提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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いよいよスリガオ海峡海戦の開始です。

今回からの戦闘は割とコメディチックです。お気に召さない方もいらっしゃるとは思いますが、ゆるい気持ちでお読みいただければと思います。


第二百六十五話

レイテ沖、スリガオ海峡海戦。

扶桑、山城、最上、時雨、満潮、朝雲、山雲。命からがら帰ることができたのは時雨だけ。史実ではこうであった。

 

しかし、今回は違う。それぞれがそう思っていた。落伍は出さない。ましてや轟沈だって出さない。全員が生きて帰る。あの歴史を塗り替えることはできないが、艦娘としての我々は運命を覆す。三条玲司率いる「西村艦隊」ではなく「三条艦隊」と名乗る遊撃部隊は間もなく陽が沈むレイテを航海中だった。

 

緊張しすぎず、緩みすぎず。程よい緊張状態である山城たちはこれより、因縁の海域、スリガオ海峡へと突入する。おそらくだが、敵はごまんといるだろう。厳しい戦いが予想されるだろう。

 

でも悲観はしない。装備は明石が整備を行ったもの。艤装もすこぶる調子がいい。士気は高揚し、警戒は一切怠っていない。必ず、必ず私達は帰る。旗艦を任された山城はそう思っていた。

 

「間もなく、スリガオ海峡へ突入。念のため、一宮提督が夜で片づけられなかった場合に基地航空隊を飛ばしてくれると言うことよ。鹿屋基地の五ヶ丘提督もスリガオ海峡周辺の深海棲艦を蹴散らしてくれると言うことだから…私たちはただ眼前の敵に集中。各自、提督の命令を忘れないで」

 

了解!と言う言葉と共に、山城が右手を上げると速やかに陣形を警戒陣へと変える。時雨は背中から2つの砲を手に持ち、キッと水平線を睨む。運命を…覆す…!

 

敵の情報は大淀から知らされている。中でも厄介なのがPT小鬼群と呼ばれる機敏な動きで砲撃をかわし、強烈な魚雷を見舞ってくる。常に3隻で行動し、艦娘を攪乱させる。そんな厄介なものがうようよといるらしい。

 

そしてさらに待ち構えるのは夥しい戦艦の群れ。奥地へ進めばその数は異常だ。かつての大戦の時のように、その戦力は絶望的とも言える。スリガオ海峡を突破させないこと。これは深海棲艦においても悲願のようにも思える。

 

むしろ突破させてしまえば戦力も落ちるし援軍も進攻しやすくなってしまう。深海棲艦としても、ここは死守せねばならないのと同時に、山城たちの無念が集まり、強大な魑魅魍魎が跋扈する海域となってしまったのだ。

 

「時雨、大丈夫かい?」

 

考え込みすぎたか。最上が時雨の顔色をうかがう。

 

「最上、大丈夫だよ。僕は冷静さ。北上さんに目を覚まさせてもらえなかったら、突撃していたかもしれないね」

 

「そりゃー怖いねー。北上は駆逐艦に優しいからねー」

 

あれで優しいと言えたのだろうか?一歩間違えれば沈められたかもしれないくらいだと思ったけど…。

 

「北上はくちくうざーとか言うけど、誰よりも駆逐艦を思っているからね。ううん、みんなを大事に思っているから厳しいんだよ。そうじゃなかったら、あそこまで強引なことはしないで提督に丸投げしてるよ」

 

「そう…かな。うん、そうだね」

 

「そうさ!今回の戦いは厳しいだろうからね。山城もそうだけど、時雨の冷静な判断力も頼みの綱だからさ。頼んだよ!」

 

僕なんて…と言おうと思ったが、実際に時雨は駆逐艦のとりまとめ役でもある。時雨は途中離脱してしまったが、安久野の暗黒時代とも言える時を生還している歴戦の駆逐艦だ。夕立のような苛烈な攻撃も、時雨がいればより高みへと昇華する。

 

カッカしやすい夕立や、すぐに調子に乗りがちな皐月を抑え、冷静に旗艦やブレインとは別に駆逐艦に適切な指示を送ることができる貴重な存在。雪風も一目置くし、村雨は絶対な信頼がおける姉として認めている。

 

「たぶんだけど、この戦い、めっちゃくちゃとっちらかると思うんだよね。そうなると、ボクは山城や扶桑のフォローに回らないといけないと思うし、山城たちも目が離せなくなると思うんだ。そんな中で、満潮達に指示を出せるだろう時雨の存在はかなりありがたいよー」

 

「わかった。任せてよ最上」

 

「でも、時雨もそれに集中して自分を疎かにしては駄目よ?時雨は周りを優先しすぎるから…」

 

「ああ、扶桑…うん、気をつけるよ」

 

「せいぜい、足を引っ張らないで頂戴」

 

「山城ー、その言い方はないんじゃない?」

 

「叩かれて治ったとはいえ、暴走したのよ時雨は。また暴走するとも限らないでしょう?まあ、その時は私が引っぱたいてでもまた正すけど」

 

「山城。うん。その時はお願いするよ」

 

「まずは自分で律することを考えたらどうなの?」

 

「うう…」

 

「山城は時雨に厳しいなぁ。ねえ満潮?」

 

「私に振らないでよ。でも、時雨が私たちの司令塔って言うのは納得できるかもしれないから、しゃんとしなさいよね」

 

「えっと…」

 

「ふふふ~。満潮お姉さまは~。時雨ちゃんを~、と~~~~~ってもぉ、信頼してるんですよね~」

 

「はあ!?何言ってるのよ!!!まあ、信頼してないって言ったらうそになるけど…」

 

「あれ?満潮姉さん、時雨がまたパニックになったら私達どうしよもがもがもが」

 

「しー!!!しー!!!!」

 

「あはは。大丈夫だよ満潮。僕は大丈夫」

 

「ふ、ふん!!!」

 

「もがもがもが」

 

いつまでも口を押えられている朝雲が時雨、助けなさいよ!と言うような視線を向けてきたので満潮を止めた。

 

ふう、と山城は息を吐く。スリガオ海峡。私達の最期の。ああ、時雨だけは違うけど。いえ、でも因縁の場所。時雨1人にして鎮守府に帰すわけにもいかない。いいえ、私達は全員でスリガオ海峡を越え、鎮守府に帰る!

 

(今日だけは、私の不幸は出てきてほしくないんだけどね)

 

いや、無理か…と思うと自然と口角が上がる。抑えようとしてもニヤリ…と何が面白いのか笑ってしまう。

 

(フン。まあ、いつも通り、私は不幸だわとでも言っておけばいいのかしらね?)

 

不幸型戦艦などと言われて馬鹿にされ、完全に自信を喪失していた山城。村雨や提督、時雨たちのおかげでその自信を取り戻し、冗談かと思うよう命中率を誇る砲撃を手に入れた。

 

(村雨さんがいないのは心細いけれど。その姉である時雨。頼りになる子。この子がいなければ…私たちはきっと乗り越えることができない。もちろん、全員がいなければ乗り越えられないのだけれど)

 

村雨には相棒と称すくらいの信頼の高さだが、時雨の冷静な判断力、観察眼などは評価している。少し前まではスリガオ海峡だからと意気込みすぎておかしくなってしまっていたが、今は大丈夫だろう。

 

「山城、スリガオ海峡に突入するわ」

 

「はい、姉様」

 

さあ、やりましょうか。運命の一夜。運命は変えられることを…教えて頂戴!

 

………

 

「敵艦隊発見!例の小鬼群はなし!」

 

「砲撃用意!!」

 

「砲撃用意!!」

 

最上が飛ばした夜間瑞雲からの連絡で敵艦隊を発見。ついに運命の一夜が幕を上げた。あの時と違うのは、このような最新とも言える装備があるのが救いだろう。全力で戦うだけだ!!

 

「満潮と朝雲は砲撃!僕と山雲は魚雷で応戦!僕が周囲を警戒する!」

 

「ボクの瑞雲が触接!サポートしてくれるよ!」

 

「さあ、始めるわよ。私達の戦いを…」

 

「いきましょう、山城。みんな!」

 

陽が落ちて暗黒の世界。そのまま冥府へと続きそうな闇の世界。じゃあ僕たちは三途の川を渡っている最中かな?あいにく、六文銭は持っていないかな。だから悪いけど、渡る気はないね。

 

「5秒後に砲撃!15秒後に魚雷だ!」

 

満潮達に指示を出す。月明かりで辛うじてみんなが見える。もっとも、真っ暗闇でも僕たちの目は姿を捉えることができるけど。それでも、深海棲艦の姿は黒すぎてわからない。うっすらと目が光っているのは見え隠れするが。

 

「撃て!!!」

 

ダァン!ダァン!!!

 

「主砲!撃てェ!!!!」

 

ドォン!!!!!

 

満潮達の砲撃を皮切りに、山城と扶桑の砲も火を噴いた。さらに最上の瑞雲が照明弾を照射。それを合図に…。

 

「よっしゃー!これが避けれるかい!?」

 

ガァアアアン!!!

 

最上も砲撃。

 

「魚雷、撃て!」

 

時雨が15秒きっかりで山雲と共に魚雷を発射。時雨は主力への雷撃を頼りにされているため、ここでむやみに魚雷を放つことはない。もちろん、駆逐艦の魚雷は夜戦において必殺と言ってもいい。誰もがここで無駄射ちはできない。主力を前に必殺技がありませんでは話にならない。

 

「よーし!命中!砲撃は命中!」

 

最上がサムズアップ。初手はこちらが有利へ運ぶように持ち込んだ。お返しに当然、向こうからも砲撃が飛んでくるし、魚雷を探知せねばならない。

 

「満潮!少しだけ朝雲達に指示をお願い!」

 

「わかったわ!」

 

満潮だって指示はできる。朝雲や山雲はまだまだルーキーだ。無理矢理引っ張り出したに過ぎない。

 

「山城、PT小鬼群がいない。これは何か企んでいるかもしれない」

 

「闇討ちにはもってこいの夜ですものね。攻撃力は落ちるけど、誰かと一緒に探知して」

 

「わかった。山城、扶桑、気をつけてね」

 

「おーい、ボクにはないのかーい?」

 

「最上も気をつけて」

 

「任せてよー!」

 

「調子のいいことを言っていないで撃ちなさい!」

 

「はいはーい!」

 

最上は良くも悪くもムードメーカー。緊張しすぎている山城の緊張を解きほぐすのには適している。扶桑もかなり緊張していたらしく、最上の言葉にふぅ、とため息を吐いた。

 

(私も…熱くなりすぎていたみたいね…最上、時雨。ありがとう)

 

今は口には出さない。帰ったらうんと伝えるわね。そう思っていた。

 

「満潮!山雲とPT小鬼群を探すから、しばらく任せたよ!山雲!手伝って!」

 

「わかった!朝雲!周りは気にしないで前の敵を撃ちまくって!!」

 

「は、はい!!!」

 

こういう時、心配して私達も探すわよ!と言わないあたりが満潮も覚悟を決めている。そして、時雨を全力で信頼している。

 

「前進!!!進撃よ!警戒は厳にして!!」

 

山城の声が研ぎ澄まされた日本刀のように鋭い。同時に、美しくもあるし、この夜の海に良く通る。海峡へ突入、進撃。入り口の敵は壊滅。

 

「さあ、地獄へようこそ、ね」

 

「……」

 

最上でさえ息を飲む。ボクたちはここへ来たんだ。瑞雲をカタパルトへ戻し、しばし様子を見る。静かだ。どうして?ここは山城の言う通り地獄じゃないのかい?いや、地獄って言うのはアイツがいた時の海域のほうが地獄だったね。それに比べれば…まだ空気は重くない。しかし、ふっふっ、と呼吸は浅く、軽く汗をかいている最上。何が来る…。戦艦かい?もうボスがいて、早く終わらせてゆっくり提督のカレーが食べたいなぁ…。

 

「魚雷だ!!!!!」

 

時雨が叫ぶように言った。全員に緊張が走った。

 

「3時の方向だ!!全速力で前進!!!!」

 

チィ!と山城が言いながら動き出す。よし、これなら間に合う。そう思って時雨も速度を上げようとした時だった。

 

 

ガクン

 

 

「なぁ!?わあ!!」

 

それを山城が叫んだ。

 

「時雨!!!何しているの!!??!早く立ちなさい!!!!」

 

「時雨!!!急いで!!魚雷が!魚雷が!!!」

 

スクリューが動かない!!!そんな…そんな…!こんな、こんなつまらないことで…僕は終わり…かい?ああ、ドン!って言う砲撃の音まで…はは、は…ごめん、ね…山城…みんな…提督…。

 

「時雨えええええええええ!!!!!!!」

 

ギュッと目を瞑り、時雨はその時を待った。痛いかな…痛いよね…足が腐った時の比じゃないよね…。山城が叫んでいるけど…僕には…何も…。

 

ヒュン!

シャアアアア…

 

………静寂。あれ、僕はもう…沈んだのかい?もう僕は海の底?痛くなかったな。なら、一撃で僕は終わったか…。そう思っているとグイっと誰かに引っ張られた。ああ。深海棲艦…かな?僕を深海棲艦に…。

 

「いつまでボーっと突っ立ってるのよ!!!!!!こっちに早く来なさい!!!!!」

 

「………え!?」

 

「時雨!!怪我はない!?無事!?ああ…よかった…」

 

「やましろ…?」

 

「みんな~、言ってたぁ、小さいの~…い~っぱいきました~」

 

ちょっと待ってほしい。どうなっているの?僕は…魚雷と砲撃を…うけたんじゃないのか?

 

「奇跡的に…時雨の横を砲弾も魚雷も…抜けていった…わねぇ」

 

「ああ…もう!このおバカ!!!」

 

山城に抱きしめられていた。

 

「さすがは幸運艦だねぇ!偶然逸れたねぇ!」

 

いや、偶然なんだろうか?偶然にしてはできすぎていない?

 

「時雨!機銃の準備できてるわ!」

 

朝雲の言葉にハッとなる。そうだ、山雲が言っていたじゃないか!

 

「駆逐艦、機銃用意!!!」

 

慌てつつも時雨も機銃を用意する。前進をしてみる。スクリューは…動いた。

 

「何で動けなかったのよ?」

 

「スクリューが動かなくて…」

 

「はあ!?明石さんの整備ミス!?」

 

「そんなことはないはずだけど…それより…!機銃斉射!」

 

「ああもう!帰ったら明石さんに問いただしてやるんだから!」

 

ダララララララララ!!!!

 

4人の機銃が一斉に掃射される。キャハハ…と不気味な笑い声をあげるPT小鬼群。駆逐艦よりもさらに速い速度で海を駆けるが、弾幕には弱い。見事にこれらを撃沈していく。

 

「姉様!あれは時雨たちに任せて重巡などを!」

 

「ええ!」

 

「だああああ!!!」

 

「それ~」

 

それぞれの役割を果たすためにそれぞれが攻撃をする。

 

「時雨!別方向から来てる!」

 

「わかった、僕がやろう!!」

 

別の方向からPT小鬼群がやって来る。それに向けて機銃を向ける。朝雲がフォローしてくれる。ありがたい。照準、よし…いくぞ!!!

 

 

カチッ……

ダララララ!!!

 

 

「ちょっと!時雨!!!?!?!?」

 

カチンカチン…

 

「へっ…?」

 

「今度は何よ!?」

 

「機銃が…弾詰まり!?」

 

「はあ?!」

 

「時雨、早くー!!」

 

「ちょっと待っ……くそ!出てよ!!なんでこんなときに…!!!」

 

「ああもう!貸して!!!調律するから!!!」

 

「満潮、ごめ…!?危ない!」

 

「きゃっ!?」

 

ズダダダダダ!!!!!

 

満潮のフレンチクルーラーを掠めるように突如時雨の機銃が発射された。おかげか満潮は片方の髪がほどけてしまった。

 

「何してんのよ!?!?私を殺したいの!?」

 

「ち、違うよ!!な、なんでこんな…!」

 

「時雨!!ありがとう!!!助かったよー!!!」

 

「「は????」」

 

最上からなぜか感謝される。視線の先では爆発炎上しているPT小鬼群があった。どうやら突如発射された時雨の機銃は、隠密行動にて最上や山城たちを狙うPT小鬼群を撃沈させたらしい。

 

「よくやったわ!まだいるわ!片付けてちょうだい!!」

 

山城にもなぜか褒められた。

 

………その数分前

 

「山城!砲撃が激しくなってきたわ!」

 

「はい、姉様!ですが、時雨たちのおかげで眼前の敵に集中できます!」

 

「そうね…あの子達には無理をさせるわね…けれど、そのおかげで私達は前進できているんですものね」

 

「そうですね…申し訳ないですが…踏ん張ってもらいましょう」

 

「ええ…!さあ、いくわよ!」

 

扶桑の気迫がさらに増す。中にはその気迫に負けて怯えだす深海棲艦もいるくらいだ。最上は山城と扶桑のフォローに回り、動き回る。

 

「最上!あまり動きすぎて燃料を消費しないで!」

 

「そうは言ってもさぁ。結構攻撃が激しいし、囲まれそうだからね。大丈夫だよ。その辺はわきまえてるつもりさ」

 

「なるほど…退路を断とうとしているわけね…上等じゃない。私達は前に進むしかないのなら、進んでやるわよ!」

 

死ぬつもりはないが死ぬ気でいかねば勝利も逃げることもできないときたか。ならば覚悟を決めねばなるまい。一度砲撃をやめ、周囲を見回す。山城の柘榴石のような瞳がキョロキョロと動く。

 

(チィ…思ったより数が多いわ。特に小鬼群が多い…機銃でうまく牽制、撃沈できているようだけど、これは私達もそちらに気をやるべきかしら…)

 

山城の命中精度をもってしても、素早く動き回るあれを百発百中とはいかないだろう、と考えた。弾幕を張るにしても、むやみやたらに砲を撃ちすぎれば主力の際に弾がもたない。アレには姉様のプレッシャーも効かないらしい。

 

「キャハ…キャハハハ…キャハハハ…」

 

耳障りな小鬼群の笑う声。4人の機銃でも難しいか。最上を支援に回すか?いや、隙を見せれば姉様が危ない。私も危ない。

 

姉様が気が付かないうちに消えていたなんて笑えないわ。私の大好きな姉様。私に優しくしてくださって…いいえ、最上や時雨たちだって…。

 

(囲まれだしたわね…チッ、ほんと、不幸だわ)

 

「まずいなぁ。囲まれだしたよ」

 

「ええ…これはよくない兆候ね…」

 

(最上や姉様の言う通り…ここはやはり、私も…!)

 

ダララララ!!!!

 

「ギッ!?ギギギギ?!」

 

弾雨が小鬼群に降り注ぐ。いや、これは一点集中。機銃で一点集中など、無策にも程がある!何を考えているの!?と山城は怒鳴りそうになったが他の小鬼群も吸い込まれるように機銃に絡めとられていく。

 

(どういうことなの…)

 

「すご!あそこに陣取ってボク達に魚雷を撃とうとしてたんじゃない!?他の小鬼群は陽動でさ!すごいよ時雨!未来視!?大淀みたいじゃないか!」

 

嘘でしょ?時雨がそこまで予測していた!?神算鬼謀(しんさんきぼう)。そんな言葉が浮かんでいた。確かに他の小鬼群はまだ激しく動き回り、私達どころか時雨たちまで翻弄している。それを先読みして、あの子は私達の絶望的な状態を打破した!?ならば…この戦い、ひっくり返せるかもしれない!包囲網?そんなもの、私達の軍師、時雨ならば全て掌の上で転がすことが可能なのね!!

 

実際にはたまたま満潮が調律しようとし、時雨がペシッと機銃を叩いたことにより暴発しただけであるのだが、山城や最上達にとっても。深海棲艦にとっても予想だにしない事態となり、幸運にも山城たちを狙った小鬼群を撃退しただけであった。

 

最上がありがとー!と手を振ると、時雨は気まずそうに手を振り返していた。山城達には「これくらいは当たり前だから気にしないで集中して」と苦笑しているように見えたらしい。

 

かくしてまだまだ先は長いのだが危機に陥った「三条艦隊」をたまたま救い出した時雨は困惑しつつも戦闘を続ける。

 

「包囲を突破したわ!前進よ!退路は塞がれてる!なら、前進して活路を見出すしかないわ!」

 

「うへー、激しいねー。よっし、いくか!」

 

「時雨、大丈夫なの?」

 

「朝雲…僕もさっぱりだよ…」

 

「でも~、危ない状況は脱出しましたよ~。時雨ちゃんのおかげです~♪」

 

時雨本人は腑に落ちないのだが…。危うく満潮に機銃斉射するところだったわけだし…満潮は「あーもうめんどくさい!」ともう片方のフレンチクルーラーをほどいてしまった。

 

「おお?新しい艦娘かい?」

 

「満潮よ!!!何言ってんの!?」

 

「あら満潮?かわいらしいわね~」

 

「扶桑!前に集中しにゃさい!!」

 

「満潮照れてるね?」

 

「うるさーーーーい!!!!」

 

ごめんよ…満潮…。そう謝るしか時雨にはできなかった。

 

 

「何よあれ…」

 

満潮が口をぽかんと開けて絶望する。敵を倒しつつ進んだ先に待ち受けていたのは…夥しい数の戦艦。

 

「なるほどね…逃がしも進めもさせないってわけね…」

 

「く、くぅ…こんな…こんなことって!」

 

絶望的な戦艦の数。ああ、かの大戦時もこの恐ろしい数の戦艦の前になす術がなかったわけね、と山城は小さく息を吐いた。7人でこれをやれと?ふざけている。最上は歯をかみしめているし、姉様も厳しいお顔をされている。意気消沈…ここで士気は大きく下がった。

 

「泣き言は帰ってからにしてちょうだい。やるわよ」

 

「山城…ええ、そうね。ここまで守りが硬いとなると…スリガオ海峡はもう少しと思うわ」

 

「……うん、逃がすつもりがないなら突撃して退却、だね」

 

「……捨てがまり…ではないわよ時雨。私達は突破するのよ。ここを突破して、スリガオ海峡を突破して、私達はお家に帰るの」

 

「そうだね。山城、提督にいっぱい褒めてもらえそうだね」

 

「…は?別に、私はそう言うのは…」

 

「ふふ、村雨が喜んでくれるね。ものすごく心配していたから」

 

「………」

 

「あ、顔がヒクヒクしてる」

 

「うるさい」

 

「ふふふ。さあ、いきましょうか!各員、戦闘準備よ!」

 

そう。戦闘よ。捨てがまりなんてものはない。全部全部…私達の悲願達成の邪魔をするなら敵だ。邪魔だ。そう、邪魔だ。山城は砲を構え、戦艦に対して鬼のような表情で叫んだ。

 

「邪魔だ………邪魔だぁ…どけえええええええ!!!!!!」

 

ドオオオオン!!!

 

山城の砲が吼える。それが開戦の合図。

 

「……ここでやるしかないわね。朝雲!山雲!こっちにきて!」

 

「は、はい!」

 

「は~い」

 

「満潮、僕は行くよ」

 

「ええ、あんたは主力で本領を発揮してもらうから!」

 

「わかった!」

 

満潮はここで使うことになるなんてね…と少しだけ唇を噛んだ。

 

「おでこを借りるわ、朝雲。あなたの音を聞かせて…カチカチカチ」

 

「わあ!姉さん!?今そんなこと…カ、カチ、カチ、カチ…」

 

「ほわぁ~、満潮お姉様~?」

 

現場での調律など危険極まるのだが、これをすることで一時的にだが能力を高めることができる。副作用として、大幅に体力を消耗するので、おそらくだが主力との戦いでは朝雲と山雲は体力回復に努めてもらうことになるだろう。だが、主力の前に主力と同等なくらいの戦艦…いや、この数は異常だ。何が何でも私達を行かせないと言う執念が見える。

 

そもそもここを突破しなければ主力にも会えやしないし、全滅してしまえば突破も何もない。ここまでいい状態で来れたのだ。ここで大破や轟沈できるわけがない。

 

満潮の頭の中では主力と戦うのは扶桑、山城、最上、時雨だ。私、朝雲、山雲は頭数に入っていない。やったとしてもせめて駆逐艦や取り巻きくらいだ。もっとも、戦艦もこの様子ならわらわらいるだろうな、と想像している。私はそこで能力をカチ上げる。申し訳ないが妹たちにはここで踏ん張ってもらう。

 

「カチカチカチ…」

「カチカチカチ…」

 

「ふう…」

 

「す、すごい、チカラが湧いてくるわ!」

 

「短時間しか効果がないけど一時的に集中力なんかが上がるから、それで戦艦を撃滅して!切れたらめちゃくちゃ疲れるからね!疲れたと思ったらすぐ下がって!」

 

「わ、わかった!」

 

「山雲!次は山雲よ…あなたの音を聞かせて…」

「カッチカッチカッチ」

 

山雲は普段もマイペースだけど音もマイペースね。でも、珍しい音。これを合わせるのが私の仕事よ。

 

「……できた!」

「おお~、チカラが湧いてきます~」

 

「よし、行くわよ!朝雲!山雲!魚雷用意!!!」

 

ここで全力を出すならもう2人には撃ち尽くすくらいでいってもらう。その指示は私がやる。時雨は最上と一緒に扶桑達を護衛しつつ戦艦を排除。ここが私達の正念場よ。

 

「3人同時!魚雷発射!!」

 

「いっけええええ!!」

 

「それ~」

 

3人で五連装魚雷を発射すれば何と言うか、強力すぎるな、とも思う。私達は駆逐艦。相手は戦艦。強力すぎても悪くないんじゃない?

 

「最上!」

 

「ああ!」

 

時雨と最上はそう言うだけで満潮達の魚雷を見送る。これならそれなりに削れるはずだ。12隻の戦艦ル級。まったく、とんでもない数の戦艦を用意したものだね、と時雨は呆れた。そんなに、僕達を通さないつもりか。だが、そんなわけにはいかない。

 

「……通してもらうよ!」

 

「どいたどいたー!」

 

慌てているわけではない。7人の不思議な一体感。心が繋がり合っているような。そんな感じが時雨にはあった。満潮達の魚雷が通り過ぎた後、最上と時雨は阿吽の呼吸で砲を構える。凄まじい魚雷の爆発音がしたと同時に最上は夜間瑞雲を飛ばした。

 

「用意はいいかい、時雨!」

「ああ!」

 

海水のカーテンが敷かれた中を飛んでいく瑞雲。そして…パァッと灯る明かり。照明弾だ。そしてゆらゆらと落ちていくそれは、明確に混乱している戦艦たちを露にする。

 

「今だ、時雨!!」

「だああああああ!!!!」

 

「姉様!」

「ええ!」

 

「おあああああああ!!!!!!」

 

山城も吼えた。4人の一斉砲撃。これにはたまらず戦艦たちは退こうとする。しかし、さらに迫る魚雷に襲われ、またしても大爆発。

 

「ぐあっ!?」

 

「!?」

 

砲撃の瞬間を捉えられた。最上が吹き飛ばされた。カウンター…!

 

「最上!やってくれたわね!!!!」

 

山城が激昂し、砲撃を放つ。中破していたようで山城の砲撃で難なく墜ちた。しかし、こちらもダメージが残った。

 

「く、くそぉ…直撃かよ…!」

「相手が損害を負っていて威力が落ちていたのが救いね…」

 

「最上、大丈夫!?……中破ね」

「やあありがと、満潮。そっちは大丈夫かい?」

 

「ええ。私は…」

 

「ふう、ふう…」

「はあ…はあ…」

 

「朝雲と山雲は調律で一時的に強化したから…今はその反動がきているわ」

 

山城は唇に指をあてて考える。なかなかに消耗が激しい。満潮、朝雲、山雲は魚雷はほぼ撃ち尽くした。それと同時に朝雲、山雲の体力は無理な強化の反動で動くのも辛い状態だろう。加えて最上の中破。ありがたいことに、主力とやり合うつもりでいる自分、扶桑姉様。そして切り札の魚雷を持っている時雨は健在。少し休みたいところだが、ここで一気にケリをつけて夜明けまでに終わらせてしまいたい。

 

時雨や最上は夜のほうがチカラを発揮できる。夜明けまではもう幾ばくも無い時間。基地航空隊があるとは言え、あまり期待はしないほうがいい。朝になれば時雨たちの強さも消える。私と扶桑姉様だけでは心もとない…。

 

「や、山城さん。行きましょう」

「朝雲…」

 

「時間、ないのよ、ね?だったら、急いで夜に終わらせ、れば…時雨や最上さんたち、いるし!」

「はあ…はあ…はい~。山雲も~…まだ、いけま~す」

 

「まだやれるわ。希望はないわけじゃない。まだ時雨もいるし、扶桑も山城も弾も燃料もあるし、体力も残っているでしょ?」

 

「え。ええ…」

 

「なら行くべきよ。早く行って、早く終わらせましょ。そして…みんなでここを乗り越えて帰るのよ」

 

「あら、満潮は頼もしいわねぇ」

 

「扶桑!そんなこと言ってないで行くわよ!ほら山城、早くしなさい!旗艦でしょ!?」

 

何で私が怒られなくちゃいけないのよ…八つ当たりもいいところだわ…はあ、不幸だわ。まあ、このくらいの不幸なら笑って済ませてあげるわ。

 

「…行くわよ。勝つわよ…そして、この海峡を乗り越える…!」

 

「へへへ、そうでなきゃね。なーに、ボクならまだまだやれるさ!ただの中破だからね」

 

「慢心は駄目だよ、最上」

 

「ありゃりゃ、怒られちゃったや。大丈夫、慢心はしてないからね。あとは…衝突禁止!」

 

「最上には一番気をつけてほしいやつじゃない」

 

「ははは!そうだね!」

 

「それじゃあ…進撃!!」

 

最上と朝雲、山雲を庇うようにして隊列を組み、スリガオ海峡を目指す。

 

 

「海が…荒れてきたね」

 

「ええ。それと…すごい禍々しい気配を感じるわ」

 

「……近い」

 

夜なのに赤黒い空。荒れる海。これは凄まじい怨念を持った強大な姫級の深海棲艦が居る証拠。肌でビリビリ感じるほどの強烈な怨念と気配。その数はさっきの戦艦たちの比ではない。いっぱいいる。

 

「全員、戦闘準備よ」

 

山城が号令を出す。見えてきた。青白いオーラを出し、不気味に佇む大型の深海棲艦。そして、取り巻きの深海棲艦達。

 

「……山城?」

 

「そうね、まるで…山城みたいね」

 

「あれが海峡夜棲姫ってやつだね?なるほど。やっぱり、ここで沈んだ西村艦隊の怨念かな?」

 

「でしょうね…見た目は私でも…敵は敵よ。邪魔をするなら消えてもらうわ」

 

山城の柘榴石のような瞳が、無機質な表情で笑う自分によく似た深海棲艦を睨みつける。自分達の存在に気付いたのか、彼女を護衛するかのように前へ出る戦艦ル級。周りには駆逐ナ級…それもflagshipか。これは危険だ。

 

「……山城、囲まれたわ」

 

「逃がす気は毛頭ないようですね。まあいいでしょう。やることはただ一つ。中央突破。海峡夜棲姫を倒し、スリガオ海峡を抜ける…!」

 

「ええ…いきましょう、山城」

 

「フフフ…ココ…ハ…トオレナイシ…トオサナイ……ヨッ!」

 

「いいえ、通してもらうわ。邪魔をするなら海に還りなさい」

 

「クスクス…オモシロイコト、言ウノネ…ネエ、姉様?」

 

海峡夜棲姫は横を向き、誰かに語りかけているようだ。

 

「姉様…?」

 

「あの子…何を言って…」

 

扶桑にだけは見えた。山城のような深海棲艦の隣で、こちらを冷たい目で見つめるわたし…扶桑のような姿を。他の子達には見えていない?ならば、あれは…?

 

「………どけ」

 

「ナニ…?」

 

「まだ……どけぇ…」

 

すぐに山城はすさまじい声量で叫んだ。そして、鬼気迫る顔になった。

 

「邪魔だ!!!!!!どけええええええ!!!!!!!」

 

周囲の深海棲艦を威圧させる叫び。気迫は扶桑を超える。ドォン!!!と41cm三連装砲が火を噴く。山城の先制攻撃、それも正確すぎる砲撃。ギッと駆逐ナ級が飛んでその弾を食らう。ギイギギギと言う不愉快な声を上げて爆散した。

 

「………ココハジゴクナノヨ」

 

「ええ、そうでしょうね。この地獄で時雨を残して海に沈んでいったのですものね。けど、私達は違うわ。あんたを倒し、周りの邪魔者を片付けて、私達はここを越える!!!!」

 

「そうだよ。僕達の悲願まであと少しなんだ!通してもらうよ!!」

 

「満潮!朝雲、山雲!小鬼群だ!!そっちを任せられるかい!?」

 

「最上!任せて!機銃ならまだ残りは多くある!」

 

「いくわよ、山ちゃん!」

 

「はぁい。山雲ぉ~、いっきまぁす」

 

「時雨、あんたは私達共に…」

 

「わかったよ」

 

「ええ…それじゃあ…いくわよ!!!」

 

山城の掛け声とともに各自が動き出す。山城も海峡夜棲姫に近寄るために動き出した…のだが。

 

ガクン!

 

「………は?は??????」

 

「山城!!!!」

 

時雨の呼びかけにも応えず、山城はただ、動かない自分のブーツのスクリューに情けない声をあげるしかなかった。




スリガオ海峡も佳境に差し掛かってきました。
対海峡夜棲家姫戦。どうぞ次回は「西村艦隊の戦い」をBGMにお読みいただけるとうれしいですね。

そんな中、時雨がいろいろとトラブルに巻き込まれてしまいましたが何が原因なのでしょうか?次回に明かします。お気づきの方はいらっしゃると思いますが(笑)

次回は山城、扶桑、そして時雨が大活躍。もちろん最上達もヘロヘロですが活躍しますよ。そして…。

それでは、また。
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