鹿屋のひな祭り。新しい艦娘も着任します。
「ひな祭りすんぞ」
それは2月。刈谷提督が食堂で放った一言が発端だった。
「ひな祭り…どんなお祭り、ですか。あ、弥生のことは…気にしなくて、いいです」
「何言ってんだ。お前も参加すんだよ」
「え…」
刈谷提督がひな祭りについて説明を始めた。補足は龍田や葛城がする。要は女の子の健やかな成長と健康を願うお祭りらしい。それと同時に桃の花などを飾りつけする催しもやると伝えた。
するとどうだ。睦月型駆逐艦の黄色い声が上がった。
「お祭りにゃしぃ!!睦月たちもお手伝いします!」
「わぁいわぁい!お祭りだよぉさっちん!!」
「む、長月たちも参加してよいのか…」
「……楽しみだな」
「よし、駆逐艦達よ!この長門に続け!お祭り準備艦隊!出撃するぞ!」
「「「おおおおおおおお!!!!」」
「まだ早えんだよ。うるせえ」
そこには楽しそうに話が盛り上がる海防艦たちもいた。新しく加入した占守型の占守、八丈、石垣。御蔵型の能美。鵜来型の鵜来。稲木。大所帯だな、と苦笑はした。しかし、海防艦への父性が知らずやばい刈谷提督は二つ返事で彼女たちを迎え入れた。
「提督!鵜来達もいいんですか!?」
「稲木も…いいのか?」
「ああ。お前らもここの一員だ。しっかり参加しろ」
「はい!ありがとうございます!」
ぺっかー!と言う言葉が似合うほど鵜来は100点満点の笑顔で笑った。愛宕が「あーん!鵜来ちゃんかわいい!」と抱き着くほどだった。刈谷提督もクールを装っていたが口元をヒクヒクと笑いをこらえるので必死だった。
「ああ…福江、対馬、ちょっとこい」
提督は福江と対馬を呼ぶ。提督を疑うことをしない2人はとてとてとやってくる。
「なんだ、司令?福江に用か?」
「はい…なんでしょう…?」
「龍田、こいつらの採寸頼むわ」
「は~い」
メジャーを使って突然福江と対馬を採寸し始めた。もちろん、戸惑う。
「な、なにをするんだ!?司令!どういうこと!?」
「ふふふ、これは…危険が、いっぱいな…こと、しますか?」
「するかよ。福江、お前はひな祭りの時お内裏やれ。対馬はお雛様だ」
お雛様、なんてことを言うものだから球磨と多摩と卯月が噴き出したが噴き出した瞬間にナイフがテーブルに刺さり、黙らせる。
(この提督も球磨たちみてーにやばくなってきてねーかクマ?よし、これを投げ返し…)
「ヴォオオオオオオ!??!!?!?」
「読めてんだバカ」
もう1本ナイフが飛んできてすごい声をあげる球磨。半分人間、やめてます。多摩も想像していたようだが球磨の様子を見て胸をなでおろした。
「お内裏?お雛様?なんだそれ?」
「これよ~」
龍田が資料を見せた。それを見た途端に姉妹の択捉や松輪、平戸たちが集まる。海防艦たちがゾロゾロと集まる。
「あれ?司令、おだいりさま?は福江なんですね?」
「ああ。佐渡は元気が有り余ってるからな。佐渡には5月の端午の節句で活躍してもらう」
「へへ!ほんとか!?じゃあしょうがねえな!待ってやるよ!」
「態度が偉そうなんだよテメエ」
「あぎゃー!まつ、助けてくれー!」
「はわわわ!!」
騒がしい2月のある日。ひな祭りの準備は始まったわけだ。
「ていとくさんていとくさん。ふかえさんとつしまさんのふくをつくらないとはどういうりょうけんですか」
「ああ?」
「ひなまつりにはおだいりさまとおひなさま、ごにんばやしなどがひつようです。ふくをつくらせてください。つくらせやがれ」
「テメエ最後の言葉は何だよ。1ヶ月切ってんだぞ。作れるわけねえだろ」
「します。やります。やらせてください」
「本当かよ…」
「ようせいさん、うそつかない」
「インディアンかお前ら」
「すんぽうはわかっています。みていてください」
「で、お前らはどこから来たんだ?」
「よこすかです」
「………」
横須賀。あいつのところか。すげえ自信たっぷりだけどマジで大丈夫なのかよ?ちょっと心配になったので電話をしてみることにした。
「ああ、三条か?テメエんとこの妖精さんがひな祭りの衣装を作ってくれるって聞いたんだけどよ、できんのかよ?」
『ひな…祭り…刈谷提督が?』
「海防艦のチビに着せるんだよ。俺が何で着なきゃいけねえんだよ」
『あ、ああ!そう言う…!!あー、妖精さんができるって言うなら。振袖を1日で作っちゃうくらいですから大丈夫でしょう』
「マジかよ…」
何だよ1日で作るって…こいつんとこの妖精さん、どうなってんだ?
妖精さんに不可能はない。やると言ったら本当にやってのける。数の暴力と技術力で完璧にやってのける。
「…横須賀までどうやって行くんだ?」
「ようせいさんはどこにでもいるしどこにもいないのですよ」
「シュレディンガーかよお前ら」
「もっとほめてくれてもいいのよ」
どやぁ…と言っている妖精さんをよそに三条と話をする…。
「あー、あー…酒でいいか?」
『えーっと…別に気にしないでください。酒は…龍驤姉ちゃんが飲んでしまうので…』
「ああ、あのうるせえ奴か。じゃあ鹿児島黒豚でも送ってやるから全員で食え」
ああ?だれがやかましいんじゃ!と言う声が聞こえた。うるせえじゃねえかよ。姉をちったあ見習えよ。そういえばこいつに俺が送ってやった酒ガバガバ飲まれたとか言ってたか。こっそり送ってやりてえところだな。
また龍驤が黒豚やー!しゃぶしゃぶやー!と喜んでいる声が聞こえる。つーかあいつが姉?駆逐艦のチビと一緒…いや、駆逐艦や海防艦より世話が焼ける妹だろ?こいつ間違えてねえか?
「そいつ用にアメリカ産の豚肉送ってやるからそれ食わせとけ。話はわかった。悪いけど頼むわ」
『了解です。ああ、ひな祭りでしたら桜でんぶを入れてあげると喜びますよ。お寿司に』
「そうなのか?よし、話せ」
『ええ…』
そうしてひな祭りに関する料理のこと、やり方などを1から10まで聞いたら3時間くらい通話していた。別に盗聴されていようがまったく関係ない話だし気にしない。最後の方は三条の奴疲れ切ってたな。また酒3本くらい送ってやるか。
「よし、妖精さん。報酬は出す。最高にいいのを作って来てくれ。前払いだ」
三条にこれまた聞いていた賄賂…いや金平糖を渡す。するとどこかのモルモット君が飲まされた薬のように全身が輝きだし「うおおおおお!!!!つづけえええええ!!!!」といきなり4、5人だったのが20人くらいに増えて外へ飛んで行った。よし、まあこれでいい。
………
「はい…はい…お酢をここで…はい。お砂糖を入れまして…」
伊良湖が横須賀の間宮にちらし寿司の作り方を教わっている。三条に聞いたらうちの間宮が抜群にうまいので代わりますと言って伊良湖に話をしだしたのだ。三条のほうが詳しいんじゃねえのか…?とも思ったが、伊良湖が緊張してしまうのではないかと言う気遣いだ。俺じゃあるまいし、緊張しねえだろと思ったけども。
「鯛に…ハマグリですか…あ、準備されています…」
事前に全て勉強して調べてある。ひなあられだってそろえてある。準備万端なのだ。提督らしい。白酒だって玲司への返礼の酒と一緒に酒屋に頼んであった。海防艦はジュースをいっぱい買い込んであるし、相も変わらず過保護全開である。
「はい!はい!ありがとうございます!私、間宮さんのように精進します!」
かなりガツガツ聞いていたな。それに負けじとグイグイいろんなことを教える間宮も間宮だった。給糧艦としての血が騒ぐのだろう。電話をしながらとはとても思えない丁寧なメモを見て練習を始めるのだった。食欲の塊である球磨や多摩でさえ、もう見たくねえ…と言うくらい練習に付き合わされたようだ。それでも球磨達はひな祭りの日に大量に食べたのだが。
さらにしばらくして。談話室にずいぶんと大きな箱が届いた。箱は2つ。そして…提督が率先して組み立てを始めた。中には人形がいっぱい。段を組み立てていく提督のところへ睦月や日振たちが集まっていく。
「提督、何をしているのですか?」
「おー!かわいいなこれ!」
「おい、荒く扱うんじゃねえ。壊れるだろうが」
「だいちゃん、ダメ!」
「かわいいっしゅ!これ、なんでしゅか?」
「こいつはひな人形だ。祭りの日に飾るんだけどよ。まあ、置いといてもしょうがねえし。談話室に飾っとこうと思ってな」
「あっ!日振たちだぁ!」
「占守にクナにハチもいるっしゅ!」
「ふ、ふん!まあいいんじゃない?」
「わあ、かわいい…!」
「ハチは嬉しそうっしゅ!」
「ちょ、クナだって嬉しいってば!」
「あたいもいるぜー!あ、福江と対馬!」
「フン。大鷹と神鷹はまだいねえが…とりあえず飾っとく。こいつも組み立てるか」
「む?提督。これは…」
「長門と陸奥だ」
「提督…これは何だか…恥ずかしいんだが…」
「お雛様じゃねえんだからいいだろうが。それとも着せ替えてやろうか?」
「や、やめてくれ!恥ずかしくて死ぬ…」
「クックックッ!いいじゃねえか」
「やめろお!」
「おっとあぶね」
長門が咄嗟に手を突き出した。それはひょっとしたら直撃したら頭が吹っ飛ぶのではないか?と言うくらいのものだった。間一髪で避けたが提督は提督で素晴らしい動体視力だ。長門も後から考えたら驚くほどだった。
さらには川内型の三人官女。潜水艦の五人囃子。赤城と加賀の随身。さすがにこれ以上は大きくできなかったのでここまでだ。桜やぼんぼりを飾っていく。海防艦のひな人形と共に豪華絢爛。談話室に駆逐艦や海防艦が集まるようになった。
「提督すっごーい!那珂ちゃんが官女なのはー…我慢しよっかな!択捉ちゃん達が主役だもんね!」
「提督、いつの間にこんなすごいものを?」
「ああ、半年前くらいから考えてた。あとは…異動もあるから見送ろうかとは思ったんだけどよ」
「あの…お金は」
「んなもん俺の金に決まってんだろ」
「費用は…おいくらほど?」
「知らねえ。100万ポンと渡してこれで豪華に作ってくれって頼んだだけだからな」
「100万!?」
「こういうのはパーッと使った方がいいだろ?渋ってしみったれたもんにしたくねえだろうがよ」
「もっと他に使い道なかったんですか!?もったいなさすぎます!」
「チビ共が喜んでんだからいいだろうがよ」
「食費は…?」
「俺の金だぜ?」
「はあ!?」
「うっせえな。こういうもんに金使って経済回すんだよ。んでもって派手にやりゃ睦月たちや択捉達だって喜ぶだろうがよ。よつ達見たか?大はしゃぎだったろ?
「金額を聞いたら遠慮します!まったく…龍田さんたちは何て言ってたんですか!?」
「楽しみね~って言ったわよ~。葛城ちゃんは派手にいきましょ~って。愛宕ちゃんはぱんぱかぱーんよ~」
「愛宕さん…」
「能代ちゃんは難しく考えすぎよ~。提督が気にしないって言うんだからいいじゃな~い。ふふふ♪」
「い、いえ…旦那さんのお財布の紐はきっちり見ておいたほうがいいんじゃ…」
「あら~?私の旦那さんはそんなお金に困ってたりしてないわよ?むしろ自分のためにお金を使わないからそっちのほうが心配だったわ~」
確かに提督は派手に自分の服や私物にお金をかけている節はない。執務室は余計な装飾品はまったくと言っていい程置いていないし…龍田さん達の指輪にはしっかりお金をかけていたが…。
「指輪だけは金かけたな。俺のも龍田達のよ」
「私服もブランド品で固めてたりするけど~」
「なんだ、能代も私服とかアクセとかほしいもんあったら言え。買ってやるよ」
「いえ…私は…」
「阿賀野みてえにいい服ほしくねえのかよ」
「か、買ってあげたんですか?!」
「提督?それは内緒なんじゃなかったっけ~?」
「いずれバレんだろ。能代?」
「あーがーのーねーえー!!!!」と言いながらガニ又で歩いて行った。別にいいじゃねえかよ…と思ったが能代的には何だろうか?いけないことだったのか?結局は自分だけいい目して!と言う嫉妬だったことが判明。30分ほどで原因がわかってしまった。
「んなことよか手伝え。人手が足りねえんだよ」
「長門さんは…」
「ひな壇をぶっ壊しそうだったからどっか行かせた」
脳筋…と言いそうになった。確かに…こういう細かい仕事は苦手な長門。ちなみに葛城や愛宕も苦手だ。愛宕は書類仕事が得意なのでそっちを任せている。長門は…まあ那珂達の訓練をさせておけばいいだろう。って言うか…これ足をはめ込んでいくだけじゃない…何で…?
チカラこそパワーだから仕方がない。無理にはめ込もうとしてへし折られたら全て台無しだ。海防艦のひな人形は細工が細やかだ。
「よし。これでいいだろ」
「完成ね~♪」
大きなひな人形が飾り付けられた。終わったわよ~と龍田が海防艦たちを呼ぶと大はしゃぎだ。自分達をかたどった人形があるのだから。御蔵達には悪いな、と謝っているが無理もない。しかし御蔵達は逆に恐縮してしまっていた。まあ、機会があれば彼女たちの何かも作ってやりたいところだ。
「那珂ちゃんご機嫌!提督、ありがとう!」
「ふん、別にテメエらのためにやったわけじゃねえよ」
「またまた~!提督ったらかーわいい!」
「うるせえぞ那珂。ひな祭り当日は演習場で1人で踊ってやがれ」
「えっ!那珂ちゃん踊っていいの!?」
「那珂ちゃんさん踊るの!?見たいです!」
「あの、日振ちゃん…那珂ちゃんは那珂ちゃんだよ?」
「那珂ちゃんさん…ですよね?」
「那珂ちゃんだってばー!」
「那珂ちゃんさん!」
「那珂ちゃんさん!」
「那珂ちゃん…さん」
「ねえ提督?これっていじめだよね?」
「知らねえよ。頑張れや那珂ちゃんさん」
「提督ー!!!!」
賑やかねぇ…と柔らかく笑う龍田。こんな日がずっと続いてくれたらいいんだけど。そう思ってやまない。旦那さんがいろいろと危なげな橋を渡って大府を追い詰めようとしているのはわかる。どんなことをしているのかはわからない。知らなくていい…と言うが。そんな危険なこと、妻ならさせたくはない。しかし…大府が提督を狙っていると言うことは確かだ。
提督が一番信頼を置いていた清州副司令長官を殺したことは間違いない。確証はないがアイツで間違いない。殺せるのなら私が殺したい。殺して提督に安心して生活してほしいし、一歩間違えれば提督を追いやられてしまいかねないことをしてほしくない。
「龍田ぁ」
「なぁに?」
「……お前が側にいてくれるだけでいい。それだけで、俺は十分だ」
「………じゃあ私達を安心させてほしいわね~」
「今年中にはケリをつける。そしたら…お前らと旅行でも行くか。城崎へ行ってカニでも食うか。そんでお前らを一晩中抱く」
「うふふふ♪葛城ちゃんがもたないわねぇ。提督も元気ね~♪」
「おう。お前らのためなら頑張ってやるよ。だから待ってろ。悪いな。それと…感謝してる」
感謝。その言葉だけで龍田は泣き崩れてしまった。張りつめていた糸が切れてしまったかのように。悪いとだけ謝られたものだが、龍田にはそれで十分だった。あの時は本当に胸がいっぱいになった。
………
「いたたた…どうしてこんなにお腹が…それに…血まで…」
「何だってんだ?わからねえな…おい寝てろ。待ってろ、何か温まる飲み物を作ってやる」
ひな祭りの1週間前に突如起きた龍田の異変。下腹部から血を流し、腹部の痛みを訴えた。何か毒でも…?いや、そんなことはない。食品の管理は万全だし、龍田もそんな甘い奴じゃない。龍田がおかしくなったのなら他の奴もおかしくなるはずだ。原因がわからない。
明石もわからないと言う。出撃もしていないのに出血など。資料を読み漁ってもわからない…こういう時は…あいつか。
「よお、刈谷だ。三条いるか?」
困った時の三条頼み。何かこいつなら知ってそうだ、と言う根拠のないアテ。しかしまあそれで何とか毎回助けられているわけだし。
「おう、俺だ。うちの龍田が血流して腹が痛えって言うんだ。何か知らねえか?」
『…刈谷提督、龍田とラブラブなんすか』
「ああ?そんなこと今聞いてどうすんだ。何だ?龍田を抱きたくなったか?」
『違います!!』
「あー、テメエ翔鶴とできてんだもんだ。で?何か知らねえか」
『えーっと…そのラブラブについてなんですが…』
「だから、人んところの女との情事聞いてどうすんだ?翔鶴と試すのか?」
『いや…あの…あー、大淀…明石呼んできて』
明石。そうだな。明石の方が詳しそうだもんな。だったら早く代われってんだ。しばらくしてやってきた「原初の艦娘」の明石。三条と一緒でこちらの情事を聞くものだからキレそうだったんだが、こっちの雰囲気を察したのか簡潔に言った。
『龍田さん、生理です』
「整理?何を整理しろって?解体でもしろってんならテメエ今から殺しに行くぞ」
『日本語ってややこしいよね…時々…』
かいつまんでいうと人間の女と一緒で子供が産めるようになったと言う。どういうことだ?艦娘にそんな機能はねえだろ、と聞く。
『刈谷提督、もしかして深海棲艦の血が混じってるとか…じゃ、ないですよね…またレポート書き直し…?』
「深海棲艦になりかけた愛宕が自殺を図ろうとしたときに確かに俺も腹に大穴が空いてえらい目にあったな」
『そ、そ、それだーーーーー!!!!』
うるせえ。要するに俺の体の中の深海棲艦?の血と龍田との間で何か作用しやがったらしい。ってことは…。
『あーっと…その…普通にすると子供ができちゃうかもしれないんで…その…避妊はしたほうがいいかなと』
明石から言うのはためらわれたか。三条がそう言った。俺も避妊…やってます。と自分とこの情事を暴露するもんだから大笑いした。
「そうなの~…私はいーっぱい提督の赤ちゃん、産んでもいいわよ~?」
「お前に負担がかかるだろうが。俺はそんなにボコボコいらねえよ」
「前に遊びでつけてしたとき、よくなかったんだもの…」
「我慢しろ。慣れろ。そう変わんねえだろ」
「そうかしら?」
「その分」
「んっ…ぷはぁ…ふふふ♪これはこれで嬉しいわ~♪」
「そうかよ」
チッ、明るい家族計画ってか。ってことは葛城や愛宕もなるってか…?
「生理って言うのが始まるまでは葛城ちゃんと愛宕ちゃんと楽しんでね♪」
「…気乗りしねえな」
「あら、愛する人の赤ちゃんが産めるとわかって、あの子達が黙ってると思う?」
「……チッ」
「頑張ってね、あなた♪」
「善処する」
まさか、こんなことになるなんてな。人生どうなるかわかんねえもんだ。刈谷提督の生活はここでまた一変したのだった。
………
「みんなー!コップは持ったかなー!?」
「「「はーーーい!!!」」」
ひな祭り当日。司会はなぜかマイクを持って離さない那珂が音頭を取る。と言っても提督が音頭を取るはずもなく、球磨や多摩達にも無理な話だった。
龍田も痛みも引いたために参加。提督は何もしゃべらない。そんなことはみんな分かっている。本当ならまた1人で執務室で飲むと言っていたのを海防艦と睦月たちが全力で止めたのだ。渋々ここにいる感じだ。
「提督ー!何か言うことはありますか?ないなら那珂ちゃん乾杯しまーす!」
「ああ、いけねえ。忘れてた。今日着任する艦娘がいる。こいつとも一緒に楽しんでくれや。龍田」
「はぁい。さ、どうぞ~♪」
そうして食堂に招かれたのは能代や阿賀野と同じ服を着たポニーテールの艦娘…。
「矢矧…?」
「初めまして。阿賀野型軽巡、矢矧です。佐世保鎮守府から異動してきました。皆さん、よろしくどうぞ!」
「や、矢矧ぃ!?」
「そうだ。佐世保の爺さんが今月で引退だからな。引継ぎがあらかた終わったもんで早めにこっちに来てもらった。矢矧、お前は阿賀野と同じ部屋で生活してくれ」
「えっ!?て、提督さん…?」
「しっかり面倒見てもらうんだな、阿賀野ぉ」
「え、何?私が一緒じゃまずい理由でもあるの?」
「矢矧…それがね…」
「能代!ダメだよ!」
「なぁんですってぇ!?阿賀野姉!ちょっと来て!私と確認よ!!」
「ああああ!!ま、待って矢矧!今からお祭りなのよー!?」
「関係ない!私が生活する部屋が汚いのは我慢ならないわ!
「きれいにしてる!きれいにしてるからぁ!」
「一回確認させて!!」
「ああああ!!!阿賀野のおすしがー!!!」
「お寿司は逃げない!!!」
「提督、先に矢矧を紹介したの…まずかったんじゃないですか?」
「それだとひな祭りに参加できねえだろうが」
「そうですけど…」
「大丈夫よ~。今朝見たけどきれいにしていたから~」
「なら安心かな…」
「あいつ結構潔癖らしいぞ」
「大変ね~」
「那珂、音頭取れ」
「い、いいのかなぁ…ま、いっか☆かんぱーい!」
いきなりの乾杯に非難が出たものの、すぐに食い気に走ってしまった。結構苦労して作っていた茶わん蒸し。提督が気にもせず買ったであろう国産ハマグリをふんだんに使ったお吸い物。最初に比べればおいしくなったちらし寿司。最初はみんなが咽るくらいきつかったのだが、伊良湖の練習の成果だろう。
「おいしいです、司令官!」
「うめっうめっ!」
「うめーにゃー!」
「うふふ、提督!ありがとうございます!」
「おう、好きなだけ飲んで食え」
「今日のところは許してあげるわ…私も食べたいし…」
「ほっ…セーフ…」
「これでもう気の抜けた生活はできねえなぁ?」
「ひーん!提督さんのいじわる~!」
クックックッ…とまたいたずらっぽく笑う提督。何だか久しぶりに…落ち着いて飯食ってる気がするな。いい加減あの馬鹿親子との戦いも終わらせたいものだ。それよりも…レイテがある。こいつらを行かせて全員帰還させる。それが俺の最大の仕事だ。レイテが始まったら大府どころじゃない。こいつらのことを考えなければ。
「提督、飲んでくださいね」
「飛龍か。飲んでるよ」
「そうですか!こんなこと…へへへ、楽しいですね!」
「そうかよ。夏にはレイテがある。その前にしっかり楽しんどけ。始まったら忙しいからな」
「はい!おーい大鳳さん!飲も飲も!」
「おい、大鳳酒に弱えんだぞ」
皆でこんな宴会はしたことがなかった。昨年の今頃は刈谷提督に怯えていたから仕方がないのだが。まさか提督がこんな催しをするとは思っていなかった。新しい仲間は増えるし、こうして宴会もできる。なんだ、鹿屋基地っていいところじゃないか。皆がそう思っていた。
「あれ?海防艦の子たちがいないよ?御蔵ちゃん?」
「はい!すぐに戻って来られますよ」
「えーなになに?なにかやるの?」
「よーし那珂!場を盛り上げるために脱げクマー!」
「待って!?那珂ちゃんアイドルだからそういうのNGでーす!!」
「つまんねえアイドルだにゃ」
「アイドルを何だと思ってるの!?」
「ぱんぱかぱーん!準備ができましたー!」
「よし、入って来い」
提督の言葉で入ってきたのはまずは五人囃子になった択捉達だ。そのあとに三人官女の占守、国後、八丈。
「わあ!福江ちゃんかっこいい!」
「うわー…対馬ちゃんすっごいきれい…」
お内裏様の福江とお雛様の対馬の登場だ。福江も対馬も堂々とやってきた。もっとも、妖精さんに着付けをしてもらっている時はわくわくが止まらなかったらしい。試着の時、刈谷提督はその姿を見ていたのだが、何回も何回も福江は「司令!似合ってるか!?」と目を輝かせていた。対馬は…「目がやべえぞお前」と言われるくらいだった。
「かわいいにゃしぃ!司令官!来年は睦月も着たいです!」
「ふふ、睦月ちゃんなら似合うわ♪」
「如月はお雛様がいいにゃあ。うひひ、よいではないかができるにゃあ」
「乳もケツも小せえからなぁ。阿賀野がいいクマ」
「わ~!如月ちゃぁん!しっかり~!」
「担架ー!担架ー!」
「何やってんだあいつら」
「来年は睦月ちゃんたちにやってもらう~?」
「考えておいてやるよ」
「それはもうやるってことね~♪」
「白酒だぞ!飲みすぎは駄目だからな!」
「危険がいっぱい…ふふ、司令、対馬…酔っちゃいました」
「どう見てもシラフだろうがテメエ」
「ばれちゃい…ました♪」
「酔ってのかそうでねえのか…まあ大体は把握してんだよ。ああ?んだよその目。また目がやべえぞ」
「ふふふ…ふふふふふ♪司令…ふふふ、大好き…です♪」
「そうかよ」
来年は睦月たちもそうだが…日振たちにも着せてやるか。来年も…また。そうだな。全員で。刈谷提督の思いは変わらない。玲司と同じで、増えることはあっても減らす気はない。異動ならしょうがねえが…轟沈なんざ絶対させねえ。次は。次は守り抜く。そうだろ?飛龍。
………
そろそろ宴も終わりに近づいた時、刈谷提督が立ち上がって「今から大事な話をする」と言い出した。その言葉に全員が刈谷提督に注視した。
「今日この宴会を開いたのは特別でも何でもねえ。突然んなことやりだして、とだいぶ怪しまれたけどな」
そう言うと能代がぶんぶんと首を縦に振った。矢矧に「能代姉…」とすこしジト目で見られることになったわけだが、刈谷提督場それを見て少し笑った。話を続ける。
「突然だけどな。鹿屋基地での運用は終わりだ。4月からは佐世保に移ることになる」
突然のことで皆が呆然としている。鹿屋基地での運用は終わり…?これは刈谷提督の言葉が足りなさすぎるのが悪い。まずいと思って葛城が立ち上がり、補足をしようとする。刈谷提督の悪いところだ。言葉が足りなさ過ぎていつも誤解を受ける。大体龍田や葛城が刈谷提督の言葉の足りない部分を補って事なきを得るが、今回は全員が傾注していたため、葛城も龍田も間に合わなかった。
「やだ…」
立ち上がったのは卯月。その目には大粒の涙を浮かべ、グスグスと鼻水まで垂れている。何がだよ、と言おうと思ったが卯月が大きな声でそれを遮った。
「やだぴょん!!行っちゃやだぴょん!うーちゃん…うーちゃん、せっかく…せっかく司令官の事…!信じ…うぐっられう…ように…なったのに…!好きに…なったのに!お別れ…嫌だぴょん!!!!」
「卯月、テメエ何言って…うお」
「やだやだやだ!!!司令官、いなくならないで!!!!やだぴょん!!!司令官じゃなきゃやだよおおおおおおお!!!!」
「弥生も…嫌…です」
卯月と弥生が足に飛びついてきた。どちらも泣いている。それを皮切りに皐月や文月たちまで駆け寄ってきて泣き始める始末。俺が何か悪いことでも言ったかよ…?暗に焦る刈谷提督。
(ダメだまだ笑うなクマ…こらえるクマ…)
(こんなおもしれー場面そうはねえにゃ…)
球磨と多摩は笑いを必死にこらえている。長門は「ああ…」と頭を抱えている。愛宕はもうクスクス笑っているし。何なんだよ。見てねえで助けやがれ。球磨と多摩はあとで殺る。
「人間って…どこか何か欠けていないと提督になっても長続きしないのかもね…」
「おじいちゃんもそうだし…あのうるさい柱島のおじいちゃんもそうだけど…能代の言う通りなのかもね…」
「ねえ能代?提督さんはどうしちゃったの?卯月ちゃん達はなんで泣いてるの?」
「ここにも…抜けてるのがいたわ…」
「ふふふ…でも、ここまで慕われないとよけいに艦隊運用なんて無理よ。佐世保でやっていくにしても、いい艦隊になりそうね。さすがはおじいちゃんが推すだけのことはあるわ」
「矢矧がそう言うなら…大丈夫か。ふふふ。見て、あの提督があんなに慌ててるのって貴重よ」
「能代姉まで…」
「あははははは!司令官おもしれー!いいぞー!卯月いけいけー!」
「もっちー!もう!うーちゃん、弥生ちゃん、ほら泣き止んで!司令官の話はまだ終わってませんよ!」
「望月、テメエあとで執務室に来い。矢矧とレイテのことを考えるからよ」
「えー!?なんであたし!?矢矧さんが頭脳になるならもういいじゃーん!」
「テメエと矢矧の2人でやってくんだよ。馬鹿が」
「うああ…あたしもうお役御免だよねぇ…」
「ねえよ。しっかり働けよテメエ」
「うわああああ!!!」
「びゃあああああああああああ!!!!!」
「おい卯月…ああ?択捉達まで…おい、おい!」
「司令いなくなっちゃうんですか!?そんなの嫌です!!そんな…そんなぁ…」
「う、う、うわああああああああああん!!!!」
「おい松輪…よく聞け…おい鵜来…稲木、落ち着け」
「やーーーーーだーーーーーーーー!!!提督と一緒がいいのーーーーーーー!!!!!!」
「大東。うるせえぞ…おい龍田、笑ってねえで何とかしろ」
海防艦にまで火が着いてしまい、もう収集がつかなくなってしまった。一旦泣き止むまでしょうがないからと卯月と弥生を抱きしめ、抱きしめてくる択捉たちにされるがままだった。
………
「……あー…あー…俺だけが佐世保に行くわけじゃねえ…テメ…お前らも一緒に行く…あー…えー…お前らと一緒に行かねえと意味がねえ…わかったか?卯月、弥生」
「うううう…ほんと…?」
「本当…ですか?グスッ」
「あ?当たり前だろ…全員ほっぽらかして何で行かねえといけねえんだよ。1からもう1回艦娘育成めんどくせえんだよ。それに…お前らでないと信用できねえ」
「うん…」
「はい」
「あー…言葉が足りなかった…悪い。もう1度言うぞ。今月を以って、鹿屋基地での運用は終わりだ。来月からは佐世保へ行く。ここにいる奴ら全員で。そうでなきゃ矢矧に来てもらった意味もねえし、もっちーと「「「「もっちー!?!?!?!?!」」」」
「ここで墓穴掘って埋まってきたクマwwwwww」
「も、もうダメにゃwwwwww」
「ヴォオオオオオオオオオ!?!?!?」
「あぶねえ!?」
「おーい!おーい!!!!なんでもっちーって言うんだよ!!!!!!!」
「うるせえ、嫌がらせだ」
「わあ、司令官ともっちーは仲良しさんだったんですね!!」
「みっかうるさい!!!!」
「ククク…せいぜい頑張れや。あ?卯月、何でお前そんな目ぇキラキラさせてんだ」
「うーちゃんって呼んでほしい…ぴょん」
「は?」
「うぐっうえ…もっちーはよくて…うーちゃんは…ダメぴょん?」
「…………」
「やっぱり…やっぱり司令官はうーちゃんのこと…嫌い…うええええええん!!!!」
「ああ?チッなんだよクソが…おい、泣きやめうーちゃん」
「……うっうっ…グスッ…」
「司令官…弥生も…やよやよって」
「おい」
「グスッ…」
「おい、泣くな、おいやよやよ」
(卯月ちゃん達、あれで何も企んでないようだけど…おもしろいものが見れたわね~。やっぱり、小さい子にはほ~んと、弱いんだから~♪)
龍田はその様子を微笑ましく見ていた。艦娘は嫌い。嫌い嫌いは好きのうち。いやむしろ大好きすぎるから自分達をお嫁さんにしてくれたわけだし、お菓子だっておいしい料理だってたんまり用意したわけで。刈谷提督の優しさはこれなのだ。特に涙にはすごく弱い。悪ぶっていてもダメなのよ、提督。すぐにバレちゃうから♪
………
「………とりあえず佐世保に移る準備を始めろ…」
はーいと落ち着いた弥生たちや海防艦たち。元気が良い。刈谷提督はもう消えてえ…と言うような感じで少し疲れていた。あれからしばらくは睦月たちや択捉たちを撫でたりなだめたりするのに必死だったからからだ。球磨達はナイフをありったけ投げられて固まっている。
「まずはレイテだ。これを勝つ。お前らと一緒にな。今までとは比べ物にならねえ激戦になる。まだ先だが準備だけは怠るなよ。それからこの鹿屋には俺の後輩の五ヶ丘を置く。そうすりゃ強固な防衛陣の出来上がりだ」
「提督、でも五ヶ丘提督はまだ新人では?しかも…まだリンガにおられるはずです」
「夏までだ。夏までに自分とこの艦娘の問題を解決してこっちに来ねえとクビだと言ってある」
「パワハラでは?」
「ああ?四の五の言ってられねえんだよ。大府の馬鹿が動きやがるんだ。大府から離しておかねえとまずいんだよ」
「そう…ですか」
「アレとの決着は必ず早いうちにつける」
この人も何を企んでいるかわからない。しかし、おじいちゃんも言っていた腫物…大府提督。あの男をどうしたいのだろうか?この件については…矢矧も目撃者になる。海軍を揺るがす大きな事態になることを、矢矧も…刈谷提督でさえまだ知らない。
………
「司令官司令官!本は持って行っていいぴょん?」
「どうせ業者に丸投げんだ。箱に詰めとけ」
「……司令官、ぬいぐるみは…いいです、か?」
「いいだろ…でけえけど無理やり押し込め」
「しれいかぁん、お洋服全部持っていけるぅ~?」
「いけんだろ。俺に全部聞いてくんじゃねえ、俺も忙しいんだ」
「ええー!司令官に聞くのが一番いいよって能代さんが言ってたんだもん!」
「あいつあとでしめる」
「わぁ~!ダメだよぉ!」
「司令!これ持ってきたい!」
「司令、この…服…しわしわに…なっちゃい、ます」
「提督…石垣、お手伝いします」
「提督!鵜来もお手伝いします!」
「あーうるせえ。龍田に聞け。俺はいい…おい卯月、嘘泣きは通用しねえぞ」
「バレたぴょん…」
「テメエ今日はコーンバター抜きな。伊良湖に言ってくる」
「ぴょおおおん!!!!ダメだっぴょん!!!」
「うるせえ。なしっつったらなしだ」
「ひどいぴょん!やっぱり司令官は悪魔だぴょん!」
「今日もみんな元気で何よりねぇ」
「ふふふ♪提督も睦月ちゃん達や択捉ちゃん達と親睦が深まって何よりだわ~♪」
「提督!お手伝いするわ!」
「葛城、このくっつき虫を何とかしろ」
「それは無理かな…」
「ああ?使えねえな」
「何よ!」
「うるせえぞ」
「あ~、司令官。お嫁さんにそう言うこといっちゃだめなんだよぉ」
「文月ちゃん、もっと言ってあげて!」
「文月を盾にすんじゃねえ」
より賑やかになった鹿屋基地。これから先、佐世保に移り、灼熱のレイテ沖海戦が始まる。
かなりわちゃわちゃしていますがいかがでしたでしょうか。
艦娘の信頼度は上がったようですが刈谷提督からしてみれば、くっつき虫がべったりついてきたりと大変な様子。特にうーちゃんとやよやよがべったりなようです。
矢矧も加わりさらなる飛躍の年。そして大府との早期決着を望む刈谷提督。この1年も彼には波乱の1年になります。
次回は横須賀の港湾棲姫、茉莉と潜水艦とのほのぼの話を書いていこうかと思います。
次回もお楽しみにお待ちください。
それでは、また。