提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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不知火のお話の続きになります。
ジャベリンがやってきたのですが、何やら妙な状況。はたして、不知火はどのような態度で挑むのでしょうか?


第二百四十四話

涙目のジャベリンの後ろには苦笑しているウォースパイトがいた。ジャベリンはグスグスとしゃくりあげているし、一体どうしたのだろう?漣や潮は気が付いたようだが不知火は何で泣いているのかわからない。

 

「Sorry…Javelinがシラヌーイに謝りたいと言って聞かなくて」

 

シラヌーイって言い方おもしろいなぁと思う漣。もちろん不知火にそんなことを言った日にはまたアイアンクローを食らうだろう。

 

「不知火に…謝りたい…ですか?何をでしょうか?」

 

「グスッえぐっ…わだじ…わだじのせいで…シラヌイが…」

 

「…?不知火がどうかしましたでしょうか?」

 

「ぬい…空気が破滅的に読めねー…そりゃ、ぬいの腕の件でしょうよ…」

 

「あははは…ジャベリンちゃん、ごめんね?」

 

漣と潮がフォローを入れる。本当に不知火は何のことかがわかっていないのだ。ウォースパイトは忘れてしまっているのか…?とんでもないことになったと言うのに…。

 

「わたし…わたしの、ひくっ、せいで…シラヌイの…うで、腕がぁ…だがあ…ごめんなざい…うわああああああああん!!」

 

号泣。ああ…腕のことですか…。不知火はやっとのことで気が付いた。不知火はそう言うことに気づくのが疎い。疎すぎるのだ。

 

「不知火の腕でしたらこの通り、元に戻っております。まあ…まだ動かすことは鈍くて困っておりますが。再生不可能だったわけではありません。お気遣いなく」

 

「でも…でも…!」

 

「Javelin。シラヌーイは本当に問題はないみたいよ。ほら、ちゃんと腕もあるしここにいるじゃない。轟沈したわけではないのだから」

 

「そうそう。それにジャベリンちゃんは初陣だったんだよね?だったらしょうがないよ」

 

「まさかぬいのトドメを刺すって言うのをやめろって言う命令を出したらこうなっちゃったんだなぁ…そりゃしょうがないね」

 

「はい。あの時あのロ級を完全に破壊し、沈めるべきでした。気づくのが遅く、危うくジャベリンさんが食べられてしまうところでした。これは不知火の落ち度です」

 

「No!私のせいよ!!私が…私がちゃんと最後まで警戒をしていれば…」

 

「初陣は舞い上がっちゃったりガチガチになったりするのは当然だお。でもまあ、ジャベっちはぬいの腕が犠牲にはなったけど、生きてる。ぬいぬいは腕の1本で済んだ。なら問題なし。ヨシ!」

 

「そ、そんなこと…私のせいで腕を食べられちゃったんだよ…?」

 

「ですが不知火は生きています。漣さんの言う通り、不知火の腕1本で誰も轟沈しなかったのですから戦果的には問題はありません。まあ、敵本隊を漏らしたのは不知火の落ち度ですが」

 

「不知火ちゃん、それを言うとジャベリンちゃんを追い詰めちゃうよ…」

 

「……失礼しました」

 

「うう…」

 

ジャベリンはどうも納得していないようだ。不知火が腕を失ったのも、本隊を叩けなかったことも自分のせいだと言って聞かないらしい。謝っても到底許されるものではない。そう言うくらいジャベリンは自分に責任を感じているらしい。ウォースパイトが説明した。

 

「本当、Javelinは気にしすぎだヨー!シラヌイはNo problemって言ってるよ?」

 

「だから言ったじゃない。って言うか…気にしてないどころか腕を食べられたのを忘れてたんじゃないってくらいの反応ね…」

 

気になった妹のジャービスとジェーナスも一緒についてきていたようだ。2人もずっとジャベリンを宥めていたらしい。が、やっぱり謝りに行かないと!と強引にやってきたのだ。

 

「すっごい責任感が強いって言うか…さすが長女って言うか…ぶっきーちゃんみたいだねぇ…うんうん…漣ちゃんのように責任感が強いってうぶっ「少し黙っていてください」」

 

不知火に強引に口をふさがれた漣。いや、漣も責任感はそれなりに強いのだが…。クスクスと笑う潮。ふむ…と不知火は漣の口を押えながら考える。しばらくした後、不知火が口を開いた。

 

「ジャベリンさん。不知火のことは本当にお気になさらず」

 

「で、でも!」

 

またフォローがいるかなぁ…と潮が口出しをしようとしたとき…。

 

「日本にはこのような言葉があります。『帰ろう、帰ればまた来られるから』と」

 

「うむー」

 

「あ、その言葉あるよね」

 

この言葉は先の大戦の際にとある提督が言った言葉だ。ある作戦の際に作戦決行を断念した際、強行突入を進言する部下に対して言った言葉であると不知火は語る。

 

「え、えっと…」

 

「今の司令から教わったことです。かつての人が仰られた解釈とはかなり違う言い方をしておられましたが」

 

「つまりはですぞ。帰ってきたらまた行けるっしょ?でも沈んだら?そこで終わりじゃないですか。でもこうしてぬいは腕だけで済んだ。いやー、腹が立つんで漣チャンもそのロ級フルボッコにしたいんですけど」

 

「もう、漣ちゃん?えっと、提督が言いたいのは、帰って来ればまた挑める。けど沈んじゃったらどうしようもない。負けても生きて帰って来たならまた挑めるんだから焦る必要はない。そう言ってたんだよ」

 

「Hmm…」

 

これについては「言葉は使わせてもらってるけど俺独自の解釈として使ってるよ。でも、この提督はすげえ人だと思う。例え連合艦隊司令長官や上官に何と言われようが機を伺う。機を見るに敏。分かった時には一気に作戦を行って艦一隻、人1人失うことなくこの作戦を成功させたんだ。すげえよなぁ」と語っていると言う余談。

 

玲司自身は帰ってくりゃ何度でも挑める。勝つまで挑めばいい。けど沈んだら終わりだ。何も残らない。何も残せない。残るのは仲間の悲しみだけだ。そう不知火に懇々と説明したのだ。大破しても進撃を何度も行おうとする不知火に何度も何度も。耳にタコができるくらい何度もそう説明した。

 

(あれ?じゃあぬいぬいは洗脳されていなかったけどされてるような感じで何度も沈むまで敵を…ってことは…?)

 

漣にある疑問が生まれた。この言葉のことだけではない。深海棲艦を徹底的なまでに破壊し、沈むまで攻撃を繰り返す不知火。それはタウイタウイの頃からである。不知火は自分は確かに洗脳されていた。姉である陽炎が自分に砲を向け、それを自分が撃って沈む直前まで。そのあとも頑なに守らなくてもいい命令をなぜずっと繰り返しているのか…?ふとした疑問であった。

 

「ですから、ジャベリンさんが生きて帰って来られて司令は安心しておりますし、不知火もこの通り腕は戻っています。不知火の腕が完治次第、再度また赴けばいいのです」

 

「そうだね。不知火ちゃんも無事。ジャベリンちゃんも無事。ならなーんにも問題はないよね?」

 

「そうだヨー!みんな生きて帰ってきた!JavelinはLuckyだよー!」

 

「う、うあ…シ、シラヌイ…ご、ごめんなさい…I'm Sorry…!」

 

「No!Javelin!こういう時はね、Sorryじゃないわ!こういう時はね「Thanks!」って言うんだヨー!」」

 

「もう!Javis!?それあたしが言おうしてたのにぃ!!!!」

 

「えへへー♪」

 

「えへへーじゃないわよ!!!」

 

「もう、ケンカをしないの。さあ、Javelin?ちゃんと言えるわよね?」

 

うーんウォースパイトさんはイギリス艦のお母さんみたいですなーと思う漣。ジャベリンにありがとうと言うように促している。

 

「あ、あの…ぐすっ…シラヌイ…その…Th…Thank you…ア、アリガ…ト、ウ」

 

不知火は一瞬驚いた顔をしていたが…その時ふっ…とほほ笑んだ。その微笑みに潮と漣は驚き、ウォースパイト達はにっこりと笑っていた。

 

(Wow…What a beautiful…)

 

ウォースパイトも感嘆の息を漏らすほど、不知火の微笑の顔が美しかったのだ。あの表情が乏しい不知火が笑っている。初めて見た。

 

「ぬいぬい…?」

 

「ふふふ…」

 

潮はそれを見て笑っていた。潮はわかっていた。不知火は感情を押し殺しているわけでも感情がないわけでもない。ちゃんと感情は持っている。最初は怒りくらいしかわからなかったが今なら割とわかる。ご飯を神通さんと楽しみに待っている時は少し表情が柔らかかったし、あのお出かけをしたとき、司令をお守りするからと12.7cm砲を取り出そうとして提督に怒られた時は不満げな顔をしていたし…単に感情を出すのが不器用なだけなんだよね、と。

 

不知火はもともと感情を表に出すのが上手ではない。特に彼女はタウイタウイの頃から感情を押し殺して過ごしてきたのでなおさらである。

 

だがここで潮を含め、表情豊か、感情豊かな艦娘達と触れ合ううちにその感情を取り戻していったのだった。気が付かないようであるが、本当なら「司令をお守りするため」などと言い、私服に着替えて12.7cm砲を隠し持って外に出るなど「無駄です」と言ってしなかっただろう。「それを絶対に出すなよ!」と提督に言われていた時の不満そうな表情。竹美おばさんの牛筋の煮込みを食い入るように見る顔。

 

そのどれもが潮は嬉しかった。あの恐怖さえ覚えた無表情の不知火がここまで表情豊かになるとは思っていなかった。霰と同様に何となく読み取れるときもあれば、露骨に表情を出す時もある。

 

漣はそんな不知火の表情の変化に戸惑っているようだが、何だか嬉しくなって潮と一緒に笑っていた。

 

(不知火ちゃんのその表情の変化は、きっとこれから先強くなるには必要なことだろうなぁって思うよ。一緒に頑張ろうね、不知火ちゃん。潮と漣ちゃんと一緒に…)

 

「これにて、イッケンラクチャクだねー?じゃあ私達の部屋でシンボクーを深めるためにぃ…Tea timeだよー!」

 

「Jarvis?一件落着とか親睦とか…意味が分かって言っているのよね…?」

 

「All right~♪」

 

「はあ…けれど、Jarvisが言っていることはいいことね。どうかしら?一緒にTea timeはいかが?」

 

「はい。ではご相伴に預かりましょう。よろしいですか?潮さん、漣さん」

 

「もちろん!潮たちもお邪魔しま~す♪」

 

「やたー!よーし、ここはご主人様の秘密のおやつ入れからこそーっと取ってきた間宮羊羹を持っていきましょうかね~♪」

 

「Wow!マミーヤヨーカン!?それならこのJanusがとびっきりの玉露のTeaを淹れてあげるわ!」

 

「おおっ、やっぱり羊羹には緑茶ですなぁ!ナスっちわっかるー!」

 

「ナスじゃないわよ!!!」

 

「はいはい…さ、行きましょうか」

 

いやいや、英国艦とのティータイムなら紅茶じゃないのか…と言うツッコミを入れる者は誰もいないのである。それが横須賀鎮守府クオリティ。

 

………

 

「What!?Tea timeだと言うのにまた緑茶か!?なぜ紅茶にせんのだ!ええい、余が淹れてやるから待って「できたわ!Janus特製のえーっと…ニシーオ?ティーよ!」

 

西尾茶である。伊勢茶にするか宇治のお茶にするか迷ったらしいが羊羹にならこれだろうと言う理由だ。

 

「な、あ…」

 

哀れネルソンは紅茶を淹れることなく、もうジェーナスが緑茶を淹れてきたのだ。

 

「いやぁ、羊羹に紅茶はちょっと合いませんなぁ…」

 

「羊羹には緑茶ですね」

 

「んん~…いいにお~い♪」

 

ジェーナスの緑茶をおいしく淹れる修行はまだまだ続く。ここ最近、格段に進歩しているのだ。何と抹茶を作ることもできるようになっている。

 

「さ、さ、シラヌイ!ここよ、ここ!座って座って!」

 

ジェーナスが座布団を埃が舞うくらいボフボフ叩いて隣に座れと促している。クシュン!とその埃でくしゃみをするシェフィールド。

 

「では~、開封の儀!間宮さん特製の間宮羊羹!それも特大!オープンセサミー!!!」

 

ネルソン以外がおお~と声を上げる。またしても紅茶を広められず、不貞腐れている。しかし、チラチラと羊羹を見ては食べたそうな顔はしている。

 

「もう、Nelsonも素直に食べたいって言えばいいのに」

 

「Rodny…そうは言っても余はビッグセブン…こういうことを無邪気に喜ぶのはだな…」

 

「んー!おいしそう!私にも切ってもらえるかしら!」

 

「聞いているのかRodny!!!」

 

英国艦1不憫な艦娘。それはネルソンだろう。摩耶との紅茶の語らいこそが癒しの時間…。最近は緑茶も悪くは…いや、JanusのTeaに洗脳されてはいかんのだ。余は英国のビッグセブン、ネルソンだぞ!

 

「Brilliant!!!さすがはマミーヤのヨーカンだな!!Janus!Teaをくれ!」

 

「ふふふ、OK!(計画通り)」

 

(NelsonがJanusと漣の計画にまんまとのせられているが…黙っておくか…)

 

アークロイヤルにヴィクトリアスは少しずつネルソンがジェーナスの緑茶を好きにしていく洗脳作戦に載せられていることを知りつつも、間宮羊羹とおいしい緑茶に舌鼓を打つのだった。

 

………

 

「それじゃあ行ってくるね」

 

「ぬい、おとなしくしてるんでちゅよーあががががが」

 

数日後、不知火を抜いた潮、漣と水雷戦隊にて遠征に行くことになった。不知火はまだ腕がやや動くようになってはいるが、まだ感覚がはっきりと戻っていない。故にまだ絶対安静である。お留守番だ。また余計なことをいって漣は右腕でアイアンクローを食らっている。

 

「もう、漣ちゃん…ダメだよ?」

 

「ウ、ウッス」

 

「どうかお気をつけて」

 

「うん、ありがとう。不知火ちゃんはおとなしくしててね」

 

「………はい」

 

結局子ども扱いなのか…と小さくため息を吐いた不知火。しかし、自分も参加したかったな。特に潮と漣がいるならなおさらである。彼女を守りたい。その思いを口に出すことはないが。近海への資材回収だ。司令も万全で準備しているだろうから大丈夫だろう。

 

 

チッチッチッチッチッチッ…

 

 

静かだな。こんなに静かだったのはいつ以来だろうか。ああ、初めてここに来て司令に「部屋でじっとしていろ」と言われて以来だろうか?それからは漣さんに潮さん…賑やかでいつも…失礼だがうるさかったな。漣さんが皐月さんや文月さんを招き入れたり…静かな時間はあまりなかったように思う。

 

 

チッチッチッチッチッチッ…

 

 

いや、それにしても静かすぎないか?駆逐艦寮の皆は…ああ、鹿島教官や龍驤教官と鍛錬だな…はぐれ艦隊の出撃もあったはず。ああ、これはまたジャベリンさんが行っているはず。大丈夫だろうか?いや、今回は時雨さんも響さんも行っている。万全だろう。慢心して腕を失った自分よりはしっかりしているはず。

 

 

チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッ

 

 

うるさいな…一体何の音だろうか。ああ…漣さんの目覚まし時計か…寝起きが悪いからと妖精さんが作ってくれたと言う目覚まし時計。その目覚ましの音は爆音の起床ラッパ。正直言って飛び起きるレベルじゃない。驚きすぎて機関部(心臓)が止まるんじゃないかと思うくらいだ。いつも自分か潮さんがこれが鳴る前に止めている。周りの部屋の皆さんにも迷惑をおかけしてしまうから。おかげで不知火か潮は早起きができる。

 

 

ふー…ふー…ふー…ふー…

 

 

今度は何だ。時計の音から意識を逸らせば、また別の音が聞こえる。これは…自分の呼吸音か。時計の音も、呼吸音も…眠るときなどは一切気にならなかったと言うのに…。段々と不安になってきた。この時計の音も…呼吸音も…まるで世界には自分だけしかいなくなった世界に迷い込んでしまったかのように。

 

ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ

 

なぜ?自分の呼吸が荒くなっている?これは…どうしてだろう。体も落ち着かない。

 

バリバリ…

 

畳をかきむしって音をわざと立てる。それでも不知火は言い知れぬ不安感を拭いきれない。居ても立っても居られない。不知火はこの部屋にいることに苦痛を覚えた。不知火は慌てて立ち上がり、部屋を飛び出ようとした。

 

ゴン!!!!

 

扉に手をかける前に扉が開き、盛大に不知火は額をぶつけることになった。

 

「わあ!?し、不知火ちゃん!?ご、ごめん…大丈夫…?」

 

「ぐぐぐ…不知火に落ち度は…ありません」

 

落ち度は関係あるのかなぁ…そう思いつつ不知火の様子を気遣うのは吹雪だ。

 

「ああうう…おでこが赤くなってる…たんこぶにならなければいいけど…」

 

「吹雪お姉様。のっくもせずに扉を開けるのはいささか失礼ではないかと…氷をお持ちいたしましょうか?」

 

「…いえ…お気遣いなく…不知火に問題はございません」

 

「左様でございますか。吹雪お姉様。えっと…不知火様。お茶をお淹れしますのでどうぞ座ってお待ちくださいませ」

 

額を押さえて吹雪がおろおろしているのを見る。それと同時に…あの髪の白い駆逐艦は…誰だろうか?

 

「あの、吹雪さん…」

 

「あっ、白雲ちゃん!お湯沸いてる?」

 

「はい。お湯も十分に入っております。少々お待ちくださいませ」

 

「はーい。ふふ、白雲ちゃんの淹れるお茶はおいしいんだよ♪」

 

「はあ…」

 

白雲と言うのか。見たこともない駆逐艦…確かに吹雪さんが改二になる前の制服に見えなくもないが…吹雪型なのだろうか?それはそうと紹介くらいしてほしい。警戒してしまう。しかし…先ほどの何か胸をかきむしりたくなるような焦燥感は消えた。

 

「お待たせいたしました。淹れていきますね」

 

「はーい!」

 

「んちゃ」

 

「わっ!?霰ちゃん!?」

 

「く、曲者!?」

 

「………!!!」

 

いつの間にか霰もいた。気配がまったくなかった。この人はいつもそうだ。気が付くといる。川内さんと同じようなすごい能力をお持ちなのだろうか。ちょっと驚いてしまったではありませんか。

 

「ゆ、湯呑は…」

 

「自分のを…持って、きました」

 

「ど、どうぞ…」

 

「ありがとう、ございます」

 

「かすみものむー!」

 

「!?」

 

「あれー?霞ちゃんも来たんだ!じゃあ一緒にお茶しようね!」

 

「あい♪」

 

「霞ちゃんの、湯呑…です」

 

何だかまた駆逐艦らしい自由な雰囲気になってきた。いや、気になることが山のようにあるのだが…思考が追いつかない。そして彼女も気配なく霰さんの隣にいた。いや…彼女はもう1人の霞さんとお話をしたい…と思うのだが、これでは無理か。

 

「ん…おいしい♪」

 

「羊羹もございます。どうぞ召し上がってくださいまし。たいへんよろしいものでございました。いとよろし♪」

 

「よろしー♪」

 

「あの…」

 

「なぁに不知火ちゃん?」

 

「すみませんが、そちらのお方はどなたなのでしょうか?」

 

「んちゃ」

 

霰がそう言いながらコクリと頷いていた。

 

「おねえちゃんだーれー?」

 

……………はい?

 

誰も…知らない…のに…溶け込んでいる?

 

「へんたいふしんしゃさん?」

 

その言葉にガーン!と言う言葉が似合うかのように崩れ落ちる…ああ、先ほど吹雪さんが白雲と呼んでいた何者かが崩れ落ちた。相変わらず霞さんの言葉は衝撃が大きいものが多い。くちゃいと言われて紫亜さんがひどくショックを受けたのだったか。

 

「か、霞ちゃん、違うよぉ!だ、だぁれ!?霞ちゃんに変な言葉を覚えさせたのー!」

 

「電ちゃん、です」

 

「いなづまちゃぁん…あ、ああ、ええっと…曲者でもへんたいふしんしゃでもないからね!この子は私の妹の白雲ちゃん!です!ついさっき着任したんだ!不知火ちゃんの様子見も兼ねてご挨拶にーと思ったんだけどー…」

 

「はじめまして…吹雪型駆逐艦8番艦『白雲』と申します。よろしくお願い奉ります。あの…決してその…不審者と言うわけでは…」

 

「あう…ごめんなさい…えっと…しらくもおねえちゃん!」

 

「お、お姉ちゃん…ふふ…それはいとよろし…♪」

 

「よろしー♪」

 

古風な感じがする。吹雪さんとは違って随分と落ち着いている。時雨さんより落ち着いている感じだ。かと言って霰さんのように表情に乏しいわけでもない(人の事は言えないが)。

 

それぞれ自己紹介をする。自分が名乗ると「不知火様ですね。どうぞよろしくお願い奉ります」と畏まった挨拶であった。様呼びは…むずがゆいが。

 

「ところで不知火ちゃん、さっきお部屋を飛び出そうとしてどうしたの?ずいぶんと慌ててた様子だったけど…」

 

「おといれ?」

 

霞さんのせいで緊張感が切れる。霞さんは霰さんにくっついて甘えている。姉妹だからだろうか。霞様は一体…と戸惑っていたが後で事情を説明すると吹雪さんが言っていた。今はいいだろう。

 

「いえ…決して用を足したりなどとは…その…何と言いますか…」

 

ギュウ…と胸を押さえる。締め付けられそうな感覚。恐怖。世界に自分だけしかいなくなってしまったかのような感覚。その事細かなことを吹雪さんに打ち明けた。そうすると吹雪さんはどこかニコニコとして近づいてきた。そして…抱き着かれた。不知火の頭が吹雪さんの胸の辺りに寄せられる。

 

「不知火ちゃん…それは…寂しかったんだね」

 

「…寂しい?」

 

「そう。寂しい。不知火ちゃんはいーっつも漣ちゃんと潮ちゃんといるもんね。だからきっと…突然1人でポツンとお部屋に閉じこもっていたら寂しくなって怖くなっちゃったんだね」

 

孤独。ひとりぼっち。それはとても怖いし寂しいよね、と吹雪は言う。

 

「ひとりは…こわい…おねえちゃんたちがいないと、かすみ…ないちゃう」

 

「今は、霰も…吹雪ちゃんたちも、いるから、大丈夫?」

 

「うん、いまはだいじょーぶだよ!!あられおねえちゃん♪」

 

「はーい♪」

 

霞さんが霰さんに抱き着いているのを見て思い出す。時々鬱陶しいとまで思うほどの漣さんの強烈な構ってを。それに乗ってくる潮さんを。

 

………

 

「ぬいぬいー!ほーらギュー!」

 

「暑苦しいです。離れてください」

 

「んぎぎぎ…あたしを離したくばチカラずく…あ、すいません許してください」

 

「ふふふ♪じゃあ潮もぎゅー♪」

 

「潮さんまで…」

 

最初は本当に鬱陶しかった。こんなじゃれついている暇があるなら鍛錬を行い、一隻でも深海棲艦を屠るべきだ。そう思っていた。今は嫌いではない。むしろ嫌がってはいるが…あの感情は何と言えばいいのだろうか。今目の前で霰さんに抱きしめられて満面の笑みでいる霞さんと同じような…ああ、嬉しいと言えばいいのだろうか?

 

今では「あ、不知火ちゃんちょっと困ってる。困ってる顔もかわいいね♪」と潮さんにからかわれるくらいだ。

 

「ぬいぬいかーわーいーいーぐぇっ!ぬ、ぬい、しま、首、しまカヒュッ」

 

あれは恥ずかしいと言うのか。つい漣さんの首を絞めてしまったが。

 

感情…ああ。感情か。前の前の司令のせいで…破壊した感情。感情を殺しながら仲間を守る。そう決めていたのだが。弱くなってしまうだろうから。

 

「不知火ちゃん。私達は何のために感情があるんだろうね?深海棲艦を倒すためだけなら感情なんていらないと思うんだ。でも、私達には感情があるし、今を楽しむことでもっともっと強くなれる気がするんだ。みんなと楽しく!でもやる時はやる。そうやって、たくさん楽しいことをして、おいしいものを食べて、みんなで笑ってやっていくのは…すごく…すっごーーーーーく!!いいことだと思うよ」

 

「……感情があるから弱くなる。タウイタウイの司令はそう言っていました。前の司令は…そうじゃないと仰られておりましたが」

 

「えーと刈谷司令官かな?そうだね。タウイタウイの司令官は間違っているよ。せっかく持っている大事なものなんだから壊すなんてありえないよ!」

 

「霰も、そう、思います」

 

「えへーってわらうとげんきになるよ!」

 

「うん!今は漣ちゃんや潮ちゃん、司令官やみんなのおかげで不知火ちゃんも寂しい、とかそういう感情が戻って来てるんだね。うんうん!これは司令官に報告しなくっちゃ!不知火ちゃん。感情を出すって言うことはいいことだよ!」

 

「はい。私もそう思います。不知火様。皆様と共にこれからも研鑽して参ります。その際に…楽しくあることができるなら。その中にこの白雲も入り、皆様と共に歩めるのなら、これほどまでに嬉しいことはございません。不束者ではございますが、どうぞ仲良くしてくださりませ」

 

「…ええ。不知火は白雲さんを歓迎いたしますよ」

 

「おお…これが不知火ちゃんの笑顔…噂に聞いた不知火ちゃんの笑顔だぁ。かわいい♪」

 

「しらぬいおねーちゃん、かわいい!」

 

「んちゃ、かわいい、です」

 

「……や、やめてください…ああ…なぜですか…顔が…あちゅい…」

 

「ふふ、ふふふ!不知火ちゃんかーわーいーいー♪んぐぇ…!?し、しらぬいちゃ、カヒュカヒュッ!じ、じぬ!」

 

「あ、ああ…い、いけません…漣さんのような言い方でしたのでつい…」

 

(漣ちゃん…よく生きてられるな…死ぬかと思ったよぉ…)

 

「あー、しらぬいおねえちゃんかおがとまとみたいだよ!」

 

「不知火ちゃんかーわーい…はっ!?危ない危ない…!さ、さあ!」

 

「はい。お茶が冷めてしまいます。どうぞ召し上がってくださいまし」

 

ああ、吹雪さんたちが来てくださってよかった。感情…ですか。これを大切に…不知火は横須賀で皆さんと共に…。

 

………

 

「不知火の感情は破壊されたわけじゃなくて自分で押し殺しているだけなんだよな」

 

「せやなぁ。まあ大府のアホタレの言うことを素直に聞いてたわけやない。あれは何かあるんよなぁ」

 

「あれはな。自分の目の前で妹の黒潮がハ級に食われちまったからなんだってさ…」

 

「……それでいて大府のアホの洗脳をされているフリをして…か?」

 

「ああ。それも今回のジャベリンと同じような感じ。倒したと思って放っておいたら最後のチカラを振り絞ったハ級が動いて右半身を食われて沈んでしまったらしい。黒潮はその時大破進撃をしていたらしい」

 

「無能やのう大府は」

 

「まあだからきっちりと前に無能っぷりを見せつけるために降格させたんだってよ。刈谷提督の判断だって」

 

「ふん。とっととクビにしてもうたらええねん!」

 

ロールキャベツの準備をしながら玲司が龍驤と喋っている。不知火は割と命令、ではないのだが昔を話してくれないか?と聞くといろいろと教えてくれる。その中で今話した内容のことを聞かせてくれた。

 

「結局それでより冷徹に感情を消して、完膚なきまでに。大府や刈谷提督が止めても止めないくらい徹底的に。深海棲艦を潰すようになったんだって」

 

「そうすることで同じ轍を踏まんよう。仲間を守るようにしとったんやな。誰にも言わんと」

 

「まあ不知火は感情を表には出さないけど、結構熱い性格してるし優しいからな。霞がえらく懐いているし」

 

「ほーん。珍しいこともあるこっちゃなぁ」

 

「ふふ。不知火さんはお手伝いをしてくれたり優しい子ですよ♪」

 

「だそうだよ。姉ちゃん」

 

「ふ、ふん、まあうちかてそんくらい知ってたし!」

 

「知らんけど」

 

「ちゃうわボケェ!!!!お前を簀巻きにしたろか!!!!!」

 

「龍驤さん…提督に危害を加えるのであれば容赦はいたしませんが…」

 

「おおん!?神通ええ度胸やんけ!『炎の女王』!『原初の艦娘』のこのうちをなめんなよ!!!」

 

「……提督のお料理の邪魔をするのであればこの神通…」

 

「ケンカするなら晩飯抜きだぞー」

 

「な、なんやて!?」

 

「………静観します」

 

玲司のご飯の事になるとおとなしくなるのであった。

 

(不知火。感情を取り戻したならもっと強くなるさ。今まで以上にな)

 

娘の成長を喜ぶ父親のように。玲司は不知火の成長を喜ぶ。みんなそうであるが感情があるからこそ強くなれる。大府や安久野のようなやり方を理解しようとも思わないし。それをやろうとも思わない。やろうものなら武蔵に殺してくれと頼んである。

 

みんなと一緒に楽しく笑って。そうしてレイテも乗り越えて行こう。まだ詳細は聞いていないが…不知火も頑張ろうな、と思うのであった。

 

………

 

遠征から帰って来たうるさい漣さんに静かにしてもらい(物理)、お風呂などに潮さんと共に入る。白雲さんや吹雪さんたちとも親睦を深めるために入浴。とても有意義な時間だったと思います。

 

「不知火ちゃん、腕の調子はどう?」

 

「はい。まだ感覚はありませんが少しずつ動かせるようになってきました。ですが、まだ…ですね」

 

「そっかぁ。気長に待とうね」

 

「ええ。皆さんにご迷惑をおかけするわけにもいきません」

 

「ふふっ、そう言ってくれて何より♪さ、今日はもう寝よっか。疲れちゃった…ふぁ~あ」

 

何もしていないので眠くもないのだが…消灯時間か。仕方がない。おとなしく自分も寝るとしよう。

 

………

 

その夜、異変は起こった。ふと目が覚めると左腕が燃えているかのように熱い…?なんだこれは。左腕に何か違和感を感じる。むう…と思っていると猛烈な痛みが襲い掛かって来た。

 

「う、ぐあ!うぐ、ううう!!!」

 

声をなるべく出さぬよう、左腕を抱えてのたうち回る。痛い…痛い…!!!何だこれは!?ロ級のせいで腕を失った時より…痛い…!

 

「ぐ、ぐううううう!!」

 

「ぬい!?どうしたの!?ぬい!?」

 

漣さんを起こしてしまったか。

 

「不知火ちゃん!どうしたの!?だ、誰か!誰か!!あ、明石さんを呼んで…!漣ちゃん!不知火ちゃんをお願い!」

 

「任されたよ!!!ぬい!どうしたの!?しっかりして!!!」

 

あまりの激痛に自分は…ただただ苦しむしかなかった。




不知火の再生した腕に異変が…?一体何が起きたのかは次回をお待ちください。

不知火は意外に面倒見がよく、仲間を守るために。黒潮と同じようなことに仲間がならないように深海棲艦を破壊し続けたわけですね。仲間思いの熱い心を内に秘めた艦娘です。

次回で不知火編はおしまいです。次回をお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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