提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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スリガオ海峡、海峡夜棲姫との戦いです。
無事に山城や時雨たちはこの夜戦を勝ち抜き、海峡を越えることができるのでしょうか?

それと同時に、不穏な影が現れます…時雨たちの運命の夜は、いかに。


第二百六十六話

「何なのよ!?何で私までスクリューが止まるのよ!!!ふざけるんじゃないわよ!!!!ああもう!不幸だわ!!!不幸すぎるわよ!!!」

 

山城が冷静さを欠きに欠いて、戦艦たちを前に慌てている。敵前で動けなくなる。つまりただの浮き。そうなればただの格好の的にしかならないわけで。それは慌てふためくのも無理はない。無理矢理足を動かして走るが、その速さは到底いつものスピードよりも遥かに遅い。

 

「くううう!!!姉様…ごめんなさい…私は先に逝って……うわ!ぶべ!!」

 

バッシャーン!と転ぶ。その転ぶ寸前にドガァン!!!と砲が一発発射された。顔は水面で思いきり打つし、構えも何も取っていない状況の砲撃で背中が痛い。不幸だわ…。

 

「キャアアア!!!」

 

そう言って爆発炎上しているのは戦艦ル級。まったく狙いから外れていたはずの戦艦ル級に今しがた、山城が誤射とも言える砲弾が直撃したのだ。

 

「おお!すごいね山城!」

 

「…何がすごいのよ…」

 

山城は今スクリューが動かなかったのは何なのか?と思うくらいにすんなりと動けた。その顔はドヨン…と不幸オーラを発している。

 

「すごいわ、山城。時雨と言い満潮と言い、みんな幸運を持っているのねぇ…」

 

「僕にもさっぱりわからないよ…」

 

「でもさ、これだけ立て続けにラッキーが起こるなんてそうはないよ?何かあるんじゃない?」

 

うーん…敵に囲まれつつあるのだがそれを考える最上。時雨もうん…と考えこみ、スカートのポケットに手が触れた時、何か感触を覚えた。それは…それを取り出した瞬間ハッとなる。

 

「何よこれ?お守り?」

 

「これは…雪風とジャービスが祈りを込めてくれたお守りだ…無事帰って来れますようにってありったけ幸運を詰めてくれたらしい」

 

「あー…」

 

「…これしかないわよね」

 

最上と満潮が納得した。

 

雪風は奇跡の駆逐艦と呼ばれるほどの幸運艦。ジャービスもラッキージャービスと言う名で語り継がれている稀代の幸運艦。そして、呉の雪風と佐世保の時雨と呼ばれるほど、時雨自身も運が高い。

 

「つまり、時雨と雪風ちゃん、ジャービスさんの幸運が合わさった…と言うこと?」

 

扶桑がそう尋ねると最上がうんうん、と首を振った。

 

「いやー、すごいお守りだよね!瑞鶴にも折ってもらえばすごいことになってたんじゃない?」

 

時雨、雪風、ジャービス、瑞鶴。横須賀の幸運艦筆頭である。何かと幸運を運び込むのだ。商店街で雪風が入ったお店が来店1万人目で記念品をもらう。ジャービスがたった一枚福引券をもらったらそれが特賞。源の漁の護衛に瑞鶴が行けば、他の漁船は坊主ばっかりだと言うのに源は大漁。それもでっぷりと太った鯛やらヒラメやらをつり上げたりと言い出したらキリがない。

 

ちなみに時雨は商店街のビンゴゲームで時雨が持っていたビンゴカードの数字だけが次々と出てオールビンゴ。景品を総取りしてしまったことがある(結局他のビンゴが当たった参加者さんに1個、茂の特選お肉の詰め合わせだけもらった)。

 

瑞鶴を除く幸運駆逐艦3人の幸運がこのスリガオ海峡で発揮してしまっているらしい。

 

「じゃあ、なんで私や山城まで…?」

 

「たぶん、満潮は最初に時雨が転んだときに手を引っ張ったこと。山城は時雨を抱きしめてたでしょ?それじゃないかなぁ?」

 

「……ああ」

 

「そういえば…」

 

満潮も山城も納得せざるを得ない。しかし、こんな肝が冷えるラッキーなアクシデントはいらないのだが…。

 

「あの~、みなさぁん。囲まれちゃいますよ~」

 

山雲にそう言われてハッとなった。

 

「もう!早くしてよ!私達もう弾ないんだから!!!」

 

「ごめんごめん!よし、いこうか!」

 

「納得はいきませんが…いきましょうか。時雨、いくわよ」

 

「うん!」

 

今一度気を引き締め直し、敵へと向き直る。すでに戦艦ル級により包囲されつつある。そこへ高速で攻め込んでくる駆逐ナ級と小鬼群。山城はチィ…と舌打ちした。

 

数が多い。弾薬も減って来た中でここまで本気で攻め落としにきたか…さて、どうするべきか。

 

「山城?ここは私が戦艦を引き付けるわ。あなたは主力の気を引いてほしいのだけれど」

 

「……わかりました。助かります、姉様」

 

「ボクと満潮でナ級はやるよ。満潮、まだいける?」

 

「いけるわ。朝雲!!山雲!小鬼群は任せたわ!」

 

「は~い」

 

「やるわよ、山ちゃん!」

 

時雨はどこにつくか迷っていた。扶桑の護衛か、最上達とナ級を片付けるか。朝雲達と小鬼群を片付けるか。それとも、山城と共に海峡夜棲姫をやるか。時雨はこういう時、本当にフリーだ。ここは自分がどこにつくかで完全に後手に回ることもあれば、有利に立つこともできる。

 

(どうすればいい…紫亜…)

 

親友、頼りになる姉。紫亜を思う。

 

「無理に全てをやろうとすると、足元を掬われるわよ。まずは足元を見なさい。そして、足元のものから片付けていくのよ。そうすれば、少しずつでも全てが片付いていくわ」

 

自分の在り方を考えていた際に紫亜に相談した時に言われたことだ。時雨は器用ゆえに何でもこなすことができる。しかし、悪く言えば器用貧乏でもある。自分の最大の武器は幸運と高い雷撃だ。それとは別に高い観察眼、冷静な判断力もある。

 

僕にはこういうときどうすればいいかわからない…そう思っていた。海峡夜棲姫への雷撃はもう少しアレが弱ってからでないと辛い。ル級相手に魚雷は…海峡夜棲姫への有効打がなくなる。ナ級と砲撃をするか小鬼群と戦うか…どうすればいい。

 

「小鬼群に魚雷を発射させないで!!」

「は~い!」

 

「最上、無理しないで!!」

「平気さ!これくらい!!」

 

「時雨!何をしているの!?姉様を支援して!」

 

「サセナイ」

 

「きゃああ!!」

「扶桑!?」

 

海峡夜棲姫が一瞬の隙を突いて扶桑を狙った。それは砲を一基破壊するに至る。扶桑は中破だ。服も少し爆発の影響で燃えてしまった。

 

「姉様!!!!」

「山城!来ては駄目よ!あなたは主力艦に集中して!!!」

 

「クスクスクス…ネエサマ…サスガデスネ」

「はあ?」

 

「くっ…!」

「よくも姉様をおおおおお!!!!!!!」

 

「山城!ダメだ!!!」

 

時雨が叫ぶも山城は冷静さを欠いた。主力艦に接近する。僕が…僕が不甲斐ないから…!

 

「小鬼群撃破したわ!ぜぇ…ぜぇ…も、もう、きつぅ…」

「はふー…これは…つらいですねぇ~」

 

何とか小鬼群を撃破したらしい。しかし、朝雲も山雲も一旦休ませないと危険だ。

 

「ちぃ!?」

「最上下がって!」

 

「これくらいで…この扶桑を止めることはできはしないわ…!」

 

(僕にしかできないこと…それは…今は全部だ…!)

 

そうは言ってもナ級にル級。危険すぎる。ナ級をやれば扶桑が危険だ。ル級をやれば最上達が…いや、それすら思い上がりなのかもしれない。

 

ヒュルルルルル…

 

そんな音が聞こえてきた、次の瞬間。

 

ズガァン!ズドドドドド!!!

 

「ギャアアア!!!」

「ギエアアアアア!!!!!」

 

「ギギーーーーーー!!!!」」

 

正確すぎる砲撃の雨が時雨たちの包囲網を薙ぎ払っていく。援軍!?

 

『はいはーい!みんな、間に合いましたかー!』

 

「この声…村雨!?」

 

陽気な聞きなれた声。しかし、これが村雨だとすれば…。

 

『村雨、支援砲撃にきましたー!もう一回いきますよー!風微風!上2!よし!砲撃、いっちゃってくださーい!!』

 

もう一度ヒュルルルル…と言う音の次には大爆発だ。

 

「……さすがは…私の相棒ね」

 

熱くなっていた山城は先ほどの砲撃支援で冷静さを取り戻し、自分の相棒の正確無比な砲撃に笑うしかなかった。

 

「支援砲撃…!?た、助かったぁ…」

 

最上が安堵の息を漏らす。

 

『ウォースパイトさん、ローマさん、ビス子さん、サウスダコタさん、ナイスでした!蒼龍さん!ありがとう!わ、わあ!ビス子さん!?え、あ、ごめんなさーい、ビスマルクさん!』

 

村雨がビスマルクと言う艦娘に怒られているのだろうか?ビス子と言うのはさすがに…どうかと思うよ…。

 

しかし、援軍が来てくれたおかげか、少しばかり頭が冷えた。小鬼群は壊滅。ナ級やル級も数を減らした。これなら…いや…何か、来る!

 

「ぎゃあ!!!?」

「満潮姉さん!!!!?」

 

満潮が何かを受けて吹き飛ばされた。損害は…まずい、大きいぞ!!!

 

「くっ、な、何よ…誰…」

 

「は?」

「何ですか~、あれ~?」

 

白いフードを被った…巨大な砲をいくつも背負う深海棲艦。その顔は…ニタァ…と笑っている。ここで新たな…敵か。

 

「そ、そんな…姫は一隻じゃないの…?」

「まずい…ですね~」

 

「い、嫌よ!こんな…せっかくここまできて…沈む…また、沈むの!?」

 

満潮や朝雲達はすでに新たな姫の登場に絶望している。最上も顔を青くしているようだ。

 

「ちぃ…ここまで…来て!」

 

「まだ、まだ終わらない…まだ、諦めては…」

 

山城は怒りに染まっている。扶桑は希望を持とうとしているが、やはり絶望的な差に諦めの表情が出ている。

 

『何があったんですか!?何かすごい強い気配がしますけど!』

 

村雨の問いに誰も答えられない。それどころではない。

 

「ワタシモ…オアイテ…シマショウ…」

 

多くは語らない気か。いや、しかし、あの深海棲艦が加わったことでル級たちの活力が戻ってきている…士気が上がっているじゃないか…こっちは…絶望しかないのに…。

 

いや、まだだ。まだみんな沈んでもいない。まだ、まだ帰れる!!僕達は…諦めちゃだめだ!みんなが諦めているなら…僕が…僕が希望の光にならなきゃ!その強い思いが時雨の体に活力を与えた。チカラが溢れる。提督、みんな、僕にチカラを貸しておくれ!!

 

時雨を包み込む強い光。武蔵の時もそうであったが、ここぞと言う所で彼女たちはチカラを発揮する。横須賀鎮守府は未知なるチカラを持つ艦娘がいる。刈谷提督や堀内提督が清州副司令長官によく言われていた言葉だ。大和に武蔵もそうであるが、彼女らも含めて、未知なるチカラを秘めているのがゴロゴロいるぞ、と言っていたらしい。

そのチカラが、玲司が着任してから発揮している。電や朝潮、神通…艦種は問わない。様々なチカラを出しているのだ。

 

そして、時雨は村雨と同じく、玲司に血を分けてもらった艦娘だ。朝潮達のように女王の資格はないが、その実力は駆逐艦の中でも上位。そして、玲司の血が。時雨の幸運が奇跡を起こす!

 

光を払いのけるようにして現れたのは蒼い眼をした時雨。その服装は少し…いや、かなり変わっていた。服はノースリーブになっているし、名取や五十鈴にも負けないような胸部装甲。服も白色が増え、改白露型の服も踏襲しているような。

 

「……駆逐艦、時雨『改三』!!!!」

 

「はあ?!」

「時雨…すごいわねぇ…」

 

「え。ええ!?改三!?そんなぁ、ボクがやっと改二になったと思ったらぁ…」

「どこを残念がってるのよ!」

 

「あ、あの蒼い眼…」

「とぉ~ってもきれいですね~」

 

「ナ、ナニヨ…アレハ…」

 

深海棲艦が寒気を覚える蒼い眼。仲間の青い目とも違う。わからないがとにかく嫌な予感がする。いや…あれはただの駆逐艦だろう…ならば…そこまで心配する必要がないだろう。海峡夜棲姫は気に入らないがもう一隻の深海棲艦と共に艦娘の撃滅を考えた。

 

「時雨…いくよ!!」

 

走り出す時雨。そして…ためらうことなく魚雷を戦艦ル級に放つ。武蔵の時もそうだが、大規模改修を行うと弾薬、燃料までもが回復する謎の仕様。それ故に、残りを気にしていた魚雷が回復していた。この日のために持っていた「試製六連61cm酸素魚雷」…夜戦において雷撃の高い時雨の一撃は脅威だ。

 

「満潮!最上!時雨を援護して!この機会を逃す手はないわ!」

 

山城が叫んだ。援護だけでいい。無理に動かなくていい。最上や満潮はギリギリだ。ましてや最上は中破もしている。

 

「ハァ!ハァ!朝雲!扶桑さんを援護するわ!」

「ふぅ~…ふぅ~…山雲、山城さんを~、お守りしま~す~」

 

朝雲も山雲ももう限界が近いだろうに…息を切らしながらも私達を守ってくれると言うの…?ええ、時雨のおかげで希望の光が見えた。まだあの未知の深海棲艦の脅威が去ったわけではない。しかし…どうにも小柄だ。あれは駆逐艦程度か?山城はその深海棲艦を睨みつける。ニタァ…とした笑みを浮かべているが、これにかまけている暇はない。

 

「さあ来い!僕が相手だ!」

「クスクス…イイデショウ…」

 

「時雨!無茶をしては駄目よ!?」

 

扶桑が時雨を止めようとしたが、こちらも余裕がない。唯一健全な時雨に託すしかない。

 

「姉様、私達は私達のできることをしましょう」

「ええ…」

 

「少し数が減った!満潮!やろう!」

「言うまでもないわ!!!」

 

士気が上がる。やっぱり、あの子がいないと私達は成り立たないわね…頼りにしているわよ。

 

そうして山城は海峡夜棲姫を睨む。向こうの深海棲艦のおかげか、こちらも余裕の表情を浮かべている。腹が立つ。

 

「どけえええええ!!!!!」

「アハハハハハ!!!!ココハトオレナイワ…ヨ!!!!!」

 

回避行動を行いつつ、山城は砲撃を見舞う。支援砲撃のおかげもあるし、時雨のおかげで邪魔者はほぼいない。好機!!!

 

「フフフ…ネエサマ、モウスグアイツラノ絶望ガミレマスネ…」

 

落ちつけ…落ち着くのよ。冷静さを欠いたら終わりなのよ。姉様は小破…?いえ、中破?頼みの綱の時雨が外れたのは痛い。私と扶桑姉様でやるしかない…!私が今攻撃をもらうわけには…!?

 

「チィ!?」

 

ヒュオン!と山城の鼻先を掠める砲撃。鼻の頭がヒリヒリする。本当に掠ったか。

 

「あいつ…!!!」

 

あの深海棲艦、時雨では相手にならないと言うのか。撃ち返してやりたいがそんなことをすれば姉様が狙われる。こいつはこいつでクスクス笑っているし。頭に来た。

 

「山城!ごめん!」

「謝罪はいいからそいつに集中しなさい!」

 

「いや!僕を…甘く見ないでよ!!」

 

ダァン!!!

 

「ウギッ!?」

 

こちらへ時雨が砲撃をするではないか!危ない!何を考えているの!?

 

「僕にはこのお守りが…ある。だから…!」

 

ヒュン!

 

弾はまるで時雨を避けるかのように逸れていった。そしてナ級に直撃し、ナ級が沈んでいく。

 

「僕は沈まない」

 

とんでもないしたり顔をしているんでしょうね。呆れたけど…その運にもすがるしかないか。

 

「コノォ!!エッ?姉様…コチラニ…?ハイ」

 

またか。扶桑姉様も混乱しているようだ。これを知るのは…私と姉様だけか。ならば、こいつの余裕を削ぎ落して…真相を確かめてやるしかないわね。

 

「おわあ!?」

「なんで最上にまでうつってるのよ!?」

 

「ボクに聞かないでよー!」

 

ドガァアアアア!!!

 

「グゥッ!?」

 

最上の誤射?何?触った子以外にも伝染しているの?あのお守り、怖すぎない…?

 

「主砲!よく狙って!テェー!!」

「山城!続くわ!!」

 

明石さん整備の「41cm三連装砲改二」。これは本当に強力だわ。普通の41cm連装砲ではきっと大苦戦をしていたでしょう。廃莢もスムーズ。すぐさま連撃に移れる。

 

「はいきょういそげ!たま、こめ!いそげいそげ!あねさんをおまたせしないで!」

 

誰が姐さんよ。でも、妖精さんも頑張ってくれている。精鋭の妖精さん。ありがたいことだわ。装備、妖精さん、そして仲間たち。これが揃っているからここまでこれた。だから、皆の期待を裏切らないためにも。やはり帰らなきゃならないわよね!

 

「ふそうさん!ぎそうのしょうか、おわりました!ほうげきにしゅうちゅうするであります!」

「ありがとう、妖精さん。助かるわ」

 

「ふひっ…ほめられたぞ!われらいきけんこう!そこをみはれ!あちらををみはれ!!われらのてきをねだやしにしろ!もくひょう!ぜんぽう!し け い し っ こ う!!」

 

扶桑姉様の砲が猛然を火を噴いて海峡夜棲姫を狙う。ちょっと待ちなさい。姉様の号令なしに暴走してんじゃないわよ!ってか何よこの物騒な妖精さん達!!!

 

「!!!????」

 

ゴゴゴゴ…と山城の砲も勝手に動き出す。

 

「ちょ、待ちなさい!まだ何も号令は出してないわ!?」

 

「ひこく!「しんかいせいかん」!ひこく!「かいきょうやせいき」!!はんけつは!しけい!しけいだ!!!しけいしけいしけいしけい!!!!」

 

「待ちなさい!!!!そういう暴力的な…あんた達女の子でしょう!?」

 

「ちょうのようにまい!はちようにしね!うてえええええええ!!!!」

 

「あああもう!!!」

 

砲撃の衝撃に耐えるため、踏ん張る山城。何がどうなってるのよ!誰よ狂奔モードにしたの!ていうか狂奔モードって何よ!?まずい、このままでは鴨撃ちよ。動かねば。動いた瞬間には重い空を切り裂く音。やはり狙われていたか。

 

「ふう、ふう…」

「はあ…はあ…」

 

この子達のおかげで妙に体力をつかわされたわ…弾薬も想定外よ…想定外の事をこの一番大事な時に起こさないで頂戴よ…。

 

「アアアアア………」

 

低い唸り声。海峡夜棲姫は今の暴走砲撃でだいぶ大きな損傷を負ったみたい。

 

「山城、今の砲撃は効果大よ!周りの戦艦も全滅!」

「…よくやったわ…妖精さん」

 

「あい、これからはあねさんのごめいれいにしたがいます」

「いや、さっきのも従ってほしかったのだけれど…」

 

もういい。ツッコミが追いつかない。こういうのはかわいそうだけど、満潮の仕事だと思うのよね。追撃で時雨の砲撃が飛んでくる。それと同時に…。

 

「切り札だ…!」

 

轟音と共に魚雷が炸裂した。さらに悲鳴をあげる海峡夜棲姫。そろそろ…頃合いかしらね。

 

「ヤメテ…ヤメテ…ドウシテ…ソットシテオイテクレナイノ…ネエ、姉様…」

 

「……あなたの言う姉様って、どこにいるのかしらね?」

 

さて、鬼が出るのか蛇が出るのか…試してみましょうか。

 

「…ハ?」

「隣には誰もいないわよね?」

 

「ナニヲイッテイルノ…?ワタシノ姉様ハ…」

「…いない、わよね?」

 

姉様も続いた。そう、この子が言っている姉様など、最初から…いなかったのよね。私にはうっすら見えていたけれど。あの時と同じ。あの時の「山城」は「扶桑」の落伍に気が付いていなかった。だからあなたはまだ姉様がいると思い込んでいるのよね。

 

あなたの周りの7本の青い彼岸花。それは…きっと。

 

時雨、最上、満潮、朝雲、山雲、扶桑姉様…そして、私かしらね。

 

「アア…姉様…?姉様…ドコニイルノデスカ?姉様…?アア…アアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

「山城…!」

「ええ、姉様。どうやら突いてはいけないものだったようです」

 

発狂した。大きな損傷による焦りと、私が突いた姉様がいないと言う事実を突きつけてやったこと。冷静さを欠いた。ならば…。

 

「姉様!もう空が…早くこれを始末しましょう!」

「そうね…今が…好機ね!」

 

「各砲撃!全力!!全力よ!!!!撃ち尽くしてもいい!撃てぇ!!!!!」

「こちらも!撃って!!!」

 

「ヤメテッテ…オネガイシテルノニイイイイイイ!!!!!シニタイノオオオオオオオ!?!?!?!?」

 

「おおおおおおおおああああああああああ!!!!!」

 

「撃てえええええ!!」

「てりゃーーーー」

 

「撃て撃て撃てええええ!」

「だあああああああ!!!!!」

 

朝雲、山雲、最上、満潮もできうる限り攻撃する。微力かもしれない。それでも…一丸となって敵を討つ!!!!

 

もうもうと立ち込める硝煙。それを山城は見逃さない。

 

「時雨ええええええええ!!!!!」

 

硝煙の合間から蒼い光が見える。それは海峡夜棲姫をしっかりと見つめていた。

 

「………通して…もらうよ!!!」

 

シュバ!と魚雷を放った。これが最後の魚雷。そして、必殺の一撃。

 

「いっけええええ!!!!」

 

お願い、決めて頂戴…!これで倒しきれなければ…あれに弾薬も燃料ももたない!

 

「アアアア!!!!ハッ!?」

 

気付いた時にはもう遅い。時雨の放った魚雷は正確に、全てが。海峡夜棲姫を捉えた。大爆発が起きる。そして…海峡夜棲姫は…あちこちから爆発を起こして…沈んでいく。まもなく夜が明ける。悪夢の夜は終わりを迎える。どんな夜にも朝は来る。山城たちは長い長い夜から…ようやく朝へと進むことができるのだ。

 

「マダ…サキニナンテ…ススマセナイ………コノジゴクデ…コノジゴクノカイキョウガ…!アナタタチノイキドマリ…ナノ…ヨオオオオオ!!!」

 

「悪夢は終わったのよ。夢はもう終わり。夢は覚めるものなのよ。私達は朝を迎えた。長い長い悪夢はもう終わり。あなたは…もう、夢を見ない眠りにつきなさい」

 

山城は一発、海峡夜棲姫の…自分の姿に似た深海棲艦の胸を…撃ち抜いた。

 

「カハッ…クソォ…!」

 

「あなたの悪夢は終わった。その悪夢は私達が…暁に燃やしてあげるわ。眠りなさい」

 

「アア…アア…ミン…ナ…」

 

「山城…」

 

「これでいいんです。姉様。悪夢は誰かが覚まさせてあげないと…終わらない」

「ええ…」

 

沈んでいく悪夢。私達は…一つの悪夢を終わらせた。しかし…朝がきたと言うのに、もう1つの悪夢からは覚めてくれないらしい。

 

「コンドハ…ワタシガオアイテイタシマショウ」

 

「どいてくれるかしら?私達の悪夢は終わったのよ。だから…どけ…!」

「フフフ…」

 

『山城さん!?もう朝です!まだ終わらないんですか!?』

「村雨さん、まだ弾はあるかしら?あなたから見える?まだ、いるのよ。しつこいのが」

 

『ええ!?蒼龍さん!!!えっ!?見たことない深海棲艦!?』

 

なるほど。情報はなし、か。

 

『こちら大湊警備府です。念のため、基地航空隊を飛ばしておりますが、いかがいたしましょうか?』

 

「こちら旗艦山城。そのまま攻撃をお願いいたします。未知なる深海棲艦が一隻残っておりますので」

 

『…未知ですか。承知しました』

 

一宮提督、だったか。なるほどこれは助かる。しかし、嫌な予感しかしない。それでも…やるしかないのよね。やがて、基地航空隊の姿が見えた。

 

『銀河攻撃隊の攻撃は強烈ですよ』

 

なるほど。かなり強烈な一撃だ…しかし。

 

「フフフ。ウチオトシマス」

 

「は!?」

 

数多い銀河を撃ち落としていく深海棲艦。こいつ…まさか防空駆逐艦!?

 

「冗談じゃないわよ…!」

 

山城が吐き捨てる。よりによってここで基地航空隊を多く潰されるのは…困る。いや、もうこいつで最後なのだ。慢心せず、的確に…やるしかない!それなりの攻撃はできたらしい。

 

『なるほど、防空に長けた深海棲艦ですか。こちらの被害は大きいですが、そちらも防空に長けていると言うことは装甲はそう厚くないでしょう。強引に突破は難しいでしょうが…』

 

「ここで沈めるしかなさそうです。僕はまだ弾薬も燃料もあります!」

 

『時雨さん、ですか。ですがもう夜が明けています。1人で成し遂げようとは考えないでください。あなたには、仲間がいるはずですよ』

 

「…はい!」

 

『村雨、砲撃支援入ります!!』

 

「思いきりいって!!!!」

 

使えるものは何でも使う。もうこちらも限界なのだから。時雨1人で何かはさせない。私達は…7人で今は艦隊なのよ!

 

時雨の蒼い眼にあてられてか私達の気力は漲っている。いや、もうすぐこのスリガオ海峡を越えられると確信しているからだろうか。

 

「キカナイ…!」

 

「やせ我慢はよしなよ。結構効いてるじゃない?」

 

「………」

 

最上がニヤリと笑う。銀河の爆撃。村雨達の支援砲撃。一宮提督の考える通り、装甲は厚くない。

 

『山城さん!山城さんの正確な砲撃ならばその深海棲艦の装甲を撃ち抜くことは可能です!ですが、そのためには皆さんでその深海棲艦の装甲を削る必要があります!』

 

大淀さんがそう言ってくれるのは心強い。ならば…。

 

「いくわよ!ここまできて、のこのこと帰れないのよ!!!」

「山城、私に任せて…!」

 

扶桑姉様の殺気が膨らんだ!それと同時に…。

 

「どうしたんだい、狙いはこっちじゃないのかい?」

 

時雨がすかさず蒼い眼を輝かせながら深海棲艦を狙い、挑発する。

 

「……マモッテミセル…!」

 

振り向きざまの刹那、時雨の肩の肉を抉るかのように砲撃を繰り出した深海棲艦。

 

『そいつは防空埋護姫だ。さっき名付けた。防空能力も高えが砲撃も半端じゃねえぞ。嘗めてかかるな。だが、それだけだ』

 

これは…刈谷提督と言う総指揮官だろうか?なるほど、やはり新種か。それだけと簡単に言ってくれるけれど。

 

『最後は山城にかかってる!時雨!動けるならその姫を引き付けろ!』

 

「わかったよ提督!!!」

 

もうすぐだ。もうすぐ…私達の悪夢が終わる。

もうすぐ…もうすぐなんだ。僕の悪夢は終わりを告げるんだ。

 

だから

だから

 

「はああああああ!!!!!」

「だああああああ!!!!!」

 

凄まじい集中力で敵の攻撃を回避するが、やはり被弾はする。

 

「っつぅ!」

「ぐっ!」

 

「……フッ」

 

それは敵とて同じだ。

 

「山城!」

「時雨…!?」

 

「ガァッ!!!」

 

なんて…こと…私を庇って…!!!クソォ!!!!

 

「……そこね」

 

ズガァン!!!!

 

一発。されど一発。防空埋護姫の装甲を撃ち抜いたのは扶桑姉様の一撃。渾身の一発。

 

「ガッ…」

 

「これが…私の最後の一発…よ!」

「時雨!時雨!!!!また無茶を…!!!山城ォ!!!」

 

最上が叫んだ。言われるまでもない。姉様の一撃でぐらついている…時雨を大破させた怨敵のその僅かな隙を…私が見逃すものですか。

 

ドォォォオオン!!!!!

 

扶桑のカウンター。そして…山城も最後の一撃を放つ。脆くなった核の部分。人間で言う心臓を撃ち抜き…ハッとなった防空埋護姫が胸を見た次の瞬間…大爆発。

 

「ガッ!アア…」

 

燃える。燃え落ちていく。水平線から昇ってくる太陽のように燃える防空埋護姫。彼女が何を目的にここにやってきて山城たちを阻んだのかはわからない。山城たちを妨害したことに変わりはない。邪魔だてするのであれば、攻撃をするしかないのだ。

 

「ワタシガ…ワタシガモドレナイ…ナンテ…」

 

「……何が目的かは知らないけれど…私達の悪夢を終わらせるつもりがないと言うのなら。ここであなたは終わりよ」

 

山城が睨みつけるように言う。時雨の庇う行為。そしてその隙を逃さなかった扶桑のおかげでやり遂げた。

 

「ぐっ…うう…これが…これが僕たちの…夢、だったからね…」

 

時雨は大きな損傷はしていないようだった。幸運なことに砲に当たったらしく、砲は壊れているが。体はどうと言うことはないらしい。ただ、衝撃で脳を揺さぶられて気持ち悪そうにしている。これもあのお守りのチカラか。

 

お願い、このまま沈んで。そう思っているのは満潮。いや、朝雲もそう思っているだろう。最上だってそうだ。砲を構えているがもう弾はない。お願いよ…。

 

「グゥ…!モドレナイノナラ…アナタガタモ…」

 

「ちっ…!」

 

山城は身構える。壊れた砲塔で防空埋護姫は山城を撃とうとする。もう燃えてボロボロだと言うのに…その執念はなぜなのか。海峡夜棲姫ならばいざ知らず。だが、その強がりもここまでのようだ。

 

ダァン!!!

 

防空埋護姫の艤装が爆発した。そしてゴバァ!と青い血を吐き出した。時雨の生き残っている砲からは煙。時雨はまだ弾が残っていた。改三になったおかげで回復していたからだ。それがとどめとなった。

 

「ア、アア…」

「言ったはずだよ。通してもらうって」

 

「ウグ…アア…ワタシモ…シズム…アア、ソラガ…キレイ…」

 

何かに吹っ切れたように少しだけ穏やかな笑顔で沈んでいく。だが、最後まで…何かを守り通そうとしていたのか、沈む直前は山城たちをすさまじい形相で睨みつけて…消えた。

 

「………終わった、の?」

 

扶桑の緊張の糸が切れたようにそう呟き、へたりこんだ。最上は厳しい目で周囲を見回していたが…瑞雲が戻って来て妖精さんと話をしていた。

 

「……うん、そっか。みんな、聞いて。瑞雲からの報告だよ。敵影は…なし。みんな……終わった…終わった…よ!」

 

「おわ……った?」

 

山城がそう言うと…。

 

「あああああああ!!!!!!」

 

満潮が泣き崩れた。その姿を見た朝雲も、顔を抑えて泣き崩れる。その2人を山雲が抱いていた。時雨は…大粒の涙を流して山城を見ていた。

 

「やま…し…ろ…ふそ…う」

 

『山城さん、皆さん、聞こえますか?こちら横須賀司令部です』

 

大淀の声は落ち着いていた。少し、笑っているようにも聞こえた。

 

「はい…こちら第一遊撃部隊、第三部隊、二戦隊です」

 

『皆さん、敵艦隊の反応、消失しました。皆さんの勝利です。皆さんは…スリガオ海峡を越え、そのまま帰投してください。おめでとうございます…!皆さん!』

 

大淀の称賛の声。そして、「スリガオ海峡を越え、帰投」と言う言葉に…山城はワナワナと震えた。緊張の糸が山城もついに切れた。

 

「姉様…!姉様!第一遊撃部隊、第三部隊…二戦隊は…スリガオ海峡を…突破しました…!!!!ふふふ…あはは…やった…やったわ…!!!」

 

山城が涙を流して扶桑の手を取る。それに扶桑は笑顔で答えた。

 

「山城…私達…ついにスリガオを越えたのよ!あの海峡を…越えたのよ!!」

 

「ええ…ええ…!!!!」

 

ここで山城は涙をボロボロと流して扶桑に何度もうなずいた。何度も…何度も…スリガオを越えたと言う言葉を必死に肯定するように…何度も。

 

「提督…ありがとう」

 

扶桑はそう玲司にも無線で伝えた。

 

『俺は礼を言われることはしてないよ。スリガオを越えられたのは、みんなの結束と、チカラだ。おめでとう、扶桑、山城…時雨、みんな』

 

「う、ううう…ああ…」

 

玲司の言葉に扶桑も涙を流した。悲運の最期で終わるはずだったスリガオ海峡。それを全員無事で越えられる。こんな…こんなに嬉しいこと。ありがたいことは…今までにない。胸のつかえがとれた。扶桑もそうだった。山城と抱き合う扶桑。山城はもう大泣きしている。

 

「うあああああああ!!!!!ああああああああああああ!!!!」

「山城…山城…!!!うううううううう!!!!!」

 

「……扶桑」

 

時雨が声をあげた。

 

「山城…最上。そして、満潮、朝雲…山雲も…みんな……本当に…ありがとう…」

 

蒼かった目は光を失っているが、そのアクアマリンのような美しい澄んだ瞳は健在だった。しかし、その目は潤み、涙がぽろぽろとこぼれていた。

 

時雨の言葉に最上も泣いていた。後に、嬉しくて泣けるって、幸せだね。と時雨に語っていた。そっと時雨は満潮を背中から抱きしめた。崩れ落ちて泣いている満潮を支えるために。最上も泣きながら朝雲を起こした。

 

「あーあ、もう…朝雲も満潮も…顔…ぐしゃ…ぐしゃじゃ…ない、か…はは…ははは…か、帰るまで、そんな、顔…だめじゃな…か…」

 

「最上さん…」

 

にっこりと山雲が笑っている。その笑顔を見た最上は…天を仰いで…泣き叫んだ。時雨はつとめて冷静に…玲司に礼を伝えた。

 

「提督…ありがとう…」

『おう。時雨、頑張ったな』

 

頑張ったな。みんなと頑張ったな。その優しい声にもう涙が止まらなかった。

 

「提督……止まない………雨は…ない…………ね…ありが…とう…!うわあああああああああ!!!!!」

 

時雨もその場で泣き崩れた。村雨達が駆け付け、すぐに撤退を開始した。ローマ達にはわからない絆が…横須賀にはあった。私達も…そうね、提督達と…と思うくらいには。いや、この絆の深さは…超えられないだろうな、と思った。

 

『村雨ぇ…悪いけど…頼むな』

「はーい!お任せください!ほら時雨!帰るよ!!」

 

ゔん…と言うすごい声で返事をする時雨に笑った。山城たちも泣きながらではあるが続いた。

 

激戦。そして未知の深海棲艦2隻を撃沈。大きな戦果を挙げて時雨や山城たちは横須賀へと帰還した。

 

母港では帰還を待ってくれていた玲司が出迎えてくれた。玲司を見た満潮、朝雲はまた大泣きし、山雲も少しだけ泣いた。

 

「おかえり」

 

玲司がそう一言。優しく言った。それだけ。それだけでも十分だった。言葉は多くはいらなかった。玲司は笑っている。大淀も笑っている。それだけでいい。帰って来たんだ。私達…僕たちは。

 

山城、扶桑、時雨は目を真っ赤に腫らしていたが、キリッとした表情の後、玲司に敬礼。そして。

 

「『三条艦隊』…成し遂げました」

 

短くそう言うと玲司はうん、と嬉しそうに頷いた。

こうして旧西村艦隊。三条艦隊の長い夜は…悪夢は…終わった。

 

「「「提督…ありがとう」」」

 

扶桑、山城、時雨は笑顔でそう言い終えた。




スリガオ海峡編、おしまいです。
ちょっと防空埋護姫の戦いがおざなりかなぁ…とも思いましたが長くなってもなぁ…と思い端折りました。

私が本格初参戦、初制覇を成し遂げたのが17年秋のレイテ沖海戦(前編)でした。扶桑姉様を嫁艦とする私としましては思い入れ深い作戦でした。かつてのイベントに時雨改三なんかが加わるとまた変わるのかな、と思ってここで時雨改三を投入しました。

次回はスリガオ海峡の面々の帰って来てからのお話です。満潮と吹雪の名コンビによる愚痴。山城たちも落ち着いた回想などができれば、と思います。

それでは、また。
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