提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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翔鶴にまたしても異常発生!
いいえ、おめでたです。


第二百八十話

以前も生理と言うもので具合いを悪くしてしまった翔鶴。あの時は慌てたものだ。だがもう慌てないぞ、と玲司は決めていた。さあ、今回はどんなことになっているのやら…。

 

翔鶴が毎月お腹を痛め、寝込んでしまうのは玲司としても憂鬱だった。代われるものなら代わりたいと。しかし、玲司は女性の仕組みをまったく理解していないのだ。だからこそ、生理が止まったことは、翔鶴がもうそれで困ることはない、と楽観視している。

 

結果として玲司はまたしても大慌てすることになるのだ。

 

………

 

「いやぁ…」

 

一方そのころ、横須賀鎮守府の医務室では瑞鶴が顔を真っ赤にして涙目で翔鶴をにらんでいるようにも見える。明石はと言うと困ったなぁ…と言った感じで頭をぽりぽりとかいていた。

 

「ま、まあ提督さん次第だけどさ…これは私がどうこう言える話じゃない…」

「うーん…うーん…こんなのレポートに書けないしなぁ…」

 

艦娘のお医者さん、そして膨大な知識を蓄えた科学者、研究者でもある「契の女王」明石が「これは史上初の快挙ですね」と言うほどの事態となった翔鶴の一件。七原提督から教えられた生理もそうであるが、横須賀鎮守府はとにかく新しい発見があり、門外不出のレポートが明石の秘密の書庫に並ぶ。

 

「横須賀鎮守府の艦娘の蒼眼化について」

「新生女王について 駆逐艦『朝潮』の書」

「新生女王について 駆逐艦『夕立』の書」

「新生女王について 軽巡洋艦『神通』の書」

 

「航空母艦『翔鶴』 まとめ」

 

几帳面な明石がしっかりとメモ、レポートにまとめた特殊な力に目覚めた艦娘たちを細かくまとめたファイル。その中でも最近多くのことがまとめられているのが翔鶴だろう。

 

眼はエンガノ岬沖で双眸が蒼に輝き、さらには玲司と愛を深めることで起きた前代未聞の艦娘に生理が起きた件。ここにいればレポートがガシガシ増えてたーのしー!とテンションが高い明石だったが、ついにここまできましたか…と感慨深く思うのだった。

 

「明石さん…私はどうしたらいいのでしょう…」

「いやー、それは夫婦間の問題ですからねぇ…私がどうこう言う権利はないと思いますよ。ただ…」

 

「ただ?」

「私は玲司君が軽率なことは言わないかな、とだけ」

 

そういうと不安げな表情から翔鶴は少しだけ笑みを見せた。

 

「そう、ですよね。玲司さんが…そんなこと…言いませんよね」

 

誠実に自分を愛してくれる旦那さん、玲司。前の提督ならば…いいや、もうあの人のことは忘れましょう。と言うかすっかり忘れていた。思い出したくもない。今は玲司との幸せな記憶だけで占領されていたのだが…だがもう恐怖がフラッシュバックすることはない。

 

「うふふ…玲司さん、早く帰ってこないかしら?ねえ、瑞鶴?」

 

そしてついにはにっこりと笑い、主人の帰りを待つ。その幸せそうな笑顔に瑞鶴もつられて笑顔になる。

 

「はいはいそうだね。はあ…まさか翔鶴姉がこんなことにねぇ…」

 

そういっていると、コンコンと医務室の入り口のドアがノックされる。どうぞーと言うと入室してきたのは文月と皐月、島風と玲司だった。

 

「失礼しまーす!」

「お邪魔しま~す」

 

「おうっ!」

 

「翔鶴、ただいま」

「玲司さん…!」

 

ガバリと翔鶴が勢いよく起き上がり、抱き着こうとしたが「オホン!」と瑞鶴になぜか咳払いされて止められた。イチャイチャするのは駆逐艦の前ではやめなさいと。それを察した翔鶴は恥ずかしそうに目元まで布団をかぶり、恥ずかしがっていた。

 

「ん、翔鶴はまだ具合が悪いのか…で、明石。何かわかったのか?」

「え?むしろ兄さんのほうが分かってるのかと思った。あー、まあ電話で取り乱してた時点でわかってないんだろうなーって思ってたけど」

 

「おう、よくわかってないぞ。気分が優れずに倒れたってだけはわかった」

 

「「はあ…」」

 

明石と瑞鶴が盛大にため息を吐いた。

 

「提督さんさぁ…翔鶴姉の旦那さんなんだよね…?その…女の子の日だっけ?アレについてもちゃーんと勉強した?」

 

「……いやすまん…明石にまかせっきりで…」

「はああぁぁぁぁ…」

 

「なんだよ、そのクソデカため息はよ」

「結婚したんだよね?しかもカッコカリじゃなくてガチの」

 

「ああ。そうだな。翔鶴は俺がしっかり守っていくぞ」

「玲司さん…」

 

「あーそういうの、もーいいから」

 

「ねえねえ明石さん。翔鶴さんは大丈夫なの~?」

「ああ、文月ちゃん。大丈夫だよ。うん、まあ何一つわかっていない兄さんにもわかるようにザーックリとだけ言うね」

 

「すげえバカにされた気がするぞ」

「実際バカだもん、提督さんは」

 

「瑞鶴?」

「はいはい、オバカな兄さんにもわかるように一言でいうねー」

 

「明石?」

 

「翔鶴さんは病気でも何でもありません!原因は妊娠によるつわり、です!」

 

 

 

………………??????

 

 

「ほら、なーんもわかってなかった」

 

「え…食あたりとかじゃなく…?」

 

「「はあぁぁぁぁ」」

 

瑞鶴と明石のクソデカため息再び。

 

「ん?ちょっと待て。にんしん?どういうことだ?」

「あ、ちょっと謎ワードに引っ掛かった感じ」

 

「にんしん~?え?翔鶴さん、赤ちゃんできたのぉ?」

「は??????」

 

何と文月が言い当ててしまったではないか。

 

「え、文月、すまん。どういうことだ?」

「ええ~?妊娠って赤ちゃんができた~ってことだよねぇ?明石さん?」

 

「そうだよ。文月ちゃんはどこでそんなことを?」

「ん~とねぇ、五十鈴さんの少女マンガだよぉ?」

 

五十鈴をかばうわけではないが、これは未成年が読んではいけない本ではなく、ちゃ〇だとかり〇んなどで連載されているれっきとした少女マンガである。そこでたまたま主人公である女の子が「私、妊娠しちゃった…」と言うセリフを文月が読んで

 

「ねぇねぇ五十鈴さぁん。妊娠ってなぁに?」と五十鈴や名取を白化させる質問をしたのが発端である。決して五十鈴は悪くないし、それをしっかりと真面目に説明した名取も悪くはない。

 

「ふぇ?赤ちゃん?文月、それほんと?」

「そうだよ皐月ちゃん!翔鶴さんは妊娠した~ってことはぁ。お腹に赤ちゃんがいるんだよねぇ?」

 

「なん…だ、と…」

 

玲司が絶句する。それを聞いてついに玲司は翔鶴に起きた出来事がただ事ではないと知る。

 

「おうっ!赤ちゃん!?かわいいよね!ねえ翔鶴さん!赤ちゃん見たい!」

 

「あーダメダメ。まだ3ヶ月だからね。赤ちゃんに会えるのはぁ…順調にいったら来年の夏くらいかな?まあ、人間と一緒の周期で産まれるのかもわかんないんだけど」

 

「赤ちゃんだー!赤ちゃんだー!」

「はーやーくー!あーいたーいなー♪」

 

皐月と文月が翔鶴と玲司の周りをぴょんぴょん飛んではしゃいでいる。そんな中で玲司だけがフリーズしているのであった。

 

「あ、あか…あか…ちゃ…え、お、俺が…俺がお父さん…に?」

「そうだよ!玲司君がパパになるんだよ!!!

 

「お前がパパになるんだよみたいに言うな!!!」

 

「だああああ!!!提督さんは嬉しくないの!?翔鶴姉との間に子供が生まれるんだよ!?まさか認知しないとかいうんじゃないでしょうね!!!」

 

「んなわけあるか!!!」

 

「じゃあ堕ろすとは!?」

「はああああ?!!?そんなわけねえだろうバカ!!」

 

「バカって何よこのクソ提督!!!」

 

もはや医務室は踊る…。取り返しのつかないくらい…その喧騒を沈めるために、コップ代わりにしているコーヒーの入ったビーカーを机にダァン!!と割れんばかりに打ち付ける明石。

 

「静かにしてくださいね?ここには安静にすべき患者がいるんです。医務室では、お静かに」

 

その明石のすさまじい気迫に全員が静まり返る。

 

「玲司君?認知しない、もしくは赤ちゃんを産ませない、なんて話なんてしてみて?即刻お父さんに苦情入れるからね?人として許せないわけだし」

 

「はい。もちろんです」

 

これにて医務室はようやく落ち着きを取り戻したのだった。

 

………

 

「そうか。翔鶴、ごめんな…今まで気が付かなくて…」

 

「い、いえ…その…私も明石さんに言われなければまったく気が付かなくって…」

 

「言ったはずだよね?玲司君と翔鶴さんは特別なんだって。生理がある自体が艦娘ではないことなんだから」

 

「で、提督さんはほかの提督さんとは違う深海棲艦の血を引いてる人間でしょ?で、翔鶴姉を人間の女の人のように赤ちゃんができる体に作り替えたんだよね???」

 

「意図せずにではあるが…はい」

 

「で、北上も瑞鶴も言ったよね?ご計画にって!」

 

「い、いや、俺も翔鶴も子供ができるならほしいな、とは思ってたんだよ。その…レイテの打ち上げのあと舞い上がっちゃって…」

 

「避妊し忘れたと」

 

そして「それ、ちゃくだーん、今!」となったのが3ヶ月前。そして見事にベビちゃんがお腹に宿ったわけである。もう何度目かもわからないクソデカため息を吐く瑞鶴と明石。

 

「こうなると出撃はもうできませんね。翔鶴さん、それに玲司君。それはわかってもらえる?」

 

「そ、そうだよな…てーか、子供が生まれたあとも翔鶴は育児もあるし…」

「もちろん提督さんも子育てはちゃんとするよね?」

 

「そうだな…ああ…そういう教室に行くべきか…」

 

「ねえねえ司令官。文月たちもお世話するよぉ。だって、文月お姉ちゃんになるんだもぉん!」

 

「ああっ!ボクもボクも!」

「うふふ、ここはお姉ちゃんがいっぱいになるわね」

 

翔鶴がそう笑う。

 

「瑞鶴…私は艦隊からは離れてしまうけど…」

「心配いらないって!空母も結構充実してきたしね。それよか、それでも出撃しますなんて言ったら私怒るわよ?」

 

「そう、そうよね…だって…赤ちゃん…」

「そーそー。もしそれで赤ちゃんの身に何かあったら翔鶴姉と提督さんだけじゃないよ?瑞鶴だって悲しむんだからね?せっかくの翔鶴姉の幸せの結晶じゃない」

 

幸せの結晶。そう。幸せの結晶なのだ。玲司と育んだ幸せが実となって産まれる。それがお腹の中の赤ちゃんなのだ。どんな子になるんだろう?まだ産まれてもないし、男の子か女の子さえわからない。それでも、きっと生まれてきてくれたならそれだけで幸せだ。

 

「そうかぁ…俺がお父さんになっちまうのか」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃなくなっちゃうの?」

 

「いや、それはないよ。ちゃんと島風の兄ちゃんだぞ?」

「お父さんになるって大変?」

 

「きっと大変だな。それよりもお母さんになる翔鶴のほうがもっと大変だろうけど」

「んー…きっと島風にしてくれたようにしてれば大丈夫だよ!」

 

「そうだな…よし、今一度勉強しようかな」

「そうしてよねー」

 

明石や島風にいろいろと言われてよりやる気になる玲司だった。

 

………

 

「はあああ!?翔鶴さんに赤ちゃんが?!」

「赤ちゃんなのです?」

 

一方食堂に集まっていた艦娘たちも翔鶴のご懐妊の一報を聞いて沸き立っていた。摩耶は「提督、ちゃんと責任取るよな?」とか失礼なことを言っている娘もいれば、「ええ!?鈴谷達おばさんになるってわけ?!」と言うわけのわからないことを言いだす娘もいればそれぞれである。

 

「あー、やっぱりデキちゃったかー。まっ、ちゃんと認知して育児放棄とかしなけりゃいいんでない?」

「き、北上さんそれは提督に失礼ですよ…」

 

「古鷹ー。男はオオカミなんだって。そのうちあたしたちもー…」

「ならねえよ」

 

北上がニヒヒヒと笑っていると軽くげんこつを食らった。玲司である。

 

「いった。あー、そうやって翔鶴と子供にでぃーぶいするんだー」

「誰がするか!ちゃんとした旦那でお父さんするっつーの!」

 

「まーあれだけ翔鶴にデレデレじゃーねー。避妊はしなよーっていつも言ってたのにね、あたしも瑞鶴も」

「いいじゃねえか!赤ちゃんができるなんてあたしら艦娘にゃない話だ!めでたいじゃん!」

 

「まよはお気楽だねぇ」

「まよっつーなよ!あたし、提督と翔鶴さんの子にもまよおねーちゃんって言われるのやだかんな!霞も早く摩耶って言ってくれよなぁ…」

 

「まよおねーちゃーん」

「北上ィ!」

 

摩耶たちは変わんねーなぁ…と笑う玲司。

 

「しれーかん、かすみもおねーちゃんになれるの!?」

「おっ、かーすーみー。そうだな。弟か妹ができるな!」

 

「えへへー。かすみ、おねーちゃん!わーい!はやくあいたいな!」

「まだまだ先だなぁ。たのしみに待っててくれよ」

 

「うん!!」

 

お姉ちゃんになれると駆逐艦たちは大はしゃぎ。

 

「艦娘の赤ちゃんに初めて調律ができるかも!?」

「秋津洲さんやめてよ!?」

 

「あらあら、荒潮もお姉さんよ~♪」

「全力で子育て支援する覚悟です!」

 

「あげあげでいきましょー!!」

 

「茉莉ちゃん!離乳食のお勉強をしましょう!」

「は、はい!」

 

「まだ早くない?」

 

それぞれが赤ちゃんの誕生を待ちわびるのだが、まだまだ先の話。

 

………

 

『そうかそうか!私もおじいちゃんになるんだねぇ…』

 

翔鶴が妊娠したという話は父である司令長官、古井総一郎にも伝えられた。大和や武蔵が建造された時のようにアホの人にはならず、5秒ほど黙ったかと思うと彼は目を輝かせて懐妊を喜んだ。

 

「おやっさんと母さんにはぜひとも抱いてほしいなって思いますよ」

 

『うむ…うむ…私も静江も生まれた子を抱くことはなかったからねぇ…きっと静江も喜ぶだろう。うん、静江には私から伝えておこう』

 

古井総一郎と妻である静江は静江が病により子を産めない体になってしまったため、子がいなかった。何よりも子供を欲しがっていた妻の病。結果として結婚して間もなく、その病が明かされたときにはひどく落ち込み、鬱になってしまったくらいだ。

 

何度も「子を産めないわたしに価値はありません。別れてください」と泣きながら毎日そう言う妻に「そのような価値観で私は君と結婚した覚えはないよ」とずっと説得をした。買い物などに出かけた際に、ベビーカーに乗せられて眠る赤子を見ては、寂しそうな顔をしていたのを見たときは、神を恨みそうになったくらいだ。

 

ある日、子供を引き取りたいと妻に相談した。玲司だ。細かく現状を伝え、いかにひどい状況であるかを説明した。

 

「すぐさま連れてきてください」

 

その時の妻の顔は、幼き頃に見た母のような顔だった。引き取ってからは陸奥と共に献身的に面倒を見た。いつの頃だったか玲司が「母さん」と呼んだ日には泣き崩れていたな。

 

「玲司に子供が生まれる」と聞いたなら、また泣き崩れるだろう。玲司の幸せを切に願っているからな。

 

『これはさっそくベビーベッドなどを横須賀に送るべきかね、ハハハ』

「まだ早いっすねぇ…」

 

『母さんに伝えたら服や靴下を買いそうだよ?』

「い、いや全力で止めてください」

 

『何、男の子だろうと女の子だろうととりあえず必要なものだけでも用意しようじゃないか。結婚祝いも送れていないしね。そこは気を遣わず、親からの贈り物だとして取っておいてくれ』

 

「おやっさん…ありがとうございます。母さんにもよろしくと伝えてください」

 

『うむ。いやぁ、楽しみだねぇ!そうだ、虎瀬や宗春にも伝えないといけないねぇ!』

「あー…マスターには自分から伝えようかな…」

 

『そうか!では虎瀬には伝えさせてもらうよ!』

「わかりました。おやっさん、はしゃいで酒のがぶ飲みは厳禁ですよ」

 

『はははは!わかった、気をつけるとしよう。む?ああ、陸奥が代わってほしいそうだから代わろう』

 

「む、陸奥姉ちゃん!?」

 

その名を聞いた途端に傍で聞いていた龍驤も飛び上がった。いや、それはやばない…?と。何せ玲司LOVEだ。翔鶴と結婚したと聞いたときにガチ泣きしていた陸奥。さらに赤ちゃんまで生まれるとなると…?

 

『はぁい、玲司君。赤ちゃんができてお姉ちゃんも嬉しいわ』

「そ、そうか…いや、ほんと俺も青天の霹靂と言うか…」

 

『そこは自覚してなきゃダメでしょう?翔鶴とそういう行為をしてたんならね。それとも何?何も考えないままにしちゃったってこと?それなら捻り切ってあげようかしら?』

 

その言葉に玲司は股間がヒュンッとなった。龍驤は横で「ひぇっ」と声をあげた。

 

「い、いや…そういうんじゃないから…うん、俺の勉強不足だな…それでも。あ、でもだからと言っていろんなものを放棄することはしねえから。ちゃんと生まれてくる赤ちゃんのために、お父さんを頑張るよ」

 

『うん、よろしい。それから、次はちゃんと考えるのよ?2人育てるとなると大変なんだから』

「そうだな。うん。それは気を付けるよ。翔鶴の体にも負担がかかるし」

 

『いい旦那さんねぇ。まあそうでないならやっぱりきりおと「やめてください、もう怖いです」』

 

『そっかぁ。玲司君が結婚してパパになるのねぇ…まあ、そのお嫁さんが艦娘で、と言うのが驚きだけど…おめでとう。素敵なパパになってね』

 

「ああ。ありがとう、陸奥姉ちゃん」

『ところで、産まれてくるのは男の子かしら?』

 

「いや、まだ決まってないな…と言うかわかんねえ」

『男の子よね?』

 

「は?」

「玲司、あかん、陸奥姉やん…光源氏計画を考えとるで」

 

「どういうことだ…?」

 

「つまりや…男の子が生まれたら姉やんの思うように育てて、最終的にパクっと…」

「ぜってえ陸奥姉ちゃんの思うようにはさせねえからな!!!」

 

『……チッ、龍驤、帰ってきたら〆る』

「姉やんの考えがアウトやろ!?お父ちゃん!お母ちゃんにも言うて玲司の子に会わせんようにしてや!」

 

『あー…ま、まあ息子なら、の話だね?』

「女の子でも危ないで!!!玲司の息子や娘や言うたら何されるかわからんで!!」

 

『あらぁ、娘でもいいわよ?』

『陸奥姉さん!?玲司君と翔鶴さんの子供さんに接触禁止命令を出してもらいますよ!!』

 

『止めないで高雄!!!なんたって玲司君の子供なのよ!?あなただって例えばだけど玲司君と大淀の子供が生まれたら正気でいられる!?』

 

お前は何を言っているんだ、と素で言いそうになった玲司。高雄さんは高雄さんで「それは…その…えへへ…お洋服とか選びたい…ですわね…」とかボソボソ言っている。大淀は苦笑い。

 

「うち、この姉やんと妹持って心配なんやけど…」

『うわぁ、玲司君赤ちゃんが生まれるんですか!?きっとかわいいでしょうねぇ…あ、その時は会わせてくださいね!えへへ、楽しみだなぁ…!』

 

「あかん、赤城がかわいく思えてきた。そう思うとまだ川内、島風、明石…まともにはしゃいでた横須賀におる面々がまともなんやなって…」

 

「……俺もそう思った」

 

『ま、まあ陸奥達には変なことはしないように釘をさしておくから…心配しないでほしい…』

「ああああ!!お父ちゃん!!虎瀬のおっさんに電話するんやったら磯風と利根に気ぃつけや!!!!あいつら何言い出すかわからへんで!!!妹か弟の面倒見るんやったら横須賀に転属決まりやなとかわけのわからん理論を言い出しかねん!!」

 

『グッ…と、虎瀬にくれぐれも注意するようにと言っておくよ…』

 

大丈夫だろうか…あの磯風と利根…本当に駆けつけてきそうで怖いんだが…。

 

しかし、玲司と龍驤の心配とは裏腹に、虎瀬のおじさんからお祝いとして10万円ポンとくれたぜ、となった。生まれたら顔を見せてくれとも言われた。暗に利根と磯風の暗躍もあるのだろう…と玲司は思った。

 

………

 

『ほー?ほーーーー?三条、テメエやることやってんなぁ?』

「そうですね」

 

次に刈谷提督。生まれてから言うとへそを曲げてしまうので…と翔鶴に話をしてそれなら電話したほうがいいと思います。お世話にもなっていますし…と言うので電話をすることに。もう愉悦でたまらないと言う声だった。

 

『まあ、俺も艦娘と結婚してるし、龍田に続いて葛城も愛宕も始まったから他人事じゃねえんだよな』

 

これはこれで爆弾発言だよなぁ…と玲司は思った。そして元気だな、とも思った。

 

『なんか言いたそうだな』

「いいえ、これっぽっちも」

 

『フン。まあいい。生まれたらいろいろと教えろ。俺も仮に龍田や葛城、愛宕とデキちまったら俺も親父になるんだからな』

 

その横で龍驤が笑いをこらえてはいるが、腹筋がちぎれそうなくらい笑っていた。

 

(あかんて…あのおっさんがお父ちゃん…おしめ換えたりミルクやったり…想像できひん…!)

 

「その…俺は予期せぬ妊娠でしたので…」

『ああ?テメエと一緒にすんな。計画的に子供作るっつーの』

 

『あら~?私としては一刻も早くほしいわね~』

「クッ…!」

 

『……笑ってんじゃねえぞテメエ』

 

出会った時と今の刈谷提督が違いすぎて玲司もおもしろくてたまらなかった。龍田にグイグイ押されて、きっと負けて子供作るんだろうな…と。

 

『おもしれえ話が聞けたもんだ。んでもって、龍田や愛宕が目ぇ輝かせて俺見てんだけどよ。何とかしろよ』

「俺に言われても…」

 

『わ、私は最後でも…無理に作らなくても…』

『ああ?葛城、テメエも子供が作れるならっつってただろうが。わかった、お前と一番に子供作る』

 

『ちょ、ちょっと!?今そんなこと言われても心の準備が!?』

『アホ。いろいろ落ち着いたらだ。今日いますぐ作るとかじゃねえよ。ただ、まあ今日はアレありでな』

 

『う、うん…頑張る…』

 

電話つながりっぱなしなんですけどー。丸聞こえなんですけどー。よその提督の情事を聞く気はなかったんだが…横で姉ちゃんもうなんかひきつけ起こしてんじゃないかってくらい笑ってんじゃねえか。大淀は苦笑。鳥海は顔が真っ赤。霧島はあきれ顔。

 

『あー、あー…まあ何かお祝いに送るわ…』

 

電話が切れたら龍驤が執務室内に響き渡るぐらい大声で笑っていた。

 

………

 

夜になって翔鶴が寝室に戻ってきた。つわりはしばらくは続くらしい。軽く調べてみたが本当につらい人はつらいようだ。

 

「大丈夫です。横になっていれば落ち着きますから…」

「そうか。無理すんなよ。大丈夫だ。しばらく大淀たちが事務やってくれるらしいし、艦隊の指示も霧島や鳥海がやってくれるらしいから、俺がつきっきりでいれる」

 

「………玲司さん。大淀さん達にお礼を言わないといけませんね。私…正直言うと…玲司さんにお傍にいてほしかったんです…」

 

「翔鶴…」

 

額にキスをする玲司。

 

「うふふ、私ったら現金ですね…キスをしてもらっただけで気持ち悪いのが薄れました…♪」

「それでつわりが治まるなら何度でもするよ」

 

「うふふ♪よろしくお願いしますね♪」

 

顔色もいいし、消化のいいものを間宮が作ってくれたようでそれは食べたようだ。食べないと赤ちゃんにも影響が出てしまうからと。頑張ったな、と頭をなでてあげると目を閉じて撫でられるがままの翔鶴だった。

 

「私…お母さんになるんですね…」

「それなら俺はお父さんだな」

 

「玲司さん、パパとママがいいかしら?お父さんとお母さん?」

「うーん、どっちがいいかなぁ。まあ時間はまだまだ…あー、そうか。もうお腹にいるんだもんなぁ。おーい、お父さんだぞー」

 

「ふふっ♪お父さんとお母さん、ですね!」

「ははっそうだな!」

 

「私が…お母さん…艦娘の…私が…?」

「翔鶴…その…俺のせいで」

 

「いいえ…私もあの時…求めてしまったので…」

「あー…」

 

「でも…私、嬉しく思います。玲司さんとの赤ちゃんができたこと…生めること」

「明石から話を聞いたときは…やっちまったって思った。艦娘として、今乗りに乗って羽ばたいている翔鶴の翼を俺が折っちまったって」

 

祥鳳やアークロイヤルが尊敬するほど美しい水面の白鶴こと翔鶴。それを同意なき妊娠のせいで翼を折ってしまったと玲司は後悔の念でいっぱいになった。翔鶴はまだまだこれから羽ばたける。もっと大きな戦いに必要になるかもしれないのにと。

 

「いいえ…遠くない未来にほしいと思っていたんです。玲司さんとの子を…あなたの妻として。女として…艦娘なのにこんなことを思うのは変なのかも…と思っていたのですが…商店街で見かけたかわいい赤ちゃん…。見ていると…ほしいという思いが強くなって…」

 

艦娘としての翔鶴ではなく。人間の女性と同じように。幸せそうな夫婦の笑顔。安らかに眠る赤ちゃんの寝顔。どれもが愛しく思った。瑞鶴に聞いてみた。

 

「うーん、私はそうは思わないね。バリバリ!私は深海棲艦をやっつけたいって気持ち!でもさ、艦娘だからって赤ちゃんがほしいって思うのは罪じゃないでしょ。摩耶はバリバリ艦載機を撃ち落としたい。北上はボカスカ魚雷を撃ちたい。いろいろあるでしょ?」

 

「けど…赤ちゃんがほしいって言うのは…」

「武蔵さんなんかずーっと提督さんのオムライスを食べてたいって思ってるし、文月ちゃんや皐月ちゃんは探検をいっぱいしたいって戦闘以外のことを思ってるよ。だったら、赤ちゃんがほしいよーって思うのも悪いことじゃないでしょ」

 

いいのだろうか。艦娘は深海棲艦を倒すために生まれてきたというのに。

 

「でもさ。結局何をしたいかなんて、私たち次第でしょ。提督さん、よく言ってるでしょ?瑞鶴たちには心があるんだから何をするのも自由。その自由な意思を奪い取る資格は提督さんにはないって」

 

「……じゃあ…やっぱり私は…」

「いいじゃん!翔鶴姉と提督さんの赤ちゃん、瑞鶴も見てみたいな!きっとさ、すっごいかわいいって!!!!あ、でも瑞鶴おばちゃんとか呼ぶのはなしで!!」

 

「ふふふ、瑞鶴お姉ちゃんよね」

「そうそう!うわぁー霞ちゃんに呼ばれてもかわいいのにさ。翔鶴姉の子供にそういわれるんだよ!めっちゃかわいいって!!」

 

瑞鶴はそうして翔鶴の「赤ちゃんがほしい」と言う意思を尊重し、受け入れてくれた。昔の瑞鶴なら…。いや、それはもういいか。ありがとう、瑞鶴と言うと「元気な赤ちゃん産んでよね!」と笑ってくれた。

 

「瑞鶴にお礼を言っておかないとな」

「はい。本当に…自慢の妹です」

 

翔鶴は起き上がり、玲司の手を取って自分のお腹にそのまま手をあてる。

 

「まだそんなに大きくはなっていないですけど…ここに…私と玲司さんの赤ちゃんが…」

「ああ。大きくなって元気に生まれてきてくれよー」

 

「うふふ…お母さんとお父さん、早くあなたに会いたいな」

「そうだよなぁ。あ、そうだ。名前考えないといけないな!」

 

「ええ?まだ男の子か女の子かもわからないんですよ?」

「いいじゃねえか。考えるだけタダだよ!そうだなぁみなもとか…なぎさとか…」

 

「玲司さん、それだと女の子の名前ですね?でしたらゆうがとか…たいがとか…」

「おっ、翔鶴は男の子だって?よーし、俺はなぁ…」

 

2人で赤ちゃんの名前を考える。そんな幸せなひと時の夜を玲司と翔鶴は過ごすのであった。




翔鶴のおめでたのお話でした。まだまだ生まれてくるのは先のお話ですが、幸せいっぱいの翔鶴姉はいかがだったでしょうか?

これからはちょっとずつ、翔鶴の幸せ妊婦生活を書いていければと思っています。

次回は一宮提督のところにいる五月雨のお話です。刈谷提督の初期艦。彼女はこのまま大湊のみんなとやっていくのか?それとも刈谷提督のもとへ帰るのか?その決断に迫られます。

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。
それでは、また。
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