提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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横須賀と鹿屋の艦娘による狩りのお時間です。毎度毎度辛勝ばかりな気がしますので、たまには圧倒的な戦闘を書いてみたいと思いました。

それでは狩りのお話をどうぞ。


第二百三十六話

夕立からしてみればこれは狩りのようだと思う。かつて戦ったあのおかしな奴。戦艦レ級1匹に比べれば大したことはない。それは神通も同じ思いであった。

 

足をちぎられ、「女王」と言う最高位の称号を得たにも関わらず、情けない醜態を晒してしまったあの戦い。あのような無様な戦いをもうするわけにはいかない。提督に栄光を。それこそがこの神通の生きる糧なのだから。「茨の女王」と言う名に恥じない戦いを!

 

「夕立さん、あの戦艦の群れを倒しましょう!」

 

「了解っぽい!」

 

「助太刀する!」

 

「同じく…!」

 

戦艦の群れ。水雷戦隊には厄介な連中だ。夕立と神通は真っ先にそちらを優先しようとした。そこに鹿屋の長月と菊月が合流。

 

「助かるっぽいー!」

 

「それじゃあ私達はそっちのリ級達を潰そうか」

 

「はいはーい、響と朝潮は水雷戦隊。あたしらに任せなー」

 

「そうか。それは助かる」

 

「承知しました!!」

 

それぞれが役割を決め、各所へ向かう。それぞれが恐ろしい実力を持つ艦娘ばかりだ。ただの駆逐艦や巡洋艦と侮ったならば、それは大間違いである。それぞれが一騎当千のチカラを持っているのだから。

 

………

 

「瑞鶴さん、本当に大丈夫なのですか?」

 

「心配いらないわ!まーたいつの間にか増えてた妖精さんと言うか…作業員さんのおかげと言うか…甲板を好き放題されちゃったわけだし…使ってみなきゃ損でしょ?」

 

「確かにそうですね…ふむ、潜水艦討伐部隊は離脱がほぼ完了。残る水上打撃部隊は夕立さん達と長月さん、菊月さんを筆頭に…問題ありませんね。こちら大淀。これより瑞鶴さんが夜間航空襲撃を行い、支援を行います」

 

『えー?夜なのに艦載機飛ばせんのー?』

 

「はい。明石さんと妖精さんで勝手に改修を行ったようでして…ですが今回だけの仕様です。夜戦を見越していましたので。それに、刈谷提督のご命令です。完全破壊が命令ですので」

 

『へー。んじゃあ瑞鶴、期待してるよー』

 

『こちら綾波です!待ち構えていた敵艦隊を殲滅しました!被害は軽微です!!』

 

やはり待ち伏せ艦隊がいたかと大淀は思った。綾波の火力は「ソロモンの狼」と呼ばれるほど。おそらく単純な火力だけでいけば夕立をも超えるのではないかとも思う。それでいて冷静かつ的確な指示ができる。時雨もいる。霰もいる。そして夜戦で強力な火力をもつ阿武隈もいる。想定通りに物事は運んでいる。

 

今回の戦場では不測の事態はないと判断している。レ級がフラッと現れるかと言われるとそうでもない。前回の南方海域で重大な損傷を負っているため、今回は来ないと確信している。

 

「了解しました。この先も待ち伏せや野良艦隊が考えられます。順調にいけばこちらが戦闘が終わるころには安全な海域まで脱出できるでしょう。お気をつけて」

 

『はい!わかりました!』

 

ああ、夕立さんや北上さんもこんな風に素直にしてくれれば…と大淀は思う。真っ先に飛びだしていったときは肝が冷えたものだ。

 

「ああ…またやりゃぁがった…」

 

摩耶さんが呆れていた。詳報も見たが雪風さんを救出したときも飛び出していったと聞く。しかし、砲撃のマズルフラッシュの中に見えるあの紅色のきれいな光の線は何だろう?

 

「よーし!いくわよ!頼んだわ、瑞鶴夜戦攻撃隊、発艦よー!!」

 

「いくぞー!!とつげきだぁ!」

 

「ばかやろうこのやろう!もくひょう、しんかいせいかん!すきかってかんむすをいじめやがってばかやろう!ぜったいゆるさねえからなこのやろう!!!」

 

「………あの、口が悪すぎませんか…あの航空隊…」

 

「瑞鶴に言われても…」

 

何だあの航空隊の妖精さんの1人は。ばかやろうとこのやろうのオンパレード。妖精さんって女の子…ですよね?と疑問に思うばかりだ。

 

夜戦ができると言うことに瑞鶴は驚いた。空母は普通は夜に航空機を発艦することはできない。それが妖精さんの一言「できるよ」で片付いた。まあ機種は制限されるがそれでも何もできないよりはマシだ。

 

自身のプライドの高さゆえに挫折を味わった瑞鶴。仲間を下に見、そして戦場で甲板をやられ、無力を嘆いた。自暴自棄になり、よりひどい失敗をしてしまったが…見事に立ち直り、今では空母の要となっている。超高速の爆撃機「橘花改」。そして此度の夜間攻撃隊。瑞鶴はグングンと成長を遂げた。

 

遠くからドン…ドン…と言う音が聞こえる。

 

「命中ね。よっし、あとは摩耶たちに任せるとしますか!」

 

『瑞鶴、助かったぜ!あとは任せといてくれよ!』

 

「摩耶さん!危険を感じたらすぐ撤退してくださいね!長月さんと菊月さん、三日月さんと望月さんが撤退路を確保しておりますので!」

 

『わかったぜ!いや、あいつらが頑張ってんだからあたしらだけ脱出できねえよ!』

 

大暴れと言ってもいいほど駆逐艦たちが奮闘している。それを見て摩耶も、名取も北上も。退くわけにはいかないと思っているのだろう。

 

『いやー、苛烈だわー。夕立もやばいけど響と朝潮もすっごいよー』

 

「北上さん、名取さん。もし夕立さん達が危機に瀕した時は引っ張ってでも撤退してください。その予測はしていませんが…」

 

『はいはーい。大淀がそう言うなら大丈夫っしょー』

 

北上は決して楽観視しているわけじゃない。大淀を信頼していないわけでもない。それでもおちゃらけてしまうのが北上だ。実際には真剣な眼差しで敵を睨みつけ、威圧しつつ無線で交信をしていた。その威圧感は長らく死線を潜り抜けてきた北上だからできることだ。

 

大淀も北上がふざけているとは思っていない。そう言いつつもこの口調は真剣だった…ように思う。

 

「ほーんと、北上は真面目にできないんだから…」

 

「ふふ、それでも今の言葉は真剣でしたよ」

 

「そ。ま、北上は駆逐艦の娘がいると本当に強いから」

 

「うざいと言いつつも大好きですからね」

 

「そうそう!おっと。おしゃべりはここまで!こっちに敵が来てるね」

 

「想定通りですね。大淀、攻撃態勢に入ります!」

 

ガコン!と砲を構え、こちらに迫りくる敵に対して迎撃準備を開始した。

 

(ここまでは想定通りに進んでいます。おそらく、このまま今回はうまくいくでしょう)

 

その予想は当たることになった。

 

 

「朝潮、牙は厳禁だよ」

 

「響の言う通りね。無茶はしないでよ!」

 

「心得ています。敵、水雷戦隊発見!」

 

「水雷せんたん発見」

 

「…不知火さんに言いますよ」

 

「それは困るかな」

 

「真面目にやってください!!!」

 

「こんなときまでコントみたいなことやってないの!」

 

「ダー。仕方ない。やりますか」

 

横須賀の名物デコボコ駆逐艦コンビ、響と朝潮。出会った時からデコボコであり、お互いに負けず嫌いであり、事あるごとに衝突してきた2人であった。そして鹿島に罰として立ち上がれないくらい走ることを強要されたり、電の威圧に屈するなど痛い目にも同じようにあってきた。

 

「まずは私を超えてみるといい」

 

「必ず追いついてみせます」

 

そうして彼女たちはライバルと呼ぶ存在としてお互いを認識していた。しかし、響を目標にしていた朝潮はその頭角を現し、あっと言う間に響を追い抜いて行った。そして朝潮は「牙の女王」として「原初の艦娘」や「ジェネシス」でしか存在しなかった「女王」としてのチカラに目覚めた。

 

一方で響はその朝潮に対して「今度は私が追いつく番だね」と決して朝潮の実力を目の当たりにして腐ることはなく、自分なりの努力を重ねてきた。持ち前の潜在能力、神通の心眼とは違う敵の察知能力…強力な「聴覚」を用いて仲間の危険を察知する能力を持っている。

 

「…朝潮、背後から敵が来る。ここは私に任せてくれ。前の敵に専念してくれ」

 

「わかりました!ご無理はなさらぬよう!」

 

「ダー。任せておくれよ」

 

「響!加勢するわ!」

 

前後からの挟み撃ち。これは苦しい戦いになるだろう。まだ敵は遠い。今なら魚雷を撃っても大丈夫だろう。静かに…北上の魚雷の発射方法を真似るように魚雷を発射した。

 

「この海域から出ていけ!!」

 

「いや、出て行かせるだけじゃダメだよ。沈めないとね」

 

「…揚げ足を取らないでもらえますか!?」

 

「ここでケンカしてる場合じゃないでしょう!?」

 

「それは失礼。おっと、朝潮…背後の軽巡の後ろから君を狙う駆逐艦がいるよ。砲を動かす鉄がきしむ音がする」

 

「わかりました…ならば…1回目、いきます!!」

 

敵を薙ぐ強烈な牙。それは前の軽巡もそうであるが響が言っていた駆逐ハ級をも切り裂いた。牙は切り札。無駄撃ちはできないが、響を狙っている可能性もあった。なぜなら背中を見せているから。響は朝潮を完全に信頼しているが故に朝潮の方を見てはいないが、聴覚で支援する。目の前の敵も倒さねばならない。やれやれ、大変だね…と響は思う。

 

響は朝潮を信頼していないのではなく、もう仲間を失いたくないと言う思いから朝潮を戦いながらサポートしているのだ。こうして朝潮は全力で戦える。満潮もいるしね。

 

「いいね…さて、私も負けていられないね」

 

「馬鹿ね…その先にあるのは本当の地獄よ!」

 

そうして砲を撃つ。眼前の敵は…なるほど、全てがこちらに意識が向いているね。問題はない。神経を…聴覚に傾けろ。そうすれば目の前の敵は倒せるだろう。

 

私は朝潮や夕立のようなチカラもない。時雨や霰のような落ち着いて指揮できるチカラもない。村雨のようなすごい狙撃能力もない。だが…この聴覚だけは私が得た能力。朝潮には攻撃させない。このチカラで…朝潮を…北上さん達も守る!

 

「そこだね」

 

ダァン!!ダァン!!

 

連撃で軽巡を潰す。よし、このままいけばこちらの敵は片付く。朝潮の方も順調に数を減らしているようだ。

 

これなら問題はないか。いや…まだまだ援軍は来ているらしい。本当にこれはひどい罠だ。誰がやったかはわからないが…これは許せる問題ではない。私達が来ていなければ彼女たちは沈められていた。夕立や神通さんのおかげで助かったが、自分達が沈んでしまっては話にならない。ここを乗り切らなければ。

 

『敵援軍を確認しました!響さん達の方へ向かっています!』

 

大淀さんからの無線。知ってるよ。だって波をかきわける音がよーく聞こえるもの。

 

『あーい。適当に倒せばいいんだね?』

 

『北上さん、響さんたちのフォローをお願いします』

 

『りょうかーい』

 

「援軍…ね。やってやるわ!」

 

「気張りすぎると後がもたないよ、満潮」

 

「わかってるわよ!」

 

聴覚を研ぎ澄ませ。砲を撃つ準備はしているか?魚雷は…?もっとだ。もっと…耳を…。

 

「!!!………き…!!!響!!!」

 

満潮の怒鳴り声でハッとした。いつの間にか倒れかけていたらしい。満潮に支えられていた。手を離されたら倒れ込むだろう。

 

「……何これ、すごい…リズムが狂いすぎてる…あんた、耳をめちゃくちゃ使ったわね?オーバーワークよ!」

 

「ぐ、うう…へ、平気さ。ちょっとよろけた…だけさ」

 

頭が割れるように痛い。無理もない。砲撃や爆発音が通常の何倍にもなって響の耳から鼓膜、脳へダメージを与えるのだから。ウォッカを飲みすぎてひどい二日酔いになった時よりひどいな。

 

「響さん、大丈夫ですか!?」

 

「な、なに…心配いらない…」

 

「姉さん、ちょっと響の調律をするわ。その間…敵を!」

 

「わかったわ!まずは…そこの敵!」

 

朝潮は牙を放った。これで2発目。残るは1発。思ったより消耗が朝潮も激しかった。少し息を切らしているが…響を守らなければ!

 

深海棲艦はそのほとんどが十全。こちらは3人で何とかしたが今は1人…牙を乱射すればある程度は…いや、そんなことをすれば今度は自分が動けなくなり、危機になる。何としても…響さんと満潮を守り抜かねば!!

 

ドン!!!

 

「大丈夫っぽいー?」

 

夜の暗闇を照らす紅色の光。

 

「夕立さん!?」

 

ゴギッと言う鈍い音と共に軽巡ヘ級が沈んでいく。パシャッと静かな着地で現れた神通。

 

「助太刀致します。こちらに敵援軍が来たとお聞きしましたので」

 

「神通さん、やっちゃうっぽい!」

 

「はい。参りましょう!」

 

駆けだすスピードが尋常ではない。朝潮の蹴りだしもすごいが、それを上回っているかもしれない。どうしてあの2人はかなりの勢いで駆けまわっていたはずなのに息一つ切らすことなくまだ走り回れるんだろう。

 

その凄まじさは島風が恐れるくらいの鬼気迫るものな夕立。川内も最近てこずるくらいに成長した神通。彼女たちは天才だ。眠っていただけのチカラが目覚めたのだ。その片鱗は最初から出ていたのだが。

 

「紅玉の女王」…「茨の女王」…女王と呼ばれる実力を持つ2人。その勢いは並の深海棲艦では歯が立たないだろう。そう、今この場にいる深海棲艦では彼女たちの足元にも及ばない。

 

それでも…私は朝潮の背中を守ると約束したんだ。だから…こんなところで夕立達を羨んでる暇は…ない。

 

「姉さん、もう少し耐えて!!響はもう少しで動けるようになると思うから!」

 

「わかったわ!」

 

多少かすり傷を負っているが、大事には至っていない。響はグワングワンと回る頭もようやく落ち着きを取り戻してきた。自分だけだったなら、きっともう2日は寝ていないと無理だろう。満潮はやっぱりすごい。

 

「カチカチ…カチカチ…カチ…ふう…これでいけるかしら。無理は禁物よ!」

 

「スパシーバ。かなり楽になった。問題はない、動ける」

 

「激しく戦うのは厳禁よ。それから、聴覚を頼るのはもう無理よ!次は私でも治せない!」

 

「わかった。感謝するよ。朝潮、待たせたね。少し休むといい。息が上がってきているよ」

 

「はぁ…はぁ…ですが、響さんは…」

 

「なに、心配いらない。休憩はできた。今度は朝潮が満潮に調律してもらうといいよ。足に結構きているんじゃないかい?」

 

「う、ぐ…たしかに…」

 

「なら、任せてくれ。私も夕立達に加勢しよう。大丈夫、必ず君たちは守るよ」

 

そう言うと朝潮に背を向けて敵の前に立ちはだかる。私の武器である聴覚は使用を禁止された。ふむ…少しいろいろと…やってみるか。

 

ザッと海面を蹴りだす。響が戦いが始まると同時に朝潮は心配そうにそれを見届けた。

 

「響さん…」

 

「何か…考えがあるのかしら?響、いつもとは違う真剣な顔に見えたけど…」

 

「そう、でしょうか。でも、ちょっと笑っていたような…」

 

響に感じた違和感。満潮も朝潮もどこか響に不安を覚える。動きもどこかぎこちない。何かを考えながら戦っているような?

 

「おい、2人とも無事か?響は…」

 

「摩耶さん!朝潮達は問題はありません。損傷は軽微です。今は満潮に足の調りちゅ…調律をしてもらっています」

 

(噛んだ。なんだ真面目な顔してかわいいこと言うなよな)

 

「響1人で戦ってるのか!?」

 

「今さっき朝潮姉さんが1人で食い止めていたわ。響が聴覚を使いすぎて倒れそうになっていたから」

 

「よし、北上達ももうすぐ片付くはずだ、こっちはあたしも動くぜ!」

 

「助かります!響さん、突っ込みすぎです!」

 

朝潮が大きな声で叫ぶかのように響に警告した。しかし響には聞こえていない。まさか、調律は成功したが聴覚を失ってしまったのか!?

 

「バカメ。ソノママシズムガイイ!!!」

 

リ級が笑いを浮かべて響を狙う。響はこの時、敵の砲撃を避けながら何かをぶつぶつと言っているのだ。

 

「…こうじゃない…こうかな?いや、違うな…ん?こうかな?あ、まずいな」

 

響は考え事をしすぎていたせいで反応が僅かに遅れた。

 

ドォン!!

 

「響さん!!!」

 

「おっと、危ない。ん?今のちょっとわかった気がするな。ふっ…」

 

「あいつ、何かぶつぶつ言ってねえか?ちぃ!耳がおかしくなってんじゃねえのか!待ってろよ!」

 

「マグレハ2度ハ起キン!!死ネ!!!!」

 

「ひ、響さああああああん!!!!!」

 

「響!!!!」

 

朝潮と満潮が叫んで少しして…

 

 

「シッ」

 

 

ドォン!!!

 

 

「ナニィ!?」

 

確実に捉えたはずだった。確実に胸を狙ったはずだった。しかし、リ級の狙いは外れ…逆に響に太ももを撃たれたのだった。

 

「ガアアアア!!!!」

 

「…うまくいったかな?」

 

「何…今の…?」

 

「コロセ!ハヤクコロセ!!!!」

 

青い血をドボドボと流すリ級が慌てて他の深海棲艦に一斉砲撃を命じる。

 

「シッ!シッ!シッ!!」

 

「………!あれは…私の…!」

 

「姉さん?」

 

朝潮は気づいた。今、敵が砲撃を撃つ直前に響から聞こえた音。それは…自分が演習などで使う私のクセだ、と思った。相手のリズムをあの「シッ!」と言う音で取り、攻撃を読み、回避を行う時に発するものだ。

 

「まさか…響さんは私のクセを真似ている…?」

 

「えっ!?」

 

「シッ!」

 

「ああっ!?あのシッて音、姉さんの!?」

 

「ええ…」

 

「何が、どうなってるんだ…?」

 

敵の攻撃をリズムを取ってかわし、逆に反撃を叩き込む。リズムよく…。そうして敵の攻撃をかわし、攻撃を与え…そして…

 

ドゴッ!

 

「ブベッ!!!」

 

足を撃ち抜いたリ級の顔面を思いきり殴ったのだ。足をやられて踏ん張りが効かないリ級は倒れ込んだ。しかし、ちょっと鼻血を出しただけでどうともない。

 

「うーん…武蔵さんのようなチカラがないと私には使えないな。手が痛い」

 

『遊んでる場合じゃないでしょう!?』

 

「ああ、すまない。ちょっと試しただけだよ。それより朝潮はまだかい?」

 

『すみません、もう出れます!』

 

「わかった。もう少しだけ頑張ろう。さて、次は…あの子ので行くか」

 

のんきに言っているがまた動きが変わった。それはまるで…

 

「踊り…?」

 

スケートリンクでフィギュアスケートを舞うかのように海上を滑る響。あれは…見覚えがある。

 

「今度は雪風の動き?」

 

「あいつ…うちの艦娘の動きのコピーを…してるのか?」

 

「おやー?何か響だけ戦ってんの?おさぼり?あー、朝潮は足痛めた?まよは何してんのさ?」

 

「ああ!?あたしは摩耶だっつってんだろ!?」

 

「あ失敬失敬~。ん?響は雪風の動きしてんの?おー、すごいじゃん」

 

「すごい…でも雪風ちゃんのあの踊りみたいな回避って…すごく体力を使うんじゃ…」

 

「そだねぇ。けど、何とかやりきってるねぇ」

 

名取と北上ももう片付けたのか摩耶達のもとへ集まってきた。そして状況を把握する。

 

「ナゼダ!?ナゼ当タラン!!!??」

 

「いち、に、さん…いち、に、さん…よし、次は…」

 

魚雷を取り出し、敵にぶん投げる。咄嗟にネ級はそれを回避して笑う。

 

「ドウシタ。モウナス術ガナクナッタカ!」

 

「よし、これでいい。次は…」

 

「聞イテイルノカ、コノ死ニ損ナイ!!!」

 

ネ級の挑発など耳にも入っていない。響は次の引き出し、次の引き出しを探していた。

 

「あの遠くのロ級…邪魔だな。よし…風は…微風。距離200メートル…上1…いや、2かな。横修正…1…」

 

「バカメ!ボーットドコヲ狙ッテイル!!死ネ…」

 

バチューーーーーン!!!!!

 

どこからともなく魚雷が炸裂した。北上や朝潮達が狙ったわけでもない。それは響が先ほどぶん投げた魚雷だった。

 

「あれはあたしの最後のにぎりっぺだねぇ」

 

「北上ぃ…その技名何とかなんねえのかよ…」

 

「ははぁん。で、今の響きは村雨の精密射撃をコピーしてるね。へぇ、すごいじゃん」

 

「は、はあ!?あいつ、雪風や朝潮、北上の技やクセを真似てるってのか!?」

 

「響はね。朝潮に追いつくためにとんでもない努力をしてたんだよ。んや、今もしてるって感じかな。どうやったらもっと朝潮が安心して背中を任せてくれるか。あたしには話してくれたよ」

 

………

 

「響~、あんまり遅くまで練習してると明日もしんどいよー」

 

「はぁ…はぁ…やあ北上さん。いい夜だね」

 

「はいとぼけない。で、何してんの?」

 

「村雨の精密射撃を真似できないかと思ってね。朝潮を遠くから狙っている敵がいて、誰も狙えないだと笑えないだろう?」

 

(目は真剣だね。頭ごなしに無理って言っちゃあ響に失礼だね)

 

「んー、難しいね。けど、やってみなきゃわかんないねぇ」

 

「私には朝潮のような『牙』なんて必殺技もない。聴覚も使いすぎれば戦闘で邪魔になる可能性がある。だから、この聴覚以外の何かがほしいんだ」

 

朝潮に追いつくために遅くまで努力しているのか。よく見るとどれだけ射撃練習をしているのだろう。手に血が滲んでいる。

 

「豆くらい潰れても入渠すれば治る。これくらいはどうってことはない」

 

「はい、今日はおしまーい。もう寝る時間だよ。鹿島に言いつけようか?」

 

「それは…困るな」

 

「ならちゃっちゃとお風呂入って寝るー。明日、あたしも付き合ってあげるから今日は終わり」

 

「スパシーバ。北上さん。感謝するよ」

 

こうして響の特訓を見ているだけだが付き合った。北上は見ていた。響は様々な動きを全て見て、模倣する努力をした。結果として…。

 

「…ふん!!」

 

「ナニッ!?」

 

(神通の『茨』か。あれは負担凄いからやばいんだけどな)

 

「い、今の神通さんの動き…!」

 

「響はね。もう電が悲しんだときみたいに、自分も沈まない。誰も沈ませない。そういう強い意思からいろいろとどうすれば朝潮に並べるかを必死で努力して考えたんだよ」

 

響には戦う型がない。型にとらわれず、自由に…時に誰もが予期しない戦いをすることもある。漣も真っ青になるくらいの自由ぶりだった。だからこそ。型がないからこそ。誰かの型を恐ろしい早さで吸収することができる。

 

「響はその目で見、その身で味わった全ての『型』を自分の『型』として吸収し、さらなる強さを手に入れ進化する自由奔放な『無型の型(むけいのかた)』を手に入れたんだよ」

 

「自分は才能なんかないって言ってたけど…あの子は天賦の才を持っているよ」

 

「す、すげえ…」

 

形のなき『女王』。『無型の女王』とでもいうべきか。『女王』ではないのだから。

 

「っつぅ!もう神通さんの技の反動が来たか…けど…朝潮を…みんなを守るためなら…誰の艦娘の技だって真似てみせる!!」

 

女王の技さえ真似てみせる。それは響が今まで血反吐を吐くような努力を重ねた結果だ。ただ、付け焼刃な部分が多いため、雪風の動きは想像以上に負担がかかるし、ましてや神通とは体、骨格の造りが違う。ダメージはすぐに…もろに出てきてしまう。それでも、仲間を守るためなら、私は何だって真似る。『原初の艦娘』だって真似てやるさ。

 

「…『雷の檻』」

 

「…!木曾っちの『雷の檻』!あたしも完璧には真似れないけど…」

 

「っぐ、ああ!!!」

 

「やばい、負担がかかりすぎてんじゃねえか!?」

 

「ソコダ!!」

 

苦痛に顔を歪める響には今、隙が存分にあった。そこを見逃す深海棲艦ではない。しかし。

 

「ふん!」

 

体を無理やり捻り、飛び、かわす。それは今まさに戦っている『紅玉の女王』夕立の動きだ。しかし、体はミシリ…と悲鳴をあげ、激痛が奔る。

 

「うぐ…!!」

 

「ソコダアアアア!!!!」

 

響の動きが止まる!狙われる…撃たれる!!!!

 

 

ザン!!

 

 

刹那、深海棲艦は真っ二つに切り裂かれた。水の刃。それは…『牙』!!!

 

「響さん!!!!」

 

(まだだ、まだ動ける…!朝潮が来てくれる…!なら…負けない!)

 

「が、がああああ!!!!」

 

ギシギシ、ミシミシと言う体に鞭打って立ち上がる。

 

(私は…朝潮と共に…!戦うんだ!!!!)

 

響の眼が…蒼くなった。痛みが吹き飛んだ。

 

「姉さん!もう1発くらいなら撃てるわ!!!いくわよ!響を助けるわよ!」

 

「ええ!もちろん!」

 

「……ふっ、響…あんたすごいねぇ…」

 

「オラァ!どきやがれええええええ!!!!!!」

 

「響さん!?その眼…!」

 

「ん?何だい?眼が…?誰の?」

 

そう言って北上や名取、摩耶の方を見る。北上達はブンブンと首を横に振る。朝潮や満潮の方を見る。ブンブンと首を横に振る。

 

はあ…とため息を吐きながら満潮が手鏡を取り出して響に見せる。

 

「考えてる考えてる…何を考えてるんだろうね」

 

そうして朝潮を見て「フンス」と何だか勝ち誇ったかのような表情でいた。あ、なんか優越感に浸ってるな、と北上は笑いそうになった。

 

「何ですかその勝ち誇った顔は!?」

 

「ふふん。さて、いこうか」

 

「あーもう!!わかりました!」

 

蒼い眼を輝かせる響。その後ろからは紅玉に光る眼の夕立がやってきた。深海棲艦にとっては悪夢でしかないだろう。

 

「蒼に紅に。いやぁ、うちのくちくたちは色鮮やかだねぇ」

 

ケラケラと笑う北上と「そこ笑う所なのかなぁ…」と困惑する名取。「んなことはいいから早く構えろ!」と怒る摩耶。

 

「あとはそこの奴らだけっぽい?ぽーーーーい!!!!全滅させるっぽーーーーい!!」

 

「朝潮。私が前に出る。背中は…大丈夫だね」

 

「ええ。私が響さんをお守りします」

 

「任せたよ」

 

ふっと姿が消えた。

 

「背中は守りますよって言ったばっかりなのに消えるなぁ!!!」

 

朝潮、怒りのツッコミ。北上はもう耐えきれずに噴き出した。「あーっははははは!あーおかしい!」と。満潮は頭を抱えているし…いやもう…本当にフリーダムである。

 

真似たのは川内…いやそれはさすがに無理だったので名取のミスディレクションを真似た。いつの間にか砲撃を喰らう深海棲艦。困惑させ、指揮を乱すには十分だ。

 

「これで…終わりだああああああ!!!!」

 

朝潮は勢いよく足を蹴りだす。必殺水の刃…それも2連撃!それは十字となって飛ぶ。朝潮が編み出した必殺技「迸る水の聖十字(グランドクロス)」!!!

 

それを見た響はガクリと崩れ落ちた。もう股関節と膝が限界だった。なぜなら名取の真似をする前にもう1度神通の「茨の道」を使い、一瞬で深海棲艦の視界から消えたからだ。激痛でもう立っていられなかった。

 

朝潮が放った悪を滅ぼす聖十字は瞬く間に敵を切り裂いていく。残った敵は牙を剥き出しにした猛獣のような表情で笑う夕立と絶対零度の無表情で淡々と攻撃を繰り出す神通に屠られていく。摩耶や北上達も砲撃で十分なくらい敵は減った。

 

そして…

 

「おーい、大淀ー。聞こえるー?敵は完全に殲滅したよー」

 

『承知いたしました。あとは…刈谷提督の艦隊のほうだけでしょう』

 

『おー?終わったクマ?さっすが横須賀の艦隊クマー。そっちは撤退準備していいクマ。阿賀野や三日月の指示に従えばいいクマー』

 

『ねー、あたしはまだ撤退したらダメなのー?』

 

『大淀と合流してコレ潰したらソッコー提督に報告しろクマ。あー、北上たちは戦闘海域から離脱していいクマよー』

 

『えー!?なんであたしは居残りなのー!?』

 

『おめー球磨ちゃん達のブレインクマ!?ブレインが不在だと困るクマー!』

 

『あーもうこの脳筋姉妹!!わかったよー!!!大淀さん、こっちこれるー!?』

 

『は、はい!すぐに向かいます!』

 

なんとまあ緊張感のない無線だ。球磨姉らしいねぇと笑う北上。

 

「球磨姉りょうかーい。ちゃっちゃとやっつけてねー」

 

『言ってくれるクマー!?相手は重巡棲姫クマ!と言いたいけど球磨ちゃんも多摩も重巡棲姫なんか阿賀野のきたねー部屋片づけるより楽勝だからさっさとグリンかまして終わらせるクマー』

 

「グリンがよくわかんないけど気を付けてねー」

 

『はいよー』

 

本当に姫を前にしているのかわからない…そんな緊張感。しかし、重巡棲姫は知らない。この球磨達の強さを。恐ろしさを。あちらでは球磨、多摩と重巡棲姫の戦いが始まったのか、砲撃音が響く。

 

「勝った…か」

 

へとへとではあったが勝利を体感した響。その顔は…笑みを浮かべていた。スッと手が差し出された。

 

「立てますか?」

 

それは朝潮であった。朝潮も足が痛むのだろう。あんなすごいのを撃ったら確かに足に大きな負担がかかるだろうに。

 

「そういう朝潮もガクガクじゃないか。ふふ。お互いちょっと厳しいけど…勝ちだね」

 

「ええ。朝潮達の勝利です。これが、朝潮と響さんのチカラなんです」

 

「そうだね…」

 

差し出されたてはいつの間にか握りこぶしになっていた。響は笑みを浮かべ、同じく拳を作り、こつんとぶつけあった。これこそが2人の信頼の証。

 

「よいしょー!さーて足がガクガクのめんどくさいくちくどもー。帰るよー」

 

北上が朝潮と響に肩を貸す。そしてゆっくりと動き出した。夕立は「またうーんと褒めてもらうっぽーい!!!」と元気だし、神通さんは笑っている。摩耶は「またいいとこなかったじゃねえか…」と落胆している。

 

満潮は「姉さん!何よあれ!!!あんなの使ってまたリズムがすごく狂ってるじゃない!あーもう!!!」と朝潮に怒っていた。「満潮…あれは、そのぉ…」とおろおろしているし「みっちーうるさーい」と北上はのんびりしている。

 

そうか。これか。これが…今の司令官の勝利の喜びの帰還か…。そう思うと晴れやかだった。帽子を深くかぶり、なるべく朝潮達に笑っている所を見られないようにして北上に背中を押されて戦場を離脱するのであった。

 

ありがとう、朝潮。やっぱり君は私の最高の友達だよ。

 

笑顔が…戻らない。わるくないね。こういうの。響は初めて心から喜びを隠せないでいた。みんなには隠していたが。




夕立の覚醒ともう1人。響。蒼い眼の発動です。彼女は女王にはなれませんが女王に匹敵するチカラを得ました。「完全無欠の模倣」…さすがに負担が大きいですが横須賀の女王のコピーもある程度可能です。

今回は完全勝利に近い勝利だったのではないでしょうか。圧倒的強さを見せる横須賀の艦娘達。止まることはありません。北上曰く「うちのくちくはさいきょーだっちゅーの」とのことです。

さて、次回は狩りのお時間パート2。刈谷組…いえ、刈谷提督の艦隊最強の軽巡姉妹、球磨、多摩が重巡棲姫を狩ります。

彼女たちの圧倒的チカラをお楽しみいただければと思います。

それでは、また。
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