提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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視点は刈谷提督のいる鹿屋基地に移ります。中途半端に五ヶ丘提督編を終えてしまいましたがこれ以上長く書くのもアレかなと思いまして。

清州副司令長官を殺されてからついに本気で大府提督を始末しようとする刈谷提督。そして今回の五ヶ丘提督への仕打ち。手回し。

ついに刈谷提督がその牙を剥き出しにしていく様子を書いていこうと思います。


第二百四十二話

刈谷提督が五ヶ丘提督に電話をした翌日の夜に信じられない報告…いや、読み通りだった報告が五ヶ丘提督から寄せられた。

 

それは潜水艦を幽閉し、安久野が着任した際には彼女らをどこかへ売り飛ばして大金を得るつもりだったようだ。何とか救助し、今ではすっかり…特に伊19ことイクと伊26ことニムに懐かれているらしいとのことだ。懐かれるに越したことはない。まああいつは子供っぽい艦娘によく懐かれる(人の事は言えない)。

 

きっとまあ…駄々甘な野郎だから大いに甘やかすだろう(人のことは言えない)。

おい誰だ?人のこと言えないとか言ってる奴。張っ倒すぞ。

 

現に新たに着任した第二十二海防艦、通称ふーふを抱きかかえて執務をしている始末。ふーふは眠りこくっている。むにゃ…と気持ちよさそうに眠るふーふ。相変わらずこんなちんちくりんな姿で頑張るんだな…と最初に見た時には頭を抱えたものだが…。まあ、鎮守府近海の潜水艦掃討業務をみとやよつとやってもらうとしよう。もちろん、旗艦には能代など巡洋艦がつくがっつりなお守りモード。

 

海防艦限定のお父さん…そんな存在になっている。なお睦月たち駆逐艦にはイタズラ大好きな困った兄貴…と言った感じであろうか。面倒見のよさは変わらないが、五ヶ丘提督並に過保護である。まあ三条提督達若手提督も過保護全開であるが。

 

「安久野の馬鹿は簡単に死なせるなって言っておいた。宿毛湾の馬鹿はさっさと壁に頭ぶつけて死んじまったが、壁を柔らかい素材にして舌を噛んで死んだりしないように飯食う時以外は猿ぐつわだってよ。さすがはあのおっさん、心得てんな」

 

世の中には知らなくてもいい恐ろしい場所が存在しているのだな…と能代は思う。聞きたくなかった。

 

「あらあら、怖いわねぇ。能代ちゃんが怖がってるわよ~」

 

「あ?これくらいどうってことねえだろ」

 

「いえ…怖すぎるんですが」

 

「お前もやってみるか?1週間くらい自分の呼吸音が聞こえるくらい静かな部屋で誰にも相手にされず、飯だけ決まった時間に与えられ、いきなり電気消されて寝ろって合図な1日を送るだけだ」

 

「絶対嫌です!!!!」

 

「阿賀野にやらせたら1ヶ月もつんじゃねえか?」

 

「1日で発狂します!!!」

 

「そうかよ」

 

つまんねえな、と笑いながら言っていた。ってかふーふが起きるだろうがよ、と逆に怒られた。ああもう…この男は…とまた頭を抱えた。

 

「それにしても提督ぅ?大府て…大府はもう逮捕でもいいんじゃなぁい?」

 

「まだ甘え。もっとだ。もっとやってくれねえとな。そのために明日煽りの電話をくれてやるんだよ」

 

これで…甘い?龍田も能代も未だ提督の考え…理想の最終図がわからないでいる。彼は一体大府をどこまで追い詰めるつもりなのか。このままで本当に海軍は崩壊しないだろうか…?心配になる。そして、刈谷提督の命も。

 

ふーふの頭を撫でる顔は慈しみに溢れていると言うのに…。

 

「こいつがいる間に俺の大府への計画を喋るのはちょっとな。怖がらせるのはかわいそうだ」

 

私達はいいんですか…と言いたくなる能代。いや、まあ…海防艦の子に聞かせるには恐ろしすぎる内容か。大府追放…いや…大府を社会的に抹殺する計画。それにはさきほど電話していた監獄の主との関係もある。

 

『ああ、気長に待っているよ。そのほうが…お楽しみも増えると言うものだ…』

 

最近の提督の電話はどうにも怖い人と思しき人との会話が多い。おそらくだが大本営ではなく、外の世界にいろいろとコンタクトを取っているのだろう。聞いているこちらもギョッとするくらい怖い顔をしている。

 

気を張り詰めすぎよ~と龍田に言われても、その顔は杳として険しい。おかげで択捉型や日振型、御蔵型海防艦は怖がって近づかない。

 

「てーとく、こわーいおかお、してるよー?」

 

よつなどはそうではない。甘えたいときに甘える。怒気を纏っていても彼女たちを見るとフッと優しい顔になる。おかげでこうして眠っているわけだ。

 

対応を変えたわけでもないし、昔に戻ったわけでもないのだが…清州副司令長官が殺害されてしまったことがよほど効いている。そして矢継ぎ早に今度は五ヶ丘提督へ手を出した。やりたい放題である。

 

気に入らないわけではない。おそらくはこちらは何も気づいていないと思っているのだろう。馬鹿だからな、といつも言うように。

 

そしてついに、牙を剝かせては…爪を立てさせてはいけない男が牙を剝き、爪を立てた。大府はついに崩壊へのカウントダウンが動き出した。それも親子そろって。

 

「さて、飯でも食うか。今日は仕事は終わりだ。明日は仕事はねえ。ゆっくりお前ら休め。おい、ふーふ。起きろ。晩ご飯だぞ」

 

ぽんぽんと背中を優しく叩いて起こす。

 

「にゅ…ごあん…」

 

「そうだ。ご飯は食べろ。ちゃんと食べないと強くなれないぞ」

「たべゆ…」

 

「よし、行くぞ」

 

そう言って能代と龍田も執務室から追い出す。鍵をしっかりかけて食堂へ向かう。今は慎重に慎重を重ねる必要がある。能代や龍田にさえ、見つかったらまずい機密書類をそこかしこに隠している。万が一見つかっても面倒だ。非合法な入手ルートも多い。

 

もっとも龍田や能代はそのあたりはまったく気にしないのだが、どこかから話が大府の耳にでも入ったら計画が瓦解する。危険な針の穴を通すような計画なのだ、今は。石橋どころか鉄橋でさえ、叩いて渡るくらいしておかないといけない。

 

龍田達を危険な目にあわせたくない。刈谷提督の優しであると龍田は気づいているが…やはり心配である。

 

「提督。何か思いきり張りつめてるクマ。リラックスしねえと成功するもんも失敗するクマ」

 

「提督よ…清州副司令長官の事はわかるが…どうか暴走だけは避けてくれよ」

 

球磨や長門にまで心配される始末…か。よほど張りつめているらしいな。長月や菊月、望月でさえ遠慮して近寄ってこない。卯月は相変わらず「こ、殺されるぴょん」と怯えている。

 

「卯月ぃ、あんまり変なこと言ってっといたずらすんぞ」

 

「ぴゃああああ!!!殺されるぴょんんんんんんん!!!!」

 

「ククク、冗談だ」

 

これも意外と卯月と提督のコミュニケーションだったりする。そして卯月の好物のバターコーン山盛りを渡され「嬉しいぴょん!!!!」と機嫌がコロリと変わるのもいつものこと。平和な夕飯であった。

 

………

 

翌日。執務室には龍田、能代、球磨、長門だけが入室を許された。他の者は用が済むまで執務室付近への接近すら許されない状態だった。妖精さんがしっかりガード。この妖精さんはどこからやってきたんだ…。わからない。

 

「さーて、馬鹿へお説教の時間といきますかね。無駄なんだけどな」

 

刈谷提督は嬉々として受話器を取って電話を開始する。言っても無駄、とは言うが煽りはする。釘を刺すと言うことも兼ねている。

 

龍田達は固唾を飲んでその話を聞くしかない。刈谷提督は本気だ。今日、本気で宣戦布告を大府に宣言するつもりだ。やや狂気じみた眼をしているからわかる。この後、とんでもないことにならなければいいが…。

 

『はい、タウイタウイ基地です』

 

相変わらず機械じみた声だ。ロボットとしゃべっているような…そんな冷たさを覚える。

 

「刈谷副司令長官だ」

 

『………』

 

刈谷だ、とは言わずに嫌味ったらしく副司令長官とつけた。テメエとの階級は雲泥の差だぜ、と言うおちょくりである。

 

「もしもーし。聞こえてるか?」

 

『はい。聞こえておりますが。一体何の御用でしょう?』

 

「俺が電話してきた意味がどういうことか…本当にわからねえか?1から10まで全部説明してやろうか?え?おい」

 

威圧を込めた言葉。その言葉はかつての鹿屋基地であればだれでも震え上がるだろう言葉。威圧したことなど微塵もないが彼女たちにはそう聞こえた言葉だ。

 

『……五ヶ丘提督の件、ですね。申し訳ござい「で済んだら憲兵も上官もいらねえんだよタコ」』

 

大府提督の言葉を遮る。どうせそう来るだろうと思っていた。だが、それだけで済まされる問題ではない。

 

「ずいぶんと手の込んだことしたなぁ?あちこちに根回しして安久野の馬鹿の息子まで持ち出して来て。そこまでしてリンガがほしかったのか?ええ?」

 

『そのようなつもりではありません。五ヶ丘提督には良い経験になったのでは?』

 

「経験?ハハハハハハハハ!!!!笑わせやがるなテメエ!!!!重巡棲姫までいて、戦艦重巡も潜水艦もわんさかいた戦場に1艦隊だけ出させて壊滅寸前にまで陥ったところを良い経験!ハハハハハハハ!!!!じゃあテメエがあの甲作戦、あの1艦隊で行ってみろよ!!!!」

 

大笑いしている。げらげら笑っている。その眼は狂気じみている。能代はすでに息を呑んで固まっている。龍田もすでに口をきゅっと一文字に結んでいる。長門は驚愕している。球磨だけが刈谷提督と同じように嗤っている。狂気を宿して。

 

本当にこの球磨さんと多摩さんはどうしてここまで狂気に冒されているのか…仲間を例のグリンと言うのをしないか心配である。後でんなわけねえクマ。見境なくグリンする狂人と思われるのは心外だクマ!と怒られた能代。

 

「何とか言えよボケ」

 

『パワハラですか?』

 

「おお、人事に訴えるか?それよかテメエの責任問題が待ってるぜ?外部に金使って、親父まで使って俺と三条しか知らねえ作戦を漏洩させた挙句、安久野の息子を探し出して提督に無断で着任させようとして。リンガを乗っ取ろうとした大府君?テメエの語彙力と思考能力はド低脳かよ?」

 

『………』

 

「何か言えっつってんだよ。犯罪者の大府君よォ」

 

一気に全部を暴露された大府提督は硬直し、長考するしかない。

 

『私をどうされるおつもりで?』

 

「テメエ猿か?そこでそう言うってことは今俺が言ったことを全部容認することになんだけどよ?そういうことでいいんだな?」

 

『どのみちあなたがそこまで言うと言うことは全て調べ上げられていると言うことです。認めましょう。ですから私の進退を聞いているのです』

 

察しだけはいいなこのボケ。言うまでもなかったか。まあ、どのように調べたまではアシはついていないようである。もっとも知るはずもない。彼はそのようなことを調べる能力は皆無なのだから。

 

「ほー?覚悟できてんだろうなテメエ」

 

『ええ。これだけのことしたのです。五ヶ丘提督にも多大な迷惑をおかけしました。全て受け入れます』

 

「そうかよ。じゃあテメエは…」

 

厳罰だ。それしかありえない。そうしないと海軍の秩序が著しく崩壊する。この中の2人は絶対こうするだろうな…と思っているが。

 

「お咎めなしだ。そのまま引き続きタウイタウイで反省しながら艦隊運用しろ」

 

『……は?』

 

ぶっはははははははははは!!!!!!と球磨が大笑いした。龍田もクスリ…と笑っていた。能代と長門は信じられない、と言う顔で提督を見ている。ここまで迷惑をかけたのだ。これを放置する!?そんな馬鹿な話があるか!?

 

「2度も言わせんじゃねえ。テメエは引き続きタウイタウイで頑張れっつってんだよ」

 

『すみません、言っていることが理解できません』

 

「はー?だから頑張れって。そこの人形共と一緒に。ああ、今後一切五ヶ丘に接触すんなよ。あいつは大高のおっさんに任せるからな。テメエはテメエに与えられた仕事だけしてろ」

 

これはなかなかに痛烈な言葉だと能代は思った。与えられた仕事だけし、それ以外は何もするな。言うなれば窓際族へ放つような言葉だ。あれをしろ、これをしろと言う仕事は基本だ。しかしそこから「こうしたほうがよいからこう動く」などのことは一切するなと言うことだ。

 

余計な艦隊支援、出撃などはしなくていい。これは大府にとっては屈辱以外の何物でもない。

 

「今までは清州のおっさんがテメエの爺にギャーギャー言われてたから仕事を与えてやってただけだ。俺の飛龍を沈めた時も。テメエの大事な金剛沈めた南方海域の時も。テメエは亀一郎の爺がいたから輝いてただけに過ぎねえ。かわいそうだなー。あーかわいそう。大好きなお前に仕事を与えてくれてたお爺ちゃん、亡くなっちまったもんな」

 

死者を冒涜するような言い方ではある。それもまた煽りだ。亡くなっちまった…ではなく殺しちまったんだもんな、と暗に言っているわけである。

 

『……私は私でここまでのし上がってきたのです。お爺さんには感謝していますが…そこまでは…』

 

「お前が言うんならそうなんだろうな。お前の中ではな…ククク!!!!」

 

球磨がさっきからゲラゲラ笑ったり笑いをこらえたりと忙しい。この状況を楽しめるこの神経が本当にわからない。狂人…。それなら提督もであるが…。能代は嫌な汗が止まらない。龍田でさえ…頬に一筋汗を流している。長門も居心地が悪そうだ。

 

いや、ここで逃げるわけにはいかない。こやつが清州副司令長官を殺した犯人であると信じて疑わない刈谷提督と長門。刈谷提督の宣戦布告を聞いておかねばなるまい。いや、ならない。

 

『私が殺した…とでも?』

 

「さあ?そうなのか?」

 

『………』

 

答えはくれてやったようなものだ。それも全部知っているんだぜ。そう言っているような言い方だ。

 

大府としてはなぜ知られたのかわからない。それはそうだ。外部の情報は父からしかわからないし、大府の父…康介もまさか刈谷提督が亀一郎を和雄が殺したことを知っているとは露とも思っていないからだ。そこから導き出される答えは…彼は外部からの情報を多く収集する術を持っている。

 

これは父に報告しておく必要がある。しかし、それが誰なのか?どこから仕入れているのか?それを調べるのは大掛かりすぎる。彼は交友関係が広い。裏社会にもつながっている?それならチャンスだ。国を守る海軍の大将が反社会の人間と繋がっているなど、あってはならないことだ。絶対探し出して暴露してやろう。

 

一方で刈谷提督は俺が反社と繋がっているだろうと思いついただろうな、と思っている。見つけられるもんなら見つけてみな。別に反社と繋がっているわけではない。裏社会の事も知っているただの「情報屋」から情報を仕入れているだけなのだから。

 

「まあ、これ以上何かすんならテメエ、将官からの降格もありえるぜ?艦隊を全滅させようとした行為は大本営としては非常にマイナスの印象だからなぁ。今回のことは五ヶ丘がなんで出撃したのか…?と古井司令長官も疑問視している。テメエ目ぇつけられたぜ?堀内には情報共有してある。ただ、今回は見逃してやる」

 

上からズケズケと偉そうに…なぜだ。本来なら私が彼にこういう立場になっているはずではなかったのか。どこで…私は間違えた?やはり南方海域からだろうか?

 

「何で自分が俺に上から目線で説教されてんのか?って思ってるみてえだな。どこで間違えた?とも思ってそうだな。答えは簡単だよ。俺につっかかって来た時から間違えてんだよ」

 

最初から…?そんなはずはない。私はミッドウェーで甲作戦を攻略し、彼は丙作戦に切り替えたが故に私は中将。彼は少将止まりだった。そこで私は勝っていたはず。だが…。

 

「結果としてこうなってんだ。テメエが間違えているって気づけ馬鹿」

 

『私は間違っているとは思っておりません。私は私の道を進むのみです』

 

「もう亀一郎の爺の後ろ盾もねえテメエに何ができる?」

 

『お爺さんの後ろ盾などなくとも、あなたを超えてみせますよ』

 

「俺を殺してでもか?」

 

『ええ。邪魔になる者は全て消す…堀内提督だろうと古井司令長官であろうと…刈谷君、あなたであろうとも』

 

「クククク…ハハハハハ!!!アーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!」

 

刈谷提督の狂気的な笑い。龍田も能代も汗が止まらない。長門は顔が引きつっている。球磨は…つられて笑っている。

 

『何がおかしいので?』

 

「いや、何。ククク。素敵な宣戦布告をありがとうと思ってな。つまり、いざとなりゃ俺も殺しに来ると思っていいんだな?」

 

『殺す…かどうかはわかりませんね。あなたを殺したところで何になりますか?』

 

「殺すじゃねえかよ。清州のおっさん刺した舞風も。それを解体室に連れて行かせた偽憲兵も。亀一郎殺した真相を知った医者も。それから亀一郎もな」

 

全て知られている。彼は…全て知っている。私のした隠し事を全て…。彼の顔は見えないが…凄まじく嫌味な笑みを浮かべているのだろう。しかし、そんな生ぬるい笑みではないことを大府は知らない。

 

「クク…いいぜ。ありがとうよ。それならそれで構わねえよ。なぜなら…」

 

 

これで貴様を完膚なきまでにグシャグシャに叩き潰せるからなぁ?

 

 

能代はブワッ!と体中を寒気が奔り、鳥肌が止まらない。龍田でさえ驚愕の表情で恐怖に顔が歪んでいる。長門も同様。球磨は…また提督と同じような狂気の笑みを浮かべていた。

 

それほどまでに刈谷提督の顔は狂気に歪んだ笑みを浮かべていたのだ。ようやくだ。ようやく待ち望んだ反撃の時がきたのだ。そしてこいつを海軍から追い出せる。そして親子ともども社会的に抹殺し、大府コンツェルンも終わらせることができる。

 

薄汚い欲と金に塗れたこの馬鹿親子を俺の手で消し去る。こんなおもしれえことは人生で2度もないことだろう。古井司令長官にも言ったことであるが、全ての情報網から何からを使って大府を消す。これがついに実行できるようになったわけだ。

 

『この私を叩き潰す?本当にパワハラで訴えてさしあげましょうか?』

 

「ククク!!何だテメエ、ビビってんのか?テメエいつも言ってたじゃねえかよ。失敗したら降格もありえますよ、とか、他の奴にもあなたは不要ですから海軍から抜けた方がいいんじゃないですか?とかパワハラのオンパレードだったじゃねえかよ?」

 

もう刈谷提督の一方的なまくしたてに大府提督はなす術がない。言い返すこともできない。彼の思考能力は刈谷提督の先ほどからの驚きの言葉で皆無に等しい。ケンカ慣れ。それも口でなら清州副司令長官や堀内提督など、時には負ける舌戦をしたこともある。だからこそ、それに負けないように語彙力も鍛えているし、あらゆる弱点を握ってから勝負を吹っ掛けるのだ。

 

「自分から海軍をもう責任取ってやめますとは言わねえんだなぁ?」

 

『私にはまだやることがあります。海軍を辞めるなどと考えたことはありません』

 

「やることねぇ。ま、いいんだけどよ。せいぜい頑張ってくれや。ああ、それと五ヶ丘もそうだけど、三条や一宮、若手提督にちょっかいかけんなよ。テメエの作戦は今回みたいに大迷惑なんだからよ。それからレイテもテメエはお留守番だ、近海の深海棲艦でも潰しとけ。俺が総司令官で三条や一宮達若手で勝負するからな」

 

これまたガツンと頭を何かで殴られたようだ。心臓の音がうるさい。レイテに…不参加?そんなわけがない。あれは海軍総出で敵を食い止めるのではないのか?

 

『海軍総出で敵を食い止める…と清州副司令長官は仰られておりましたが』

 

「殲滅する」

 

『……何ですって?』

 

「殲滅する。抑え込む。レイテ海域に封じ込めるじゃなくて殲滅する。今確認されているのはスリガオ海峡、エンガノ岬沖にいる未知なる姫を叩き潰す。こいつらを潰せばレイテは大きく深海棲艦の掃きだめから解消される」

 

『ではなおさら「いらねえよ。テメエの人形遊びに付き合ってる暇はねえ。南方海域でロクな結果も出せなかったテメエが激戦区のレイテで何ができる?」』

 

『あれはレ級と言うイレギュラー。そしてあなたが南方戦棲姫を逃がしたが故の失態では?』

 

「言い訳してんじゃねえよ。三条んとこの艦娘犠牲にしてアイアンボトムサウンドをのうのうと自分は無傷で突破しようとするわ、サーモン海域でもクソの役にも立たねえわ、挙句に手も足も出せずにレ級に全滅させられるわ。テメエの責任だろ?テメエ、南方海域で何の役に立った?満を持した金剛や比叡をレ級のおもちゃにされただけじゃねえか」

 

ギリリ…と歯を強く噛み締める。役に立たん。そう祖父に言われた記憶も蘇り、苛立ちが募る。

 

「結果が全てだ。三条や九重、七原たちは大きな結果を出してる。いろんな海域でな。だから俺がまとめて選抜した。堀内も俺に任せるだと。あいつには莫大な事務仕事を任せているからな」

 

二人三脚で副司令長官を、と言ったが堀内提督が打診したのだ。

 

「私が事務を全て引き受けましょう。もちろん、出撃なども行いますが。それよりも刈谷君は現場の指揮をお願いしたい。特に…三条君や一宮君…彼らを率いてレイテへの総攻撃を仕掛けたいのです」

 

「総出じゃねえのかよ」

 

「他の場所にもいろいろな姫が湧き出ています。舞鶴…呉、無茶はありますがこちらで対応します。柱島などもいますからね。ですが、レイテだけは今勢いのある彼らと…あなたなら、抑え込むどころか殲滅できるのではないかと思いましてね」

 

「殲滅か。レイテを取り返すか?あそこは魑魅魍魎の巣だ。先の大戦でどれだけの艦が沈んだ?」

 

「百も承知です。ですが、彼らとあなた…そして艦娘の絆が強い者達。未来のリーダーになるである三条提督。彼のチカラを存分に発揮できるのではないかと」

 

「……殲滅…へえ、殲滅ねぇ…面白そうじゃねえか。んじゃああいつらと俺だけで本当にいいんだな?失敗しても責任取れねえかもしれねえぞ?」

 

「あなたが失敗など…万に一つも考えていませんよ」

 

「プレッシャーを与えてくれやがるぜ。まあ、そうだな。やろうじゃねえか」

 

「頼みました。ああ、それと…この作戦は大府君は外してくださいね」

 

「邪魔だ。入れるわけがねえ」

 

「でしょうね」

 

クック…と笑う堀内提督。最初から大府など視野に入っていない。彼はあそこで終わりだ。もう終わらせるしかないのだ。刈谷提督と考えは同じだった。

 

「役立たずはテメエの泊地の近海の心配でもしてろ。あー、いいこと教えてやる。テメエの親父、公安が目をつけてるぜ。余計なことはせず、真面目に仕事をしてくださいって伝えといたほうがいいんじゃねえか?ククク!!!!」

 

海軍内だけでなく外でも目の敵か。気に入らない。気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない。

 

『気に入らない』

 

「ガキかテメエは。そんなもん俺に言って覆ると思ってんのか馬鹿。俺からしたらテメエがレイテに参加するって言う方が気に入らねえよ。ま、それは天地がひっくりかえってもありえねえけどな」

 

『なぜ昔から私をそうまでして目の敵にするのですか?』

 

「はあ…テメエほんと脳がついてねえのか?俺はテメエなんざ相手にする暇はねえっつってんだろうがよ。テメエがつっかかってくるから相手してやってるだけだ。だがもう状況が変わった。テメエが知らねえだけで俺はいろいろと掴んでる。ようやくテメエ…いや、お前を敵と認識した。鬱陶しい亀一郎も消えた。お前を守る奴は誰もいねえ。だからこそ、ここまで五ヶ丘追い出しも失敗したんだ。陸軍、海軍、テメエと馬鹿親父の金のチカラで食いついたクソ野郎どもは全員退場だ。それか逃げ出した。これが現実だ」

 

祖父を神のように崇めていた彼らも声を詰まらせて拒否したか、引き受けると言ったが連絡が取れなくなったなど、祖父の時は全力で動いていた彼らが動かなかった。予定が大きく崩れた。しかも加担した者達も容赦なく全員処罰された。どういうことか…そうか。ああ、刈谷君が動いていたと言うわけですね。

 

あなたが私を邪魔と言うのなら、私もあなたが邪魔なのですよ。

 

「殺しに来るなら来いよ。そのかわり、貴様も覚悟してくることだな」

 

「て、提督、それは!!」

 

「長門。これは俺の私怨が8割だ。お前らには絶対手出しはさせない。だがこいつだけは。この屑野郎だけは俺の手で屠る。何があっても。俺がどうなっても。お前だって憎いだろ?清州のおっさんを殺したこいつが」

 

「そ、それは…」

 

「隠すな。出棺の際に絶対許さんと呟いたの、忘れたとは言わせねえぞ。怒れ。その怒りはそのままお前のチカラに繋がる。レイテで暴れろ。戦果をあげろ。あのおっさんが頭を悩ませていたレイテの敵を殲滅してみろ。それがあのおっさんへのせめてもの手向けになるんだ。そんでこの馬鹿に言ってやれ。大戦果をあげた。どうだ、貴様にこの戦果があげられるかってな」

 

最初は驚きから目を見開くばかりであったが…最後にはその目は戦闘中のような鋭い目に変わった。刈谷提督の言葉にはチカラがある。勇気が出ることもある。なにくそと立ち上がれるチカラがある。そして艦娘を戦いに駆り立てるチカラ…狂奔がある。

 

「わかった。それがあの方への手向けになるのならこの長門、修羅にでも何でもなろう」

 

「いいぜ。指揮は任せな。必ず帰ってこれるように指揮してやる。聞いてたか球磨」

 

「おう。ばっちりだクマ。やる気が出てきたクマー。全員まとめてグリンかましてぶっ殺してやるクマー」

 

「それでいい。ククク。ってわけだ。ここにお前の居場所はねえ。そして…貴様が行く先はこの世の地獄だ。俺の全存在をかけて貴様の全てを否定してやる。貴様ら親子がしでかしてきたことを全て暴いて関係者もまとめて全員地獄へ送ってやるからなァ!」

 

憤怒と怨嗟が混ざったこの大府への宣戦布告。その言葉は龍田も…能代も恐怖した。長門と球磨は…笑っている。

 

いつでも何でもしてくるがいい。この長門を侮るなよ。提督には手出しはさせん。

 

いつでも来やがれ。誰を敵に回した思い知ればいい。

 

「と言うわけだ。だから今回の不始末は不問にしといてやるよ。その代わり…」

 

ククククク…と冷たい笑い声。

 

「首洗って待っとけよ、大府ゥ」

 

ガチャリ。言うだけ言って電話を切った。

 

「と言うわけだ。全面戦争の始まりだ」

 

「ヴォオオオオ!!!ワクワクしてきたクマー!早速多摩だけに報告だクマー!!!!」

 

「他に喋んなよ。めんどくせえからな」

 

「わかってるクマ!多摩も狂喜乱舞するクマ!!!!!」

 

バァン!とドアを蹴破って飛び出していった。すぐさま妖精さんが「おしごとだー!」と蝶番を直していく。ありがたいことで。

 

「提督。胸が熱くてたまらん。少し演習場で砲撃訓練をしてくる」

 

「ああ、バンバン撃って来い」

 

「そうさせてもらおう!!!」

 

長門は静かに退室していった。

 

「て、提督…」

 

「龍田。お前に危険な真似はさせねえ。俺も死なねえ。絶対死なねえ。お前ら遺して死ねるか」

 

「……信じてる。無理は…しないでね」

 

普段笑顔でニコニコしている龍田も不安そうに刈谷提督を見つめていた。提督は優しい顔をして龍田の頭を撫でていた。

 

「あ、あわわわ…わ、私は何という恐ろしい話を聞いて…」

 

「心配すんな能代。お前らには何もねえようにするから」

 

「は、はい…」

 

(提督の言葉は安心できるけれど…何だろう…すごく嫌な予感がするのよね…)

 

能代は不安を拭いきれない。しかし、提督を信じるしかない。ここまで大きく宣言したのだ。刈谷提督は何が何でも完遂するだろう。レイテの殲滅も。大府提督を抹消することも。

 

「………で、何をやっているんですか!!!!!この能代もいるのに!!!!!!」

 

「あ?不安がってる嫁を安心させるのが旦那の務めだろうが。てかお前、龍田と2人きりになりてえから邪魔だ。出てけ」

 

「はあああああ?!?!?!?!はあああああああああああ!?!?!?!??!」

 

「うるせえな」

 

「提督ぅ…もっとぉ…」

 

「だそうだ。お子ちゃまには刺激がきついぜ。出てけ」

 

「不潔よ!不潔!!!!あ、阿賀野ねええええええええええ!!!!!!」

 

「うるせえ奴だな」

 

「ふふふ、提督が心配なのよ。本当に…気を付けてね…」

 

「ああ。苦労かけるな。葛城や愛宕にも説明しねえとな」

 

「そうねぇ。で・も。その前に♪」

 

「そうだな」

 

30分くらいキスをずっとしている龍田と提督であった。決して能代が想像していたようなパンパカパーンなことは明るいうちからするはずもない。ご期待に添えませんでした。残念。

 

 

心臓がバクバクとうるさい。電話は無機質にツーツーと言っている。彼から激情を向けられたのは2度目か。あの時は何の感情もなかった。しかし今回は…背水の陣と言ってもいい。おそらく彼は自分と父の事をほぼ全て掌握しているに違いない。

 

だがそれが何だと言うのだ。消してしまえば問題はないのだ。艦娘を使えばいい。いや…それはもう通用しないか…ではどうすれば…。

 

大府提督は捕らぬ狸の皮算用しかできなかった。そして、破滅への道を歩み出していることにまるで気が付いていない哀れな存在でしかない。




刈谷提督の言葉のサンドバックになる大府提督のお話でした。
明確に宣戦布告をし、全面戦争開始です。

艦娘にブラックなこともあれば、人間関係のドロドロを書いていくのも拙作のテーマの一つです。
レイテについてはまだまだ少し先のお話になりますが。

次回は主人公のいる場所なのに最近空気な横須賀鎮守府にお話を戻します。

次回の主人公は不知火です。あれ?玲司は?ええ、ちょい役です(笑)

それでは、また。
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