玲司もまずはシブヤン海へ突入。因縁の海域へやってきた武蔵。さまざまな思いはあるが、冷静さを欠かさない武蔵と艦隊一同。ついに戦いの火ぶたが切って落とされる!
『第一海域、終わりました!山風ちゃんが大活躍だったんですよ!』
「そうだったのか。山風、がんばったなー」
「山風、お疲れ様。ゆっくり休んでね」
『う、うん…あんまり…構わないで…』
「ええ…」
「はははっ、恥ずかしいんだよな山風は!」
『う。うう…』
『うふふ…♪三条提督に懐いちゃうんなんてすごいですね~』
七原提督と玲司のテレビ通信。そこに時雨と山風もいた。山風の頑張りをどういうわけか玲司に報告したかったらしい。三条提督の事は嫌いじゃないと言う山風。おそらくは、おいしいご飯のおかげだろう。時雨は単にたまたま執務室にいて、そして山風の姉だからと会話に参加してみただけだ。
「さって、次は俺の番だな。シブヤン海だ」
『気をつけてくださいね。潜水新棲姫って言うすっごい強い潜水艦の深海棲艦が現れて…山風ちゃんが言うには、あいつの魚雷をもらうと大変なことになるって』
「わかった。ありがとう」
『刈谷提督にも報告してあります!』
「了解。じゃあ、やってくるよ」
通話を終了し、大淀に指示を飛ばす。大淀は大きく頷くと鎮守府内放送をし、シブヤン海に出撃するメンバーを執務室に集める。
シブヤン海へ出撃する艦娘達。
第一艦隊…武蔵、榛名、鈴谷、妙高、三隈、熊野。
第二艦隊…摩耶、鳥海、北上、神通、雪風、島風。
総旗艦…摩耶。
「相棒よ。随分と待ったぞ。命令は『死ぬな、生きて帰れ』だな。必ず皆と共に帰還することを約束しよう」
「おう、そうだぜ。負けても…いいんだよな?」
「自信なさげに言うんじゃないよ摩耶…そうだよ。勝ち負けに問わず、必ず帰って来いよ。絶対だからな」
「まあ、鳥海さんとか?妙高さんとか?ずのー派がいるんだから大丈夫っしょー」
「甘い!!」
「ひゃああ!!?な、何!?」
「甘いぜ鈴谷!慢心だ!慢心があたし達を轟沈させんだ!尻の穴引き締めて行けよ!」
「……摩耶?下品」
「この武蔵、慢心はない」
「まーカッカしないでいきましょー。ね、雪風?」
「はい!雪風、艦隊をお守りします!」
「まあ、勝って凱旋をいたいましょう。えむぶいぴー…とやらは頂きですわ!」
「くまのん?ですから勝ち負けにこだわってはいけないと言われましたわよね?」
うん、まあ相変わらずの緊張感のなさだな。いや、その自然体でいいんだ。変にカチカチになられるよりは動けるだろうし。そうだ。大規模作戦だからと躍起にならなくていい。いつも通り。それができるか否かで戦況は大きく変わる。少し武蔵がピリピリしているが、島風が武蔵に飛びついてじゃれたら邪険にすることもなく、笑って頭を撫でていた。
「摩耶、現場での指示は任せるぜ。鳥海、現場はコロコロ変わるから摩耶と協力してくれな」
「おう、任せとけって!」
「はい。司令官さんのご期待にお応えできるように努めます」
「妙高は強力な火力と指揮能力、期待してるぜ」
「はい、提督。この妙高にお任せください!」
「すーずーやー。お前は軽空母になって本格的な出撃だな。無理せずにな」
「う、うん!」
「大丈夫や!キミには教えるもんは大体教えた!緊張せんとバシッといけーい!」
「あいたー!!!」
師匠である龍驤の遠慮ない背中叩きにむせる。三隈は笑っているし熊野はどこかシラーッと鈴谷を見ていた。熊野はマイペースだなぁ…と思う。
「提督。時間が押しています。そろそろ…」
「お、おう、そうだな。よし、シブヤン海制圧艦隊、頼んだぜ!命令はいつも通りだ!必ず帰って来いよ!」
「了解!」
出撃艦娘の大きな声が響いた。
………
「そろそろ作戦海域だ。気を引き締めて行こうぜ。三隈、熊野、索敵を開始しようぜ」
「わかりましたわ」
「偵察隊、お願いしますわ!」
偵察機を飛ばすことができる艦娘は全員出した。
武蔵が硬い表情で空と海を見る。その顔は、いかんせん厳しい。
「武蔵さん、大丈夫?」
北上が心配そうに武蔵を覗き込む。北上にハッとなった武蔵は微笑む。
「いや、何。私の中の記憶がな。空からの攻撃と魚雷に気をつけろと言うのだ」
「そうなの?」
「ああ。航空機からの執拗な爆撃。魚雷。それによって私は…いや、『戦艦 武蔵』は沈んだ」
当時、もはやほぼ壊滅したと言っても過言ではない航空母艦。これにより、空の護衛はなく、防空も乏しく、執拗に空から攻め立てられ、成す術もなかった。そして、武蔵は敵に脅威を与えるほどの時間、沈没せずに戦ったが、やはりどうすることもできなかった。
「だがな。私はそうではない。空からの攻撃を阻害する摩耶がいる。そして空を護衛する鈴谷がいる。ならばあの時より遥かに戦いやすい環境だろう。そして、私には頼れる仲間が…家族がいるからな!」
「そうだね…ギッタンギッタンにしてやろうね!」
「おうっ!島風も武蔵さんのために頑張る!」
「はっはっはっはっ!期待しているぞ、島風!」
武蔵と島風は姉妹。大和が嫉妬するくらい島風は武蔵に懐いている。
「私には大和と言う姉しかおらんからな。うむ、信濃と言う妹がいるらしいが、艦娘としては存在せんらしいし、私のかわいい妹は島風だな」
「にひひー♪おねーちゃん♪」
「なんだ、島風よ?」
「武蔵さんがお姉ちゃんで嬉しい!」
「ああ、私もお前が妹で嬉しいぞ。よし、今日は私のおかず、唐揚げを好きなだけ食え!」
「ええー!?いいの!?あ、じゃあ武蔵さんに島風のタコさんウインナーあげるね!あーん!」
「おお、ありがたいな。あんっ…うまい、うまいぞ!よし、島風。私もあーんをしてやろう」
「あーん!んん-おいひい!」
「こら、食べながらしゃべってはいかん。行儀が悪いぞ」
「ぐぬぬぬぬ…武蔵は私の妹なのにぃ!」
「や、大和さん…いいじゃないですか、ね?」
「止めないで扶桑さん!武蔵!私にもあーんして!」
「今島風に食べさせているから忙しいな」
「う、うう…うわあああああん!ふそーしゃああああん!!」
「あ、あらあら…」
「私の姉さまに抱き着いて…ぐぬぬぬ!」
「これが噂に聞くシュラバと言うもの?」
「レディ…」
食事も、お風呂も、寝る時も一緒の事が多い。甘えん坊な妹。面倒見の良い姉。いい姉妹だなと思う。島風も玲司と話をしている時は武蔵の話が多い。優しいんだよ、とかかっこいい!とかとにかく武蔵の話だ。雪風達と遊んだりもしているが、武蔵と遊ぶことの方が多いかもしれない。
「私にとっては島風も、北上も…横須賀の皆。紫亜も茉莉も提督も皆大事な家族だ。そのおかげで私は寂しくないし、昔の記憶が私を不安に搔き立てても耐えられる。仲間を…家族を失うことなど耐えられんからな」
「あたしもそうだよ。あたしにとって家族って宝物を教えてくれた玲司。そして宝物であるみんな。失くしたら終わりかな。あたしは耐えられない」
「雪風もです!」
「うむ。そうだな。私も耐えられんだろう。最強の戦艦?そうしていられるのは皆のおかげだ。だから…私はここを乗り越え、皆と共に帰る」
「うん。頑張ろうね、武蔵さん」
「ああ!」
「敵艦隊を発見したぜ!全員、戦闘用意!!」
「戦闘用意!さあゆくぞ!」
武蔵や北上の目にも、敵艦隊の姿が確認できた。
「数が多いわ。ですが、ここは突破あるのみです!陣形、第四警戒航行序列!!」
敵が多いからと守りに入っては攻めきれないと判断した鳥海の指示により、速やかに攻撃陣形に移る。摩耶は細かい指示。鳥海はより細かい指示を出すことにより、その連携は高みへと向かう。
「鈴谷!艦載機の発艦準備を進めろ!三隈、熊野も残った瑞雲全部飛ばせ!妙高!神通と水雷戦隊狙いだ!」
「北上さんは遊撃でお願いします。雪風さんは武蔵さんの護衛。それから島風さんも遊撃です。体力が危うくなったら私の下へ来てください。摩耶、私も一緒にやるわ」
「おう!心強いぜ!さあ来やがれってんだ!!」
そもそも摩耶達はほとんど連合艦隊の練習はしていない。しかし、それぞれがお互いを意識し、支え合うためにちょっとやっただけで連携が可能だった。鹿島でさえ、まあ横須賀の皆さんならありえるでしょう…と言うくらいだった。
武蔵を始め、皆の動きも機敏だ。すぐさま陣形を切り替え、そして戦闘に臨む。
「この武蔵の主砲は!ダテではない!行くぞォ!!!」
「榛名!攻撃を開始します!」
ドッゴォ!!!
鼓膜をブチ破るのではないかと言うくらいの強力な戦艦の砲撃。榛名は武蔵に何も言わずとも支援のような砲撃を繰り出す。
「いいぞ榛名!もっと奴らに砲弾を食らわせてやれ!!」
「は、はい!主砲、よく狙って!」
榛名も「家族」と言う言葉を大事にしている。緊張した面持ちでありながら、武蔵と北上、雪風の話を真剣に聞いていた。時々うんうん、と大きく頷きながら。
榛名は提督の顔を初めて見たにも関わらず、なぜかはわからないが「懐かしい」と感じ、涙さえ流しそうになった。
やっと、また会えましたね。
後に綾波も同じ感覚を覚えたと言うので親交がある。それはさておき、村雨に鍛えられた長距離砲により、敵に損害を与えることができた。
「敵に命中!」
「いいぞ榛名!容赦はいらん!」
「鈴谷航空隊、発艦!」
「敵艦載機、来ます!すごい数!」
「チッ、敵にも空母がいやがんな!?」
空を仰ぐ武蔵。その艦載機の数を見る。ああ、これだ。絶望的な空からの刺客。これがかつての「戦艦 武蔵」を沈めた死神たちだ。少しだけ心を恐怖が支配する。しかし。
「対空射撃だ!!!いくぜえええええええ!!!!!!!」
「摩耶!任せたわ!!鈴谷さん!あれを掻い潜れますか!?」
「やってみます!!いっけぇ!!」
「僅かながらですが、三隈も支援いたします!」
「熊野も支援いたしますわ!」
「うおおおおおらあああああああ!!!!!」
「榛名よ、砲撃を一度止める!」
「えっ!?いいんですか!?」
「砲撃に集中しているとな、魚雷を見落とすのだ」
「魚雷くるよー。まあ、あたしがいるからにはそんな直線的な魚雷、あくびが出るくらい退屈な攻撃だけどさー」
「砲撃もきます!」
「雪風、島風、魚雷よーい」
「魚雷、発射します!」
「五連装酸素魚雷!いっちゃってー!!」
魚雷が滑るように走っていく。同時に敵が放ってきた魚雷は北上が冷静に自分の魚雷をぶつけて対処した。
「いったー。相手の魚雷なめてたわー」
「北上さん、大丈夫!?」
「島風、あたしは大丈夫。お、向こうも炸裂してるかなー。こんなとこで小破してると、何しに来たのかわかんないしね」
思ったより敵の魚雷の威力が高かった。あやうくだが手痛いダメージをもらうところだった。慢心したか。これではいけない。武蔵さんに怒られてしまうな。
「それじゃあ名誉挽回といきますかー」
「島風、突撃するっぽ…するよ!」
「ぽいぽいに追いかけまわされてうつった?」
「もー!夕立ちゃんの言葉ってうつるー!!」
緊張感がないようにも見えるがこれはいつも通りだ。これが自然体。下手に緊張してギスギスしているほうがうまく動けない可能性が高い。北上は確かに多少憶測を誤ったが、熟練提督の艦隊でも中破が出るかもしれないくらいの雷撃の激しさだった。
北上は冷静にそれら全てを排除した。北上以外は無傷で。雪風が「いち、に、さん…」と妖精の舞の準備を始めている。
魚雷が直撃したらしく、深海棲艦が慌ただしく隊列を組み直したりする怒号が聞こえる。ああ、島風と雪風の魚雷は強烈だかんねぇ、と思った。一番凶悪なのは北上の直線ではなく、カーブを描いてきたり、音も雷跡もなく襲ってくる魚雷なのだが。それも雪風達の数の比ではない。
「これは痛快だな」
あちらの攻撃はまんまとかわされ、こちらの攻撃はほぼ全部直撃。そのせいで慌てふためいている深海棲艦共を見ると笑みがこぼれる武蔵。しかし、この程度で手を緩めるはずがない。
「慌てている今が機です!油断せず砲撃の手を緩めないでください!」
「三隈さん!熊野さん!妙高に続いてください!」
「くまりんこ!」
「その掛け声なんとかなりませんの?とおおおおおおぉぉぅう!」
「くまのんの掛け声もですわよ!」
「全砲門!開いてください!」
「……ここだね!いっけえええええ!!!」
妙高達の砲撃音と同時に鈴谷も動いた。一気に艦爆を急降下させ、爆弾を投下。さらには北上の魚雷に混ざって艦攻の魚雷も叩き込んでいた。
「オノレ、艦娘!!!ナゼダ!ナゼダ!!!ナゼ我々ノ攻撃ガ当タラン!」
「ヲッ…艦載機…モット、飛バス…」
「!!艦載機が増えたぜ!?」
「……戦艦を…狙っている!武蔵さん!榛名さん!」
「榛名よ、妙高達の所へ行け」
「で、ですけど!」
「構わん。私の装甲はダテじゃないぜ。私があのハエ共を引き付けている間に空母を潰してくれ。頼んだぞ。行け!私は冷静だ」
「あたしがいるかんな!あたしが代わりにつくぜ!」
「フッ、すまんな摩耶。付き合ってもらうぞ」
「わかってるよ。あたしは防空巡洋艦だ。そのハエ共を叩き落とすのが仕事だ!!」
「摩耶!任せたわ!榛名さん、こちらへ!みんなで空母を落とします!!」
「いや、待て鳥海!空母以外を狙え!」
「摩耶!?」
「これならしばらくもつ!龍驤さんの修行なめんなよ!空母にかまけてたら見ろよ、前!リ級の奴がニヤニヤして待ってんだよ。空母狙えよ。そしたらボコボコにしてやんよ、って顔してる」
そうか、と鳥海も妙高も思った。そして摩耶の対空射撃の能力の高さを侮っていた。仲間を侮るなんてひどい話だと妙高は反省した。鳥海は単純に妹として摩耶を心配していたからと言うのもある。摩耶1人でそれはキャパオーバーになるのでは…?と。しかし、それもまた摩耶の能力を侮っていたに他ならないのだが。
「任せてくれよ、鳥海。あたしはこんくらいで防空失敗したら龍驤さんに艦載機増やされちまうからよ!」
「はっはっはっは!いいな摩耶!おもしろい!!!では私も頑張って囮を頑張ろうではないか!」
武蔵の危険な役目を引き受けることを容認した鳥海も度胸があると言えばある。摩耶も防ぎきれる自信があるからと危険に飛び込んでいく。雪風も今、武蔵や摩耶の負担を減らすために妖精の舞で砲林弾雨の中へ飛び込もうとしている。
「来たぜぇ…?いくぜ!!!」
「ふっ、いいぞ。私はここだ…当ててこい!!」
「全員!目標!前方の重巡や戦艦を重点的に狙ってください!」
「………!!!」
榛名がキュッと唇を噛んだ。武蔵さんはすごい…いいえ、鳥海さんも摩耶さんも雪風さんも…みんな、みんな「家族」と言うもののために戦う。そして、命を懸けて命を預けることができる。すごい勇気だ。鈴谷さんも最初はものすごく震えていて自信がないと言っていたのに…。
「三隈!さんきゅ!これで…こう!!」
「すずやん!瑞雲でサポートしますわ!」
「わたくしは攻撃に転じます!とおおぉおぉお!!」
「チ、チカラが抜けるぅ!」
「すずやん!まじめにやってください!」
「熊野ー!熊野がぁ!!ええーいちくしょー!いっけーーー!!」
姉妹が勇気を出しているのに自分だけブルってらんないっしょー、と独り言を言っていたのを思い出した。榛名は…榛名…は…!
大丈夫。榛名は…大丈夫。そう、大丈夫。さあ、息を吸って。
どこからか声が聞こえてきた気がする。目を閉じる。なぜか、数多の敵に囲まれている中を…比叡お姉様…?血まみれで…そして…それをものともせずに立ち向かう…榛名の姿?
提督を…守ってください!そして、仲間を…「家族」を守って!
「撃てえええええ!!!」
鳥海が吼えた。それと同時にカッと目を開ける榛名。榛名はその時、恐怖は消えた。そうだ。榛名も横須賀の家族の一員。家族を守るために…榛名は戦艦だ…!戦艦は…勇気の象徴!武蔵さんのように…扶桑さんのように…強く…なる!!
「撃て!!!!」
目の前の敵を撃て。撃て。撃て!!!!!
榛名の砲撃は敵の戦列を穿つ。リ級やタ級を吹き飛ばす。
「敵の砲撃!武蔵さんを狙っています!!させません!!!!」
「えっ!?榛名さんどうして見えるの!?」
ドゴォ!!!!ドッゴォ!!ボォン!!!
錯乱しているわけでも。狂乱に陥っているわけでもない。榛名は砲身が焼け付くのではないかと思うほどに激しい砲撃を続けた。その砲撃は敵を正確に撃ち抜いていく。なぜ?榛名さん、先ほどまで怯えていたようにも見えたけど…。
うっすらと金色のオーラが見える。あれは…何?そして背後にもう1人、榛名がいたような気がした。その気迫は本気を出した扶桑でさえ凌駕するような…そんな気迫だった。
「敵撃破!鳥海さん!次はどれを!?」
「はい!あっ!」
「はいはーい。鳥海、こっち半分はあたしと島風や神通でやるからそっちよろしくー」
「北上さん、助かります!」
「神通、参ります…!」
「島風、いっくよー!!」
ヒュボッと神通と島風が消えた。速い。そして雪風を追っていく。雪風は弾の雨を踊るように回避する。そしてそれを縫うように音もなく北上の魚雷が飛ぶ。
「ナッ!?」
「んふー。あなたって遅いのね!」
「お覚悟を…」
「ク、クオオオオオ!!!!!」
茨に絡めとられ、隼に襲われ、深海棲艦は爆発する。あちらもすごい…けど、こちらは…榛名さんが…武蔵さんが…すごい!
榛名さんは金色のオーラが強くなっていく。その度に砲撃の精度も上がっていくし、砲撃を恐れずに回避する。これは…もう一方的な蹂躙じゃないか?そう思えるくらいだ。
「ははははは!!相棒よ!これは痛快だぞ!!!」
「…………」
武蔵と榛名。横須賀の戦艦に深海棲艦が恐怖する。怯え始める。それに乗じて妙高や鳥海も猛攻を仕掛ける。数においては向こうの方がはるかに多いし、戦艦の攻撃をもらって大破でもすれば、それこそ主力を見つけていないので撤退することになる。司令官さんは撤退してもいいと言っていた。命は最優先だ。だけど…勝ちたい。勝って司令官さんに褒めてもらいたい。頭を撫でてもらいたい。そんなことを鳥海は思っていた。
他の提督達は大淀にばかり目が行っているが、軍師としては鳥海だってずば抜けている。冷静沈着。そしてその頭の回転はよその大淀や鳥海どころか、他の頭脳艦娘にだって負けないのだ。
「摩耶!少し下がるわ!いける!?」
「おう!任せとけ!」
下がると言うことは摩耶と武蔵さんを危険に晒す。けど、それでいい。囮になると言ったのなら徹底的に利用する。どこの艦娘もこんなことは思いつくまい。囮を必死で呼び戻そうとするだろう。危険が増すのだから。だが、囮でありながら苛烈な攻撃を繰り出す武蔵と艦載機を撃墜しまくる摩耶。これを見て呼び戻せばこちらも危険だ。
「鳥海さん、敵艦隊は今が機と思い、こちらへの攻撃が少なくなりました」
「…計算通りですね。ですが、長く武蔵さん達へ引き付けると危険です…」
『鳥海。ちょっとそっちのやつらにちょっかいかけるわー』
予想通り、北上さんが反応した。その無線に乗じて神通も動いた。島風さんと雪風さんはそのまま陽動。あいつらは北上さんや神通さんがそっちへ反応したとなれば、駆逐艦であると油断している雪風さん達にくぎ付けになると予想した。
『バーカ。鳥海の策にまんまとハマってやんの。おもしろー』
ズガアアアアアア!!!!
雷鳴。まさに雷鳴だ。魚雷が炸裂する。
『さーて、もうちょっと魚雷に余力あるから見せてあげるね。死神北上さんの魚雷の檻』
「北上さんは死神ではありませんよ」
『ありゃりゃ、怒られちった。ごめんごめん』
もう…とため息を吐く。かつてはそうだったかもしれない。今は…大切な家族。そんな人を死神と卑下する北上さんを窘めるのも私の仕事。そして、よその人も艦娘もそう言う人は許さない。
「ニ、逃ゲラレ…!!」
『逃がすわけないっしょ』
再度雷鳴。苛烈な北上の木曾直伝(当の本人はもう北上姉の技でいいよ…と嘆いているが)の魚雷の檻。囚われたら最後、もう吹っ飛ばされるしかない。
悲鳴も聞こえない。そして…辺りはバラバラになった深海棲艦の群れ。
「…!空母が見えました!」
「武蔵さん!!!」
「おお!!榛名!私に続けェ!!!!」
「はい!!!!!」
鳥海の号令で待ちわびたと言わんばかりに武蔵が大いにはしゃいだ声で反応した。武蔵の凶悪な46cm砲。そして榛名の35.6cm連装砲改(ダズル仕様)が火を噴く!!ヲッ!?とヲ級が言った気がしたがもう遅い。無防備を晒すヲ級になす術はなく、瞬く間に戦艦の砲撃、そして狙いすました鈴谷の艦載機の爆撃が降り注いだ。
敵は壊滅に陥った。満を持したレイテの歴戦の深海棲艦の群れ。ざっと100近くはいただろうか。それは、たった12人の艦娘によって壊滅させられた。腕を失ったリ級や損傷の激しい深海棲艦が多くいる。
「タ、助ケテ…痛イ…」
「貴様らが命乞いをするとはな。遺言は聞いてやろう」
「ヤ、ヤメテ…マダ、マダ死ニタクナイ…オ願イダ…」
「駄目だな。貴様らを生かしておいて、主力と戦っている時に背後から狙われてもかなわん。ここで沈んでもらうぞ」
「ウ、ウウウウ…助ケテ…鎮守府ニ…帰リタイ…提督…!提督!助ケテヨォ!!!」
リ級が提督と口にすると、他の深海棲艦も助けて。死にたくない。提督、会いたいなどと言い始めた。とどめを刺す気であった摩耶や北上、鳥海や榛名も動きが止まる。
「う、嘘だろ…こいつら…」
「………くっ!」
「鳥海さん、早く砲撃の許可をくださいまし」
その時、熊野だけは冷めた目で深海棲艦を見ていた。ゴリッとヲ級の頭に砲を押し付けると「ヒィ!」とヲ級が声をあげたが、熊野はまったく気にも留めていない。
「く、熊野…!この子達、沈められた深海棲艦だよ!も、もしかしたら本当に…」
「深海棲艦は深海棲艦ですわ。武蔵さんの仰る通り、ここで見逃したら背後から挟み撃ちにされましてよ」
「で、でも…三隈は…撃てま…せんわ…」
「提督…提督!会イタイヨォ…」
「ほう、貴様。沈められた艦娘か?どこに所属していた?」
武蔵も熊野と同じく、冷たく見下ろす目でリ級を睨む。
「横須賀…横須賀ダ!!!」
その言葉にええ!?と島風が驚いた。雪風は悲しそうな目になった。その横で北上が恐ろしい、時雨に襲い掛かった時のような目で深海棲艦達を睨んだ。
「おお、横須賀か。そうか。横須賀と言うなら、あれか?北上達が酷い目にあわされたと言っていた愚かな提督の時の無謀な出撃で沈められた艦娘か。それは辛かったろうな」
「ソ、ソウ…私タチ…モウ…戦イタク…ナイノ!!」
「そうか。わかった。ところで、貴様らが沈められたのはいつごろだ?」
「ウ、ウウ…半年…前…ダ」
一同がハッとなった。北上の目から光が失われていく。
「鳥海さん、早く許可をくださいまし。不愉快ですわ」
「まあ待て熊野。ここは私に免じて撃つのを待ってくれないか」
「…武蔵さんがそう仰るのでしたら…」
熊野は少し笑っていた。深海棲艦達は安堵していたが…武蔵さんがあなた方をまだ「貴様呼び」しているのなら…そういうことですわ。
「ア、アリガトウ…助ケテクレル…アリガトウ…」
「何を言っている?私は貴様らを助けるなどとは一言も言っておらんが?」
「…何…ヲ?」
「なるほど。彼女が言っていた通りだな。知恵を持った深海棲艦は命乞いをし、提督などに助けを求め、情に絆されたら全滅するとな」
「うーん、まったくもってその通りだったね」
「北上よ。お前が言っていたことも確かだった」
「でしょー」
「何ヲ言ッテイルンダ…?」
「知恵を持った深海棲艦は言葉を発する。イ級などとは違う。貴様らは我々艦娘と同じく、知恵を持ち、戦略を練り、そして何より私達と言葉を交わすことができる。だがな、人間や艦娘と1つだけ決定的に違う所がある」
「ソレハ……?」
「はて、私が知る限り、横須賀鎮守府では…この1年で沈んだ艦娘はないと聞いているが?」
「1年と半年くらいは沈んでないね。誰も。そう、誰もね」
「ナッ!?」
「提督と連絡を取ってやろう。元は何という艦娘だ?1年半、提督を横須賀でやっている。聞いてやろう。名簿に載っているかもしれんからな」
「………」
ギリギリと歯を噛み締めるリ級。
「これだ。艦娘とある程度成長した深海棲艦は言葉を発することができる。こうして対話もできる。深海棲艦同士で作戦を練って命令をすることも可能だろう。だがな、たった一点だ。貴様らは対話の際は人間や艦娘を欺くためだけにしか言葉を発しないと言う点だ」
「!!!待ッテ!!!私タチ…コノ子達ト家族ナンダ!!!家族ヲ…殺サナイデ…!」
神通ももはや待てないと言った感じだった。怒りに眉間にしわが寄っている。神通にしては珍しい、激怒だろう。家族、と言う言葉は横須賀の皆には何よりも重い言葉だ。
「家族ねぇ。じゃあさ、お前らにとって家族って何?」
北上がそう答える。摩耶は思う。あんたと言わずにお前と言っている時点でこいつは激怒してる。それもやべえくらい。
「家族…家族…トハ…共ニ戦イ…共ニ…過ゴス…」
「うんうん。そうだね。で?それから?」
「ハ?」
「あるでしょ、他にも。え?ないの?」
「命令シ、使役シ…」
「ぶっぶー、外れー。わかる人ー」
「武蔵が答えよう。共に生き、共に戦い、共に風呂に入り、同じ釜の飯を食い、共に寝、共に笑いあう。家族はそう言う、暖かく、優しく、そして幸せになれるものだ」
「ア…ア?」
「家族と言う言葉を出した時点で貴様は私達を侮辱しているのだ。そして貴様らは家族と言うものをわかっていない。わかるはずがないだろう。貴様らは上下関係しかないのだからな」
「ク、クウウウウ…!!!」
家族の温もりを知っている武蔵達。それを知るはずもない深海棲艦。家族と言う名を。そして同情を誘おうとしても無駄だった。武蔵の言う彼女とは紫亜だ。
「深海棲艦…そうね、私もそうだけど…深海棲艦は艦娘を欺くためにしか言葉を発しない。そして、あるのは人間、艦娘に対する殺意と破壊の衝動のみ…知恵を持つ深海棲艦なら…あなた達を討つために言葉を発して対話をしてくるわ」
紫亜や茉莉が極めて特異な深海棲艦であると言うことはこれでわかった。そうでなければ、花を慈しんで育て、おいしく食べてほしいと思いを込めて料理をすることもない。妹と言って皐月や文月達に優しく笑うこともない。
「フザケヤガッテ!!ヨクモコケニシテクレタナ!!今スグ「全員!砲撃用意!!」」
鳥海の声に全員が一糸乱れずに砲を構えた。ヒィ!と深海棲艦が悲鳴をあげた。そしてまた、助けてや殺さないで、家族を殺さないでと言うが…。
「撃て!!!!」
轟音が響き渡った。硝煙が周囲を包んだが…やがて晴れる。そこに深海棲艦の姿はなかった。
「…紫亜さんに言われていたのに…」
「仕方ないっしょ。あたしたちは『情』って言うのがあるんだからさ。あんなことを言われたら腹立つけどためらうよ」
「……それを悪いことに使うのは許せません…」
「雪風。そういうもんだよ。深海棲艦ってのは艦娘を殺すためなら何だってやるんだってさ。紫亜さんが言ってた」
「………」
「熊野さんがとても冷静で…」
「深海棲艦に情なんて必要ありませんの。わたくしの優雅な生活を壊そうとする敵ですの。鈴谷や三隈、皆さんを殺しにかかってきた時点で情けなんて必要ありませんわ」
「ははははは!熊野!そうだな!私もそうだった!」
熊野の言葉に武蔵が大いに笑う。熊野はこういう時には至って冷静、かつ合理的だった。いつもは鈴谷にも最上にも、提督にさえもポンコツお嬢様と言われているのだが…。
「さあ、早く行きますわよ。主力を倒して、提督にオムライスを作ってもらわないといけませんもの!」
「う、うう…熊野に言い返せないしぃ…」
「ふん。さすがの私も腹が立った。因縁も何もない。こんなことを言わせた主力やらは、私が捻りつぶしてやろう」
「うん。ぶっ潰そう、武蔵さん」
「雪風もぶっ潰します!」
「島風もぶっ潰す!」
「武蔵さん!その言葉遣いは雪風さん達に悪いです!やめてください!」
「鳥海、今更それ言うか?」
「摩耶、あなたも!」
「あたしもかよ!?」
「はいはい、ケンカしてないで行くよー」
声は普通のようだが全員が怒っていた。深海棲艦にこんな作戦を立案したであろう主力艦隊…親玉に。その後は無言で敵を蹴散らしつつ、シブヤン海の主力艦隊が待つ場所へと向かった。
レイテ沖海戦がついに始まりました。まずはシブヤン海の武蔵達です。
武蔵は自分を馬鹿だと言っていますが、そんなことは全くなく、頭の回転は早いですし、舌戦で勝つ語彙力も持っています。能ある鷹は爪を隠す?でしょうか。
そして圧倒的な火力。装甲に頭脳。今回は鳥海もそうですが武蔵の機転も見て頂けたらと思います。
そして、榛名は「英霊榛名」に協力を得たようですね。まだまだ開花したばかりですのでついていけていないようですけども。
次回は武蔵達と主力艦隊の対決になります。過去のレイテのイベントのシブヤン海を見てみましたが、残念なボス編成で武蔵がいるとどうにも…と言う感じでしたのでアレンジしています。お楽しみください。
家族を侮辱された怒り心頭のシブヤン海討伐艦隊の本気をご覧ください。
それでは、また。