提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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部隊は大湊警備府になります。
刈谷提督から派遣された五月雨。大府との決着がついた刈谷提督ですが、五月雨を戻すのか、否かで悩んでいる様子です。

そして、大湊警備府で1からスタートしなおした五月雨もまた、苦悩するのです。


第二百八十一話

/大湊警備府

 

パソコンのモニターを見つめている一宮提督。パソコンと言っても私用のパソコンだ。

 

「提督~、お茶が入りましたよ~。提督?」

 

五月雨が入室したが聞こえていないらしい。何かに見入っているようである。ひょこっと覗き込んでみた。

 

「ん?ああ、五月雨さん。すみません。お茶、ありがとうございます」

 

「いいえ!提督、何を見ていたんですか?」

「こちらです」

 

動画を見ていたらしい。休憩時間だからと思い出してみていたらついつい見入ってしまったのだという。その動画は競馬だ。

 

再生ボタンを押すと熱い実況と共にターフを駆ける金色の毛並みの馬。

 

『こんな三冠馬は初めてです…』

 

実況者が唖然とする状況。騎手をゴール後に振り落とし、放馬してしまうシーンだった。

 

「わ、わぁ…乗ってた人…大丈夫なんですか?」

「ああ…この時は大丈夫だったとか…デビュー戦でも振り落としたのですが、その時は骨折をされたそうで…」

 

「え、ええ…あ、これってエト君ですか?」

「そうですよ。エト君です」

 

「わぁ~エト君の走っているところが見れるなんて!」

 

エト君。一宮提督の親友。サザンエトワール。その総集編と言うファンが作り上げたまとめ動画だった。

 

「わあ!すごいすごい!はやーい!」

「素晴らしい走りでしょう。私は実際のレースを見ることはありませんでしたが、動画でこのようにエト君の走りをいつでも、いつまでも見ることができるのは喜ばしいことです」

 

『金色の名馬!サザンエトワール全レースまとめ』

 

そうタイトルにある通り、何回かは大丈夫か…?と言うような走りを見せてはいたが、その走りは圧倒される。特にラストランは本当に素晴らしい独走状態。

 

『抜けた抜けた抜けた抜けた!強い!6番!サザンエトワール!あっという間にリードを広げました!サザンエトワール!圧勝ゴールイン!!!』

 

「すごーーーい!!」

「何度見てもこれは鳥肌が立つほどすごいですね」

 

五月雨が興奮して腕をぶんぶん振りながら動画を見ていた。いつの間にか膝の上に乗り、一緒になって「いけー!」とか「そこだー!」とか言っている。

 

その様子をほほえましく見守るのが一宮提督だ。彼女とは着任してからの仲となる。

 

「五月雨って言います!よろしくお願いします!」

 

そうして大湊警備府で彼女と提督として始めた。彼女は事務仕事や艦隊運用についての知識が豊富だった。のちに明らかにされたが、彼女は刈谷提督のもとで初期艦として勤めていた艦娘だった。

 

空母飛龍を大府によって沈められ、絶望に打ちひしがれた刈谷提督。艦娘こそが刈谷提督の弱点だと見極めた大府はおそらく次々と刈谷提督の艦娘を沈めに来るのではないか。それを危惧した刈谷提督は艦隊を解散。その際にちょうど入れ替わりのように海軍に入り、提督の素質が非常に高い一宮提督に五月雨を託した。

 

泣きながら事情を聞く五月雨。「お前たちを沈めたくはない」と言う言葉に五月雨は大きくうなずいて一宮提督のもとへ着任するのだった。

 

………

 

そうして今や一宮提督率いる大湊警備府の艦隊の中では、一番一宮提督のとの付き合いが長く、日向や由良、曙たち古参とも。日進やフレッチャー、サラトガ達のような比較的新しい艦娘とも支えて、支えられて(主に転んだとき)いる。

 

誰からも好かれるその明るい性格と朗らかな笑顔で艦娘だけでなく、近隣の人々にも愛され、吹雪と並んで大湊のマスコット的な存在となっている。

 

『…と言うわけなんだが』

 

「そうですか。引き止めたいところですが、そこは私の言うところではありませんね…」

 

『いや?止めてくれてもいいんだぜ?五月雨がそっちに馴染んでて、手放したくないなら容赦なく言えよ。俺の顔色を伺うんじゃねえ』

 

電話の相手は刈谷提督。刈谷提督が着任時に細工して着任させた初期艦、五月雨のことを話している。内容としては「大府の脅威はあのバカが捕まったのでほぼなくなった。五月雨が嫌だって言うんなら仕方ねえが、そうでないなら五月雨を佐世保鎮守府に動かす準備ができた」と言う話だ。

 

しかし、強制的に返せと言うわけではなく、五月雨の意思を尊重したいとのことだ。

 

『まあ…今の俺んとこにはあいつが知ってる艦娘はいねえからな。それよかそっちで仲良くなってる艦娘いるだろ?そいつらと無理やり引き離してもな、と思うわけよ』

 

これが血も涙もない凶暴な提督の言う言葉か?実際に話してみて、食事なども一緒にしてみてわかること。刈谷提督は艦娘に対してとても優しいのだ。玲司のところの大淀をからかってみたり、今の秘書艦である龍田と軽口を言い合っていたり…初見で30点だテメエと言われた時とはまるで違う。

 

一宮提督としても、うちにいる潮や吹雪たちととても仲良くやっている五月雨をわかりました、と手放すには惜しい。事務仕事は早いし、戦闘においてもリーダーシップを発揮することもある。彼女の淹れてくれる緑茶はおいしいし。

 

ただ、今はもうなくなったがかなり前に刈谷提督と大本営会議の時に顔を合わせたときは泣いて刈谷提督に抱き着いてずっと抱っこされていたこともあったため、帰していいのか、それはよくないのか…個人的に複雑な心境である。

 

「五月雨さんにお話をしてみて、五月雨さんの判断にお任せしますよ」

『そうかよ。ま、今すぐにどうしろとは言わねえ』

 

「承知しました」

『悪かったな。五月雨をお前に押し付けておいて』

 

「いいえ。刈谷提督にも事情があったのは理解しております。大府が何をしてくるかもわからなかったでしょうから」

 

『……そうだな。ま、あとはあのクソがくたばるか。まだ悪だくみを考えているか、だな』

「私はまだ終わっていない…そう考えていますが」

 

『へっ、何でもして来い。叩き潰してやる』

「私もご協力いたしますよ」

 

『ああ。しょうがねえ、熊本の有名どこの馬刺しでも送ってやるよ』

「え、ええ…ありがとうございます…」

 

刈谷提督の贈り物は毎回気を遣う…お返しを送ろうとするといらねえと言われますし…。ものすごい量が来るんだろうな…間宮さんに何と言いましょう…届いてからだと間宮さん、呆然としますし。

 

それはそうと…今食堂に来てみたら、間宮が作ったあんみつを日進や利根、由良達と食べている五月雨を見て思う。彼女はこのままここにいたほうがいいのではないだろうか、と。そう五月雨に進言してみようか。

 

「あ、提督ー!お疲れ様です!」

 

自分を見つけてブンブンと手を振っている五月雨。さながら大きなわんこ、そんな感じがする。いつものことであるが。

 

「提督さん、お疲れ様です!さ、こちらへ、ね!」

「え、ええ、失礼しますね」

 

「うむ!提督が来るとあんみつのうまさも倍になるのう!」

「利根さん、私が来るだけでそれって…」

 

「いいえ利根さん!100倍ですよ!100倍!」

「そうじゃのう!さすがは五月雨じゃ!」

 

「うるさいのう…静かに食わしんしゃい…」

 

五月雨がいると利根までもがにぎやかになる。大湊警備負の日常。だが、黙っておくわけにはいかない。

 

「五月雨さん、さきほど刈谷提督からお電話がありまして」

「提督から!?提督はお元気でしたか?」

 

「ええ。大きな問題も片付いたようでお元気でしたよ」

「そっかぁ…よかったぁ。元気が一番ですもんね!」

 

「そうですね。それと同時に、五月雨さんにご相談があります」

「五月雨にですか?なんでしょう?」

 

「刈谷提督が大きな問題が片付いた、と言うことで…刈谷提督に下へ戻ってきても大丈夫と言うことでした。これは私がどうこう言うべきことではない思いますが、大湊警備府でこのままやっていかれるのか、それとも刈谷提督のおられる佐世保鎮守府へ異動するか、どうされるのかを…」

 

「え…?」

 

予想外のことにスプーンに乗った寒天を落とすほどのことだった。ついに大好きな刈谷提督のもとへ帰ることができる。

 

しかし、由良や利根はと言うと。

 

「な、なぬー!!五月雨!佐世保へ行ってしまうのか!?」

「え、ええと…いいこと…なんですよね?提督さん」

 

「ええ。刈谷提督が五月雨さんを傍に置くには憚られる状況は終わりました。刈谷提督はならばと五月雨さんに戻っておいでと」

 

「ええと…ええと…五月雨は…提督のところへ…え?でもそうすると…」

 

きょろきょろと由良や利根を見る五月雨。利根や由良は戸惑いを隠せない。五月雨とは最初期から苦楽を共にしてきた仲だ。その五月雨がいなくなってしまう…?

 

「て、提督!?五月雨はおらんようになってしまうのか?!」

「それを決めるのは私でも刈谷提督でもありません。刈谷提督は五月雨さんに任せると」

 

「さ、五月雨!ならん!ならんぞ!行ってはならんぞ!?五月雨がおらんようになったら誰が書類を…我輩無理じゃからな!?」

 

「利根さん!だめですよ!」

「嫌じゃ嫌じゃ!五月雨とはもうズッ友なのじゃ!ぜーーーったい行かせんからな!!」

 

「うるさいのう…それを決めるのは五月雨じゃと言うとろうが」

「日進!お前は五月雨がおらんようになってもいいと言うのか!?」

 

「そうは言っとらんじゃろが。ただ、去るのも自由。おるのも自由。五月雨次第じゃけえわしや利根が止める権利はないんじゃ。のう由良?」

 

「え、えと…そうですね…ね」

 

「あ、あうう…」

 

利根が必死で止めている。すぐさま利根は「大変じゃーーーー!!」と叫びながら寮へと言ってしまった。由良が追いかけて行った。利根はいろんな物事を針小棒大に語ってしまうところがあるので、もう五月雨が佐世保へ行ってしまうと言ってしまうだろう。それを止める必要があるので由良が飛んで行ったのだ。これは後始末が大変ですね…由良さんを労う何かを考えないといけない…と提督は思った。

 

「う、うう…?うーーーーー!!!」

 

「五月雨さん!」

「追いかけてどうするんじゃ?ここに残るように言うんけ?」

 

「いえ…私はどうすることも…」

 

「そらぁいきなり言われたら困る話じゃけえのう。ワシもそんなこと言われたら混乱するに決まっとる。五月雨はここにきて一番古いんじゃろ?いきなり古巣に帰るかと言われたらのう。提督は見守るしかないんじゃないけ?」

 

「………」

 

「まあ、ワシはもちろんおってほしいがの。じゃけど、五月雨が佐世保?に帰るっちゅうんなら、ワシにそれを止める権利はないけえ、笑って見送るだけじゃ。おっ、利根、あんみつ残していきよった♪いただきじゃ♪」

 

利根が残していったわけではないのだが、利根の食べ残しをニコニコと食べる日進。日進の言うことはもっともだ。急すぎましたね…と反省する提督だった。

 

………

 

「そうか。提督もそんなことを急に。それも食堂でいうことではないな」

「……スンッ…スンッ」

 

「しかし、いずれは来る話だったな。さて、どうしたものかな」

 

泣いてどこかへ走って行こうとしていた五月雨を止めたのは、この鎮守府の艦娘のリーダー的存在、日向。それと個性豊かなアメリカの艦娘をまとめているサラトガだ。

 

「そう…それは難しい話ね…」

「わたし…わたし…どうしたらいいんだろって…わからなくなっちゃって…」

 

「すぐに結果を出さなくてもいいんじゃないだろうか。五月雨の心の整理がつくまで」

「け、けど…」

 

「急いで結論を出して、それであの時やっぱり…と後悔をしないように自分が納得する結果を出さないと…」

「……ううう」

 

「なかなかに難しい問題だな。私たちとしては残ってほしいものだ。五月雨との付き合いは私も長いからな」

「日向さん…」

 

「サミダレの一生懸命頑張っているところはサラも見習いたいですし、ジョンストンやフレッチャーが何というか…」

 

「曙や吹雪が全力で止めに来るだろうな」

 

曙たちだけではない、おそらく全員が止めに来るに違いない。しかし、それを止める権限がみんなにはないのが悩ましい。

 

「わ、わたし…が、決めなくちゃ…」

「私たちの意見は残ってほしい、と言うことになるな」

 

「Yes…」

 

五月雨にとっては刈谷提督たちと過ごした時間も素敵なものだった。悲しいことになってしまったが…。刈谷提督に再会できたとき、甘えることができたとき、涙が出るほど嬉しかった。

 

本当にあの頃は手探りだった。書類もいっぱい間違えたし、作戦を失敗したこともいっぱいあった。それでも提督は怒ったりせずに頭を優しくなでてくれて…。

 

「失敗は成功の基だ。俺も学ぶべきものがあった。次に活かそうぜ。何、次は大成功だ」

 

こうして少しずつ実績を積み上げていった。もともと、刈谷提督は才能もあったのか、昇進も早かったし、たくさんの仲間がいた。ドジをしては笑われるという恥ずかしいこともあったが、提督やみんなとの時間はとても楽しい時間だった。

 

あの時までは。

 

空母「飛龍」の轟沈。そこですべてが壊れてしまった。泣いても泣いても。悲しみは消えない。胸が張り裂けそうな気持ちがずっと消えなかった。ただただ悲しみに支配された毎日。刈谷提督は怒り狂い、そして悲しみに暮れた。みんなが悲しみに暮れ、そして次は自分たちが狙われるのではないかと言う恐怖もあった。

 

「……この艦隊は解散する。これ以上轟沈させるわけにはいかねえ」

 

刈谷提督のこの一言はさらに衝撃的だった。嫌だと誰が言っても刈谷提督はその発言を撤回することはなかった。俺は提督を降りる。五月雨にとって、大好きな刈谷提督と別れるなんて絶対嫌だった。しかし、結局は本当に解散となってしまった。

 

「五月雨、お前はこれから来る新しい提督に艦隊のいろはを教えてやれ。お前の知識は役に立つはずだ」

 

どうして自分を置いて行ってしまうの…?

五月雨を置いていかないで…。

 

それでも艦娘は提督がいなければ生きていけない。

 

「全部の問題が片付いたら、また一緒にやろうな」

 

その言葉を胸に、五月雨は一宮提督と共にやってきた。いつになったら帰れるか、なんてことを考えながらずっとやってきた。

 

(由良さん、利根さん…日向さんに曙ちゃん、吹雪ちゃん…え?)

 

ある日、そんな考えが脳裏をよぎった。もうすぐ帰れるかなぁ?と考えていた時にふと大湊警備府の仲間たちのことが思い浮かんだ。

 

「五月雨ちゃんのおかげで助かったよ!ありがとう!五月雨ちゃん!」

 

吹雪ちゃん…大湊警備府を一緒に盛り上げてきた駆逐艦仲間。

 

「五月雨ちゃん!今日はいーっぱいがんばりましたね、ね!」

 

由良さん。いつも笑顔でお仕事を手伝ってくれて…いつもほめてくれて…。

 

「五月雨、風呂でも入るか。頭を洗ってあげよう」

 

日向さん…安心できるお母さんのような…。

 

 

ほかにも曙ちゃんに潮ちゃん。サラトガさん…アメリカの艦娘のみんな。一緒にいるのが当たり前になっている大湊警備府の艦娘。

 

みんなとお別れしないと刈谷提督のところへは帰れない。大湊警備府のみんなとお別れもしたくない。その二律背反の思いが今、五月雨の頭をパニックに陥れているのだ。

 

そうして自分はどうしたらいいのかわからなくなっていた。どっちも大切な存在。でも…五月雨は…。

 

「ゆっくり考えればいいさ。提督も私たちも。五月雨の意思を尊重するぞ」

 

日向がわしわしと頭をなでて笑ってくれた。結果を急ぐ必要はない。

 

「もし離れることになったとしても、永遠の別れではないのですから、離れていてもサミダレを思いますよ」

 

サラトガもそう笑ってくれた。

 

けどそれが五月雨の心を締め付ける。この素敵な仲間と一緒に…これからも…。でも…刈谷提督が…。五月雨はますます頭を痛めることになった。

 

………

 

「五月雨はたぶん、大湊に残ると思うんだよな」

「あらぁ、提督はそう思っているの~?」

 

「こっちに来ても昔五月雨とやってた奴はいねえしな。それよりかは大湊でやってる仲のいい奴らとやるほうがいいと思うんだよな」

 

刈谷提督も五月雨のことを考えてみたが、大湊にいるほうがいいんじゃないか、と思った。確かに自分の艦娘ではあるが、今の大湊の艦娘と築いてきた時間が長い。それを引き離してもいいのか…?と思う。

 

刈谷提督は一時、能代や卯月たちに悪魔のような提督と思われていたが、その実は優しい提督である。海防艦を抱っこして寝ていたり、ミスターKと言う匿名で艦娘においしい食材やお菓子などを送ってみたり。

 

「五月雨の意思に委ねるっつー言い方は失敗だったかもな」

「五月雨ちゃん、今頃パニックになっているんじゃな~い?」

 

「チッ…」

「かといって、じゃあ大湊にいなさいって言うとまた誤解を招きそうですね…」

 

「おい能代、なんかいい方法ねえか」

「ええ!?わ、私に言われても困ります」

 

「チッ、使えねえな」

「提督が五月雨さんを追い詰めるようなことを言うからこうなったんでしょう?」

 

「テメエひでえ奴だな」

「どっちがですか!!」

 

ぎゃーぎゃーと提督に抗議する能代を無視して、考える提督。五月雨はどういう答えを出すんだろうか。結果によっては俺を恨むか?いや、あいつはそんなことは考えないだろう。どんな答えを出そうと、あいつは元気いっぱいに答えを教えてくれるだろうとは思う。ただ、自分勝手だな、と自己嫌悪した。

 

「全部は大府が悪いと思うのよねぇ」

 

「それは言えてる。けどな、それでも寄り添ってくれようとしていた五月雨を突き放して大湊に行かせたのは俺だ。途中で自分のわがままで艦隊を解散させたんだからな。五月雨だけは気にかけたが、ほかの艦娘に関してはよその提督に投げちまったしな」

 

この件に関しては今でも飛龍はいなくなったがそのまま艦隊を運用していても問題はなかったのではないか?とも思ったが…大府が昇進し、権力を持つようになってしまったために、おそらくだが次から次へとあの手この手でこちらを貶めようとしてきただろう。上郷の爺さんや三好の爺さん、そして清州のおっさんが徹底的に守ってくれたおかげで新たに艦隊を編成したときは何もなかったが。

 

「結局、たらればなんだよな」

「解散していなかったら今こうして克己さんに会うこともなかったわけだしねぇ…」

 

「そうなるな。そして、大府をここまで追い込むこともなかったかもな。これもたらればだ」

 

艦隊を解散せずとも大府を叩き潰せたかもしれない。しかし、荒れ狂ったままだったかもしれない。龍田とは違う艦娘と恋に落ちていたかもしれないし、していなかったかもしれない。しかし、俺の選択は間違っていないと思っている。

 

龍田がいたから俺はこうしていられるんだろうからな。そして、そのおかげで…親父を失ってしまったが、いい後輩を持てたもんだ、とも思っている。

 

「五月雨のおかげで俺は道を踏み外さずにここまでこれた。これだけは間違ってねえと思ってる」

「ふふっ、そうねぇ。いろいろあったけど、いい鎮守府になったわよねぇ」

 

「ああ」

「はい、みんなの士気も高いですし!ミスターKの支援もありますうわっひゃあああ!?」

 

冷たい麦茶の入ったグラスを能代の腹につけると悲鳴をあげた。能代は麦茶をぶっかけようとするし、龍田まで能代にいたずらをしてさらに大騒ぎ。日振が飛んできて「ケンカはダメですよー!」と怒られてしまったのだった。

 

………

 

翌日、執務をしているとバァン!と勢いよく五月雨が執務室に入ってきた。

 

「提督!答えを決めました!!」

 

「五月雨さん?そんなに急がずとも…」

「提督よ。五月雨はもう決心したんだぞ。これ以上迷わせてどうするのだ」

 

「ぐ…それは…そうですね…」

「はい!提督!五月雨は!大湊のみんなと!一緒にやっていきます!」

 

一宮提督は刈谷提督のもとへ帰るのではないかと思っていたのだが、予想外だった。

 

「大湊のみんなと過ごした時間のほうが、わたしには大切だと思っています。刈谷提督と過ごした時間も大切ですけど…今は…それよりも一宮提督や日向さん、由良さんや利根さん…吹雪ちゃんたちとやってきた時間。そして、これからも続いていくここでの時間を大切にしたいんです」

 

「それは私も嬉しいことです。私も五月雨さんと築いてきた時間は何物にも代えがたいものです」

 

五月雨は部屋に戻ったあと、刈谷提督とやり取りした手紙を読み返していた。それと同時に、一宮提督、日向、由良、利根、吹雪と写った写真を眺める。

 

………

 

「五月雨って言います!よろしくお願いします!」

「私は一宮と申します。よろしくお願い致します」

 

「あっ、はい!こちらこそ…」

 

 

優しそうに笑う提督。この人を支えていけばいいんですよね…わたし、頑張ります!

 

そうして大湊警備府と言うところで五月雨の新生活が始まった。一宮提督はとても優秀で、それを刈谷提督にお手紙で伝えたところ「よかったな、いい提督で。新米だからビシビシいけよ」とのことだ。

 

いや、そんなことできませんってええ!?と手紙に向かって叫んだ。

 

作戦の失敗をしても一宮提督は怒ることはなく、五月雨にこう言った。

 

「失敗は成功の基です。これを糧によりよく艦隊を運用できるように精進します」

 

刈谷提督がよく言っていた失敗は成功の基。これを一宮提督もよく口にしていた。一宮提督と兄弟…?と思うほどだった。全然違いますが…とのちに聞いたら否定されたが。

 

艦隊が大きくなり、アメリカのきれいな艦娘もやってきて…ジョンストンさんと提督のおじいさんの絵の話で盛り上がったり。アトランタさんとお肉の取り合いをしたり。

曙がクソ提督うううう!!!と怒鳴りこんでくるのを止めたり。潮と一緒にソファでお茶を飲んでまったりしたり…。

 

素敵な時間を3年近く過ごしてきた。写真もいっぱい撮った。思い出がいっぱいでここから離れるのは…刈谷提督ともいたいけど…みんなとの思い出がいっぱい詰まった大湊警備府のみんなと離れたく…ない!

 

「提督…刈谷提督に電話をしてください」

「え、ええ…」

 

強い目だった。それに圧されて一宮提督は慌てて電話をかける。日向はその隣で五月雨を見てふふ…と笑った。それを見た五月雨はうん!と力強くうなずいた。

 

「ああ、大湊の一宮です…あの、五月雨さんが刈谷提督に伝えたいことがあると…」

 

受話器を渡される。もしもし…と言うと。

 

『久しぶりだな、五月雨』

「提督…!」

 

『どうした?俺に用か?』

「提督!五月雨は…!五月雨は大湊警備府で一宮提督と…みんなとやっていきます!!」

 

『……そうか。わかった』

 

それだけか?とも思うだろうが、五月雨と刈谷提督にはこれでいい。それだけ心はつながっているのだから。そして、刈谷提督が思った通りになった。いや、それでいい。

 

過去の俺についてくるよりも、今と、そしてこれから未来ある一宮と、そしてその艦娘たちとやっていくべきだ、とも思っている。

 

「でも…でも…お手紙は…お手紙と写真は…これからも送ってもいいですか?」

『ああ。いいぜ。いつでも送ってこい。俺は待ってる』

 

「……はい!」

『悪かった…俺のところに戻ってきてもいいんだぞって言ったのは…失敗だった。お前はそっちでやっていくほうがいいと今じゃ思ってる』

 

「…最初はずっと提督のところに帰りたいと思っていました。でも…今は…」

『一宮やそっちの仲間と楽しくやって…思い出もいっぱいできて。楽しいよな』

 

「楽しいです…でも、刈谷提督を…裏切ってるんじゃないかって…」

 

『んなわけあるか。それでいいんだ。五月雨、お前はお前で居場所を見つけて楽しんでるんだったらそれでいい。俺のことは気にするな。飛龍を沈めた奴は終わった。俺は俺で佐世保の連中とやっていくしかないからな。それを五月雨に強要はできない』

 

刈谷提督と五月雨。それぞれの場所での生活があるし戦いがある。これを無理やり潰して一緒になったところで不幸しか生まないように思う。だから刈谷提督は帰ってこいと言う言葉に反省した。

 

「う、うう…提督…!」

『また手紙をくれ。お前が元気だと俺も嬉しい』

 

「毎月…送ります…!」

『ああ、待ってるぜ』

 

多くは語らずとも、話はまとまった。

 

『一宮。五月雨泣かせたら降格させっからな』

「ええ、気を付けることにします」

 

『んだよ、七原と違って面白くねえな』

「七原提督を追い詰めないでくださいよ…」

 

その後、馬刺しに続いてからしレンコンを送ってやる、と言われて馬刺しだけで十分、いや、送らせろの問答となって笑って終えることができた。

 

………

 

「提督!艦隊が帰投しました!」

「お疲れ様です、皆さん。今日のところはもう出撃などはありません、ゆっくり休んでください」

 

こうして五月雨は大湊の一員として続けていくことになった。刈谷提督との文通、電話は続けている。でも、五月雨は大湊警備府の五月雨として、これからは生きていくことになる。

 

「えへへ、提督!これにサインをお願いします!」

「あの…五月雨さん…これ一枚ずれていますよ…」

 

「ええ!?えええええええ!?!?!?」

「冗談です」

 

「提督!?もう!もーーーー!!!」

「ははは、すみません。さあ、事務仕事を続けましょう」

 

………

 

「日進!今日と言う今日はぜーったい許さんからの!!我輩のあんみつを…よくもーーー!!」

「いつの話をしよるんじゃ…結局あの後食堂に戻ってこんじゃったろが」

 

「我輩のあんみつーーー!!返すのじゃーーーー!」

「うるさいのう!!!もう食べてしもてないわい!!!恨むんなら食べ残した己を恨まんかい!!」

 

「てーとくーーーー!!!!日進が我輩のあんみつたーべーたーーー!」

「利根さん!ほら、間宮羊羹ですよー!」

 

「おお!五月雨!でかした!!!!我輩ご機嫌じゃ!」

「羊羹一本で現金なもんじゃのう」

 

「やかましいわい!!!」

「あーもうけんかはやめてくださーーーい!!」

 

駆逐艦「五月雨」は今日もいろいろと…忙しいけど楽しい毎日を大湊警備府の一員として過ごしている。




刈谷提督の五月雨は大湊警備府の一員として生活することになりました。
ですがこれでいいのです。五月雨は大湊のみんなとわいわい楽しく生活を送ることが今は幸せなんだと思います。離れていても刈谷提督と心でつながっています。電話も文通もできます。それで五月雨は幸せです。それと同時に仲間と共に過ごす時間を大事にして生きていくことがいいんだと思い、この話を書きました。

さて、次回は何を書こうかな?と思っています。刈谷提督のお誕生日パーティーのお話でも書こうかな?うーちゃんが超がんばるお話なんかいいかなって。しばらくは戦闘から離れた提督のお話にしようかな、と思っています。

七原提督の佐伯湾泊地異動の話とかも考えています。

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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