提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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武蔵が戦艦水鬼と戦う中、もう一人の戦艦にも新たなチカラを得る模様です。そうしてさらに冴えわたる「茨の女王」…シブヤン海蹂躙戦、続きます。


第二百六十三話

武蔵が戦艦水鬼と対峙する中、もう1人の戦艦榛名は鬼神の如き強さで敵艦隊を蹂躙する。その姿はルーキーとは違う。激戦を潜り抜けてきたオールドのようだった。

 

何よりも巧みなのはその足さばき。まるで雪風と同じく、舞い…榛名に至ってはダンスを踊るかのような巧みなステップで敵の攻撃を僅かに動くだけでかわす。ひらひらと舞う蝶のよう。美しさと可憐ささえ覚えるほどのものである。

 

榛名は戦艦水鬼と空母水鬼を対峙した瞬間、特に戦艦水鬼を視界に収めた瞬間に全身の毛が逆立ちそうなくらいの情念で胸から火が出るかと思うくらいだった。その情念…感情は激しい「怒り」だった。

 

彼女らがこの海域の中枢…旗艦であり、そしてあのおぞましい吐き気さえ覚える泣き落とし、情に訴えかける作戦を使ったことで苛立ちを温厚な榛名でさえ覚えていたのだが、戦艦水鬼を見た瞬間には自分でも抑制できないほどの激情に駆り立てられた。

 

武蔵が静かに怒り狂っているのと同じ。初めて見るはずなのに…初めて見た感じがしない。プライドが高く、榛名たちを見下し、仲間でさえ見下しているような高慢な顔。絶対の自信があるのだろう、すでに勝ち誇ったような笑みを浮かべている。何もかもが腹立たしい。

 

 

どうして…?

 

 

榛名にはわからなかった。でも、知っているんだ。この深海棲艦を。どうしてかはわからない…けど。けど、ここで倒さなければならない。当たり前だが。それと同時に、アレだけは肉片の最後の一片までも絶滅すべき。そう本能が語り掛ける。戸惑いながらも榛名は砲撃の準備を開始する。

 

その時不思議な出来事が起こった。

 

榛名の頭に津波のように襲い来る誰かの記憶のカケラたち。怒涛の勢いで榛名の脳。そして目の裏側にヴィジョンが流れ込んでくる。

 

………

 

「ひ、ひええええ!!は、榛名!雪風ちゃんがああああ!?」

「比叡お姉様?手が滑った、と言う言い訳は聞きませんよ?」

 

「むぅ~!榛名さん、怖かったです…グスッ」

「比叡お姉様、このことは提督に報告させて頂きますね」

 

「ひえええ!笑顔が怖いよぉ!?」

 

 

「ノオオオオ!!!!また榛名がエムブイピーデース!!!そうやってまた提督に褒めてもらうつもりでしょ!!!うおおおお!榛名は卑しいオンナデース!!」

 

「金剛お姉様?」

 

「ア、ハイ。スミマセン」

 

 

「霧島、提督とはもう仲直りできた?」

「知りません、あんなワーカーホリック」

 

「はあ…提督は霧島のことを相棒と呼んでいましたよ。榛名は霧島が羨ましいです」

 

「私こそ、榛名お姉さまが羨ましいですよ。どんな悩み事も榛名お姉さまにだけは相談するんですから…」

 

「照れ隠しよ。提督は本当に霧島を信頼しているんですから」

 

「……明日、ごめんなさいと言います」

「ええ。そうしてね」

 

 

姉妹。霧島は鎮守府にいるけれど…金剛お姉様に比叡お姉様…ああ、本当に手がかかる姉でしたね。霧島と頭を抱える毎日でした。

 

霧島。頑固ですぐ提督とケンカして…ごめんなさいをすぐに言えない素直じゃない子で…よく榛名に相談をしてくれたわね…。

 

ああ、たくさんのお仲間…家族。みんな、みんないなくなってしまって…そう、今目の前で榛名たちを見下しているアイツが!!!

 

でもなぜ?榛名は…提督に建造されて、あんな…あんな大きな戦いには出たことがないのに。

 

皆が傷ついている。腕がなかったり…艤装がグシャグシャだったり…ああ、やめて。沈んでいくみんな…比叡お姉様、もうボロボロですね…。あれ?榛名もですね。

 

「………比叡、お姉様?」

 

「どうしたの、榛名」

 

「……皆…逝ってしまいましたね」

 

「残っているのは…私と榛名だけ…か」

 

もはや光の粒子となって消えつつある姉、比叡。ごめんね、と言いながら風に舞って消えた比叡…そして、自分も。

 

「勝利を…提督にいいいいいいい!!!!!!!!!」

 

ボロボロの体で敵の戦艦にしがみつき、大爆発を起こし、そこで現実に帰って来た。ボロボロと涙を流し、そして仲間を失ったことを思い出し、涙が止まらなかった。

 

「榛名さん?」

 

鳥海が榛名の異変に気が付いた。何があった?榛名さんが泣いている。もしかして、恐怖に駆られて…戦意を喪失した?

 

榛名はその時、誰もいない海の上にいたような気がする。周囲の音はない。風も、波の音も。深海棲艦はどこへ行った?あの戦艦水鬼を倒さなければならないのに。いや、それは武蔵さんがやってくれるか。いいえ、榛名も戦います。それが、皆さんをお守りすることに繋がるのだから。

 

(その通りですね)

 

声がする。榛名の声にそっくりだった。いえ、これは…榛名?

 

(はい。榛名は榛名です。正確には、元三条提督の榛名です)

 

では、あなたはあの戦艦にしがみついて…。

 

(はい。その榛名で間違いありません。あなたに榛名のチカラを託しに来ました)

 

チカラを?どうして?

 

(榛名のチカラはここにいても発揮できません。ですが、あなたならそれを提督のために遺憾なく発揮できます。提督に建造されたからでしょうか?私の記憶を少しだけ持っていますね。だから、榛名はあなたを信じます。提督をお守りし、笑顔を守ってくださると)

 

榛名は…そこまでチカラがあるかどうか…。

 

(いいえ、霧島もチカラを託すほどです。ですから、榛名もチカラをあなたに託します)

 

あの…あちらで金剛お姉様と比叡お姉様でしょうか?何やら怒っているようですが…。

 

(……気にしないでください。あとでお説教が必要なようですね)

 

ムワァ…と何か金色のオーラとは別に黒いオーラが沸き上がった気がした。そのオーラに榛名は背筋に嫌な汗が流れた。

 

(失礼しました。さっそくですが、榛名のチカラをあなたに渡しますね)

 

そうして目の前の榛名が纏っていた金色のオーラがゆらりと自分に流れてきた。体中からチカラが湧き出てきた。それと同時に、榛名の頭の中に、彼女が戦ってきた全てのデータが入って来た。それは…きっとこれからの戦いに役立つだろう。

 

(そのチカラを使って、提督を守ってください!榛名は志半ばで成し遂げられませんでした…ううん、提督をお守りしたことは確かですが…ずっと…提督のお側にいたかった、です。だから…あなたは…ずっとお側にいてあげてください。きっと提督もそれを望んでおられるでしょうから)

 

………はい!ところで…あなたは…?

 

(提督は…『英霊』と呼んでおりました)

 

英霊…?後に提督や龍驤から聞いた話であるが、「英霊」と言うものは轟沈してしまったが、怨みも、怒りも抱えることなく、深海棲艦になることを拒否し、そして艦娘の魂のまま、建造もされずに存在し続ける艦娘の霊魂であると言う。

 

基本的には誰にも干渉することはできず、ただただ艦娘を見守ることしかできない。しかし、かつての「ショートランド海戦」で散っていった艦娘達は違う。彼女たちは激戦の中でも艦娘が現れて10数年と言う短い歴史ではあるが、現在の軍学校の教科書にも出るくらいの激戦だった。

 

その艦娘達は功績を主に三条提督により、高く評価され、古井司令長官や亡き清州副司令長官、刈谷提督、堀内提督や三好提督、上郷提督などに高く評価された。そうして今も歴史に残る艦娘として「英霊」と称えられた。

 

その中でも特に大きな武勲を残した艦娘。生き残った青葉。金剛、比叡、榛名、霧島、伊勢、雪風、綾波。いや、玲司にとっては皆素晴らしい英霊であるが、その中でも特にこの6人は誉れ高い英霊として名を戦闘詳報に残している。結果、榛名はその中でも一番の英霊となった。本来ならば金剛のはずなのだろうが、いろいろとあって榛名がトップである。

 

もっとも、ショートランドでのヒエラルキーは榛名>霧島>>>>比叡>>>>>>金剛であった。とにかくトラブルを起こす比叡、そして提督に対して大迷惑をかける事態に発展させる事件を引き起こす金剛。霧島がブチギレ、榛名が静かに怒って事態を片付ける。そんな状況なので金剛は英霊としての格差が榛名より落ちてしまったらしい。横須賀の榛名は「あははは…」と「英霊」榛名のぼやきを聞いていた。

 

(すみません…長くなってしまいました。あっ、でも安心してください!目が覚めても数秒しか経っていませんので!)

 

そ、そうなのか…。と言うか…お姉様たち…とチラリと金剛たちを見ると明後日の方向を向いて口笛を(スピースピーと吹けていないが)吹いていた。

 

(それでは…提督をお願いします。そして、皆さんと一緒に…榛名たちが提督と築けなかった素敵な毎日を送ってくださいね)

 

それはもちろんだ。鎮守府での生活は楽しい。皆が笑い、時にケンカもするけれど…幸せだった。榛名にはもったいない、そう思うくらい。だからだろう、家族を盾に同情を誘う深海棲艦が許せなかった。そういえば、あの戦果水鬼を見た時に激しい怒りを覚えたのはなぜだろう?

 

(それは、きっとショートランド…榛名たちの生活をめちゃくちゃにしたのがあの戦艦水鬼だからだと思います)

 

それでだったのか。ならばやることは1つ。

 

(気をつけてくださいね。戦艦水鬼は狡猾です。そして、最後の最後までしぶといです。金剛お姉様がそう仰っておりました。どうか…お気をつけて)

 

ありがとうございます。そう言うとにっこり笑って榛名は消えて行った。

 

………

 

「榛名さん!!!」

 

ハッと我に返った。ふと辺りを見回す。戦闘は始まってもいない。そして…深海棲艦達が牙を剝いている。本当に、あの人の言う通り、全然時間は経っていない。

 

「榛名さん、どうされたのですか?大丈夫…ですか?」

 

鳥海が慌てたように榛名に声をかけた。それもそうだろう。今から戦闘が始まると言うのにボーっと立っているだけと言うのは危険極まりない。

 

「はい。榛名は大丈夫です」

 

とても…落ち着いた声で榛名は鳥海に無事であると答えた。鳥海は榛名を見て思う。まるで今から戦う、と言う雰囲気ではないくらいに落ち着いている。そして…闘気も殺気もないのだ。どう考えても大丈夫じゃない。この深海棲艦の群れを相手に…怯えているのではないか?鳥海はそれを危惧した。まずい。榛名さんをお守りしなければ。

 

「武蔵さんが戦艦水鬼を抑えるそうです!私達は周囲の深海棲艦及び空母水鬼を相手に武蔵さんを援護しましょう!」

 

鳥海の指示が飛ぶ。武蔵さんをお守りする。本当はこんな争いのない世界で皆さんと笑っていたいのに…ですが、榛名は艦娘。やらなければなりません。榛名たちの日常を破壊しようと言うのなら…勝手は榛名が許しません。絶対に。

 

刹那、ブワリと金色のオーラが榛名から溢れ出た。その気配に鳥海や摩耶達は驚く。威圧感はあるものの、禍々しさはない。むしろ神々しささえ覚える。これは…一体…?

 

「鳥海さん、どの深海棲艦を抑えればよろしいですか?」

 

「榛名さん…?え、ええ…そうですね。では…あちらの重巡の群れを妙高さんと三隈さんとお願いいたします」

 

「いえ、あれは榛名だけで受け持ちます。皆さんは空母や他の深海棲艦、空母棲姫を抑えておいてください」

 

「えっ!?」

 

「榛名、参ります!」

 

「ああ!?榛名さん!?」

 

まあ、何だ。死なない程度にやっつけちまおうぜ。榛名は提督の言葉を思い出す。はい。死なない程度にやります。やっつけちまいます!!

 

猛然と重巡リ級やネ級。それもeliteやflagshipがいる中へ飛び込んでいく。もちろん、鳥海達に敵の砲撃が向かないよう、わざと射線から逸れる。

 

「バカメ。殺セ!!!」

 

敵の集中砲火に遭う。しかし、榛名はそれを僅かなステップを踏むだけでかわしてしまった。一発などは本当に顔に直撃し、貫通する寸前だった。戦艦であれ、リ級やネ級など重巡の砲撃を直撃してしまっては命はない。しかも頭部だ。頭が吹き飛んでしまったらまず助からない。即死だ。文字通りの轟沈。榛名はそれを見切ったかのようにかわしてみせた。

 

「撃て!!」

 

ドドドォオオオン!!!!

 

榛名の砲の連撃。それは的確に敵に命中する。精密な砲撃。それは山城にも匹敵しそうであった。しかし、榛名は一人、砲撃の隙を狙われる。榛名はそれをも…かわしてみせた。

 

「ナニィ!?」

「オイ!!ドウナッテイルンダ!!!」

 

「私ガ知ルカ!!!!」

 

それなりに戦闘慣れしている重巡たちであったが、榛名の動きが理解できない。それと同時に金色のオーラにまじって叩きつけられるような殺気が深海棲艦を委縮させる。格が違いすぎる。一部のflagshipの重巡たちは空母水鬼や戦艦水鬼よりも恐ろしい奴であると認識した。

 

「主砲!よく狙って…ってぇーーー!!!」

 

次いでの砲撃。これもまた命中。同時に北上や熊野も合間を縫って援護する。そして摩耶の強力な対空砲火により空母水鬼は無力化されていく。

 

「コ、コンナ…コンナコトガ…アルハズガナイワ…」

 

「へん、あたし達はこうやってお前らや人間の予想を超える戦いをしてきたんだ。榛名さんに関してももう驚かねーよ」

 

摩耶は出撃回数も多い。それ故に不思議な現象を多く見てきた。電の蒼い眼、神通のありえない動き、戦艦レ級。そうだ、アイツに比べりゃお前なんざ。深海棲艦になった加賀さんはもっとやばかったぜ。でも慢心はしない。お前の艦載機は枯れさせてやる。

 

「………」

 

榛名は黙したまま。しかし、何か周囲を見回す。なんだろう。とても嫌な予感がする。それは神通も同じようで。しかし、先にこの空母水鬼を倒してしまわねば。

 

この時、戦艦水鬼は空母水鬼からの支援がないことに苛立ちを覚えていた。そして、摩耶が気づく。

 

「わかったぜ空母水鬼って奴ぅ!あたしはおめーらの作戦を見切ったぁ!!!」

 

摩耶がこう言ってからはあっと言う間だった。榛名たちが一気に畳みかけ、空母水鬼は実力を十全に発揮できずに沈んでいった。

 

その様子に他の深海棲艦達は慌てふためき、一目散に逃げだそうとする。逃げる者は追わない。余計なダメージや燃料の消費を抑えたいからだ。それでも榛名は容赦がない。

 

「ギャッ!」

「プギィ!!?」

 

深海棲艦の背に容赦なく砲弾を撃ち込む。逃がさない。ここはレイテ。深海棲艦の巣窟。逃げて仲間を呼び寄せる気だ!ショートランドの時のように!「英霊」榛名の記憶がそう教えてくれている。

 

「おい榛名さん!そんな奴放っておいて戦艦水鬼を!武蔵さんの手助けを!」

 

「いいえ、あの深海棲艦達はどこかから仲間を呼び集めてくるでしょう。あちらは万全。こちらは燃料も弾薬も使っています。これ以上仲間を呼ばれ、また鬼や姫と言った強い敵が来た場合に対処できません」

 

「け、けどよぉ…」

 

「榛名を信じてください。今はあの数を減らさないとこちらが全滅してしまう可能性もあるんです!」

 

「とりあえずー、榛名さんを信じようかねー。あれ?神通はどこ行ったの?」

 

「へっ!?」

 

鳥海が素っ頓狂な声をあげた。よく見ると空母水鬼を沈めてから神通が姿を消した。

 

「おい、川内さんみてえに姿を消して闇討ちかぁ?」

 

「いえ…その能力は川内さんだけの固有のはず…では…どこに?」

 

「魚雷が来るよ!!!ぎょーらーいーーーー!!!」

 

島風が全力で叫ぶ。明後日の方向から水中を走る魚雷。潜水艦!?まずい、私達は対潜装備をした駆逐艦、もしくは軽巡はいない。ある程度北上さんが強いがソ級のeliteなどが来てしまったらもう手が付けられない。

 

「取舵一杯!!回避行動に全力を注いでください!」

 

妙高が叫んだ。皆は一斉に回避。何とか直撃は避けたが、至近距離で爆発。妙高や島風らが多少被害を受ける。

 

「皆さん、大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫!ちょっちダメージもらったけど、甲板とかは大丈夫だよ!」

 

「援軍ですの!?」

 

「待って!あたしの艦載機からの情報だと援軍の気配はないよ!」

 

「どういうことですの…?潜水艦でもなければ…」

 

「ああ!神通さん!?なんであんな遠くに…!?」

 

「何ぃ!?おい神通!何やってんだ!戻れ!神通!!!!」

 

摩耶が無線を使って神通に呼びかけるが…反応はない。しかし鈴谷がまた「ああ!」と大きな声をあげた。

 

「何かいる!ちっこいの!!!深海棲艦の…駆逐?」

 

「そいつが魚雷を撃ってきたってこと?神通はそいつに気づいて?あーでも、あの子何か目ぇ瞑ったら鎮守府内見渡せるほどの…えーっと心眼だっけ?仕えたよね?」

 

「あっ…」

 

「は?何それマジ怖いし」

 

「うちの鎮守府でなんかレベルおかしいのなんかザラだろが。榛名さんだってそうだろ?」

 

「え?は、榛名は普通ですよね…?」

 

「ちげぇよ!そんな黄色いオーラまとった戦艦なんて知らないよ!!」

 

「ええ!?」

 

「ケンカは後にしてくださいまし!!」

 

なんと熊野に怒られるとは…トホホ…そう思う摩耶だった。

 

………

 

「ナンデダヨォ…ナンデ外レルンダヨォ…!」

 

その小柄な深海棲艦は絶対の自信を持って撃ち込んだ魚雷を外したことに苛立った。お姉様のお役に立とうと絶対に艦娘共に気づかれないような距離を取って自慢の強力な深海魚雷を撃ち込んだと言うのに。まあ…いいや。お姉さまに褒めてもらうために、もう一回。今度は絶対に外さない。

 

深海棲艦…真っ黒な和風の出で立ちをし、真っ黒な髪を横にまとめた目つきのきつい紫の瞳をした駆逐艦…駆逐古姫。

 

「クスクス…アイツラヲ私ノ魚雷デ吹キ飛バシテお姉様ニホメテモラウノサァ!アイツラナンカサァ、死ンジャエバイイノサァ…フフフ、汚ァイ内臓ブチマケテ、今スグ海ニシズメバイイノサァ!キャハハハハ!!!!」

 

艦娘達が自分の魚雷が吹き飛ぶ姿を想像して高笑いをする。大きな声を出したってこの距離なら気づかれない。ガコン…と深海烏賊魚雷の発射口を再度艦娘達に向ける。今度は…お姉様である戦艦水鬼と対峙しているでっかい戦艦とちっこい白い駆逐艦。あいつらの邪魔をすればお姉様も気が楽になるだろう。運よくあの白いのを吹き飛ばせばお姉様も喜ぶ。いっぱい褒めてもらえるんだ!

 

駆逐古鬼はどういうわけか戦果水鬼に好かれていた。他の深海棲艦は残虐にも失敗などをしようものなら首をちぎったり、砲撃の的にして遊ぶなど残虐極まりないが。お姉さまに褒めてもらえればうれしい。頑張れる。だから、今回もあいつらをめちゃくちゃにしてやるんだ。自分は遠い距離から艦娘をかき乱せと言われていたから。

 

「サア、オ前ラ艦娘ナンテ仲間ニモイラネェヨォ!マトメテ魚ノエサニナッチャエヨォ!!アハハハハ!!!生キ残ッタ奴ハ死ンダ仲間ヲ見テ絶望スレバイインダヨ!キャハハハ!!!キャハハハハハ!!!

 

そして魚雷を発射しようとした次の瞬間。

 

 

かわいらしい見た目とは裏腹に、随分と心は汚れているのですね。よく…()()()()()

 

 

「!?」

 

駆逐古鬼は飛び跳ねた。誰!?いや、私に声をかけたのではないだろう…気のせいか?周囲を見渡す…すると…。

 

ガァン!!!

 

「イギッ!?アアアアアアア!!!?!?!?!」

 

足に激痛。そしてガクンと崩れ、倒れ込んだ。痛い…痛い痛い痛い痛い痛い!?ナンデナンデナンデナンデ!?

 

右足がない…青い血がドクドクと脈に併せて噴き出している。

 

「ヒ、ヒイイイイイイ!?!?!?」

 

立ち上がろうにも立ち上がれない。片足がちぎれているのだから。そして、パシャリ…と水の音。そこには…唇をきゅっと結んで砲を構えながら水上を優雅に進む艦娘…軽巡「神通」がそこにいた。

 

「艦娘…!?ナ、ナンデダヨ…ナンデココガワカッタンダヨ!!!」

 

「あの人型の深海棲艦と対峙している際に、どこかから何かを企む邪な気配を察知しました。そして…私の『目』を使ってあなたを見つけました」

 

「目…?嘘ヲ言ウナヨ!!ココガワカルワケナイダロォ!?」

 

「ええ。皆さんはお気づきになっておりませんでした。ですが、私の額の『目』はごまかせません」

 

「ハ、ハ…?」

 

駆逐古鬼にわかるはずもない。横須賀の神通は「茨の女王」と同時にもう1つの能力を持っている。それは…心眼。目を閉じ、額にもう1つ目があるように意識をすると見えると言う。横須賀鎮守府内の気配を全て見通す第三の目。川内の言いつけを守り、普段は使っていないが遠くの敵や見えない敵…潜水艦などを探知するのにはもってこいである。どこからか感じた邪な気配。それを探知するために心眼を用いた。結果は…ご覧の通り。駆逐古鬼を見つけ、被害が甚大になる前に彼女の動きを封じた。

 

「ウ、ウウ…私ヲ…殺ス、ノカヨォ…?」

 

「申し訳ありませんが皆さんと生きて帰るためには今いる深海棲艦は全て殲滅しなければならないと思っています。ですので、お覚悟ください」

 

「待ッテヨ!!!私…私ニハ…オ姉様ガイルンダヨォ!!死ニタクナイヨォ!!!オ姉様!助ケテヨォ!!!」

 

「それは、できないご相談ですね。あなたは私の仲間を討とうとしました。あなたは私の…いえ、私達の敵です」

 

「ク、クソォ!!!」

 

やぶれかぶれで砲を撃った。この至近距離だ。不意打ちだ。かわせるはずがない!死ねぇ!!強い殺意をもって神通を撃った。しかし…その砲は虚しくも空を撃った。

 

ガォン!!

 

「ギャアアアアア?!?!」

 

禍々しい背中の砲が撃たれた。爆発、炎上する。いつの間にか神通は背後を取っていた。

 

「ウ、ウウウ…ナンデ…ヤメテ…ヤメテヨォ…ヤメテ、ッテ…イッテルジャンカヨォ!!」

 

泣き喚き、命乞いをするが神通は聞き入れはしない。彼女は此度の作戦の深海棲艦には慈悲を持ち合わせないようにした。情と慈悲に訴えかける作戦に出た深海棲艦の行動が裏目に出た。彼女たちがそう出るのなら、私は鬼にでも悪魔にでもなろう。そうでなければ、私達の命がないのだからと。氷のように冷徹な神通の目は、正確に駆逐古鬼の心臓を捉えていた。

 

「ア、ア…」

 

「恨むのでしたら、この作戦を思いついた深海棲艦を恨んでください」

 

「ヒ、イヤ!!イヤ!!!!オ姉様アアアアアアアアア!!!!!!」

 

ズドン!!!!

 

神通の砲は正確に機関部である心臓を撃ち抜いた。

 

「ク、クソォ…!!」

 

「さようなら」

 

口から青い血をゴファッと吐き出し、泣きながら、そして神通を恨む目で駆逐古鬼は沈んでいった。神通は意にも介さない。神通は深海棲艦の怨みなどいちいち気にしない。気にしていては仲間を守れないから。家族といたいから。だから、悔しそうに、悲しそうに沈んでいく駆逐古鬼を冷めきった目で見ていた。願わくば、今度生まれる時は、ぜひ横須賀の艦娘として生まれてきてください。そう願ってはいたが。

 

………

 

「駆逐古鬼イイイイイイ!!!!」

 

自分を姉と呼ぶ妹分…彼女だけはかわいがっていた。有能だから。こうして誰にも気づかれないように静かに敵を屠ることが得意だったから。

 

「何だ、どこかに隠れていた奴がいたか。そいつを誰かに殺されたか」

 

「………」

 

「別に闇討ち、不意打ちを責める気はないぞ。それは立派な作戦の1つだ。だが、それを見破られたのならそれは残念だったな。私の仲間は優秀すぎるのでな。必殺の切り札だったか?ハハハハ!」

 

「貴様…」

 

「ほう、貴様もさすがに姉と呼ばれた深海棲艦には情の1つくらいあるか?」

 

「…ナイナ。簡単ニ破ラレタ無能ナドイラン」

 

「そうか。では私は心置きなく貴様を屠れるな」

 

もっとも、今回の出撃においては深海棲艦に一切の情などない。姉妹だろうが何だろうが知ったことではない。神通もそうであるが武蔵は神通以上に感情の割り切りが早く、それでいて非情になったならとことんまで非情である。だから戦艦水鬼の妹が死のうが、おそらくだがその妹が姉を呼び泣き叫ぼうが一切の躊躇いなく武蔵は撃つ。

 

「さて、貴様との対話もいい加減面倒だ。終わらせるとしようか。何だかんだ貴様と睨みあっているうちに、貴様の手下もいなくなり、妹も沈んだ。貴様も後を追わせてやるとしよう」

 

チャリ…とメガネをかけなおす武蔵。そして、巨大な51cmが一斉に戦艦水鬼を狙う。

 

「戯ケガ…。勝ツノハ…コノ私ダ」

 

「まだ何か策はあるのか?こちらは12人全員無事。まあ、多少の損害はあるだろうが全員で貴様を袋叩きにできるぞ?」

 

「ククク…貴様ハコウシテ1隻ニナッタ私ヲイタブルトイウノカ。我々ヲ残虐ト言ウガ、我々ト何ガ違ウ!」

 

「目的なくいたぶる点を貴様らと一緒にするな。やっていることは同じかもしれんが、私は家族を守ると言う点。そこだけが貴様らとは違う。いたぶり、苦痛に呻く艦娘を笑って沈める貴様らと同じにされてもな。その点は不愉快だ」

 

「………」

 

キッと戦艦水鬼が睨んだと同時、戦艦水鬼の砲が吼えた。しかし同時に武蔵の砲も火を噴いた。戦艦同士の砲撃、水面が凹み、轟音が響き渡る。

 

「グオオオ…」

 

しかし、命中したのは武蔵の砲だけ。右腕が肩から消し飛んでいた。武蔵は冷徹な目で再び照準を合わせる。戦艦水鬼は再度砲を撃つ。その反動で血が噴き出し、痛みで白目を剥きそうになったがこいつを殺さなくてはならない。その為には撃たねばならぬ。必死だ。眼前の敵が左右に逃げようともダメージを与えられるように扇状に砲を撃つ。

 

「オアアアアアアアア!!!!!!!死ネ!!!!!墜チロ!!!!墜チロ!!!墜チロオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

煙で見えなくなるまで撃った。撃ち尽くさんばかりに。いくら強固な装甲を持とうが関係ない。これだけ撃てばあの戦艦さえ滅ぼせる。勝つ。私は勝つのだ!!

 

バァアアアアアアアン!!!!!

 

「ゴッ!?」

 

左から衝撃。戦艦水鬼は吹き飛ばさ、水面を無様に転がる。艤装の太い腕が爆発で吹き飛んだ。自分の足も膝から先がない。吹き飛ばされた方向を見ると、白い小さな駆逐艦が睨みつけていた。戦艦水鬼にはそれが白い死神に見えた。かつてはそう呼ばれていた駆逐艦…白き天使。雪風が魚雷をありったけ撃ち込んだのだ。

 

「グッ…コノ私ガ…立テン…クソォ!!ゴッ!!」

 

首に衝撃が奔った。そして、凄まじいチカラで持ち上げられる。そこにいたのは…憤怒の表情で自分を見つめる…銀髪の戦艦。巨大な砲は全て自分を向いている。

 

「マ、待テ…待ッテ…ク、レ…私…ニハ、妹ガイルンダ、カヒュッ!妹ガ…カナ、シムジャナイカ…頼…ム、情ケダ、情ケヲ、クレ…」

 

屈辱だ。艦娘ごときに命乞いなどと。だが、生きながらえるためだ。手を離した瞬間にまだ、右肩の砲をこの艦娘のどてっぱらにぶち込んでやる。そして無様に死んでいく様を見て笑ってやる。そして、全員残った艦娘も殺してやる!!!

 

「はあ…本当に深海棲艦と言うのは言葉が通じないな」

 

武蔵は呆れるように言った。そして絞めていた首のチカラを強めた。グヒッ!ゲヒュッ、カヒュ!と必死に呼吸をしようとする戦艦水鬼を絶対零度の目で見つめた。

 

「何度も言わせるな。私は貴様らに情など持ち合わせる気など毛頭ない。貴様はここで死ぬ。いや、死ね。私達を嘗め腐っておいて、使えぬと言った貴様の手下どもは死なせておいて、自分だけのうのうと生き残るつもりか?将の恥だ、貴様は。敗軍の将は潔く腹でも斬れば褒めてやるが、貴様のような情けなく自分だけ生き残ろうとする将など恥以外の何でもない」

 

そう言うとブンッと戦艦水鬼を投げ捨てた。水面を跳ねる戦艦水鬼。バカが、手を離したな!しかし、戦艦水鬼の体は酸素を求め、咳込み、そして酸素を肺一杯に求めた。咳込みながら敵を見る。その時にはすでに…もう…。

 

「提督が言っていたな。貴様は完膚なきまでに沈めねば、何をしでかすかわからん。首だけになっても動くのではないか、とな。では、提督の言う通りにしよう。墜ちろ?フン、笑わせるな」

 

雪風も砲を構えていた。武蔵に続いて撃つらしい。フッ、と武蔵は少し笑った。なるほど、雪風もこいつだけは許せんか、と。その根性は褒めなければならんな。

 

だが笑顔は一瞬だけ。すぐさま冷酷な目に戻った。

 

「貴様が墜ちろ」

 

そう言うと武蔵は全砲門から代わる代わる火を噴いた。前代未聞の51㎝砲。相手が戦艦であろうとこんなものを食らえばどうなるか、火を見るよりも明らかだった。肉を抉り、艤装を破壊し、そして…戦艦水鬼を肉片に変えていく。

 

砲を撃ち尽くし、煙が晴れた時、戦艦水鬼はもうこの世には存在していなかった。雪風は肩で大きく息をしていた。その雪風を武蔵が無言で抱き抱え、背を向けて鳥海達がいる場所へと歩き出した。

 

「大丈夫か、雪風?」

「は、はい…緊張…しました」

 

「そうか。よく頑張ったな。偉いぞ」

「は、はい!」

 

その武蔵の表情は雪風を慈しむ笑顔だった。一度だけ、戦艦水鬼が生きていないかを確認するために後ろを振り向いた時は、悪鬼でさえ逃げ出すような顔をしていたが、何もないことを確認すると再び雪風に笑顔を向け、そして鳥海達に合流した際には雪風と共に右手を天に向けて突き上げた。勝ったぞ、と言う無言のアピール。

 

戦艦水鬼は絶対の自信を持っていた。この作戦に。しかし、この作戦を仕掛けた相手が悪すぎた。結果として、艦隊は全滅。そして、自分も粉々になるまで砲撃を浴びせられるほどの強い怒りを向けられる結果となった。




これにてシブヤン海の戦闘は終了です。ちょっと圧倒的にしすぎたかもしれませんが、すっきりしていただければと思います。ご都合主義満載な小説ですので…。

次回はシブヤン海組の横須賀に帰って来てからの一コマ。戦闘の後はわちゃわちゃコメディが必要ですよね。武蔵が大食い新記録を出したり鈴谷達がぎゃーぎゃーしたり…きっと楽しいと思います。

レイテはまだまだ続きます。スリガオ海峡、エンガノ岬沖、そして刈谷提督達のこともあります。まんねりにならないように気をつけていきたいと思います。

それでは、また。
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