提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

243 / 291
横須賀にようやく話を戻しまして、今回は不知火が主眼です。

今回は少し過激な表現がございます。気分を害しましたらブラウザバックをどうぞ。

横須賀に来てから少しずつ変わりつつある不知火。不知火はある大切な感情に気づき、見つけ、それを育もうとするお話です。


第二百四十三話

横須賀鎮守府では来る「レイテ掃討戦」における練度向上を図っていた。レイテは深海棲艦の巣。そこを針の穴に糸を通すかのような海路で輸入出を行っているのだが、それすらも憚られそうなくらい深海棲艦の数が増えていると言う。

 

刈谷提督の目的としては、安全な海路の確保と同時に抑え込んでいた深海棲艦の殲滅を目標に掲げ、大きく練度を向上させておけと各若手提督に伝達をしている。

 

もちろん横須賀の練度は鹿島や龍驤、「原初の艦娘」の教えから数々の激しい実戦によって練度は高い。しかし、やはりレイテともなるとどこまでが十全かもわからない。さらに上を。さらに上を。それを目的に演習から出撃まで幅広く、そして無理のないように行っている。演習でぶつかった相手は十字を切るくらいの恐ろしい強さを持っているようであるが。

 

さらには此度、またまたイギリスのアーサー提督によって「この娘らも頼む!」とまたしても横須賀に送ってこられた航空母艦「ヴィクトリアス」と駆逐艦「ジャベリン」…戦艦「ロドニー」彼女たちの練度向上も急務だった。

 

ノルマンディーを奪取することに成功した英国艦隊。特にアーサーの活躍が目覚ましく、J級駆逐艦の長女「ジャベリン」が現れた。英国の偉いさんたちは駆逐艦じゃないか。やっとのことで奪取した報酬が駆逐艦とは…と渋い顔をした。戦艦ロドニーは歓迎されたがジャベリンは敬遠気味であった。性懲りもなくこの国でも駆逐艦の地位は低かったが故、またアーサーが怒ったのだった。

 

「では再び日本にいるジャービスやジェーナスのように日本に送り、そこで過ごしてもらいます。さらに私のヴィクトリアス、そしてロドニーも同じく横須賀へ送ります」

 

そう言うと反対意見が続出。戦艦や空母まで行かせる必要はないだろう。なぜそこまで日本へ貴重な我が国の艦娘を送るのか。

 

「オドレらがそないな風にブツブツ文句を言い腐るからじゃボケェ!!!!ノルマンディーでクソの役にも立たんかったボケ共はおとなしくワイの指示に従っとけこのダボが!!!!!!」

 

また日本語…関西弁で怒鳴り散らした。何を言っているのかはわからないがまたアーサー卿の逆鱗に触れてしまった…と戦々恐々した提督達は何も言わずにどうぞどうぞとジェスチャーした。

 

………

 

『すまんのう…何やいろいろ押し付ける形になってもうて…』

 

「いや、アーサーが艦娘を思っている気持ちはわかっているよ。こちらもレイテへの総攻撃で猫の手も借りたいくらい艦娘が足りない。大丈夫。がっつり練度を上げて、アーサー達の耳にもヴィクトリアスやロドニーだけじゃない。ジャベリンもジャービスたち駆逐艦もすげえ戦果をあげたって入るようにするさ」

 

『おおきに!!さすがわレイジやわー!艦娘育てさせたら日本一…いや、世界一やな!』

 

「んな大げさな…」

 

『いいや、大げさやない!レイジはそれだけすごいんや!あーせや、一宮社長の次男の留学先での家、用意しといたでって伝えといてえな』

 

「仕事が相変わらず早えなぁ…お前も」

 

『親友の親友が困ってんねやったら即動かな!明日やろうは馬鹿野郎や!』

 

俺は今関西の友人としゃべってんのかな…と言うくらいアーサーの関西弁は流暢であり、龍驤としゃべっているような気分である。

 

「そうか。助かるよ。じゃあ涼介には言っておくから」

 

『お礼はせやなぁ…た〇昌のタコ焼きと551の豚まん!冷凍で送ってって伝えて!』

 

「俺は今大阪の人間と喋っとるんちゃうかって思うわ…」

 

「うつっとるで玲司ー」

 

「はっ!?わ、わかった…涼介にはそう伝えておくよ…」

 

『サンクス!ほな頼んだで!』

 

後日、玲司のもとに「あのような素晴らしい家をお貸ししてくれた三条様のご友人に誠に感謝いたします」と丁寧な手紙が一宮提督の弟、啓介から届いた。写真を見たら豪邸かよ、と呟くくらいの凄い家で、アーサーの私物らしいので家賃はいらない。お金なり何なり困ったら何でも言うてな!と至れりつくせりだったそうだ。アーサーにやりすぎ!と電話するくらいだった。

 

………

 

「はーあ…ほんとアーサーはイギリス人とは思えん…」

 

「まあ育ちがこってこての大阪やでなぁ…まあうちと漫才ができる貴重な存在や」

 

それはどうでもいい…と言いたいのだが実際龍驤と会うといつもコントをしている。おもしろいから何も言わないのだが…。

 

「しかし、ジャベリンにヴィクトリアス、ロドニー…アーサーはこんなに送り出して大丈夫なのかよ…」

 

「とりあえずはお預かりし…練度向上に努めてもらうしかありませんね…」

 

「なんてーか…あいつもかなり暴走特急と言うか…思い立ったら即だからなぁ…」

 

「関西人らしいせっかちさんやなー。ま、こっちも貴重な艦娘が増える。しかも対潜が得意な駆逐艦に空母に戦艦!しかも装甲空母にネルソンと同じビッグセブン!ええことちゃうん」

 

「まあ…ありがたくこちらで運用させてもらおう。さて、ジャベリンは練度向上で三隈を旗艦で近海の哨戒に出ているな。まあ、大丈夫だろう」

 

「慢心は禁物ですよ、司令官さん」

 

「おう。何かあったら俺の許可なしで撤退してもいいって言ってあるし、おかしいことがあったらすぐ連絡しろとも伝えてある。近海とは言え、慢心はダメだ」

 

「さすがは司令!慢心はダメ!絶対!ですよ!」

 

「おう。さて、ぼちぼち帰ってくる頃だろうよ。さーて、今日の晩飯は何にしようかなー」

 

「提督!晩ご飯と言ってください!また皐月ちゃん達に悪い言葉になります!」

 

「大淀はお姉ちゃんみたいだなぁ」

 

「雪風ちゃんがうつってきてるんです!ふざけないでちゃんとしてください!」

 

「お、おう…」

 

平穏な一時。しかし、玲司たちもこの後顔が青ざめる報告が来るだろうなど、思いもしなかったのだった。

 

 

「ふう…これで全部、かしら?」

 

「はい。これで偵察部隊は壊滅ですわ。これより帰投致しましょう」

 

「ジャベリンちゃん。疲れてない?」

 

「ええ。大丈夫よ。でも、疲れてないと言えばうそになるかもしれないわ」

 

「初出撃だからね。そりゃ緊張もするし疲れるよねー。基本的な練習はしているとは言えね」

 

今日はジャベリンの初出撃だった。三隈の索敵。川内の圧倒的攻撃力を備え、潮、霰、不知火…そしてジャベリン。この6人で出撃し、三隈や川内はサポートに回り、ジャベリンに駆逐艦としての動き方を不知火が特に熱心に教えていた。その甲斐もあってかほぼ無傷で勝利。撤退の準備を始めていた。

 

「不知火ー。帰るよって。そいつらならもう死んでるって」

 

「…そう、ですね」

 

不知火はかつてのタウイタウイの提督、大府の言う敵を徹底的に破壊せよと言う言いつけ…いや、呪縛にまだ囚われていた。もうそんなことはしなくていいと言われ続け、だいぶなりを潜めていたのだが、まだやはり攻撃をしようとするときがある。

 

不知火もわからない。なぜそこまでして…もうしなくてもいいと言われているのに行おうとするのか。自分でもよくわかっていないのだ。

 

砲を下げ、帰投の準備を始めている皆の方を向いた。ジャベリンが興奮冷めやらぬ状態で川内や三隈に話しかけている様を見守っている時。

 

パシャ…

 

背後から何やら音がした。後ろには駆逐「ロ級」しかいない。まさか…そう思って後ろを見ると…ロ級が動いているではないか!!!それは無邪気に話しかけるジャベリンへ向かって飛びつこうとしていた。そのままでは頭を食われてしまう!!

 

不知火は素早く動き、左手でジャベリンを突き飛ばした。「きゃっ!?」と言う声が聞こえたと同時にバクン!!!!と言う音がし、そして…不知火は見た。自分の左腕がロ級に食われる瞬間を。

 

「What happened!?」

 

突き飛ばされて転んだジャベリンが怒った表情で後ろを見る。

 

「な、あ!?不知火ちゃん!?」

 

「ぐ、ぐう…!このぉ!!!」

 

左手を喪ったことを冷静に判断していた不知火はとっさに右手の砲でロ級の目と頭を撃ち抜いた。それこそが本当にトドメになった。ブクブクと海の底へ沈んでいく。それと同時にグラリと不知火が倒れそうになっているのを川内が受け止めた。

 

「不知火!不知火!!!くっ…まだ生きていたなんて!」

 

「不知火ちゃん!しっかりして!不知火ちゃん!」

 

「ぐっ…うう…し、不知火に…問題は…ありま、せん…」

 

「大問題ですわ!提督に連絡いたします!」

 

「三隈、お願い!不知火!血を止めるからきつく縛るよ!痛いよ!」

 

「ぐっ!!!?!?」

 

「提督!提督!聞こえますか!?」

 

『こちら本部。三隈、どうした?』

 

「不知火さんがジャベリンさんを庇って左腕を失いました!」

 

『…なっ…』

 

「これより帰投致しますわ!戦闘の続行、及び哨戒は不可能と判断致します!!」

 

「し、司令…不知火は…まだ、航行できます…」

 

『ダメだ。左腕を失った状態での進撃は許可できない。撤退だ』

 

「……申し訳…ございません…不知火の落ち度、です…」

 

『落ち度なものか。ジャベリンを助けてくれたんだろ?だったら落ち度なんてあるはずがない。ドックまで辛いだろうけど…気を付けて帰って来いよ』

 

「承知…致しました」

 

青い顔で返事をする不知火。痛いのか痛くないのかさえわからない。ただ、動かそうとしてもあるべき左腕がない故に、違和感がすごい。

 

(司令は怒っておられるようには聞こえませんでしたが…この失態は大きい…ですね…)

 

不知火にとっては自分が大怪我をしたことよりも、失態のことを気にしていた。

 

「さあ不知火さん、三隈に掴まってくださいまし。曳航致しますわ」

 

「あたし達は三隈たちを守るようにして帰ろうか。とにかく急ごう。近いけどね」

 

「はい!不知火ちゃん…」

 

潮も寄り添い、止血帯を緩めたりきつめたりしながら母港へと急いだ。

 

………

 

母港に戻ると漣がおろおろしながら待っていた。

 

「ぬ、ぬい!!」

 

「触っちゃだめよー、傷に響くからね」

 

「うっ…」

 

「はいどいてどいて。心配ないよ。すぐに腕は復活するからさ」

 

神通の時もそうであるが、入渠が早ければ早いほど傷痕さえ残らずに再生する。神通の場合は南方海域からの帰還、入渠なのでやや足の再生した場所に痕が残っている。不知火の場合は近海ですぐ戻って来たので痕も残らず再生し、そのまま戦えるだろう。

 

漣も慌ててドックへ向かう。

 

一方でジャベリンは泣いていた。

 

「私のせいで…私のせいで…シラヌイが…Sorry…うあああ…Sorry!!」

 

「不知火はそれくらいじゃ怒らないよ。不知火にはそうだなぁ。サンキューって言っておけばオッケーだろうよ」

 

「グスッ…W、Why?」

 

「不知火はジャベリンを助けようとしたんだろ?んでもって命を救われた。不知火から話を聞かないとわからないけど、不知火は戦闘などにおいて無駄なことは一切しない。ジャベリンを突き飛ばしたのはそのままだと死にかけのロ級に食われるところだった。だから助けてくれてサンキューなって」

 

「うん…うん!」

 

「おおっと、今はゆっくりしたいだろうから後でな。三隈、川内、戻ってすぐで悪いけど報告頼むよ」

 

「りょうかーい」

 

「わかりましたわ!」

 

グスグスとべそをかいているジャベリンを自室に戻るように促し、玲司たちも執務室へと向かう。

 

「いこ?霰が、ついてます」

 

「ええ…」

 

しょんぼりとうなだれるジャベリンの手を引いていく霰。頭を撫でたり、背中を撫でたりと献身的だ。ジャベリンの初陣はトラウマを植え付けてしまうようなものになってしまった…。

 

………

 

「グスッグスッ…ううう!!」

 

部屋に戻り、何があったのか事情を聞いたウォースパイトがジャベリンを抱きしめて慰めていた。

 

「そうだったの…それは大変だったわね…けど…JavelinはLuckyね…」

 

「そうだよー!Very Luckyだよー!」

 

「Why!?私のせいでシラヌイが…シラヌイの腕が!!」

 

「逆に考えればいい。シラヌイが左腕を差し出した代わりにJavelin、あなたが生きていると言うことを。シラヌイが助けてくれなければあなたが食べられていたのかもしれなかった。Admiralは我々艦娘が沈むことを何よりも避けるし忌み嫌う。生きていてよかった、と思っているだろう。もちろん、シラヌイの心配もしているだろうが」

 

アークロイヤルもそっと優しく頭をなでながらジャベリンに伝える。そうなのだ。不知火がいたからこそ自分は生きている。そう考えないといけないのだ。

 

せっかくジャパンまでやってきて。ここでやっていきなさいと言われ、妹も同国の艦娘もいると聞いてやる気満々でやってきたのに、すぐさま死んでしまう話ほど、嫌な話はない。

 

(それに我が国の艦娘を沈めたとなれば…いくらAdmiralとは言えアーサーが黙ってはいないだろう…)

 

アークロイヤルの言う通りである。玲司を艦娘を絶対に沈めないしすごい戦果をあげるミラクルヒーローなAdmiraさ!と言っていたのに轟沈などやってしまった日には…ただでは済むまい。

 

「そうね。せっかく艦娘として生まれたのだから…ここでその人生を楽しむ権利があるのよ」

 

「まったく、Javelinを食べようだなんて…そんな奴、私の主砲で木っ端ミジンコにしてやるわ!」

 

「それを言うなら木っ端微塵じゃないの…?」

 

「Janus、みかんがないわ」

 

「ミカンはお預けよ!」

 

「What!?な、なぜ…」

 

「シェフィは食べすぎ!!ほらまた!手が黄色になってる!」

 

「Admiralはそろそろミカンの季節も終わり…と言っていたわね…」

 

「そ、そんな…」

 

ウルトラマイペースな軽巡「シェフィールド」と緑茶の魅力に取りつかれた駆逐艦「ジェーナス」

 

「うむ。やはりteaと言えば紅茶だな…」

 

「ううん…このグリーンティーもいいと思うのだけれど…」

 

「貴様もJanusに洗脳されたのかVictorios!?こんな苦いだけの飲み物!Coffeeよりはマシであるが…」

 

「わかっていないわね。この渋みと甘味…ああ…これは良いものだ…」

 

「ぐぬぬ…余の淹れたteaを悉く…おのれグリーンティー!!!」

 

お茶の談義をする戦艦「ネルソン」と航空母艦「ヴィクトリアス」

 

ヴィクトリアスはジャパンへようこそー!と振る舞われたグリーンティー…緑茶をいたく気に入り、ネルソンは紅茶にはめることに出遅れてしまった。なぜだ、アーサーは紅茶を淹れていないのか…?

 

その通りである。もとよりアーサーは人生の半分以上を日本で過ごしている。母が淹れてくれていた緑茶を愛飲している。玲司はいつもイギリスのアーサーの下へ彼が大好きな西尾茶を送っている。急須や湯飲みまで送っているくらいである。

 

「日本の水やないとおいしないわー」と文句は言うが、そこはいたしかたがない。結局、このヴィクトリアスはイギリスの文化にほとんど触れることなく日本へ来て…日本のお茶を飲んだが故、緑茶にはまってしまったと言う流れだ。哀れネルソンの紅茶は「ふむ…たしかにおいしいけれど…緑茶の方がおいしいわね…」と言われてしまったのだった。

 

話が逸れてしまったがジャベリンも生まれたからには生を全うし、楽しみ、笑って過ごす権利はある。戦うことも重要であるし、レイテも迫っているのでそうのんびりはできないが…やはり決戦の時まではゆっくりすることも必要だ。

 

「さあ、お茶を飲んで落ち着きましょう。お菓子もあるわ。アラレもゆっくりしていってね」

 

「んちゃ。あり、がとう」

 

しばらくして、ようやく泣き止んだジャベリン。その笑顔はまだ固いが…少しはよくなったようね…とウォースパイトは安堵した。

 

………

 

「はい、腕は言い方は悪いですけど再生しましたねー。で・す・が、あくまで今はくっついているだけ、と思ってくださいね。無理に動かしたりすると…もげますよ」

 

「……はい」

 

明石の脅しにビクッとなる不知火。意外に不知火は怖がりである。ホラー映画や番組を見ると、何も言わずに漣か潮の布団にぴったりと自分の布団をくっつけ、どちらかの手を握って寝るくらいには。

 

「すみません、お手洗いに行きたいと思いませんか?」

 

「えー?漣チャン、もう行ってきたよー。はっはーん、ぬい?もしかしてさっきのでオバケがこわ…「行きたいですよね?」」

 

「はい、生きたいたいです(殺しそうな目してるんですけど…)」

 

と言うことでもげると言う言葉を聞いてさすさす…と再生した腕をさする。いや、それですらもげてしまったら…と思うとさっと左腕を触るのをやめた。

 

「ふー…ぬいの腕が食べられたって聞いた時は漣チャン、心配でご飯が喉を通りませんでしたぞ」

 

「ど、どうしよう、ぬいにもしか何かあったら…って言いながらもご飯おかわりしてましたよねー」

 

「明石さん!それは内緒だって言ったのに!!!」

 

「私も経験したことです…不安になるでしょうが問題はありません…ですが…しばらくしてからは十分…その…耐えてください」

 

神通も様子を見にやってきた。彼女もまた、レ級のせいで片足を一度失っている。耐えろとはどういうことかはわからないが、安静にしていれば問題はないと言うことだ。

 

「演習も出撃も何もかもダメですからね。あと、毎日1000に工廠に来てくださいね。あと毎日1900以降に1時間ほどしっかりお風呂ではなく、ドックで入渠してください。もし怠ると…もげますからね」

 

「………」

 

「明石さーん、ぬいを怖がらせないでくださいYO~!」

 

「あーははは、ごめんごめん…って、そんな怖い目で見ないでー!」

 

「ほら言わんこっちゃない。ぬーいー、ほらお部屋戻ろー。うっしーが心配してるおー」

 

「はい。明石さん、ありがとうございます。ですが…次は驚かさないようにしてくれると…」

 

「はいきをつけます(殺される殺される殺される)」

 

工廠から退室した後、明石はひそかにバクバクとうるさい心臓を落ち着けるのに必死だった。殺されるかと思うくらいの目つきだった。不知火さんを怒らせてはいけないね…と肝に銘じたのであった。

 

それにしても、その時以外は目が優しくなっていたり、駆逐艦相応の目になっていたり…ちゃーんと感情を取り戻しているようだね、と明石は安心した。明石はある仮定を出した。倒したはずの深海棲艦を完膚なきまでに沈めようとするのは…もしかして…いや、それしか考えられないなぁ。兄さんに言っておくかーとひとまず出撃した艦娘の艤装を修理、整備するのだった。

 

………

 

「と言うわけでジャベリンさんを守るために左腕を犠牲にし、進撃をできなくしてしまいました。申し訳ございません」

 

三隈たちも気づいたらジャベリンを不知火がジャベリンを突き飛ばし、不知火が左腕を食われたとしか聞いていなかったが、不知火が詳細を話してくれたおかげで理解した。不知火は本当にジャベリンを守るために、左腕を犠牲にして救ったわけだ。

 

「不知火が謝る必要はないよ。それより、よくジャベリンを助けてくれた。人間なら本来腕を食われたら再生しないんだが…こんなことを言うのはなんだけど…左腕一本で不知火も無事でよかったよ。よくやってくれた。ありがとう」

 

この時不知火は胸がトクンと何だか跳ね上がったような気がした。何だろう、この感覚は。

 

「司令。今…何か胸に異常を感じたのですが…」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「司令にありがとうと言われた時…何か胸に違和感が…」

 

「……ふーん」

 

それを聞いた玲司は何だか嬉しそうにそうだけ言った。そしてにっこりと笑って不知火に言う。

 

「不知火、しばらくはゆっくりすること。重い物を持ったリ、振り回したりしないこと。練習なんてもってのほか。明石に言われたことをちゃんと守るんだぞ。じゃないと…腕がボトッて…」

 

「………」

 

あ、不知火の目がものすっごいことになってる。大淀や鳥海はひっと声をあげたが玲司はこれくらいでは動じない。それより恐ろしい人間が1人いるからな。清州副司令長官の葬儀の時のあの人の怒りの表情…あれはマジでやばかった。

 

「提督!不知火さんを怖がらせないでください!こちらも心臓に悪いんです!!このくそてーとく!!」

 

「お前は曙か大淀…」

 

「不知火さん、司令はこの霧島がきっちり〆ておきますのでゆっくり休んでくださいね」

 

「ああ、不知火。不知火は今日のばんめ…晩ご飯、何が食べたい?」

 

「はい?」

 

「今日の晩ご飯は不知火のリクエストにお応えしようかなーって。何か食べたいものはないか?」

 

「はあ…」

 

気の抜けた返事しかできない。霧島が手の指をポキポキ鳴らして〆ようとしているのを逃げるように不知火に問う。そんなことをいきなり言われても、不知火は何を出されても嬉しいのですが…と言いたい。しかし、何でもいいと言う言葉は作る人にとっては失礼だと思う。せっかく自分の希望のものを作ってくれると言っているのにそれはない。

 

いつも誰かの言葉で動く不知火にとって、自発的に「これ」と言うのは難しいのだ。司令、ご命令を。指示をくださいなど、いつも受動的だ。だから不知火自身がこうしたいとかこれが食べたい、と言う言葉を聞くのはない。不知火はタウイタウイの時からずっとそうしてきたのだから。

 

(あ、目を回してるような不知火さんかわいい)

 

(ぷぷ、ご主人様うまいなー。ぬいはこういうのちょー弱いですからネ)

 

「あ、う…し、司令…不知火は…えっと…この間…食べた牛筋の味噌煮…が…食べたいと…思います」

 

「あー土手煮ね。おっけーおっけー。竹おばさんにレシピばっちり聞いてるし、明日でいいか?今日からゆっくり煮込んで柔らかくしたいから。悪いな、今日の晩飯って言ったのに」

 

「オホン!」

 

「あー…晩ご飯な。今日は漣リクエストの花丸ハンバーグにするか」

 

「やたー!ご主人様大好きー!」

 

「チョッロ」

 

「なにおう!?ご主人様ひどい!よよよ…」

 

「はいはい、不知火…今日は疲れたろ?ゆっくり休んでくれ。それと、本当にありがとうな。不知火も、生きて帰って来てくれてありがとう」

 

「…はい」

 

まただ。胸がじわっと温かい。何だろう、この感覚は…。わからない。けど…嫌なものでもない。不快でもない。何なのだろうか…これは。この日は続けてご命令くださいなどと言わずに素直に玲司の言葉に従い、漣と共に自室へ戻るのだった。

 

「ふいー…不知火はちょっとずついい方向へ向かっているな」

 

「さあ司令、不知火さんを怖がらせた罪を償ってもらいましょうか」

 

「いやいやいや、その拳をしまえって」

 

「いい方向…ですか?」

 

「ああ。今までのようにおかえりとか、ありがとうとか言っても無反応だったし、たぶん今日の晩飯何がいい?って言っても何でもいいって言ってたろうな。けど今日は違った」

 

「そう言えば…手がもげると言う言葉であれだけ怯えていたんでしょうか、あれは…不知火さん、前まではそんなこと…」

 

「ですから罪を償って」

 

「やめろっつーの霧島。そう、本当に洗脳されたか機械のようだったろ?まあここに来て長くなってきたし、いろんな表情豊かな艦娘が多いからな。それにあの漣と献身的な潮の仲良しトリオ。あの子達が変えてくれたんだろうな」

 

「新しい感情に戸惑っとるんやろうな~」

 

「なんだ姉ちゃん、聞いてたのか」

 

「そらそうよ。腕がもげたなんか一大事やないかい。仲間の心配はうちかてちゃんとするわ」

 

「新しい感情…ですか」

 

「今頃胸のあたりがむずかゆーてしゃーないんちゃうかな?今までにない感情や。まー不知火はご飯とき、神通と並んでできあがるん待ってる辺りからちょっち変わってきたなーって思ってたよ」

 

「ははは、あれかわいらしいよな」

 

「間宮や茉莉はこわがっとるけどな。めっちゃ目が怖いって」

 

「ちげえねえや」

 

「不知火に芽生えてる感情は…嬉しいや楽しい。そんな感情や。玲司に褒められて嬉しい。申し訳ないと同時によく帰って来てくれたな。ありがとう。この言葉にあの子、たぶん嬉しいと思ったんや。せやけど不知火はその感情を知らん。せやからむずがゆいと思うでー」

 

「そうだな。あの子も苦労してきたからな。漣と」

 

「感情を自分から抑え込んでたからな。まあ、商店街行って『司令をお守りします』言うて12.7cm砲隠し持っていったんを聞いたら冷や汗かいたわ…」

 

「あれなぁ…マジで市民団体を撃ちそうでやばかったんだよなぁ…」

 

「まあせやけどそれだけ玲司に信頼を寄せてるんよ。無意識に。ま、今回時間はたーっぷりあるし、気ぃつくんちゃう?」

 

「きっとそうだろうな。そうしたらもっと不知火は輝くいい子になる。強くもなれる」

 

「大府のアホンダラにも言いたいくらいやわ。艦娘は感情があってこそ無限にでも強うなれる。瑞鶴や雪風、北上らを見てるとそう思うわ」

 

「そうだな…みんな苦境を乗り越えて…それでも笑って…戦闘も頑張って…」

 

「横須賀の艦隊の士気は皆高すぎる。そうボソッとこの間演習で当たった提督が申しておりました」

 

「今艦隊で1、2を争う士気が高い艦隊はうちらか鹿屋ちゃうかな?岩川なんかも高いって話やよ」

 

「涼介んとこも高いぞ。アメリカの艦娘も増えて楽しそうだしな」

 

「ほうかほうか。それはさておき…着任して早々ジャベリン沈めたって報告なんかアーサーにしたら…」

 

「ああ…そこはマジで不知火に感謝してる…マジでぶち殺される」

 

「今回は近海やから…と玲司も大淀らも。三隈らも慢心したな。不知火だけが慢心してなかった。せやけど不知火はえぐいことすなって止められてたから止めたからこうなった。まあ、慢心が原因やな」

 

「こんなんでレイテなんて行ったらえらいことになる…気を引き締めていかねえと…」

 

「そうやこのアホンダラ」

 

「うう…」

 

「何も…言い返せません…」

 

「くう…計算外です…」

 

「いや計算せえや」

 

そこからクドクドと龍驤のお説教が始まり、玲司だけが夕飯の支度の為に逃げたが為、しばらくの間大淀達の態度がそっけなかったとか。

 

………

 

「無事でよかったね、不知火ちゃん」

 

「はい。ですが、皆さまにはご迷惑を…」

 

そう不知火が言うと潮がギュッと不知火を抱きしめた。

 

「潮さん…?」

 

「迷惑だなんてみんな思ってないよ。むしろみんな、不知火ちゃんが生きててよかったって思ってるし、潮もみんな無事に帰って来れてこうして不知火ちゃんを抱きしめられてよかったと思っているよ」

 

前までの不知火ならやめてくださいと突き放していただろう。しかし、不知火はそれをそうできなかった。潮の温もりが…心地よかった。

 

「ぬいも無事!ジャベリンちゃんも無事!みんな無事!迷惑なんてかけてない!このお話は終了!閉廷!」

 

「ふふ、そうだね。あ、あとで背中洗ってあげるね」

 

「じゃあ漣ちゃんはぬいの頭を洗いまーす!至れり尽くせりだね、ぬい!」

 

「いえ…不知火は自分で…」

 

「不知火ちゃん、左腕あんまりうまくうごかせないんでしょ?無理しないで洗われてね?」

 

「ふひひ♪今こそぬいぬいにイタズラするチャンス!ぶっ!あががががが」

 

「左腕は確かに満足に動きません。潮さん、お手数ですがお願いいたします。漣さん。漣さんの申し出はお断りさせていただきます。潮さんにお任せしますので。あと、右手は動きますので」

 

「あ、あがががが…頭、割れ…」

 

「もー、ケンカはダメだよ?」

 

「これはケンカではありません。制裁です」

 

「ぬ…い…うっしー…たすけ…」

 

「漣ちゃんそれ演技だよね?」

 

「チィ…あががががががが!!!!!!」

 

「ではもっと強めにいきましょうか」

 

「あーーー!あーーーー!わーれーるーーー!!!!」

 

こうしている間も不知火の胸の違和感は消えない。でも、何だろうか…心地がいい。これは何だろうか?明石さんに聞いてみよう。明日…。

 

コンコン。

 

漣にアイアンクローをしているとドアがノックされた。どうぞー、と漣の事など気にもせずに潮が入室を促した。ドアが開き、入ってきたのは…涙目になったジャベリンだった。




不知火の胸に宿る感情。今まで蓋をしてきてすっかり忘れてしまった…いや、知らなかった感情です。機械のように生きてきた不知火がようやく「艦娘」としての生を知る時です。

次回は不知火がその感情を知る時になります。それを知った不知火はより成長し、かわいくなるでしょう。

夏イベントももう終わりですね。掘りも終わり、まったりと資材回復に勤しんでいます。まだの皆様、もう少し時間はございます。まだ見ぬ艦娘に出会えることをお祈りしています。

それでは、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。