提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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七原提督と山風。彼女たちは人と艦娘の垣根を越えた姉妹です。山風はたくさんのトラウマを持っています。どうして七原提督に懐かれるようになったのか…?

その前にドイツ艦の今をお伝えします。
最後にちょっとR15で済むのかなぁ…と思う表現と百合表現があります。不快に思う方はブラウザバックを押してください。


第二百四十九話

「白露型駆逐艦七番艦。そして、改白露型一番艦となる、海風です。提督、どうぞよろしくお願いします!」

 

「白露型駆逐艦九番艦、改白露型の江風だよ。よろしくな!あ、読み方、間違えンなよ」

 

岩川基地。七原提督のもとに駆逐艦海風と江風が着任した。彼女たちは刈谷提督に駆逐艦をもっとほしいと言ったら「そうかよ」と言ってすぐに寄越してきた娘たちだった。もっとも彼女たちも穏やかにここに移籍してきたわけではない。

 

彼女たちは山風と同じ基地の提督が邂逅したそうなのだが、山風の姉妹と聞くだけで毛嫌いし、追放したのだとか。それを聞いた刈谷提督が岩川基地に行け。そこでなら姉妹仲良く過ごせんだろ、と言ってここへ流れてきたのだ。

 

「海風ちゃんに江風ちゃんだね。いらっしゃい。よく来てくれたね~。あ、海風ちゃんたちを歓迎ってことでアップルパイを瑞穂ちゃんと作ったよ~。食べる?」

 

「えっ?よ、よろしいのですか?」

「姉貴、大丈夫かねぇ…あそこの提督みてえにあとから邪険に扱われんじゃねェの?」

 

「ん?江風ちゃん、ちょっとそのお話詳しく」

 

「は?あ、ああ…いいけどよ…」

 

山風と同じところから来たと言う。そして、クソの役にも立たなかった山風の姉妹ならお前らも役に立たんだろうと言う理由から追い出したらしい。行く宛もない状態で途方に暮れていたところを名も知らぬ提督(のちに副司令長官と聞いて啞然とした)がここなら山風もいるしいい所だから行くといい。と言われて藁にも縋る思い出ここへ来たのだ。江風は初っ端からあの言いぐさの提督だったため、七原提督への反応が厳しい。

 

「ふーん…そうなんだぁ…そっかぁ…ちっくとば首ば置いていってもらおうかなぁ…」

 

机の後ろに壁にかけてあった日本刀を手に取ろうとしていた。涼風が慌てて止める。

 

「わー!提督ぅ!いい加減艦娘にひどいこと言う奴とかに首置いてけとか言うんじゃねえって!!!」

 

「テートク!カームダウンデース!!!!」

 

「うぎぎぎぎ、止めないで涼風ちゃん!金剛ちゃん!叩き斬ってやるんだぁ!!!!アハハハハハ!!!!!」

 

海風と江風は大丈夫だろうか…と見つめ合う。ここも…不安なところだな…。

 

………

 

「お姉ちゃん、落ち着いた?」

 

「山風ちゃぁん…落ち着いたよぉ…」

 

山風に膝枕してもらい、頭を撫でてもらっている提督。この山風が「クソの役にも立たない山風」なのだろうか…?

 

「さあ、お茶が入りましたよ。海風さんも江風さんもどうぞ?パイも召し上がってくださいね」

 

「あ、はい…いただきます…」

「んー…腹は減ってるし…食べとくかぁ…」

 

「うんうん、食べて食べて!山風ちゃん、食べよ~」

「食べる」

 

サクッと切り分けたアップルパイを食べようとする。

 

「ちょっと!私達にはアップルパイはないわけ!?」

「お姉様、ちゃんとありますよぉ!」

 

「騒がしいわね…」

「提督!新しい艦娘が来たって?僕も会いたいよ!」

 

「レーベ、落ち着かないか…」

 

「ぴっ!?ビ、ビス子さん…」

「ビスマルク!!!!ビ・ス・マ・ル・ク!!」

 

「んお?ビス子さんじゃねえか?落ち着けよー」

 

「何なのよ!そろいもそろってビス子ビス子って!!」

 

「ほわぁ…きれいな人…」

「あ、ああ?艦娘なのか…?」

 

突然怒鳴り込んできた金髪のグラマラスな女性。金髪に赤毛の艦娘…え、ええ…?ワイワイ文句を言いながらも瑞穂と言う艦娘から自分達がもらったアップルパイと紅茶をも受け取っていた。

 

彼女たちはドイツからやってきた。戦艦ビスマルク。空母グラーフ・ツェッペリン。重巡プリンツ・オイゲン。駆逐艦Z1ことレーベリヒトマース。Z3ことマックスシュルツ。そしてU-511から呂500と言う潜水艦。彼女たちはドイツから追放されてきた人間不信になったドイツ艦たち。

 

「東の横須賀。西の岩川」

 

これが東西の艦娘処分場と呼ばれている。不要になった艦娘。ジャンクになった艦娘の処理場と言われている。いや、正確には言われていた。今はもう実績からして横須賀の玲司。岩川の七原提督のほうが上であるが故にそう呼ばれることはなくなった。

 

岩川は特に使い捨てられた艦娘が多い。片目が見えない金剛。片腕を失った伊勢。片足を失った瑞穂。ジャンクと呼ばれ歩くことができなかった神風。いらないと言われた涼風。そして…精神を病んだ山風。

 

他にも艦娘がいる。蒼龍は横須賀の明石のおかげで艤装を修理してもらい、普通に戦えるようになった。ドイツ艦も彼女のおかげで今は戦い、自信を取り戻している。

 

「てーとく!アップルパイ、おいしいですって!」

 

「そっかぁ!瑞穂ちゃんと一緒に頑張って作ったからいーっぱい食べて食べて!」

 

「はい!いっぱい食べますって!」

 

「ロー。あまり食べすぎると夕飯が食べられなくなるぞ」

 

「はーいろーちゃん、あーん♪」

 

「あーん♪んー!てーとくに食べさせてもらうともーっとおいしいかもーって!」

 

「はあ…Admiral…あまりローにおやつをあげすぎないでほしい…」

 

「だーってかぁいいんだもーん!!ねーろーちゃん!」

 

「はい!えへへ、てーとく、だぁい好き!ですって!」

 

「ああん!!!ろーちゃんかわいい!!!」

 

「はあ…まったくAdmiralはローには甘いのだから…」

「あはは…いいんじゃないかな…」

 

「マックスちゃん!あーん♪」

「私は…別に…ちょっと、自分で食べれるったら」

 

「あーん♪」

「……ぱく」

 

「おいし?」

「ええ…おいしいわね…」

 

「よかったー♪はい、レーベちゃんもあーん♪」

「えっ?僕も?あーん…ん、おいしいよ!」

 

「えへへー♪」

 

ビスマルクにもしようとしていたが断固拒否されてしまったため、しょんぼりと引き下がる。それを見ていた山風が立ち上がり、むぎゅっと七原提督に抱き着く。

 

「あーあー、ヤキモチ妬かれたぞー」

「ヤキモチじゃないもん」

 

「やーまかーぜちゃん!!あーん!」

「……むぅ…」

 

「あれれ?山風ちゃん怒ってるの?」

「………むぅ!」

 

「あらあら…山風ちゃんはレーベちゃんたちにヤキモチをやいちゃったのねぇ」

 

「い、いいのかよ…提督にそんな態度…姉貴…追い出されるんじゃねえか…?」

 

「そこはノープロブレムデース。すみれはそんなことはしまセーン!」

「そうだねぇ。そこは安心できるねー。山風ちゃんはいつものことさねぇ」

 

年長?組の金剛と伊勢がアップルパイを食べながらそう言う。まるで気にしていない。

 

「すみれ…?」

 

「テイトクのことデース。今は休憩中デスのデ、名前で呼んでも大丈夫ネ」

「いやいやいや!提督のことを名前呼びってやべーだろ!?」

 

「あ、それはわたしが呼んでねって言ってるから気にしないでね。江風ちゃんもお姉ちゃんって呼んでいいんだよ~」

 

「い、いやぁ…それは…」

「えへへ~、おねえちゃ~ん♪」

 

「ろーちゃん!あーん♪」

「……お部屋、帰る」

 

「あらら、お部屋に帰る?じゃあお姉ちゃんも行こうかな~」

「いい…別にいい…構わ…ないで…」

 

「はーい♪お部屋行こうね~。あ、海風ちゃんと江風ちゃんはゆーっくり食べててね~」

 

「はい…」

 

隣の自室に入っていった七原提督と山風。構わないでって明確な拒否の意思を出していたのに一緒についていくって…。

 

「山風はアマノジャクなんデース。スミレはちゃーんとわかってマースヨー」

「そうそう。山風の姉貴は寂しさでいっぱいになると姉ちゃんと2人きりになりてえんだって」

 

「ふふふ、山風ちゃんの構わないではいっぱい構ってほしいなんですよ。すみれちゃん限定ですけどね」

「ワタシたちにはそう言うことは言わないデース」

 

「え、ええ…?」

 

「……提督も大変ね」

「うむ…しかし、あの心の広さと笑顔で私達も癒されているのは事実だ」

 

「まったく…過労で倒れないか心配だわ」

「へえ、ビスマルクも提督を心配してるんだね!確かに僕もいっつも誰かを気にしてるし、お仕事もずっとしてるし…心配だなぁ」

 

「レーベ!?変なことを言うんじゃないわ!」

「ああ、お姉さまはいつも提督を気にしてるよ~」

 

「プリンツ!!!!」

 

「あの…提督は普段何をされているのですか…?」

 

「すみれちゃん…提督は執務もそうですけど…いつも山風ちゃんの面倒を見ていますよ。山風ちゃんが着任した時からほぼつきっきりです」

 

「マジかよ!?てか山風の姉貴…なんでそんな子供みてえな…」

「山風ちゃんは…ここに着任した時はこうしてゆっくりみんなでおやつを楽しむことさえできなかったんですよ。泣いて…怯えて…喚いて…」

 

「そりゃもうスミレが手を焼くほどでしタ。スミレも新人でしたしネ」

「姉妹とかいなかったからどうしていいかわからなかったんだっけ?」

 

「そうですね。それはもう右往左往…瑞穂たちもフォローして…大変でしたねぇ。あ、ビスマルクさん紅茶のおかわりはいかがですか?」

 

「ダンケ。頂くわ…あの子、昔から苦労してるんじゃなかった?」

 

「そうだなぁ…家族を深海棲艦の連中に殺されたらしいし…しせつ?とかで育ったとか言ってたっけなぁ」

 

「……とんでもない苦労人なのに私達に文句も言わずに、弱音を吐いたり泣いたりもせず…私達の事ばかり気にかけて…何なのよまったく…」

 

ビスマルクは彼女に厳しいがそれがビスマルクなりの素直ではない心配のしかただ。初めて出会った時からマックスの心を開いてみたり(七原提督はそうは思っていないらしいが)、日本の艦娘がとにかく懐いている様を見て安心していた。グラーフやプリンツとも語っていたのだが、駆逐艦やユー…今はローであるがU-511…呂500。この娘たちを傷つけるようなことがあればこのビスマルクが黙ってはいない。そう考えていたくらいだ。

 

「Admiralは一見本国のような人間ではないように思う。しかし…気は許せんだろう」

 

「そうね。きっとすぐに本性を見せるわ。そうなったら容赦はしないわ。相手はFrau…いけるでしょ」

 

「Bismarck。危険なことは避けてほしい。プリンツやユーにも被害が及ぶかもしれんぞ」

「わかっているわ。見極めさせてもらう、あのAdmiralを」

 

マックスが怒鳴り散らしたことでかなり印象が悪いのではないかと言う思いがあった。だからきっと、あの提督は自分達への当たりを強くするはずだ。ユーが日本の艦娘と一緒にドボーンと言うものをやっていたらしいが、まずユーへ矛先が行くだろう。ユーに最大限の配慮を。それがビスマルクとグラーフの考えだった。それと同時にマックスと止めなかったレーベも危ない。

 

「な、なによこれ…」

 

「何って…朝ごはんだけど」

 

着任翌日の朝。食べさせるものはないか、もしくはまずいパンと豆のスープでも出すのだろうかと思っていたが…目の前にあるのは白いご飯、お味噌汁、アジの塩焼き…和食と言うものか。

 

「あ、あああああ!ごめんなさい!!!」

 

突然提督の顔が青ざめたかと思うとビスマルクやグラーフに謝罪を始めたのだ。

 

「Admiral…どうしたのだ?」

 

「あああ…そ、そうだよね…ドイツだからパ、パンがよかったよね…?気が利かなくてごめんね!瑞穂ちゃん!瑞穂ちゃーん!パンってあったっけー!?」

 

「申し訳ありません…今日はパンはありませんねぇ…どうしましょう…」

「ええっ!あわわわわわ、今すぐ買って来るね!えーっとドイツって朝ごはん…ええ!?2回も食べるの!?ライ麦パン!?はい!了解です!!!」

 

「わー!わー!!!提督に車乗せんなーーー!!!!」

「オーーーノーーーーー!!!伊勢!止めまショウ!!!」

 

「ほいきたー!!!」

 

「…にゃー」

 

首根っこを掴まれて猫のような妙な声を出して暴走は止まった。ビスマルクもグラーフも朝から何だこの喜劇は…と呆然とするしかない。

 

「いや…私達も食べて良いのか…?」

 

「にゃー…いいんだよー…」

「ビス子!テートクが暴走したらここをつかむデース!おとなしくなりマス!」

 

「猫じゃないんだから…私はビスマルクよ!!!」

 

「む、むう…良いのか…」

 

これが日本の朝食。ふむ、これはこれで良いものだな。グラーフは席に着く。いつの間にか日本の潜水艦に紛れてユーも食卓についている。

 

「あー提督!ゆーちゃんってお箸持てるのかなぁ!?」

「え、えと…どうやって…持てば…」

 

「ああ…提督、スプーンとフォークの方がいいかと思います」

「はーい!用意するね!ゆーちゃん、ごめんね!これで食べて!」

 

「えっと…日本にいるなら…日本のこと、覚えたいです…お箸の使い方…教えてほしいなぁ…」

「はいはいはい!私が教えるー!」

 

「しおんも教えます!」

「しおいちゃん、しおんちゃん!よろしくお願い!」

 

「ふふふ♪がんばって覚えましょうね!」

 

伊400、伊401…そして大鯨にお箸の持ち方、食べ方を教えてもらっていた。グラーフもユーを真似て箸で食べてみようとしたが難しくて食べられなかった。ドイツ艦はみんな結局スプーンとフォークで食べた。今ではこんなもの朝飯前だ。慣れと言うものは恐ろしい。

 

次に風呂。これも驚きだった。毎日入浴するとは…これもドイツにはない。シャワーだけで十分でしょうとビスマルクが言っていたのだが…。

 

「はふぅ…お風呂って落ち着くね、マックス」

「そうね…」

 

「熱かったら出ていいからね~。山風ちゃん、熱くない?」

「うん…平気」

 

「オフーロ、気持ちいいですねお姉様!」

「え、ええ…」

 

「ビス子ちゃん、もう真っ赤だよ?一旦上がったほうがいいよ?」

「ビスマルク!!!何回言わせるの!?」

 

Admiralはもうビスマルクをビス子呼びで固定なようだ。頑なに反論するビスマルクであるが、効果はない。

 

「あううう…目が回るぅ~」

「ゆーちゃん!あわわ、山風ちゃんも危ないねぇ!?」

 

「ほうって、おいて…ぷしゅー」

「だめー!よいしょぉ!?」

 

小柄な体のどこにそんなパワーがあるのか…ユーと山風を両脇に抱えて浴場を出る。

 

「うむ…私も危ういな…ビスマルク、私は先に…」

「はにゃー…」

 

「ビスマルク!?おいしっかりしろビスマルク!」

「ビスマルクお姉様ー!」

 

「ええ!?ビス子ちゃん!?よいしょぉ!!!」

 

ユーたちのような小柄ではないビスマルクを抱えて…大丈夫なのか…?恐ろしいパワーを持っているな…Admiral…。

 

「はあ…ひどい目にあったわ…」

「そうか…私は…そうだな…さっぱりした」

 

「僕達もさっぱりしたよ!」

「ええ…お風呂…悪くないわね」

 

「はうう…目が回ります…」

「ユー…大丈夫か?」

 

「は、はい…まだ…ちょっと…ふらふらします…ん、おいし…」

 

牛乳を飲んでいるユー。ビスマルクは…まだ寝込んでいる。マックスとレーベも牛乳を飲んでいる。レーベたちは風呂を気に入ったらしい。私も気に入った。毎日入っていいとは…いや、毎日入らないの!?とAdmiralはなぜかショックを受けていたな。ドイツではシャワーすら浴びていなかったと言うと「シャワーも浴びさせてもらえなかった!?ふざけんじゃなか!!」と珍妙な言葉でかなり怒っていた。

 

「女の子にシャワーを浴びさせないなんてさいってい!!!!何考えてるの!?」

「仕方あるまい。私達は人間とは違うのだからな」

 

「女の子じゃない!!かゆかったりしたでしょう!?」

「ま、まあそうだな…」

 

「なら毎日入ろ!消灯時間前ならいつでも入っていいから!あ、深夜でも入れるようにもしよっか!」

「い、いや…そこまで気を遣わなくてもだな…」

 

「ダメ!!!!わたしの艦娘がもし変な男に臭いとか言われたら…ああ、考えただけで…コロス!!」

「?!」

 

どうもAdmiralは暴走しがちだ。試しに金剛に教えられた首根っこを掴んだらにゃーと鳴いておとなしくなった。おかしな人だ。しかし、これで私は警戒心が薄れたような気がする。

 

………

 

「グラーフさんグラーフさん!」

 

「ん?」

 

ある日見知らぬ艦娘だろうか、に声を掛けられた。水着…ああ、潜水艦か。はて…よく日焼けした肌…ああ、シオンやシオイのようだな。伊号潜水艦か。

 

「見て見て!ろーちゃん、ろーちゃんになりました!ですって!」

「ん?ああ、そう、か」

 

ん?この髪の色…どこかで会ったことがあるような気がするのだが…初対面のはずであるが。

 

「えへへー♪むぎゅー♪」

「ずいぶんと人懐こいな。ふふ、よろしくお願いする」

 

「???」

「ん?」

 

「グラーフさん、ろーちゃんのこと、わからないですか?」

「すまない、初対面ではないだろうか」

 

「……ぷくー!」

 

頬を膨らませて怒っているじゃないか。しまった、何かやらかしたか?

 

「あの…」

「ろーちゃーん?あ、グラーフさん」

 

「Admiral、すまない。何かこの子を怒らせてしまったようだ」

「てーとく!グラーフさんがろーちゃんのこと、わからないですって!」

 

「あー、うーん…いやー…そうだねぇ…ここまで変わるとー…」

「がーん!」

 

「Admiral…一体どういうことだ?」

「あのね、この子…ゆーちゃんだよ」

 

「……なに?」

「UボートU-511改め、呂号第500潜水艦です。ゆーちゃん改め、ろーちゃんです!お願いしまーす!」

 

「いっ!?」

 

私はさっきから声を出せない。あ、あのユーが…全然違うじゃないか!?

 

「ユー…ああ、こんなに変わって…」

「わたしもビックリだよー…いきなり知らない子が執務室に入って来て、ゆーちゃん、ろーちゃんになりました、ですって!って来るんだもん」

 

Admiralでさえ知らなかったのか。後ほど史実を調べてみたら確かに…しかし…雪のような白い肌から一転してこんがりと…それはわかるはずもあるまいて…。

 

「えへへー!ろーちゃん、強くなったのでもーっと頑張りますって!」

「うんうん!あーろーちゃんかぁいいよー!!!」

 

「てーとくー!てーとくもかぁいいですって!」

 

イチャイチャ…うん、今日もここは平和だな。しかし、ローはすっかり日本の文化になじんでしまったな。いや、私も人の事は言えんのだが。

 

レーベにマックスもZwie(ツヴァイ)と言う大規模改装を行った。実力的にはナガナミたちには劣る。しかし、それでも彼女は大喜びであった。ビスマルクがDrie(ドライ)になった時も。誰が改装をしたとしても、心から喜ぶ。プリンツの時も。

 

その優しさにどれほど救われただろうか。笑顔にどれほど癒されただろうか。ドイツの艦娘皆…ビスマルクだけは素直ではないが彼女の優しさに救われたと言っていた。ローはAdmiralにべったり。初日にAdmiralを怒鳴ったマックスも、レーベや私達がいないときにこっそりとAdmiralに直接ありがとうと言ったらしい。あっさり私達に知れてしまった。なぜならそれに歓喜したAdmiralがお赤飯を炊いたからだ。

 

「内緒にしておいて言ったじゃない!」

「だってぇ…あんなこと言われたら嬉しくってお赤飯炊くしかないでしょう?」

 

「提督!マックスはなんて言ったの?僕気になるなぁ」

「レーベは黙ってて!」

 

「あのね、あのね…ううう、マックスちゃんがね…いつ「やめなさいって言ってるでしょう!?」」

「マックス!ちょっと静かにして!提督の話が聞こえないじゃないか」

 

マックスが首まで真っ赤にしてレーベをどうにかしていたのはおかしかった。

 

「つまり、マックスちゃんは提督がだーいすきって言ったんですね!」

「プリンツ!!!!」

 

「そうなんですね!てーとく!ろーちゃんもてーとくがだぁいすき!ですって!!」

「ろーちゃーーーーーん!!!!」

 

「てーとくーーーーーー!!!!!」

「いやああああ!!!!!」

 

こんな賑やかな毎日を送れるとは、本国にいた頃は想像もできなかった。

 

「イギリスに後れを取った!なぜだ!こちらにも空母や戦艦がいると言うのに!!」

「イギリスに比べれば貧弱ですな」

 

「役に立たん!日本を見習え!!」

「役立たず共め!」

 

ありきたりなことを言えば私達は人間に失望していたのだろう。救いの女神だなどと言っていたのを簡単に掌を返し、無能だ役立たずだと罵り、練度がない私達を追放した。どういうわけか私達は日本に行かされ…。

 

「お前らをある場所へ行かせる。人間には失望したか?ならテメエらにいい所がある。ま、嫌なら嫌で言え。そんときゃ俺が引き取るからよ」

 

日本のずいぶんと偉そうなAdmiralだろう男に言われてここへ来たわけだが…マックスがいきなり怒鳴り散らしても、笑って許したここのAdmiral。好きか嫌いかで言われれば言うまでもない。

 

「グラーフちゃんも大好きだよおおおお!!」

「うむ!!??Admiral!?」

 

「あははは!グラーフさん、首から耳まで真っ赤だ!」

 

レーベに笑われたな…あれは恥ずかしかった…しかし…私が好きと言うまでずっと抱き着いて離さないものだから…。

 

「あ、あう…あう…イ…Ich mag dich…」

 

本国の言葉で好きだと言った。親愛を込めて。これならわかるまい…と思っていたのだが…。

 

「グラーフちゃん!!ありがとおおおおおおお!!!」

「んなぁ!??!!??!」

 

言葉をわかっていたようだ。さらに抱きしめが重くなった。私はそのあと1時間は全身が熱かった…。

 

「んににににににに!!!!!」

「はな、れな…さい…よおおおお!!!!何なのよこの子のチカラはあああああ!!!!!!」

 

ビスマルクも同じく本国の言葉で私と同じことを言ったら思いきり抱き着かれた。引きはがそうとしたがはがせなかったとはビスマルク談。プリンツは頬にキスをしていたな。その瞬間、金剛や涼風の視線が怖かったのだが…。

 

私達がやってきてから…彼女はずっと走り続けているような…いや、きっとここに着任した時から休まず走り続けてきたのだろう。彼女が休んでいるところを見たことがないのだが…。

 

………

 

「すまないミズホ…その、Admiralは休んでいるのか?私は彼女が休んでいるところを見たことがないのだが…」

 

「そうですね…そこは瑞穂も心配しています。平気と仰るのですが…」

「Hmm…テートクはオンナノコの日以外はほぼ働きづめデース。月に2、3日休んでいるだけでしタ。デスからー…無理やり休ませるようにしたデース!」

 

「………私達の事ばかり気にして、自分の体を気にしないのはどうかと思うわ」

「僕もそう思うよ…」

 

「横須賀の霧島から教えてもらいマシタ。徹底的に休むように追い出すデス!」

「そうでもしないとあの子は休まないわ。私も協力するわ。コンゴウ、チカラを貸して!」

 

「もっちろんデース!」

 

そう言っていると山風の泣き声が聞こえてきた。絶叫するかのような声。

 

「あ、あのぉ…ヤマカゼちゃん、泣いてますけどぉ…」

「プリンツさん、大丈夫ですよ。すみれちゃんがいますから…やきもちを妬いて…冷たい態度をとってしまって…怖くなっちゃったんでしょうね」

 

「ま、すみれっちがいるからちゃんと泣き止んで戻って来るよ。いつものことだよ」

 

山風はとにかく嫉妬深い。いや、Admiralに依存しすぎているような気がする…。

 

「ヤマカゼ、いつも提督と一緒だよね。提督は全然気にしていないけど」

「そうね…」

 

「山風の姉貴、どうなってんだ?」

 

「山風は前のテートク…ここに来る前のテートクが最低さいっあくのクソ野郎だったデース!前のテートクも!前の前のテートクも!!」

 

「金剛さん…ブラック金剛になっていますよ」

「おっと!いけないデス。でもやっぱり許せないデース!」

 

そう言って金剛は拳を握りしめて熱弁していた。ひたすらに人間の文句を言っていた…。

 

………

 

「やーまかーぜちゃん?」

「…………」

 

提督の私室では七原提督の膝の上に座らさせられ、抱きしめられている山風と2人きり。山風は提督が覗き込もうとすると顔を逸らして提督の顔を見ないようにしている。提督は決して怒っているわけではない。むしろ山風を怒ることはない。七原提督は人間、特に男には感情の起伏が激しいと言うか、トラウマがあるので感情を剝き出しにする。玲司、一宮提督、九重提督、刈谷提督以外は忌避する。

 

艦娘に怒ったことは涼風達もない。甘すぎだと刈谷提督にしょっちゅう怒られているが、性格故に仕方ない点もある。それでも秩序を保てているのは時に厳しい金剛や長波のおかげだろう。

 

その中でも、特に甘いのは山風だろう。いついかなる時でもほぼ一緒だ。お手洗い以外は四六時中いると言っても過言ではない。

 

「ごめんね~、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

「ついてくついてく…」

 

「んっんー!つかれたぁ!今日もお疲れ様~!ご飯いこっか!瑞穂ちゃんや大鯨ちゃんが作ってくれるはず!いいにおいがするね~」

 

「かぁ~腹減ったぁ!今日はなーにっかなー!な、山風姉!」

「ついてくついてく…」

 

「お風呂いこー!」

「ついてくついてく…」

 

この山風のついてくついてくと言う口癖はほぼ必ずと言っていいほど七原提督についていくときに言っている。これは七原提督が遊びで金剛たちについていく時に言っていたことをまねしているのだ。

 

「スミレーみなさーん!フォロミー!!ついてきてくださいネー!!!」

「はーい!ついてくついてくー♪」

 

「つ、ついてくついてく…」

 

そこからこの山風の「ついてくついてく」は始まった。

 

「あー!山風ちゃんのついてくついてくかぁいいなぁ!!!!」

 

そして七原提督のハグアンドよしよしが炸裂する。こう言えば提督がこうしてくれることを山風は知ったからだ。

 

山風は提督に拒絶されることを極度に怯えている。過去に誰からも拒絶され続けてきたことが原因だ。彼女の精神は他の山風よりも幼い。もともと山風は人見知りが激しく、夜を怖がり…あまり人に懐こうとしない。さらにこの山風はジャンク…「劣等艦娘」と呼ばれるほど精神が幼かった。だからこそあちこちで提督にも艦娘にも迫害され、戦闘に出ることさえままならなかった…。

 

「……………さい」

「ん?どうしたの?」

 

「…めんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…!やだ…やだ!!あたしを…あたしを嫌いに…嫌いにならないで…ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 

突然山風が泣き出し、そして謝りだした。これは提督に冷たい態度をとった山風が自己嫌悪に陥り、そして必死になって突き放されないようにする謝罪だ。拒絶されること。特に七原提督に拒絶されれば彼女の心は崩壊する。横須賀の霞のように。しかし、それでも彼女はやってしまう。七原提督に完全に依存しているため、他の艦娘と仲良くしている所を見ると嫉妬する。いや、そのまま山風から離れて行ってしまうのではないか?そしてまた…追い出されるのではないかと言う恐怖がやってくる。そうして、彼女は構ってほしいがためにあべこべな態度をとってしまうのだ。

 

「山風ちゃん。大丈夫だよ。お姉ちゃんが山風ちゃんを嫌いになるもんかぁ」

「うう、うう…ごめんなさい!あたし…あたし…お姉ちゃんのこと…大好き!だから…嫌いに…あ…あああああああああああああああ!!!!!!」

 

恐慌状態。ひとえに言えばパニック障害だろうか。横須賀の明石に七原提督は言われていた。

 

「山風さんは人間で言うパニック障害と言う精神的な病を持ってますね。おそらく一生ものでしょう。提督に依存しきってしまっていますから、七原提督がいないと大変なことになっちゃいますね。ま、提督なら放り出すことはないかな!」

 

ひどいと過呼吸まで起こすし時には気絶する。おもらしもする。現に今足に温かくべちゃっとした感触…ああ、やっちゃったかぁ。

 

「ひっ、あっ、あう!お、おもら…しちゃ…ご、ごめ、ごめんなさい!ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

「大丈夫…大丈夫だよ。怒らないから…お姉ちゃんは山風ちゃんがだぁい好きだよ…大好きだもん…誰が嫌いになるもんか」

 

「う、うう…お姉ちゃん…お姉ちゃん…」

「んー…」

 

優しくキスをしてあげる。山風にとっては特効薬だ。抱きしめ、頭をなで、キスをする。かわいい妹?ううん、大好きな恋人だよ、と金剛に言ってのけたこともある。ここではあまり言えないが大人の階段を昇っているし、バードキスでは済まない。

 

「ぷぁっ…」

 

唾液の橋ができあがるほどキスをする。それくらい山風の事を愛している。

 

「おねえ、ちゃん…」

「落ち着いた?」

 

「うん…」

「ふふ…じゃあお片付けしよっか」

 

「お姉ちゃん…」

「なぁに?」

 

「あたしのこと…好き?」

「うん!愛してる」

 

もう一度キスをしてあげた。そうするととても大人しくなった。妖精さんも加わって片付けた。それからもしばらくは山風をベッドへ連れて行き、優しく抱きしめて落ち着くのを待った。

 

………

 

「落ち着いたみたいデース」

「お、今日は早いね。すみれっちのあっつーいちゅーを早々ともらったなぁ?うらやましいね!」

 

「はえ!?」

「い、いい!?」

 

「サプラーイズ!にひひ、スミレと山風は愛し合う仲デースヨー!おっと、ワタシたちもですケド」

「ふぁああ…」

 

「ひひひ、ちょーっと刺激がきつかったかなー?」

(海風姉ちゃんたち大丈夫かなー…)

 

「山風ちゃんは…特にすみれちゃんに愛してもらわないと…大変ですからね…」

「そ、そうなんですか…一体…過去に何が…?」

 

「むう…ヤマカゼの話は私達にも強烈だったな…」

「知っておいた方がいいと思います。ここでやっていくのでしたら…すみれちゃんは聞かせてあげて、と言っていますから…」

 

「………私は山風の姉です。ここでやっていくのなら聞きます」

「あたしもだ!山風の姉貴のこと知っておかねえと後で後悔しそうだぜ」

 

「あ、すみれっちはいつもこの話を聞いてから、気持ち悪いとか思ったら異動してもいいって言ってるから、気軽に言ってね」

 

「それを気軽に言っていいものか…疑問すぎるわよ」

「なにビス子ー?自分は一切気にしないって言ってたじゃーん」

 

「私だってちょっとは考えたわよ!ここでやっていくならそれも受け入れるのが大切と思ったから即決しただけ」

 

「オオウ、ビス子は大人ですネー。さすがはバトルシップ!」

「ビスマルクよ!!!」

 

「今から大切な話をするのだ。ビスマルク、少し静かに」

「私のせい!?」

 

納得はいかないが黙るしかないビスマルクであった…。そして瑞穂が口を開いた。




ドイツ艦のことを書いていなかったのでまずはドイツ艦が着任してからこれまでを書きました。個人的にビスマルクは美しい艦娘ですのでもっとこう…かっこよく戦闘シーンなどを書きたいですね…レイテで書きたいかな。

次回は山風のお話になります。七原提督と山風はそうですね、玲司と翔鶴くらいの距離だと思います。しかし、山風の精神が幼いこともありますので、情事はそうそうありません。今回のようなかなり重い愛を伝える時だけです。これでも山風の精神は来た頃に比べると落ち着いています。今回は不安定だったようですね。

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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