スリガオ海峡から帰ってきてどんちゃん騒ぎになってます。
今回はそのどんちゃん騒ぎと満潮と吹雪の親友コンビ+アルファでお話をするわちゃわちゃ会となります。
「それじゃあ、スリガオ海峡からの帰還を祝って~…かんぱ~~い!」
そう言って最上がジュースのグラスを仰ぐと扶桑や朝雲、山雲は笑顔でかんぱーい!と。時雨は苦笑しながら続く。山城は虚無な表情。そして…満潮は…
「帰還の祝杯はこれで15回目よ!!!!何回やらせるのよ!!!?!?」
満潮が顔を真っ赤にして怒鳴っていた。最上達のテーブルにはグツグツと煮える鍋…水炊きだ。白菜やネギ…豆腐にかまぼこ…そして…鶏肉がグツグツと煮えている。みんなの手元にはポン酢とだしを混ぜたものが置いてある。
彼女たちはお酒は飲まない。ジュースだけだ。ちなみに山城は一度お酒を飲んだことがあるが、姉様姉様と泣き喚いて龍驤が「……ケテ…タスケテ…」と言うくらいの凄まじい泣き上戸になった。ちなみに鹿島も泣き上戸である。結局、扶桑姉様の笑顔が凄まじいことになって山城にお酒を飲ませるのは厳禁となった。
山城が虚無の表情をしているのはいつまで経っても目の前にあるごちそうを食べられず、最上の延々と続く乾杯をさせられているからである。満潮もお腹が空いて仕方がないので激怒しているのだ。
「おーい、鶏肉が固くなっちまうよー。せっかく奮発していいの買って来たのにさ」
玲司がそう言うと最上は「じゃあいただきまーす!」とすかさず鶏肉を取ろうとする。しかし、ガシリ…と山城が最上の手を掴む。その表情は凄まじいもので、誰もが引いた。
「今あなたはお腹が空いていないわよねぇ?ずっと乾杯をやっていなさいよぉ…私はお腹が空いたから食べるのよぉ…」
「山城…目が怖いよ~…」
「さあ姉様!遠慮なく食べましょう!せっかくのおいしいお鍋ですもの!エアコンのガンガン効いたこの最高に涼しい食堂で食べる熱々のお鍋は最高ですよ!!!」
「山城?そんなにお肉を取ってしまったら時雨たちが食べられないわ?」
「あーもうどいて!!!!!私が皆の分をよそうから!!!!!!」
こめかみに青筋を浮かべて満潮が均等によそっていく。ちなみに用意した鶏肉はたいへん上等な名古屋コーチンである。今日この日のために玲司が商店街の茂の店で取寄せてもらった。
「んん!!山ちゃん!これおいしいね!」
「はい~!お肉、や~らかくて~!おいし~です~!」
「んっ…おいひ…!」
朝雲達がもにゅもにゅと名古屋コーチンを食べる。噛むたびに肉汁があふれ、それでいて筋は玲司がしっかりと取ってある。素材の味を最高に活かしたいのでしっかり玲司が手間をかけてある。その濃厚なうまみはスープにもしっかりと出ており、扶桑がこくりと喉を鳴らしてダシを飲めば、ほう…と顔を綻ばせた。
「お、おいしい…」
「白菜も甘くておいしいだろ?徳さんとこで仕入れた長野県産だ。えのきも長野県産。その茶色いキノコもえのきだ。しいたけはうちの庭で紫亜が育てたやつ。かまぼこは源さんが仕入れた鯛のかまぼこ」
「紫亜…しいたけまで育ててたなんて…」
「紫亜さんのしいたけおいっし!肉厚でハッフハフハフ」
「最上、行儀が悪いのよ!」
そうして山城たちが舌つづみを打っている間、歯をギリギリ鳴らしている艦娘が1人。龍驤である。
「ぐぬぬ…あいつらだけなんであんなうまそうなん食うてんねん…!」
「しょうがないよ。だって山城さんたちは因縁の場所を越えたって言うおめでたいことなんだからさ」
「せやからて…あーうちも名古屋コーチンがー!!」
「うう…こっちも凶悪な匂いがぁ…」
「おーい、こっちも焼けるからなー。まずは皮な!赤穂の塩をパラパラっと」
「提督、僕が持っていくよ」
「おうさんきゅ。次はももを焼くからな。あー…レバーは苦手かな?姉ちゃん、明石、食うか!」
「食べゆーーーー!!!」
「お姉ちゃん…」
レバーやハツと言った部位は見せただけで山城や朝雲がうげっ…と言い、最上でさえ「いやー…それはちょっとー…」と苦笑するくらいだった。仕方ない。姉ちゃんうるさいし、これは姉ちゃんのおつまみだな。と思っていた。
「うんまー!」
「ほい、ビールはこの瓶2本だけな」
「あーい!」
「お姉ちゃん…」
明石はただただあきれるばかりであった。
「この白菜…とろとろ…!おいひい!」
「お肉追加追加ー!」
「そういえば、刈谷提督からもらった黒豚をしゃぶしゃぶ用にスライスしたぜ。食う?」
「「「食べる!!!!」」」
駆逐艦と最上が真っ先に反応。んじゃあ、と玲司がまずは薄くスライスされた豚肉をダシに入れて箸を軽く揺する。するとピンク色の豚肉の色が変わっていく…ゴクリ…と山城が唾を飲みこんだ。
「ほい、山城。食べてみな。そのポン酢で食ってもいいし、ゴマダレいる?」
「いります!!!」
「まあまあ、まずはポン酢で食ってみな」
「はい…ん…」
しっかりとポン酢とダシを混ぜたスープに肉を絡ませ…そして…。
「あ、山城待った」
「何ですか提督!早くしてください!」
(山城があんなに興奮してるところ、スリガオでもあったかな…)
ああ、やっていたか…と時雨は思った。山城が大きな声で「邪魔だ…どけえええええ!」と言っていた時はかっこよかったなぁ…とふと思った。
「ほい、もみじおろし。これを入れるとおいしくなるぞ」
「へえ…あむ…」
口に入れてすぐに目をキラキラと輝かせて笑顔になった。山城の笑顔が眩しい。
「おいっしいいいいい!!!!柔らかいし濃厚でポン酢と絡んで…あっ、このもみじおろしって言うのがピリ辛で…おいし!!!提督!もっと入れてください!」
「今みたいにちょっとダシにいれてしゃぶしゃぶするといいぞ。いっぱいあるから食ってくれ。ゴマダレもいけるぜ」
「んー!!ゴマの風味がおいしい!!」
「えへへ!おいしいね、山ちゃん!」
「はい~♪朝雲姉さん、幸せですね~♪」
「ま、まあいいんじゃない?」
「うん!おいしい!おいしいよ!」
「うふふ、本当においしいわ♪」
「焼き鳥もいいねぇ!あ、提督!皮となんこつお願いしまーす!」
「はいよー!」
鍋に焼き鳥…でも、これを僕たちだけで食べていいのだろうか…とも思ったけど…他のみんなはと言うとそれなりに焼き鳥を食べたりしているし、間宮と茉莉作の唐揚げで大盛り上がりしている。みんな、時雨たちの戦いがどれだけ時雨たちにとって重要であったかはわかっている。だから邪魔をしたりしない。
「司令官!朝雲と山ちゃんはももを要求するわ!」
「提督、わたしと山城はねぎまをお願いします」
「はいよー!」
みんな夢中だ。おいしい!うーん…でもこれ…ご飯がほしくなるね…でももうお鍋の中身はみんな夢中だったためになくなってしまった。
「みんな、そろそろご飯がたべたくないか?まだ足りないんじゃないか?
「そう…だねぇ。ボク、ご飯を食べたらちょうどいい感じなんだけどなぁ」
「フッフッフ。そうだろそうだろ。よーし、雑炊いくぞー!」
その言葉にわぁっと最上や朝雲が湧きたつ。洗ったお米をそのままダシに投入。その間に名古屋コーチンの卵をといてしばし待つ。もうみんなまだかまだかと鍋を凝視している。
「よーし、そろそろかな。いくぞー」
パカッと土鍋の蓋が開けられた。おおおお!とみんなの声があがる。
「わあああ!これやばい!!!やばいよこれ!」
「何がなんだかわからないけどこれはやばいわ!」
最上も山城も語彙力がなくなってしまっている。ふつふつと炊けた雑炊。いい匂いだ。鶏肉や豚肉、野菜やキノコ類のうまみが凝縮され、それを吸ったご飯。暴力だ。こんなの暴力的過ぎると満潮は思う。またお腹が減って来た気がする。今いっぱいお鍋や焼き鳥を食べたのに…!
「じゃあ火を止めて…ちょっと蒸らして…」
早く…早く…!!満潮は早くよそいたくて仕方がないが…。
「じゃあここで卵を投入しまーす」
そうして黄色の液体…溶き卵を投入。ゆっくりゆっくり投入されていくとき卵…ああ、もう…お腹が!!!!
「ほい完成。熱いからな。ゆっくり食べるんだぞ」
7人全員分を玲司がよそう。目の前に置いた瞬間から食べていく。ちょっとだけポン酢を垂らし…あとは肉などのうまみが口いっぱいに広がる。熱いせいか黙々と…ゆっくり食べていく。
「はふっ…はふっはふっ!んはぁ…!」
「おいし…おいし!」
「ははは!いい食べっぷりだな!見ていて気持ちがいいな」
「むむむ…これはメモですね…!」
こうして、すっかり食べ尽くされた料理たち。みんなお腹をさすって動けない様子だ。それでもその顔はみんな笑顔で。幸せそうで。
「いやー!お腹いっぱいだよー!食った食ったー!」
「最上、行儀が悪いんだってば…」
「ふう…う、動けない…」
「おいしかったー!司令官、ありがとう!」
「ありがとうございました~♪」
「うふふ、わたしたち…幸せねぇ…」
「う、ううう…うわああああああん!!!」
「山城!?」
「お、おいどうしたんだよ!おいこれお茶だよな!?」
「どうしたの、山城!?」
「だっでぇ…!じあわぜなんでずもんんんんんんん!!!!!!」
スリガオ海峡を越え、無事を皆で喜び…そしてこんなおいしい料理をみんなで食べて…。横須賀に来る前は不幸でしかなかった山城の生活。山城の生活は一変した。姉様や「西村艦隊」との再会。そして村雨と言う相棒ができ(時雨に嫉妬されているが)、あのスリガオ海峡を越えた。
幸せすぎた。幸せすぎて飲まずとも涙が溢れた。不幸だわ…といつも言っていたが、ここでは言うことがめっきり減った。認めるしかない。私は幸せ者だと。無事を祈ってくれる仲間がいて、喜んでお祝いの料理を作ってくれる人がいて。幸せ以外の何物でもない。
姉様に頭を撫でられ…時雨におろおろと抱き着かれ。最上や朝雲、山雲が笑う。満潮は涙を拭いてくれるが止まらない。このあとひたすらに満潮や時雨、扶桑に宥められるのだった。
………
「はあ…疲れた…」
山城を扶桑に任せ、食べ終えたお鍋や食器を間宮さん達と洗ってひと段落。満潮はようやく駆逐艦寮へと戻って来た。ひたすらに泣く山城のせいでずいぶんと時間を食ってしまった。まあ…気持ちはわからなくもないけど…とは思ったがあそこまで泣く必要ある?とも思った。自分は母港に帰ってきたときに司令官に抱き着いてわんわん泣いたけど…。
嬉しさとプレッシャーから解放された安心感からだ。そこでは山城は涙を流さず、扶桑も目じりに涙を溜めていたがにっこりと笑って頭を撫でてくれたか。朝雲も大泣き。山雲は朝雲に抱き着いてうんうんと頷き、時雨も最上と抱き合ってわんわん泣いていたな。
「提督に報告が必要なのに旗艦が泣くわけにもいかないでしょう」
山城はそう言っていたけど、山城だって嬉しくないわけがない。泣きたいはずだった。だけど…旗艦だから…おいしいご飯を食べて緊張の糸が切れたのよね、きっと。姉さんたちは…お風呂か。私もあとで入ろうかな…それよりも…。
そう言って満潮は自室を出て、親友とは口が裂けても恥ずかしくて言わない彼女の下へ。「吹雪 白雲」とネームプレートがかかった部屋へ行き、ノックをし、入室を促され、入室。
「お疲れ様、満潮ちゃん!」
「満潮様、お疲れ様でございました」
親友こと吹雪はにぱーっと笑って手を振ってくれた。一方で吹雪の妹である白雲は三つ指をついて深々と頭を下げた。何よこれ…。
「し、白雲…頭をあげてよ。そんなおおげさな…」
「そうだよ白雲ちゃん」
「はい。承知いたしました」
いつも思うが白雲は上品であり、真面目過ぎる。はっと立ち上がったかと思うと冷蔵庫からウーロン茶を取り出し、3人分を注いでいく。面倒見がよい妹。うちの姉妹も見習ってほしいものと思う。マイペースすぎるから。
「スリガオ海峡突破、おめでとう、満潮ちゃん」
「誠、めでたきことでございます」
「あ、ありがと」
ウーロン茶で乾杯する。おなかがいっぱいの中でさらにこのウーロン茶はなかなかに堪えるものがあったのは内緒だ。
「すごくすごく頑張ったんだよね!私もエンガノ岬沖だっけ?そこでしっかり、満潮ちゃんみたいに頑張らなきゃ!」
「私はそこまで大したことはしてないわよ。頑張ったのは時雨や山城よ」
「そんなことないよ!みんなが頑張って、一致団結したから帰って来れたんだよ!」
吹雪はそう言って満潮を褒めてくれる。吹雪はこんな性格だ。誰が頑張った、誰が強かったとは言わない。みんな頑張った。みんな強い。誰かをと区別することはほとんどない。
「白雲ちゃん、かわいいでしょ!私の妹だもん!」
白雲には結構贔屓していると思う。まあ姉妹だし。満潮だって姉妹は特別だと思っている。特に…霞は。
「はい。満潮様を含め、出撃した艦隊の皆様が団結したからだとわたくしも思います」
こういうところは姉妹。似ているなぁと思う。白雲も誰かを特別贔屓したりはしない。やっぱり「わたくしの大切なお姉様ですので」と吹雪には甘かったりする。
「うん…扶桑、山城、時雨、最上、朝雲、山雲。みんながいてくれたおかげ。あとは…雪風とジャービスのお守りのおかげかしらね」
「えっ?雪風ちゃんとジャービスちゃん?」
「そうよ。あれのせいですんごく緊張もしたけどね…」
どこか遠い目をしている満潮。そうして満潮はそのお守り…と言うかスリガオ海峡戦のことを語りだした。
時雨の艤装の故障疑惑。あれは本当に肝が冷えた。魚雷と砲が狙っている中での無防備な転倒。そして…機関停止。いきなり終わったと思った…。が、「奇跡的に」砲も魚雷も当たらず無事。むしろ動いていた方が危なかったと言う状況。
主力艦隊の時でさえお守りの効果が発動し、こちらとしては本当に、強いて言うならもっと緊張感をもって戦いたかったものだ。山城は艤装をガシガシ殴って怒っていたし…まあ、最終的には全員そのおかげもあって帰還できたのだろうが。
「あはは…さすがは横須賀きっての幸運艦のパワーだね…そこに瑞鶴さんやウォースパイトさんまで加わったらどうなるんだろうね?」
「やめてよ…考えたくもない…」
「そうかな?私はきっともーっとすごいことが起きると思うな!」
「そう、なら吹雪に作ってあげてって言っておいてあげるわね!ウォースパイトさんにも!一緒に出撃する瑞鶴さんにも言っておいてあげるわ」
「い、いやぁ…それは大丈夫だよぉ…そんな、瑞鶴さんにも気を遣わせたくないしぃ…」
「遠慮しないでいいんじゃない?瑞鶴さんだったらゲン担ぎでやってくれそうな気もするわね」
「いいよぉ!私は普通に出撃で!」
「私の出撃の話を聞いてそういう提案をするってことは吹雪もしたいってことよね!?」
「満潮様のお言葉にも一理はございますね…ここは一度、このわたくしから瑞鶴様とウォースパイト様に「わぁー!!!白雲ちゃん!大丈夫だって!大丈夫だってば!!!」」
「むむ…ですが吹雪お姉様。ここは有備無患*1…お姉様への不安が薄れます。どうか…ご一考を」
「妹にそう言われてるんだから作ってもらえば?」
「わーん!大丈夫だってばぁ!」
正直最終海域として、瑞鶴を総大将に激戦地へ赴くのにたいへん緊張しているのにそんな中で満潮から聞いた出来事なんかが起きたりでもしたら吐く自信がある。すでに瑞鶴達とも作戦会議は終え、万端の状態なのだ。予期せぬことが起きまくったら私の胃がもたない…白雲はふんふんと鼻息が荒い。誰に似たのか…なかなかにこの子は天然さんだな…と思う。必死にいらない、と言うと白雲はどことなくしょんぼりした様子で「そう…でございますか」と残念がっていた。
「そ、そう言えば、先遣隊がエンガノ岬沖に行ったら…なんでも主力艦隊がいなかったみたいだねぇ…!」
無理矢理幸運艦のお守りの話から話題を逸らす。こうでもしないと本当に持たされそうだったから。
「は?どういうこと?エンガノ岬沖が今回の最終海域でしょう?ええっと…新しい人型の深海棲艦がいるって話は?」
「司令官様のお話によりますと、九重司令官様が赴いた際には空母棲姫がいて…撃退は成功せり、とのことでございましたが…」
それからしばらく、九重提督が刈谷提督の命令でエンガノ岬沖に反復出撃して暴れまわれ、と言ったが出てくることはなかった。
刈谷提督の徹底的。それは満潮もよくわかっている。彼の徹底的は根絶やしだ。深海棲艦が泣き喚こうが絶対に容赦しない。特に、刈谷提督の艦隊は満潮も見たことがあるが、震えが止まらないほどに恐ろしい。特に、あそこの軽巡「球磨」と「多摩」…それから「長門」と「龍田」は強烈すぎる。言い方は悪いが狂人。あと「長月」と「菊月」。司令官が狂人ならば艦娘も狂人になるのだろうか。いや、うちにも「夕立」や「神通」など若干狂ってる…若干?想像したら夕立がニタァ…と笑い、神通がギラリと目を光らせている光景が脳裏に浮かんだ。ブルル…と身を満潮は震わせた。
「そう、そうなんだ。へぇ…」
「だけど、やっぱり強い反応がエンガノ岬沖にあるから、やっぱり瑞鶴さんを旗艦にうちからも出撃するんだって。うう…なんかあっちの球磨さんたちも来るらしいから怖いなぁ…」
あの北上さんのお姉さんだしね…と思ったが、いや、北上さんはそんな狂った人じゃないか。恐ろしく強いけど。「原初の艦娘」である木曾さんがうちの北上さんの実力を見て「オレ、『雷の女王』やめて北上姉に譲るわ…」と言って龍驤達が大騒ぎしたんだっけか。
そんな北上さんにしても「いや~、あの球磨姉と多摩姉はやっばいねぇ。痺れるけど、毎日いたら頭がおかしくなっちゃうね」と言わしめるくらいだ。現佐世保鎮守府の危険艦娘ツートップ。これは、主力がいたら荒れそうね…。満潮は天井を仰ぎ、吹雪たちが苦労しないか心配した。
「同時に、五ヶ丘司令官様がエンガノ岬沖の周辺の深海棲艦の警戒網を破壊。これにより、安全に瑞鶴様たちはエンガノ岬沖に進攻可能とのことです」
白雲はどこからそんな情報を持って来れるのか…?
「吹雪お姉様のためでございます。司令官様より情報をいただき、吹雪お姉様へお伝えしております」
ふんす、となんか偉そうにふんぞり返っているので何かイラっとしたので満潮は白雲のほっぺをつねっておいた。軽めに。
「満潮ちゃん。私のかわいい妹をいじめないでよぉ…荒潮ちゃんに同じことしちゃうよ?」
「やれるものならね。やろうものならたぶん、あんたくすぐり地獄で笑い死にするかもね」
「お姉様の絹のようなお肌に触れ、あまつさえくすぐる!?なりません!お姉様のお肌に触れても良いのはわたくしだけでございます!」
「は?私、すでに吹雪の背中流したり頭洗ったりしてるけど?」
「はうっ?!」
ガーンと言う言葉が聞こえて来そうなくらいショックを受けている。って言うか、無駄に独占欲強いわねこの子。荒潮が猫なら白雲は犬かしらね。犬…うーん、犬ならうちの朝潮姉さんのほうが…忠犬って感じだし…。
そもそも駆逐艦は1人で入ると言うことがほとんどない。誰かしら2人以上。いや、4人以上が多い。そうしてみんなで背中を洗いあったりするのだから、誰かしら、いや、駆逐艦の全員が吹雪の肌に触れているだろう。吹雪はそれどころか誰からも愛される。扶桑だったりあの気難しい山城でさえ、背中を洗ったことがある。山城はそもそも、扶桑、時雨、満潮くらいにしか背中を洗わせないのだが、吹雪の後光さえ輝きそうな笑顔を見ると「いや」とは言えないらしい。
それだけ吹雪は誰からも好かれるのよ、と言うと、吹雪はにへら~と満潮を笑顔で見るし、白雲さすがはわたくしのお姉様ですとまたふんすとドヤ顔を決めていた。
「えへへ~♪よぉ~し!出撃から帰還したら一番に満潮ちゃんに背中を流してもらおうかな!」
「なんでそうなるのよ」
「だぁってぇ♪」
「わかったわよ!流すわよ!」
「やったー!!」
「ふふ。仲良きことは美しきことなり、ですね♪」
「満潮ちゃぁん」
「何よ猫なで声出して…あー、一緒に寝るのね…はいはい」
「えへへー♪」
「よし、吹雪の部屋で寝るのは久しぶりだし…あんたがまたいかがわしい下着を持ってないかチェックしてあげるわ」
「は、は?」
そう言うなり、満潮は吹雪の下着が入っているタンスを開けた。するとどうだ。ショッキングピンクのかなりきわどい下着が出てきたではないか。
「な、なななな!なにこれ!!!!!ちょっと!何これ!!!!隠すとこほとんどないじゃない!!!!?!?!?!」
「ええええええ!?な、なにこれぇ!?」
「なにこれじゃないわよ!!!!あんた、まだこんなの履いてるわけ!?」
「………申し訳ございません…その下着は…わ、わたくしの…」
「「はああああああ!??!?!?」」
満潮と吹雪が悲鳴のような声をあげた。白雲が加わったことで今、吹雪の衣服が入っていたタンスは白雲のタンスであった。するとどうだ、白雲の下着が今度は大変なことになっていた。
「あ、姉が姉なら妹も妹よねぇ!?あんた達姉妹、一体どうなってるわけ!?」
「満潮ちゃん!聞いて!!これには海よりも深いわけが!!!!」
「わけって何よわけって!!!!」
もっとも、これは松子が仕組んだ罠なのだが…後日、玲司と共に松子の店に怒鳴り込み、松子がさらに「駆逐艦にこんなシャレオツなブラやパンチーすすめてセクシーギャルなウチにはこんなもんを薦めんってあんたほんまにプロか!?おおん!??!?」と龍驤に理不尽に詰め寄られたとか。さらには榛名にまでいかがわしい下着を薦めたことで玲司のアームロックを食らったとか。梅と竹美監視のもとでしか下着を出すことができなくなったとか。松子の災難は続いた。
………
「スー…ハァー…」
弓道場でジェネシスの鳳翔に教えてもらった精神統一。座禅。息を大きく吐き、吸う。ついに自分の出撃の時がやってきた。
総旗艦であり、時雨たちがスリガオ海峡が因縁の海域だったようにエンガノ岬沖…それが彼女…瑞鶴の因縁の海域だった。
艦載機はほぼなく、囮として出撃したようなものだ。故に満足に戦えず…海へと散った。
扶桑たちも言っていたが、今回はそうではない…私達は…勝つ。しかし…やはり緊張する。手が震える。集中できない。落ち着けと言っても落ち着けない。朝からずっと、瑞鶴は瞑想を続けていたがまったくもって雑念ばかりで集中できたためしがない。
「瑞鶴?」
目を開ける。弓道場にやってきたのは…姉である翔鶴だ。
「どうしたの?もうすぐ消灯時間よ?ご飯を食べて、またここで精神統一をしていたの?」
「……うん。怖いんだ、翔鶴姉」
「………そう。実は、私もなんだけれど…」
「ふふ、そっか。一緒に瞑想する?」
「そろそろ寝ないと…明日に響くわよ?」
「そう、だね。寝れるといいんだけどなぁ」
「寝れると、じゃなくて寝なきゃ」
「うん…」
「ふふ、今日はお姉ちゃんが一緒に寝てあげましょうか?」
「旦那さん放っておいていいの?」
「玲司さんとは心で繋がっているもの。少しくらいは平気よ」
「あーあ、お熱いことで」
「うふふ、ありがとう♪」
「うわ、ムカつく!余裕ぶっちゃって!」
「どういう意味!?」
クックッ…といたずらっぽく笑う瑞鶴。姉と話をして緊張が少し緩んだ。緩みすぎたわけじゃない。ほどよく緩んだ。するとどうだ。ふぁあ~っと大あくびをしてしまった。
「もう、女の子がそんな大きなあくびをかくさないで…」
「翔鶴姉だけだからいいっしょー?」
「もう…瑞鶴ったら」
「そうだね。今日はせっかくだし、ひさしぶりに翔鶴姉と一緒に寝ようかな!にひひ、提督さんに『お嫁さんは預かった!返してほしくばオムライスを1週間用意しなさい』とか脅迫状でも書こうかしら」
「私の体ってオムライス一週間分の価値しかないのかしら…?」
「やっば、提督さんに怒られそ…」
「ねえ瑞鶴?私ってそんな…」
「あーあー!翔鶴姉は提督さんがメロメロになるくらい美人だしスタイルいいし!ってか早く赤ちゃんでも作っちゃえばいいのよ!」
「ええ!?あ、赤ちゃん!?え、ええと…い、今はまだ…そのぉ…避妊して…えっと、思い切って作りたいって誘っちゃえば…」
「おーい!おーい!家族計画は提督さんとしてよ!!!」
結局、「赤ちゃん…男の子かしら…女の子かしら…名前を決めないと…ああ、玲司さんと決めた方が…えっと、作るって言い方は…なんだかあれだし…玲司さんに赤ちゃんがほしいって言えばいいのかしら…」などと夜遅くまでぶつぶつと妄想を膨らませていた翔鶴のせいで、瑞鶴も寝るのが遅くなってしまったのだった。
………
「さて、出撃メンバーは全員揃った…あ、瑞鶴がまだか」
「もう…瑞鶴ったら…」
翔鶴がそう言ったが、誰のせいで準備が遅れているのかわかっていない翔鶴。翔鶴はいつもの格好だが今回は明石と妖精さんが一丸となって今回の因縁を全て払拭させる決戦であると知っているため、ある準備をしていたのだった。それのせいで瑞鶴だけ集合が遅れている。
「明石は帰ってきたらお説教やなぁ」
「とか言って酒飲みながらダル絡みするだけだろ」
「はーん!?んなことあるかい!キミもお説教したろかー!?」
「やめてくださいしんでしまいます」
龍驤と木曾がぎゃあぎゃあともめている中、ガチャリと執務室のドアが開いた。
「ごめん、お待たせ!」
現れたのは…黒い髪をおろした姿で陣羽織を羽織った険しい表情の…誰だ?
「お?刈谷のおっさんとこの助っ人か?誰やキミ?」
「は?」
龍驤姉、とぼけてんのか?とも木曾は思ったがマジでわかってねえ…と頭を抱えた。ほかの参加メンバーもわかっているのに…。
「おう瑞鶴、随分とかっこよくなったじゃないか」
「えへへ…うん、この恰好、すごく気合いが入るね」
「はああ!?ず、瑞鶴やてぇ!?」
「え!?なんで瑞鶴がわかんないの!?」
「弟子の顔くらい覚えとけよ…」
まあ何と言うかいつもながら緊張感がねぇなぁ…と玲司は苦笑しながら頭をかく。まあそれのおかげで十全で出撃できるのかもしれねぇな、と笑うしかない。
「よし、全員注目!」
玲司が一声をかけるとビシッと気をつけの姿勢を取る。瑞鶴が先頭に立ち、それに続いて整列する。瑞鶴はその名も決戦モード。覚悟を完了して今回のエンガノ岬沖海戦に臨む。
「よし、これが最後の海域だ。ここ1ヶ月…長かったな。やっと緊張から解放されるよ…」
「提督、まだ作戦が終わったわけではありません。しっかりしてください」
隊列に並ぶ大淀に叱られる。鳥海や霧島にもジト…とした目を向けられる。あはは…悪い悪い…と謝るいつもの玲司である。
「あー、まあ瑞鶴には因縁のある戦いだな。時雨たちにも言ったが、因縁があるからと言ってそれに躍起になりすぎないようにな。作戦内容は刈谷提督や涼介たちが追い込んだ深海棲艦の主力。これをついにエンガノ岬沖へ追い込んだ。これは決戦だ」
白雲たちが言っていたエンガノ岬沖に主力がいなかったのは各地の艦娘を叩き潰そうと動き回っていたからだ。だが、ついにその尻尾を刈谷提督と一宮提督が掴んだ。七原提督や九重提督、さらには五ヶ丘提督まで加わってこれらを撃破。玲司が参加したシブヤン海、スリガオ海峡もそうであるが、これによりほとんどの深海棲艦の艦隊は壊滅。寄せ集めをエンガノ岬沖に追いやったが…そこで新たな主力深海棲艦を発見。
見た目が航空母艦「瑞鶴」に似ていることから「深海鶴棲姫」と刈谷提督が名付け、これの撃滅を玲司に振ったのだった。
『俺の艦隊も参加させるからよ。終わらせるぞ』
刈谷提督は余裕を持った声色で玲司にそう伝えた。玲司は「了解しました」と短く返した。それでいい、と刈谷提督は笑っていた。
「かつてのエンガノ岬沖海戦では航空戦力が尽きている空母機動部隊が囮になっていた作戦だ。だが今回は違うぞ。エンガノ岬沖北方に刈谷提督達が誘引した敵機動部隊主力を…俺たち、それから刈谷提督の連合艦隊部隊をもって撃滅する!暁の水平線に勝利を刻むぞ!」
その言葉に瑞鶴達一同はチカラ強く頷いた。
「ただ、命令は変わらないぞ。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。これは忘れるなよ!」
これまた瑞鶴達が強く頷く。しかし、瑞鶴達の瞳は輝いている。希望を持っている。そして…その魂は熱く。熱く燃え滾っていた。さらに玲司はその魂の炎の揺らぎを強くする。
「いいか、今回は空母機動部隊の連合艦隊で出撃する。だが、お前たちは囮なんかじゃねえ。今、瑞鶴や翔鶴、龍驤姉ちゃん達には明石が整備した豊富な艦載機と熟練の妖精さんがいる熟練艦載機部隊が健在だ!!!よく胸に刻みつけろ!!!お前たちは翼無き空母の囮部隊じゃない!!!!」
その言葉に龍驤はニヤリ…と笑う。翔鶴と瑞鶴、祥鳳、アークロイヤルもさらに目に輝きを宿らせる。
「お前たちは最強の横須賀空母機動部隊だ!!!俺はお前たちが航空戦で負けるなんて未来は見えねえ!そして、それをサポートする第二艦隊には大淀だっている!防空の主軸である吹雪だっている!!!木曾や島風もいる!!!いいや、『原初の艦娘』だろうとそうでなかろうと俺の艦隊は最強だ!!!!」
瑞鶴は心が燃える。それは揺らぐ弱い炎なんかじゃない。大炎だ。その大炎は瑞鶴達を包み込む。決して消えぬ炎。最強の鶴姉妹。「炎の女王」…そして彼女たちに引っ張られて見違えるほど強くなった横須賀の空母艦娘。そして…。
「大和、推して参ります!」
武蔵と並ぶ秘蔵の戦艦、大和も出る。
「大和さん、一緒に頑張ろうね!」
「はい、瑞鶴さん!泣いたり…しませんからね!」
「おう、武蔵も活躍したし、大和も思いきり暴れまわれ!」
「提督。見ていてくださいね…!」
「よし!!!準備はいいか!!横須賀空母機動部隊!!!出るぞ!!!!」
「「「了解!!!!」」」
瑞鶴はあの加賀から譲り受けた大きな弓を手に、母港へと向かう。しっかりと弓を握る。
(大丈夫。提督さんが言ってた。今度は艦載機がある…そして…そう、翔鶴姉がいるんだ!負けない…!!!絶対に!!!!)
「提督、行って参ります」
「ああ、大淀。頼んだぜ」
絶対の信頼を置く頭脳、大淀。どんなピンチもひっくり返す高雄に並ぶ頭脳を持つ彼女。彼女が戦場を転がしてくれる。さあ、行こうか。大舞台へ。
「小沢艦隊…ううん、三条艦隊、旗艦瑞鶴…出撃する!」
その言葉と共に、瑞鶴達は母港を発った。レイテ沖海戦、最終決戦の火ぶたが今、切って落とされる。
レイテ沖から矢継早ではありますが、エンガノ岬沖海戦へと突入して参ります。手には師の弓。大切な姉と師匠、そして仲間たちと共に最終決戦へと参ります。
刈谷提督の艦隊と共に、激戦を繰り広げる様子をうまく書いていきたいと思います。
それでは、また。