来るレイテ沖海戦に関する会議ですが、恐ろしくギスギスする会議となります。
刈谷提督と大府。激突しないはずがなく…
「それでは、大本営会議を行います」
堀内提督が司会で大本営会議が始まった。夏も近づく初夏。とうとう来る来ると言われていた大規模作戦が開始される。その前の集まりだ。玲司は特に緊張した感じでもなく、席について作戦の流れを掴もうと思っていた。作戦指示書がないことに違和感を覚えるが。
「堀内提督。作戦指示書がないようですが」
大府がさっそく挙手してツッコミを入れる。その大府を鋭くにらむ提督。新人の五ヶ丘提督だ。
(この野郎…俺の艦隊を危険な目に遭わせておいてのうのうと出てきやがって…)
彼は怒りで目の前が真っ赤になりそうだった。自分をまず殺しに来ただけでなく、極秘裏な作戦を知って自分の艦隊まで壊滅させようとしたクソ野郎だ。許せるはずがない。刈谷提督からは「絶対に会議で事を荒立てるんじゃねえ」と釘を刺されているため、手を思い切り握りしめてにらむしかできない。もどかしい。しかし、殴ったところでまた腕を折られそうだ…とも冷静に思った。耐えろ。今は耐えるんだ。
一宮提督や九重提督、七原提督も気分の良いものではない。一宮提督も彼によって痛い目を見ているからだ。九重提督たちはそれを聞いているし、刈谷提督からいろいろと聞いている。煙たい存在だ。できれば、同じ部隊で組みたくはない。
「作戦指示書は今から配布します。刈谷提督。作戦内容のご説明をお願いいたします」
そういうと刈谷提督がめんどくさそうに立ち上がった。玲司は「ああ、やっぱりか」とどこか納得したように笑っていた。
「今回の作戦の総指揮官を仕切る刈谷だ。今回の作戦は極めて重要な大規模作戦になる。ほとんどの提督が参加してもらうことになる。後で知りませんでした、なんて話はない。わからないことがあれば都度聞け。いいな」
堀内提督の温和な説明とは正反対のきつい口調で説明を始めた。
「レイテはこれまで2度奪還を試みたが失敗した。今回の作戦はレイテを獲る。今回は今までのようにレイテに押し込めるじゃない。レイテの深海棲艦を壊滅させる」
「壊滅させるだと!?」
「言い方が悪かったか?殲滅するでどうだ?」
ザワザワと会議室が騒がしくなる。今まではレイテは圧倒的に深海棲艦の数が多く、レイテから漏れ出ないように押し込めて出ようとするモノを壊滅させるだけで手が回らなかった。今回はそれらもすべて殲滅する…?無理があるのではないか。無茶だ。そんな言葉が飛び交う。
「だからこそ提督をほぼ全部使っての作戦だ。ただ、あくまで目標であって命令じゃない。そこを履き違えないでほしい。あくまでも艦娘の生還を優先とする。轟沈させた提督はペナルティがある。降格や左遷もあるから気をつけろよ?どっかの誰かみたいに降格しないようにな」
ものすごい嫌味である。直近で降格した大府。艦隊の壊滅。全轟沈。これは最悪の事象だ。例えがいやらしいが現在の大本営は轟沈を出した提督に厳しい。こうしなければならない、ではなく、こうするが危険なら撤退せよ。これを大前提に今回は作戦を実行する。
「それじゃあ今から作戦指示書を配っていくぞ。今回は4つに分かれている。甲、乙、丙、丁。そして、今回は立候補制ではなく、指名制だ。俺が指名した奴がその作戦に入ってもらう。呼ばれたら作戦指示書を渡すから取りに来い。ああ、それから…」
ここで刈谷提督はニヤリ…とまた特別にいやらしい笑みを浮かべた。あー、あの件かぁ…と玲司はため息を吐いた。五ヶ丘提督はギリリと歯を鳴らす。
「この作戦指示書はもちろん最重要機密だ。外部への持ち出し、漏洩は当たり前だが禁止だ。他の作戦参加者への相談も禁止だ。同じ部の奴同士で相談し合え。いいな?間違っても…どっかのクソ野郎みたいに外部へ漏らすんじゃねえぞ?」
そう言って大府を笑いながら見る刈谷提督。この漏洩事件は全ての提督に通達が言っている。大府が漏らしたと。罰がないことを怪訝に思っているが、何か思惑があるのではないか…とビクビクしているくらいだ。刈谷と大府の大戦争が起きるのではないか、と。大府は素知らぬ顔をしているが、内心は鬱陶しい…と思っている。
「それじゃあ釘を刺したところで呼んでいくぞ。まずは甲作戦。これはレイテの主力部隊を始末してもらう。一番難易度の高え作戦だ。覚悟しろよ。これは俺も入る。まずは、一宮」
「はい」
まあ当然だろう。涼介の頭脳と刈谷提督の頭脳があれば円滑に回るだろう。そして、刈谷提督の艦隊は強力だ。そして頭脳派揃いの亮介の艦隊。これが主力に回らない手はないだろう。刈谷提督のところの球磨と多摩のヤバさ…これはちょっと敵に回したくないくらいだし。
「次、九重」
「あら、アタシ?はーい」
九重。こちらも信頼はできる。イタリア艦隊を引っ提げて現在破竹の勢いで宿毛湾の戦果を大きくあげている。バランスの取れた艦隊だ。攻防においては涼介と手を組めば飛躍的に伸びる。
「七原…おい七原ァ。聞いてんのかオイ。七原」
「は、はいいい!?わ、わたしですか!?」
「テメエ以外に七原って名前の提督はいねえだろうが。早く取りに来い。時間が足りなくなんだろが」
「はいい!!!」
七原提督か。うちと同じで見捨てられた艦娘の集まり。西の岩川。東の横須賀。こう呼ばれているのだが、今は七原提督のほうが実力も高くなってきている。馬鹿にはできないだろう。特に、女の勘と発破がかかったときの防衛能力はハンパではないと聞いている。個人的には七原提督の実力は未知数だが、きっと役立つだろう。
(おい、提督!しっかりしろって!まだ作戦始まってもねえんだからよ)
(涼風ちゃぁん…わたし…胃に穴が空くよぉ…)
「涼風」
「は、はい!」
「ごちゃごちゃ駄々こねるようならケツ蹴っ飛ばせ。そんで俺に電話しろ。発破かけてやる」
「はい…」
「ぴっ!!」
…大丈夫か…?刈谷提督は七原提督への風当たり…いや普通なんだろうな。俺たちと変わらないんだけど、七原提督がノミと言うかミジンコの心臓をしているから…。
「甲作戦の参加者はこれが最後だ。三条」
「あ、はい」
俺もか。そう思う玲司だったが、ほとんどの提督がまあ当たり前だよなぁと思う。レ級を退け、南方海域の作戦成功の立役者。最強の戦艦、大和と武蔵を抱える最強と呼ばれつつある提督。知らないだろうが女王さえ抱える戦力。これを主力に当たらせない方がおかしい。
「三条。お前には一番きつい場所を当たってもらう」
「わかりました。どこですか?」
「シブヤン海。スリガオ海峡。エンガノ岬沖」
その言葉に多くの提督が息をのむ。激戦地だ。春に退役した上郷提督や三好提督も手を焼いた海域。そして…エンガノ岬沖は今回初だ。
「エンガノ岬沖は今回初進出だ。ここに敵の主力の中でもリーダー格がいる。その辺は作戦指示書を読め。きついがお前なら任せられる」
「承りました。ご期待に応えられるよう邁進します」
「おう。それじゃあ次は乙作戦だ。これは細かな主力部隊の殲滅および雑魚共の掃討。丙作戦はレイテ外へ抜け出そうとする深海棲艦の艦隊の制圧及び包囲だ。この作戦は乙、丙共にブルネイの大高提督に一任する」
「私か…わかりました刈谷提督。この私が引き受けましょう」
「俺も指示はする。わからないことは俺に聞いてほしい。それじゃあまず乙だが…」
刈谷提督が話を進めていく間に大淀と打ち合わせをする。
「読むか?」
「はい。お借りします」
作戦指示書を受け取った大淀は凄まじい勢いで指示書を読んでいく。恐ろしい速読であるが、ちゃんと頭に入っているのだろうか…?
(大淀ちゃん…すごい。わたしと同じように読んでいくのね…)
(ふむ。玲司の大淀は素晴らしいねぇ…高雄と同じように読んでいくのだねぇ)
その速さには古井司令長官も、高雄も舌を巻いた。横須賀最強の軍師。高雄と引き分けた頭脳。さらに進化を遂げている。高雄は自分と同じように指揮ができる日も遠くない。そう思うと高揚した。
「よろしくお願いしますね、三条君。あなたがいてくれると本当に頼もしい」
「そうね。アタシたちのチカラを見せてやりましょ!」
「はわわ…足を引っ張らないように頑張りますぅ…」
「おう。みんな、よろしく頼むぜ。刈谷提督の足を引っ張るとやべえからな」
「違いないわね…頼んだわよ、一宮クン!」
「ええ…私に丸投げですか…」
「おいおい…九重、お前もちゃんと考えろよ…」
「そりゃ無理だ。事務も提督やオレも磯波と浦波に丸投げ状態だかんな」
「おーいー天龍。そりゃやべえだろ…大淀、どうだ?」
「はい。今頭にすべて叩き込みました。海図も全て頭に入れました。帰ったらすぐ打ち合わせなさいますか?」
「そうだな。鳥海、霧島や龍驤姉ちゃんとも共有したいな。今回は龍驤姉ちゃん、川内、島風も出すからな」
「わかりました。ではそのように」
「え、もう頭に入ったんですか?わたし、まだ海図も頭に入ってないのに…」
「提督ぅ、あたいはもう入ってんぜ。金剛さんとも共有してるよ」
「えっ、ウソぉ…」
「ウソじゃねえよぉ…」
「私も日向さん、由良さんと共有しております。五月雨さんもばっちりです」
「提督はどうなんだよ」
「アタシは入れないとまずいでしょ?磯波ちゃんたちと頭に入れたわよ」
「オレはのけ者かよぉ…グスッ」
「あー泣かないの。アンタは覚えられないでしょうが…」
「ブー…」
そう雑談をしていると、作戦は最後の丁作戦だった。
「最後だ。丁作戦は五ヶ丘だ。ザコ共の掃討をやってもらう。作戦の雰囲気に慣れてもらうためだ。難しい注文は出さねえ。俺が指揮するが、お前は堀内や虎瀬大将もサポートに回ってもらうからな」
「う、ウッス!!」
「安心してください。きっちりとサポートいたしますので」
「うむ。俺も協力はする。刈谷に指示をまずは仰げ」
「わかりました!」
「わからないことはシェアし合え。それから俺に聞け。今回の作戦は成功させたい。いい加減、周辺の国の人々が干上がっちまうからな」
自分の手柄ではないのか、と思ったが、そうでもないようだ。確かに、合間を縫って輸入出を行っているが、恒常ではないため厳しい。満足いくような物資ではないだろう。深海棲艦に寝返ることはないだろうが、もしかしたら…と言うこともあるだろう。
「今回のレイテの作戦に関しては以上だ。各自、健闘を祈る。忘れんなよ?轟沈出したらペナルティな。後、ほかに質問は?ないなら堀内、会議を進めてくれ」
「わかりました」
「よろしいでしょうか」
話を進めようとしたが挙手があった。それは…そう、玲司は別に気にしていないし、何となく刈谷提督はやりそうだよなぁと思っていた。まあ、俺もそう思うし。と思ったし。
「はい、大府提督。どうぞ」
そう言うと起立し、少し刈谷提督を睨むようにしつつ発言する。刈谷提督は冷めた目で大府を見ていた。
「私は呼ばれておりませんが、どの作戦に参加すればよろしいのですか?」
その言葉にどよめく提督たち。まさか、とかそんな…と思っていたはずだ。そして、違和感はあった。彼が…呼ばれていないことに。
「ああ、そのことか。ちゃんと電話で指示しただろうが。もう忘れたのか?」
「そのような指示がありましたでしょうか?」
「人の話を聞いてなかったようだな?きっちり、はっきりと伝えたぜ?」
自分の泊地周辺の深海棲艦の掃討、および近隣の哨戒をしろってな。
その言葉に周囲の提督は脂汗が出ていた。一触即発。ちょっとしたことで爆発する揮発性の高いガス室に火種が転がっている。いや、すぐ爆発するような空間。逃げたい。そう思うしかない。
「私をそのように扱うとは嫌がらせですか?ハラスメントも甚だしいと思うのですが」
「パワハラの温床が言うんじゃねえよ。それに、俺は貴様が嫌いだからとか、憎いからと言う理由で参加させないわけじゃない。はっきり口に出してやらねえとわからねえか?」
「どう考えても嫌がらせではありませんか?新人の五ヶ丘提督まで参加させておいて私だけと言うのは納得がいきません」
ほんとわかってねえんだなぁ…と呆れる玲司。七原提督や九重提督は顔をこわばらせているが、一宮提督も刈谷提督の考えが読めたのだろう。
「じゃあ言ってやる。貴様には信用の文字がねえんだ。だから参加させない。わからねえなら全て言ってやる。今回の作戦は目標が敵の殲滅。今までにないほどに厳しい作戦だ。各作戦に参加する提督を信用してそれぞれの作戦に組み込んだ。指揮能力。実力、艦隊状況なんかを鑑みてだ」
バッサリと言い切ったわねぇ…と目を皿にする九重提督。刈谷提督は続ける。
「全てを信用してのことだ。五ヶ丘だって駆り出したいくらい。猫の手も借りてえくらいだが…俺が全て提督を信頼してのことだ。だが貴様はどうだ?一宮、テメエこいつに何された?」
いつもお前、テメエしか言わない刈谷提督が貴様、と言っている。これはたぶん、大府を敵対視しているからだろう。嫌い、憎いじゃない。信頼できないし敵だと思っているからだろう。そう判断する。
「はい、大府提督との合同作戦におきまして、私の艦隊が予想外の危機に直面しました。大府提督の指示によるものです。私の艦隊は危険な海域に。大府提督の艦隊は深海棲艦のほぼいない海域へ。まるで大府提督はこちらが危険な海域であるとわかっていたかのような指揮でした。刈谷提督に詳報をお渡ししましたが…」
「ああ。どう考えても手間がかかるし効率のクソ悪い動きだったな。堀内にも上郷の爺さんにも見せたが謎だってよ。よくあれを機転を利かせて脱出できたな。まあそれがあってお前は少将になったようなもんだが」
「ありがとうございます。ですので、私も刈谷提督の仰る通り…大府提督を信用できません。特に、非常に難易度の高い甲作戦ですので、横やりを入れられると全てが壊滅する恐れがあります」
「だとよ。次に2つ目。三条」
あ、俺も?今ので十分じゃない?いや、まあ刈谷提督の事だ…徹底的にダメ出ししたいんだろうなぁ…。俺もまああれはだいぶ腹が立ったし、言いますか。
「はい、私…いや、俺も同じような目に遭いました。アイアンボトムサウンドにてこちらの艦隊は大破進撃を余儀なくさせられました。大破して雪風が轟沈寸前。そんな中で大府提督はこう言ってくれましたよ。夜のうちに進撃したいからさっさと制圧しろと。本来、総指揮官は轟沈を避けるために撤退を言ってくれると思っていましたが…期待を裏切られましたね。こっちは霧島たちも被害が大きく、雪風は生きていましたが離脱。大府提督の艦隊は無傷で通過」
「したにも関わらず、南方戦棲姫の討伐に失敗。さらにサーモン海域でも逃がして標的は北方でレ級にやられてるわ、レ級により艦隊全滅。艦娘は提督の命令を無視して独断で進撃、轟沈。笑えねえな」
「それならば、ショートランドの際の三条提督の艦娘も命令を無視していたのでは?私だけ命令無視を非難されましても」
「さて?三条はそれでも結果は出した。貴様は?何の成果も得てねえよな?三条と艦娘は一致団結して1000にも上る深海棲艦を撃破した。で?貴様は?」
屁理屈だよなぁ…と玲司は思う。沈めた数で言えば俺の方がでかいのに…。こりゃまあ…贔屓になるよなぁ…いいとこ突いてくるなぁ、大府とちょっと感心したくらい。
「依怙贔屓ですね」
「話を逸らしてんじゃねえよ。貴様が部下にしでかしたことを咎めてんだよ」
あ、すげえ強引に話を元に戻した。まあ…話が逸れたのは確かだけどさ…大府ってなんか、子供みたいな屁理屈多いんだな。
「で?三条。これと組みてえか?」
「いえ、信用できません。無理です。大府提督と組むなら作戦を変えてください」
「そんなん通らねえけどな。まあ、これと組ませる気は毛頭ねえが。で、3つ目。貴様、俺と三条だけでやるはずだった作戦をなんで知ってて、しかも五ヶ丘を出した?」
これだ。これが一番の問題だ。あれは玲司と刈谷提督しか知りえない極秘の作戦だった。大府に知れると何するかわかんねえからな、と言っていたものだ。陸軍にまで漏れていたと言う作戦。
「五ヶ丘から聞いてるぜ?貴様があいつに口出しして出撃させたそうだな?危険な深海棲艦がひしめき合ってるし、重巡棲姫までいた。そんな中に軽い編成で大丈夫だから。新人の肩慣らしだくらいに言って行かせたんだってなぁ?あれが肩慣らしだったか?オイ。俺と三条の艦隊が行った時にはこいつの艦隊は瀕死だった。貴様、何度部下の艦隊を壊滅させかけたら気が済むんだ?ええ?」
「………」
あー、結局刈谷提督には勝てねえか。そりゃあなぁ…あの人の頭の作り、おかしいもんなぁ…大淀や涼介とは違う方向で。しかもまた論破できたからか、楽しそうだよなぁ…。あ、でもあれマジでキレてるわ。えー…俺なんか刈谷提督の事を知り尽くしてきてない…?
自分のところの飛龍を沈められた話はしないんですかね…?
「これを踏まえて全ての作戦において、貴様を信用して組み込むことはできねえ。だから貴様は泊地の周辺の深海棲艦をやっつけてなさい。以上だ。堀内、俺の作戦の話は終わりだ。次へ行ってくれ」
「承知しました。では、次の議題ですが…」
それから先の話はほとんどの提督が頭に入っていなかったようなので昼前には話を終わらせた。まあ、かの刈谷提督と大府提督がバチバチにやり合っているところを見てしまったら緊張感が半端ではないだろうし、仕方ありませんね…と堀内提督は思ったくらいだ。特に急ぐ話でもない。まずはレイテに集中してもらいましょう。さて、決定打となりましたが…刈谷君、何か仕掛けてきますよ。それだけが心配だった。
………
「あーあ、あの人たちがやりあったせいで後はなーんも頭に入らなかったわ」
「はわわわ…こ、怖かったです…」
「私はすっきりしましたけどね。あの一件はかなり頭にきていましたので」
「うむ。曙にはとんだとばっちりを受けたしな。潮と朧が止めてくれたのでよかったが。ジョンストンも大変だったな」
「ええ」
「こっちも雪風をやられかけたからな。ふざけんじゃねえや」
「はい…あれは本当に胃が痛かったですね…」
「ま、こんな愚痴をこぼすのも嫌だし、どっかへランチへ行かない?アタシ、いいお店知ってるのよ」
「わーい!いきまーす!」
「いいですね。行きましょう」
「おーう」
「よぉ、いいじゃねえか。俺らも連れてってくれよ」
またふいっと現れたのは刈谷提督。笑っている堀内提督。そして、刈谷提督にがっちり肩を組まれて離れられない…五ヶ丘提督。捕まったのか…かわいそうに…。
「か、刈谷提督ぅ…」
「刈谷さん…!痛えッス…!」
「皆さん、お疲れ様でした。甲作戦に参加される皆様と丁作戦に参加される五ヶ丘君、そして私と刈谷君とで打ち合わせがしたいのです。よろしければお昼を奢りますので行きませんか?もう秘書艦の皆さんの分も予約を取ってあるのです。お忙しいですか?」
いやいや…もう絶対参加しろって外堀までしっかり埋めてんじゃねえか…。堀内提督もなかなかに恐ろしい人だな…。
しかし、堀内提督は本当に信頼ができて好きな相手でなければ相手にもしない。笑顔なんて見せない。玲司達若手を信頼しているのだ。かなり強引なことをする人とはやっと気づいたが。
「わかりました。ごちそうになります」
「九重君、そのお店はまた今度で…」
「はーい」
「はわわわ…」
「オラ行くぞ。俺は腹減ってんだ。なあ五ヶ丘?」
「は、はい!俺も腹ペコです!!」
そうして、強制的に刈谷提督達とランチとなった。
/小料理屋 鳳翔
結局ここなんだよなぁ。うまいからいいんだけど。「本日貸切」と張り紙が書かれた入り口の戸を開ける。
「まあ皆さん、お待ちしておりました。さあ、どうぞ。すぐお料理をお持ちいたしますね」
「鳳翔、ビール」
「刈谷君、刈谷君は午後からも私と司令長官との打ち合わせがあります。飲酒しての勤務は懲罰ですよ」
「チッ…」
「刈谷提督、いきなりビールってないっしょ…」
「んだよ三条。テメエだって仕事終わりにはビールだろ?」
「いや、俺はそこまで酒飲まないんで…」
「つまらねえ野郎だな」
「大きなお世話です。あ、五ヶ丘さん、ご無沙汰してます」
「三条君、久しぶりだな。これからは部下だ、タメでいいよ」
「いやー…そう言うわけには…」
「三条クン、刈谷提督とずいぶん仲良しねぇ…」
「良き師弟関係なのでしょう」
「こ、殺されるかもしれませんよぉ…」
「ふふ、そんなことはありませんよ。さあ、大淀さんたちもどうぞ」
「ありがとう、ございます」
「心配はいりませんぞ。提督殿は艦娘をぞんざいにしないのであります」
「…あきつ丸さん」
あきつ丸は清州副司令長官の葬儀の後、飲みに出かけた秘書艦たちの前に現れて「あきつ丸の提督殿が無理を言ってすみませんなぁ」と笑ってやって来た艦娘だ。堀内提督の秘書艦。これは秘密ですぞ、と言いながら堀内提督が若手提督の事をどう思っているかを話してくれた。
「さあ、お待たせいたしました。どうぞ」
「うわぁ…」
鳳翔の料理はどれも絶品だ。玲司でさえ勉強になると言うほどだ。すぐさま刈谷提督が唐揚げにありついている。
「ここなら大府も来ませんし、漏れることもありませんからね」
「秘密のお話…ですか?」
「そうです。レイテの話は、大府に漏らしてはなりませんので」
「オレのこともありますもんね…」
「外部にまで機密事項を漏らすとは…大府もなりふり構わずですね」
「ええ。五ヶ丘君の件は本当に大問題に発展するところでしたよ」
「俺潰しだ。おい鳳翔、唐揚げ」
「もう食べてしまわれたのですか?!」
唐揚げばかりを食べて話をする刈谷提督。鳳翔曰く、刈谷提督用の皿に盛っている。玲司たちの分は…ちゃんとある。
「俺の味方をする奴は全部追い出したかった。まず新人で実力のねえ五ヶ丘を叩きだすつもりだった。安久野のバカ息子まで出してな」
「これに関しては完全に越権行為で処罰する必要があるのですが…今は、ね」
「大府を完全に潰すためッスね」
「そうだ。五ヶ丘の件も全部把握してる。一宮の事も三条の事も。清州のおっさんのこともな」
「ええ!?大府提督が犯人なんですか!?」
「おい、うるせえぞ。鳳翔、唐揚げ」
「もうありませんよ」
「はあ?俺らが来るってわかってんだったらもっと用意しとけ」
「これでもたくさんご用意したんですが?皆さんの分を全部食べてしまって…」
「あ、俺らなら大丈夫ですから…」
「ふう…はい、三条提督、堀内さん。手羽先です」
「おい、あるんじゃねえかテメエ」
「刈谷さんには唐揚げがあるでしょう?」
「チッ…」
どんだけ唐揚げ好きなんだよ…。ご飯もめっちゃ食うし。ああ、水菜のサラダ食ってる。
「鳳翔さんの唐揚げ好きよね~」
「いつも食べてますね」
「うま!うま!」
「ご主人様…」
刈谷提督の部下だからか…似てんなぁ…。
「で、俺らを呼んだ理由は?」
「刈谷君が一番信頼できる皆さんとお食事がしたかっただけです。ああ、もちろん、私もあなた達を一番信頼していますよ」
「わ、わたし達をですかぁ!?」
「あらあら…明日は槍でも降るのかしら…」
「言うじゃねえか。正直古井のおっさん、虎瀬のおっさん、堀内とお前らくらいしか信用してねえよ」
「刈谷君は人をそう信用しませんから、皆さんはラッキーですよ」
ラッキーと言われてもな…。しかし、まあそういう集まりなんだろうなぁ。五ヶ丘提督も信用していると言うことだろう。その五ヶ丘提督は何も気にせずに食事をガツガツ食べているわけだが。あ、それ刈谷提督の唐揚げ…。
「五ヶ丘テメエ、人の唐揚げ食うたァいい度胸してんじゃねえか」
「んごっ!?」
「刈谷さん?五ヶ丘提督…気にせず召し上がってください…」
「鳳翔、だし巻き」
「はいはい…」
「私は鮭茶漬けをいただけますか?」
「はい。もう〆ですか?」
「ええ。彼らの食べっぷりで十分です。大淀さん達もね」
「大淀、作戦はどうだ?」
「はい提督!作戦は先ほどの会議の際に頭に叩き込みました」
「上々。じゃあ帰ったら打合せ…うーん、今日は遅くなりそうだな…」
「そうですね…明日にしましょうか?提督はまだしっかりとはお読みになっていないでしょう?」
「ああ。今夜ゆっくり読むよ」
「翔鶴との時間を大切にしろよテメエ」
「それより打合せです!」
「そうかよ。で?海図は?」
「あ、全部把握してます」
「そうかよ。一宮は?」
「はい、私も頭に入れてあります」
「そりゃいい」
「オレは…」
「お前は初参加だろうが」
「ご心配なく。私がお教えしますよ」
「堀内さん…ありがとうございます」
「九重は?」
「アタシも入れてるわよ。何よ三条君。アタシを疑ってんの?レイテよ?ちゃんと頭に叩き込んどかないと大変でしょ?ねえ、すみれっち?すみれっち…?」
「あわわわわ」
「提督ぅ!ちゃんと頭に入れてんだろ!?昨日も打ち合わせしたじゃん!」
「はっ!?そうでした!!!」
「大丈夫かよ七原ァ?」
「はいい…」
たぶん、作戦が始まったら大丈夫だろう…そう思うしかない。七原提督はいざと言う時の爆発力がすごいらしいし、それに期待だ。
「ま、お前らのことは信用してる。俺に失敗しましたなんて作戦は伝えて来ねえだろうな」
「目標は達成させたいですね。なあ、大淀」
「はい!死ぬな!生きて帰れを至上命令に展開して参ります!」
「フッ…三条らしい命令だな。お前らもこれを遂行させろよ。殲滅はあくまでも目標だ。今回は誰一人たりとも轟沈は出さないようにきつく言ってある。やらかす馬鹿もいるかもしれねえが、そこは俺がないようにフォローする。お前らに指揮は任せる。俺が出る幕はないだろうからな」
「プレッシャーねぇ…」
「名誉や戦果…甲種勲章…それよりも大切なのは艦娘です。それを皆さんはお忘れではないと思います。五ヶ丘君もどうかお忘れなく」
「ご主人様、轟沈は嫌ですお」
「わかってる。大府にやられた時のようなやり方はオレがいろんな意味で長生きできねえ」
「五ヶ丘ァ。テメエ間に合ってよかったなぁ?大本営会議までに鹿屋に来れなけりゃクビって話、セーフだったなぁ?」
「うぐっ…マジで間に合ってよかったッス…」
「フン。遅えんだよ」
「はい…」
「ご主人様、夕雲さんに何したんですか?夕雲さんにしてもらった唇へのちゅーはいかがでしたでしょうか?????」
「漣…あのな…?」
「クックックッ。おもしれえことになってんな」
「笑い事じゃないッス!オレマジで殺されるかって?!」
「おやおや、仲がよろしいですね」
「堀内さん、違うんスよ!!」
「まだ漣やゆっきーは説明してもらってないですYO?」
「いや、あのな…?あれは夕雲がいきなり…」
「だからどうやって口説いたんですか?」
「漣、怖えよ!」
五ヶ丘提督は刈谷提督の要望(脅迫)に応じて何とか鹿屋基地に今日の大本営会議までに鹿屋に来いと言うことだった。しかし、五ヶ丘提督のところの安久野に悪いことをされた夕雲や巻雲が怯えていたため、気軽に鹿屋へ行くことができなかった。必死の説得の末に何とかなったようだが、夕雲にキスされた?うーん…いろいろと危険がいっぱい。
漣に詰め寄られてタジタジしている五ヶ丘提督を見て刈谷提督は笑っていた。飯がうめえし、おもしれえし…いいもんだな。またやるか。
食事を終えると五ヶ丘提督は魂が抜けているような気がするが…大丈夫だろうか。
「また次の会議の後にやりましょうか。次回はお疲れ様会ですね」
結局またやるのか…まあいいか…楽しかったし。
「ああ、最後に言っておくぞ。もし、もし俺が作戦中に連絡が途絶えたら」
「刈谷提督?縁起でもないですよぉ…」
「大府がいるんだぞ。俺を直接殺しにきてもおかしくねえんだ。途絶えても最後まで作戦を遂行しろ。いいな」
「わかりました」
「承知しました」
玲司と一宮提督は把握する。九重提督も渋々ではあるが納得した。七原提督はずっと「無事にまたご飯食べましょうね!」と言っている。五ヶ丘提督も心配している。
(良い部下を持ちましたねぇ、刈谷君。やっとですね。ここから、終戦まで…彼らと共に頑張りましょうね。それまで死んではいけませんよ)
堀内提督が自然に笑っている刈谷提督を見て少し安心した。ここからだ。ここから大府も叩き出してよりよく海軍を変えていける。そう信じている。
「しっかり俺を楽させろよ?」
素直じゃないですね…皆さん、どうかご武運を。こうして…ついにレイテ沖海戦の火ぶたが切って落とされた。
毎度のことながら大府が絡むとギスギスしますねぇ。最後に息抜きができたようで刈谷提督もしっかりと戦いに臨めるのではないでしょうか。
ところで、五ヶ丘提督のところで爆弾発言がありましたが、どうなっていたのでしょうね。次回はそれを明らかにしていきたいと思います。五ヶ丘提督と夕雲。これまたリンガでは修羅場になりそうな予感…。いつも修羅場ですね、五ヶ丘提督は。
頑張れ!五ヶ丘提督!
それでは、また。