提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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今回からしばらくほんわか回となります

まずは軽巡洋艦、初めてスイーツを食べるをお楽しみください


第二十八話

慌てて翔鶴達の部屋から逃げてきた玲司。心臓をバクバク言わせて右手の甲を見つめる。初めてのことだった。小さい頃、いたずらに頬にされたことはあったが、当たり前だが意識などしなかった。学生時代は勉強に明け暮れ、軍学校は男だらけ。年頃の女子とはほぼ遊んだりもせず。

ショートランドにいた時も駆逐艦がしがみついてきたり、おんぶなどをしたりはあれどキスまではなかった。

 

(テートクー!ワタシとチューするネー!)

(お姉様、それ以上はぶっ飛ばしますよ?)

 

戦艦金剛に迫られた時は妹の霧島が止めてくれたっけか。あの時も霧島に笑われた。女性とのそうした経験がないと言ったときは。それを盗み聞きしていた金剛に迫られたわけだが。

翔鶴はお世辞抜きにとても美人だ。しかし、金剛のようにグイグイ来る女性でもないと思っていたが…まさかの不意打ちに頭が回らない。柔らかな唇の感触が離れない。右手をポケットに入れて歩くも気になって仕方ない。左手でぐしゃぐしゃと頭を掻く。そんなもので気が紛れるわけがないのだが。

 

ボーッと歩いていると名取の部屋に着いた。話していれば紛れるだろう。そう思って左手でドアをノックする。意識しているのが丸わかりである。

 

「わあ、司令官さん。おはようございます。あ、もうお昼ですね。えへへ、こんにちは」

「あら、いらっしゃい。あなたもマメね」

「あー、提督ぅ。いらっしゃいませー!」

 

誰かとドアを開けた途端にパァッと名取の顔が綻んだ。五十鈴や阿武隈も笑顔で招き入れてくれる。

 

「名取、おはよう。よく寝れたか?」

「はいっ!五十鈴姉さんや阿武隈ちゃん。神通さんもいてくれたので怖くなかったです!」

 

「その割にはしっかり五十鈴と阿武隈の手を握って寝てたわね」

「ふぇっ、五十鈴姉さん、言わないでよぉ…」

 

「あははっ。ほんとにぎゅーってしてたもんねぇ。名取お姉ちゃんかわいかったよ♪」

「阿武隈ちゃんまで…ふぇえ…」

 

部屋の隅で座っていた神通も3人のやりとりにクスクス笑う。翔鶴ほど気落ちはしていないようだった。けれど、そこで安心してしまうのはどうだろうか…と思った。

 

「司令官。あの男は、もう死んだのよね?大淀が朝来て伝えていったわ」

「ああ、死んだよ…もうここに現れることはない」

 

「そう…死んで喜ぶなんて不謹慎なんだろうけど…これで名取もあいつから解放されるわけね」

「五十鈴姉さん…。うん…」

 

「由良お姉ちゃんや長良お姉ちゃん…鬼怒お姉ちゃんはいなくなっちゃったけど…」

「そうだね…ごめんね…阿武隈ちゃん。もっと早く動いていれば…」

 

「私も馬鹿だったわ。逃げるだけ逃げて。名取に全部任せて。妹と全部が憎いからって会話もしないで…。もっと協力してあげられることがあったと思うのに…」

「ううん。私が思いついた危ないことだったんだもん。五十鈴姉さんや阿武隈ちゃんを巻き込みたくなかった…」

 

「北上は巻き込んでおいて?」

「………」

 

「ごめん、いたずらが過ぎたわ。五十鈴達が籠もっていたんだから、相談できる相手も限られてくるものね…。でも、次は!次は私も力になるわ。だから今度は…私達にも打ち明けてよ…もう妹や仲間がいなくなるなんて、ごめんだから…。お願いよ」

「うん、うん…!阿武隈ちゃんも…」

 

「うん!阿武隈だって…お姉ちゃん達ともう離れたくないもん!あたしもがんばる!長良型の力を見せてあげるんだから!」

 

3人で肩を寄せ合い一致団結する名取達。沈んでしまった姉妹。艦娘だけに別の姉や妹と会うこともある。それでもこうして家族のような絆を持っているのは3人だけだ。これからは寄り添って頑張っていけばいい。大事な妹が。姉が活路を切り開いてくれたのだから。

 

「私も。微力ながらご協力致します。皆でこの鎮守府を良くしていきましょう。提督と共に」

「神通ちゃん、ありがとう。一緒にがんばろうね」

 

名取の笑顔に神通も微笑む。常に一歩引いて見守る神通も、この鎮守府を守るため。提督と共に歩むために一歩を踏み出したようだ。名取が神通に抱きつく。少し戸惑った表情を見せたが柔らかな表情で抱きしめ返した。

 

「名取さん。名取さんが私を匿ってくれなければ。私はこうして楽しい毎日を送ることはありませんでした。本当に感謝しています。本当に…ありがとうございます…」

「神通さん…私…私…」

 

「ご恩は一生忘れません。共に頑張りましょう」

「うん…!一緒に頑張ろうね!」

 

名取と神通が固く握手する。共に今ある幸せを守るため。そして人々を。国を守るために戦う。明日をギリギリで生きるために戦うなどもうしなくていい。匿われていた神通も、少しずつ減っていく鎮守府の気配に憂いていた。今の提督ならば全力で戦える。神通も、少し自信を取り戻した五十鈴も。やる気に満ちていた。

 

「名取、お前のおかげだ。おかげで俺はここに来れた。そしてみんなに会えた。ありがとな…名取。本当にがんばったよ」

 

名取の頭を撫でる。少し緊張していたが力を抜いてされるがままだ。その顔は嬉しそうだった。その様子を五十鈴も阿武隈も神通も微笑んで見ていた。

 

ぐうぅ~…

 

突然何かが鳴った。阿武隈が顔を赤くしてお腹を押さえていた。それは彼女の腹の虫の音だ。

 

「阿武隈…あんたね…」

「ご、ごめんなさーい…お昼食べてなくてぇ…」

 

「まあ、たしかに私もお腹が空いたわね。何だかんだと神通ともお話してたらお昼を食べ損ねたわね」

「あはは…言われてみればそうだったね」

 

「そっか。じゃあ、せっかくだし軽巡のみんなで外へ食べにいくか?まだ買い物に外出たこともないだろ?」

「あら、いいわね!五十鈴はすぐ出られるわよ?」

 

「わあ、楽しみー!阿武隈も準備オーケーです!」

「おし、じゃあ駐車場で待っててくれ。大淀も呼んでくる」

 

「わかりました。では、参りましょう」

 

そうして玲司は大淀を呼びに大淀の部屋へ。名取たちは外へと向かった。

 

……

 

大淀の部屋のドアをノックするとすぐに出てきた。来訪者に驚いてぴゃっと軽く悲鳴をあげたあと、ドスンドタドタと大きな音を立てて何かをしている。少しだけドアを開けて顔を覗かせる。

 

「て、提督。いかがなされましたか?」

「いや、暇なら商店街に買い物と軽く何か食べに行かないかと思ってな。えっと、いそがし「行きます。絶対行きます。すぐ準備します。お待ちください」

 

そう言ってドアを閉めた後は静かなものだった。5分もしないうちに大淀が部屋から出てきた。

 

「お待たせしました。それではご一緒させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」

「いや、そんなかしこまらなくていいんだぞ?」

 

「いいえ、覚悟はできております。商店の皆様には多大なご迷惑をおかけしたのです。この大淀、土下座でも何でもする準備はできております!」

 

ふんす、と言う鼻息を荒くして何か息巻いている。玲司の話は商店街に行くと言う話しか聞いておらず、迷惑をかけたことを詫びに行くものだと思い込んでいたらしい。本当のことを話すと顔を赤くして俯いた。

 

「な、なんと…私は何と言う勘違いを…」

「話はちゃんと聞こうぜ…」

 

そんなやり取りをしながら駐車場へと向かった。どうも早とちりで人の話はあまり聞かずに突っ走るところはある。しかし、書類処理は正確。そして作戦の立案や指揮も早い非常に優秀な艦娘へと育っていき、鳥海と共に横須賀を支える頭脳になるわけだが。

 

/駐車場

 

「あら、早かったわね…って大淀、何顔を赤くしてるの?」

「な、何でもないの…!何でも…」

 

「???」

「ははは、大淀の早とちりさ。さ、乗った乗った」

 

乗車を促し、発車する。話を止めようと騒ぐ大淀を置いて、玲司が事の成り行きを話す。大笑いする五十鈴と阿武隈。悲鳴をあげる大淀。実は名取もその気だったらしい。さらに五十鈴の笑い声のトーンが上がる。五十鈴の笑いの沸点は低いようだ。こんな騒がしい日々もいい。そう思いながら海を見つめる神通。車内はとても賑やかだった。

 

商店街に着き、車から降りずに躊躇う大淀。大淀はよく安久野に連れてこられ、商店街の人々に命令で脅しをかけさせられていた。それ故に何を言われるのか。何をされるのか怖くてたまらなかった。守るべきはずの人々に砲を向ける行為。それは艦娘にとって決してやってはいけない行為のように思われた。そんな行為を兵器で強要させていた安久野。大淀が不安な面持ちで車を降りる。

 

「おう、玲ちゃん、今日もまたかわいい子連れてんなぁ!」

「源さん、こんちわっす!羨ましいっしょ?」

 

「おうおう、言うじゃねえか!そりゃあもう羨ましいってんだ!お、そこの眼鏡の子…」

 

ビクッと反応する大淀。やはり顔を覚えられていたようだ。顔を伏せ、目が泳ぐ。いつもの店の人たちが集まってくる。小声で何かを耳打ちしているようだ。その言葉はきっと、自分に向けての恨みか何かを言っているのだろうと大淀は錯覚した。

 

やがて、最初に玲司に声をかけたがたいのいい男が大淀の前に立つ。目を閉じて殴られる覚悟を決める。

 

「目ぇ開けな、お嬢ちゃん。別に取って食いやしねえよ。あんた、あいつにいつも命令されて俺たちに大砲みたいなの向けさせられてたなぁ」

「は、はい…申し訳ございませんでした!命令とは言え、皆さまにあのような危険なことを!どのようなことをされても仕方ありません…。罰は受けます!誠に申し訳ございませんでした!」

 

深く、何度も頭を下げる大淀。挙句の果てには膝をついて土下座を始めようとしたので慌てて八百屋の女将が止めた。肉屋の女将も必死で止めて何とか立たせる。

 

「ちゃんと話を聞きなさい!あたし達は別にあんたをどうしようとかそんなのは考えてないよ。それとも、あんたが進んであたし達を脅してたのかい?」

「そ、そのようなことはございません!私は…私は…あのような、あのようなことを…人に向けて…なんて…こと…」

 

泣き崩れる大淀。肉屋の女将が肩をぽんと叩く。

 

「そうだろうさ。あんた毎回震えてたもんねぇ。泣きそうな顔してさ。だから、わかってるんだよ。あんたが気負うことはないんだよ」

「そうさ。あんたらのおかげで俺たちはこうして海辺で生活もちゃんとできるしな。好きなんだよ。この街が。海が。だから離れられないのさ。艦娘のみんなにゃ感謝してる。みんないい子達だしな。あんたもほら、泣いてないで元気だしな!」

 

女将が大淀を優しく抱きしめる。申し訳なかったこと。優しくされたこと。いろいろと混ざって涙が出た。

 

(人間様に砲を簡単に向けるとはなぁ。さすがは恐ろしい自立兵器だな)

(これでお前は完全にあそこの人間に嫌われたな。ククク、馬鹿な奴だ。馬鹿正直に砲を向けて。笑わせてもらったわ)

(商店街に行くことがあったなら後ろから襲われないようにな。ハハハハハ!!)

 

安久野の言葉にすっかり怯えていた大淀の予想とは正反対のことに大淀は泣き続けた。皆優しく、源に至ってはおろおろとするばかりで八百屋の女将に役立たずが!と罵られている始末。しばらくしてようやく泣き止んだ大淀。提督とは違う優しさに、大淀は甘えて女将にずっと抱きしめられていた。

 

「あららぁ、甘えん坊だねぇ…えっと」

「ぐすっ…おおよど…です」

「そうかい。大淀ちゃん。いつでも遊びにおいで。大淀ちゃん達みたいなかわいい子ならいつでも大歓迎さ」

 

「さ、お昼を食べに来たんでしょ?玲司ちゃん達と行っておいで。おいしいものうんと奢ってもらって元気出たら後でおいでね!おいしいリンゴ、用意しておいてあげるからさ!」

「げえ、おばちゃん用意よすぎだろそれ。俺に買わせるんだろ」

 

「なんだい!こんなかわいい子にリンゴ一つ買ってあげられない甲斐性なしかい!かーっ、情けないねえ!」

「わーったよ!買うよ!買わせていただきますー!」

「わかればよろしい!あはははは!さあ、ごめんよみんな。ゆっくり食べといで!」

 

あっはっは!と大きな声で笑いながら店に戻る女将たち。まるで人間で言うお母さんと言う存在のように大淀は思った。心温かく迎え入れてくれた女将に大きくお辞儀をして玲司に駆け寄る。

 

「よかったな。大淀。わだかまりはなくなったか?」

「…はい。よかったです」

 

「そっか。んじゃまあ、阿武隈のお腹も限界だろうからそろそろ行きますか」

「え、ええ!?あたしそんなこと言ってないんですけど!?」

 

阿武隈がぽかぽかと玲司の背中を叩きながらついていく。良い街並み。道行く人々も艦娘に対しての敵意や悪意で見る目はない。そうして大通りから外れたひっそりと建つ喫茶店に玲司達は入っていく。

 

「いい子たちだなぁ…」

「ああ。ほんとにねぇ。人が変われば艦娘も変わるもんだよ。優しいかわいい娘みたいなもんさ。いつでも大歓迎さね」

 

「おう。いやぁ、しかし大淀ちゃんだっけ?かわいかったなぁ…メガネの知的だけどかわいいとこがよぉ。あの泣きながらの笑顔見たか?最高だろ…」

「俺ぁ五十鈴ちゃんだな。あのサバサバしてそうだけどかわいらしいとことかよ。いいスタイルしてんだよなぁ。おっぱいも最高ぉ!」

 

「あんたら…」

「覚悟できてんだろうね?」

 

「「あ…」」

 

商店街に男二人の悲鳴が響き渡った。いつものことなので誰も騒がないし見もしない。

 

/喫茶店「ルーチェ」

 

ドアを開けるとカランカランと小気味のいいベルの音が響く。それと同時に低く渋い声で「いらっしゃいませ」と奥から声が聞こえた。現れたのは清潔な身なりの初老の男性。穏やかな顔をしていた。

 

「おや、玲司君ですか。今日は艦娘の皆様と?」

「ええ、お腹が空いたようなのですが」

 

「軽食ならお作りできます。その後に甘いケーキはいかがですかな?今日はイチゴのタルトとザッハトルテがおすすめでございます」

「うわあ…きれい…なんだか宝石がいっぱいみたいですね!」

「こっちのもきれいね。おいしそうだわ」

 

「では、ナポリタンでもお作りいたしましょう」

「マスター、よろしくお願いします」

 

そう言うとマスターは奥へ引っ込み、調理を進めているようだ。きょろきょろと名取と阿武隈が店を見回していた。

 

「いい雰囲気ね。テーブルや椅子も派手ではないけどおしゃれで。気に入ったわ」

「はい、とても落ち着いた雰囲気…。とても落ち着けます」

 

「買い出しついでに街をもっとよく見たくてうろうろしてたら見つけたんだ。おしゃれだろ?一目で気に入っちゃってさ。店の名前もいいよな。ルーチェってイタリアの言葉で『光』って意味だ」

「わあ、素敵ですねぇ…素敵なお店です」

 

名取が感動していた。落ち着いた雰囲気の店内。暖かな日差しがいっぱい降り注ぐ間取り。大きくもなく小さくもなく聞こえてくるピアノジャズ。落ち着いた空気を好む玲司に取っては最高の喫茶店だった。

 

「さあ、お待たせ致しました。ナポリタンをどうぞ召し上がれ」

 

皿の上にはよく玲司が作ってくれるナポリタン。ケチャップの香りが食欲をそそる。全員でいただきますと手を合わせて食べる。

 

「んっ、おいしい!何て言うかあとからすっきりした甘味がくるわ。何かしらこれ?」

「牛乳を少しいれてあります。まろやかな仕上がりになりますので」

 

「おいしい!提督のもおいしいけどあたし的にはこれもとってもオッケーです!

「うん、うまい。真似しても作れないんだよなぁ…」

 

神通も静かに食べる。味わってゆっくり食べていく。いくらでも食べられそうなくらい食が進んだ。やや少なめに作ったのは次のケーキを味わってほしいから。マスターの思惑通り、少し名取や五十鈴は足りなさそうだった。

 

「では、ケーキをお選びください。オススメはいちごのタルトとザッハトルテです」

 

目を輝かせてどっちにしようか悩む大淀たち。やがて注文は決まる。大淀、五十鈴はザッハトルテ。名取と阿武隈、神通はいちごのタルトに決定。玲司はチョコが好きなのでザッハトルテ。

 

4人揃って目を輝かせてケーキを見る。見たことのない食べ物だ。もっとも彼女たちには未知のものが多いのだが、心躍る未知のものが多い。

 

「さあ、特製レモンティーもどうぞ。こちらはサービスです。ごゆっくり」

 

いただきます、と小さくフォークで切る。玲司は大きめに切るが、名取達はもったいないのか小さく切って一口。その瞬間に全員がブワッと光り輝いたように見えた。

 

「おいしい!おいしいよ!とってもおいしい!何これすごくおいひいでふ!」

「ん~…これはいけるわね!んっ、この紅茶?って言うのかしら。これで口の中がさっぱりしていくらでも食べられるわ!」

 

「ほわぁ~…おいしいです~」

「ん、おいしっ。提督、これおいしいです」

 

皆それぞれ出されたケーキを食べていく。スイーツと言うものを食べたことがないので目を輝かせていた。

 

「司令官さん。いちごタルト、食べますか?あーん」

「ん?あーん」

 

「ちょっと!?」

「ふぇええ!?名取お姉ちゃんだいたーん…」

 

「ん、すっぱくてさっぱりしてていいな。名取もほら、あーん」

「あ、あーん…んー、甘くておいしいです~」

 

ほにゃっとした笑顔になる名取。唖然としている姉妹。大淀はマイペースにケーキを頬張っている。神通も同じだ。名取の意外な行動に五十鈴と阿武隈は呆然だ。

 

「はっはっは。仲がよろしくて大変結構ですねぇ。うん。うん。玲司さんが来てくださり、艦娘の皆さんのおかげで商店街に少し活気が戻ってきました」

「阿武隈たちのおかげ…?」

 

「はい。この間は霰さんや皐月さんが来ましてね。写真を取らせていただきました。もちろん玲司さんに許可はいただきました。ほら」

 

満面の笑みの皐月と文月。やや表情が硬い雪風。恥ずかしそうな電。笑顔でピースをしている最上。顔が緊張でひきつっている摩耶。五十鈴と阿武隈が吹き出したのは無表情なのにノリノリでダブルピースをしている霰。名取も大淀も神通もそのかわいらしさに微笑む。

 

「あはははは!!!霰!!霰のこの顔と格好が合わないじゃない!あははは!」

「も、もう。霰ちゃんがかわいそうだよぉ。ぷっふふっあははは!」

 

「かわいらしいでしょう?今度はいつ来るかとか、かわいらしくて子供さんから年配の方まで人気になりましてね。差し支えのない程度に艦娘と交流ができれば、もっとより良く発展できるのではと考えております。もちろん、艦娘の皆さんが嫌だと言うのでしたらやめておきます」

 

「何だか楽しそう!あたし的にはとってもオッケーです!」

「はい、先ほどの女将さんのように優しい方ばかりですし。お買い物の付き添いは誰かしらお供しますので…」

 

「何かあれば俺が止めるようにするしな。艦娘は怖い物でも兵器でもないってことをこの商店街の人たちにだけでも分かってほしいんだ。こんなにいい子なんだ。優しい子なんだってな。霰や文月はそりゃあかわいがられてたよ。孫ができたみたいだ。こんな娘がほしいってな」

 

玲司が嬉しそうに笑う。艦娘と人間が仲良く話をし、笑いあう。そんな風にこの商店街はなっていってほしい。

 

「司令官さん。私達も協力します。きっと楽しいですよね」

「ああ。春に鎮守府の中庭を開放してさっきの源さんや女将さんたち、マスターを呼んで花見でもやるかって話をしてるんだ。できるといいんだけどさ」

 

「わあ、楽しみー!ねえ、マスターさん!阿武隈達も写真撮ってほしいです!」

「ええ?私は写真は…」

 

「私でよろしければご一緒に」

「神通ちゃんありがとう!」

 

「あー、もう!わかったわよ!五十鈴も入るわよ!」

 

お店の前で5人が並んで写真に写る。微笑む神通。柔らかな笑顔の大淀。胸で腕を組みまんざらでもない五十鈴。真ん中で笑顔の名取。ダブルピースで楽しそうな阿武隈。もう一枚は玲司をど真ん中に入れて6人での写真。5人だけのものは喫茶店「ルーチェ」に飾られ。6人の写真は玲司達に配られた。玲司の執務室の棚には新たに6人で写る写真と前回の霰たちの写真が飾られている。

 

大満足でケーキを食べた後は恒例の下着と寝間着選び。今回のおばさんの犠牲者は五十鈴。やはりド派手すぎる下着を見せられ真っ赤になり硬直する。なぜか大淀も呼ばれ、きわどい紐の下着を勧められた。最後には八百屋の女将にみつかりこっぴどく怒られていたが。

 

八百屋の女将は大淀をいたく気に入り、あれやこれやと服や下着の身繕いをする始末。いいものは買えたようだがたじたじだった。途中で阿武隈が女子高生に写真を一緒に撮ってほしいと言われたり、小さな子になぜか人気になった名取。それぞれが商店街の平和な雰囲気を満喫していた。

 

「司令官さん。今日は楽しかったです。ありがとうございました。そして…これからもよろしくお願いします」

「おう。一緒に頑張っていこうな」

「はい!」

 

もうすぐ夕飯。鎮守府に帰って今日の夕食は何を作ってくれるのか、楽しみで仕方ない様子で家路につく。心が軽くなった大淀や名取。これからもこの素敵な街を守りたいと心から思った。




ほのぼの回第一弾「軽巡、初めてのスイーツ」

いかがだったでしょうか?街の人とのわだかまりも解れていき、人と艦娘の平和な一時を書いてみたくなりました。阿武隈って人にすぐ好かれそうですよね。写真撮ってって言われたら困った顔するけどノリノリで写っちゃう的な

次回、ほのぼの回第二弾「商店街に衝撃走る」をお楽しみください。

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