提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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レイテ沖海戦最終海域、エンガノ岬沖がスタート。今回は長くならないよう、サクッと終わらせるつもりにしていますが、長くなったら申し訳ありません。


第二百六十八話

/佐世保鎮守府

 

「提督、球磨さん達が三条提督の艦隊と合流したようです」

「おう、順調だな」

 

龍田に球磨達が出撃している刈谷提督には能代がサポートとしてついている。能代は龍田と同等に細かい性格をしているので適任である。刈谷提督の本音としては、長年、知将であった上郷提督を一手に補佐してきた矢矧もサポートとしてほしかったのだが、矢矧には「あの」球磨と多摩の性格と、刈谷提督の艦隊のやり方を知ってもらうために現場へと行かせた。

 

球磨がやるグリンを知ってもらう必要があるし、多摩の超精密射撃は真似ができるかはさておき、参考にはしてほしいものである。

 

(いや、無理だろあいつらのスキルを真似するって。できたらそれはそれでおもしれえんだけどよ)

 

矢矧には能代と同じような苦労人になるだろうが、それだけ成長してもらわねば困るのだ。大規模作戦は何も今回だけではない。プライドだけはバカみてえに高い欧州の役にも立たねえ提督とも合同で欧州の海を制圧する制圧しなければならないだろうし、日本の海だって坊ノ岬のような大きな危険をはらんでいる海域だって多い。

 

そして、三条の奴が仕留めきれなかったインチキの塊「戦艦レ級」…こいつだってまたいつ現れるかわかったもんじゃない。俺や堀内、一宮と言った人間もそうだが、大本営の高雄や横須賀の大淀のような神算鬼謀な頭脳で現地で最悪の状況をひっくり返すことができる艦娘も育てなくてはならない。ここではその艦娘は能代にゃ悪いが、矢矧に育ってもらう必要がある。

 

「三条んとこの大淀の指揮をあいつにくっついて目に焼き付けろ。耳にこびりつかせろ。脳に叩き込め」

 

「上郷のおじいちゃん以上に無茶を言う提督ね」と悪態を吐かれたが拒否はされなかった。上郷のジジイの時から、横須賀の大淀の頭脳には矢矧も一目を置いていたようだ。戦闘詳報を何度も読み返し、真似をしてみようと思ったがいかんせんわけがわからない。レ級相手に武蔵が顎を殴って揺さぶって一瞬だけ意識を飛ばした?

 

そんなことできてたまるか。うるさい三好のおじさんの長門でさえそんなことは不可能だろうと頭を抱えていたそうだ。

 

「どの提督の下にも、大淀とまではいかねえが…土壇場で最悪の状況を全部ひっくり返す。そうだな。将棋で言やあ飛車と角、金銀取られてどうやって玉を守りつつ相手に降参させるか。それくらいはできてくれると俺が楽になるんだけどな」

 

「できるわけないでしょう、そんなこと…」

「大淀は大本営の高雄相手に戦略ゲームで2時間かけて引き分けで終えたって話だぜ?あの高雄が長考するくらいだったってよ」

 

「は?」

 

相変わらずおかしいんじゃないの、あの大淀さん。そうぼやいていたな。いや、おかしいのはあの高雄だろとも思ったが。俺だってあいつにはものの数分で負けたことがある。それと2時間かけても終わらねえ戦いしてるなんざ信じられねえっつーの。

 

まあ、それは置いておいて。今はエンガノ岬沖の戦いを終わらせることを考えないといけない。それもこちらの勝利で。ようやく自分が聯合指揮官としてやってきた戦いももうすぐ終わる。この1ヶ月半、長かったぜ。まだ終わってねえんだけど。

 

褒めて然るべき。褒められてしかるべきは三条なんだが。いや、三条だけじゃない。いつもピーピー泣いてうるせえ七原も泣き言を一言も言わずに戦闘をこなした。レイテの外からの防波堤になれって作戦を完璧にこなした。

 

俺に0点と言われたことをずっと根に持っていた九重もイタリア艦隊もうまく使ってサマール沖やエンガノ岬沖の偵察、その他の激しい戦闘を勝利で終えた。

 

一宮は俺の考えを先読みしてやがった。腹が立つがあいつの頭脳は今後も必要だな。あいつのおかげで乙や丙作戦に参加していた連中の指揮がスムーズにいった。1言えば100を理解して艦隊に伝え、指揮をする。そうすりゃあ俺は一宮に全部任せられたからな。

 

五ヶ丘も必死によくやったもんだな。ザコを任せたが時に重巡棲姫や集積地棲姫を討ち取る大金星をあげてやがった。何か必要以上に艦娘に懐かれてた気がするが、気のせいか?

 

「さて、それじゃあ三条にも甲種勲章やるために頑張りますか」

 

「提督が人のために動くだなんて…」

 

「あ?テメエ言うじゃねえか。今回はほとんどが三条に華持たせるための立案だ。最後でミスりましたなんざ笑えねえだろうが」

 

「そうですね…」

 

「ふん。テメエも俺や大淀の指揮をしっかり見とけよ。能代と矢矧。テメエら姉妹でここの頭脳をやってもらうんだからよ」

 

「龍田さんではなくて…ですか?」

 

「テメエも龍田がわかってねえらしいな。あいつも球磨と同じ戦闘狂だよ」

 

「ええ…」

 

死にたい艦はどこかしら~?とにっこり笑って薙刀のような艤装を構える龍田の姿を思い出して頭を抱えるしかない。考えてみれば龍田もそうだった…!どうしてうちの軽巡はまともな思考をしたのがいないのよ…!!阿賀野姉はあんなんだし!!!

 

「大変だなぁ能代?」

 

「放っておいてください…」

 

はあ…とため息を1つ吐く能代。まあ、頭脳を任されると言うのは悪くない。矢矧と共に成長、していきましょうか。そう思うしかない能代だった。

 

………

 

2人の艦隊は破竹の勢いでエンガノ岬沖を進んでいく。無理もない。三条の艦隊は原初の龍驤、木曾と言う「原初の艦娘」の中で攻撃においてはトップ2とトップ3がいるし、大和もいる。鍛え上げた英国の空母に五航戦。こっちには龍田に球磨に多摩。そして矢矧に…あの大和といいコンビを組んだ長門。その辺の有象無象の艦隊ならば相手にならない。じきに主力の深海鶴棲姫とか言う奴に当たるだろう。

 

「提督、きわめて順調ですね!」

 

能代が笑顔でそう余裕を見せる。油断をしているわけではないのだが、安心感が違うのだろう。オーダーを見た時には過剰戦力では?と思うくらいの編成だったし、慢心をしなければ勝てるだろうくらいに能代は思っていたし、刈谷提督もそう思っている。

 

「ああ。何事もなけりゃな」

 

「提督は本当に過保護と言いますか…提督も言ってたじゃないですか、過剰戦力だって」

 

「そうだな。ただ慢心してんじゃねえぞ」

 

「してませんよ。それに、指揮をしっかりしないとあとで球磨さんに…」

 

「ククッ、テメエ確かイエローカード2枚。次で3枚目だったか?そうなると球磨と多摩の地獄トレーニングだもんなぁ?」

 

どういう判断かはわからないが、能代は「いいかげんな指揮してんじゃねーぞ」と球磨に何度か怒られている。次に何かやらかしたら阿賀野と矢矧と姉妹連帯責任で球磨ちゃん特別「いっしょにとれーにんぐ」をやらされることになっている。死にたくない。なので今回はしっかりしておかないとやばいのだ。

 

「ぐ、わかってますよ!それくらい!ちゃんとやります!!!」

 

「おう、せいぜい矢矧を絶望させんなよ」

 

「阿賀野姉はいいんですか…?」

 

「あいつをイイ女にしてえなぁ。トレーニング参加させろ、ククク」

 

球磨と多摩の乳もみ、ケツもみ…セクハラ三昧のトレーニング。特に阿賀野は「いいチチ(ケツ)してるクマ(ニャ)」と太鼓判(?)をもらっているのでどうにか参加させようとこじつけてくる。そんな阿賀野は今出撃中。大丈夫だろうか…。

いや、まずは自分の心配をすべきだ!そう思ってモニターに集中した。

 

(艦隊に問題はねえんだよな。艦隊にはな)

 

能代に悟られないように余裕のある笑みは崩してはいないが、実際にはある問題が来るだろう、と確信していた。できる限りの準備はした。全ては舞台にあがった。

 

(ブラックorホワイトだ。俺が勝つか貴様が勝つか…どうせ一番最高の盛り上がりの時に横から思いきりぶん殴ってくるんだろ?来いよ。いつだって勝負は受けてやるぜ)

 

絶対来る。そう確信して刈谷提督は龍田達に指揮を伝えるのだった。

 

/エンガノ岬沖

 

瑞鶴達は大きな問題も損傷もなく、エンガノ岬沖を進んでいた。それもこれも、大淀の指揮と龍田が総旗艦である刈谷提督の艦隊がいたことだ。しかも聯合艦隊。全部で4艦隊の出撃と言う物量作戦。こんなに心強い艦隊はない。

 

「あー、球磨たちがザコども蹴散らしてやっから屁でもこいてろクマ」

 

「は、はあ?」

 

「何度も言わせるにゃ。多摩たちが前に出るからおめーらは後ろでボーっとしてるにゃ」

 

「す、すまん瑞鶴達よ…ここは我々がまず前に出て露払いをする。三条提督の艦隊は弾薬、艦載機を主力まで温めていてほしいのだ」

 

長門が慌てて補足する。球磨が「脳筋長門がフォローするなんて明日は雪クマ!?」などと言っていたが長門はお前の頭は戦闘狂だろうが、と言いたかった。

目的地までは刈谷提督の艦隊が総力を挙げて深海棲艦を倒す。主力が近づいて来たら攻撃に加わってほしいとのことだ。

 

「ほーん?それならキミらの作戦にあやかろか。弾薬を温存できるっちゅうんはありがたいことやでな」

 

「そうだな。ま、ねえとは思うけどお前らが危機に瀕したらその時は手出しするぜ」

 

龍驤と木曾は刈谷提督の案に乗った。主力とぶつかる際に弾薬をほぼフルで使えると言うのは圧倒的有利だ。戦闘による余計な燃料の消費もないときた。ならばその手を使わなければもったいなさすぎる。

 

(それなら華は瑞鶴、翔鶴らに持たせるとして、うちと木曾はド派手に朱雀や青龍をおもっくそぶちかませるなぁ)

 

それと同時に島風の全速力に近い攪乱も十分通用できる。レ級の時とは違い、全速力でなくてもいい。島風のハヤブサの能力は主力を攪乱するまでにほとんど燃料が怪しかったりするのでありがたいことだ。

 

龍驤はあくまで自分達は瑞鶴や翔鶴たちの補佐。だからこそ瑞鶴達が全力で戦えるように全力で取り巻きをけん制するだけ。おそらくだが、姫なども多くいるだろうし、そいつらを奥義で仕留められるのは大きい。

 

(奥義、か。使うのは久々だけど…北上姉に見せたらパクられてマジでオレの『雷の女王』の肩書は終わりだな…)

 

「雷の女王」こと木曾は兄である玲司の鎮守府にいる姉、北上に自分の自尊心をへし折られていた。陸奥には敵わないが龍驤や赤城には攻撃力は勝る。そう思っていた。龍驤とは同等であるがそれより上の奴など、陸奥以外にはいないと信じて疑わなかった木曾。

 

「おーい木曾っちー。ちょっと木曾っちの技教えてよ~」

 

そう言われたこと。いや、それよりも前に北上を激怒させてしまった時にすでに彼女は木曾の必殺技である「雷の檻」をコピーし、木曾の攻撃を防御した。それだけでも驚愕に値したものだったが、いざ本格的に「雷の檻」を教えたら30分も経たないうちに「でーきたー」と疑似標的を大爆破していたのだ。

 

「いえーい木曾っち~、粉砕、喝采、大爆砕~」

「は?????」

 

戦慄なんてものじゃない。プライドを根元からポッキリと折られてしまった。さらには「雷の竜巻」まで完璧にコピーされ、他になんかないの~?と聞かれてあるにゃあるけどさ…と言ったらじゃあおせーて、となった。

 

それこそが木曾が絶対の自信を持って放つ奥義「四神・青龍の型」だった。

 

「いや、奥義を簡単に見せる奴があるかよ!?」

「ちぇー、残念だなぁ」

 

そう言って奥義を見せなかったが、実際には本当にこれをパクられでもしたら「雷の女王」の存在が根幹から消えることになる、と危惧したからだ。これだけは絶対に譲れない。今はもう見せちまってもいいかな…と思っているのだが。

 

「アホー!?『雷の女王』は木曾だけや!!北上に譲るって何言うとんねん!?」

「だってさ…」

 

「だってもへったくれもあるかい!?北上は北上でなんか奥義みたいなん勝手に覚えよるわ!!!」

「うう…ほんとぉ?」

 

「ほんまや!な?姉やんがそう言うねんから、な?な?」

「うん…」

 

木曾は落ち込むと子供っぽくなる。それをいつもあやしているのが姉である龍驤だった。龍驤も苦労人である。それを言ったら毎日がエブリデイ…いや、フリーダムすぎる姉の利根、1から100まで説明しても理解できない磯風。これらを相手に毎日胃を伊勢と痛めている木曾も苦労人である。

 

「こんにーちはー!!!!悪い深海棲艦はねんねの時間だクマー!!!永遠にねんねの時間だクマー!!!!!」

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…今を精一杯生きるといいにゃ」

 

「艦隊!この長門に続けェ!!!」

 

ボーっと木曾が考え込んでいると会敵したらしい。長門の掛け声はいいが球磨姉と多摩姉の言葉は何だ?ちょっと待ってくれ。オレの姉って全員常識って言葉は辞書にねえのか?

 

一応大井はある程度良心を持っているであろうが、いずれ会うであろう鹿屋基地の大井は提督の使用済みタオル(汗たっぷり)をジャンキーのようにキメている大井であり、木曾は龍驤に「オレ、球磨型巡洋艦名乗るのやめるわ…」と言い、「なんやて!?」とまた龍驤が冷や汗をかくことになるんだとか。

 

「うふふふ♪死にたい深海棲艦みぃつけた~♪」

 

龍田はニッコリ…いや、ニタァと笑ってイ級を薙刀で串刺しにしている。「オゴ…オゴゴ…」と青い血液を垂らし、口から血を吐いているが、龍田は笑っている。

 

「やだ~、きたなぁい」

 

汚物をゴミ箱へ捨てるかのように興味をなくして海へ捨てる。

 

「これから退路の確保もあるしぃ、弾がもったいないからぁ…ね?この薙刀で死んでくれるかしら~?」

 

狂気を宿したような目をしていた。陸奥が熱くなって敵陣へ駆けていく時以上の昏い目をしていた。陸奥の場合は爛々と目を輝かせ、破壊しがいのある獲物を狙う猛獣のようだが、龍田の場合はまさに死神のようだった。見る者に恐怖を与える狂気の目。それが龍田にはある。

 

だがそんなものは序の口。

 

「阿賀野ォ!球磨をサポートしろ!ミスったら24時間おめーのチチ揉むからな!!!!」

 

「は、はいいいいい!!!!」

 

そんな脅しかけてんじゃねえよ!!!!!ってか阿賀野も従ってんじゃねえよ!!!!!

 

「阿賀野姉に毎度毎度そう言うことするのやめてもらっていいかしら!?」

 

そう言うのは矢矧だ。いや、そうじゃねえだろ!?突っ込んでいく球磨姉止めろよ!!!!んだよ佐世保の連中!頭イカれてんじゃねえのか!?

 

「いつまでもあると思うにゃ親と腕ェェ!!!!」

 

ダァン!!!と多摩の砲が吼えた。いや何だよそのことわざ!?金だろ金!?いや、しかし姉の多摩は突っ込んでいく球磨を狙った重巡リ級が砲を構えていた腕を正確に撃ち抜き、吹き飛ばした。

 

「ギャアアアアア?!!?!?!」

 

「あん?まだ撃とうとするにゃ?そんじゃ、深海棲艦でからし蓮根を作るにゃ」

 

どういう意味だよ…とツッコもうと思ったがリ級は一瞬で多摩の速射を浴び、全身ハチの巣…いや、レンコンになって沈んだ。

 

「おめーらなんで手足生えてんにゃ?ダルマになっとけにゃあああ!!!!」

 

早え!?正確無比でありながら恐ろしいまでの速射!それにより、ネ級やホ級なども手足を撃ち抜かれて文字通りダルマと化していく。その横では阿賀野がチマチマと深海棲艦を沈めていく。

 

「阿賀野ぉ、多摩の獲物を横取りして楽しいかにゃ?」

 

「ひぇっ!?あ、阿賀野は単に多摩さんのお手伝いを~…」

 

「多摩さん!阿賀野姉は支援しているだけ!!!邪魔してるわけじゃないんだからそういうこと言わない!!あと阿賀野姉のお尻を触ろうとするな!!!!」

 

「チッ、邪魔なお目付け役がいたもんにゃ…」

 

「なんですって!?」

 

「ふむ…時は一刻を争う状況…早いこと確かに主力の下へ行きたいにゃ…引縄批根*1…阿賀野、矢矧、任せるにゃ。長月!菊月!」

 

「任せろ!」

「任された…」

 

第二艦隊から飛び出してきたのは睦月型の長月と菊月。こんな大規模任務に…?と木曾は訝しんだ。いや、それよりも長門が大活躍ではなく、多摩や阿賀野、矢矧が大活躍していることにも驚きであるが、今度は睦月型?

 

言い方は悪いが睦月型は火力が低い。ここ一発、と言う時に火力に欠け、深海棲艦を逃してしまうと後に響いたりする状況がまさに今のなのだが…?提督は何考えてやがる?無能か?それこそ陽炎型や夕雲型…白露型なんかを出した方がいいんじゃねえのか…?

 

「矢矧さん!そこの駆逐艦を引きはがす!長門さんの邪魔になる!」

「了解!頼んだわ!」

 

「阿賀野さんを狙っている軽巡がいるぞ。私が排除しよう」

「はーい、お願いしまーす!」

 

しかし木曾はここで自分の憶測を見誤ることになる。木曾や龍驤は知らないが、阿賀野や龍田達は安心して任せられる駆逐艦。それが長月と菊月なのだ。睦月型の中で劣等艦娘…ジャンクと呼ばれていた彼女たちが血のにじむような努力を重ねた結果、どの睦月型とも比較にならないくらい強くなった。後期型である駆逐艦、陽炎型や夕雲型にだって引けを取らない。

 

徹底したサポートに回ると宣言した彼女たちのそれは本当に徹底的だった。

 

「長月は球磨さんのサポートへ。私は多摩さんを支援する」

 

「わかった。任せた!」

 

正確に多摩や球磨を狙う深海棲艦を狙い、撃沈まではいかずとも中破、大破をさせるなどして足を止め、攻撃を食い止める。

 

「ふふん、よい感じだクマ♪」

 

「やっぱり菊月たちのサポートは助かるにゃ」

 

 

こうして球磨達は容赦のない攻撃を繰り出していく。

 

「まーずは挨拶代わりのグリングリーン!!!!」

「オゴッ!?」

 

リ級の口へ砲を歯がへし折れようが顎が砕けようが知ったことではない。砲をねじ込み、発射。もちろん、頭がはじけ飛ぶ。

 

「見ろクマ!!!スイカのようにはじけたクマー!よーし、夏だからスイカ割りだクマー!!!」

「それはおもしろいにゃ。じゃあ多摩もスイカ割りするにゃ」

 

多摩は15.5cm三連装砲を用いての恐ろしいまでの速射。一発の発砲音で何発撃ってんだ…?と木曾は思った。哀れヘ級の頭がスイカのようにはじけ飛ぶ。

 

「にゃ。黄色のスイカも悪くねえにゃ」

 

「全部青い血が飛び散って…!ああ汚い!!!!私に肉片や血を飛ばさないで!」

 

矢矧のキレる場所が違う。止めろ。あのえげつない攻撃を止めろよ。木曾はもはや顔が驚愕でひきつった顔から「スン…」と真顔になるほどである。龍驤もスン…と真顔だ。

 

「何なんあいつら。めっちゃやばいやん。深海棲艦でスイカ割りて、陸奥姉やんやってなかった?」

「思い出したくもねえ…」

 

姉の陸奥は「刃の女王」と言う特性上、拳やら蹴りやらで攻撃を繰り出すことが多い。その9割は肉弾戦だ。結果としてスイカ割りの棒よろしく、振り下ろした腕で深海棲艦を真っ二つなんてことをよくやっていた。球磨はやり方が違うが、これでは姉のようだ。

 

「なんや、汚い花火見るより絵面がきついなぁ」

 

大淀に至っては今回参加している皐月たちに見てはいけません!と顔を背けさせる始末だ。実際、皐月は不知火が自分の手で深海棲艦を解体している様を目の当たりにしてトラウマになっているし、他の艦娘だってこんなわけのわからない戦法は知らないだろう。

 

世の中は広い。だが勘違いしないでほしい。こんな頭のおかしなことをやっているのは世界中どこの艦娘の艦隊を探しても球磨と多摩と大本営の陸奥くらいだろう。いや、実際には見たくなかったわこんなん、と心の中で龍驤はぼやいた。

 

「葛城ィ!!!艦載機飛ばせええええ!!!!」

 

「は、はい!!!ま、回せー!!!」

 

制空権の奪取に入る佐世保艦隊。もう見えてきているのだ。主力部隊が。球磨はニタリ…と笑った。目に見えているのは…戦艦戦姫だらけの艦隊。多摩も目を細めていた。極上の獲物がいる、と。

 

大淀もそれに気づいた。そして、ついに横須賀の艦隊が動いた。

 

「空母の皆さん!艦載機を発艦してください!」

 

「よし、任せて!!!制空権奪取を念頭に、いくわよ!!!」

 

瑞鶴の発声と共に空母部隊が艦載機を飛ばす。龍驤だけは飛ばさない。

 

「うーちだけ仲間外れー」

「そう言わないでください…龍驤さんはここから暴れてもらうんですから」

 

「せやなぁ。まあなんかあそこで偉そうにふんぞり返ってる奴、うちら『原初』組でやろかー」

「戦艦棲姫…あ?なんかちげーな。なんだありゃ?あんなの見たことねえ」

 

「戦艦棲姫改ってやつだね。火力とか上がってんじゃない?」

「ちょーっと待ったクマ!!!!!待ってほしいクマ!!!!」

 

「おお?何や球磨?」

「そいつは球磨と多摩でやらせてほしいクマ。それからもう一匹の戦艦棲姫はうちらでやらせてほしいクマ」

 

「何でだよ球磨姉。一緒にやっちまえばいいだろうが」

 

「球磨ちゃんたち、最近戦闘に出れてなくてストレスがマックスクマ。戦艦棲姫!それも改になったクッソ強そうな深海棲艦!!!球磨ちゃんあいつみてこのアホ毛アンテナがうずうずするクマ!!」

 

アンテナのような球磨のアホ毛がピーンと伸びきっている。猫の尻尾がご機嫌なときのようだ。

 

「多摩も然り…にゃ。あいつとは球磨姉と一緒に殺りたいにゃ」

 

「ふふふ。じゃあ、龍田や矢矧ちゃんはあの戦艦棲姫を相手にすればいいのかしら~?」

「そうだクマ。佐世保組はあれら潰して退路確保を始めるクマ。大淀、なーーーんも気にしなくていいクマ。タイタニックに乗った気分でいろ」

 

「いや、それ沈没しますよね!?」

「おう、そうだったクマ。いや失敬失敬」

 

「うーん、しゃあないなぁ。ほな木曾、なにやる?」

「空母棲姫でもやるか。龍驤姉が空母だしな」

 

「ほいほい。ほな川内、島風、出よか」

「やっと出番!?おっそーい!」

 

「あーい。なーんだ空母棲姫かぁ。ちょっと物足りないけどしょうがないね」

 

矢矧と大淀は大丈夫なんだろうかこの人達…と頭を抱える。ただでさえ目がイッているのにさらに拍車をかけている。

 

「ヴォオオオオオ!!!嬉しいクマ!!!久しぶりに血沸き肉躍る姫だクマ!!!重巡棲姫とか言うクソザコでフラストレーションたまりまくってたクマー!!!!」

 

「深海棲艦は不倶戴天の敵…けど重巡棲姫では物足りなかったのは事実。さあ、お前は多摩を楽しませてくれるかにゃ?」

 

「長月ちゃん、菊月ちゃん!こっちへ!」

「ええ、サポートをお願いね~」

 

矢矧と龍田が長月と菊月を招き入れる。サポートと言うよりも主力の駆逐艦として動くのだろう。大淀も正直島風を取られたのは痛いが、連携が抜群であろう龍驤達と組む方がプラスに働くか?

 

こちらは瑞鶴と翔鶴、アークロイヤルにヴィクトリアス。そして大和。第二艦隊の祥鳳が空母部隊としている。大淀、対空対策として吹雪、皐月、文月。そして、これまた原初の川内。川内も抜けるので正直なところ、早く倒して川内や龍驤達に木曾にこちらに回ってほしい。

 

ところで第二艦隊は7名が参加しているが、川内は「居る」のに「居ない」と言うインチキが発動しているため、問題はない…らしい。提督も頭を抱えていたが、川内がそう言うのだからそうなのだろう…と強引に艦隊にねじ込んだわけだ。

 

これでこちらにいる原初の艦娘は4人。龍驤さん曰く、この4人は攻撃特化らしい。逆に赤城さんや磯風さんは守り。利根さんは索敵。明石は…非戦闘艦に近い。やれなくはないらしいが…。

ここに陸奥さんを除けば超攻撃特化の龍驤さん、木曾さん。デコイ、もしくは攪乱に特化した川内さん、島風ちゃん。

 

「よっしゃ、ほなやろかー。大淀、そっちの指揮は任せたで。こっちはうちが司令塔や。正直空母棲姫はがっかりなんやけどなぁ。ま、しゃーない。球磨たちがあんだけやる気になってんのやったらやれるんやろ、たぶん」

 

「絶対ハードグリンかまして撃沈させるクマー」

「あの戦艦棲姫はこの多摩と球磨で確実にダルマにしてグリンで沈めるにゃ…」

 

「おー、すっげ。殺気がやべーな。ってか、横須賀の北上姉と言い、オレの知ってる球磨型ってなんかまともなのいない気がすんだけど気のせいか?」

 

「イロモノ軽巡やからなぁ」

「おい、オレまでイロモノ扱いすんなっての!!」

 

「まーまー、木曾かてイロモノやーん。『雷の女王』なんて称号ついとるんやし」

「オレはまともだ!!」

 

いいや、正直に…木曾さんもかなり…と大淀はツッコミたいくらいだった。

 

「……フフフ、オロカネ。タカガ軽空母ガコノ空母棲姫ニ…?バカモヤスミヤスミイエ…マアヨイ。ヒノカタマリトナッテ…シズンデイケ…」

 

刹那、木曾や川内はあっ…と言う顔になった。健気にも殺気を放ってくる空母棲姫を憐れむかのような目で見る。それは、龍驤には絶対に言ってはいけない言葉なのだが…どうしてこうも大きな艦と言うのは小さな軽空母や駆逐艦を見下せるんだろうなぁ…あー、胃が痛え…と木曾はちょっと痛み出した胃を押さえるかのようにお腹をさすった。

 

「言うやん。ってかキミ、うちらの知ってる空母棲姫とちゃうんか…?なーんや、よけいがっかりやん。まあ、戦艦水鬼が死んで空母棲姫が頭張ってるって聞いたけど、別のか。なんやー、あいつとちゃうんかー。ザコかー」

 

「………」

 

空母棲姫の顔が怒りに染まる。いや、それ以上にもう龍驤は怒っているわけなのだが。実際川内は顔を青くしているし、木曾は胃が痛い。関わりたくねえ…と思うくらいだ。

 

「ナンダ、キサマハ…」

 

「初めまして、軽空母龍驤言いますー。名前だけでも覚えて帰ってもろて」

「いや、帰すのかよ」

 

「帰すわけないやろ。生まれ変わっても龍驤って名前聞いたらトラウマになるようにって教えたってん」

「うわぁ…もうガチギレじゃん、お姉ちゃん…」

 

「当たり前やろ?うちをああいうた奴の末路は決まって…撃沈では済ませへんくらい…燃やしつくしたるんや」

 

何かが爆発したかのように急速に周囲の空気が変わった。それは木曾、川内、島風にも急速に伝搬し、そして…ゴォッ!?と嵐が渦巻くかのように周囲の艦娘、深海棲艦を息苦しくさせる何かがまとわりつく。それは「原初の艦娘」4人の殺気。

 

「ヴォオ!?なんかすげえ!なんかすげえクマ!負けてらんねえクマ!!」

「………これはすごいにゃ。これは…殺る気も出るってもんにゃ」

 

ブワア…と球磨と多摩もたまらず反応し、それに負けない殺気を放つ。場を6人の艦娘の殺気が支配する。深海棲艦、戦艦棲姫も空母棲姫もその6人の殺気に圧倒される。

 

「さーて、ほなはじめよかー。ちなみに、秒殺だけは勘弁やで。せっかくここまで殺気出したのにかっこ悪いやん?」

 

「正直言ってお前らの指揮官は無能だわ、と思うぜ。だって、龍驤姉を怒らせたんだからな」

 

曰く、大本営の龍驤は怒らせるな、と言うのが大鉄則であるのが人間側の判断。深海棲艦は知る由もない。古参の空母棲姫あたりなら知っているかもしれないが。

 

敵艦載機が奥より攻めてくる。主力艦隊も動き出したと言うわけか。

 

「対空用意!本格的に戦闘を開始します!佐世保の矢矧さん!そちらも戦闘用意を!」

 

「わかったわ!龍田さん、いくわよ!」

「は~い。死にたい艦はどこかしらね~?」

 

こうしてレイテ沖海戦、最終戦。エンガノ岬沖の本格的な戦闘が開始されるのであった。

*1
協力して他を全て排除する事。または裏切った相手に報復して怨みを晴らすこと。




200話以上経って龍驤姉ちゃんのまともな戦闘描写が始まるって、マジ?(苦笑)

サクッとまとめて終わらせるため、道中の描写は省いています。五ヶ丘提督やら七原提督たちが片付けてくれた、と。
主力艦隊の第一艦隊は全部姫なのでとりあえず姫と龍驤達。佐世保のやべー球磨と多摩。そして矢矧達。最後に大淀達の戦いとなりますが、長くはならないようにします。

次回は原初の艦娘達と球磨、多摩の戦いですね。鶴棲姫との戦いはそれ以降でしょう。

それでは、また。
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