提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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艦隊が母港に帰投します。横須賀と佐世保、それぞれの喜びをお楽しみください。


第二百七十三話

瑞鶴達が勝利を泣きながらだろう、報告してきた際に、玲司はストンと肩の荷が下りたような気がした。無理もない。ここ数ヶ月はレイテのために準備をし、練度を上げ、いくつもいくつも刈谷提督や涼介たちと綿密な打ち合わせをして気が抜けなかった。

 

しばらくはのんびりしたい…翔鶴ともデートする時間もほしい。ああ、レイテお疲れ様パーティでもするか。霞も喜ぶだろうしな。

 

しかし、相変わらず大府はよけいな事ばかりしてくれたものだ。おかげで寿命が少し縮んだ気がする。刈谷提督に問いかけても反応が無くなった時、間違いなく大府が仕掛けてきたのだと思った。結果は案の定だ。今、テレビはどこも特番ばかり。内容は大府の親元、父親が経営する日本では超大企業とも言える大府コンツェルン崩壊の始まり。大府康介の逮捕とその内容。

 

刈谷提督から聞いた話ではもう死刑確定だろと言っているが、そんなにうまくはいかないだろう。

 

………

 

大淀達からの戦闘終了の無線が入る少し前、直通回線で電話が鳴った。鳥海は固唾をのんで頷く。この電話は…間違いない!

 

「……はい、横須賀です」

 

『よお、テメエが出てくれると代われって言う余計な一言を言わねえで済むから楽だな』

 

「いや、この一言の方が長すぎると思うんですけどね」

 

『フッ…そうだな』

 

「刈谷提督…大丈夫なんですか?」

 

『能代に病院行けって言われてんだけど、今それどころじゃねえ。状況を教えろ』

 

「病院…?」

 

『三条提督!提督を病院へ連れて行きたいんです!手短にお願いします!!』

 

ええ…なんかすげえ剣幕だけどマジで大丈夫なのかよ…と思う。病院、おそらくは銃で撃たれたか?

 

『うるせえ能代、黙ってろ。これしきでぎゃあぎゃあ言うんじゃねえ』

『銃で撃たれたんですよ!?提督はドックに入って傷が治るんじゃないんです!』

 

『こんなもんツバつけときゃ治る。それよか龍田がやべえんだよ』

 

刈谷提督も十分やべーだろ。マジで撃たれてんじゃねえか。このままだと何か、自分が能代に恨まれそうだから手短に済ませるか。

玲司は現状を報告。エンガノ岬沖は現在、王手の状態。退路の確保を阿賀野に任せ、こちらの艦隊が猛攻を仕掛けていると言う。大和や長門もいる。もう終わるだろう。

 

『そうかよ、ご苦労さん。俺は龍田に安否を知らせてから病院行ってソッコー戻って出迎える準備をする』

 

入院は…絶対入院してくださいって言っても「ああ?」って威圧して終わりだろうな…この人も艦娘いないと死ぬ病気みたいな人だし。こちらも終わりの報告を待ちたい。

 

「了解しました。そちらへの終わった報告は…?」

 

『こっちで待機させる。おい、痛ぇだろうが。引っ張んじゃねえ』

『早く行きますよ!!!』

 

『チッ、うっせーな…そう言うわけだ、頼んだぜ』

 

「…了解しました…」

 

慌ただしい人だなぁ…まったく。けどまあ、無事で何よりだったよ。鳥海も横でホッとしていた。よし、これで瑞鶴達にまた集中できる。玲司はこうして再びヘッドホンをつけて無線に集中したのだった。

 

………

 

「あっ、提督!?提督がここに来られたと言うことは…」

 

瑞鶴達におにぎりを作ろう。そう思って一度睡眠をとり、食堂へやって来ると間宮が驚いたような表情。その後すぐにパァッと顔を綻ばせた。

 

「ああ、全部終わった。瑞鶴達はもうすぐ帰って来るよ」

 

「……!そうですか!では、おにぎりの準備をしないといけませんね!朝食は私と茉莉ちゃんにお任せください!」

 

「悪いな、頼むよ」

 

「しれえ!しれえです!みんな、しれえが食堂にいます!」

 

たらこの匂いにつられてきたのか、雪風が食堂にやってきた。その顔はとても嬉しそうであった。その言葉に廊下からわぁーっと声が聞こえてくる。

 

「司令官…おはよう、ございます…」

 

そう言って玲司の足に抱き着く霰。

 

「おはよう霰、たらこ食べるか?」

「食べ…ます♪」

 

「雪風も食べたいです!雪風はうめぼしがいいです!」

「ははは、はいはい」

 

帰還組より早くおにぎりが食べられるのは特権だろう。しかし、間宮に「朝ごはんが食べられなくなりますよ!」と怒られていた。

 

「もう!提督もいけませんよ!これは瑞鶴さん達に食べてもらうためでしょう!?」

「うっ、す、すまん…」

 

「…ごめんな、さい」

「さあ、もうすぐ出来上がりますからちゃーんと席についてくださいね」

 

はい、と玲司に手を振って去っていく霰。雪風だけはニコニコしながら玲司に問いかける。

 

「しれえがおにぎりを作っていると言うことは、瑞鶴さん達、帰って来られるんですね!?」

 

「そうだよ雪風。やっと終わった。今回の作戦は…大成功だ」

 

「みんなが無事だと雪風も嬉しいです!!しれえ!今日のことを日記に書きます!また読んでくださいね!」

 

「ああ、またお返事書くからな」

 

えへー!と笑って雪風も席へ着いた。もう全員が生きて帰ってくることが当たり前な鎮守府なのだ。それでもなお、全員の生還を喜ぶと言うのはいいことだ。雪風が「皆さんが帰って来るそうです!」と食堂で報告をすると、みんなが「よっしゃー!」だの「やったー!」だのと大騒ぎ。賑やかな朝食となっていた。

 

玲司はお疲れ様の思いをしっかり込めて、おにぎりを握る。今日は瑞鶴の好きな鮭。翔鶴の好きなタラコ。大和が好きな梅干し…レパートリーも豊富だな。いっぱい作ってあげよう。大皿一杯にぎっしりと乗ったおにぎり。きっと瑞鶴達も喜ぶだろう。

 

(早く帰っておいで)

 

玲司はその思いでまた大皿を取り出して次々とおにぎりを握っていった。

 

………

 

おにぎりを握ってしばし。間宮と鹿島、雪風と共に母港で彼女たちの帰りを待つ。暑いな。もう少ししたらこの海風も涼しくなるだろう。うーん、その前に中庭でバーベキューでも…いや、俺が熱中症で死ぬ。もっと涼しくなったら考えるか…。

 

そんなのんきなことを考えていた。まだまだこの子達といろいろとやりたいことは多いからな。いろんな企画を思いついて、いっぱい思い出を作ろう。写真なんかも増やしていきたいもんだ。そう考える。

 

「提督さん!見えました!瑞鶴さん達、戻って来られましたよ!」

 

「そうか」

 

彼女たちの姿を見てようやく終わったな…と長く息を吐いた。雪風がおーい!と手を振る。遅れて北上もやってきた。

 

「やーやー玲司。終わったね」

 

「ああ。長かったぜ…これでしばらくはゆっくりできる」

 

「…そうだね。仲間全員でこんな大きな作戦を完遂して…誰一人沈まないなんてねぇ…」

 

「それが当たり前なんだけどなぁ」

 

玲司がそうは言うが、まだまだ轟沈する艦娘が海軍全部を見渡してもゼロとはいかないのだ。今後は刈谷提督、堀内提督が指揮のもとでは轟沈させると厳しいペナルティがあると言う。どういう状況になるかはわからないが、これで少しずつ減っていってくれればよいのだが。

 

北上や雪風のような生き残った艦娘さえも大きな傷を負ってしまう轟沈。そんな轟沈を幾度も見せられるのは地獄以外の何物でもない。玲司ももう見たくはない。こうして幸せに笑って生活できるのならそれに越したことはない。今回も大規模作戦。玲司でさえ初参戦だったわけだが、見事に轟沈はなし。当然のことだが。

 

さあ、みんなを出迎えようか。

 

母港に帰って来た瑞鶴達。龍驤や木曾も久しぶりに奥義を放った、と言うことで満足げである。しかし、瑞鶴や大和はどこかそうではない。どうしたのだろうか…。そうとは露知らず、大淀が玲司に向けて敬礼をし、笑顔で報告を始めた。

 

「提督、ただいま戻りました!エンガノ岬沖部隊、第一、第二艦隊共に大きな損傷はありません。そして、深海鶴棲姫を撃沈…その他の姫級、随伴艦も壊滅!エンガノ岬沖海戦を完遂いたしました!」

 

その言葉に出撃していた艦娘は一同、玲司に敬礼をする。玲司も見事な敬礼で返す。

 

「おかえり、それから、お疲れ様。エンガノ岬沖の深海棲艦の撃滅…これにより、捷一号作戦は俺たちの完全勝利だ。目的は完遂された。これで…長かった作戦は終わりだ」

 

「にゃはははは!!やぁっと終わったなぁ!ここんとこピリピリ気ぃ張りすぎてほんましんどかったわー!」

 

「そうか?姉ちゃんあんま変わってなかったじゃん。酒カパカパ飲んで間宮達に迷惑かけてさ…」

 

「んなわけあるか!うちかてちゃんと気ぃ張ってたっちゅーねん!!」

 

「そう言うことにしとくよ…大淀、お疲れ様。入念に作戦練っておいてよかったな!」

 

「はい…!提督も…長きに渡り…お疲れ様でした!」

 

「ああ。みんなもお疲れ様。さあ、風呂に入ってもよし、おにぎりを食ってもよし。好きなようにしてくれな。そうだな、ドックに行ってチェックを受けて、その後に風呂入って飯のほうがいいかもな!」

 

「そうですね。さあ、皆さん行きましょうか」

 

「……」

 

「大和?どうしたんだ大和?」

 

「うっ…ううう…」

 

あ、やばい。玲司がすぐさま宥めようとした瞬間に。

 

「びええええええええええ!!!!」

 

「大和ぉ!?」

 

「な、何や!?どないしたんな!?」

 

「びゃあああああ!!!!よがっだよぉおお!!み゛ん゛な゛ぶじでよがっだよぉおお!!!!」

 

「お、おい大和!?」

 

「うわああああ!!!」

 

「瑞鶴!?瑞鶴どうしたの!?」

 

大和の大泣きがうつったのか、瑞鶴まで声を上げて泣き出した。大淀はなぜか玲司が泣かせたと思ってなぜか玲司を叱責しているし、龍驤は慌てるだけで何もできていないし、間宮や鹿島が宥めている状態。玲司は呆然。え?これ俺のせい?なんで?と思考停止している。

 

「おねーたん!おねーたあああん!!!」

 

「はいはい、大丈夫ですよ!この大淀おねえたんがついていますからね…ね、提督…」

 

ギロリと睨む大淀に俺じゃねえよと反論する。大和はどうやらエンガノ岬沖での戦いの緊張がここにきて一気に切れて霞のように幼児退行してしまったらしい。横須賀最強の戦艦。大規模作戦。最終決戦。いろんなプレッシャーが大和にはあったようだ。

 

大和は武蔵のように鋼のメンタルは持ち合わせていない。豆腐くらいのメンタルですぐ泣くし、武蔵に私の方が姉のようだな、と言われて頬を膨らませてプルプルしたあと、泣き出したくらいだ。お姉ちゃんとしての意地。先に妹が改二になったのに私は…と言う状況もあった。とにかくここ最近は本当にいろいろあって大和は思った以上に張りつめていたようだ。

 

そんな中に立たされていても彼女は今まで決して泣き言も言わなかったし辛いとも言わなかった。気丈に振る舞っていたが限界だったのだろう。ぷつんと大和の中で糸が切れてしまった。しかも反動が大きく、顕現したての頃のような大泣きとさらにひどくなった幼児退行。今に至る。

 

「てーとく、てーとく…あのね、やまとね…こわかったよ…でも、でもね、やまとね、がんばったよ…ぐすっぐすっ…」

 

(霞みたいになってんじゃねえか…)

 

「大和、改二になったんだな。そうか、いっぱい頑張ったんだなぁ。偉いぞ、怖かっただろうによく戦ってくれたよ。うん、えらいえらい」

 

「うっううう…うえええええん!!!」

 

「大淀!大淀!!大和を風呂に連れて行ってあげてくれ!!!」

 

「クスクス、了解いたしました」

 

大淀に連れられ、大泣きをしながら大和は連れられていった。女の子の扱いって難しいなぁ…とため息をついた。

 

「あーあー、霞みたいになってもうて…お疲れさんやね…」

「あんがと、姉ちゃん…姉ちゃんも風呂行ってゆっくりしなよ」

 

「うーん、うちは最後でええわ。格差社会を見せつけられるからな…」

 

「はい?」

 

「女子にはな!格差社会っちゅーんがあるねん!ええか!聞き出そうとしたらしばくからな!」

 

「落ち着けって…龍驤姉、風呂いくぞ」

 

「放せ木曾!うちは行くっちゅーてないやろ!」

 

「はいはい、兄さんだって疲れてるんだからさっさと行くよー」

 

「お兄ちゃん、あとでいーっぱいなでなでしてね!」

 

「ああ島風。川内、木曾、任せた」

 

ズルズルと引きずられて龍驤は去っていく。それに続いて皐月たちもついて行った。残ったのは旗艦である瑞鶴と翔鶴だけ。

 

「瑞鶴、お疲れ様。瑞鶴も疲れたろ?お風呂に入っておいで。瑞鶴の好きな鮭のおにぎりもあるからな!翔鶴の好きなタラコも入れておいたから」

 

「ふふ、ありがとうございます。玲司さん」

 

「……提督さん」

 

「ん?どうした?」

 

「私…私…やったよ…!」

 

「ああ…よくやったよ」

 

それだけでいろいろと察した。瑞鶴にとっては因縁の地だ。そこを突破したこと。そこにいた深海棲艦。「鶴」の名を名乗った深海棲艦。間違いなく、瑞鶴を筆頭とした無念、怒りなどを集めたのであろう風貌。瑞鶴にとってはトラウマにもなりかねない場所だった。相手だった。それを乗り越えたのだ。

 

「翔鶴姉や提督さん…それから…加賀さんの…おか、げ…」

 

加賀。この横須賀で安久野の手で沈められてしまった艦娘。西方海域で立ちはだかった彼女。深海棲艦になってしまった彼女を瑞鶴の手で沈めた際に、壊れた弓に変わって託された弓を手に戦ったのだ。戦いの時に彼女に何かアドバイスでももらったのだろうか?いや、そんなものではないだろう。もっと大事なものを託されたのだろう。

 

「……そうか」

 

「…瑞鶴。本当に、頑張ったわね…」

 

「うん…うん!!!」

 

「よくやった」

 

その言葉だけで十分だ。瑞鶴はそれだけを聞いて再びボロボロと涙を流し、泣いた。翔鶴に「さあ、瑞鶴」と促され、歩き出そうとした。

 

「提督さん………翔鶴姉………愛してる…!」

 

「おう」

 

「瑞鶴…ええ、私もよ…!」

 

その後はもう言葉になっていなかった。ワンワン泣いて風呂へと促されていったのだった。

 

/佐世保鎮守府

 

刈谷提督は母港にて龍田達の帰りを待つ。なぜか海防艦がわらわらいるし、海防艦「日振」を肩車し、双眼鏡を持たせている。これで遠い所のあいつらも見渡せるとのことだ。ちなみに、大東があたいがやる!と言ったのだが、お前が乗るとあぶねえし何されるかわからんとのことで却下された。佐渡も同様。誰が肩車をやるか、で大東、佐渡を抜いた海防艦で能代がジャッジをする中、じゃんけんで決められた。ちなみに、後だしなどの不正はあるわけがなかった。

 

「提督…そのぉ…肩、痛くないんですか?」

 

日振がおそるおそる聞いてくる。刈谷提督は肩を大府に撃たれている。今、彼は肩に包帯を巻かれている状態だ。当然、能代が抗議する。

 

「これくらい蚊に刺されたようなもんだ。いちいち入院してられねえんだよ」

 

すでに治り始めているのだ。医者でさえ首を傾げるほど治癒が進んでいた。縫う必要もないが、大きなかさぶたと肉の盛り上がりがあったので消毒をして抗生物質の錠剤を渡して終わり。その程度だ。痛くないと言えばうそになるが、その程度で入院したりするのはばかげている。何より、龍田がどうなるかわからない。龍田の顔が見たい。ただそれだけだ。横には愛宕がついているが。

 

「あっ、提督!見えました!視認、ヨシ!」

 

「よしご苦労日振。今日はお前の好きな晩飯を作ってもらうよう伊良湖に言っておく」

 

「は、はい!」

 

しばらくして刈谷提督も視認できるほどにまで近づいてきた艦娘達。龍田は刈谷提督の姿を見るなりその場でうずくまって泣いていたように見える。長門や阿賀野が立たせて動かしている。ったく、どんだけ俺に依存してんだあいつ、と思った。

 

実際には共依存である。お互いに依存しきってしまっている。龍田や葛城、愛宕がいなくなったら?まあ拳銃で頭ブチ抜いて死ぬかな。球磨がまた服を深海棲艦の返り血まみれにしている。あれ臭いんだよな。ちび達に悪影響を及ぼすから…と言っても、あれが球磨の戦闘スタイルだし止められるわけがない。なんで多摩みてえに遠距離から仕留める方法にならなかったんだ。熊かよ。

 

長門を先頭に辿り着き、敬礼をしようと思ったのだが…龍田が真っ先に提督に抱き着いていた。

 

「提督…提督…!!!んんっ、んむっ…ふぁっ…」

 

なんとまあ海防艦全員が見ている前で濃厚なキスをすること。対馬は「うらやましい…」と言い日振や平戸や鵜来は顔を真っ赤にしてはわわわとなってしまっている。

 

「おいたつ、んむっ、おい龍田。それは後はんん!おい窒息死させる気か?」

 

「提督…提督…」

 

(だめだ笑うなこらえろ)

(これ笑うなってほうが無理にゃ)

 

相変わらず球磨と多摩は笑いをこらえているが、龍田を抱きとめたまま刈谷提督は球磨と多摩の足元に拳銃を一発ずつ見舞った。

 

「う゛ぉぉぉぉぉ!?実弾じゃねえか!?」

「暴力反対!パワハラで済ませられにゃい殺人未遂だにゃ!!」

 

「うるせえ。長門、よくやった。テメエが大和と協力して致命傷を負わせたと大淀から聞いた」

 

「提督。私は瑞鶴の補佐をしたに過ぎん。あれを倒したのは間違いなく横須賀の艦隊のなせる業だ」

 

「そこにお前もしっかり入ってんだよ。これでレイテは終わりだ。深海棲艦は壊滅。チェックメイト」

 

「…そうか」

 

「それから、おっさんの仇は社会的にまず死んだ」

 

「………!!!そう、か…」

 

長門はかつての提督の仇の事を知り、大きく喜ぶわけでもなく、苦笑したかのように笑ってギュッと手を握りしめた。あの男を許すわけにはいかない。この手で…捻りつぶしてやりたい思いもあったがそれは叶わない。長門は彼ならば必ずや成し遂げてくれると信じていた。そして、本当に成し遂げた。それだけで十分だ。

 

「しばらくは全員、哨戒を除いては休みだ。ゆっくり休め。俺も休む」

 

「提督…」

 

「ああ。いくぞ龍田」

 

「ちょっと提督!?そんな状態で龍田さんと……あ、あぅ…あぅ…」

 

「しねえよ。語らうだけだ。テメエ、俺らの事覗いてんのかよ?」

 

「しません!そんな不潔な!!ああもう!早く行ってください!」

 

「もしかして多摩…あれって私も混ざりたいなぁ…クマ?」

 

「にゃにゃ、いかがわしい本みたいだにゃ。能代は卑しい女ずい」

 

「なんですって?」

 

「わー逃げるが勝ちクマー!!!」

 

「~~~~~あいつらーーーーー!!!!!」

 

能代の怒りの叫びが母港に響き渡った。

 

………

 

「ぷはっ…うう…提督…提督…克巳…さん…」

 

「心配すんな。命に別状はねえ」

 

提督の寝室。しっかりと鍵をかけた途端に龍田に抱き着かれ、龍田が蕩ける顔になるまでキスを繰り返すこと十数分。刈谷提督はと言えば酸欠でちょっと頭がふらついている。ここでなら、と龍田は提督の名を呼ぶ。愛する…最愛の人の名前を。龍田、葛城、愛宕だけが呼ぶことを許されたこと。うわ言のように龍田は名を呼ぶ。それだけ彼女の心には彼がいる。彼がいなければ生きていけなくなってしまっているから。

 

「悪かったよ」

 

「………無事で、よかった…」

 

提督の温もり、匂い。心臓の音。それで安心できた。戻ってくるまで気が気でなかった。大丈夫だと言っても、アイツのせいで死に瀕しているんじゃないかとか、血塗れなんじゃないか、とか悪いことしか考えが浮かばなかった。ようやく安心できた。アイツのせいで巻かれた包帯が痛々しい。それでも…それでも生きてくれている。それ以外は何ともない…ああ、よかった…。

 

「龍田、俺はもう寝てえ。オラ、さっさとシャワー浴びんぞ。そんで寝るぞ。ドックに行く必要はあるか?」

 

「ううん…へいき…わたしも、ねむいわぁ…」

 

「じゃあ行くぞ」

 

「ええ…」

 

こうして龍田は刈谷提督にしっかりと全身を洗ってもらい、提督にしっかり抱き着いて眠った。提督も安心したのか龍田と共に1日中寝ていた。

 

………

 

『いやぁ、見事な大捕り物な劇だったでしょう?ナッハッハッハ!』

 

「ああ。あんな刑事ものドラマは今後二度と見れねえな」

 

『いやーっはっはっは!お楽しみいただけてよかったですよぉ!』

 

3日後、大蔵警部から電話がかかってきた。どうも大蔵警部は事を大事にしすぎたようで停職で自宅謹慎1ヶ月を食らったらしい。そして、警視総監からは大金…ではなく、一ヶ月は悠にお高い旅館に泊まっても問題がないくらいの旅行券をもらい、今はどこかの旅館に泊まっているそうだ。簡単な話、大府と絡みがある連中からの報復を恐れてのことだ。同時に、青坂警部補は城崎に行っているらしい。って言うか俺にバラして洩れたらどうすんだよ、と思ったのだが。大蔵警部はあたしゃ今別府におりますでねと言い、盛大に場所をバラシてしまっている。

 

「警部、酒に困ってんじゃないすか?明日あたり持っていってやりますよ」

 

『いやぁこれは助かりますなぁ!肝臓が仕事放棄するまで飲みますかねぇ!』

 

「身体は大事にしろよ」

 

『ハハハ!しかしまあ、その後もあたしが引き受けたかったんですがねぇ、停職喰らっちゃったんじゃあ仕方ありません。まああたしと仲のいい検察の方がしっかりと取り調べしておるようなので問題はありませんがね』

 

「知らぬ存ぜぬで通す気か?」

 

『自分は祖父に嵌められたと言っているようです。ですが、彼も躍起になって動いているのはこちらも察知していましたからねぇ。踏み込みの際にはボストンバッグに札束をしこたま詰めて旅行だなどと仰られておりましたよ』

 

「高跳びする気満々じゃねえか。けど無理な話だぜ。どこへ逃げても、今度は深海棲艦の脅威があるからな。まだまだ世界は混乱してんだ。東南アジアにでも逃げる気か?渡航危険レベルは4だぜ」

 

船で海外へ渡ったとしても、その先にも深海棲艦の攻撃があるかもしれないし、世界情勢はまだ混乱を来している。まともに生活ができる状況ではない国が多いが、雲隠れくらいならばできるのだろうか?ちなみに今回の件で豊田総理大臣あてに周辺各国からは感謝の電話があったそうだ。

 

『安全に生活するなら日本。瀬戸内海の島にでも逃げる気だったんですかねぇ?』

 

「………なるほどな」

 

『おやぁ?何かひらめいたのですか?』

 

「いや、何もねえ。お互いに仇が取れたな」

 

『ええ…長かったですよ。これでようやく、親っさんの墓前で泣くことができます』

 

「ああ、それで別府か」

 

『ええ。署長からは大目玉を食らいましたが…警視総監からはご褒美を頂きましてねぇ。そして、親っさんの墓参りです』

 

「そうかよ。じゃあのんびりしていってくれ。九州はいいとこだぜ」

 

『ハハハハ!堪能させていただくとしましょうかねぇ!』

 

「ああ。それじゃ、またな」

 

お互いに仇を取った。いや、俺はまだ終わってねえかな。あいつはそう簡単にくたばりゃしねえからな。

 

世は年の暮に迫ろうかと言う霜月の終わりごろ。大府元提督の父、大府康介は裁判を待たずして、拘置所内で舌を噛み切り、自殺した。

 

『この世と言う地獄に思い残すことなし。残すとすらば怨みのみ』

 

大変な怨嗟を残しての自害となった。これに大蔵警部は大いに怒り狂った。罪を償わず、己の非を認めることなく、全ては祖父、そして世間であると言う恨み言を残した矢先のことだったと言う。しかし、大府康介による大府コンツェルン巨額横領、贈収賄事件とそれに絡む殺人事件など多数の事件は、被疑者、そして被告のおらぬまま粛々と手続きを終え、世間からは消えて行った。

 

………

 

レイテの激戦が終わり、3ヶ月。大府康介が逮捕されたことにより、息子の和雄はどうなっているのかと言うマスコミからの好奇心、世間もこれに加わり、そんな巨悪の社長の息子はどうなっているのかと言う関心もあり、連日取材やインタビューとは名ばかりのバッシングが行われていた。

 

おかげで論功行賞も満足に行えない状態に陥っている。本来ならば、玲司をはじめとした若手提督に甲殊勲賞と言う名誉ある勲章を堀内提督も古井司令長官も贈りたいと常々思っているのだがそうもゆかず。そして、その大府和雄はと言うと忽然と姿を消した、とだけ古井司令長官がマスコミに発表を行ったことで、さらにバッシングが加速。その秘匿体質を何とかしないといけないなどとうるさいことになったが、それでいい。

 

大府和雄は生きているが、それは古井司令長官、刈谷提督、堀内提督と虎瀬提督しか知らない最重要機密事項となった。もう一人、処刑人と呼ばれる人物がそれを知っている。結局、大府康介が自殺したことにより、海軍からは目が逸れて行った。

 

「もー、毎日毎日大府大府って嫌になっちゃうね、翔鶴姉」

 

「ええ、そうねぇ…もうすぐクリスマスだし、もっと明るい話題をしてほしいものね」

 

「そういう翔鶴姉はクリスマス、どーすんの?」

 

「え?それはもちろんみんなとクリスマスパーティでしょう?」

 

「かーっ!なってない!」

 

「え?」

 

「クリスマスイブ!!!聖なる夜!1年に1回の愛し合う者同士の一大イベントじゃん!!!」

 

「ち、違うわよ瑞鶴!?そんな日じゃないでしょう!?クリスマスを何だと思っているの!?」

 

瑞鶴にとってはそう言う日と決まっているらしいが、宗教上の話なのでそれは全く関係ないのだ。当たり前のように玲司はクリスマスパーティをみんなとすると言っているし、まあ…関係ない私達にはそう言うお祭り騒ぎをする日…なのでしょうね…、と翔鶴はみかんを食べていた。

 

「って言うか、レイテお疲れ様パーティーも大いに盛り上がったのに、またパーティーするわけ?」

 

「みたいねぇ…駆逐艦の子やゴーヤちゃんたちはパーティーの飾りを作っているし、商店街でモミの木をもらってきているし…」

 

「はー…なんか今年もこれ見ると終わりかーって感じ。今年もなんか早かったなぁ…」

 

「そうねぇ…大きな戦いも多かったものね…」

 

「でもさ、うちも賑やかになったよねぇ、あ、翔鶴姉、みかんちょうだい?」

 

「はい。そうね。賑やかでいいことじゃない」

 

「うんうん。空母もいっぱい増えたし、女王が生まれたり大和さんたちが改二になって最強をほしいままにしてたり。んで、ここ3か月のんびりしっぱなしだけど大丈夫なのかなぁ」

 

「いいじゃない。平和なのはいいことよ」

 

レイテで壊滅的被害を被ったせいか、深海棲艦の大規模な侵攻は鳴りを潜めている。それにあやかってレイテお疲れ様パーティーは盛大にやったし、今も商店街へ顔を出して買い物やら何やらを久しぶりにのんびり楽しんでいる艦娘達。何でも今度、皐月、文月、島風の「第二十二駆逐探検隊」と鹿島で商店街のお店を紹介するテレビ番組に出演することになった。入念な打ち合わせをしたのだが、このテレビ制作会社は友好的であり、艦娘のよさをもっと世間に広めるべきだとまで言って来たので受けた。文月や皐月はおおはしゃぎである。

 

多少の不安はあるが…まあ大丈夫だろう。

 

「お茶の間で見てる人たちが文月ちゃんに癒されたらいいのよ」

 

「ふふふ、そうね♪かわいいものねぇ」

 

「うんうん!!でもさー、松子さんやばいんじゃない?」

 

「あっ、そ、そうね…いいえ、テレビに出るならきっと大丈夫よ!」

 

「いやー、あの松子さんだよ?テレビで放送できないようなことしない…よね?」

 

「きっと…大丈夫よ…」

 

不安しかない。

 

「ところでさ、翔鶴姉さっきからみかん食べすぎじゃない?翔鶴姉、そんなにみかん好きだっけ?」

 

「え?そうねぇ…特に、なんだけど…何かしら、何かこう、すっぱいものが食べたいと言うか…」

 

「翔鶴姉、それ大丈夫なの?体は何もないの?」

 

「ええ。明石さんが言うには問題がないそうよ?秋に入ってから生理も止まっているし…何かあるのかしらね?」

 

「うーん、それマジで大丈夫なの?それって毎月起きないとダメなやつだよね?」

 

「ま、まあおかしいと思ったらすぐに明石さんに知らせるわね」

 

「そうしてね。ってまたみかん食べてる!シェフィールドさんに怒られるよ!」

 

「あ、ああ!そうね!!!」

 

「よーし、瑞鶴も飾り作るの手伝って来るかー!」

 

こうして姉妹はのんびりと迫りくる年の暮を過ごしていた。そして、この翔鶴の状況で玲司を始め、鎮守府がまた大騒ぎになるのは別の機会にでも。




レイテ沖海戦についてはこれにて終了です。次回からはまたのほほんとしたお話になっていきます。

次回は久しぶりに雪風の日記帳を書こうかと思います。

ん?何か様子がおかしい?誰かおかしい艦娘、います?

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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