそいつ潰してこい」

 

そう刈谷提督に言われている。こうなると深海棲艦が哀れになるほどの戦力だと思う。

 

(さーて?大和や武蔵ばっかりが注目されてるけどこの編成で大丈夫なのか…見極めさせてもらうクマ。データ収集も球磨ちゃんの仕事クマ。まあ、データ報告は望月がやるけど)

 

球磨は緊張感がまったくない横須賀艦隊をちらちら見つつ様子を眺めるのだった。

 

………

 

陽が傾きつつある。摩耶と瑞鶴が索敵目的で艦戦や観測機を飛ばしている。

 

「……ん、砲撃音が聞こえるね。やはり戦闘が始まっているみたいだ」

 

「「えっ」」

 

探索に全力を注いでいた摩耶と瑞鶴が声をあげた。どっちが先に見つけ出すか、と躍起になっていたのだが…。響が一番早かった。

 

「どっち!どっちっぽい!?」

 

「2時の方角だね。瑞鶴さん、摩耶さん、そっちに艦載機を飛ばしてもらっていいかい?」

 

「「りょ、了解…」」

 

慌てて艦載機に指示を飛ばした。それと同時に大淀は瑞鶴に指示を飛ばす。

 

「瑞鶴さん、『橘花改』発艦準備を!万が一を考えた場合、最速で向かったとしても危機を回避できる可能性が低いです!お願いします!」

 

「了解!!」

 

スチャ…と矢をつがえる。雪風の時と同じように間に合わせなければならない。あの時は艦載機と言うと速度が出ないものだったが、今回は違う。橘花改。その速度は艦載機最速だ。響の聴力を信頼している。だからこそ、響が指差した方向へ向けて矢を放つ。すでに「黒鶴隊」も発艦させている。それよりも先に橘花の爆撃が届くだろう。

 

「……!」

 

「いた!いたぞ!やっべえ!雪風んときと一緒じゃねえか!」

 

ドン!!!!!

 

その瞬間夕立が飛び出していた。朝潮も飛び出していた。

 

「ああ!おい!お前またかよぉ!コラ神通、お前も止まれ!!!!瑞鶴、何とか言え…「瑞鶴航空隊、『橘花改』…発艦!間に合え!!!!!」」

 

「瑞鶴~、摩耶~、あたしも先行くねー」

 

「ああ、ちょっと、姉さん!!!!」

 

「わあ!満潮ちゃん!隊列崩しちゃダメですぅ!」

 

「阿武隈さん、止めないで!姉さんが何するかわかんないのよ!!!」

 

「各員、速度を上げてください!全速力!夕立さんたちは…前もああだったんですよね…夕立さん達を信じましょう…」

 

「大淀さん!朝潮姉さんを呼び戻してよ!!」

 

「いえ…夕立さんといいコンビを組みそうなのでこのまま行かせます」

 

「むう、なら私も行くか」

 

「ああ!?響さん!?ああー!もう!どうしてこう隊列を乱すのが好きな艦娘だらけなんですか!?」

 

「大淀、今更だろ…」

 

ぽんと摩耶が大淀の肩に手を置いて首を横に振った。

 

………

 

(はやくはやく。もっとはやく)

 

まただ。あの時と一緒。夕立はどこからか声が聞こえていた。

 

「夕立、もっと速く走れるっぽい?」

 

その言葉に聞いてみた。

 

(もっとぐっと前に足を踏み出してごらん。大丈夫。うまくいく)

 

「わかったっぽい!」

 

もう少し足を前へ出してみた。

 

(蹴りだすんだ!)

 

「ぽい!!」

 

グン!!!と加速した。その速さは島風と走っている時の比にならない。

 

「ウ、ギギ…!」

 

すごい風圧で目が開けられない。いや、こんな状態では敵を見つけられない。

 

キイイイイイン!!!と頭上をものすごいスピードで駆けていく何か。瑞鶴さんの艦載機だろう。あんな風にもっと速く走りたいな。

 

(まだまだ。もっともっと)

 

「まだいけるっぽい?」

 

(いけるよ)

 

「……夕立…突撃するっぽい!」

 

ドン!と水柱が立つほどの蹴りだし。ああ…島風ちゃんはこれよりももっと速いスピードで走れるっぽい?ああ、風が気持ちいいっぽい。もっと走っていたい…。島風ちゃんに追いつけなくてもいい。それでも…もっと速い景色を…!

 

実際にこれは島風が7割程度のスピードで走っている時の速度だ。「ハヤブサ」には追い付けないが夕立にとっては、いや、横須賀の「原初の艦娘」を除けば最速だろう。

 

敵が見える。あの時と同じだ。雪風が砲を突き付けられて今まさに沈められようとしている時と同じだった。届かない。これじゃあ届かない。間に合わない。撃つか?いや、ここで撃って無駄に弾を消費したくない。

 

ドッゴォ!!!!!

 

大爆発。瑞鶴さんの爆撃っぽい。何か深海棲艦が叫んでるっぽいけど…その瞬間さらに大爆発。瑞鶴さんだ。

 

でもまだだ。漣ちゃんたちは見えたけど…まだ足りない。声は聞こえない。ここでもう速度は限界のようだ。届け…間に合って…間に合え!!

 

「夕立さん!!!!!!」

 

後ろから全速力で走ってきた朝潮が叫ぶ。

 

「乗ってください!!!!」

 

ドン!と足を蹴りだすと夕立目掛けて放たれる『牙の女王』の必殺、水の刃である牙だ。それは訓練で散々練習した牙。標的を噛み砕く牙。しかし朝潮はそれを一撃必殺の武器にするだけでなく、あることを考えたのだ。それこそが。

 

「ぽい!助かるっぽい!!」

 

タイミングを合わせて跳躍する。そしてその牙に…乗った!!走るよりもさらに速い速度で深海棲艦に向けて迫る。夕立だからこそできると確信していた朝潮は、夕立と相談して牙に乗る練習をしていたのだ。

 

危うく切り裂かれそうにもなった。むしろ吹っ飛ばされてドック入りなんて最初は何回もあった。弱いとは言えその衝撃は凶悪だった。何度も失敗を重ねて…それは成功した。牙に乗る。そのスピードは自分が奔るより。島風が走るより速かった。

 

「ずっるーーーい!!!!」

 

島風がものすごく怒っていたっぽい。でもそれは戦闘で使おうと思ったので夕立は島風との追いかけっこでは絶対に使わなかった。

 

実戦での一発成功。夕立はそれがたまらなく嬉しく、興奮した。楽しい…楽しい!最高に気持ちいいっぽい!!!

 

「………?あの紅い光は…?」

 

朝潮は夕立の後を追いかけるように光る紅い光を見た。

 

………

瑞鶴が飛ばした艦載機のおかげで夕立が漣のところへ向かう穴が空いた。瑞鶴は艦戦の目を頼りに夕立が一直線で漣たちのもとへたどり着けるように大きめの穴を空けたのだ。

 

夕立は飛び出す準備をしつつ、状況を判断する。この牙は漣たちを狙う深海棲艦の中でも当たる奴と当たらない奴がいる。それを瞬時に見極めた。

 

「あのル級には牙が当たらないっぽい…なら…」

 

牙の上でバランスを整え、飛びかかる準備をする。視線は頭上。慌てたのか漣に向けて砲を放とうとしていた。それは他の深海棲艦も同じ。だが朝潮の牙は正確に他の深海棲艦を狙っている。自分はル級だけ何とかすればいい。砲を撃とうとした瞬間、夕立は牙を蹴りだした。そして…

 

ドゴォ!!!!

 

牙の飛ぶスピードはそのままに夕立はル級に強烈と言うかもはや砲弾が直撃するかの如く、無防備なル級の胸を蹴り飛ばした。何かが砕ける感触が夕立の足に残った。その蹴りは無防備なル級の胸骨を粉々に砕いた。そして機関…心臓を潰すには十分すぎる衝撃だった。

 

勢いが凄まじすぎたため、石が水を切って飛ぶかのごとく、夕立も水面を跳ねた。夕立は四つん這いになり、猛獣が地面に爪を立てるかのごとくに指を曲げ、ブレーキを掛ける。そして呆気にとられている深海棲艦を無視して漣たちの前に戻った。

 

その美しくもあり、しかし恐怖さえ覚える紅玉のような瞳に深海棲艦は怯えていた。艦娘には惹きこまれる瞳に。深海棲艦には命を刈り取る死神の目に見えた。

 

「大丈夫っぽい?」

 

夕立は周りの深海棲艦など無視して軽く声をボロボロになっている漣たちにかけた。そう声をかけると漣たちの背後で落雷でもあったかのような轟音。

 

バッシャアアアアン!!!!!

 

黒髪のおさげをぶらさげ、どこか気だるそうな顔をしている艦娘。北上だ。

 

「あー、大淀聞こえるー?みんな無事ー。みんな死にそうだけど。おーい摩耶達さんや。早く来て保護しておくれよー」

 

『承知しました。私達も朝潮さんたちにやや遅れますが間もなく到着いたします』

 

『うるせえなぁ!お前らが先走るからだろぉ!?雪風の時と言いちったぁ団体行動しろってんだよ!』

 

「あーうっさ。ぽいぽいー、先に暴れておいてー。朝潮も神通ももう来るっしょ」

 

「了解っぽい!」

 

北上にそう言われた夕立はニタァ…と紅色に光る目を細め…獣が獲物を狩るかのような態勢を取る。

 

(さあ行こうか。やっつけちゃおう。大丈夫。思いきり動いて大丈夫だよ)

 

「わかった…わかったよ…」

 

ボソリと誰にも聞こえないように見えない誰かに返事をした。

 

「オラァ、ザコはどけクマァ!!!長月ィ!菊月ィ!!道をもっと開けろクマァ!!!」

 

「任せろ!!!」

 

「ああ…!」

 

そうしていると球磨や多摩たちもやってきた。背後に戦艦の気配がしたように見えたけど…それを簡単に片づけちゃったんだ。すごいなぁ。夕立も負けてられないっぽい。 

 

「ナ、ナンダ。ナニガオキテイルノダ…!」

 

狼狽える深海棲艦達。特にあの大きいのは何かさえわからない。アレは球磨さん達が相手をするはずだから。夕立はここで…存分に暴れてやるっぽい!

 

「助かるん…だよね?」

 

重傷の鬼怒がそう漏らした。ああ、早く暴れたいんだけど無視するのも悪いっぽい。

 

「そうっぽい。みんなを助けにきたっぽい」

 

そう言うと無線を繋いだ。

 

「大淀さん。命令を頂戴」

 

大淀に指示を仰ぐ。

 

『わかりました。提督や瑞鶴さんは夕立さん、北上さん、神通さんは止めようがないと仰っておられましたので私も制御は致しません。ですが、万が一中破、大破をした場合はすぐさま撤退をしてください」

 

「うん…」

 

『これはくだらない人間たちが五ヶ丘提督失墜を狙った罠です。正直私達艦娘を愚弄しています。ですが、刈谷提督の迅速なしめあげ…いえ、発見によって壊滅は防げました。許せるものではありません』

 

「うん…」

 

『ですので、この場にいる深海棲艦は全て!全て沈めなさい!これが刈谷提督と!我らが三条提督の命令です!思いきりやってしまってください!!!』

 

「わかったぽい!帰ったら提督さんにいーっぱい褒めてもらうっぽいー!」

 

その緊張感のなさは漣たちを不安に陥れたかもしれない。しかし、漣たちは知らない。その夕立が…今まさに新たな『女王』として覚醒したと言うこと。そして…深海棲艦にとって、まさに「ソロモンの悪夢」になると言うことを。

 

「じゃあ、ちょっと待っててほしいっぽい。もうすぐ摩耶さんたちも来るだろうし、球磨さん達が連れ出してくれるっぽい」

 

にっこり笑った後、夕立は何かわからない大きな深海棲艦の姫。そして深海棲艦達相手に強烈な殺気を込めた目で笑った。

 

「さあ、最っ高に素敵なパーティー…始めましょ?」

 

フッ…と夕立が消えた。跳躍。と同時に重巡ネ級の目の前に現れ、一回転したのちに蹴りを繰り出す。駆逐艦とは思えない蹴りに崩れ落ちる。武蔵が加わったことで近接攻撃も覚えた夕立。その攻撃力はえげつないものがある。

 

「ゴア…ガッ…」

 

「邪魔」

 

ズダン!!!!

 

頭に一発。これだけでネ級の頭は吹き飛んだ。ピクリと反応するとすぐさま再び跳躍した。紅色の一閃を残して。

 

「ハ?」

 

いない。消えた。どこへ?理解が追いつかない。ただの駆逐艦ではないのか?

 

「お前も邪魔」

 

ズドン!!

 

リ級の胴に穴が空く。

 

「ありゃりゃー、ぽいぽいマジな目じゃん?目めっちゃ光らせてかっこいー。さーて、あたしも負けてらんないかな。あたしも仕事しますかー。あ、そこの水雷戦隊さ、気づいた時にはもう死んでるよ」

 

バアアアアアアアアアン!!!!!!!

 

「気づくまでもないかー」

 

音もなかった。発射した気配もなかった。深海棲艦の水雷戦隊は気づく間もなく魚雷で吹き飛ばされた。音もなく魚雷を発射し、敵を始末する。それは音もなく敵を暗殺する。知らぬ間に命を刈り取るかつて死神と呼ばれた艦娘。

 

その艦娘の名は…

 

重雷装巡洋艦「北上」…静寂の暗殺者。

 

「沈メロ!!何ガナンデモ!!コノヤクタタズドモヲ!!」

 

「役立たずがどっちか思い知らせてやるクマー」

 

「…!?貴様…親衛隊ハ…」

 

「にゃ?あんなのが親衛隊?秒で沈んだにゃ」

 

「貴様ラハ…」

 

「どうもー、通りすがりの魔王だクマ。間違えて人間界に来ちゃったクマ」

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…おめーら…この世とお別れする準備はできたかにゃ?」

 

「ナ、ナメタコトヲ…マトメテ…シズメエエエエエ!!!!!」

 

鹿屋のグリズリーこと球磨。鹿屋の猛虎こと多摩。軽巡最強と呼ばれるこの2人が重巡棲姫の相手をする。

 

一方で漣たちを沈めようとしていた深海棲艦たちは阿鼻叫喚の地獄絵図のようになっていた。

 

「殺気がまるわかりです。回避は…容易ですね」

 

「…!?消エ…!」

 

その茨に絡みつかれたら最後。もがけばもがくほどに絡みつき、その茨によって切り裂かれていく。声は聞こえど声の主は姿が見えない。その茨の姫は…ありえない角度で曲がり、飛び、砲撃を的確に叩き込む。死の茨を絡めるその艦娘の名は…

 

軽巡洋艦「神通」…茨の女王。

 

「これで終わりです」

 

ドォン!!

 

砲撃の一撃がル級の心臓を一撃。軽巡が戦艦をまるで駆逐艦のように沈める。その動きを見た漣は「やばいですね☆」と思った。

 

「フフフ…キタノネェ…エモノタチガァ…エモノタチガフエタワァ!!!」

 

「馬鹿ね。潜水艦が敵を前にそんな声を出したら沈めてくださいって言ってるものよ?イムヤたちには耳にタコができるくらい教えたんだけど…あなたは全然ダメね!まあ、隠れていても…五十鈴には丸見えよ!!!」

 

「エッ!?」

 

「潮!霰!時雨!爆雷投下ァ!!!」

 

ナンデ?ナンデナンデナンデ???

 

潜水棲姫は今の今まで声を殺し、艦娘を魚雷でなぶることを楽しみにニタニタ笑っていたのだが一瞬にして笑顔が消えた。隠れていたのだ。気配を殺していたのだ。声すらあげず。なのになぜ、上を見上げれば艦娘の姿がある?水面の艦娘と目が合った気がした。絶対な自信を持ったような笑みで。

 

ゴポゴポと爆雷が投下された。それは潜水棲姫を取り囲むように投げ入れられた。五十鈴の指示だ。緻密に。絶対逃がさないように。外さないように。これをかわせるものならかわしてみなさい。それほどの自信が五十鈴にはあった。

 

「アアアアアアアアア!!!!!!!イヤアアアアアアアア!!!!!!」

 

爆雷が爆発する。一斉に。海の中で大きな花火がいっせいに打ちあがるかのように。潜水棲姫は一瞬にして爆散した。

 

「敵艦…反応、消失…です」

 

「よし!次いくわよ!大淀も人使いが荒いんだから!日が暮れるまでもう時間がない!トップは先に倒したから混乱しているはず!見えてるわ…丸見えよ…!」

 

「んちゃ…」

 

「は、はいぃ…」

 

「了解したよ」

 

対潜水艦戦に特化した4人が潜水艦を次々と屠っていく。潜水艦は日没までに倒さないとほぼ無敵だ。この五十鈴がいれば問題がなさそうに見えるが…しかし、念には念を。しっかりと全部倒しておかねばならない。そうでなければ、艦隊が危機に陥る可能性もある。あの時のような…妹を喪った時のような失態はもう侵さない。必ず仕留める。絶対に。絶対にだ。

 

一方で夕立は飛んだり跳ねたりとはするが、最初のような攻撃の勢いはない。攻撃を避けては反撃は無理にしない。

 

「ドウシタ駆逐艦。最初ノ勢イハモウナイノカ?」

 

「………」

 

「ベー、今は待つときっぽい。心配しなくてもあとで見せてあげるっぽい。ソロモンの悪夢」

 

夜を待っているのか。なるほどおもしろい。夜戦にもつれ込ませるとは言えまだまだ数はこちらが圧倒的。バカめ。この情けなく助けを求めて叫んだ艦娘と共に絶望に陥れ、沈めてやろう。

 

「夜まで待ってあげるっぽい。それまでは飛んで跳ねて、何だってするっぽい」

 

「てかさー、今でさえそっちはバンバン撃ってるのに当てれてないのに夜になったらボッコボコにしてやろうって魂胆?心配しなくてもいいよー。こっちがギッタンギッタンにしてあげるからさー」

 

皆夜を待っている。大淀がそれを指示しているのだ。なんとしてももたせてくれと

 

「おい!大丈夫か!?はー!やっと着いたー!もー、お前ら勘弁してくれよー!」

 

「摩耶おっそーい。さ、あそこ開いてるからちゃっちゃと脱出しちゃってー」

 

ズドーン!!魚雷が炸裂する。

 

「阿武隈艦隊!要救助者を夜になったら連れ出しますぅ!」

 

「朝ちゃん、しっかり今は守ろうね!」

 

「は~い。朝雲姉さ~ん。今はぁ、皆さんを囲んでぇ、お守りしま~す」

 

「朝潮と響さんは北上さんたちに加勢致します!」

 

「ハラショー、任せてほしい」

 

「期待してるよーん。あぶぅ、朝雲や山雲を頼んだよー。綾波、初陣だから気をつけなー」

 

「はい!綾波も足を引っ張らないように頑張ります!」

 

「いやぁ、綾波はまじめでいいねぇ~。朝潮は固すぎるけど、綾波はほどよくていい感じ~。うちのくちくって個性的ばっかりで疲れるわ~」

 

『大淀は離れた場所で瑞鶴さんと共に夜を待ちます。申し訳ありません』

 

「あーいいのいいの。瑞鶴を冷静に止めれそうなのって大淀くらいだろうしさー」

 

『ちょっとそれどういう意味よ!!!』

 

「あーうるさいうるさーい。さーて、夜が来るよー。あんた達もお待ちかねの夜が、さ」

 

まもなく日が沈む。海の底へ沈みゆくかのように。

 

「アノ太陽ノヨウニオ前タチモ海ノ底ヘ沈ムノダ…ククク、夜マデ待ッタコトヲ後悔スルガイイ」

 

「はいはい。その言葉、そっくりそのまま返すねー。さーて…」

 

コキコキと首を鳴らす。そうしているうちに…陽が沈んだ。辺りは闇に包まれる。その瞬間、夕立の紅い瞳が闇の中で光る。

 

(ナンダアノ艦娘ノ目ハ…)

 

「ソロモンの悪夢…」

 

ヒュン!!!と動きを見せた。闇夜に光るルビーのような光が線となる。そして、今喋っていた戦艦ル級は…

 

「ナ」

 

「見せてあげる!!!」

 

闇夜でもわかる。この駆逐艦はニタァ…と笑っている。嗤っているいると言うべきか。その目には明確な殺意。まさに命を刈り取る死の瞳。そう見えた。

 

ル級は口に砲を突っ込まれ、そして…

 

ダァン!!

 

頭がはじけ飛んだ。頑丈な装甲を持つ戦艦と言えど、内部から弾ければ装甲など意味を持たない。

 

「朝雲!退避するわ!さあ、動ける?動けるならさっさと立って!ほら!」

 

「え、なに…?めっちゃえらそう…ッスね」

 

「何?なんか言った?」

 

「ふふふ~。山雲も~。曳航して離脱しま~す」

 

「阿武隈に続いてくださーい!んぅ!邪魔です!!!」

 

「姉さん!『牙』は3発までよ!!」

 

「うるさい妹が残ってしまったね」

 

「……いや、それは…」

 

「何よ!?何か言った!?」

 

「何でもないよ」

 

緊張感ねぇなぁ…でも…マジでやべえぞこいつら。本気で深海棲艦を壊滅させる気だ。

 

「さーて、ギッタンギッタンにしてやりましょうかねぇ!」

 

「朝潮、いくわ!一発必中!これは、その、露払いだぁ!!!!吼えろ…『牙』!!!嚙み砕け!!!」

 

朝潮が夜戦開幕の一撃である「牙」を放った。3発のうちの一発。その牙は噛み砕くと言うか…切り裂く。鉄の塊でさえ切り裂くほどに圧縮された水の刃。ル級の盾のような砲台でさえ、紙切れの如く切り裂いた。

 

さらにはいつの間にか北上が放っていた魚雷が水雷戦隊に炸裂。眼前の水雷戦隊は速やかに爆発四散した。

 

スッと現れた名取によってホ級が沈められる。彼女は川内のようだ。「居る」のに「居ない」…驚異のミスディレクション。いつの間にか隣や眼前にいるのだ。そして連撃を放つ。

 

「………魚雷が来る。朝潮、少しこっちへ。それで当たらない」

 

「はい!」

 

響に近寄った瞬間に魚雷が朝潮の横を通り過ぎて行った。

 

「ありがとうございます」

 

「ダー。気にしないでほしい。私の耳にそれが聞こえただけだ。さて、私もやりますか。朝潮。背中は守っておくれよ」

 

「はい。響さんも頼みますよ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

朝潮と響。あれほどデコボコだったコンビは今やお互いに背中を預けることを任せるほどのパートナー同士となっていた。

 

「新月…ですね。ですが、全て『視えて』いますし、感じていますよ」

 

茨の女王神通のもう1つの能力「心眼」…それにより、暗闇だろうが関係ない。全ての敵を滅する。提督のために。神通は走り出した。

 

「あー、水雷戦隊に魚雷はもったいなさすぎたなぁ。んじゃまあ、夜だし砲撃でいっかー。あそこでワチャワチャしてる戦艦にぶちこんだらいいかー」

 

「北上ちゃん、サポートするね!」

 

「頼んだよ、名取~」

 

北上と名取。この2人も抜群のコンビネーションで敵を倒す。北上が敵の気を引き付け、名取がいつの間に敵を倒す。横須賀の黄金コンビである。

 

「………ぽーーーーい!!!!」

 

カッと目を開いた夕立。その眼は相変わらずルビーのような瞳。それが闇夜に光る。そうして、夜の狩りの時間が始まる。

 

夕立が駆けだしたと同時にブロロロロ!という艦載機の音が聞こえた。

 

『この瑞鶴の存在を忘れてもらっちゃあ困るのよ!!』

 

無線越しにそう勝気な声が聞こえた。




狩りのお時間です。

女王が3人。女王に近い艦娘がいっぱいの夜戦。深海棲艦は狩られるだけか?それとも狩る側か?蹂躙されるのか?するのか?深海棲艦の明日はどっちだ?

そして、鹿屋の超やばい精鋭部隊も重巡棲姫を相手にします。

深海棲艦の心配をしてあげてください(笑)

それでは、また。
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