「ほれ見ろ大府。貴様の負けだ」
認めない。認められるわけがない。私は負けなど———断じて認めない。あの時から。私が初めて敗北を味わったあの日から。
「刈谷~、お前すごいじゃないか。主席入学なんてさ」
「俺は別になりたくてなったわけじゃねえよ。んだよ、なんかすげーえらいさんの息子が2位だったんだろ?しかも1点差だってよ。もうちょい頑張ってくれよなー。おかげでめんどくせえんだよ」
「謙遜してんのかなんなのか…」
「俺は面倒が嫌いなんだよ。だから主席は任せたかったんだよ」
「そうなん…うおっ!?お、大府、君…」
「ああ?なんだ2位君じゃねえか。もうちょい頑張ってくれよな。次は頼むぜ?俺、もう手ぇ抜くからお前がナンバーワンだ。じゃあな」
「お、おい刈谷!待ってくれよ!」
気に入らない。このせいで僕はお爺さんに怒られてしまった。大府は常に頂点に立たなければならないと。それをここで潰されてしまった。なぜだ。あのような頭の悪そうな、性格も悪そうな人間に負けるだなんて。油断を決してしたわけではない。
いいや、それはテメエの慢心だ。
それから僕…いや、私は負けなかった。あの刈谷とか言う憎らしい人間にも。自衛隊に入ってからも私の出世は早かった。お爺さんの伝手もある。それよりも私が優秀な自衛隊員である証拠でもある。あの男は暴行を働いてどこか底辺のような隊に飛ばされたはず。偶然であの男に負けたとは。恥だ。
だが、もうあの男に出世はない。私の戦いはこれで終わりだ。
………
海から現れたと言う深海棲艦。そして、艦娘。その指揮に当たるように特務が下った。そこにはあの男までいた。
「しっかりやれよ、刈谷」
「へえへえ」
「またお前は…」
「いてえな。耳引っ張るなっつーの」
…清州副司令長官とあの男。刈谷…。またこの底辺な男がいるのか。気に入らない。
彼の艦娘を沈めた時、私は勝ち誇った。これで彼の心は完璧に折った。再起不能だ。さようなら、刈谷君。あなたはもう終わりです。
………
折れたと思ったらしつこくも復活してきた。面倒な男だ。いっそのこと、父に頼んで消してもらうか…?一応聞いてみたが、隙のない男らしく、見つかる可能性が高い。やめておいたほうがいい、とのことだ。
ならば放っておくとしよう。私は中将でアレは少将。これが揺れ動くことはないだろう。
………
私が降格でアレが中将?何をふざけたことを言っているんだ。私が、またあの男に負ける…?あの何だったか、金髪の重巡洋艦を取られた時に言われた言葉が思い返される。
「哀れだな、テメエは」
私を馬鹿にするな。私はあなたなどよりも遥かに優れた頭脳と地位を持っているのだ。あなたのような最底辺の人間にそんな侮蔑の目を向けられる筋合いはない。まだだ。私は…あなたをねじ伏せればいいのだから。
………
「銃を捨てろ、大府!銃を捨てて投降しろ!!!!」
憲兵が自分に向けて指示をしている。ウルサイ、命令スるな。
「年貢の納め時だ、大府。貴様は終わりだ」
「………刈谷君、あなたも拳銃を2丁持っていますね。あなたも犯罪ではありませんか?」
「言い訳が見苦しいぜ?そうだな、貴様の前に捨てた拳銃とこの拳銃。じゃあ、犯罪犯してんだ。貴様を殺すくらい造作もねえことだ」
「刈谷提督!いけません!!!」
「あなたはやはり最低の人間だ。まあいいでしょう。これで私を殺せばあなたは最底辺の殺人者です。さあ、殺すといいでしょう」
「そうかよ。俺は貴様に対しては躊躇なんて言葉はねえからな。じゃあな、大府」
「大府君!!!!!」
そうして刈谷提督は引き金を引いた。
パァンンン!!!
執務室に破裂音が響く。そんな中、冷静に若いメガネをかけた憲兵が大府の手にあった銃を腕を捻って取り上げた。一瞬の出来事で大府も反応ができなかった。それどころか、大府には傷一つない。
「……こ、これは…」
「よくできてんだろ?昔懐かしの火薬で音が鳴るだけの銃だ。まあ、精巧に俺の拳銃と一緒の見た目にしてもらった一点ものだ。ククク、さっきも言ったろうがよ。貴様を殺したところで1ナノミリも俺には得がねえんだよ」
おもちゃの拳銃。してやられた。大府は刈谷ならば本気で撃つと思っていた。胸には防弾チョッキ。胸を狙っていたので受けてやろう。そしてそのあと撃ち返してやろうと思ったのだが…衝撃はなかった。
そして油断した。憲兵などに後れを取って銃を取り上げられてしまった。大府は若い憲兵に腕を取られていたが、それを取り返して投げた。多少手首を痛めてしまったが問題はない。目の前にある刈谷提督の拳銃めがけて手を伸ばす。
パァン!!!
大府の掌に衝撃と痛みが走った。
「なっ…!?」
初老の憲兵隊長が狼狽える。これはまごうことなく、実弾の拳銃。では…その拳銃は…。
「俺が貴様相手に本物の拳銃を目の前に投げ捨てると思ったか?バァカ」
刈谷提督は不敵な笑みを浮かべて拳銃を構えていた。同時に、憲兵達も一斉に大府へ拳銃を向けた。もはや一切の抵抗はできない。
「あーあ、撃っちまったよ。本物のほう。んで、これは…どうかな?弾出るかなぁ?」
ペチン!!
大府の額へ向けて発砲。情けないような発砲音。これはまた同じく特製のモデルガンだ。BB弾を発射するものであるが。大府の額にBB弾が直撃する。赤い点が大府の額に浮かび上がる様を見て笑いをこらえるのに必死だ。
「残念だったなぁ。こいつニセモンだ。これで俺が殺せたら大したもんだなぁ?ハハハハハ!!!!」
「か、刈谷提督…危険な真似はやめてください」
「ああ?俺は肩撃たれたんだぜ?これくらいやっても文句言われねえだろ」
「し、しかしですね…」
「あーあー、反省文でも始末書でも書いてやるよ。今それどころじゃねえだろ」
「~~~~~!!わかりましたよ!」
「華太ぉ、お前うるせえ、殺すぞ」
「す、すみません!」
さすがに周囲から拳銃を向けられては、大府も動けない。だが、それでもまだ敗北と認めてはいない。
「長かったよなぁ、貴様が防衛大学で俺に負けてから20年くらい。これで完全に勝敗がついたわけだ」
「………私はまだ負けてなどいませんよ」
「ほう?貴様の頼みの綱、親父の康介も終わり。味方のはずだった爺の亀一郎は貴様が殺した。さあ、次は誰を頼りにする?癒着とコネバリバリの官房長官か?官房長官は雲隠れしたぜ。他には?」
刈谷提督場全て知っているし、全てのコネを使って大府が万が一にも復活する術を封じた。しかし、刈谷提督の思惑は杞憂だった。息子1人で何かを成しえるはずはない。あれは大府の中で間違いなく失敗作だった、と政治家の1人から返事を聞いた。全員失敗作だろうがあの家の連中と返すと苦笑された。
刈谷提督としては爺も馬鹿親父も全部失敗作で馬鹿なんだけどな、と思う。まあ金だけはあったから、どいつもこいつもいい金づるとは思っていたようだ。だが、亀一郎の死が決定打だった。
「亀一郎氏が死んで、大府コンツェルンはガタガタみたいだね」
そう言っていたのは情報屋だ。わざわざ佐世保まで来てくれるとはな。と言うと東京にいるよりはガラをかわしやすいのさ、と言っていた。
「そもそも貴様は爺がいなくなった時点で全部破滅してたわけだ。貴様が興奮させて心臓発作なんか起こさせるから全て狂ったな。亀一郎が死んだら、全員逃げて行った。康介の馬鹿はそれを離さないように奔走したらしいが、康介の手腕と金じゃ無理だったらしいぜ」
あのクソジジイ、どんだけ金持ってたんだよ…と絶句したものだ。
「つ、つまり亀一郎…祖父を殺した時点でもう破滅の一途を辿っていた…?」
「そう言うこった。こいつはな、自分で自分の覇道を潰したんだよ。爺が生きてりゃ、総理大臣も夢じゃなかったかもな」
大府和雄。この男は自分で覇道ではなく、破滅の道を辿っていたのだ。亀一郎を殺し、父と隠蔽工作に奔走していたわけだが、全ては刈谷提督の目によって暴かれたのだ。
「貴様が爺を殺したシーン、きっちり警察に提出してあるぜ。あちこちのクラウドにも分けて入れてあるし、バックアップもがっつり取ってある。俺が死んでも警察がこれを隠しておくかな?」
「……見つけ出して潰します」
「ククッ!まだ貴様、自分が動けるとでも思ってんのか?お笑いだな。貴様はこれから死ぬまでシャバには出て来れねえよ。んで?ここから逃げられるとでも?」
「………」
ギリリ、と大府は歯を鳴らす。
「万に一つも俺に勝ち目なんてねえよ」
「………いつから…私は…?」
「20年前だ。貴様が主席を逃した時から俺に勝てるわけがなかったんだよ」
最初から…私は刈谷君に負けていた…だと?そんなはずはない。地位も金も全てが上だった。
「案外俗物的なんだな貴様。そんなもんだけで俺に勝ってたと思ってたのか?貴様は全部爺のコネと康介が出した金だけでのし上がったようなもんだ。貴様、艦娘が現れてから何かでけえこと成したか?ああ、ミッドウェーはなしだからな?あれは亀一郎がうるせえから甲勲章出しただけだ」
結局あの甲勲章はお情けでもらっただけ…だと?
「貴様の作戦で俺の飛龍が沈んでんだぞ。協調性に欠けた作戦立案だったってのに甲勲章なんざやれねえ。それが清州の親父の判断だった。だが、亀一郎がうるせえからくれてやった価値なんざクソほどもねえ勲章だな」
当然の甲種勲章だと思っていた。だが、上層部はそう判断していなかったのか。
「貴様を在籍させていた理由なんざ、亀一郎と康介のおかげだ。そうでなけりゃあんな洗脳させた艦隊さえ満足に戦わせられねえ、新人はいびる。合同作戦じゃクソの役にも立たねえ作戦立案。貴様のせいで有能と思われた新人を何人も潰されたしな?」
指摘をしていけばキリがない大府の役立たずぶりの数々。少将なんて階級でいることさえ、誰もが首を傾げる状態だった。上郷提督や三好提督達も、早く刈谷を中将、大将に上げろ。その圧力が清州副司令長官にも、古井司令長官にも凄まじかったそうだ。だが大府亀一郎のせいで少将に押しとどめるしかなかった。
いい加減辟易した清州副司令長官が付き合ってられんと刈谷提督を中将に押し上げることを決めたのだ。古井司令長官とは激しく揉めたらしい。
………
「か、刈谷君を中将に昇格させる?そんなことをすれば、大府元幕僚長が黙っていないぞ」
「あの老害が海軍を支配する時は終わった。そのようなことを私に問うお前は何だ?お前は司令長官だろう。お前が。海軍の。トップだろう」
「し、しかし…」
「彼の報復を恐れているのか?いつまであの老人に怯えているんだ。脱却して海軍をまとめ上げていかねば、この先深海棲艦も進化している。若手を鍛え上げて行かねばこの先海軍は負けるぞ」
「それは…」
「そのために三条を復帰させたのではないのか。一宮や九重、刈谷が拾った七原。そしてこれからやってくるであろう新たな若手。育てなければならん。三好さんや上郷さんももう引きたいと言っている。もう引き留めるのも限界だ」
「………」
「お前が優柔不断だからあの孫が幅を利かせているんだ。私達とてもう海軍にいられる時間は長くない。刈谷や堀内を筆頭に世代交代だ。そこに三条達を組み込む。刈谷はそれならば最強の海軍になれると言っているぞ」
「刈谷君は玲司たちにそこまで期待を寄せているのかね。うむ…そうだね…彼らが海軍を引っ張っていく時代が来る。そこに…大府の孫は…足かせになる」
「そうだ。だからこそ刈谷を中将に。そして大府はまずは少将に降格させる。あの爺の小言は私が受ける。お前はいつも通りで構わん」
「…清州…いつも、すまないね…」
「フン。そのような安い謝罪は良い。さっさと辞令を作れ」
「わかったよ。清州、気をつけたまえよ」
「ああ」
………
こうして大府元幕僚長の牙城を崩したのは亡き清州副司令長官だった。そのことを古井司令長官から刈谷提督は聞いていた。
(おっさん…いや、親父。あんたの遺志はちゃんと継いでやるよ)
「それで?私はどうなるのでしょう?」
「テメエの罪くらいわかってんだろうが大犯罪者が。証拠はきっちりもらったぜ?ただ、海軍なりの裁きを受けてもらう。貴様は普通の司法で裁くにはやりすぎた」
「ああ…例の監獄ですか」
「まあ、死ぬまで何がいけなかったかきっちり反省しろや。貴様に反省する感情なんざねえと思うがな」
「………」
「もういいぜ、こいつの面は見飽きた。連れて行ってくれ」
「1つ、いいですか?」
「ああ?しつけえな。何だよ、さっさと言え」
「この憲兵達は、なぜこのようにすぐここへ?」
「簡単なことだ。今日ここに貴様が来ることをあらかじめ予測していたからな。憲兵達にゃ寄宿舎で待機してもらってた。どうせ貴様のことだ、俺に会えばドンパチ、賑やかになると思ったからな。そしたら執務室に突入してくれって頼んであった」
彼らは憲兵第二部隊。四宮氏が率いる第一部隊とはまた違う部隊である。しかしこの第二部隊はあまりにも苛烈なことをするためにヤクザより危険な隊。敵に回してはいけないなど数々の噂がある恐怖の部隊。だが、刈谷提督がもっとも動かしやすい部隊でもあった。
「私が来ることを予期していた…と?」
「ああ。今日に絶対来ると予測してたぜ。貴様が来ることなんざ読めてんだよ。まあ、俺んとこに来るか、三条のとこに行くか。その半々だったな。貴様の事だ、俺を狙って来ることは9割読んでたぜ」
「………」
「貴様の考えなんざ深海棲艦の動きを読むより簡単なもんだ」
自分の事をここまで考え尽くされているとはもう手が出ない、とは思わなかった。これもうまくいかなかったのは全て父や祖父が役に立たなかったからだ。金を渡した海軍の祖父信者も使えないものだ。
「この期に及んでまだ貴様は人のせいか。何一つ、テメエのチカラで成し遂げようともしねえ馬鹿が俺を殺すなんざ無理に決まってんだろ」
大府は何一つ自分で成そうとした結果がない。艦娘を運用するのも烏丸提督の洗脳装置がなければ無理であったし、実は大府が防衛大学に入学できたのも祖父である亀一郎のコネである。刈谷提督が調べた結果はこれだった。首席で入学させろと言っていたが、それを覆したのは当時の幕僚長。反大府派の筆頭だった。
提督になれたのも清州副司令長官に亀一郎に口うるさく言って来ただけ。あとは亀一郎が海軍運営のために息子の康介を使って金を出させ、大きな口を叩けるように恩を売っただけのこと。作戦は大したものではないし、立案はできない。ミッドウェーも刈谷提督の邪魔をしなければ大成功だった。あとは鳴かず飛ばず、くだらない刈谷提督の部下に対しての嫌がらせのような作戦。そして南方海域での全滅。
「貴様には海軍でやっていくだけの実力も頭もなかったんだよ。その結果が全部南方海域で出てただろ?三条がいなけりゃアイアンボトムサウンドは突破できなかった。まあ戦闘もろくにせずに南方戦棲姫に逃げられたのを俺のせいにされたのは笑ったぜ」
刈谷提督はこの上ない皮肉たっぷりの笑顔で大府を見た。敵うはずが…なかった…?そんなはずは…ない。
「認めろ馬鹿。貴様じゃ俺にも三条にも敵わねえよ。まあもっとも。もう貴様の相手をしなくていいってのはスッキリするぜ。そいつ、もう連れてってくれ。目障りでかなわねえ」
ハッ、と言うと憲兵は大府に手錠をかけ、連れ出そうとする。お似合いだな。親子そろってワッパかけられるなんざ。
「刈谷君」
「あ?」
「これで勝ったと思わないことですね」
「ククク!いいぜ、かかってこいよ、三流悪役がよ」
ギョロリと感情のない目でにらむかのようにしたあと、大府は憲兵に連れられて部屋を出て行った。そして、愛宕が飛びつくかのようにやってきた。肩を負傷していたので飛びつくのはやめた。
「よお愛宕。お前のおかげで助かったぜ」
「提督…てい…と、く…!」
「提督!!!!」
「よお、能代」
変わらぬ涼しい口調で能代を呼ぶ。ドックで修復してもらったようで、傷は一切ない。服は撃たれたままだったのか、血が染みついているし穴も空いている。まあ、ケガが治ったんなら何よりだな、と刈谷提督は思った。
「あ、ああ…提督…ご無事で…い、今手当てを!!そのあとは病院へ行きますよ!!」
「ああ?龍田達が出撃中だろうが。んなもん行ってられるか」
「はあ!?何を言ってるんですか!!撃たれたんですよ!?え、ええ…傷が治りかけてる…?」
「おう、俺はそう簡単にゃあ死なねえようになってんだよ。さーて、龍田に怒られちまうからな。あー、その前にだ…」
慌ただしい。能代は本来ならば提督に休んでほしいと思った。何せ銃で撃たれている。病院に連れて行きたい。不思議と刈谷提督の傷の血は止まっている。それに、龍田達エンガノ岬沖に出撃している艦隊の戦闘も終わっていないし、かなり時間を食った。壊滅していることはないだろうが状況がわからない。愛宕だって涙を浮かべて心配そうに提督を見つめている。提督だけが笑っているのだ。
「能代、他の奴らはどうしてる」
「作戦終了の放送を流すまでは部屋から出ないようにと…みんな、心配しているでしょうけど…」
「上出来だ。今はここの連中よりエンガノの奴らの命優先だ。ここからは飛ばしていくぞ。俺についてこれるか?」
「ええ。提督についていくのは慣れましたよ」
「フン、そうかよ。おい龍田、聞こえるか」
『てい…とく…?提督……提督!』
『クマ?マジか!?さすがは球磨たちの提督だクマ!』
「あー球磨うるせえ。状況を報告しろ」
『ええ…ええ。なが~くなるわよ~』
龍田は冷静さを取り戻し、淡々と状況の説明を始めた。いい感じに煮詰まってるのか。もう少しってとこだな。
「龍田、全員で深海鶴棲姫を攻撃しろ。さっさと決着をつけるぞ」
『りょ~か~い。球磨ちゃん聞いた~?』
『ヴォオオオ!!!!やる!絶対やる!!!グリンかます!!!』
『グリンはだめよぉ~?』
「て、提督…!退路の確保は!?」
「済んでるだろうが。ふん、一宮の奴、わざわざ支援艦隊だけ危険な目にあわせるとはご苦労なこった。だが、状況がだいぶいい方向へ進んでる。退路の確保よか、さっさと仕留めるほうが効率的だ」
『刈谷提督、ご無事だったのですね!長門さんと大和さんの砲撃で敵艦隊はほぼ壊滅!龍田さん達にも殲滅のご協力を仰いでいる最中です!』
大淀だ。俺の考えを読んでやがったか。殲滅に踏み切っている。
「ほー?んで、三条は何て言ってんだ?」
『私の独断で構わないから細かい指示を任されております。こちらの大和さん、刈谷提督の長門さんで深海鶴棲姫の取り巻きに大損害を与えました。深海鶴棲姫は…瑞鶴さんが圧倒しております!危険な状況に変わりはありませんが、もうじき決着がつくかと思われる状況です!』
こいつやっぱすげえわ。俺の予測の3歩くらい先を行ってやがる。悔しいがここまでやってくれたのならもう楽勝だ。
「で?龍田達をどう動かす?」
『前線に出てもらいます。最前線で島風ちゃんや川内さんと共に、深海鶴棲姫の気を逸らしてもらいます。そして、空母部隊。特にうちの翔鶴さんと瑞鶴さんによる航空一斉攻撃の後、まだ生きているようであれば長門さんと大和さんの一斉砲撃をもう一度やって頂きます。勝率は…100パーセントです!』
正直俺の予想ではその勝率は考えた限りでは30パーセントもなかった。その手は考えてたんだが…確定勝利ときたか。なんだ?何があった?
『大和が覚醒したクマー。やべークマ。長門も舌を巻いてたクマ。大和改二の砲撃、羨ましい。あれでハードグリン…してえなぁ!!』
『球磨さん!今私が説明してるんですから!』
『話がなげークマ。まったく、参謀やってる能代と言いなんでこんな説明なげーぽんこつばっかりなんだ』
『また私をぽんこつって言いましたね!?』
「はあ?」
大和?あの大和が改二?おいおい冗談だろ?最強の戦艦がさらに改修されていいのかよ?もうインチキじゃねえか。聞くところによると武蔵もシブヤン海で改二になったっつってるし、あいつんとこ、マジで俺の遥か先を行くじゃねえか。
「クク…ハハッ…!」
「て、提督?」
「おもしれえんだよ愛宕。やっぱ三条はおもしれえわ。あいつの艦娘も。全員…おもしれえわ!大府の馬鹿のせいで気が削がれたが、おもしろくなったわ」
『提督!これより刈谷艦隊のご協力を得て、敵を殲滅します!』
「おう。やれ。やっちまえ」
『了解致しました!』
あー、おもしれえ、と呟く刈谷提督。これで、エンガノ岬沖も終わりだな。轟沈報告なし。レイテ総攻撃作戦ももう終わり。長かったような、あっという間だったような。
刈谷提督の中ではほぼ予測がついていた戦いだった。あの馬鹿が艦隊を出したりしなければ何の問題もなかった。案の定、馬鹿は艦隊なんぞ出さずに直接消しにきた。これも想定通り。まあ想定外だったのは康介が同タイミングで逮捕されたことだった。大蔵警部が言うにはまもなくですよ、とのことだったが、まさかこの日じゃなくてもよかったのにな。
親子そろっての同時逮捕、と言う最高に笑えるシーンだった。おかげで酒がうまくなりそうだぜ、と作戦終了後に龍田に無線で語った。
2時間後、エンガノ岬沖海戦は瑞鶴がトドメを刺して終えたと連絡が入り、帰還命令を出した。
「親父、飛龍。終わったぜ…まだ、後片付けはありそうだがな」
そう言って刈谷提督はうるさい能代の運転で、病院へと連れられて行った。
………
『いやぁ~ハッハッハ!まさか大府康介逮捕の裏側で大府和雄を逮捕しているとはぁ…偶然とは恐ろしいものですなぁ』
「正直監視カメラでも仕掛けてたのかと思ったぜ」
『おお怖い怖い。刈谷さんのところにそんな恐ろしい真似はできませんよぉ~』
「どうだかな…まあ、目障りな親子が揃って消えてくれて清々するぜ」
『ええ。あたしもようやく積年の恨みが晴らせましたねぇ。長かったですよ。ああ、おやっさんの墓前に報告してきました。あとはまあ検察がうまくやってくれるでしょうなぁ』
「けどよ、あんた夜道には気をつけろよ」
『ええ。ゆーっくりと温泉旅行にでもドロンしますよ』
「そりゃいいや。草津でも行けばいいんじゃねえっすか」
『ええ。ちょっと遠くまで…別府にでも行きましょうかねぇ』
「んだよ。酒くらい持って行ってやるよ」
『おお!期待してますよ~!』
大蔵警部と連絡を取り合う。こちらは和雄を。向こうは康介を逮捕し、無事に大府一家は表舞台からも裏舞台からも消えることになる。大府コンツェルンについては情報屋が追いかけてくれるらしい。しかし、社長が捕まったとあって右往左往の大騒ぎらしい。取引先は軒並み撤退…はまだまだできそうもないが、ゆっくりと崩壊していくだろうとのことだ。
さらには脱税の疑惑も出てきており、巨額の追徴課税が課されれば傾きも早くなるのではないかとのことだ。これには社長だけでなく、多くの役員や傘下の企業の役員も関わっていたとのことだ。グループ全部で真っ黒。もう半分傾いてたってことか?と刈谷提督は思った。
大蔵警部は今回の件を独断で先行していたため、停職に。停職は建前で、闇討ち、暗殺を恐れた警視庁上層部がとりあえず遠くへ身柄をかわせとの暗にお達しを出したのだ。大蔵警部に部下の青坂警部補も。多少怒られたらしいが、警視総監はよくやった、と金一封を出したらしい。
ってか、俺に行き先伝えて大丈夫なのかよおっさん。
『さてさて、急いで温泉へとしゃれこみましょうかねぇ!青坂君は城崎へ…いやぁ、楽しみですよぉ!』
「そうかい。まあ、気をつけてな」
そう言って電話を切った。大蔵警部の話ではとにかく大府康介は「私を誰だと思っている!」だの「知るわけがないだろう!全て他の役員がやったことだ!!」など、取り調べが遅々として進まないらしい。しかし、刈谷提督や情報屋が出した証拠により、一切逃れられない状況を整えている。犯罪史上稀に見る凶悪犯とのレッテルが張られ、連日大府コンツェルンの闇を表ざたにしていてとても刈谷提督としてはおもしろい毎日だ。
「へえ、こんなこともやってたのか。脱税50億はやべえだろ」
「ハッ、何もやってねえとかよく言えたな。5000万着服ね。大企業は脱税も着服も大規模だな」
などとテレビを見ては毎日笑っている。それから、龍田や葛城、愛宕が余計べったりくっつくようになり、ちょっといなくなっただけで葛城は泣きそうになっているし、愛宕は大声で提督を呼びまわる。1人の時間が余計に減り、ゲンナリしている。
………
東京。青山霊園。刈谷提督は喪服を着て、白い菊の花などが彩られた花束を持ってここへやってきた。それは…大府によって殺された、育ての父、清洲一馬の墓前にやってきた。
「よお、おっさん。来てやったぜ」
何て言う態度だ、と怒ってきそうなくらいに軽い言い方だ。何も言わずに花を供え、線香に火をつける。そして、おっさんが好きだった銘柄の酒をまだきれいな御影石の墓にかけた。おっさん、まあ久しぶりに飲めや。
「報告に来たぜ………全部、終わったぜ」
あんたが気にかけていたレイテも。そんで、ずっと気にかけてた大府も。全部片付いたぜ。まだまだあいつがくたばったわけじゃねえから、安心はできねえけどな。それでも一区切りだ。だから、ゆっくりしてくれ。そう心の中で語り掛けた。
『そうか。よくやったな』
「…………おっさん………親父…!!!」
泣きたくなかった。おっさんに笑われるし心配されると思ったから。けど駄目だった。本当なら一緒にやりたかった。あんたが総指揮官で、俺が副で。あのクソ野郎の事も2人で片づけたかった。俺1人じゃ不安だったよ。あんたがいたから俺は自信満々でできたんだからよ。もうあんたはいねえ。どうすりゃいいんだよ。
刈谷提督。
思い浮かぶ顔は三条。あいつかよ。ちっと不安だな…けどまあ、あいつは大物になるか。まーたとんでもねえことやりそうな気がするしな。そうだ、あいつら放って俺も引退はできねえな。堀内にも苦労かけちまうし。
「そう言うわけだおっさん。まだ俺はそっちに行くにゃ早えらしいわ」
刈谷提督はもう一度、瓶の中身が空になるまで墓石に酒を流した。あとは水できれいに流し、汚れなどをきれいにして手を合わせた。まあ、見守っててくれや、おっさん。そう念じて。
「さて、龍田達に内緒で出てきたからな。書置きはしたが…やべえだろうな」
んん!と1つ伸びをして、背骨がポキポキとなって気持ちいい。まだまだ蒸し暑い彼岸時。刈谷提督は揺れる彼岸花を愛しそうに眺めて自分の車へと乗りこみ、ぜってぇ怒られんだろうな、と思いながらも大本営の宿舎へと戻るのであった。
途中で逸れてしまいましたが刈谷提督と大府の決戦でした。
結局大府と刈谷提督には越えられない差があり、絶対に勝てない勝負を刈谷提督に挑んでしまった、と言ったところでしょうか。
頭脳も実力も格段に上。祖父と父がいたとしても勝てる相手ではありませんでしたが、祖父を殺して自滅しました。
さて、話が逸れてしまったエンガノ岬沖海戦、瑞鶴達と深海鶴棲姫との激突に話を戻します。
どうやら大和が覚醒しちゃってさあ大変な様子ですが、覚醒するのは大和だけではありません。
天空の黒鶴。
水面の白鶴。
彼女たちの覚醒で全て決まります。
それでは、また。