敏腕でクールな提督ですが、その実はどうなのでしょうか?
カリカリと静かな執務室にペンの走る音だけが響く。あとは多少のカサカサと言う紙をめくる音。
艦娘が2人、そして1人の中年の男性が机に向かって座っていた。
「提督殿、そろそろ休憩を入れないと怒られてしまうであります」
「ええ、どうぞ休憩してください。私はもう少し続けます」
「いえ、あきつ丸達が、ではなくていとくどのが怒られてしまうでありますなぁ」
「はい。ですので提督殿はご休憩いただき、あとの書類仕事はこの神州丸たちにお任せください、であります」
「むぅ…これらは私の決裁が必要ですからね…可及的速やかにに決済したい書類ですのでね…」
「やー、提督殿は実に働き者でありますなぁ。これくらいならあきつ丸達が判を押しても問題はありませんでしょう」
「それは問題になった場合にあきつ丸さん、神州丸さんの処遇が危険になりますよ」
「大丈夫であります。わからないように精巧に判を押しますので」
「どういうことですか…」
「それはそうと…もうお手を止めないと…提督殿…」
提督、と呼ばれる男性が書類にサインをする手を止めないでいると、バァン!とドアが勢いよく開かれた。ちょっと怒った顔…いや、かなり怒っているような顔をしている水色の髪を通称「フレンチクルーラー」と呼ばれる髪にしている豊満な胸部装甲を持つ駆逐艦…。
陽炎型11番駆逐艦「浦風」。彼女が腰に手を当ててものすごく怒っていた。
「提督さん!まだ仕事しとるんか!ええ加減にしんさいって夕飯の時にうち言わんかったけえの!?」
「浦風さん…もう消灯時間ですよ」
「話を逸らさん!夕飯食べたらゆっくりしんしゃいってうち言うたじゃろが!なんで仕事しとるんじゃ!」
「おー、こわ。鬼嫁の登場でありますなぁ」
「あきつ丸さん!何か言うたけ!?」
「いやー、何もありません、であります。はっはっはっ」
「いえ、あの…これは急ぎの案件でしてね?速やかに決済を…「そんなん明日の朝でもできゆう!手ぇ止めんさい!!」」
「あ、はい」
「神州丸、撤退するであります」
「あーこら待ちぃ!!提督さんを止めんかった神州丸さんも悪いけぇね!?」
「浦風、神州丸さんは放っておいた方がいいと思うわ。まずは提督を追求しましょう」
「もう!せやけど、浜風の言う通りじゃね。どういうことじゃ、提督さん!」
「提督ぅ、浦風に見つかったらだめだ―。ここはおとなしく浦風と浜風の取り調べを受けるんだねー」
「うむ。この磯風も参加させてもらうぞ」
こうして浦風を筆頭に、第十七駆逐隊である姉妹、浜風、磯風、谷風に捕まったのは…呉鎮守府の提督であり、海軍副司令長官である堀内提督であった。
困惑する提督にガーッと詰め寄る浦風。この浦風、何とこの呉鎮守府の中で戦艦、空母はおろか重巡たちでさえ一歩引く鎮守府のお母さん的な存在であり、とても面倒見がいい。掃除、洗濯、料理…あらゆる面でパーフェクト。姉妹からも慕われ、戦闘面でも堀内提督の頭脳戦術を理解して戦局を動かすブレインとしても機能している。
同時に浜風たち17駆も優秀である。浦風はもちろん谷風は浦風と共に対潜に特化した丁改。対空に特化した乙改になった浜風と磯風。練度も高く、浦風はその中でも呉鎮守府トップ。浦風曰く「提督さんを守らにゃと思うたら強うなったんじゃ♡」と谷風曰く提督への愛のパワーとやらでここまで上り詰めたのだ。
そして浦風はオーバーワーク気味な提督を止めるストッパーでもある。堀内提督は昔から、それこそ親友の刈谷提督や上司であり、頼れる父のような存在でもあった清州副司令長官にも「働きすぎだ」と言われるくらい仕事にのめり込んだ。刈谷提督も人の事は言えないし、清州副司令長官もなのだが…。
「提督さん?うち、今日は休みんしゃいって言うたよね?」
「はい…」
「では、なぜ仕事をしているのか答えてもらおうか、司令」
「提督、現場押さえられちまったんだ…嘘つくと谷風さんら、黙っちゃいられないからね?」
「うぐ…」
「はっはっは、これは逃げられませんなぁ」
「あきつ丸さんもです。なぜ提督を止めてくださらなかったのか、お聞かせください」
「いっ、あ、あきつ丸もでありますかぁ…いやぁ、困ったであります…」
17駆の尋問が始まった。理由は三条君と刈谷君からの一時的な原初の艦娘貸し出しの件だ。刈谷提督の要望のもと、虎瀬提督に木曾を貸してほしいと言う依頼。虎瀬提督だけではなく、やはり本部の堀内提督も知っておく必要がある、と刈谷提督の助言で書類を作成。一時的な移籍の書類を作ったのだ。
「まだ、時間はあるじゃろ?」
「う、うう…」
だがバッサリと浦風がそれを切り捨ててしまった。そう、レイテの作戦開始まであと少しではあるが、まだ猶予はあるし、提督はすでに刈谷提督からの説明ですいでに知っている。だから書類は慌てて作る必要もなかったのだが、彼の性格上速やかに書類を作って古井司令長官に渡したかったのだ。
「失礼します、提督、皆さん、ひとまずお茶を飲んで落ち着きませんか?」
「山汐丸さん…」
「また浦風に怒られているのか。提督、貴様も懲りん男だな」
あきつ丸や神州丸と同じく陸軍艦娘である山汐丸、熊野丸が執務室にやってきた。山汐丸は小さくなっている提督を見て苦笑し、熊野丸は持って来ていたカステラを頬張っていた。山汐丸にすぐ怒られていたが。
「あきつ丸さん、だから提督を止めてください…と言ったであります」
「山汐丸殿~…提督殿は何度言っても手を止めてくれなかった…であります」
「てーいーとーくーさーんー!?」
「浦風さん…とりあえず落ち着いてください…」
「いや、これは怒るべきところではないか?そうだろう、谷風、浜風?」
「ええ。浜風もそう思います」
「カーッ!あきつ丸さんも同罪だからな!?」
「ええ!?どうしてでありますか!?」
「司令の作業を止めんかったからだ」
「あきつ丸は止めたであります!止めたでありますよ谷風殿ぉ!?」
「現に提督が作業止めてなかったじゃないか!」
「神州丸さんは後で浦風に叱ってもらうとして…提督?」
「はい…」
この呉鎮守府にはあきつ丸や山汐丸と言う本来ならば陸軍で活躍していた艦船が艦娘となって顕現している。と言うよりは陸軍から丁重に引き取ったのだった。陸軍としても海軍に後れを大きく取っていたのでこちらも艦隊の運用をしたかったのだが…苦渋の決断であるが深海棲艦に対して、そして艦娘への待遇、そして運用方法がめちゃくちゃだったため、海軍に艦娘を移した。
そしてこの際に知識があり、そして大事に艦娘を沈めることなく運用する堀内提督に任せることにした。堀内提督も陸軍の艦船に関しては勉強不足だったため、猛勉強。輸送や対陸戦に関して有効であるとわかった堀内提督がそのまま運用している。そこからあきつ丸達は顕現を開始。少ないが他の泊地でも運用されている。
それと同時に陸軍から情報を仕入れたりもしている。最近は特に大府コンツェルンのことを。刈谷提督と同じく、彼は大府を潰そうとしている。そのため、特別警察隊と呼ばれる防衛省と警視庁が絡んだ特殊な部隊がいる。この部隊は主に刈谷提督とのやりとりに本腰を入れている。
「大府とやらにこのことはすぐにバレてしまうのでは?提督殿?」
「ええ、あくまで彼らとのやり取りは仮初です。彼は特別警察とのやりとりはダミーで、別の情報先から大府の情報を仕入れているようですね」
「それは非合法の情報を、でありますか?刈谷提督殿も無茶をするでありますなぁ。と、言うかあきつ丸にこのことを話しても大丈夫でありますかな?あきつ丸が裏切らないと言う保障はありませんよ」
「いえ、あきつ丸さんを私は信用しておりますよ。貴女は私を裏切らない」
確固たる信頼を置いてあきつ丸に全てを話す堀内提督。彼は艦娘が人を裏切らないと言う謎の自信を持っている。
「艦娘は純粋で…美しく、誇り高いかつての艦船の魂が宿っています。そんなあなた方が裏切るはずがないと私は本気で信じております。刈谷君や清州副司令長官に言ったところ、笑われてしまいましたが」
「それはそうであります。提督殿はまっすぐすぎます。刈谷提督殿くらい屈折しているほうが運用は安心できでありましょうし、信頼もできるであります」
「刈谷君が屈折…ですか。ふっふ…彼は『馬鹿みたいな話だが、艦娘はそうだよな』と陸海を問わず、全ての艦娘を彼は信じていますよ」
強い目力であきつ丸に笑みを浮かべて見つめる。その優しいがチカラのある目にあきつ丸は惹きこまれた。
「なるほど、浦風殿らがほれ込むわけであります」
彼の優しさに浦風は本当にほれ込み「うち、提督さんの奥さんになるんじゃ!」と鼻息を荒くして宣言したらしい。今は花嫁修業じゃ!と家事に提督のお世話に艦隊運用に…心血を注いでいる。提督の嘘偽りない惜しみない愛情を最初期から受けて育ってきた浦風は彼の愛情に愛を持って返すことを誓った。さらに後からやってきた浜風や谷風、磯風もその影響を大いに受けている。
「ほんっとに…もう!しょうがない人じゃね…!」
「すみません…」
腕を組んで怒る浦風。その顔はプンプンと怒っている。これが氷の提督とまで呼ばれた堀内提督率いる、冷たい鎮守府、呉鎮守府の日常だった。
大本営も、彼を知る人以外は提督も。皆が堀内提督は冷酷であり、艦娘に冷遇していると言う噂が立っているが、本当はこれだ。艦娘、浦風に尻を敷かれ、時々「仕事がはかどらない…」と言ってはまた怒りを買う提督であり、お茶にお菓子においしいご飯に…と横須賀などの若手提督のいる場所や、話を聞いて笑いをこらえるのに必死で「テメエ、んな笑うことか」と怒られた刈谷提督のところと同じく暖かい。
「提督。レイテ沖海戦が近いことはわかっています。ですが、提督が無理をすることはありません」
「とんでもない。提督の皆さんが無理をするのです。ですから、私だけのんきにしているわけにはいきません」
「提督さんはいつも無理しすぎなんじゃ!ええ加減にしんしゃい!」
「浦風ストーーーップ!提督ぅ、浦風にその言葉は厳禁なんだってば」
「谷風さん、すみません」
堀内提督は結構17駆に謝ってばかりいる。浦風>>>>>浜風>磯風=谷風と言う順で「すみません」と言う回数のランキングとなっている。浦風は毎日提督の世話を焼くので必然的に謝る回数が多い。浜風も提督を密かに好いているので回数がちょっと多い。磯風と谷風は手伝うと浦風が怒り、浜風が嫉妬するので手伝うのは稀。
それを見て笑うのが山汐丸。そして呆れるのが熊野丸だ。あきつ丸もかなり頻繁に浦風に怒られている。仕事を止めさせないからだ。こうして浦風による夜の説教が1時間は続いた。
「すみませんでした」
今日何度浦風に謝っただろうか。ふう…と浜風もため息をついている。
「提督、お茶が冷めてしまいましたので入れて参りますね」
「山汐丸さん、ありがとうございます」
「あ、あきつ丸はこれで失礼するであります…」
フラフラと目を回してあきつ丸は出て行った。山汐丸にお茶をいれてもらって一息。山汐丸は舟をこいでいる熊野丸を連れて出て行った。残るのは17駆と提督のみ。
「司令も大変だな。仕事に私達艦隊の運用。そして浦風の説教。司令、過労死せんようにな」
「磯風!最後のはどういうことじゃ!」
「いやなに、浦風の説教は長いからな。ストレスが溜まるだろう」
「磯風、余計なこと言うとまーた説教されちゃうよ?」
「む…」
「磯風はあとでお部屋でお説教じゃな」
「なぜだ。私は司令を心配しているだけではないか」
「ははは…」
「笑ってんと提督さんも何か言うてよぉ!」
「いえいえ、浦風さんがいないと私も止まりませんからね。それに、浦風さんのおかげで艦隊の運用も安定しています。雲龍さんにもだいぶ助けられておりますが」
「ふーん…うちより雲龍さんの方がええっちゅうんじゃね?」
「あ、やべ」
「い、いえ。そうではないのです。浦風さんには大変助けられておりますよ。本当に、感謝しております」
「そ、そっか…えへへ♪嬉しいのう」
浦風さんの瞳から光が消えかけておりました。危ない…ああなると本当に谷風さんや私では止まらなかったでしょうね…。
どこの基地とは言わないが、某秘書官の駆逐艦並みに彼女も嫉妬深く、すぐに目のハイライトがどこかへ行ってしまう。提督の精神が大破してしまうことになる。あちらは最近心を開いた主力オブ主力の駆逐艦長女が参戦してより修羅場へ…。時々浜風も頬を膨らませてそっけなくなったり、目から光からなくなったり…堀内提督も苦労が絶えない。そして谷風も同じであり、よく谷風とはお茶を飲みながらお互いに励まし合っている。
「提督も大変だね…かぁーっ!あいつらまーじーで!何とかならねえ?」
「私にも手が付けられません…」
「提督は提督だろぉ!?艦娘の面倒を見るのが仕事だろ!?時々浦風もそうだけど浜風もこえーんだよぉ!」
「あきつ丸さんも神州丸さんも逃げ出すくらいには…怖いですね」
「えー…」
「谷風さんがいてくれて助かりますよ…磯風さんは…どこ吹く風ですし…」
「あいつまじでマイペースすぎんだよぉ…浜風や浦風がやべえ空気になったらいつの間にかいねえんだもんな!」
「谷風さんも大変ですね」
「そうなんだよ!提督ぅ!谷風さんの気持ちをわかってくれるんだな…」
「ええ、痛いほどわかりますよ…」
谷風との密談。困った時は互いに助け合いましょうと言う秘密の約束事をかわしている。17駆と言うか、駆逐艦でありながら呉の一番の苦労人ではないだろうか。
実際、今の谷風もお茶を飲みながらゲンナリしている。
「谷風さん…女の子なんですから足を閉じましょうね…その、オホン」
「んなっっ!?あ、ああははは…て、提督、ごめんよ。こんなん誰も誰も期待していないよなぁ」
「いえ、谷風さんも女の子なんですよ?安易に下着を男性に見せてはいけませんよ」
「ん、ん…き、気をつけるよ」
「谷風?おどりゃ提督さんを誘惑しとるんか?」
「いい!?ち、ちげええええええ!!!!」
「正直に言いんさい!!!どうなんじゃー!」
「ちげえって!!!!」
それを聞いた浜風はスカートのすそを気にし、胸元も気にしていた。ちょっと待ってください。なぜ少し服のリボンを緩めているんですか?足を閉じてください。
「こら浜風!何やっとるんじゃ!」
「はっ!?わ、私は一体何を…」
「ふむ。司令は浜風や浦風でいいのか?雲龍さんのような胸のほうがいいだろうし露出も…おひ、ひたいひゃなひか。ほほをちゅねるひゃ(おい、痛いじゃないか頬をつねるな)」
浜風が胸を触って「これではダメなのでしょうか…」と真剣に考えているし、浦風はもう顔を真っ赤にして怒っているじゃないか。
「提督さんはそがなおっぱいやらで判断する人とちゃうわ!おどりゃあ磯風ええええ!!」
もうめちゃくちゃですね…そろそろ寝る準備に入りましょうか…明日は書類を止めておかないと浦風さんも浜風さんも監視にやってきそうですから…やめておきましょう。
「はい、今日はこのくらいでもう休みましょう。浦風さん、今日はもう寝ますよ」
「えっ!一緒に寝てくれるんか!?う、うちぃ…それならはよぉ言うてくれんと「言っていませんよ」」
「提督!枕を持ってまいります!」
「おーい!おーーい!!ちっと止まれー!」
「なんだ、皆ここで寝るのか?寝間着もないが…仕方がない、服が皺になるのは気になる。ここは脱いで寝るか」
「わああああああ!!!!?!?!な、なにやってんだよ磯風ぇ!?服脱ぐやつがあるかよぉ!!!!」
「む?ここで寝るんだろ?司令と共に。なら別に構わんだろう?」
「なんでそうなる!?なんで提督と一緒に寝ることになってんの?!頭ハッピーセットか!?あわわわわ」
「…………浜風、脱ぎます!!」
「うちも脱ぐんじゃあ!!」
「わあああああああ!!!!!提督止めてくれえええええ!!!おいおいおいおい逃げるなって!!!」
「私は何も見ていません…!見ていません!!!」
「提督…い、いかがでしょうか…この浜風…下着は…白です!」
「うちはつけとらん!て、提督さんになら見られても…ええよ?ああ!どこ行くんじゃ!」
「谷風も脱がんか」
「やめろおおお!!!」
この後、なぜか谷風も上もスカートも脱がされ、悲鳴が響き渡ったらしい。ちなみに提督は別の応接室へ逃げ、そこで寝たと言う。谷風にめっちゃくちゃ朝怒られた。
………
『ああ。今パラワン水道の主力へ向けて七原の艦隊が動いてるぜ。過保護気味の山風出したんだと』
「ですが、山風さんは改二でしょう?でしたら対潜は問題ないでしょう。一宮君が基地航空隊を迅速に設置。東海を使えば問題なく潜水艦は葬れるでしょう」
『ただ、見慣れないクソガキみたいな風貌をした深海棲艦を確認してる』
「潜水新棲姫ですね。潜水棲姫よりも幼いですが、その雷撃はアレを凌ぎますよ。まさか、ご存じでなかった…?」
『知らねえわけねえだろうが。俺も初めて見たからな』
「七原提督もしっかり予習をしているみたいですね。潜水艦への対策は十分です。ここは制圧できるでしょう」
『他にも諸々やってもらうことがあるし、この次はシブヤン海。三条の武蔵が出るらしいからな』
「あなたは本当に三条君のことになると嬉しそうですね」
刈谷提督とのレイテの交戦のやり取りの情報を堀内提督に伝える。昨晩のような頼りない顔ではなく、真剣なキリっとした表情をしている。
「提督さんの仕事中の顔は素敵じゃあ♡」
「はい…とても…かっこいいですね」
「谷風はいつまで泣いているんだ」
「この谷風さん…辱められた…もうお嫁にいけないよぉ…」
「提督に嫁にしてもらえばいいだろう。磯風はそのつもりだ」
「はい?」
事務はストップをかけたが電話などをすっぽかすわけにはいかない。なので一応監視と言う名の提督を眺めてうっとりするタイムな17駆。ここの艦娘もかなり危険がいっぱい。
駆逐艦は割と惚れ込んだら一直線な傾向が多い。堀内提督の17駆はもれなくそれにあてはまる。そうでないと言っているが谷風だって結構堀内提督にべったりだ。特に堀内提督が何かしたわけでも、大府のように洗脳したわけでもない。
「よく、頑張りましたね」
出撃から戻ってくるたびにこう言い、頭を撫で続けて数年。これだけだ。そして待遇もいたって普通。贔屓などしていないし、虐待などもしない。食事も出るしおやつもあるし、布団だっていたって普通だ。それでも彼女たちは提督にこうだ。
褒められる。そしてそれが嬉しくてもっと褒めてもらいたい。そうだ、出撃以外にも何かお手伝いをすれば褒めてくれそうだ。じゃあやろう。そうして浦風は様々な家事もこなした。
「ありがとうございます。浦風さんには助けられていますよ」
それだけで疲れ何て吹き飛ぶし、もっと頑張ろうと思う。そうして浜風たちを巻き込んでやってきた。
「提督に褒められると…何でしょう、浦風。こう、胸が…」
「ドキドキするじゃろ?」
「はい。もっと…褒めて頂きたい…」
「なら、えっと頑張らんとね!」
「はい!」
(やべえ、浜風の目が何か輝きすぎてやべえよ提督…)
「では磯風も一肌脱ぐとするか。なあ、谷風」
「かぁー!?谷風を巻き込まねえでくれる!?」
これである。気が付けば17駆は呉で一番やべー駆逐隊とまで他の艦娘に言われるくらいになった。他の駆逐艦は「わけがわからないよ…」と困惑、ドン引きする始末だ。巡洋艦や戦艦たちもこれに介入すると危険だ、と引いている。雲龍くらいだろうか、特にそう言ったことを気にせずに執務中に昼寝していたりするのは。
「相変わらず浦風殿たちは提督殿が大好きでありますなぁ」
「ほうじゃ!うちらは提督さんが大好きなんじゃ♡」
(また巻き込まれてんだけど…まあ好きだけどさ)
「ええ。ふふ、私も三条君の活躍は大いに期待していますよ」
『見てろ。必ず全員に甲勲章をくれてやるよ』
「では、甲勲章を5人分用意しておかねばなりませんね」
『ああ。殲滅の打診を申し出た大高のおっさんらは無理だって頑なに嫌がったから乙以下にしてやった。七原でさえやりますって言ったのによ。情けねえおっさん連中だぜ』
まあ実際には七原提督はこれを断ったらクビにされちゃうくらいに思っていたので即答だった。刈谷提督自身はやる気があっていいことだな、くらいに思っていたのだが実際にはこうだ。九重提督も断ったら面倒そうね、くらいに思っていたが…レイテの事は知らないわけではない。それでもやりますと言ったのはしっかりとした実力の裏付けがあるからだ。あとは刈谷提督に0点と言われたことをまだ根に持っているから。見返してやると言う思いも大きい。
一宮提督はこれを制すれば私も三条君に追いつけるでしょうか、と言う考え。刈谷提督からも早く将官に上がれ、と言われていたし、何せ大府が気がかりだったのもある。少将になれば同じ階級。あれこれ口出しされても命令を聞く必要はなくなる。アレと組むことだけは絶対に避けたい。様々な思惑と、総合的にアメリカ艦娘のチカラもあったので実力は申し分ないだろうと甲作戦に参加した。
玲司はもううちならいけるだろう、くらいの感覚。ただ、艦娘がいかんせん少ないので木曾を借りることになったが、木曾だけだし、龍驤、川内、島風。そして大和に武蔵、朝潮や神通など戦力は十分だ。
ああ、やりますよ。この一言だけで刈谷提督は喜んだし、堀内提督も「そうですか」と笑いながら刈谷提督に返した。
「それでも、逃げずに乙や丙には出たのです。まあいいじゃありませんか」
『フン。まあ三条達とやるのはやりやすくてしょうがねえわ』
「今度は私が指揮してみたいですね」
『おもしれえぜ?三条んとこの大淀や、一宮がいるとこっちの思ってることが全部言わずともやってくれるし動くからな』
「ほう…それは興味がありますね」
『やってみろ。俺らでさえ勉強になる』
「それはそれは。では次の大規模作戦では私が総指揮官をやりましょう。刈谷君。書類は任せましたよ」
『……まあ、いいけどよ』
刈谷提督も堀内提督が書類仕事大好きマンなのは知っている。膨大な書類を鼻唄を歌いながらやるような奴だと。そうなったら能代に龍田…愛宕に…ああ事務の手、足りねえじゃねえかよと思った。
『それはそうと大府だが』
「ええ」
さらに重要な案件がきたな。目下一番放っておけない案件。
『秒読みだ』
「……ほう?」
早い。もうそこまで動いていたのですか。彼の動きには本当に舌を巻く。とどめを刺すと言ったら動きが疾風迅雷の如くである。普段の動きが緩慢すぎるだけに、早い時は一瞬だ。
「それはわかりましたが…では彼も動きにかかるのでは?おそらく察知されていると思いますよ」
『知ってる。けどもうちょいかな。あのクソ野郎はな、俺がここ一番の本当に最高に盛り上がっているところを横から思いきりぶん殴りに来るだろうからな』
「ぶん殴るで済めばいいですが、あなたの場合命がありませんよ」
『俺を誰だと思ってやがるんだ、お前』
ああ、これはものすごい自信ありげな顔で笑っている顔をしているか…餌を見つけた狼のように牙を剝いているか…さてどっちでしょうね。清州さんを殺したことは私も許しがたい。絶対に許さない。人には得手不得手がある。彼は得手が多すぎるので頼りにしているのだが、襲われたとして何もできないのがもどかしい。
『あのクソ野郎は地獄に叩き込んでやる。しかも、逮捕なんて言うもっともお粗末な結果を与えて…惨めに何もできずに死んでいくだけだ。クソ野郎にとっては最低に惨めな最期だろうぜ』
「彼自身のプライドは恐ろしく高いでしょうからね。それに、刈谷君に負けるなどとは露とも思っていない」
『後悔するヒマさえ与えない。俺が仕掛けた蜘蛛の糸にミイラのようになるまで絡め捕って終わらせてやる』
恐ろしいまでに冷たい声色。それほどまでに彼を怒らせた。彼がどういう人物かもほとんどわかっていないだろう。わかったつもりになっているようであるが。刈谷君の言う通りになるでしょう。ですが。
「刈谷君、死なないでくださいね」
『ああ』
堀内提督の本気の度合いを悟ったのか、刈谷提督はふざけずにそう返した。
『日本を震撼させる大スキャンダルをお前と清州のおっさんに届けてやるよ』
「お待ちしております、刈谷君」
そうして電話は終わった。終わっても不安は拭いきれない。何せ、刈谷君が相手にしているのは人に非ざるようなものだ。日本の法が通じない。常識も通用しない。そんな相手だ。彼は今、そう言う化け物に喉元まで迫られているようなものなのに、私はと言うと昨夜のように平和な夜を過ごし…呑気に電話で心配していることを伝えるしかできないとは。
「提督殿。悩んでもしかたありませんよ。刈谷提督殿が自ら選んだ道であります。提督殿は刈谷提督殿を信じて結果を待つしかありません、であります」
「そうですね…親友に対し何もできないですが…私はただ祈るとしましょう。彼の成功を祈って」
「はっはっは。あの提督殿は確か龍田殿や愛宕殿、葛城殿とケッコンカッコガチをしておりますし、お嫁さんを遺して死ぬわけにはいきませんな」
「はあ!?ケッコンガチってなんじゃ!?」
「あきつ丸さん、そのお話、詳しく聞かせていただけませんか」
「浦風殿、浜風殿、そのー…近いでありますなぁ」
「さて、私は筑摩さんと作戦会議でも…うっ」
「提督~、逃げちゃあいけないねぇ。谷風さんを置いてそりゃあねえだろ?かぁーっ!」
「私はぷりんでも食べてくるとするか。離してくれないか谷風。結婚の話はあとで浦風達から詳しく聞かせてもらうとしよう」
「呑気にプリンを食べるだぁ!?かぁー!んなこと言ってねえで浦風ら止めてくれよぉ!」
「谷風、いいのか?私達第17駆逐隊が提督の妻に全員なれるかもしれんまたとない機会なのだぞ?」
「えっ?そ、そりゃあ…そのぉ…そうなったら谷風さんも一緒がいいなぁって思うけどさぁ…」
「そうだろう?ほら、ぷりんを食べに行くぞ谷風。浦風達からしっかり話を聞けばよいのだ。そう言うのはあの2人が頼もしいのだからな。なあ、浜風?」
「ええ、磯風。この浜風と浦風にお任せください」
「うちらに任しとき!」
「ははは、楽しみだな、谷風」
「がってん!!」
「谷風さん、洗脳されてしまってはいけません、助けていただけませんか!」
「提督殿ぉ、どこへ行くのでありますかな?」
「みなさんの作戦を練るために筑摩さんと…」
「1人用のポッドで…ああいえいえ、お1人で抜け駆けでありますかぁ。それは卑怯でありますなぁ」
「い、いえ…その…」
「あきつ丸さん、はよううちらにそのケッコンガチの話をしてえなあ」
「書記はお任せください」
「それでは提督殿、ちゃくせ~き、今!」
「何か違いますよね?」
こうして堀内提督はあきつ丸達に捕まり、みっちり夕方まで刈谷提督の艦娘達が結婚していることについて浜風たちに尋問されることになった。
刈谷提督達が今頃激戦を繰り広げていると言うのにこんなことで大騒ぎになることを申し訳ないと思いつつ。
私の書く駆逐艦はどうしてこうもやばい娘たちになるんでしょうね(白目)
堀内提督は優しく、それでいて穏やかです。そんなだけに、病んでいくんですかね…特に駆逐艦は感受性が豊か…なのでしょう(目逸らし)
さて、お待たせいたしました(?)
次回からは玲司の艦隊を主眼にしたレイテ沖海戦が始まります。まずはシブヤン海ですね。
因縁のシブヤン海で戦闘を繰り広げる武蔵。そして摩耶達。この戦い、玲司の艦隊の初戦を華々しく勝ちで始めたい。そんな思いと負けてはいけないと言う思いがぶつかります。
武蔵の実力…そしてとても頭がいいと言うことを書いていきたいですね。
次回もお待ちいただけますと嬉しいです。
それでは、また。