提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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刈谷提督のお誕生日をお祝いすると同時に、大府に関する動きもあります。
大府がどうなっていくのかはもう少し後のお話になります。

今回は睦月型と海防艦によるほのぼのした佐世保鎮守府の一コマをお楽しみください。

3/17 致命的なガバを発見したので大幅修正しました。


第二百八十二話

「ふっふっふーん…これで…これで司令官を驚かせてあっと言わせてやるぴょん!!」

 

「だ、大丈夫なのかなぁ…司令官、怒ったりしないにゃし?」

 

「あー、大丈夫じゃねえの。司令官、むしろそういうのすごい喜びそうだけど」

 

「さすがもっちー!司令官のことがよくわかってるね!」

 

「いや…あたしは別にー…」

 

佐世保鎮守府、駆逐艦寮では秘密会議が行われていた。睦月型が全員集まり、刈谷提督にあることを行おうと計画をしていた。そこに鼻息荒く話を聞いているのが、海防艦のリーダー的存在である択捉と日振だった。

 

「わあ、素敵です!司令なら絶対喜んでくれます!」

 

「うんうん!日振たちもお手伝いします!」

 

「よーし、それじゃあ秘密の大作戦を実行するぴょーん!」

 

「「「おーーーー!!!」」」

 

「あ…」

 

意気揚々と全員が手をあげたところで秋雲が声をあげた。

 

「で、みんなアレの作り方知ってんの?」

 

「「「…………」」」

 

「いや、秋雲が知ってるんじゃないの?って顔されてもさ…秋雲、知らないよ?」

 

「司令官ファンクラブナンバー2がそんなんじゃダメダメぴょん…」

 

何そのファンクラブ!?ってかすごいバカにされてるよね!?」

 

「ファンクラブナンバーワンは誰なのさ」

 

「そりゃもっちーだぴょん」

 

「はあ!?なんであたしなのさ!そこは卯月だろ!?」

 

「うーちゃんはレジェンドなんだぴょん!だから会員ナンバーとかないんだぴょーん!」

 

「結局一番卯月が司令官を好きってことじゃん!いつも殺されるぴょんとか解体されるんだぴょんとか言っておいて!」

 

「それは過去の話だぴょん!」

 

いつの間にか卯月の司令官への好感度が振り切っていた。どうしてかは誰にもわからない。ちなみに秋雲はせっせと刈谷提督の似顔絵なんかを描いていることが多い。中には少女マンガっぽいタッチで自分に似せたヒロインと、ちょっと若返らせた刈谷提督とのいちゃラブマンガを描いてみたりしている。

 

龍田にバレたら殺されるかも…と言うぎりぎりのスリルがたまらないらしい。もっとも龍田はそんなことで殺しもしないし怒りもしないだろう。

 

「いいんじゃな~い?んっふふ♪」と言って許すだろう。なお、そこからR-18ネタを描きだしたらヤバイかもしれない。

 

会議は踊る。誰が司令官ラブのナンバー1なのかだとか、ファンクラブの会員規約とか、秋雲のマンガ読みたいとか。

 

「ね~え~、伊良湖さんにどうしたらいいか聞いてみたらいいと思うよぉ?」

 

「そうだよ!みんな何をケンカしてるの?ケンカはダメだよ!」

 

冷静に文月と水無月に言われてしまう卯月たち。はっ!?となってしまった。

 

「あと、作り方レシピの本もあります!ですけど…択捉達だけではわかりません!」

 

日振が隣でうんうんと自信たっぷりでうなずいている。おそらくだが、海防艦だけでも何かできないかと日々悩んでいたのかもしれない。

 

「司令!ケーキを作りたいので本がほしいです!」

 

鹿屋にいたころに択捉や松輪が提督に頼み込んで買ってもらったのだが、レシピがちんぷんかんぷんだったために結局一度も作ったことがない。いつかは必ずお作りするんです!とふんすふんすしていた択捉。ついにお作りする機会が来た!とかなり今回はやる気満々である。

 

「秋雲ー。サポよろー」

 

「秋雲さんは絵は描けるけど料理は無理だって!望月がやればいいじゃん!」

 

「あたしは食べる専門なのさー」

 

こんなので大丈夫なのかしら…?と不安になってきた如月や睦月だったが…。

 

「弥生…クッキーなら作ったこと、あります」

 

今まで沈黙を貫いてきた弥生が鶴の一声をあげた。

 

「やよやよ!お菓子作れるの!?」

 

「小麦粉とか、測るのは好きだし…司令官に作ったこともあるよ」

 

おおおお…と睦月たちがどよめく。

 

「睦月もあるよ!チョコだけど!」

 

「溶かすだけじゃーん」

 

「むむむ!!それがどれだけ大変かわかってないね、秋雲ちゃん!」

 

「じゃあ小麦100gとか測れるの?」

 

「しょぼーん…」

 

「作ってないのと作ったことあるじゃ全然ちげーし、秋雲」

 

「ぐっ…」

 

横須賀の艦娘のようにはいかない。むしろ横須賀が団結しすぎているだけであって、これが当たり前なんだと思ってほしい。

 

………

 

「ああ、お前春から佐伯湾泊地に異動な。もう異動する準備しとけよ。ああ?転勤だよ転勤。お前んとこの艦娘全員と異動だっつってんだろうが」

 

「刈谷だ」の一言で受話器からは「ぴっ!?」と言う声が聞こえ、いつになったら提督からの電話に慣れるのかしらね…と能代は思う。おそらくは数年はかかるだろう。

 

刈谷提督は副司令長官も兼ねているので人事権は一部彼が持っている。大本営の人事担当連中は大府亀一郎信者だらけだったし、大府を何とかして昇進させてやろうと躍起になっていた。大府贔屓が過ぎること。それ以外に関しては安久野や前宿毛湾のバカ、その仲間たちを雇い入れ、日本を破壊しようとする工作員かよ、と悪態をずっと吐いていたのだった。

 

かと思えば未来がありそうな七原を落とそうとしたり、一宮に関しては大府と敵対企業(?)の御曹司だからと落とそうとしていたらしい。成績優秀、艦隊運用も申し分ないパーフェクトな提督の素質を持つ彼を落とそうとしたことも、刈谷提督の怒りを買った。

 

「テメエらクビな。ほらよ、解雇通知。退職金も払いたくねえが払うんだからいいだろ?」

 

だいぶ吠えられたらしいが、大府に対する裏工作などを全部暴露したら黙って退職を飲んだので消えてもらった。堀内提督と「清々した」と言ったら古井司令長官は苦笑していた。

 

「相変わらずあいつはぴーぴーうるせえな…栄転だろうが」

 

「基地から泊地ならだいぶ艦隊運用もやりやすいわよねぇ~。私たちは基地から鎮守府だったけど~」

 

「佐伯湾は重要な拠点だ。レイテの件を鑑みても、七原が適任なんだよ」

 

「守りに強いから、ですか?」

 

「そういうこった。これからちっとだけ忙しくなるだろうからな」

 

「…深海棲艦が攻めてくるとか?」

 

「そういうこともあんだろ。九重と対策張ってもらうんだよ」

 

「よく予測できますね」

 

「フン。いつ来るかはわかんねえがな。必ず来る…ん?」

 

 

提督がクンクン…と何か匂いを嗅いでいる。

 

「何か甘い匂いがすんな」

 

「え?クンクン…そうでしょうか?」

 

「能代、テメエそんな嗅覚で深海棲艦見つけられんのかよ?」

 

「能代は犬じゃありません!気配と偵察機で探知できます!」

 

「つまんねーやつだな」

 

「矢矧!矢矧!!いないの!?」

 

こめかみに青筋を浮かべて矢矧に代わってもらおうとする能代だったが、残念ながら矢矧は不在であった。

 

………

 

「それじゃあ…スポンジを、作ります…弥生は卵黄を混ぜるから…卯月は卵白をこれで混ぜて」

 

「やよぴょん、これは何?」

 

「ハンドミキサー…それを使わないと大変だから」

 

「ぴょーん!!!すごいぴょん!それじゃあさっそく!」

 

「あ、あ!そんないきなり強くしたら…!」

 

バチャチャチャ!!!

 

「ぴょおおおおん!?」

 

さて、いざ司令官のためにケーキを作ろう、となったわけだが、レシピ通りになら作れそう、と弥生が言ったので弥生を先生にしてみんなでケーキを作っていく。日振や鵜来はイチゴのヘタを取る作業、そのイチゴをカットしていく睦月と如月(さすがに海防艦に切らせるのは危ないという伊良湖の過保護システム)。オーブンの番をする択捉と松輪。

 

さらには唐揚げを作ろう、と望月が言い出した(単に食べたかっただけ)ので夕飯もいろいろと作ってみよう、と言うことになった。

 

「ええっと…お醤油をこれくらい…お酒?えっと、お酒は稲木が取り扱ってもいいのか…?」

 

「飲むんじゃないんだから大丈夫でしょ」

 

「わかった国後!」

 

「じゃがいもを茹でるっしゅー!」

 

「あ、ああ!火には気を付けて占守ちゃん!」

 

「伊良湖さん…石垣も見てるから…大丈夫…」

 

「し、しかし、万が一火傷でもしたら大変だ…!この長門が火の番をしよう!」

 

「長門さん!それじゃあ占守たちが料理してることにならないっしゅ!」

 

「…………じー」

 

「福江ちゃん…火を見るんじゃなくて…卵を、見ましょうね…」

 

「ええ!?そうなのか対馬!?」

「卵、茹ですぎると…危険がいっぱい…」

 

「わ、わかったぞ…!じーーーーー」

 

海防艦と駆逐艦では危険が…いっぱい?

 

………

 

一方で刈谷提督はとある人物に電話をしていた。重要な案件だ。

 

「ああ。艦娘を洗脳、烏丸の殺害。それと清州副司令長官を艦娘を用いての殺害。これが海軍内でこいつが起こした事件だ。亀一郎を殺したとかなんざどうでもいい。軍内で殺人を起こしたことは重大な犯罪行為だ。こいつは安久野のバカ息子なんかと同じだ。法の下で裁きを下したくはねえ。こいつは海軍内で処罰する」

 

『承知した。私としても極上の囚人だ。私は私情をあそこに行く場合は持ち込みたくないのだが、私も清洲さんには世話になった恩がある。手が出せないのがもどかしいところもあるが、奴が死にゆくさまを私が見届けよう』

 

「ああ、よろしく頼む。間もなく移送の準備が整う」

 

『わかった。では私もあの場所へ向かうとしよう。北上君にも伝えなくてはならないね』

 

彼が話をしているのは瀬戸内の決して逃げられない監獄の番人、足助 雅(あすけ みやび)だった。その内容は、海軍史上類を見ない極悪の犯罪者、大府 和雄の件。

 

祖父である大府喜一郎の権力を存分に使い、昇進、そのほかハラスメントのもみ消し。五ヶ丘提督の殺人未遂。祖父の喜一郎殺害。そして、駆逐艦「舞風」を使った清州副司令長官殺害事件。

 

「こいつとは20年以上の付き合いだったが…何の思い入れもねえな。くたばるまで何か月もつかな」

 

『長いこと生きていると、私が給料泥棒のようになってしまうね…』

 

「いや、俺としては給料アップさせようか、なんて堀内と話をしてたところなんだけどな」

 

『むう…』

 

「お前と北上には精神的な負担になるだろ。その期間は特別手当を出すからな。特殊任務手当ってことでな。そうでないと割に合わねえ」

 

『私は趣味のようなものなんだがね…』

 

「怖えよその趣味」

 

『そうでなければこのような役目に就こうなどとは思わんよ。だから私の給与は今のままで変わらなくて構わんよ』

 

足助氏は監獄の番人。特に艦娘に対して劣情を抱き、非道の行いをする者には容赦がない。それは今、助手として彼のもとにいる北上が、性的、精神的、当然ながら肉体的にも暴行を受け、心に大きな傷を負ったことに起因している。

 

刈谷提督も知っている。北上が負った傷は深く、艦娘の精神病棟に入り、夜な夜な絶叫したり自傷をしたりととにかく病んだ。そのことをどこからともなく耳にした足助は、艦娘を救いたいと思う気持ちと同時に、艦娘に対して非道を行っても罰せられることもなく、のうのうと提督を続けている。それが許せなかったのだ。

 

そうして彼は提督と言う役職を降り、古井司令長官や清州副司令長官に陳情した。

 

「艦娘に暴行を働いておいてのうのうと提督を続ける下衆がいることが我慢ならないのです!奴らには罰を与えなければ、今後も艦娘たちの立場が下に見られたままだ!!!」

 

彼もまた、艦娘に対しては娘のような、妹のような存在。それを己の醜い欲望を満たすための道具にしか扱わない提督たちが嫌いだった。今の大本営の刈谷提督が役立たずと言った老害や、やめていった者たちだ。罪の意識もなく、罰せられることもなく、注意をされてそれが気に入らずにやめていったのだ。

 

それをひたすらに訴え続けて数年、ようやく古井司令長官ではなく、清州副司令長官が足助に問うた。

 

「刈谷とも話を進めてきたが…君が言う非道人に対して処罰を行う場所を設けた。そこに、君が強く訴えかけてきたので番人をしてもらおうと思う。私たちが行うことは日本の法とは違う闇の裁き。罪人は日本国憲法ではなく、私、刈谷が決めた方法によって裁くことになる」

 

それこそが「何もしない、何もできない」と言う裁きである。聞いているだけでは温いと思うだろうが、何もできず、発狂しようが何もしてくれないと言う拷問。そう、清州副司令長官は足助に対して拷問を行う拷問師になれと言うのだ。

 

「君にその覚悟があるかね?」

 

冷え切った目で足助を見る清州副司令長官。しかし、彼は一つ息を吐くと修羅のような顔になって返した。

 

「ええ。もちろんです。そうでなければ、私は貴方方に訴えかけなどするはずがない。奴らを葬ることができるのであれば、私は鬼にも悪魔にでもなりましょう」

 

「………では任せよう足助君…くれぐれも無理はせぬようにな」

 

こうして足助 雅は番人となった。

 

『ついに大府か。これが私の最後の仕事になることを願うね。これ以上極上の囚人はいないだろうからね。つまらない罪人で、大府の味を失いたくはないのでね』

 

「ああ、それならとっとと追放でいいだろ。こいつ以上の奴は絶対に現れないだろうしな」

 

『そうか。それならば私は大府を心置きなく見届けることができる。しかし、奴は狡猾だ。おとなしく収監されるほうが不気味なのだがね』

 

「そのへんは逐一連絡をくれ。俺とお前で大府をやっちまおうや」

 

『ふふ…そうだな。君がいるならば心強い。君にあやかるとしよう』

 

「おう。清州の親父の敵討ちだ俺は。お前はお前の職務を全うしろ」

 

『そうさせてもらう。ではこちらに奴が来ることを楽しみにしているよ』

 

大府と聞いてあいつ心躍らせてやがると笑いながら電話を切った。龍田はにこにこしているが、能代と矢矧はものすごく嫌そうな顔をしている。嫌な話を聞かされた、と。

 

「んだよその面」

 

「もう何だかいろいろと諦めました。龍田さんはよくこの話を聞いていて笑顔でいられるわね…」

 

「だってぇ、提督の実質のお父さんを殺したのよ?死んで当然だもの~」

 

この人に聞いたのが間違いだった…この人は提督に心底惚れて結婚するくらいの人だもの。大府提督が捕まり、恐ろしいことになろうが一切気にしないどころか喜ぶわね…。

 

「それよか腹減ったな。食堂でも行って飯でもなんか食うか」

 

「?!て、提督、この矢矧が作ってきてあげるわ!」

 

「ふん。チビ達が何かやってるな?なら行かないでおく」

 

「…!?な、なんで知ってるんですか!?」

 

「今の矢矧と能代の面、食堂に行かれたらまずいってことだろ。龍田、きつねうどん」

 

「は~い」

 

「あ、私も…」

 

「能代も…」

 

「食堂行けよ」

 

「だって…龍田さんのおうどん、おいしいんですもの…」

 

「だとよ」

 

「は~い♪」

 

冷凍うどんだがそれがうまい。龍田のつくるダシは絶妙だ。時々事務仕事が夜遅くまでかかったときに作ってもらううどんの味に、能代も矢矧もとりこになってしまっていたのだった。

 

「は~い、お待たせ~」

 

待つことしばらく。シンプルなきつねうどんが出来上がり。能代や矢矧はおいしいと言って食べ、刈谷提督は無言で食べる。人の作ったものにはよほどでなければ文句は言わない。こうして何を企んでいるのか、なんとなく悟った刈谷提督は執務室にこもって待機するのだった。

 

………

 

「んっしょ…うんっしょ…ぷはっ!こ、これは疲れるな!」

 

「福江、交代!この佐渡様がやってやるぜー!」

 

「あたいもやるぜー。どいたどいたー!」

 

踏み台に乗って一生懸命ゆでたジャガイモを潰していく海防艦たち。これはポテトサラダを作るためだ。望月がタマネギを薄くスライスしている。ポテトサラダに入れるため。

 

「なー、伊良湖さん。ポテサラにタマネギって入れるもんなのか?」

 

「何を言っているんですか。入れないとおいしくありませんよ」

 

「えー…」

 

「もっちーは生のタマネギが嫌いなんですよ。おいしいですよね」

 

「おいぃ三日月!それを言うなよ!」

 

「これは提督に報告が必要ですねぇ…」

 

「ちょ、まっ、やめてってー!」

 

意外と我慢してはいるのだが、望月はタマネギが苦手。カレーなどに入っている煮込んだのならいいが、サラダなどに入れられるのは辛さと匂いがダメらしい。三日月だけが知っていたのだが、ついに伊良湖にもバレてしまった。

 

「はい、望月ちゃん。今日はちょっと増量しましょうね」

 

「ええー!?いやだって言ってんじゃんかよー!」

 

「だーめ!伊良湖さん、ありがとうございます!」

 

「望月よ、私はブロッコリーを克服したんだぞ。好き嫌いしていると、司令官にもっと増量させられるんだぞ!」

 

「グリーンピースににんじん…ブロッコリー…全部克服したぞ、望月」

 

「ぐう…ながながに菊さんまで…わかったよー、食べるよー!」

 

「ふふふ、菊月ちゃん、長月ちゃん、ありがとうございます♪」

 

ポテサラは海防艦と望月が協力してうまくできそうである。

 

「んやー…」

 

「なんだ望月。その情けない声は」

 

「いやさー。ちょっと前まで死ぬほど大変だったじゃん?レイテはすごい戦いだったし。それよりか、司令官、殺されかけたし…」

 

望月の言葉に長月たちは顔が険しくなる。銃声のようなものが聞こえてきたと思ったら、愛宕が血相を変え、血まみれになりながら走り回って「今すぐ自分のお部屋に戻って!いいって言うまで絶対に出てきてはダメよ!」とだけ言われ、何事かと思ったものだ。

 

望月はすぐさまに司令官に大府とか言う奴が何かを仕掛けてきたのだと思った。

 

「し、司令官が大変だぴょん?だったら早く助けに行かなきゃ!」

 

「待てって。助けに行くったって何すんのさ。相手はさっきの音…銃持ってるし、あたしら艤装も装備してないんだぞ?女の子の力しかないのに」

 

「た、弾除けにはなるもん!!司令官が…司令官がぁ…ぐひっ…ひっひっ…」

 

涙を流して望月をにらむ卯月。弥生も真剣な顔だが泣いている。何もできなくてこうして部屋で震えているしかできない自分を。それは睦月や如月も同じ。唇を強くかみしめているだけだ。

 

「提督は…こんなことじゃ死なない…」

 

秋雲がそういう。しかし、相手が銃を持っているんだ。提督は人間。艦娘とは違う。撃たれたら…死ぬというのに!!

 

「で、でも…」

 

「逆に行って秋雲たちが捕まって人質にでもなったら?それこそ提督が殺されちゃうよ」

 

「じゃあどうしたらいいの!?うーちゃん!司令官がいなくなるなんて考えられないよ!!!」

 

「だからって出て行って提督を殺そうとしてるかもしれない人間に捕まったらどうすんのって!!」

 

「うーちゃんがぜーったいに司令官を守るぴょん!!!!」

 

「無理だって言ってんだろ!?艤装もないのに!!」

 

「うう…うえええ!!!やだあああああ!!しれーかーーーん!しれーーかーーーん!!!」

 

「泣きたいのは…秋雲さんだって…ぐっ…うううう!同じだもん…!!!」

 

「みんな、落ち着いて?司令官はすごい司令官でしょ?だから…司令官は大丈夫だよ…きっと」

 

如月が震える声で卯月や秋雲を落ち着かせる。

 

「……司令官はとても頭がいい。だから、どんな状況でも司令官が不利だろうと、それをひっくり返す。そう信じている」

 

菊月が口を開く。目が泳いでいて、混乱はしているが…司令官を信じているという。どんな危険な状況でも、報告一つでそれを逆転させてしまう人だ。

 

どんな時でも決して慌てることもなく、いつもの自信たっぷりな笑みでそれを覆す。そんな司令官が負けるとは思えない。長月も手をぎゅっと握りしめながらも菊月の言葉にうなずいた。

 

長月と菊月は「俺を信じてりゃ戦闘にも出れるようになるぜ」と言う言葉を信じた。結果として本当に砲すら満足に持てず、撃てなかった2人は今やこの睦月型、そして佐世保の駆逐艦の中では群を抜いてレベルが高い。だから、菊月が言ったピンチをひっくり返してしまう。それを信じた。

 

 

 

パアァァァン…!

 

 

 

再度銃声。一発だけだ。

 

「ね、ね~え~…今のって…ピストルの音…かなぁ?」

 

文月が涙目になって誰に言うでもなしに聞いた。全員が息をのむ音だった。

 

「い、今ので司令官が!!司令官!しれーーかーーーん!!!」

 

「お、落ち着け卯月!!!」

 

 

 

そうして卯月が部屋を飛び出そうとしたとき「みんな無事ですか!?」と飛び込んできた人物がいた。伊良湖だ。

 

「伊良湖さん!しれーかんが!!!しれーかんがぁ!!」

 

「提督なら心配いりません!今、来客用の宿舎に隠れていた憲兵さんが執務室に向かっていきました!それに、提督はそう簡単に殺されるような人ではない…と思います!卯月ちゃん、落ち着いて!提督ならきっと大丈夫…だから」

 

卯月を抱きかかえ、諭す。ブルブルと震えて泣いている卯月を優しく少し揺らして落ち着かせていた。

 

「け、憲兵が…?そんなのいつの間に…」

 

「望月ちゃん。おそらくですが提督は…今日こう言うことになるだろう…と予測していたんだと思います。長門さんから話は伺っていますが、大府、と言う提督と長門さんの大切な方を手にかけた人が来ることを。銃声がさっきのものとは違います。提督が反撃でもしたんじゃないかと…」

 

「こ、殺しちゃった…のかな」

 

「そ、そこまではしないとは思いますが…」

 

 

ダァン!!!

 

「ま、また…」

 

「また音が違う…一体どうなっているの…?」

 

「うっうっ…うぅぅ…しれぇかん…」

 

「卯月ちゃん。大丈夫よ…大丈夫…」

 

「伊良湖さん…あたしも…信じる。司令官がそう簡単に死ぬわけないし…」

 

「そうでしょう?ここに私もいます。少しでも気がまぎれるかもしれないから…」

 

………

 

「あんときの卯月、マージで突撃しそうだったからなぁ」

 

「司令官のピンチだったぴょん!!でも…すごく怖かったぴょん…」

 

「一番に司令官が姿見せたとき抱き着きに行ってたもんなぁ。すぐに殺されるぴょん!とか言ってたのが懐かしいな~」

 

「あの時はあの時ぴょん!今は司令官はそんなことしないって信じてるもん!」

 

「よお」と刈谷提督が駆逐艦の寮に顔を出したとき、卯月はもう鼻水から涙からダラダラ流して提督に抱き着きに行っていた。病院帰りで肩に包帯が巻かれていたのでピタッと止まり、「う゛う゛う゛う゛う゛」と唸りながら必死にこらえていたのだが。

 

「ぴょおおん!それは言わないでほしいぴょん!!」

 

「ケーキ焼けました!!!うわぁ、いいにおーい!」

 

鵜来がキッチンミトンを手にはめてオーブンからできたてのスポンジケーキを満面の笑顔でテーブルに乗せた。ホカホカと甘いにおいがするスポンジ。

 

「クッキーも焼けました」

 

別のオーブンで弥生がクッキーを焼いていた。

 

「へっへーん!いただ…あつ!あちゅ!んんんんん!!!」

 

「大ちゃん!!!!」

 

「あー…なんかしんみりするにしちゃ賑やかすぎだよね、もう」

 

「うーちゃんがクリームを塗っていくぴょん!!!」

 

「切り替え早えなぁ…」

 

スポンジを切り分け、ペタペタとクリームを塗っていくのだが…。

 

「雑ぅ!!!」

 

意外にそのあたりが細かい望月が卯月からクリームをひったくって丁寧に塗る。卯月がものすごいふくれっ面をしていたが気にしない。いつも言葉には出さないが大好きな司令官のためだ。せっかくだからきれいなケーキを用意したい。そう望月は思っていた。

 

「ああ、睦月さん!熱いよ!熱いから気を付けて!」

 

「やけど…しんぱい…油、パチパチ怖い…」

 

「八丈ちゃん、能美ちゃん、心配しないで大丈夫にゃしぃ~。お姉ちゃんにお任せ~!」

 

「水無月がお箸でコロコロと…しっかり揚げるね♪」

 

「ご飯炊けたよ~♪」

 

「うわぁ、ご飯がきらきらです!」

 

「松輪ちゃん、大成功ですね!」

 

「平戸ちゃん!うん!」

 

料理もケーキ作りも佳境。みんなそれぞれが大好きな司令官のために思いを込めて作っていく。

 

そして。

 

「できたにゃしー!!!」

 

「うふふ、みんなお疲れ様~!」

 

睦月と如月がばんざーいと手を挙げて喜びを全力で表す。それにあわせて海防艦も大騒ぎだ。ちなみによつたち丙型海防艦はお昼寝中である。起こそうかとも思ったが、哨戒に朝早くから出ていたので起こすのもかわいそうか…と思ったのだった。

 

「択捉!司令を呼んできます!」

 

「福江も行くぞ!」

 

「占守もいくっしゅー!!」

 

「日振も行きます!」

 

わーっと4人が駆け出していく。それを見送った後、最後の準備だ。

 

10分後、わいわいと択捉や日振が刈谷提督の手を引いてきた。

 

「ふーん、これは…」

 

「「「お誕生日おめでとうございます!!!!」」」

 

駆逐艦、海防艦が揃って刈谷提督の誕生日を祝う。その言葉にぽかんとした表情だったが、すぐにふっ…と柔らかい笑みを浮かべてまずは卯月の頭をなでた。

 

「お前らが考えてくれたのか?誰かに誕生日を祝われたことなんざなかったから、正直驚いてるよ」

 

「むっふっふー♪これを考えたうーちゃんをもっとほめるぴょん!」

 

「最初に考えたのは日振や鵜来だけどなー」

 

「もっちー!それは言わないお約束だぴょん!!」

 

「でも、卯月さん達がいなければ!鵜来達だけではここまで大きなお祝いができませんでした!ありがとうございます!」

 

いやぁ…えへへ…と卯月がもじもじしていた。

 

「司令官…いつも…うーちゃんたちに良くしてくれて…ありがとうございます…ぴょん。だから…みんなで…作ったんだよ…?」

 

もじもじと卯月がそういうと、大きな手でわしわしと卯月の頭をなでた。

 

「えへへ…!」

 

「提督!せっかくですから今から食べてください!熱いうちに!」

 

「おう。ちょうど腹も減ったところだ。伊良湖、『神々のリンゴジュース』全部出せ。こいつらに振舞え」

 

「はい!ふふふ!提督はお酒、何か飲みますか?」

 

「そうだな。マッカラン出してくれ。めでてえからな」

 

「はい!皆さんのも、提督のお酒もすぐにご用意しますね!」

 

そのうちご飯の時間になると球磨達や能代達もやってくる。楽しそうにご飯を食べている海防艦や駆逐艦をみて、今日はもう仕事はおしまいね、と肩をすくめる矢矧。

 

「ほらよ、日振。お前らが頑張ったケーキだ。うまいか?」

 

「あむっ…おいしいです!」

 

「あー!あたいも!あたいも頑張ったんだからな!」

 

「ほらよ、うるせえな」

 

「んむっ!うまいな提督ぅ!」

 

「そうだな」

 

初めて会ったころはこんなこと想像もできなかった。今は…こうして穏やかな顔をして海防艦にせっせとケーキを食べさせている提督。それを見て自然と能代も笑顔になった。

 

「能代さん!この唐揚げ食べて食べて~。文月とさっちんで揚げたんだよぉ~」

 

「まあ、そうなの!?火傷はしなかった?」

 

「うん!火傷はしてないよ!それでねそれでね!きれいにできたんだぁ!」

 

「ふふっ、ならよかったわ。ん!おいしい!」

 

「「いぇ~い!!」」

 

能代達も加わって、刈谷提督のお誕生日を盛大に祝う佐世保鎮守府の一同だった。




刈谷提督の幸せなひと時でした。
設定では40代前半をイメージしています。龍田たちとはずいぶん年が離れた結婚になるのでしょうが、龍田たちは気にしていません。そしてまだまだ若いですよ、刈谷提督は(笑)

大府については問答無用で監獄行です。公には消息不明、逃走を図ったと言う情報を流しており、大府亀一郎の信者が行方を必死になって探しているという裏設定があります。
一生見つかりませんね。

次回はサラっと出た岩川基地の七原提督が佐伯湾泊地に移るお話です。若手がガンガン出世していきますね。めでたいことです。

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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