ついに涼介少年が提督を目指すことになります。
涼介少年が提督を目指すようになった理由。それは小学6年生に上がってしばらくしてからのことだった。
それが彼の運命を変えたと言ってもいい。それは…深海棲艦の出現だった。突如現れて海を占領していく未知の生物?兵器?人々は主力国の人工兵器ではないかと疑い、それがきっかけで無意味な核戦争にまで発展しそうになるまでに至った。
世界の核兵器を全て私用すれば、今いる人類を33回ほど全滅させられることが可能なほどである。その脅威が目前まで迫っていたのだ。核兵器の使用は抑えられたものの、人類は緩やかな死を待つだけとなった。
特に島国で輸入に頼らざるを得ない島国は危機的であった。日本ももれなくその仲間になった。海運業を営んでいた一宮コーポレーションもその例外ではない。シーレーンを全て制圧されてしまった一宮社長はなす術もなく、企業のチカラを弱めていった。
「むうう…このままでは我々の生活もままならなくなってしまうな…」
「一体何が起きたのかしらね…自衛隊が動いてもまったく変わらない…世界の軍隊が動いても…何も…」
「近代兵器が効かないらしい。困ったね…これでは船が出せん」
そう。船を出せば情け容赦なく撃沈させられてしまう。大事なのは船もそうであるが、人。一宮社長は全ての船員を大事にする。人がいるからこそ船を動かすことができ、物資を運ぶことができると考えている。
人を疎かにしていると、熟練の腕を持った船員たちを失うことになり、効率が落ちる。長い時間をかけて見習いから熟練になり、しっかりと安心して航海できる船団も増えた。これを失うことは金額の損失よりも大きい。補填がきかない。
そのため、大切な人員を失わないように今は何も仕事は与えていない。与えてはいないが経費はかかる。収入はない。そんな状況なので会社の資金は失われていく。
もちろん小学生である涼介。そして同じく弟の啓介は何もできるはずがなく…。
「お兄ちゃん、僕たちどうなるんだろうね」
「一時的なものではないだろうから…解決策がないとどうにもならないかな…」
「会社…つぶれちゃうのかな」
「お父さんがいる限りそんなことにはならないと思うよ」
啓介には気休めにしかならない言葉を言っておいた。啓介も何となく察しているが、一宮家は危機的状況だ。父の存在をよく思っていない親族はこの状況を喜んでいるらしい。俗物的な人間だな。親族が困窮しているところを喜ぶなどと。
僕も何とかしたい。父と母には救われている。路頭に迷うことは構わないが、父と祖父が築き上げてきた会社がなくなるのは自分としても辛い。目標は見つかっていない。やはり…自分が父の後を継ぎ、会社を一緒に立て直すか…?小学生の思考ではそこまでしか思い浮かばなかった。
………
状況は半年経っても変わらなかった。半年もの間、何とか経費を抑え、リストラを行うこともなく、社員への給料だけは減らすことはなかった。父も報酬に関してはほぼ0に近い。母も母方の親族へ協力してもらい、お金を借りるなどして何とか父の役に立とうとした。
「母さん、そんな金の無心をしなくても…」
「いいえ、あなたの危機は家族の危機。お父さんたちも状況をわかってくれているから…」
「…すまんな。迷惑をかける」
「いいのよ!」
「しかし、これくらいのピンチは私が父から跡を継いだ時に比べればピンチにも入らん」
強がってはいるものの、明らかに父は憔悴していた。未だに船は出せていない。父の人徳なのか、契約を切られると言うことはまだないがもう時間の問題だろう。契約先は倒産も危ぶまれるところもあると言う。それならこちらも莫大な資金を垂れ流すだけなので危険極まりないのだが。
学校ではいじめっ子が「早く潰れて貧乏人に堕ちろよ」だとか「倒産寸前の社長の息子」と言われている。深海棲艦が現れる前は媚びてきたり、資産を目当てに付き合おうとしてきたりだったが…お金と言うものはここまで人を変えるのだな。醜いものだ、と涼介は冷めた目で人を見る。人に絶望をするには早すぎるのだが…それでも涼介は頭の回転が早いため、親戚を含めて人にあきれ果てていた。
事態が大きく変わったのは深海棲艦を唯一倒す方法が見つかった時だ。深海棲艦が艦の恨み、無念、怒りなどを背負っているのならば、それは希望、勇気、光だろうか。自分達をかの大戦の際に名を馳せた艦の名を名乗る艦娘の登場だった。
たった10人。されど10人。10人の一見女性にしか見えない者たちが、海を駆け深海棲艦を討ち倒す。人類の希望の光となった。
「彼女たちがいるのなら、船を出せるかもしれん」
父は機を見るに敏であった。彼女たちのチカラを借りれば海を安全に航海できるのではないか。そう考えたのだ。
「防衛省に掛け合ってみよう!一発逆転の可能性がある!!」
父は膨大な時間をかけ、艦娘と手を取り合って船を動かさなければ日本は沈むだけだと何度も防衛省に足を運び、ついに防衛大臣との会談にも臨んだ。さらには内閣総理大臣まで動き出し、傾きかけた日本を再び浮き上がらせるべく…国と日本最大級の海運業を営む企業が再起をかけた。
………
「社長ぉおおおおお!!!お考え直しください!社長が一緒に台湾へ行かれるなど無謀の極みです!!!」
「社長さんよ。ついていくのは構わないんですが…邪魔だけはしてくれるなよ?」
「もちろんだとも。私はおとなしくしているよ」
「社長!なりません!!!命を落としたら誰が会社を動かすんですか!?」
「会社など私がおらずとも動くことはできる。命を賭けて海へ出ると言う船乗りの皆さんを置いて、私が社長室で座っているだけと言うのが我慢ならんのだ。申し訳ないが万が一の場合は死なばもろとも!私は船長に命を預ける!」
「戻ってください!!社長ぉおおお!!」
「さすがよあなた!!!素晴らしい大和魂よ!帰りを待っているわ!」
「奥様!?旦那様がどうなっても!?」
「主人はああ言ったらもう何を言っても考えを改めません。なら、快く送り出すのが妻の役目…万が一の際の覚悟はできております。そうはならないと確信しておりますけど」
(なんやぁ…めんどっちぃなぁ…適当にやったろかいなぁ…)
「龍驤?わかっていると思うけど手を抜いたら承知しないわよ。私も乗り気じゃないけど…ここで失敗したら何を言われるかわからないんだから」
「ふぁーい…せやなぁ…ごちゃごちゃあのおっさん共に言われんの嫌やし…しゃーない、やるかぁ」
「姉者よ!索敵は我輩に任せい!」
「おうっ!魚雷でバンバンやっつけちゃうんだからね!」
「慢心しては駄目…」
当時の「原初の艦娘」はまだ家族と言うものの認識が薄い。故にこのやりとりである。この後、湘南大侵攻があり、さらには戦闘を少しずつ重ねて家族と言う絆を得るに至る。お互いの実力が高い故に個人プレイでも何とかなった。まだ、この頃は。
「社長さん、上等だ。それじゃあ行くぞォ!!出航だ!!」
「社長ォぉォぉォ!!!!????」
「会社は任せたぞオオオオオ!!!!!」
こうして父は無謀とも言える船出となった。帰ってくるまでは何か月もかかる。台湾でも支社の視察などがあるらしい。啓介と母はかなり心配そうであったが、涼介は絶対帰ってくると言う何かわからないが勘が働き、そこまで心配はしなかったそうだ。
『ああ!艦娘というのは素晴らしいな!海を守る守り神だ!』
「そうなのですね」
『うむ!海の上を走り、深海棲艦を素晴らしい砲撃や飛行機でやっつける姿はかっこよかったぞ!』
しばらくして父との電話で様子を聞いてみた。そうすると父はかなり興奮した様子で艦娘の事を語っていた。仕事のことはそっちのけでただひたすらに涼介に艦娘のことを喋っていた。
『しかしだ。やはり…何と言うか指揮する人間がいないのか…悪いのか…個人プレイが目立つ故に艦娘が傷つく場面が多かったのが問題…とも言えたかもしれん。いや、素人である私がこう言っては何なのだろうがねぇ…』
「ふむ…」
機密上、動画を撮ることは禁じられているし、何より流れ弾を受けたり深海棲艦に狙われる可能性が高いためにあまり多くは見られなかったらしい。しかし、父は船員に「早く隠れて!!」と言われるまで戦闘の光景を見ていたらしい。
テレビでなす術なく沈められていく自衛隊の護衛艦。戦闘機…その光景に憂いを持った父であったが深海棲艦を倒す艦娘に希望の光を見たと言う。戦果は輸送船が傷を負ったりはしたものの、沈められることはなく無事に台湾まで物資の輸送に成功。海軍としても大きな成果となったらしい。
テレビでは暗いニュースばかり流れていたが、今は特集を組んで「一宮コーポレーションの輸送船が台湾への航海に成功」と、お茶の間の人々へも希望を与えるニュースがようやく流れたのだ。
「テレビで艦娘のことを報道しても良いと思うのですが…秘密主義が過ぎませんかね。深海棲艦と同じく不気味がられていると思います」
『そうなのだよ涼介。見目麗しい艦娘が勇敢に戦う姿を見せなければ、艦娘も深海棲艦同様に日本を攻撃されるのではないかと言う不安をぬぐえないと思うんだ。父さんはそこを改善するよう豊田防衛大臣に声をかけてみようかと思ってね』
「防衛大臣に声をかけることができるんですか、父さんは」
『ハハハ、父さんのチカラをもってすればね!』
父さんは改めてすごい人だな、と思ったがこれは父のハッタリでどうやって声をかけようか。息子に言った手前嘘はつけん…いや、参った…と口を滑らせてしまったことを激しく後悔していた。まさに口は禍の元。何とか防衛省の幹部の人に繋いでもらって大臣に自分の声を届けてもらったらしいが。
涼介は小学生ながら、父が乗った船をかたどったおもちゃの船を用い、どう深海棲艦が攻めてきて、艦娘はこんな感じだろうか?と過去の大戦の海戦の戦果をもとにシミュレーションを始めた。こうすれば安全ではないか。こうすれば…ああ、駄目だ。沈んでしまう。など、良い悪い関わらず戦果をノートにまとめていった。
稚拙なものであったが、それが未来の提督の生活に活かされている。
………
「うおおおお!!!!帰ってきたああああ!!!!社長!!!!!ありがとうよおおおおお!!!!!」
「うおおおおん!!!!!!船長さん!!!!やった!!!!!やったぞおおおおおお!!!!!」
数ヶ月後、防衛省と調整を重ねて出撃した艦娘と父が乗った船が日本へ帰って来た。幾度も深海棲艦に襲われ、死を覚悟したらしいがそのたびに艦娘に助けられ、無事に帰って来れた。その喜びに父、船長、船員。全員が抱き合って喜んでいた。もう日本が見えてきた際には何度も胃に穴が空くのではないかと言うくらい緊張し、吐いたとも父は言っていた。
ようやく東京の港が見えてきたときには一同涙を流して帰って来たと喜んだ。そしてその時から抱き合って喜んでいた。
「あなた…」
「母さん…涼介、啓介……ただいま!」
「あなたあああああ!!!」
「お父さん!!!!」
「おかえりなさい、父さん」
日本の大地をしっかりと踏みしめ、家族との再会を喜び、母も啓介も泣いていた。涼介は笑って父を迎えた。
「あー…しんどかった!司令長官無茶言い過ぎやで!!!」
「ま、いいんじゃねえか?無事でオレたちも帰って来れたし、目的は果たせたんだしよ」
「しかし、私達だけでは心もとなかった。連合艦隊くらいの人数はほしいぞ。6人ではな」
「そうですね…それと…指揮する方がほしいです。司令長官の指揮では…」
「難儀やのう。はよう艦娘を建造できる何かがほしいわ。あーしんど!」
「ちょっと、こんな人前で愚痴はやめなさい」
海の上に立つ女性。あれが…艦娘か。涼介は彼女たちを見つめる。なるほど、父が言うようにとても美人な女性に一見見える。人間ではない…のか?海に浮かんでいなければ普通の女性にしか見えない。
指揮する人がほしい、か。僕でも…できるのかな。
「……ちょっと…!男の子に見られているわよ!」
「いっ!?やっば、今の聞かれてた!?」
「ほら見なさい!龍驤!あなたが愚痴ばっかり言うから!」
「ひどい艦娘もいたものだな、姉さん。私達は人間がいないと生きていけんのだぞ」
「お前かて文句言うてたやないか!?なんでうちだけ責められんねん!?」
「あんた、人が見ていないことをいいことに言いたい放題だったわよね?玲司君が聞いたら悲しむわよ」
「そうじゃそうじゃ!めんどくさいじゃのしんどいじゃの!我輩もそこまでは言うておらんぞ!」
「あーあ…我輩もめんどいのじゃ…早く帰ってアイスが食べたいのう。玲司が心配じゃのう。もう放って帰ろうぞ…って言うてたんは誰や!?」
「なっ!ひどいぞ龍驤姉さん!我輩はそんなことは言うておらん!」
「いや、言っていたな」
「言っていましたわね…龍驤姉さんと一緒になって…磯風ちゃんもね…」
「い、言いがかりじゃあ!高雄!お主も裏切るのかえ!?」
「いえ…真実を述べただけなのですが…」
「同罪やないか!!!磯風も利根も同罪や!」
「あ、あの…静かに…男の子が見ておられ「なんじゃと!?我輩は龍驤姉さんみたいにそこまでギャーギャー言うておらんわい!」」
「いいや、利根姉さんも言っていたな。私のほうが少ない」
「言うてる時点でアウトじゃボケー!!」
「アンタ達…」
「そうじゃ!言ってる時点であうとじゃー!ぎるてぃーじゃー!」
「赤城姉さん、高雄姉さん、やべえ逃げろ!」
「なんやとー!!上等や!沖へ出ぇワレェ!!!!」
「おー!上等じゃー!!!!」
何かものすごくケンカをしているが…止める人がいない…。ショートカットのちょっと髪が跳ねた背の高い艦娘がプルプルしている。言い合っている艦娘を呆れたように見ていた3人の女性は一目散に沖へ逃げて行った。そして…
「上等じゃー!けんかじゃー!!!うぶっ!?」
「あががががが!!!姉やん!!!!!?!?!?」
「あ・ん・た・た・ち。いい加減に、しなさい」
「あががががががが!!!陸奥姉ー!頭がー!頭が割れるのじゃー!!!」
「あががが!!!姉やん!堪忍!堪忍やーー!!こらあかーーーん!!!!」
「静かに、しなさい。本当に、砕く、わよ」
「「ぎゃあああああああああ!!!!」」
「何だ騒がしいな。さて、私も帰るか。虎瀬殿が話があると言っていたしな」
「いそかぜちゃーん?帰ったらおしおきねー?」
「ふふん、玲司にほめてもらうとしようキュッ!?」
「はぁっはぁっ!?轟沈するかと思ったのじゃ…」
「利根は帰ったらお仕置き再開ね?さ、磯風ちゃん、お・は・な・し・しよっか、お姉ちゃんと♪」
「………」
艦娘も…大変そうだね…。涼介はそう思うしかなかった。周りの大人は幸いにも父と船長たちに注目していて何もなかったのが救いであったか…?
………
それから父が盛んに艦娘に命を救われたことをテレビで触れて回ったからか、プロパガンダとして艦娘がテレビに少しずつ出るようになった。
人は「戦争の道具」と言うこともあれば、海と共に生活をしてきた人々からは「守り神」と呼ばれることもあり、また別の争いの火種になってしまったが、涼介としては艦娘の活躍がこうして世間に広まることは嬉しく思った。自分が提督でもないのになぜか。
そうして中学に上がるころには、海上自衛隊から名を変え、海軍となったところへ行きたいと思うようになった。艦娘と共に戦いたい。それを父と母に話すことにした。
「艦娘と共に戦いたい、か。なるほど、それはわかった。でもね、涼介。それはどういう理由でか、と言うのを聞かせてもらえるか?涼介が意思を持って父さんたちにそれを言ってくれたのは嬉しいけどね」
「お父さん、ちょっと待ちましょうよ。涼介が今しっかりと話をしてくれるわ」
「ごめんなさい、父さん。言葉が足りませんでした。僕は…艦娘と手を取って戦うことで、国の人はそうですが…父さんと会社を守ることができたらと思っています」
その言葉に父と母は目が点になった。無理をして会社を継がなくてもいいと言った後、特にどうしたいと言うこともなく勉強をする毎日。もちろんピアノ演奏や絵画などの趣味を通して感情を得た。しかし勉強をしてばかりいた涼介。
そう言えばたまにやって来た鏡子も勉強とはちょっと違う何かをノートに書いていると言っていた。それは…。
「昔の海戦などをモチーフにして作戦を練ったノートです。役に立たないとわかってはいます。ですが、少しでも未来の僕が役に立てばと。えっと…提督…でしたっけ。提督になって、海を守って…そうすれば、会社は継ぎませんがこうすることで父さんとおじいさんが守ってきた会社を守れたらと思います」
噓偽りなく、澄んだ目で両親を見つめる涼介。その目には固い信念があり、絶対に折れないと言う目をしていた。涼介の初めての本気の意思。
「涼介…無理をして私の会社を守ろうとしなくてもいい。お前が目指したいものを目指せばいいんだよ?」
「これが僕の目指したいものです。僕のためにいろいろと考えてくださりました。お別れをしてしまいましたがエト君…ピアノ、お絵かき。父さんと母さんのおかげです。だから、大きくなったら恩返しがしたいと思っていました」
両親からかけがえのないものを得た涼介。いろんなものを失いかけた。親戚。学校のみんな、大人たち。口には出さないが本当に間違いを冒しそうになった。外で守ってくれた啓介。鏡子お姉さん、彩雲お爺さん。そして…サザンエトワール。彼らに恥じない大人になりたい。
「お父さん、お母さん。お兄ちゃんがここまで言うんだったら支えてあげなよ」
啓介が父たちに言う。尊敬するお兄ちゃん。けど、どこか危なかった。ないとは思うけど、いじめっ子に鉛筆でも刺してしまいそうなくらい一時は危ない目を幼いながらにもしていたと思った。親戚の子を殺してしまうんじゃないかとも思った。
「いつもありがとう、啓介」
そう言って笑ってくれた時は本当に守れてよかったと思った。これからも嫌がらせはあるだろう。あの馬鹿親戚の連中。きっと大人になったらあんな奴らなんかメじゃない人になるのに。
「それは過信しすぎじゃないですか?」
「いや?兄さんなら絶対なれると思ってた」
「まったく…」
提督になって久々に啓介はそう軽く言ってくれたっけか。しかし…父と母の表情は硬い…これは駄目だろうか?
「よく言った!!!」
「私達を守る!しいては国と海を守る!そんなことはそう簡単には言えないよ!それでこそ男!それでこそ日本男児だよ!!!」
「そんな理由…?いいの?お兄ちゃん…」
「ん、んー…変なことを言うと考えが変わりそうだからこうしておこう…」
「ええ…」
こうして涼介は両親公認。そして弟の応援もあって本格的に提督を目指すことになった。この当時は提督を公募することはなかったのだが、艦娘の建造体勢が整ってからは妖精さんが見える人間が欲しいと言う理由で公募が始まった。それが高校2年の頃。学校でもよくわかっていなかったのか、学校始まって以来の秀才を軍人にするのは…と言う理由で中学、高校とも進路では思いきりゴネられてしまった。
「一宮君の成績なら都内で一番偏差値のいい高校へ行くことができるんだよ?それを蹴って公立だなんて…」
「幸いに私の学区には都内一偏差値のいい公立高校があります。そこで問題はありません。両親に迷惑をかけることもないですから」
「し、しかし…国内の大手大学だって引く手あまただよ。それをどうして…」
「私は私のやり方で父の会社を守ろうと思ってまでです。誰の意思でもない私の意思です。申し訳ありませんが、私は防衛大学を目指します」
この件では両親も呼ばれ、重々説得してほしいと言われたようだが…。
「私は息子にああしろこうしろと口を出したことはほとんどありません。そして、彼の進路は彼が決めることです。ですので、私達が口を出すことではないと思っております。彼がその道をゆきたいのなら応援するのが親の務めと思っております」
「し、しかし…いずれは会社を…」
「その件につきましては息子と何度もお話をしております。そして、無理に継いだところで息子の人生を縛り付けるだけの枷にすぎません。息子には息子の生き方があります。わたくしたちに強要をしろと?」
「い、いえ…そう言うわけでは…」
凄まじい圧力で教師たちをねじ伏せる。両親とて彼らを論破できる。父と母はこの一宮の家に生まれたことこそ、最大の不幸を与えていると思っていたくらいだ。彼が信じた道が幸せになる道であると信じているが故に全力でそれを応援することこそが親だ。子供の幸せを思わない親が親である資格はない。
………
「ハハ、勉強から逃げて軍人になるのかよ。会社も継がずに?じゃあ俺が継いじゃって、お前らを一宮の会社から追い出しちゃおっかなー!」
防衛大学を目指すと聞いた親戚の息子たちはこぞって涼介を嘲笑った。しかし、そんなことで屈するほど涼介の信念は甘くない。何となく親のすねをかじっているこの子達に負けてなどいられないのだ。
「あなた方では無理でしょう。父を蹴落とすなど、親戚のどなたがいくら集まっても不可能でしょう」
「何ぃ!?けっ、偉そうにしやがって!」
「事実を述べたまでです。第一、私が受けた公私立の高校、全てに落ちたあなた方が私と父、啓介に敵うとでも?」
「てんめぇ…!なめた口ききやがって!」
「これも事実なのですが…負け犬のヒステリーは見苦しいですよ」
「ああ!?こいつ!おい、やっちまおうぜ!?」
「い、いや…」
「何だよ!?ボコっても何も問題ねえだろうが!」
「このリップを万引きしているの…あなたですよね?」
「!?」
「そこのあなたは同級生のカツアゲをしていたんです。そちらは女子生徒に手を出して妊娠させて大事になったようですね?あなたは…万引きの額、調べただけでも大変な額になっておりますが…全て公に出しても?」
「!?!?!?!?」
「よう、万引き犯」
「はあ!?」
「犯罪者がいい度胸だな。いいぜ、俺が相手になってやるよ!」
「…おいやべえって…」
「クソ!!!!」
「へん!お前らが兄貴に勝とうなんざ100年早えんだよ!!!」
「啓介…さすがにその言葉遣いは…」
「ああ…ごめん。この方が強く出れるからね。さすがに普段からこんな言葉は使わないよ。あいつら限定」
「そ、そうなんだ…」
「さ、もう帰ろうって父さんも母さんも言ってるよ。僕ももうめんどくさいから帰りたい」
「そうだね…」
親戚ともこれで疎遠になった。ちなみに、現在でも涼介に過去の悪事を公にされないかと恐れおののいているらしい。
こうして彼は無事防衛大学に主席で入学。そしてずっと首席を維持したまま卒業。妖精さんが見える条件もクリアして、念願の提督になった。本来ならば大本営での内勤を数年勤めてほしいほどの頭脳だったのだが、提督が不足していること。その艦娘の指揮能力と作戦立案能力が恐ろしく高いこと。そして刈谷提督の権力を用いての即戦力となった。
日向に甘やかされたり曙に怒鳴られながらも何とかここまでやってきた。彼の人生は今満たされている。三条君にも負けない艦隊運用を。涼介に勝てる頭脳がほしい。お互いによき親友でありライバルでもある友。自分を本当に認めてくれる恋人、日向。素晴らしい人々が彼の周りには集まっている。
………
「私は今充実していますよ。皆さんのおかげです」
「ふふ。そうか。私も提督に出会えてよかったぞ。瑞雲よりも夢中になれるものが見つかってよかった」
「そうですか。それはよかったです。私も愛していますよ」
「よしてくれ提督。そんなことを言われたら嬉しくてたまらなくなる」
「ねえ、なんであたし達はAdmiralの昔話を聞いていたのにノロケを見せられているの?」
「あ、あはは…仲が良くていいんじゃないかしら…」
「提督が提督でよかったよね、曙ちゃん!」
「なんであたしに言うのよ」
「クソ提督がクソ提督じゃなかったら別の所に行っていたわね」
「ねえ朧。それあたしの…」
「え?そんなこと書いてたの?知らなかった」
「しらじらしいわね!!まんまあたしの日記じゃない!!」
「うわぁ、曙ちゃんはほんっとーに提督が好きなんだねー!」
「嫌いよ!!!こんなクソ提督!!!!」
「嫌い嫌いも?」
「好きのうち♪」
「だーかーらー!!!!だーまーれーーーーー!!!!」
「きゃー♪」
「曙うるさい」
「まあ、アケボノも提督の事を?Johnstonもなの!」
「はあああああああ!!!!!!?????」
「はあ!?あんた何やってんの?」
「それはあたしのセリフよ!!!って言うか真似しないでくれる!?Bleah!!!」
「あのさ、あたしが先輩よ?あたしの方が先に書いてるに決まってんでしょ!」
「えー!?じゃああたしよりももーっと前からAdmiralのことばーっかり書いてるんだ!!!」
「ち、ちがうちがうちがう!!!あたしのはただの日記よ!!!」
「ジョンストンが言うことも間違ってないと思う。たぶん」
「朧ー!!!!あんたもう今日は許さないわ!!!!」
「ぷぷー!お熱いことね!!」
「あたしのAdmiralが変な指揮しないもんね。Bleah!」
「Fletcher!?ふ、ふれ…ふれ…ふれっ…ふれー!!!?!?!?」
「あ、曙みたいな壊れ方した」
「ふふふ、ジョンストンちゃんもかわいい♪」
「あ、あのー!こっちのジョンストンちゃんと曙ちゃんを止めて!ね、ケンカはやめて?ね、ね!ねー!」
「あーもう…うるさいなぁ…寝れないじゃん…」
「Atlanta…こ、ここで、寝た…ら、風邪、ひいちゃう…」
「んー…Iowa…Bedまで連れてって…」
「ん、ん…」
「こーら、Iowaも手伝わなくていいわ。起きて!もう、提督のお話を聞き終わったらすぐ寝るなんて…」
「ふふふ、賑やかでいいわねぇ♪」
「Intrepid?それでいいのかしら…ユ、ユラ!行くわ!」
結局こうなってしまうのですね…毎日曙さんとジョンストンさんは賑やかと言うか…ケンカが絶えません…困りましたね。朧さんはいつものことと仰りますが…。ん?着信、啓介から。
「もしもし?」
『も…もしもし…兄さん、どうしよう…』
「啓介。どうしたのですか?事件ですか?泥棒とか…事故とか…まさかあなたが加害者に…?」
『い、いや、違うんだ…でも、僕ではどうしたらいいか…』
「一体どうしたんですか?」
『じ、実は…昨夜暴漢に襲われている女の子を助けたんだ…そしたら付き合ってほしいと言われて…』
「ほう。それはいいことじゃないのかな」
『い、いいことなのかな…高校生だし…僕はいずれ日本に帰ると言ってもついていくと言うし…』
「一目ぼれにしては随分と積極的ですね…ま、まあすぐ成人されるでしょうし、それが問題になるのかな。何を動揺しているのか私にはわかりかねますが…」
『あの…三条さんのご友人のアーサーさんの妹さんで…アリスさんと言うんだけど…』
「………三条君に説明した方がいいでしょうか…?」
『さ、三条さんに言ってもなんとも…どうしよう…今度の日曜にお父さんとお母さんに会ってもらうって…』
「ええ…」
『Hey!?誰に電話しているの!?ま、まさかお、おん…』
『い、いえ違うんです…アリスさん、ちょ、落ち着いて…』
『ちょっと!日本の女!?わたしのDarlingにちょっかいかけるなんていい度胸ね!!!イギリスまで来なさいよ!わたしはアリス!あんたの名前は!?』
「い、一宮涼介と申します…啓介の兄です…啓介が…お世話になっております…」
『What!?え、や、やだお義兄様!?し、失礼いたしました!』
凄まじく猪突猛進な女の子だ…いや、啓介にはこれくらいグイグイ行く女の子のほうがいいのだろうか…?
『あ、あの、お義兄様?』
「は、はい」
お兄様ですよね?何か…ちょっと違う気がしますが…。
『今度啓介さんとご挨拶にお伺いいたしますね♪』
「あ、ああ…はい…父と母にも伝えておきます…」
『はい♪やった♪』
『に、兄さん…』
「父さんと母さんには伝えておきますね…」
『ちょ』
電話はそこで切れてしまった。啓介…強く生きてください。そう祈るしかなかった。
「んぎぎぎぎぎぎ!!!」
「んにいいいいいい!!!」
「あ、ああ曙さんジョンストンさん…そ、そろそろケンカは…」
「「うるさい黙ってて!!!」」
「あ、はい…」
騒がしい大湊警備府。この騒がしさをアトランタは幸せそうに噛み締めて夢の中へと「いや、アトランタさんも止めてください!!!」
やーだね。ふふ♪
ケンカオチってさいてー!!!
まあ日本を代表するツンデレ艦娘曙とアメリカ代表のジョンストン(自分の中では)はこんなコンビになるのではないでしょうか…。
これで一宮提督の昔話はお終いです。
次回も昔話で申し訳ありません。次は七原提督と山風のお話になります。
次回もお待ちいただけますと幸いです。
それでは、また。