提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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港湾棲姫の茉莉さんと潜水艦がほのぼのお菓子を作ったり雑談したりする回。
皆さんはどんなお菓子が好きですか?茉莉さんが作ってくれるかもしれませんよ!


第二百五十二話

潜水訓練を終え、お風呂に入って海水を洗い流し…疲れを癒し…髪を乾かしてお部屋へ戻ろうとすると甘い匂いが鼻腔をくすぐる…。

 

伊13…ヒトミは甘い匂いにつられて食堂へと向かった。食堂では港湾棲姫…そう、深海棲艦の港湾棲姫でありながら横須賀鎮守府で一緒に生活をしている茉莉(まつり)が何かを作っているようだった。

 

深海棲艦がわたしたちと一緒に生活をしている…それはヒトミにとっては最初は恐怖でしかなかった。しかし、もう1人の深海棲艦。戦艦棲姫の紫亜(しあ)と茉莉はとても優しく、特に茉莉と顔を合わせてひぃ!?と悲鳴をあげてしまったときは茉莉も「ぴぃ!?」とお互いにあげる状態だった。

 

「あ、あの…こわ、こわく…しない…で」

「すみません…こ、怖いのは…」

 

お互いにそう言っていた。そしてそれを見た間宮さんがおろおろしていたものだ。

 

「ヒトミちゃん。茉莉ちゃん。大丈夫よ。その人は怖い人ではお互いにないから…」

 

「ふぇえ…」

「あう…」

 

そうしてお互いに目を合わせ、まずヒトミが挨拶をする。

 

「あの…伊13…潜水艦…です。えっと…ヒトミと、呼んで、ください」

「ま、まつ、茉莉…です…ここ、で…お料理…お手伝い、します…」

 

「「よ、よろしく、お願いします」」

 

2人でそう言いあってペコペコしていたな。そこからどうしてかヒトミと茉莉はお互い気弱同士で気が合い、仲良くなった。今はお菓子の試食をしたり、何気ない雑談をしたりする仲だ。

 

食堂に行くとやっぱり茉莉が何か作っていた。甘い匂い…練習の後だからお腹も空いた。

 

「茉莉…ちゃん」

 

声をかけると一瞬ビクッとしたが、ヒトミの顔を見るとにこりと笑った。

 

「ヒトミ…ちゃんっ」

 

とっても嬉しそうに迎え入れてくれたことにヒトミは嬉しくなった。ヒトミもにこりと笑う。

 

「茉莉ちゃん…何を…作って、いる、の?」

「あ、えっと…ふ、ふれん、ち…とーすと」

 

食パンを牛乳だろうか?いや、ちょっと黄色くもある液体に漬けている。今日もお菓子を作る練習らしい。

 

「お腹…すいちゃ…って…」

「わたしも…お腹…すいた、なぁ」

 

「じゃあ、ヒトミちゃん、のも…焼く、ね…」

「いいの?ふぅ~…」

 

ヒトミは嬉しいことやいいことがあると「ふぅ~」と抑揚はないが声をあげる。茉莉はその声が好きだ。大体茉莉がお菓子を作るとふぅ~と言っているが。それだけ茉莉のお菓子が好きなのだ。

 

じゅーといい音を出してフレンチトーストを焼いていく。焦げやすいのでかなり気を遣って焼いている。その茉莉の目は、普段の弱弱しい目とは違い、真剣なキリっとした目になる。いろんな茉莉の姿が見れてヒトミは嬉しい。

 

お話をするときはお互い話始めるタイミングがわからず、数分無言の空間を作ることもある。そしていざ勇気をもって話しかけようとすると「「あ、あの!」」とハマってしまう。

 

「あ、あの…茉莉…ちゃん、から…どうぞ」

「え、えっと…ヒトミちゃん、から…ね?」

 

「あ、あう…」

「うう…」

 

「お前ら漫才やってんのか?」

 

よく食堂に来る摩耶に言われる。摩耶は茉莉のお菓子のつまみ食い係の係長を自称している。結局摩耶は甘いものが大好きだから食べたいだけ。茉莉は食べてくれるのが嬉しいから何も言わないだけで、パクパク食べる摩耶に時々ヒトミは嫉妬している。一番最初に食べたいのはわたしなのに…と。

 

いい感じで焼けてきたのでひっくり返す。いい焼き目だ。とてもおいしそう。ヒトミのお腹がグウと鳴る。ヒトミも甘いものが好きだ。だが妹の伊14、イヨは塩辛かったり辛い物を好む。対照的だ。もっともイヨはお酒が大好きなのでそのアテが好きだ。そのくせ茉莉のお菓子を見ると食べたがる食いしん坊。

 

「おいし…そう…♪」

「ね♪」

 

2人でるんるんと焼き上がりを待つ。不思議と誰も来ない。大体北上やゴーヤが来るのだが。提督も今は仕事中。ヒトミは練習が終わったので自由時間。今日は午前だけ。今日は茉莉とゆっくりお話をしよう。そう思っていた。

 

「ヒトミ、ちゃん。何か、食べたいお菓子…は、ある?」

「え?うーん…」

 

いきなりそう言われても困る。茉莉ちゃんのお菓子ならなんでもと言いたいが、それを言うと茉莉を困らせてしまう。考えよう。何がいいかな…。

 

「ちょっと、待って…ね」

 

考える時間をもらう。茉莉は鼻唄を歌いながらフレンチトーストを焼く。茉莉の透き通った声で歌う歌はとてもきれいだ。心が落ち着く。わたしも歌えたらいいのに…。

 

「焼けた♪」

 

考えていたら焼けてしまった。

 

「冷める、前に…食べよ?」

「うん」

 

言葉が短い2人。それでもいいのだ。お互い口下手なのはわかっているし。ヒトミは茉莉と2人で食べることができるので嬉しい。茉莉も一緒。

 

………

 

「「いただきます」」

 

フォークを使って食べる。じゅわ…と甘い牛乳の味…そしてしっとりとしたフレンチトースト。小さい口でちょこちょこ食べる。妹みたいに大口で唐揚げをぱくつくかのようにはできない。

 

「どう…かな?」

「…おいし♪」

 

「よかった…♪」

 

ヒトミにとってはガツガツ食べているつもりだ。はたから見ればはむはむと食べている。

 

(んだよぉ!あの空間癒し空間すぎねえか!?)

 

食堂の入り口からチラチラ、いい匂いに誘われてやってきた摩耶。ヒトミと茉莉のほのぼのした空気になぜか入りにくい2人の世界ができているようで入れなかった。

 

あの甘そうなものを食べたい…しかし眩しい…あの空間に入れない…。チクショウ。あたしにも神通や北上みたいな図々しさがあれば…。

 

(いやー、摩耶の方が図々しくない?)

(そんなことないだろ。大体お前の方が…)

 

(はーい。んなこと言うから2人のラブラブ空間からてったーい)

(って北上!?お前いつの間に!?てか何であたしら脳内で会話してんだよ!!)

 

(細かいこと言わない。あいうぃるてっしゅー)

(離せ北上!あたしはあの甘い匂いのする食べ物をー!)

 

(だーめー)

 

ズリズリと引きずられていく摩耶。北上のパワーやばくね…?それと何なんだよこの会話!と1人ツッコむ摩耶だった。

 

「はい、どうぞ…」

「んちゃ…」

 

「!?」

 

間宮が一瞬目を離した隙になぜかいる霰。ほんのコンマ数秒。入り口を見ていたところを目を離しただけなのに…霰ちゃんって…なんだろう?はい、ただの駆逐艦です。

 

茉莉、ヒトミ、霰は話し方がぽそぽそ。そしてとぎれとぎれな感じがそっくりである。そのおかげか仲がいい。この3人でティータイムをしているところが大変なマイナスイオン発生空間だ。摩耶と最上や大潮がいる第八駆逐隊、皐月、文月、島風がいる第二十二駆逐探検隊の時のような騒がしさは一切なく、はむはむと3人揃って食べ「はふぅ…」と感歎の息を漏らすその様はとてもかわいらしい、とは間宮談。間宮さんもいかがですか?と誘われるのだが、尊すぎて遠巻きにしか見ていられないらしい。天使たちの宴。間宮はそう言う。

 

「霰、ちゃん…ご希望の…ふれんちとーす、と…どう、だった?」

「とても…おいひい…♪」

 

これは霰のリクエストだったそうだ。茉莉はこの静かなティータイム時にヒトミや霰のリクエストを聞くのだそうだ。そして、リクエストしたお菓子をしっかりと勉強してれんしゅうを重ね、ヒトミたちに振る舞う。

 

フレンチトーストも霰をがっかりさせないためにしっかりと練習を重ね、霰の好みそうな甘さ、柔らかさ、風味などの研究をし尽くしたと言っても過言ではない。事実、霰は小さな口ではむはむと味わうように食べていた。実際には口が小さいのでちょっとずつしか食べられないのだが。

 

霰は食べる速度が遅い。口が小さいこと。そしてこのゆっくりした性格だからだ。ヒトミも茉莉もそうだけれども。霰は横須賀1、食べるのが遅い。余談であるが一番早いのは武蔵か霧島だ。

 

「ごちそうさま…」

 

フレンチトーストをしっかり1枚食べ、コクコクとホットココアを飲み干して挨拶をする。笑っていないようで少し口元が緩んでいる。茉莉もヒトミもしっかりその辺りは察している。

 

「おいしそう、に…食べてた…ね」

「おいしかった…です♪」

 

「ふふ…♪」

 

嬉しそうな茉莉。しかし、このティータイムで作ったお菓子は大体試作品(改)くらいのものである。こうして茉莉はレパートリーを増やし、鎮守府のみんなや提督に振る舞えるほどの改良品をさらに出してくる。古参メンバー曰く、商店街のマスターのケーキより失礼だがおいしい、とのことだ。

 

「次、は…ショート、ケーキ…作る?ヒトミちゃん、何か…希望は、ある?」

「ん…んっと…あっ」

 

ててて、と駆けてどこかへ行くヒトミ。そして持ってきたのは一冊のお菓子の本。いろんなケーキなどのレシピが載っているお菓子の本だった。

 

「これ…!これが、食べたい…の!」

 

ヒトミが指差したのは色とりどりの宝石がちりばめられたようなケーキ。その名も「4種のミックスベリータルト」

 

ストロベリー

ブルーベリー

ラズベリー

クランベリー

 

これでもかとちりばめられた4種のベリー。さらにクランベリーソースを使って甘いけどすっぱい。さらにしっとり焼き上げた生地。そのすっぱさに合うカスタード。これは…おいしいし見栄えも素晴らしい。茉莉は目を輝かせて本を手に取った。

 

「きれい…おいし、そう…」

「これ、いい…ですよね…いい…ふぅ~♪」

 

「ヒトミ、ちゃん…これ、練習…させ、て?」

「ほんと!?作って、くれる…の!?」

 

「うん…これ、腕が…鳴る!」

「いい…いい、かも…!」

 

霰も目をきらきら輝かせている。後にこれが茉莉の最高の得意なお菓子。茉莉特製のベリータルトになるのだ。

 

「提督に…お願い、して…くる、ね!」

「霰も…行きます」

 

「あ、あ…」

 

こういう時、のんびりスローリーなヒトミと霰だが急に動きが早くなる。またそれが間宮をキュンキュン母性が溢れちゃいますうううう!!!と悶えている。目がハートになり、くねくねしながら悶えるその様は怪しさ抜群である。

 

「またまみやさんがきゅんきゅんしてます」

「いつものこと」

 

「あまりいうとおほしさまをぬきにされるです」

「3つだ!3つよこせ!」

 

「おしごとしてないのでないです」

「えっ」

 

「こっちみんな」

 

………

 

「くう…また茉莉のお菓子を食べ損ねた…」

 

玲司ががっくりと首を垂れた。甘いものが好きな玲司も茉莉のお菓子の試作にいつも呼ばれているのだが、激務が過ぎてなかなか抜け出せない。ちなみに大淀達は「どーぞどーぞ」と言っているが、その視線は恐ろしく冷たいので行ける雰囲気ではない。特に鳥海がやばい。

 

鳥海は鎮守府の中でもトップクラスの甘党だ。茉莉のお菓子に関しては本当に目がない。摩耶が試食会に呼ばれたことを話したら…1週間口は聞いてくれないわ一緒に寝てくれないわ…摩耶が泣きを入れるくらい怒っていたらしい。

 

「鳥海を怒らせないでくれよぉ…鳥海怖いんだよぉ…」

「茉莉に言ってくれよな…」

 

「茉莉はお菓子作ってるだけだろ!?鳥海を呼んであげてくれって言ってんだ!」

「だから茉莉に言ってくれって!」

 

人を変えてしまう茉莉のお菓子。今一番ホットなのかもしれない。ただし、甘党艦娘は目をギラギラして試食会に呼ばれたいそうだ。

 

「ごめ、んなさい…ヒトミ、ちゃんと…霰ちゃん…くらいの…分しか…試作、は…もったいな…くて」

 

鳥海が直談判に行った時はこういって断られ、べそをかいて紫亜に相談に行ったくらいだ。紫亜もわたしも呼ばれないからねぇ、と泣きつきは失敗した。

 

それはそうと、ヒトミと霰の話を聞いてうーん…と考える。4種のベリータルトね。そうなると買いに行くものがいっぱいいるな。イチゴならすぐ徳さんが用意してくれるが、ほかのベリーは取寄せてもらうしかないな。

 

「よしわかった。あー…あー…」

「いってきてください。はい。ちょうかいはだいじょうぶです」

 

「全然大丈夫じゃねえよな」

「たるとたたん♪たるとたたん♪うふふふふ」

 

「提督…私が書類を見ますので行ってきてください」

「すまん妙高…頼めるか」

 

こわれた鳥海をよそに霰とヒトミを連れて出かけることに。こういうのは早めに用意しておいて、茉莉に早くお菓子を完成させてもらい、鳥海に振る舞ってもらうしかないのだ。ちなみにこういう時、夕立や神通は動かない。彼女らはお菓子よりもご飯だ。お菓子に超反応はしない。鳥海と榛名だろうか。あと熊野。キャロットケーキを克服した熊野はケーキに目がなくなってしまった。

 

もっとも…お菓子を作るにしても限りがあるので、鳥海がタルトにありつけるかは厳正なくじ引きで早く当たりを引けるかどうかの運にもよる…だいたい運のいい北上や雪風やジャービス。瑞鶴あたりに一番を取られ、枕を濡らす羽目になるのだが…。

 

………

 

「んっふっふー!イヨちゃんを置いてけぼりにはできないよー!」

「ゴーヤも行くでち!」

 

「イムヤも行くわ!ヒトミだけズルくない!?」

 

「潜水艦の、みん、な…出撃?」

 

霰はのんびりしているものだが、潜水艦総出である。

 

「ちょっと…商店街…いって、くる、ね」

「ゴーヤも行きたいでち!」

 

「イ、イムヤを置いて行かないでよ!」

「んっふふー!提督にお酒買ってもらおうっと!」

 

こうしてみんな私服に着替え、ゾロゾロとバンに乗り込むのであった。イムヤが玲司にぷんぷん怒っている。ちなみに、霰が商店街に行ったことで荒潮と満潮にガッツリ嫉妬されることになったことも書いておこう。

 

ちなみに…潜水艦たちの私服については最初はゴーヤが「てーとくは…ゴーヤたちにこんな服…着てほしいでちか…?水着以外を着せるなんて…てーとくはヘンタイさんでち」と言うわけのわからない言いがかりをつけられたのだが、逆に商店街に提督指定の水着で行く方がやばい。あそこはやばい憲兵さんも多く来る。「死ぬべきだねぇ!」と言われてしまう。

 

必死の説得の末、水着で来いとうるさい変態不審者の洋服屋さんを黙らせて私服を購入。今では海に出る時以外は水着を着ていない。

 

「提督ってエッチだよね。だって、イヨたちを水着じゃなくて提督が好きそうな私服で染めちゃうんだもん。んふふふ♪提督に染められちゃったぁ」

 

「き、き、キマシタワーーーーーーーーーーー」

「松子さん。君、少し黙れ」

 

「イ、イヨちゃん…ダメ、だよ?」

 

水着以外でなぜ恥じらいをもつのか…イヨもゴーヤもであるが…イムヤもそうだった。ヒトミだけは潜水艦の良心だよ…とほろりと玲司は涙を流した。

 

………

 

「んー…霰ちゃんは本当に癒しだねぇ…」

「うんうん…」

 

相変わらず霰は梅と竹美をメロメロにするなぁ…と思う。横須賀の座敷童…商店街の人を幸せにしてくれる幸運の子なんだとか。文月や皐月、雪風などもそうであるが、とりわけその中でも霰の人気は高い。

 

「むふー…いい、におい…いちご…?」

「そうだよ。鳥海ちゃんや摩耶ちゃんがイチゴをよくほしがるって聞いたからねぇ。ほら、あの写真見てイチゴをほしがるお客さんが増えてね」

 

おいしそうにイチゴを頬張る鳥海と摩耶の写真。こっそり玲司が撮ったもの。バレたらシャレにならないが、摩耶たちが行く日には電話をしておいて隠しておいてもらう。そうでないと徳三も竹美もやばいからだ。徳三に至っては摩耶に張り倒されてしまいそうである。艦娘の写真はあちこちのお店に散らばっている。

 

「提督ぅ、お酒、買って♡」

「ダメに決まってんだろ」

 

「ぶー…いけず!」

「ヒトミのチョップ食らいたいのかー」

 

「イヨちゃん…?」

「ゲッ、姉貴…目、目怖いって!」

 

龍驤と共にお酒をカパカパ飲み、ダメだよ、イヨちゃん!と必死に止めるヒトミが絶対に怒らないと疑わなかったイヨ。しかし…。

 

「も、もう…!こ、こうな、ったら…えい!」

「ブベラ!!!!!」

 

ヒトミが振り下ろした雷のようなチョップが一閃。イヨの脳天に炸裂。さらに。

 

「ほげぇ!?」

 

龍驤にも落ちた。2人は一瞬で意識を刈り取られ、翌日二日酔いなのかヒトミのチョップのせいなのかわからないひどい頭痛に見舞われたと言う。結局、年末に龍驤が父にお酒の事で思いきり怒られて以降、そんなにお酒を飲めないでいるため…イヨはたまにはいいじゃんと言うが、ヒトミが怖くて飲めない状態なのだと言う。そして、玲司からも却下を食らい、またお酒はお預けのようだ。事実、ヒトミの目がお酒をおねだりした時、怖い。

 

「ほーん…なるほどなるほど…ブルーベリーとイチゴはいいとしても…こっちの2つはそう出ないからなぁ…」

 

「厳しいッスか…」

 

「そうだなぁ…頻繁に売れるなら常設するけど…」

「うーん…」

 

徳三が難色を示す。艦娘のためとは言え、収支的に赤になるようなものを常設するのも正直痛い。それはそれ、これはこれ。やはり利益を確保しないと店の維持さえままならなくなる。できるなら玲司の要望に応えたい。

 

(これじゃあ茉莉にも説明がいるか…)

 

「すまねえ玲ちゃん…ん?」

 

断りを入れた徳三の服のすそをクイクイと引っ張る感触。見下ろすと霰がちょっと悲しそうな目で徳三を見ていたのだ。

 

「霰ちゃん?」

「……ダメ?」

 

「うっ!!!」

 

心臓が止まるかと思った。てえてえ…いや、尊い。この子…上目遣いなんてあざと…いや、何てかわいらしいことをするんだ…!

 

「霰、べりーいっぱい、の…タルト、食べたい…です」

「う、うう…」

 

ちょっと目が潤んでいないか、霰。すげえな。役者になれんじゃねえのか。効いてる効いてるー!

 

「徳、さん…」

「あ、あの…ヒトミ、から、も…お願い…します…お願い、します…!」

 

ヒトミまで加わった。ヒトミは本当に涙目だ。いや、どれだけ食べたいんだよ…いや、茉莉のためか。それなら…もうやめろとは言えない。すまねえ、徳さん…。

 

「なーかしたーなーかしたー!!ヒトミちゃんを泣かしたでち!」

「こ、こら、ゴーヤ!」

 

「ちょっとー、姉貴を泣かすなんてねー」

「うぐぐぐぐ…おい、梅…」

 

「あんた…こんなにお願いしてんじゃないかい…ちょっとくらいいいじゃないか」

「お、お前まで裏切るのか!?」

 

「裏切り?あたしゃ最初から霰ちゃんたちの味方だよ」

「そうさね。あーあー、ひでえねぇ。あたしらも間宮ちゃんのためにいろいろと頑張ってるよー?」

 

いや竹おばさん。その分しっかり俺、金出してんだけど…とは言えない。お黙り、と言う雰囲気がすごい。

 

「おう!艦娘ちゃんをないがしろにすんのか!?カー!!人でなしだなぁ、オメエはよぉ!」

「源テメエ!?うお、あ、霰ちゃん?」

 

「……がまん、します。わがまま、だめ」

「うああ…」

 

霰の悲しそうな顔が…ああ、罪悪感が…罪悪感がパネェ!!!

 

「明日まで!明日までお待ちください!」

 

徳三が折れた。無理もない。目の前で娘とも孫とも思っているかわいい霰とヒトミがうるうるしてたらそりゃ無理だ。罪悪感が半端じゃない。茂もうんうん頷いているし…味方はいない!梅まで俺を見放しやがった…!

 

スッと霰が徳三の手を取って見つめてくる。その顔はちょっと笑っているようだった。

 

「徳、さん…ありが、とう。嬉しい、です」

「ヴッッッ!?」

 

もう片方の手をヒトミが握り、そしてこちらも笑顔だ。

 

「あり、あり…ありが、とう…」

「ミッッッッ」

 

あ、徳さんから魂出た。一般人には見えないが、妖精さんが徳三の魂を体に戻している。えっ、妖精さんそんなこともできんの?すげえ…。

 

「はっ!?」

「徳…さん?」

 

「あ、いやいや…!霰ちゃん!ヒトミちゃん!2人のためならお安い御用だよぉ!」

「松子みたいな顔してるね…」

 

「梅おばさん、ありがとって徳さんに言っておいて…」

「ああ…伝えとくよ…」

 

「てーとくー!お腹すいたでちー!」

「はいはい!ルーチェ行くか!」

 

「やったわ!言ってみるものね、ゴーヤ!」

 

こうして霰とヒトミは茉莉のためにベリータルトの材料を手に入れたのだ!

 

・イチゴ(あすかルビー)

・ブルーベリー

・ラズベリー

・クランベリー

 

/3日後

 

チャカチャカとボウルに入った液体を混ぜる茉莉。その顔はご機嫌そうだ。今はカスタードクリームを作っている。電動泡だて器があるのだが、音が大きいことと一度使ってみたら周囲にホイップクリームをまき散らした嫌な思い出があるため、使わない。最近は手でかき混ぜたほうが出来具合いがわかるらしい。ヒトミたちのため、妥協したものは作らない。思いを込めて1つ1つお菓子を作るため、ヒトミたちは心から喜ぶ。おいしいの言葉が茉莉の励みになる。

 

今日は特別にと鳥海もお招きを受けた。茉莉のスイーツはなかなかにありつけないだけに、甘党の鳥海は目をキラキラさせて調理風景を眺めている。

 

「楽しみ♪」

「ね♪」

 

徳三が霰とヒトミのためにとにかく大量のベリーを仕入れてきて送ってきたのだ。3人で食べるには多すぎるが、日持ちもそうしないし、冷凍すると味が損なわれると言うことで大きめのタルトを作ることになった。

 

「鳥海さん、楽しみですね!あ、聞いてない…」

 

祥鳳もたまたま食堂に来たらいかがですか?と茉莉に言われたので着席。試作段階のスイーツは特にチカラが入っていておいしいと噂を聞いていたのでそれを食べてみたくなったのだ。鳥海は祥鳳の言葉が耳に入っていない。ベリーと茉莉がかき混ぜているカスタードクリームを交互に見て夢中だ。

 

味がこちらのほうがいいのは無理もない。霰とヒトミ、茉莉の3人が食べる大きさの試作品だと、やはり手の込んだものが作れる。逆に皆に振る舞うスイーツは大量生産…となってしまうので味は落ちる。この試食版を食べられるのはめったにないことだ。

 

「霰、ちゃん。イチゴ、あーん」

「あん…ん、おいしい♪」

 

(霰ちゃん、かわいいなぁ♪)

 

「で、俺まで呼ばれちゃっていいのかな?」

「はい…提督、さん…やっと、呼べま、した…」

 

食材を用意してくれること。そして何より自分をここに住まわせてくれ、戦艦棲姫の紫亜とも再会できた恩人。いつも呼ぼうとしても忙しくて呼べない…今日のベリータルトは本当にチカラを込めて作る渾身の力作にしたかったのでよかった。

 

「ありがとうな、茉莉。よーし」

 

玲司はエプロンをしてイチゴを取ると切り込みを入れていく。切ったイチゴは霰やヒトミにせっせとあげていく。

 

「ほい鳥海。あーん」

「ふぇっ!?あ、あーん…」

 

「祥鳳もあーん」

「あーん…おいしいです!」

 

「いいイチゴだねぇ…」

 

「提督…?イチゴ…どう、するんですか?」

「見てろよー。この湯せんで溶かしたチョコをここに入れてだ。このホワイトチョコをイチゴにつけて…書くだろ?」

 

「わあ!イチゴが笑ってるみたい!かわいい~!」

「いいだろ、これ。せっかくだからこういうのもありだろ」

 

「司令官…すごい…」

「かわいい、です、ね…!」

 

玲司が加わったことで遊び心も増え、デザインがよくなっていく。まだまだ勉強すべきことがいっぱい。とても楽しい。

 

「霰も書いてみるか?」

「やりたい、です」

 

にっこり笑うイチゴ。それと同じく口角が上がる霰。玲司の手を取ってぶんぶんと振る。これは霰がとても嬉しい時の表現。これを見た祥鳳はアホ毛がブンブン揺らして悶えている。鳥海も笑顔だ。

 

「できた…!鳥海、さん…味見…お願い、します…」

「はい!鳥海におまかせください!」

 

「鳥海は甘いものに目がないよなー」

「そこがかわいいんですよ!」

 

「たしかに!」

「おいひいです!」

 

「ふふふ」

「ははっ」

 

………

 

「お見事な生地作りだなぁ」

 

玲司が感心するほど、やはりお菓子を作ることに長けている。チカラがいるし、うまく生地を伸ばしてくこともうまい。

 

「すごい…こうやって作っていくんですね…大変そう…」

「そりゃあ大変だよ。特にお菓子はなぁ。目分量だとまずうまくいかないな。ボソボソに崩れたり、ベチャベチャになるともう成立しねえしな」

 

「茉莉さん…とっても…すごい、です」

「真似、できません…ね」

 

「うん、ソースもいい感じだな。横須賀のパティシエールだな」

「ぱてぃ、しえーる?」

 

「お菓子職人ってな。デザインを考えたり、きっちり作ったり…もしかしたらご飯を作るより難しいかもな」

 

「茉莉ちゃん、すごい…」

「ふう…焼いて…いきます、ね…」

 

大きなスポンジケーキも焼けるオーブン。「れいじさんならいるでしょ」と妖精さんに一言で片づけられ、確かになぁ…と納得して入れた特製オーブン。とにかくでかい。料理ではあまり使わないが茉莉のお菓子作りには重宝している。窯もあるしオーブンもある。こんな鎮守府はないだろうな…。

 

「…ちゅっぱい…」

「あーあー、霰クランベリー食べたのか?単品だとすっぱいだろー」

 

「しゅっぱ!!」

「鳥海ぃ…」

 

「ふふ…ふふふ♪もうすぐ、できる…から、ね?」

「ふぁい…」

 

「はひ…」

 

摩耶と似てるなぁ。つまみ食い大好きなところ。言うと摩耶も鳥海も怒るんだけどなぁと玲司は思う。ま、そこがかわいらしくていいか!

 

生地を焼いている間にイチゴを茉莉が加工していく。と言ってもスライスするだけだが。

 

「いいにおい…」

 

ヒトミが生地の香ばしい匂いにうっとりしている。

 

「ヒトミちゃん、クリーム、おいしい、かな?」

「あむ……甘くて、おいしい…♪」

 

「茉莉、姉さん…霰、も」

「はい♪」

 

「ん、おいひ♪」

 

あー、この光景…松子おばさんが見たらやべーだろうなーと思いつつ、玲司はそのやり取りを見ていた。なるほど、摩耶が入りにくいと言う理由もうなずける。これはほんわかした空間が広がりすぎてせせこましい娘たちには確かに入りにくいだろうな。瑞鶴もほんわかタイムは食堂になぜか近づけないらしい。龍驤姉ちゃんも言っていたな。

 

「うちかておしとやかなんやぞ!?」

 

何を言いますか…と呆れたものだが。

 

チーン!と生地が焼けた。いいきつね色に焼け、おいしそうな匂いだ。茉莉はにこにことかわいらしい笑みを浮かべながらカスタードクリームを生地に流し込む。その光景に霰もヒトミも立ち上がり、完成を今か今かと待つ。

 

玲司はお湯を沸かしながらそれを見ていた。ほんと、仲がいいなぁ。紫亜がちょっと嫉妬するのもうなずけるかな。

 

「まだ間に合うかしら?」

「…紫亜!もう少し、待って、て、ね?」

 

「ほっ…よかったわ。茉莉のティータイム。次はいつ参加できるかわからないから」

「お、紫亜も呼ばれてたのか」

 

「ええ。わたしもいつも呼ばれているわよ?」

「ふーむ。紫亜が参加すると優雅になるな」

 

「あら、褒めても何も出ないですよ」

「さいですかー」

 

「何それ、もう…」

 

和やかな時間。これももうちょっとするとレイテで慌ただしくなるなぁ…茉莉のティータイム。みんなでまた迎えられるように考えねえとな。玲司はそこを少し心配していた。大規模作戦。絶対に誰も沈めることなく完遂させる。俺の命令はただ1つ。いつも1つ。「死ぬな、生きて帰れ」だ。あとは俺や大淀、鳥海、霧島と共にこれを完遂できるような作戦を考えるだけだ。と言っても…海域さえわからないが、大淀が資料を集めてくれている。

 

そしてすでにあらゆる状況にも対応できるように海図を頭に叩き込んでいる。もちろん、俺だって叩き込んである。この海域は?と聞かれて「はい?」と言うようでは提督としては話にならない。いつでも作戦を練る準備はできている。気が早いか?いや、いついかなる時でも準備は整えておけと言われている。涼介も海図を叩き込んでいるらしいし、早すぎることはない。

 

「できた…!」

「わあ…」

 

「きれい…」

 

おっと、考え込んでしまっていた。お湯も気が付けば沸いている。いそいそと紅茶の準備をする。紫亜が手伝ってくれる。まあ、今はそう気負いすぎず、俺もほのぼの空間で癒されるとしますか。

 

………

 

「………!」

 

ヒトミは言葉を失うくらいおいしいらしい。霰もはぐはぐと小さな口を動かして食べている。無言で。

 

「これ、いいわねぇ…カスタードの甘さと果物の酸っぱさが合うわ」

「よかった…」

 

あーあー、鳥海は口の周りクリームだらけにして…普段の冷静さはない。皐月や文月のように食べている。

 

「鳥海さん…お口の周りがベタベタですよ」

「あむ…?」

 

「鳥海さんかわいい!(あむ、じゃなくてですね?)」

「祥鳳、心の声が漏れてる」

 

紅茶はアールグレイのストレート。霰はミルクティー。それぞれの至福の時。これを壊すわけにはいかねえよなぁ。

 

「茉莉、ちゃん…おいしい、よ♪」

「おいひい、れふ♪」

 

「ありが、ありが、とう…♪今度、何つく、ろう…紫亜?」

「そうねぇ。チョコブラウニーなんてどうかしら?」

 

「……賛成、です」

「あら、霰も?と言うことよ、茉莉?」

 

「うん、がんば、る!」

「茉莉、ちゃん。わたしも、手伝う、よ?」

 

「ううん…作るの、大好き…だから…食べて、くれるだけ、嬉しい、よ」

「……うん。わかった」

 

「食べてくれて、ごちそうさまやありがとうって言ってもらえるのは何よりの励みになるよな」

「……はい!」

 

「だ、そうだよヒトミ」

「…わかり、ました…!わたし、がんばって、食べる…ね」

 

「うん♪」

(うふふ、本当に…玲司君のおかげね。茉莉も明るくなって…わたし達…幸せよ)

 

この幸せな時間が終わらないように。紫亜はそう祈るしかできない。ただ…彼ならきっと。いいえ、絶対にこの時間をずっと続けさせてくれる。そう確信している。

 

茉莉のこの日のティータイムに参加した玲司。なぜか霞にも膨れられ。北上にはぎるてぃーと言われ。何で俺だけ!?と言うも言い訳すら聞いてくれないのだった。

 

………

 

「♪~」

 

茉莉はいつも鼻唄が悲しげなものが多かった。今は駆逐艦の娘たちに教えてもらった童謡や明るい曲を紡いでチョコレートを溶かしてチョコブラウニーを作る。

 

「今日も…楽しみ、だね、霰ちゃん♪」

「んちゃ♪」

 

茉莉とヒトミ、霰のほんわかティータイムは今日もご機嫌で開かれた。




港湾棲姫の茉莉、伊13ことヒトミ。霰の3人メインのティータイム。ほんわかできたでしょうか?
お菓子作りが大好きになった茉莉。紫亜もそうですが茉莉にとっても大切な場所になった横須賀鎮守府。まもなく大規模作戦、レイテ沖海戦が始まります。

艦これアーケードでもレイテですね。アニメでもありましたレイテ沖海戦。海峡夜棲姫は私が一番好きな深海棲艦です。倒したくはないですが、彼女を打ち破らないといけません。レイテに挑む横須賀の艦娘達。どのような奇跡を見せてくれるのかはこれからをお楽しみください。

次回はちょっと描写がきつくなるお話になると思います。
顔面が陥没するほどの一撃を食らったある男。その男の行く末を書いていきたいと思います。

それでは、また。
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