提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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シブヤン海のメンバーが横須賀に帰ってきました。
武蔵達の愚痴や、影でがんばった艦娘達を玲司が労っていきます。




第二百六十四話

「そうか、そいつは大変だったな…」

 

「ああ、怒りでどうにかなりそうだった。まったく腹立たしい」

 

直径1mはあるだろう大皿に、高さ40cmはあろうかと言うケチャップライス。どうやって乗せたのかわからない特大の薄焼き卵。玲司の手首が心配になる大和型戦艦オムライスをパクパクと食べながら悪態を吐く、シブヤン海へ出撃した戦艦、武蔵。

 

深海棲艦の卑劣極まりない情に訴えかける作戦を聞いた玲司ははあ…とため息をついた。まさか深海棲艦がねぇ。まあ相手はショートランドで散々手を焼いた戦艦水鬼。それくらいの悪知恵は思いつくほどには深海棲艦も進歩しているのか。2、3年であちらも目覚ましい進歩だなとそこは素直に感心した。

 

だが、玲司はそれすらもうちの子らは打ち破ると確信はしていた。むしろ、そのことをこちらに知らせてきて「そんなものに構うな、沈めろ」と言うような指示を出す必要がなくて助かった。

 

それこそ余計な情を生み出しそうだったからだ。武蔵がそこは冷静に対応してくれて助かった。

 

「提督、わたくしも怒りで食が進みませんの!」

 

「いや、お前特盛半分食っといてそれ言う?」

 

そしてこの熊野だ。皆が武蔵の冷徹な判断に戸惑う中、熊野も冷静にこれらを撃沈。本当は怖くて怖くてたまらなかったが、仲間や姉を失うことを恐れたからこそ勇気を振り絞ってこれらを仕留めたのだ。ご褒美にとこの後には間宮アイスが振る舞われる。

 

「しっかし、熊野があんな勇敢に戦うなんてねぇ。明日は槍でも降る?」

「最上、それはどういう意味ですの?わたくし、えむぶいぴー、と言うものを頂いてご満悦ですの。わたくしのよろこびに油を差さないでいただけますこと?」

 

「熊野、それを言うなら水を差すだし。なに?熊野、どっか錆びてんの?」

 

「ずーやん?あげだしを取るのはレディとしてどうですの?」

 

「揚げ足!!!ってかずーやんってやめてって言ってんじゃん!」

 

「ずーやん、ご飯時はお静かにー」

 

「北上さん!?あーんもう…ずーやんって広めたの北上さんじゃーん…」

 

「いいじゃんいいじゃん、かわいくて」

 

「そうですわ。かわいいですわよ。くまりんこ♪」

 

「うー…」

 

「ハッハッハッハ!賑やかで良いな!やはり家は良いものだ!」

 

口の周りに雪風や島風でもつけていないご飯粒をいっぱいつけて笑う武蔵。そしてそれを「恥ずかしいからなんとかしなさい!」と大和に怒られる。

 

「しかしまあ、あのシブヤン海から生きて帰って来れたのは良いが、やはりあの作戦が気に入らんのでな。そのことを素直に喜べん。きいろいふわふわご飯が食えて怒りは冷めてきたが」

 

そう言ってハムスターよろしくオムライスを放り込む武蔵。いい加減それを正面で見ていた鈴谷がうっぷ…と言いだした。見ているだけでお腹がいっぱい。

 

「それに関しては五十鈴も腹に据えかねてるわ。何がお姉ちゃん助けてよ。それのせいで潮が大泣きするし、ああっ、ほんっとうに腹が立つわね!」

 

別動隊として動いていた五十鈴を旗艦とした潜水艦討伐部隊を送り込んでいた。そんな中、五十鈴達は七原提督が言っていた潜水新棲姫と遭遇。

 

「無邪気に笑ってえげつない魚雷よ。死んじゃえとか言ってきておいて、大破まで追い込んだら…」

 

………

 

「キャハハハ!!!!コノギョライヲ…タベロォ!!」

 

「やば…!こいつが…!バカね、声を出したらこの五十鈴が捕まえてあげる!」

 

ドバアアアアアンンンン!!!!」

 

「はぁ!?」

 

「い、五十鈴さん…」

 

「何よあいつ!?敵味方の区別なしってわけ!?」

 

どこからともなく飛んできた魚雷は回避された。しかし、取り囲もうとしていた軽巡ヘ級に魚雷が刺さり、大爆発。周囲の駆逐艦をも肉片にしてしまったのだ。

 

「五十鈴…さん、こっち、霰たちが、やり、ます。五十鈴さん…は。そっちを…お願い、します」

 

「このまま放っておくとこっちも危ないわね…見えているからいいけど、1人ではきついわ。潮!手を貸して!」

 

「は、はい!」

 

作戦に参加しているのは五十鈴、霰、潮、電、ジャービス、ジェーナス。

 

「そっちは任せたわ!」

 

「All right!!Jarvisには丸見えだよー!」

 

「それ五十鈴さんじゃない!」

 

「なのです!ぶっ殺すのです!!!」

 

「電ちゃーん、それ大淀さんに聞かれたらまずいよ~」

 

対潜に関しては文句のない編成である。ちなみに対潜が得意な村雨は今回は参加せず。なぜなら今後、支援砲撃の艦隊に回ってもらう多忙が待ってい。まずはスリガオ海峡。姉である時雨が出撃するし、相方として認めてくれている山城さんも出撃する。同時に戦闘もこなす。そのためにネルソンやロドニー、ウォースパイトまで引っ張り出そうとしたのだ。人手不足すぎる横須賀鎮守府はあの手この手で何とかそれを解決しようとする。

 

実際には…

 

「アホかお前は。俺んとこや七原んとこの艦娘が浮いてんだろうが、今から飛龍向かわせるから支援艦隊に回せ。それから、九重んとこもローマって戦艦が浮いてるらしいからそっちに回ってもらうように言っとく。テメエ、なんでも1人で解決しようとすんなボケ」

 

刈谷提督にボロクソに言われてしまった。結果として本当に飛龍、ローマを回してもらった。ロドニーやネルソンはサマール沖で刈谷艦隊と出てもらうらしい。いろいろと協力体制は刈谷提督のおかげで万全である。

 

「テメエのその悪い癖、何とか直せ」

 

そう釘まで刺された。玲司は頭をかきながらこれ、次の会議の時怖えな…と思った。

 

潜水艦狩りを始めた五十鈴達。もちろん、五十鈴は潜水艦の気配どころか居場所から深さまでしっかりと把握しているため、辻斬りのように素早く爆雷を投げ込んでは次の潜水艦へと狙いを定めていく。潮も探信儀を使ってしっかりと居場所を把握するため、こちらもまた円滑に潜水艦討伐を行っていく。

 

自分達が万が一潜水艦を見逃したならば、主力と戦っている摩耶や武蔵達への被害が甚大になり、殲滅どころかこちらが壊滅してしまう可能性もある。

 

五十鈴は特に潜水艦に油断し、妹を喪っている過去がある。そのために五十鈴はとにかく潜水艦を逃さないように玲司のもとについてからは必死に潜水艦をいかに素早く対処するかの鍛錬を欠かさなかった。そのおかげか、改二になった際に、潜水艦の居場所、深度を即座に把握する目を手に入れた。

 

潜水艦討伐の際のリーダーは必ず五十鈴。そして高い対潜能力を持つ霰、潮は必ずと言っていい程行動を共にする。夜戦になることはないだろうが、万が一を考えて素早く殲滅する。

 

「イタイ!!!!ヤメテヨォ!!!!」

 

「あんたが!沈むまで!五十鈴は爆雷を投げることをやめないわ!!!覚悟しなさい!」

 

どんどんと爆雷を投げる。厄介な相手だ。それなりに回避もするじゃないか。お返しといわんばりに魚雷を撃つ。五十鈴達の反応は早く、それは当たらない。しばらくは一進一退だったが、ついに五十鈴と潮の爆雷が潜水新棲姫を捉えた。

 

「ギャアアアアア!!!」

 

いいダメージを与えた。もうあと一撃!

 

「グスングスン……」

 

水面に上がって来て潜水新棲姫は…泣いていた。

 

「イタイヨォ…イタイヨ…オネエチャン…」

 

「!?」

 

五十鈴は爆雷を投げる手を止めた。潮は硬直しているではないか。まずい。これは…嫌な予感がする。相手は大破している。しかし、こいつは姫だ。大破しているとはいえ、これの魚雷は危険すぎる。

 

「嘘泣きは通じないわ!」

 

「五十鈴さん、待ってください!ねえ、お姉ちゃんが…いるの?」

 

「ウン…オネエチャン…イタイヨ…アイタイ…シニタクナイ…ヨ」

 

「そうなんだ…お姉ちゃん、会いたいよね…五十鈴さん…この子、逃がしてあげましょう…?」

 

「……無理ね。仲間を呼ばれたら鳥海達が危ないのよ?潜水艦を倒せるような装備は雪風や島風も持ってない。全滅するのよ?」

 

「ですけど…この子、かわいそうですよ…」

 

「………ふぅん…」

 

五十鈴は腕を組んで考え込む。潮は自分の提案を肯定してくれると思う。潜水新棲姫に戦う意志はないと見て背を向けて五十鈴に注目する。しかし、五十鈴は潮の肩を掠めるかのようにして爆雷を投げた。「あっ!?」と潮が言ってももう遅い。ポチャンと言う音からすぐに爆音が響く。

 

「アアアアアアアア!!!!!!!」

 

少女のような潜水新棲姫は驚愕の表情のまま、目や口から血を出して…そして泡となって海へ沈んでいく。

 

「五十鈴さん!?なん…なんで…!?」

 

「五十鈴はこの艦隊の旗艦。随伴艦を危機に陥れるわけにはいかないし、ましてや主力艦とぶつかっている鳥海達を危険に晒すわけにはいかないもの」

 

「でも…でも…!あの子…泣いてました!!お姉ちゃんに会いたいって言ってました!」

 

「霰たちの所へ戻るわよ。あっちも片付いていると思うし」

 

「五十鈴さん!!!あの子!泣いてました!!!お姉ちゃんにも「だから何!?」」

 

「!?」

 

潮に掴みかかる。その顔は怒りに満ちている。

 

「だったら何!?潮!五十鈴達は艦娘!あいつらは深海棲艦!!それはわかるでしょ!?あいつらは来た!五十鈴達を討ち倒すために!討ち果たすために!紫亜さんが言っていたわよね!深海棲艦は艦娘と対話なんかしないって!嘘をついて五十鈴達を殺しつくすためにだけに言葉を発するって!!だから沈めた!!甘いこと言ってるんじゃないわよ!!!」

 

「ああ、ああ…」

 

「あなた、本当に泣いて助けてって言ってたと思う!?潮が後ろを向いている時のあいつの顔を見たの!?あんたの背中に魚雷を撃ち込んでやろうって悪い顔で笑ってたわよ!!!だから爆雷を投げた!!!全員助けたい!潮や電が言う言葉はわかる!でも!!!!戦場でそんな甘っちょろい言葉を言っていたら死ぬのはあなた達なの!!!!!!」

 

ガクリと潮はへたりこんだ。五十鈴の言葉を聞いて愕然としたのだ。まさか背後であれだけ泣いていたあんな幼い子が…嘘をついて欺いて潮を殺そうとしていたなんて…。

 

「五十鈴達は誰かが1人誰かが沈んだら終わりなの。司令官がいなくなっても終わりなの。潮だってわかってるでしょう?」

 

「うう…うううううう!!!」

 

そうだ。提督も…大淀も口を酸っぱくして言っている言葉。「誰かが欠けたら終わり」…その言葉は、轟沈したら横須賀は機能しなくなる。提督の心が壊れる。提督が死んだら…きっと不知火ちゃんや朝潮ちゃん…ううん、自分も何もできなくなる。終わりだ。

 

「終わったよー!…What happened!?」

 

「ジャービス…」

 

潜水艦を殲滅し終えたジャービス達が合流を果たした。途中で五十鈴の怒鳴り声が聞こえ、潮が泣いているのを見た。慌てて飛んできたのだ。五十鈴は頭を抱えて全部を説明した。

 

「……Hmm.それは、なんていうかー…」

 

「た、助けたいのです…でも、電たちが沈むわけにはいかないのです…」

 

「そうよ。だからあいつらの命乞いなんて聞いては駄目なのよ。ましてや、五十鈴達を狙って魚雷を撃ってきたわけだし…」

 

「ごめん…なさい…」

 

潮は泣きながら謝る。

 

「くっそ…頭にくるわね!!!」

 

ぱちゃん!と五十鈴は海面を蹴る。怒りのぶつけどころがない。こんな作戦を考えた主力は武蔵さんたちがやっつけてくれるだろう。けど…それでも自分の怒りは収まらない。

 

「こちら五十鈴!!本部、聞こえる!?」

 

怒鳴りつけるように大淀と司令官に連絡を取る。

 

『はい、五十鈴さん?こちら本部です…どうされましたか…?』

 

「潜水艦は片付けたわ!!もう武蔵さん達に危害が及ぶかわからないけど!周りに潜水艦がいないことを確認したら引き上げてもいい!?」

 

『お、おお…構わねえよ…どうしたんだ…?』

 

「事情は帰ってから説明する!!五十鈴すごい頭にきてるのよ!!」

 

司令官に八つ当たりするくらいしか怒りのぶつけどころが今のところない。最悪の作戦だった。胸糞が悪い。下品な言葉だが今はこんな語彙しか出てこない。冷静に霰が何とか宥めていたが、帰ってくるまで五十鈴は怒り狂ったままだった。

 

………

 

「えっと、潮は?」

 

「五十鈴の姉御。うっしーなら体調が優れないから寝るって言って部屋から出てきませんぜ」

 

「漣、あなたね、誰が姉御よ」

 

「潮さんは五十鈴さんに叱られたことがショックだったようですね」

 

「うっ、不知火…あなた抉ってくるわね…」

 

「不知火に落ち度でも?ですが、不知火は五十鈴さんが正しいと思います」

 

「そ、そう…」

 

「戦場で甘いことを言っているとこちらが命を落とします。ましてや相手は意思疎通ができない深海棲艦。紫亜さんや茉莉さんとは違いますので」

 

「そうだな。俺も昔は話せばわかるんじゃないかって思ってた時もあったんだけどな。アメリカで話し合いをしようとした団体が吹っ飛ばされたって話を聞いて、もうその考えはやめた」

 

「そう…」

 

この件に関しては電もしょんぼりしている。だが、根っからの深海棲艦に関してはこれでもう話すことも、助けることも無理だ、と電は理解したらしい。響や蒼龍の時のようにはいかない…死ぬわけにはいかないのです、とさきほど玲司と話をしていたところだった。

 

「潮も電も優しい子だ。けど、その優しさを逆手に取って深海棲艦はこれから襲ってくる可能性が高い。深海棲艦には非情になったほうがいいだろうな」

 

「あーもう…また腹が立ってきた!近海の潜水艦を吹き飛ばしてやろうかしら!」

 

「姉御、憎しみからは何も生まれませんお」

 

「漣さんが哲学的なことを仰るとは…明日は槍でも降るのでしょうか」

 

「ぬい、ひどくない?」

 

「なるほど、完膚なきまでに叩き潰せばよいのだな?それならば私の得意分野だ、まかせてもらおう。ハハハハ!!そら、五十鈴。そうカッカするな。私のはっしゅどぽてととか言うのをやろう。あとほれ、鶏肉だ」

 

「あ、どうも…ありがとう」

 

ちょっと顔色が悪いが潮もやってきた。うっ…と五十鈴は逃げようとするが、漣が捕まえて離さない。

 

「五十鈴…さん…」

 

「潮…その、ごめんなさい。きつく言いすぎたわ…」

 

「い、いえ…潮こそ…ごめんなさい!」

 

「なのです?」

 

「あの時…真剣に五十鈴さんを止めていたら…潮は沈んでたのかもしれないんですよね…」

 

「そう、ね」

 

「みんなに…迷惑をかけちゃいけないって…世の中…うまくいかないんだなって…」

 

「そうね。潮ちゃんは優しすぎる。それはいいことでもあり、弱点でもあるのよ」

 

「紫亜さん…」

 

「戦いにおいては…非情になることも必要ね。難しいかもしれない。けれど、よく考えてみて?全員助けたい、と言うのは大事なこと。それは、仲間を助けたい、だったら筋が通っているわよね?」

 

「え、え?」

 

「ん…できれば、でもなく。助けたい、でもなく。助けないといけない。助け合わないといけない。それがこの横須賀鎮守府では必要なこと。全てを助けることなんて、潮ちゃんが好きな物語の勇者様だって無理よ。潮ちゃんは、守れるものだけを守らないと。それは仲間、家族。深海棲艦にまで手を伸ばせば、必ずあなたの大切なものが、この小さな手からこぼれてしまう。そのこぼれたものは、もう掬い上げることさえ叶わくなってしまうものよ」

 

「掬い…あげる…」

 

「そうだな。きつい言い方になるけど、助けるのか、守るのか。そのどっちを優先するか、優先順位を間違えると取り返しがつかなくなっちまうな」

 

「むじゅかひくかんがえひゅぎなのひゃ。んぐっ、私は馬鹿だからな。馬鹿なりの考えを言おう。艦隊の皆は守る。深海棲艦は潰す。それで良いんじゃないか?」

 

「………」

 

武蔵の考えは至ってシンプルだ。そう、それで良いのだ。深海棲艦を救うことはどだい無理である。よしんば救ったとして、紫亜や茉莉のようにはいかない。アレらは理性があるようでない。そう言う存在なのだ。

 

「響ちゃんを助けたときのようにはいかないのです…響ちゃん達と支え合って守り合うのです!」

 

「おうっ!」

 

「提督…!五十鈴さん!潮…もっと強くなります!みんなと…不知火ちゃんや漣ちゃんとも…生きていきたいから!」

 

「ああ。頼んだぜ、潮。電もな」

 

「なのです!!!!」

 

とりあえずは、解決かな?しかし…深海棲艦も厄介になってきているな。戦艦水鬼。奴にはショートランドでも散々苦しめられた。あの時のように轟沈する艦娘がいなくてよかった。確かにうちも進歩している。大きな損害もなくて助かった。しかし…これから先、こういう同情作戦をやってくる深海棲艦がまた現れるかもしれない…。徹底周知しておくべきだろう。

 

………

 

『ふーん?お涙頂戴劇ねぇ。面白ぇ、うちの艦隊にも言い聞かせておくとするぜ。容赦なく殺せとな。まあ、球磨や多摩は容赦がねえが、睦月ら駆逐艦がどうなるかだな』

 

刈谷提督は興味深げに話を聞いていた。刈谷提督も艦娘を優先する提督だ。と言うか、甲作戦に参加している提督は艦娘に無茶はさせない。が、誰もが優しすぎる。ゆえに、その艦娘たちも情に厚い。おそらくだが、同じ作戦を繰り出されるとためらうだろう。

 

実際のところ、刈谷提督の球磨と多摩はそんなものはまったくもって通用しないだろうが。

 

「お姉ちゃんに会いたい?じゃあ姉妹仲良くグリングリーーーン!!!」

 

「へぇ、痛いかにゃ。じゃあ、痛くないようにしといてやるにゃ!!!!」

 

狂人艦娘。どこでどう間違えたのかこんな風に育ってしまった艦娘だ。刈谷提督は深海棲艦を潰してくれりゃ何も止めはしない。しかし、それを見た睦月達や択捉たち駆逐艦や海防艦に悪影響だな、とは思っている。そのためのケアに走り回っているわけだが。

 

「痛えとか泣いてる前にさっさと目の前の深海棲艦をぶっ殺せクマ。泣いてる間におめえの頭をぶち抜かれるぞ?死にたくねーなら足動かして、一匹でも潰せ。そうじゃなきゃ死ぬんだクマ。オラ、早く動け!!」

 

「泣くのは勝手だにゃ。けどにゃ、おめーがそうしている間にも敵は撃ってくるし殺しにくる。多摩たちの負担も増える。困知勉行…今のおめーらにはそれが足りねえにゃ」

 

頭が戦闘のことしかない球磨と多摩はとにかく駆逐艦だろうと海防艦だろうと厳しい。嫌われてもいい。それでもチビたちを沈ませないために厳しいのだ。望月はわかっているのだが、狂人故にしまいにゃ海防艦の頬を張り倒さないかどうか心配だ。

 

「志操堅固(しそうけんご)…絶対に沈んじゃならにゃい。それだけは覚えとけにゃ」

 

志操堅固とは何があっても曲がることのない強い思想、志をさす。これだけは絶対に曲げてはいけないのだ。だからこそ厳しい。そのフォローは能代や愛宕などがしている。普段はちゃらんぽらんで提督に倣ってすぐ自分のおかずやお菓子をあげたりするので鵜来や稲木など、新しい海防艦は困惑しているが。怖いのか、優しいのか…。

 

『サマールに行ったときは警戒しとくぜ。まあ、龍田らが返り討ちにしてくれるさ』

 

「わかりました。支援艦隊はこっちに任せてください」

 

『村雨がいるんなら助かるぜ。お前んとこの村雨のサポートは清々しいくらい気持ちいいらしいからな』

 

「ははは…お手柔らかに頼みます…」

 

『ああ。んじゃあな』

 

そうして電話は終わった。涼介たちにも連絡はしている。念のためだ。卑怯とは言わない。れっきとした作戦なのだから。それに非情になるか、情に絆されるかは彼ら次第。

 

さて…次も自分たちが受け持ったスリガオ海峡。時雨は立ち直っているし、山城はかなり張りつめているが作戦は守ってくれるだろう。あとは…彼女たちを信じるしかない。さっそく玲司は山城達「西村艦隊」…第一遊撃部隊を呼び出した。

 

/大浴場

 

(き、気まずいんですけど…なんで漣チャン、こんなとこに…?)

 

漣はブクブクと口を湯船につけて気泡を発生させる装置になっていた。五十鈴に「お風呂行くわよ。付き合いなさい」と強引に連れてこられたのだ。何でかはわからない…五十鈴はよく漣に愚痴ることが多い。漣はわかっていないが漣は頭の回転が早い。それゆえに誰かが愚痴をこぼしたときにそれの聞き役になっているとその時一番ほしい答えをくれるのだ。だから漣が五十鈴に連れられて風呂にきたわけだ。五十鈴はここで漣に「今回の深海棲艦の卑怯さ」を愚痴りたかったのだが…。

 

「ふぇ、ふぇええ!?」

 

大浴場には先客がいた。それは…落ち込んで寝ていたはずの潮だった。漣が聞いてみると「その…汗かいちゃったから…」と色っぽく頬を赤らめて返してきた。エッッッッと言いそうになったのは隠し通さねば。

 

「その…強く、言いすぎちゃったわね…ごめん…」

 

mjsk。五十鈴さんが謝っちゃったよ!なんてーかプライドが高いツンデレお嬢様だから謝ることなく「いつまでメソメソしてんのよ」とか言っちゃって余計に関係が怪しくなるんじゃないかとも思ってたのに…!とか考えていたら五十鈴に頭をはたかれた。ひどい、ひどいわ!!

 

「失礼なことを考えてたからでしょ」

 

「なんでバレたんすか…」

 

「あなただからよ」

 

鋭い…しかし、漣チャンだからってひどくね?とも思った。

 

「いえ…潮も…すみませんでした…五十鈴さんがあの時、爆雷を投げてくれていなければ…」

 

「大破してたからね。まあ攻撃はできなかったでしょうけど。仲間を呼ばれてたら…」

 

「潮たちも…鳥海さんたちも…危なかった、ですよね…」

 

「そうね。武蔵さんたちから聞いたんだけど、あっちはもっと…うるさかったらしいわ。意外に熊野さんが潰して回ったらしいけど。北上もね」

 

「………」

 

「うっしー、あたしたち、戦争してんだよね。人間と艦娘。深海棲艦と」

 

「そう…だね」

 

「深海棲艦はあれでわかったわ。捕虜だの鹵獲して殺すなだなんて人間の都合よ。やらなきゃやられる。加賀さんのときのようなケースは稀。漣が言う通り、これは戦争ね」

 

「そうですね。まあ、漣チャンも陽炎に殺されかけたことありますし」

 

「うん…紫亜さんも…言ってたね。会話はできても成立しないって」

 

「あれで完全にわかったでしょ?でも、イライラして、カッとなって潮に強く言い過ぎたのは五十鈴よ。そこは…本当に…悪かったわよ…」

 

(デレ五十鈴さんキターーー!!!)

 

ペシン!とまた頭をはたかれたわけで。それを見て緊張していた潮は少しだけふふ…と笑った。

 

(うっしーが笑ったならはたかれた甲斐はありましたな)

 

「とりあえず、当面は出撃なしだし。ゆっくり休みなさいな。五十鈴は…ちょっと反省するわ」

 

「い、いえ!五十鈴さんが怒ってくれなかったら、潮はまだうじうじと…してたと思います…今度は!ちゃんと!倒します!」

 

「そう。それは期待してるわ。今後もよろしくね」

 

「はい!」

 

(お?いい感じでまとまりましたかな?あとは霰っちたちともうまくお話しすれば解決っぽいですな。終わりよければ全てよし、ですぞ!)

 

「えへへ」

 

「お?なになにうっしー?おほー、南半球がやーらかいですなぁ」

 

「何よ南半球って…このすけべ親父」

 

「ひっでー!五十鈴さんそれはないっしょー!?くぅ…ってーか五十鈴さんもすっげ…それに負けないうっしーはもっとすっげ…てかずるくない?」

 

「えー?潮は漣ちゃんくらいがかわいくていいと思うけどなぁ」

 

「持ってるやつにはないやつの苦しみなんてわかんないお!!くそ、このたわわめ!!!」

 

「や、やめてよー!!!!」

 

「やっぱりセクハラ親父じゃない」

 

「なにおう!?この五十鈴の姉御の南半球ももらったぁ!!!」

 

「なにすんのよ!?この変態!」

 

「漣ちゃん、手を放してよぉ!?」

 

「いでででで!!!!うっしー!アームロック!アームロック!!!どこでそんなん覚えたの!?」

 

「やめてええええ!!!」

 

「ガアアアアアアアアア!!!!」

 

騒がしい入浴の時間。胸囲の格差社会とはよく言ったものである。

 

………

 

「時雨、俺たちの作戦は?」

 

「死ぬな、生きて帰ってこい、だね」

 

「そうだ。やばくなったら逃げろ。そんで隠れろ。いつも通りだ」

 

「隙を見つけて潰す…それもあり、ですよね」

 

「扶桑。ありだけど、大破してるなら撤退を優先してくれよ」

 

「承知しております」

 

集まった第一遊撃部隊。その頭には白い鉢巻を全員巻いている。一致団結するためだとか。

 

「それから、今回は夜戦が続く。夜戦は1つの間違いが命取りだ。親玉も夜明け前かギリギリだ。できるなら駆逐艦が戦力を発揮できる夜戦で片付けれるなら片付けたい。何、負けそうなら次の夜にでもまた当たればいいだけだ」

 

「ふふーん、夜戦に関しては夜間でも飛行できる瑞雲なんてのもあるからね!ボクの索敵能力をアテにしていてよね!」

 

「最上。慢心は禁物よ」

 

「わかってるよぉ、山城!」

 

「今回の作戦は時雨、満潮、朝雲、山雲の駆逐艦の夜間の戦闘力。最上の夜間の索敵能力が頼りよ。私たちも戦うけど…」

 

「山城と扶桑。戦艦の攻撃力だって夜戦では十分強いわよ。頼りにしてるわ」

 

「ふふ、満潮。ありがとう。朝雲も山雲もがんばりましょうね」

 

「は、はい!」

 

「ふふふ~、山雲もぉ、がんばりまぁす」

 

(あの時のようなことは起きない。絶対にみんなで帰ってくるんだ!)

 

「それじゃあ、『西村艦隊』の出撃といこうか」

 

「提督、お言葉ですが」

 

山城が出撃の言葉をさえぎる。少しムッとしている。

 

「私たちは確かにこの集まり…かつては『西村艦隊』と呼ばれていたようですが…今は違います」

 

「お、おお…」

 

「提督、ボクたちは『三条艦隊』、だよ。間違えないでほしいな!」

 

そう、玲司の艦隊なのだ。ほかの誰の艦隊でもない。「三条艦隊」で間違いないのだ。

 

「……そうだな。悪い。よっしゃ!第一遊撃部隊『三条艦隊』!スリガオ海峡へ向けて出撃!!絶対に生きて帰ってこい!!!」

 

「「「了解!!!」」」

 

玲司の手の上に7人が手を重ねる。そして最後に…。

 

「『三条艦隊』!!いきます!!!」

 

山城が大きく声をあげると全員が「おお!!!」と勢いよく掛け声をあげた。さあ、運命の夜を覆す時がきた。同じ運命になんてしてやるものか。時雨はそう強く思った。

 

………

 

「あ、時雨ちゃん!」

 

母港で時雨は雪風に呼び止められた。その後ろにはジャービスもいる。

 

「やあ、雪風、ジャービス。見送ってくれるのかい?」

 

「はい!それから、時雨ちゃんにこれを!!」

 

「…?」

 

渡されたのは唐草模様のきんちゃく袋。中身は何か入っているのだろうか?開けようとする「だ、だめですよ!!」と止められた。

 

「これはお守りです!!雪風と、ジャービスちゃんからの幸運のお守りです!!」

 

「そうだよ!Lucky JarvisのLucky Yukikazeのお守りよー!」

 

にぱーっと笑うジャービス。奇跡の駆逐艦雪風。英国のラッキージャービス。彼女らの幸運は桁外れだ。これは…何とも強力なご加護がありそうだね。

 

「うんとお祈りしておきました!!!これで絶対、大丈夫!」

「そうよ!ゼーッタイよ!!」

 

「ありがとう、雪風、ジャービス。帰ってきたら一緒にお風呂に入ろう。頭と背中、洗ってあげるよ」

 

「えー、あたし、前も洗ってほしいわ!」

 

「ジャ、ジャービス!?え、ええと…うん、わ、わかったよ…」

 

大胆だな…それに続いて雪風もお願いします!!なんていうものだから…。

 

「うふふ、仲がいいわねぇ。私もお邪魔しようかしら?」

 

「ね、姉様が言うのでしたら私も…」

 

「はい!みんなで入りましょう!」

 

「Wow!楽しみー!」

 

「はいはい!雑談は終わりよ!行くわよ!!」

 

「…ゴホン…では、提督」

 

「ああ、気をつけてな」

 

玲司が敬礼すると雪風とジャービスもびしっと敬礼をする。それに続いて山城達も敬礼をして母港を出発した。

 

………

 

「雪風とジャービスのお守りかぁ。なんかすごいご利益がありそうだねぇ」

 

「うん。きっと僕たちを守ってくれるよ」

 

「佐世保の時雨、呉の雪風。今は横須賀の2人だけど、幸運艦がこんなにも集まるなんてすごいわね!」

 

「ジャービスちゃんも~。すっごいぃ、幸運艦らしいから~、すごいことが起きそうですね~」

 

「私たちも不幸をも吹き飛ばしてくれるといいわねぇ、山城?」

 

「そ、そうですね。ですが、運頼みと言うのは…」

 

「そうよ、そういいことばかり起きるとも限らないからね」

 

「満潮~、せっかくなんだからここはあやかろうよー」

 

「最上!そんなんじゃダメなのよ!」

 

「わかったってー」

 

時雨はお守りを大事にポケットにしまい、スリガオ海峡を目指す。因縁の地。運命を覆すために。できれば勝利したい。無理のないように…。鉢巻をきゅっと結びなおし、ギュウ…と手を握りしめた。

 

そして時雨たちはスリガオ海峡へと臨むのだが、このお守りのおかげ?お守りのせい?でスリガオ海峡で時雨たちは振り回されることになるとは、知る由もなかった。




シブヤン海の面々と影で活躍した五十鈴たちの帰港後の話と、いよいよスリガオ海峡へ時雨たちが向かいます。

シブヤン海はまじめな戦いでしたが、スリガオ海峡はちょっとコメディ的な戦闘にしようと思っています。硬すぎても疲れますしね。ゆるーい気持ちでお読みいただければと思います。

それでは、次回より「スリガオ海峡海戦編」をお楽しみくださいませ。

それでは、また。
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