怒りに満ち満ちた武蔵の強さをご覧ください。
道中の深海棲艦達も自分たちの艦隊が危機に陥ると「助けて」だとか「家族を殺さないで」などと言う言葉を放つ。その言葉に武蔵の胸中は怒りがこみあげていた。
これを誰かが吹き込んでいる。いい作戦だなとは思う。おそらくではあるが、我が鎮守府の艦隊以外であれば、コロッと騙され、情に絆され、撃つことをためらうだろう。ご丁寧に涙まで流したり、他の深海棲艦を庇って「この子だけは殺さないで!!」と迫真の演技を披露してくれるのだ。
駄目だな、と言うと「この人でなしが!」などと罵ってくるおまけつき。
「人でなしだと?貴様らが助けてと言った艦娘を救ったことはあるか?殺さないでと言った艦娘を生かしたか?どうだ、答えてみろ」
「私タチハ知ラン!!ダガ、イルハズダ!!」
「正解はな、いないんだ。話には聞いている。雪風が襲われた時も。どこぞの泊地の艦隊が北上達によって救われた時も、貴様ら深海棲艦は嬉々として艦娘に砲を向け、殺そうとしていた。なので殺し返した」
「…………!!!」
「見え透いた嘘ついてんじゃねえよ。あんたらが一回でも艦娘や人間を助けようとしたとこなんて見たことないね。人でなし?あーあー、人でなしでいいよ。だってあたしら、艦娘だしさ?」
北上も口を出す。北上も怒髪衝天どころではない。怒り狂っている。
「ふっ、人ではないのは確かだな、ははははは!」
「武蔵さん、北上さん?面倒ですのでもう始末してよろしくて?正直深海棲艦の戯言を聞くのは耳障りで不快ですの」
ズガァン!!と熊野は容赦なく20.3cm砲を撃った。この熊野のゴミでも見るかのような目。そして無表情で淡々と深海棲艦を始末していく様に三隈も鈴谷も怯えていた。あのコロコロと表情を変え、鎮守府ではニンジンのせいで悲鳴をよくあげる賑やかな熊野が。レディを丁重に扱ってくださいますこと!?といつも提督にやかましく訴えているあの熊野が、無表情なのだ。そして、何のためらいもなく、深海棲艦の眉間めがけて砲を撃つ姿が想像できなかった。
「耳にタコができますわ。同じことを誰も彼もが口になさいますけど、その濁った目からはわたくし達をいつ殺してやろうか、と言う目ですもの」
熊野が冷静に水底に沈んでいく様を見届けながら語る。
「く、熊野…だからってそんな淡々とされたら怖いんだけどぉ…」
「何を言っていますの?彼女らに容赦は一切不要ですわ。それとも、見逃して背後から撃たれて沈んでしまいたいんですの?わたくしはお断りですわよ」
「くまのん…一体…どうなされたの?」
「提督の命令に従っているだけでしてよ?死ぬな、生きて帰れ。これに尽きますわ」
「それでも!それでもいつもの熊野じゃない!」
「わたくしはわたくし、ですわよ鈴谷。沈むのはお断りですの。誰かが沈むのも見たくありません。全員で帰還する。そうでないとわたくし、心がもちませんの」
「熊野さん…」
鳥海も熊野の変貌に驚いていたが、砲が少し…そう、手が震えているのが見えた。熊野は冷静を装っているに過ぎない。北上や武蔵のように冷静ではないのだろう。
「わた…わたくしは…わたくしの帰る場所はあそこ…あそこだけですの…だから…だから、こんな深海棲艦の嘘欺きを信じるわけにはいきませんの!!!!みなさんが家族なの!!!最上や、三隈や鈴谷たちだけじゃない!わたくしにとっては皆さんが姉であり妹であり!!!お友達ですの!!!!だから!!!誰か1人でも欠けるわけにはいきませんの!!!!!だから…!!!だから…!!!わたくしは深海棲艦を葬り去るために今は!鬼にでも悪魔にでもなってやりますわ!!!!!」
涙を流していた。怖かったのだ、熊野も。彼女たちにも家族がいるのだろうか?そうですわよね、死ぬのは…誰だって怖いですわよね。わたくしだって怖いですもの。そう思っていた。
「深海棲艦は人や艦娘を欺くために対話をするわ。これだけは忘れないで」
元は深海棲艦であった紫亜がそう言ってくれなければ、今頃は熊野はこうも冷静に撃ち殺すことはできなかっただろうから。この助けても、家族も、わたくし達を殺すための嘘方便。そう知っていなければ鳥海さんに捨て置きましょうと言っていたに違いない。
武蔵が優しく熊野の両肩に手を置く。暖かい。それだけでもまだ救われる。
「熊野よ。恐怖を押さえつけてよくぞやってくれる。偉いぞ。この武蔵が褒めてやろう」
「武蔵…さん…!!う、ううあああああああ!!!」
熊野は泣き出した。恐怖が晴れていく。多少だが。仲間を守るため、家族を死なせないために彼女は冷徹に振る舞った。本当に家族が居たらどうしよう、とか、人でなしと言われて胸が砲撃でも受けたかのように痛んだ。
「熊野よ。深海棲艦は嘘しか言わん。お前も見ただろう、助けてと言っている目の奥が濁っていること。いつ寝首をかいて私達を葬ろうかと躍起になっている目を」
武蔵の胸に顔を埋めながら頷いた。それは熊野に恐怖しか与えなかった。撃たなければ自分が死ぬ。自分が頭を、機関部である心臓を撃ち抜かれて殺される姿を想像しただけで吐きそうだった。何度えずきそうになっただろうか。熊野は小心者だ。怖かった。それでも「仲間を守れ」と言う使命感だけで淡々と始末した。
「熊野…お前、すげえよ…」
摩耶にそう言われても全然すごくない。妙高も手を握ってくれる。
「熊野、もういいよ。後はあたしがやるからさ」
北上にそう言われてもブンブンと首を振る。自分もやる。そう言っている。三隈や鈴谷は戸惑うばかり。自分にそんな覚悟は…ない。雪風や島風には北上がそれをやらせない。
「汚れ仕事はお任せってね」
雪風は北上に抗議したが聞き入れなかった。
「カエルの時代は深海棲艦に堕ちたくちくを始末したりもしたんだ。あたしの手も汚れてるよ」
あの子達、深海棲艦なんかになってないといいなぁと言いながら北上は空を仰ぐ。やってくれる。あたしたちはまんまとこいつらの心理戦に負けた。
「まだ負けてはおらん。私は負けたなどと思ってはおらん。いや、私達の勝ちだ」
「武蔵さん?」
「考えても見ろ。心理戦などと言っているが、私達はそれに負けることなくアレらを屠っている。私達は今誰も損傷も受けていないし、沈んでもいない。私達が優勢なのだ」
こればかりは紫亜に感謝せねばならんな、と武蔵はニヤリと笑った。もっとも、武蔵自身は紫亜に聞いておらずとも、深海棲艦に情けなど施す気はさらさらなかった。深海棲艦はすべからく滅する。これでなければ家族はやっていけん。非情さを持ち合わせねば生きてはいけん。これは戦争なのだから。
「熊野の判断はとても正しい。心を無にはできんだろうが、それでも、な」
「…クッソ。めっちゃムカついてきた」
「そうだ北上。この心理戦は私達の勝ちだがひどく気分が悪い。私も怒りで頭がどうにかなりそうだ。だが、冷静になるんだ。そして、この作戦を下の者に吹き込んだ主力にその怒りを叩き込め」
「……そう、だね。そうする」
北上の目はすでに怒りを露にした光のない黒い目をしていた。雪風もキッと目を鋭くさせた。
「おうっ!島風も怒ったよ!」
「………」
神通も目つきが鋭くなった。妙高や鳥海達は戸惑いながらもやるしかない、と頷き合った。ある意味、熊野を除いた重巡が正しい反応だろう。武蔵はさておき、まだまだ北上や雪風、神通達のように戦闘慣れ…できていなかったか。
「よし、行こうぜ。その余計なことを吹き込んだ連中をぶっ飛ばしてやる」
「そう、ね…熊野さんが落ち着いたらね」
「ああ」
武蔵はここに来て精神的支柱となった。どんな揺さぶりも通用しない。そしてどんな時でも大きく包み込んでくれる。武蔵さんがいるから、もう動揺しない。あの笑顔と、大きな心。それだけで何とかなりそうな気がしていた。
実際の武蔵はと言うともう怒り狂っているのだ。だがどこかで理性を働かせ、落ち着いているが。
(言えることは1つだな。私はおそらく、主力と思われる深海棲艦を見た瞬間に…プツンとキレるだろうな)
もはや先ほどからの深海棲艦への同情作戦により、怒りを抑えるのも限界だ。速く出てこい。さもなくば貴様の手下どもを情け容赦なく、泣き喚こうが全員この武蔵が沈めてくれる。いや、北上もか。
「さて、腹が減ってきたな。帰って相棒に赤い米にきいろいふわふわを乗せてもらった物が食いたい」
「オムライス!雪風も食べたいです!」
「島風もー!」
「そうだろう!熊野、どうだ?」
「グスッ、ええ、わたくしも食べたいですわ」
「よし、では摩耶。行くとしようか」
「お、おお…」
あれ?あたしこれ旗艦じゃなくてよくね?と思う摩耶であった。
………
それから進撃を進めたがまだ主力は見当たらない。そして、先々の同胞がことごとく沈められていることからあのお方から教えられた作戦は通用しないと感じた深海棲艦も徹底的に攻撃をするだけの単調なものとなった。
「どうしたー!?あたしらにもう助けてとか言わねえのか!?」
「泣いても喚いても助けはせんがな!!!」
「お前らはもう死んどけよ」
対する摩耶達の攻撃も苛烈だった。北上の砲撃はリ級にすら致命傷を与え、榛名も厳しい顔をして深海棲艦を沈める。
榛名は…どこか熟練の艦娘のような動きだった。鳥海はこれは予想外だった。首をひねるだけで避ける。相手の砲撃と同時に砲撃で撃ち返すなど、おおよそ練習で行ったこととは違う行動が垣間見れた。
(さっきから怖くない…体が軽い…けど、これに慢心をしてはいけませんね…!)
見える。敵の攻撃が。相手の突き刺すような殺気。そして撃つ瞬間の気配が。榛名の性格上、こうなったとしても慢心はない。司令塔である鳥海や妙高、そして空母である鈴谷を守りながらもしっかりと砲撃を繰り出し、敵を葬る。
(榛名さんに死角がない…計算外ですけど…これで戦局が大きく変わった…!)
鳥海はこれを予想していなかった。榛名はまだ改二になったばかり…司令官さんともよく話をしたが、まだまだ榛名は経験的に不足なところが多い。だが今の榛名は熟練の扶桑や霧島のよう…いや、もっと戦闘を知っているかのようだった。これは嬉しい誤算だった。
「榛名さん!このまま進みましょう!」
「はい!」
「タ、助ケテ!!殺サナイデ!!」
またか…これは本当に頭が痛い。ここにきてから形勢が不利だとわかると命乞いを始める。徹底的に吹き込まれているらしい。わたし達の引き金を引く指を躊躇わせる…。しかし、先ほどの熊野さんの強い言葉により、躊躇いは捨てた。そうだ。摩耶を含め最上や五十鈴さん…司令官さんに大淀さん。皆さんの笑顔を思い浮かべる。これを翳らせてはならない。いいえ、むしろ誰かが沈んだりでもしたらわたし達の家は終わる…。
「もう、その言葉には騙されません!」
「エッ」
「鳥海さん!」
「はい!」
ドン!!
ヲ級を沈める。榛名の砲撃では至近距離では危険すぎる。やや距離を取っていた鳥海がうまく砲撃をし、沈めた。
「ちぃ!」
「摩耶!」
「何でもねえ!ちょっとかすったな。さーすが、奥までくるとflagshipなんかが出てきて厄介だな!」
「摩耶、気をつけて!艦載機は…!」
「任せとけって!」
「鈴谷さんを援護します!」
「神通、いきます!」
チームワークにおいては1つにまとまっている。鈴谷をサポートしたり、まだ少し精神面が怪しい熊野の補助に回る神通や島風、雪風。苛烈な攻撃をしかける北上。あれよと言う間に主力艦隊へと近づいていく。
そして、空が禍々しい赤い空になり、波も少し荒れだした。これは…。
「主力艦が近いわ…すごい気配…」
「鳥海よ。気圧されるな。大丈夫だ。私達の敵ではない」
武蔵が前に出る。気配は姫級…万が一の不意打ちのために武蔵が壁になる。いや…武蔵さんが大破でもすると戦力が落ちるのですが…と言いたいが、この安心感はすさまじい。
「摩耶、対空装備の弾薬は?」
「問題ねえよ。余ってる。空母棲姫でもなんでも来やがれ。負けねえよ」
「北上さん、魚雷は?」
「だいじょーぶはかせー。雷の檻をめちゃくちゃぶち込んでやる」
(皆さんの弾薬も問題なさそうですね)
「鳥海さん、雪風さんの体力に問題があるかもしれません。いかがいたしましょうか」
神通が声をかける。雪風は肩が上下している。全力で動きすぎたか。しかし、これは想定済みだ。
「雪風さん、武蔵さんの護衛をお願いします。前へは出ないでください」
「…わかりました!」
「島風がいくよ!」
「無理はしないでくださいね」
「おうっ!」
「この妙高、榛名さんと共に攻撃を致します」
「妙高さんがいてくださると心強いです…!お願いします!」
榛名はここに来て金色のオーラが強まっているような気がする。榛名さんは初めて姫を見るはず。なのに震えたり怯える所作はない。それどころが先を見据えて強く睨むような目をしている。榛名さんに一体なにがあったんだろう?こればかりは鳥海でもわからない。
「ホウ、ココマデ来タカ。全滅…カ?」
低く威圧する声が聞こえる。震えあがるほどの気迫を持つ人型の深海棲艦。
「その通りだ。貴様らの仲間は私達が壊滅させた」
「仲間…?何ダソレハ。フフ、ソノヨウナモノハイナイ。私達ニイルノハ所詮、私達ノ盾、使イッパシリ…ソノ程度ダ」
「フン。やはりそうだろうな。その程度の認識で、アレらに仲間だ家族だと言えと吹き込んだのか。つまらん真似をしてくれた」
武蔵が眉間にしわを寄せながらそう返した。
「クク、ドウヤラ少シハ効イタカ…ナラバ成功ダナ」
「いいえ、失敗ですわ。あなた方の目論見は全て失敗しましたわよ。残念でしたわね。そもそも、成功したと言うのでしたら、ここにはわたくし達は来れておりませんわよ?」
熊野も前に出た。とても冷めた目をしている。ふむ、こやつらをこちら側に引き込めば使えるかもしれんな。
「戦艦水鬼…ですね。それと、空母水鬼」
「エエ、ソウデスヨ?ハジメマシテ、デスネ。クスクス」
「はじめまして、そしてさようならだ」
ゴンゴンゴン…と言う音をあげ、武蔵の46cm砲が鬼たちに向けられる。その表情は怒りを露にしていた。
「随分ト…物騒ナ挨拶ダナ」
「貴様らとの会話は成立するとは思っていない。時間の無駄だ」
「アラ…失礼ナコトヲオッシャルンデスネ…コウシテ会話ガデキテイルデハアリマセンカ」
「いいや?どうせ貴様らとは殺すか殺されるかの戦いになるわけだ」
「それに…あなた方の声はひどく不愉快ですもの」
「クク、黙ッテ聞イテイレバ言イタイ放題ダナ。私達ガソンナニ憎イカ?オ前達トテ憎シミニ燃エルノナラ…我々ト変ワラン」
「そうだねー。憎んでうざいとか思う気持ちはあたし達にもあるからね。あー、これも時間稼ぎ?めんどいんだけど」
「………」
「貴様らは家族と言うものを馬鹿にした。これだけですでに会話が成立するとは考えていない。ぶち殺すぞ、深海棲艦」
「オオヤ、恐ロシイ…話シテモ無駄…デスネ」
「司令官さん、戦艦水鬼と空母水鬼が主力のようです。これより戦闘に入ります!」
『了解した。武蔵、鳥海、みんな、気をつけろ。戦艦水鬼は厄介だぜ』
「それは…どこがですか?」
『しぶといんだよ、そいつ。撃沈したと思っても、砲が全部だめになっても襲ってくるぞ。絶対に最後までトドメを刺せ』
「そうか。では完膚なきまでに破壊し尽くせばいいのだな?私の得意分野だ」
『ああ。気をつけて帰って来いよ」
ああ、これだ。私は相棒のこれが聞きたかった!絶対に帰らねばなと思わせてくれる!
「任せておけ。さて、鳥海よ。この戦艦水鬼は任せてくれ。空母水鬼を任せる」
「えっ…」
「雪風と共に戦うとしよう。無理はするんじゃないぞ」
「はい!わかりました!」
「私はな鳥海よ。あのような作戦を知りもせんうちに吹き込んだこいつが許せんのだ。貴様だけは殺す。絶対にな」
武蔵の表情が憤怒に染まる。仲間や家族と言うものを懇々と教えられ、その大切さ、尊さを学んだ武蔵にとっては、それを愚弄した深海棲艦に怒りが爆発した。
「シブヤン海は私にとって因縁の場所らしい。だがな、それよりも私は腹が立って仕方がない。因縁も超えて見せるが…それよりも、私は今貴様らに怒りを抑えきれん!!!」
そう語っているうちに武蔵の体が光りだした。ああ、これは摩耶の時のような…いいえ、横須賀ではありふれた光景だ。思いの強さ、絆の深さが思いもよらない奇跡を巻き起こす。武蔵もそれにあたる。深海棲艦も眩しそうに目を背ける。その光を弾き飛ばすかのように現れたのは…黒い軍服を羽織った露出がほぼなくなった姿。サラシで胸だけを巻いた姿ではない。服が…ある?その姿は見惚れるほどかっこいい…と鳥海は思った。
何よりすごいのは、その砲塔だ。46cm砲よりも大きい…艤装も大きくなっている。
「武蔵…さん、すごいです!」
「ほえー、かっこいいねー」
「………大和型戦艦二番艦…武蔵、改…二!!!!見参!!!!」
「武蔵改二ぃ!?やっば!武蔵さんが改二って鬼やっばいんだけど!?」
「すずやん、語彙力がなくなってましてよ」
「す、すげー威圧感…」
腕を組み、圧倒的な威圧感を醸し出す武蔵。横須賀の虎の子、大和型戦艦。おとなしい姉と違ってその攻撃的な性格と、それと同時に冷静に敵を分析して戦闘をする。鳥海も予想外なことが多すぎて困惑するが、榛名と頷き合う。もうこれなら負けることはよほど慢心しなければない。
『こちら大淀です!何ですか!?この大きな反応は!?まさか…レ級…!?』
「レ級なぞおらんぞ、大淀。私だ、武蔵だ。何の冗談かわからんが、改二になったぞ」
『か、改二ぃ!?』
後ろからあははははは!!と司令官さんが大笑いしている声が聞こえる。
『提督!笑い事ではありません!』
『あー、おもしろ!ここで改二か!しかも武蔵の!いいねぇ、おもしろくなってきた!』
「ハッハッハッハッハ!!私も痛快でたまらん!体が軽い!提督よ、指示をくれ!」
『ああ………叩き潰せ!!』
「任せろ!!!見ているがいい、相棒!!!雪風、いくぞォ!!!」
「はい!!!!」
ボォン!!!
耳をつんざくような砲撃音。その音の大きさに摩耶達は飛び上がるし、島風は驚いて転びそうになっていた。
「わひゃあ!!なに!?」
「ギエエエアアアアア!!!!」
戦艦を紙屑のように葬り去る武蔵の砲撃。それはそうだ。46cm砲よりさらに巨大化したもはや武蔵にしか今は扱えないだろう…その砲は試製51cm連装砲。
「ヒ、ヒイイ!助ケテクダサイ!戦艦水鬼サマ…ゴブァ」
武蔵の圧倒的火力に怯え始めた深海棲艦の頭を砲で撃ち抜く戦艦水鬼。
「何ヲ言ッテイル?憎キ敵ヲ前ニ逃ゲルツモリカ?背ヲ向ケルナド、我ラニ対スル裏切リダナ…ナラバ死ネ」
「ア、ウアア…」
「………」
仲間割れ…どころではないな。敵前逃亡は処されるのか。ふむ、以前に大淀から聞いた相棒の前の人間の屑のような奴だな。武蔵は冷めた目でそれを見ていた。
「構わんぞ。臆するなら逃げるのも一つの手だ。私は背を向け、逃げる者はやらんし追わん。逃がしてやれ」
「馬鹿ヲ言ウナ。敵前逃亡ナドアリエン。我ガ艦隊ニ臆病者ハイラン。潔ク突撃スルカ死ネ」
「そんな貴様らが家族だの仲間だのと吹き込んだのか…馬鹿な奴だな」
「何トデモ言ウガイイ。貴様ラヲ欺ケン情ケナキ者達ナド仲間デモナンデモナイ」
「そうか。ならば私も情けはいらんな。貴様を屠り、さっさと帰るとしよう。覚悟はできたか?」
「……私ヲ…嘗メルナ…!!」
相手にする必要もないと言うような目。そして呆れられたような目。憐れむような目。それが戦艦水鬼の逆鱗に触れたようだ。砲を武蔵へと向ける。他の深海棲艦も武蔵に砲を向けるが震えている。武蔵の異様さに怯えているのだ。
(…チィ…空母水鬼ハ何ヲヤッテイル…!)
それと同時に戦艦水鬼は焦っていた。空母水鬼はあちらを援護すると見せかけて真っ先にこの武蔵と言う異様な戦艦を排除しようと思っていたのだが…。卑怯?立派な戦法だ。敵を欺き、主力を潰す。これが鉄則。ましてや護衛は小さな駆逐艦一隻。イ級を撃ち抜くのと同じくらい造作もない。しかし、空母水鬼の援護はない。なぜだ?
………
「わかったぜ空母水鬼って奴ぅ!あたしはおめーらの作戦を見切ったぁ!!!」
「は?」
「ハ?」
突然摩耶が何かを閃いたのか、空母水鬼をビシィッ!と指差して大きな声をあげる。摩耶のせいで鳥海の作戦が止まる。迷惑なんだけど…バカ摩耶…。
「何ヲワカッタト言ウノデスカ?」
「へへーん!お前、あたしらの相手するって言ってるけどさ。本当の狙いは武蔵さんと雪風だろ。で、そこのリ級とかがあたしらを狙う!」
「ええ!?マジ!?」
「にわかには信じられませんが…」
「あんだよ三隈!ちっとはあたしも信用しろって!」
(いや、それが本当ならば武蔵さんは艦載機の格好の餌食…!)
「鈴谷さん!武蔵さんのほうへ艦載機を回してください!」
咄嗟に鳥海が鈴谷へ指示を出す。確かにそうなったら危険だ。轟沈する可能性があるならその可能性は限りなく潰しておく必要がある!
「りょ、りょー!!!」
「すーやん、あたしも魚雷で援護するよ」
「ずーやんって何!?」
「鈴谷だからずーやん」
「もっとかわいいのにしてよー!」
「すずやん!早く飛ばしてください!」
「ぼさっとしてないで早く飛ばしなさいな!」
「三隈ー!熊野ー!覚えてなさいよー!」
「ずーやんはよー」
途端に緊張感がなくなった。そして摩耶はフッフッフ…と笑いながら対空砲達を空へ向けて構えてさらに空母水鬼へ続けた。
「これで!お前の動きは止めたぁ!!悪い鳥海!あたし動けねえから守ってくれ!」
「……あーもう!!!私の作戦が全部台無しじゃない!このバカ!バカバカバカ!バカ摩耶!」
「あたしの間宮券1枚でどうだ!?」
「3枚よ!!!」
「がめついなーお前!!お姉ちゃんに遠慮しろよな!」
「嫌よ!!」
「主砲!撃て!!!!!鳥海さん!摩耶さんを頼みます!三隈さん!熊野さん!この榛名に続いてください!」
「島風、いっきまーす!」
「神通、いきます」
ヒュボッと消える島風。スゥ…と消える神通。危険な深海戦艦の群れに突っ込んでいく。その合間を狙って三隈や妙高、熊野が攻撃を仕掛けていく。
「………クッ!」
「どうした?あたしにビビッて艦載機飛ばせねえか?」
摩耶の対空砲は恐ろしく正確で横須賀1だ。まあそのうち涼月や冬月に超えられちまうんだろうなぁとは思っている。しかし、摩耶に関しては龍驤によって。そして数多くの激戦によって培われた勘と技術がある。それはおそらくだが、防空駆逐艦に超えられることはない。
空母水鬼はハッタリだ…と思っている。しかし、この言い様だと相当の自信があると見ている。いや、待て、私は空母水鬼。空母の深海棲艦を束ねる空母棲姫様の次に強いのだ。やれるものなら…やってみるといいでしょう。
「フフフフフ…」
ブワッと艦載機が水底から多数現れた。
「オ行キナサイ…」
「きたああああああ!!!!」
ダララララララララ!!!!!!
機銃が即火を噴いた。ボトボトと…墜ちていく艦載機。悠々と飛んでいく鈴谷の艦載機。しかし、鈴谷の艦載機も防空軽巡のツ級。しかも初めて見るflagshipがいる。摩耶か…それ以上の能力を持っていると見ている。しかし…。
ドゴォォォォォォンンン…。
ツ級が燃える。武蔵が戦艦水鬼を無視してツ級を薙ぎ払った。同時に雷が近くに落ちたような轟音。武蔵の砲に慌てていた深海棲艦達はさらにパニックに陥る。それは…。
「北上か…ふふ、さすがだな。雪風、ツ級の意識を逸らしたこと、偉いぞ」
「はいっ!ゆきかじぇ…雪風!武蔵さんの護衛に戻ります!」
「頼もしい限りだ。貴様の作戦とやらは泡沫に消えたようだな」
「クゥッ!」
「さて、貴様は私のこの砲撃、何発もつかな?いくぞ!!!」
「空母水鬼、何ヲシテイル!?」
戦艦水鬼の叫びも虚しく、僅かばかりの艦載機が飛んできたが、鈴谷の艦載機に邪魔される。それと同時に。
「そうら!対空砲火は摩耶だけではないぞ!」
「何ィ!?」
武蔵の艤装から対空砲火が見舞われた。これにより、空母水鬼の援護は武蔵達に届くことがなかった。
「どうだ!参ったか!」
「………!」
戦艦水鬼の怒りの声が聞こえてきた。まずい。このままでは私が後で殺されてしまう。しかし…この重巡が居る限り、艦載機が飛ばせそうもない。ギリリ、と歯を鳴らす。摩耶と睨み合っていると横から思いきり衝撃が来た。横を振り返るも…敵は…いない。
「どこを見ているのですか?」
正面に…何か、いる。
「ゴッ!?」
顎に衝撃。下を慌てて見やるも敵はいない。今度は後ろから。横から、前、横、前、後ろ!
「ガアアアア!!!!何ヲシテイルノデス!?私ヲ守リナサイ!!!」
しかし、誰も守る者はいない。なぜなら…。
「空母水鬼への護衛を止めてください!!」
「こちら、移動しようとしていたネ級を討ち取りましたわ!」
「榛名!一隻撃沈!続きます!」
「魚雷いらなーいから砲撃で沈めるね」
「くまりんこ!こちらもやりましたわ!」
「鈴谷さんこちらへ!」
「おっけー!よーし、爆撃いっちゃうよ!!」
「ナイスですわ!ずーやん!」
「鮮やかですわね、ずーやん!」
「お、ナイスーずーやん」
「ずーやんさん!残りの艦載機を発艦!戦艦水鬼へ回してください!」
「なんでみんなずーやんって呼ぶわけ!?」
「ずーやん!早く!おっそーい!」
「島風まで!?なんでさーー!!!!!」
「ず、ずーやんさん!早く!」
「ちょっとぉ!榛名さんまでぇ!?」
「あなたへの護衛はおそらく誰も来ませんよ。私の砲の餌食になってもらえませんかね」
「勝手は!榛名が!許しません!」
鳥海と榛名が悠々と全砲門を空母水鬼に向けている。正直榛名に関してはもっとわたわたするかとも思っていたのだが…おそらくだが今回のがんばったで賞は榛名さんじゃないかな…と思いながらもう一度鳥海は砲を構え直した。それと同時に…。
「さーて、まずはあんたから消えてもらいますかー」
「……お覚悟ください。これも提督のためです」
北上が魚雷を構え、神通が身構えている。
「イ、イヤ…タ、助ケ…私ニハ…妹ガ…イルンデス…ダカラ…」
「お前さ?この期に及んでそんなお涙頂戴の命乞いして助かると思う?」
北上が無機質な目で空母水鬼を睨みつけた。それと同時に榛名や神通も鋭い目に変わる。
「ヒイ!」
やけになって艦載機を出すが出した瞬間に摩耶に撃ち落とされた。そして摩耶も砲を構えた。
「お前、もう終わりだよ」
「撃てええええええ!!!!!!!」
鳥海が吼えた。それと同時に神通、摩耶。そして榛名も砲を撃つ。そして北上は魚雷をありったけ放った。
「アアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!イヤアアアアアアアア!!!!!!」
みるみるうちに傷が、血が…そして体に穴が空いていく。空母水鬼はなすすべなく、最後には北上の「魚雷の檻」が直撃して大爆発。下半身が吹き飛んだ。上半身が着水したと同時にさらに魚雷が炸裂し、首だけが宙を舞う。恐怖と苦痛に塗れた顔をした空母水鬼の顔はそのまま、ポチャン…と言う音を残して沈み…消えて行った。
「空母水鬼!!!!!」
「ほう?貴様も仲間を思う気持ちが少しはあったか?」
「………」
「いいや、違うな。自分の作戦の通りにいかず、役に立たんと思っているのだろう。そして貴様が窮地に立たされていることを悟ったか?」
「グウウウウ!!!」
「逃げられ、ませんよ?」
「逃げようったってそうはいかないからね!」
動きの速い神通と島風が囲む。それを見た武蔵は笑う。
「さて、貴様の作戦とやら、見せてもらえるか?」
「オノレエエエエエ!!!」
戦艦水鬼は冷や汗をかきながら叫んだ。感じたことない感情。絶望と言うものを味わいながら。
武蔵改二、新米だった私にとっては資材がぶっ飛び、かつて大和を顕現させたた時の大淀のように頭を抱えた記憶があります(苦笑。
さて、武蔵改二の実力はこれから。摩耶達の成長の具合も見せられたかな?と思います。あまりねちねちとした戦闘にせず、スカッとするような戦闘シーンをお見せできればなと思ったらこうなりました。
真面目過ぎても疲れる…と思いますのでネタも入れまして。
次回で決着です。そして、アフターな話をちょっと書ければと思っています。
それでは、また。