提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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今回は横須賀鎮守府。あの子が何と商店街デビューです。


第二百八十四話

「しれーかん。かすみもかわいいおようふくがほしいの」

 

夕飯を作っているとき、大和と一緒にとことことやってきた霞がそう言ってきた。

 

「霰ちゃんや雪風ちゃんがお洋服を見せ合いっこしてるところを見ていて興味がわいたみたいです」

 

「霞にも合いそうな服は確かに松子おばさんから買ったりしてるけど、霰たちは自分で選んだやつだからな。見せ合いっこしたくなるよな。それに触発されたか。霞も女の子だもんなー」

 

今、霞が着ている服もかわいらしいものだ。猫耳が付いたフード付きのパーカー。にゃんこさんだぁ!と目を輝かせて喜んで毎日のように着ているお気に入りだ。

 

雪風や霰と言わず、横須賀の艦娘は結構オシャレに敏感であり、特に駆逐艦なら村雨。巡洋艦なら五十鈴と摩耶。戦艦なら武蔵が意外にもオシャレのセンスがある。摩耶は特に霞に甘いので、霞に合いそうな服を見繕っては買ってきて「あいがと、まよおねえちゃん!」と愛も変わらずまよ呼ばわりして「とほほ…」と言っている。でも摩耶はあきらめない。いつかきっと、まやおねーちゃんと呼んでくれる日が来ることを信じて。

 

洋服がほしいということだが、霞には懸念点が多い。まず、霞は玲司以外の人間を知らない。そして外の世界を知らない。その知識もない。外に出て、かつてのトラウマが蘇ってしまう可能性が高いのだ。でも、だからと言って頭ごなしに否定してはかわいそうである。

 

「そっかそっか。霞もかわいいお洋服がほしいよな!」

「うん。しれーかん。かすみ…ほしい、いい…ですか?」

 

こういう時霞はおずおずと上目遣いで玲司の機嫌を気にする。もちろん玲司がこんなことを言っておしおきだ、とか怒ったりするはずがないのだが、やはりいつまでも「お前は悪い子だ」と言う言葉が染みついてしまっているせいで何かと様子をうかがってしまうのだ。

本当なら、お洋服がほしい、と言う言葉さえ震えるほど怖い。でも、しれーかんなら大丈夫…とようやく信頼を得たということだ。玲司はそれが嬉しかった。

 

以前なら「しれーかん…あの、あのね…」とものすごく怯えながらあれがしたいこれがしたいと言ってきたものだが。

 

「そうだなぁ。松子おばさんや梅おばさんたちなら大丈夫だろ。よーし、霞。鎮守府のお外へ出てみて、一緒にお洋服を買いに行こうか」

 

「しれーかん。おそと、いってみたい、です。かすみ、いいこにしてるから」

「おう、霞はいつもいい子だぞ。お洋服見て、ケーキでも食べようか」

 

「けーき!!!かすみ、けーきたべたい!!」

「あはは!よしよし、時間を作ろう。大和お姉ちゃんと妙高お姉ちゃんも来てもらおうな」

 

「うん!!あられちゃんも!」

「よーし、じゃあ霰もお誘いしような」

 

「ちょーーーっと待ったーーーーー!!!」

「ひゃあ!?」

 

「摩耶うるせえなぁ…霞がびっくりすんだろ。なんだよ」

「霞の服をしょっちゅう選んでんのはあたしだぜ!?あたしを置いていかねえよなぁ!?」

 

「だってさ、霞。どうしよう?まよお姉ちゃんにも来てもらうか?」

「摩耶だ!」

 

「うーんとぉ…うーんとぉ…まよおねえちゃんも、きてもいいよ?」

「なんで疑問形…?」

 

「はははは!頑張れ摩耶!」

「ちくしょーーーー!!!」

 

こうは言うが、いろいろと遊んでくれたり、ご飯を食べさせてくれたり、お洋服を選んでくれたりしているので霞は摩耶のことが大好きである。大好きだからこそいたずらしたい?と言うところだろうか。子供の心なりのいたずらだ。だから霞はクスクス口を押えて笑っている。それほど摩耶を信用しているのだ。さて、まよと呼んでいるのは…?

 

………

 

「そういうことでしたら、お供しましょう」

「霰も…行きます。霞ちゃんのお洋服…楽しみ♪」

 

「わーい!」

 

あのねあのね!おようふくをね!あのね!あのね、かすみね!と興奮気味な霞の言葉をまとめた大和が説明をすると、妙高も霰も嬉しそうに同行すると言ってくれたのだった。霞は両手をあげて喜び、妙高に抱き着いていた。

 

「それにしても、霞さんがお外に出ようとしているなんて…」

 

「ええ。でも、霞ちゃんにはいい刺激になるんでしょうか?」

 

「そうですね…ですが、霞さんは人間に対して強い不信感と恐怖感があるはずです。多くの人間が行き交う場所…提督がいらっしゃるのなら大丈夫でしょう…」

 

 

「いざとなれば私たちで守ることもできます。何より、ここで霞ちゃんの希望を絶ってしまうのは…」

 

「確かにその通りです。どうなるかはわかりませんが、霞さんを信じましょう」

 

「霰も…守り、ます」

 

「おねーちゃんたちなにおはなししてるの?」

 

「霞ちゃんが安心してお洋服を買いに行けるようにってお話ですよ♪」

 

「えへへ♪たのしみ~♪」

 

不安ばかりを募らせても仕方がない。今はこの霞の期待を胸に目を輝かせているかわいらしい姿を大和も妙高も見つめていた。

 

………

 

「よーし、霞。いい子にしてろよ」

 

「あ、あい!」

 

「大丈夫、だよ」

 

「あい!」

 

「緊張してんのか?」

 

「あい!」

 

「ダメだこりゃ」

 

「あい!」

 

大和と妙高に挟まれる形で車に乗り込んで座っているわけだが、緊張のあまりガチガチである。助手席には霰。三列目のシートに摩耶が座る。

 

「よーし、じゃあ出発進行~」

 

「ひゃあ、うごいたぁ!」

 

「出発…進行…♪」

 

「しれーかん!くるますごい!びゅんびゅーんって!」

 

「ははは。そうだろー。怖くないかー?」

 

「かすみこわくないもん!」

 

そう言いつつも大和と妙高の手をぎゅっと握っている霞。霞を見ていると妹である雪乃を思い出す。怖いテレビ番組なんかを見ていると怖くないもんって言いながら毛布を頭からすっぽりかぶってじっと自分の腕にしがみついていた思い出がある。

 

なるべく余計な振動なんかを加えないように丁寧な運転を心がける。その間、霞は恐怖半分だが外の景色を眺めていた。おねーちゃん、あれなぁに?と外の世界に興味津々。何度も何度も聞いてくるが、誰も嫌な顔をすることはなかった。

 

………

 

「つき、ました」

 

霰がそう言ってバンザイしながら車を降りる。霞は速い風景をじっと見ていたためか、目をぐるぐる回して「はにゃ~…」と言ってフラついている。

 

「霞ちゃん、大丈夫?」

「じーっと外見てたもんなぁ。あたしもフラフラしだすかんな」

 

「はにゃ~…かすみはだいじょうぶれふ…」

 

「ちょっと風にあたって落ち着こうか。榛名みたいだな、くくっ」

 

「さあ霞ちゃん、お姉ちゃんが抱っこしてあげますからね」

 

「ふにゃ~」

 

大和に抱かれ、風に当たりつつ商店街へと向かう。歩いているうちに周りの風景をきょろきょろと見回し、ちょっと緊張した面持ちになる霞。

 

「あらぁ大和ちゃん、こんにちは。あら…?」

「こんにちは!」

 

いつも買い物に来ているおばさんだった。野菜を徳さんのところで買ったのだろう。大和や霰たちはすでにみんなの顔なじみ。その中で大和に抱かれている見慣れない顔の銀色の髪の霰と同じくらいの女の子。じーっとおばさんを見つめ、指をくわえているその子を見たおばさんは…。

 

「はぁう~!何この子!かぁいいよぉ!?」

「ぴゃあ!?」

 

「あーおばさん、この子そういう大きな声苦手だから…」

「はっ!?ご、ごめんねぇ…あまりのかぁいさについ…」

 

「やまとおねーちゃん、ちょっとこあい…」

「ああ、大丈夫ですよ。優しい方ですから…ほーら、ごあいさつして?」

 

「………こんにちわ」

「はい、こんにちは。ごめんね。あ、そうだ。お詫びにこれあげるわね」

 

「わぁ~ちょこれーとだぁ!」

「霰ちゃんにもね」

 

「おばさん、最初っからうちの子が来た時用に隠し持ってたな?」

 

「あらやだぁ、玲司君。そんなことないわよぉ?おほほほほ」

「目ぇ見てから言ってださい」

 

「あいがとーございます」

「あぁん!かぁいいよぉ!」

 

「ありがとう、ございます」

「霰ちゃんもかぁいいなぁ!!!おもちかえりしたいわぁ!」

 

「誘拐!誘拐犯!こらマジで霰を連れて行こうとしないで!」

「きゃー」

 

「霰ものらないの!」

 

商店街でのファーストインプレッションはちょっと霞にとっては怖い、けどチョコレートおいしい。だった。

 

………

 

「あら~」

「ほーほーほー」

 

そうしていつもの美浜青果店、知多精肉店、半田鮮魚店へとやってきた。さっそく指をくわえてきょろきょろと落ち着きなく辺りを見回す霞をしげしげと眺めるのは梅と竹美である。

 

「霞ちゃん…です。霰の、お姉ちゃん…です」

「まー、ちょっとわけありでなぁ…」

 

「あ、う…えと…こんにちわぁ」

 

大和に抱かれながらも頭をぺこりと下げて挨拶する。それだけでほわぁ…と竹美たちの顔が緩む。

 

「はい、こんにちは。ご挨拶できてえらいねぇ」

「うんうん、こんにちは。いい子いい子」

 

「えへへ~♪おねーちゃん!ほめられた!かすみえらい?」

「はい!とってもおりこうさんですね!」

 

「えへへ♪しれーかん!」

「うん、霞はいい子だなぁ」

 

「こーんなかわいい子がいたなんてねぇ…でも…」

「人間ってのは怖えもんだな。こんな子をここまで…とはよぉ…玲ちゃんのとこにいりゃ安全だけどよ」

 

「よーし霞ちゃん、おいしいみかんだよ」

「ああ、徳ちゃんテメエずるいぞ!」

 

「あーん…みゅー!ちゅっぱい!!でもおいちい♪はい、みょうこうさん」

「あら、私にもいただけるのですか?あーん…ふふ、おいしいですね」

 

「ね♪」

 

霞の人見知り、いや、人間に対して恐怖を抱いているのではないか、と玲司や妙高は危惧していたのだが…杞憂だった。あっと言う間にみんなと打ち解けていた。過去がフラッシュバックし、初めて玲司と出会った時のようになるのではないかとも思ったのだが…。

 

玲司は安心した。妙高は玲司に感謝した。優しい司令官。優しい艦娘。その優しさだけを一身に受けて今までやってきた霞は人間に対する恐怖心がかなり薄れていた。だがそれだけではない。ちゃんと悪意のある人には大和の胸に顔を隠して見ようとも話そうともしない。

 

悪い人もいるから気を付けてね、とは荒潮や満潮たちがよく言っていた言葉。霞はそれを理解していた。いや、理解できないはずがないのだ。彼女の中には零と言うもう一人の存在が、紫亜や明石くらいしか知らない彼女が。彼女がこっそりとそれを見極めている。

 

(だって、せっかく楽しそうなところに来たのに泣きわめくだけじゃあつまらないでしょう?)

 

「なああああああ!?!?!?徳さん!んだよこれ!!!」

「あああ!しまったー。この写真隠すの忘れてたわー。あーやべーわー」

 

摩耶と鳥海のおいしそうにイチゴを食べる写真。そして「艦娘も喜ぶイチゴ あり〼」と言う張り紙。これ見たさに美浜青果店へ買い物へ来るお客さんが後を絶たないらしい。なお、知多精肉店ではコロッケにかぶりついて目を輝かせている武蔵と猫舌で熱そうに食べている摩耶の写真がある。「艦娘も喜ぶコロッケ あり〼」と言う張り紙と共に。

 

さらに半田鮮魚店でもお刺身を食べる島風、北上とやっぱり満面の笑みでサーモンを食べる摩耶。そして「艦娘も喜ぶ鮮魚 揃って〼」と言う張り紙。

 

そう、揃っての摩耶いじりである。と言うか、摩耶のリアクションが全部大きいため、「かわいい」「おいしそう」など、集客率アップに一役買っている。

 

「すぐ外せ!!!外せって!!!なんなんだよ!」

 

「まよおねえちゃんかぁいい♪」

「んなぁ!?」

 

「ねえ霞ちゃん。このお姉ちゃんの写真かわいいよねぇ?」

「ちょ、梅さん!?」

 

「まよおねえちゃん、かぁいい♪」

「!?」

 

「これ、いないいないするのどう思う?」

「竹おばさん!?」

 

「え、まよおねえちゃんいないいないしちゃうの…?かぁいいの…なくなっちゃう?」

「まや…まよお姉ちゃんがいないいないしてだってさ」

 

「げ、源さんまで…」

「…さみしい。まよおねえちゃん、かわいいのに…」

 

「ぐ、ぐうううう…!」

「だ、そうだけど?まよちゃん」

 

「………いい…です」

「ん?」

 

「外さなくて…いいです…」

「「「いえーーーーい!!!!」

 

「???いえーい!!」

 

「今度…おぼ、覚えてろよ…!!」

 

「摩耶も大変だなぁ」

「提督も一枚嚙んでんだろ!!」

 

「俺は知らねえよ!??!?」

 

なぜか怒られる玲司だった。もっとも、それを許可したのは玲司だったりするのだが。

 

………

 

「みょーこーさん、あのおばちゃん、こあい…」

「霞ちゃん…大丈夫、だから…ね」

 

「………」

 

絶対零度の目で正座させられている松子を見下ろすのは妙高。大根片手に松子の頭をチェストしそうになっているのは摩耶。大和は松子から霞を隠し、霰が霞を宥める。いつものことであるが、全員が霞に対して過保護モードであるため、ガードが恐ろしいほど固いし、霞に何かをしようものなら容赦はない姉たち。摩耶は尻を幾度ももまれたがそれよりも霞を怖がらせたことにより、そんなことを気にすることもなく、大根で頭を殴打した。

 

テレビ業界では存在自体が放送禁止と言う話が広まっており、ファッション業界でも「あの人に関わるのはやめておこう」と言う話が出回っているとか。それを彼女を師匠とあがめる営業マンが火消しに奔走しているとか。

 

「松、あんたぁ…」

「うーん…これはもうあの憲兵さんに差し出すしかないかねぇ…」

 

「ま、待っておくれ…こ、この子に…グフッ…最高の服を…出す」

 

「これは少し厳しいお説教が必要ですね?松子さん」

「妙高ちゃん、待っとくれ…は、ははぁ…玲ちゃんの前の提督のようなクズ野郎に何かされた子だね?」

 

「いきなり真面目に語りだすんじゃないよ」

「いや、その通りなんだけどさ…よくわかったな」

 

「あたしだってね、いろんな子を見てきてるんだよ。クズみたいなスポンサーに夢をぶっ壊されたとか、自分の実力を知って夢破れた子とかね。その子の目は霰ちゃんや雪風ちゃんたちとは違う純粋さを持ってる。壊れた目だね」

 

そういうと松子は冬服をいくつか見繕っていく。子供っぽい服は取らない。

 

「こういうにゃんこパーカーとかがいいんじゃねえのか?」

 

「摩耶ちゃん。そりゃね、よく似合うと思うよ。けどね、その子にゃあそいつはナンセンスさ。霰ちゃんと一緒。ちょっと大人びたものを着せてあげたほうがいいのさ」

 

「そういうもんなのか?」

 

「そういうもんさ。ああ妙高ちゃん、そこのロングスカート取っとくれ。うーん、スカートよかズボンのが似合うか?難しいね」

 

「松子さん、霞さんにはセーターは…ちくちくが嫌と…」

「えー!ちくちくやー!」

 

「心配すんな。これ着てみな」

 

そう言って差し出したのはピンクのセーター。下にはちゃんとキャミソールまで。試着室へ妙高と一緒に入る。

 

「うー、ちくちくやだよーみょーこーさん」

「ちょっと着てみてください。これ、ちくちくしなさそうですよ」

 

「ほんとー?」

「はい、ばんざいしてくださいね」

 

「ばんじゃーもがもが」

 

「………てえてえなぁ。あたしも混ざりてえ…」

「松?」

 

「さーせん」

 

「わーちくちくしないよ!ぬくぬく!」

「まあ、よかったわ!いい素材…なのでは?」

 

「カシミヤだよ」

「ええ!?」

 

「値段やべーぞこれ」

「はん、この子に着てもらえるならお代はいらないね」

 

「あんたいつも思うんだけど、採算どうなってんのさ」

「心配いらないね。これしきで赤字だと叫ぶほどの商売してないよ」

 

いつも惜しみなく艦娘に服やら下着やらを持っていけと言うのだが、割と今回のようなカシミヤのセーターやら、雪風の夏のお嬢さん。霰のお出かけお嬢さんの服や村雨のちょっとおしゃれ(実際にはかなり気合が入っている)服など、玲司が払おうとするも一切を拒否する松子。

 

艦娘から閃いた衣装により、松子の店はかなり繁盛している。噂が噂を呼び、九州からでも東北からでもお客さんはやってくる。閃きの恩恵がある艦娘へのお代請求など、死んでもご免である、と言うのが松子のポリシーだ。デザインイメージを与えてくれたお礼。それを艦娘に返しているだけに過ぎないのだという。

 

「いいね。霞ちゃんを見ているとイメージが…フヒヒヒ」

「こわいよぉ…」

 

「あー…あー…これ。このロングスカートを履かせてみな」

 

怯えられる松子だが仕事はこなす。黒いロングスカート。黒と白のドット柄がかわいらしく、幼いながらもちょっとだけ大人っぽく見せることが可能。

 

「うわ~、かぁいい!!やまとおねーちゃん、あられちゃん!かぁいい?」

 

「かわいい~!霞ちゃん、お姉ちゃんに見えますよ!」

「かわいい…ピンク、似合うの、羨ましい」

 

「なら霰ちゃんも着てみな!ふはははは!」

 

霞と同じニット。そして膝まであるカーキ色のおとなしい色のスカート。姉妹揃ってワンステップ大人びたイメージを受ける印象になった。

 

「あられちゃんとおそろい!わーい!わーい!」

「ふふっ、かわいらしいですね」

 

「うん、霞も霰もかわいいな、よく似合ってるぞ」

 

「へへーん!あたしもまねてみたぜ!あたしはパンツだけどな」

「摩耶ちゃんのパンツときいブベラ!!!」

 

「あんたは黙ってな」

 

「おばさん、ありがとう!!かすみ、うれしい!」

 

「へ、へへ…あたしは止まらねえからよ…霞ちゃんらも…止まるんじゃねぇぞ…」

「はいはい、さっさと摩耶ちゃんたちのために春先の服のイメージでも考えな」

 

「冷てぇなぁ…」

 

おばさんありがとーーーと手をブンブン振って次の目的地、ルーチェへと向かうのだった。なお、玲司の両手には松子から渡された霞や霰、妙高に大和の服がてんこ盛り入った紙袋がたくさん。重くてたまらなかったとか。

 

………

 

「いらっしゃいませ。おや、玲司君に大和さんに…霞さんですか。む…」

 

カフェルーチェにやってきた玲司たち。霞を見たマスターはすぐさま、彼女の様子がいつもと違うこと感じ取った。

 

「マスター、こんちは。新しい子を連れてきたよ。霞だ」

「霞さん、ご挨拶をしましょう」

 

「………しれーかん?」

「む?私がですか」

 

「おじさん。しれーかんとおなじ」

「ほう…玲司君…彼女は…」

 

「あー、話せば長くなりますけど」

「そうですか。では皆さんに紅茶を用意しましょうか。霞さんは…ジュースでよろしいかな?」

 

「むらさきのじゅーちゅ…」

「グレープジュースをお願いします。この子、大好きなんです」

 

「かしこまりました」

「あ、あ!」

 

マスターが厨房へ行こうとすると霞が手を伸ばしてマスターを制止しようとする。

 

「どうかなさいましたか?」

「あ、あう…えっと…こ、こんにちは」

 

「ほっほ。これはこれは。挨拶は大事ですね。こんにちは」

「えへへ」

 

マスターに警戒する様子もない。指をくわえてマスターが厨房へ入っていくのを見送る霞であった。

 

ジュースに夢中になっている霞の様子を見つつ、玲司が霞がこうなった理由を語った。次第に表情が曇る。

 

「なるほど。古井君たちの手が回らないことをいいことに、やりたい放題をしていた…ここに来たあの愚か者のように。玲司君のもとに来れたのは幸いだったでしょう」

 

「今はすでに海軍に存在しません。もう、霞のような子が出てくることはない、と信じたいですね」

 

「私が在籍していたころよりも悪質な者が多い。さて…かつて幕僚長であったあのご老体とその子らが何やら巨悪なことをしていたようですが…」

 

「それも解決しています。とんでもない奴でしたからね。清州副司令長官を殺したりとか…」

 

「清洲君…そうですか…彼が凶刃に…彼とはお酒を語ると楽しかったのですがねぇ…」

 

「とんでもねえ奴だな…やっぱ…何かほかの提督とやってくのってあたし無理な気がしてきた」

 

「涼介とならやってけるだろ?」

 

「いいや?あたしは提督だからやってけるだけで、ほかの提督なら無理だね」

 

「私、この妙高も摩耶さんと同意見ですね。とてもではありませんが…」

 

マスターは横須賀の艦娘は玲司君ではないと機能しないでしょうね、と理解した。しかし、彼こそが彼の父の夢だった、艦娘と人間が笑って過ごせる環境を整えているのだなとも理解した。どんな艦娘でも引き取る。そして育む。そうして横須賀のみんなはどんなに難しく、厳しい戦いも勝利で飾っているのだろうと。自分も理想とした艦隊と提督の存在。彼が着任したことは古井君も、虎瀬君も困惑はあるでしょうが喜ばしいことと思っていることでしょう、と思った。

 

「しれーかん、おなかすいた」

「ん?そっか。よし、このおじさんの作るご飯はおいしいぞ~。マスター、ナポリタンをお願いします」

 

「なぽりたん!あかいやつ!おじさん!あかいういんなーいれてほしい!です!」

 

「いいですとも。かしこまりました」

 

横須賀名物、赤ウインナー入りナポリタンを所望する霞。玲司の料理しか知らないので当然であるが。さて、霞のお口にマスターの料理は合うのだろうか?

 

「わ~、あかいのだぁ!」

「さあ、ご飯を食べる前は?」

 

「いただきます!」

「はい。えらいですね」

 

「ははは、妙高さんはお母さんみたいで…す、ね…」

「マスター…それ禁句!」

 

「私は母親ではありませんよ」

「いや、これは失礼しました…」

 

妙高に冷たい目で見られ、平謝りするマスター。そんなことはわからない霞は…。

 

「おいちい!おじさん、このあかいのおいしいよ!ういんなーさんもおいちい!」

「おお、これは嬉しいお言葉が聞けましたな。たくさん召し上がってください」

 

「うまいよなぁ、マスターのナポリタン。提督のもうまいけどさ」

「うーーーーん、このマスターの味だけはな…」

 

「提督には提督の。マスターにはマスターの味があります。大和はどちらも好きですよ♪」

「あのねあのね、しれーかんのあかいちゅるちゅるもおいしいんだよ!」

 

「そうですか。それはぜひ一度味わってみたいものですね」

「ここで作ってもいいんだぜ提督!」

 

「マスターの聖域を汚すわけにはいかねえの」

「私は一向にかまわないのですがねぇ。料理人としての性ですかね。私も気持ちはわかりますが」

 

「ぴーまん!ぴーまんおいしいよね!」

「おや、霞さんは好き嫌いがないのですね。お利口さんですね」

 

「みょーこーさん!おじさんにほめられたぁ♪」

「ふふ、よかったですね」

 

「うん!」

「いい子にはケーキもありますよ」

 

「わあああ!おじさんだいすき!」

「ベリーケーキ…おいひい♪」

 

外に連れてきて大丈夫だろうか、と思った玲司や妙高の心配は、霞が大はしゃぎしている様子を見ていたら全部吹き飛んでしまった。

 

………

 

「霞、疲れたのか寝ちまったよ」

「そのまま寝かせておいてやろう。梅さんたちにもえらく懐いてはしゃいでたからな」

 

「お腹もいっぱいで眠くなったのでしょう。かわいらしかったです」

「霰ちゃんも寝ちゃいました」

 

「すぴー」

「すうすう…」

 

「かわいいよなー。姉妹だな」

 

霞の電池切れで眠ってしまったので商店街散策は終了となった。かわいい服を着て、おいしいご飯を食べて。霞はとても楽しかったらしい。霰も一緒につられてずいぶんとはしゃいでいたように思う。

 

「霞さんも…成長しているんでしょうか」

「そうだな。霞は霞なりに成長してるのかもな。優しいお姉ちゃんがいっぱいいるからな。紫亜や茉莉もそう。妙高や大和、摩耶もそう」

 

「そして提督のおかげでもあると思いますよ。提督、と言う『人間の優しさ』を知ったことこそがきっと、今日に至ったのでしょう」

 

「マスターや梅おばさん達にも感謝しねえとな。霞なりに、人間にも悪い奴はいないってな」

 

「はい。また霞さんが訪れても今日と同じようにはしゃげるといいですね」

「なるさ。ま、松子さんだけ気を付けないとだけど」

 

「そう…ですね」

「ま、まあもう許してやれって。反省してたろ?」

 

「はい…」

 

「ったく、また鳥海に変な下着渡せとか言いやがって…」

「また梅おばさんに〆てもらえー」

 

そんな雑談で華が咲いた帰り道。妙高も大和も愛しそうに霞と霰をなで、摩耶も笑っていた。

 

………

 

「随分と楽しかったのねぇ」

「ええ。お昼寝が過ぎてわたしが出る時間が遅くなってしまったのだけど」

 

「心の療養ができたのなら喜ばしいことじゃない?」

「あなたとお話したかったのよ」

 

深夜。紫亜と…眠りについた霞の代わりに出てきた零(れい)が談笑していた。話題は人間を恐れなかった霞の話。

 

「まあ、わたしが恐怖心を取り除いてあげたわけだけど」

「パニックにならなかったと聞いてホッとしたわ」

 

「フラッシュバックしていたらわたしは今こうしてお話できていないわ」

「そうねぇ」

 

「何よ、冷たいわね。わたしより霞のほうがいいってこと?」

「嫉妬しないのよ。わたしはあなたと話をする時間も大切よ。心の栄養を摂取しているわけだし」

 

「………」

「あなたも子供ねぇ」

 

「うるさいわね」

 

零は意外と嫉妬深かったりする。霞への功績をほめてもらおうと思ったのだが、なかなかにほめてもらえないので唇を尖らせる零。

 

「あまり力を使って消滅しないようにしてよ?」

「気を付けてるわよ」

 

「そう。えらいえらい」

「何よ。霞と同じようなほめ方しないでもらえる?」

 

「えらいえらい」

「ばか」

 

今回の一件では零も関わっていた。玲司や妙高達が困らないようにと。それを紫亜にだけは話せる唯一の友人。ほめてとは言ったが、子ども扱いしないでほしいというのが零の思いだったが、見た目が霞なだけに、紫亜はすっかり零を毎回何らかでほめる際は霞と同じようなほめ方をするのだった。嫌だと思う反面、嬉しい。素直になれない零である。

 

(まあ、悪い気はしないわね…それに…あなたにしかほめてもらえないのだからガマンしてあげるわ)

 

紫亜の膝の上で猫のように目を細めて紫亜にされるがままにされることを喜ぶ零だった。




霞もちょっと成長してますよーと言うお話でした。
子供のままなのは変わりませんが、零もいますし、大和に妙高、まよおねーちゃんがいます。優しさをいっぱい受けていますので、ちょっとだけ成長。
そしてそんな霞をちょっと見ていただければと思いました。

次回はシリアスになります。ついに収監される大府と足助氏のお話になります。
次回もお楽しみください。

それでは、また。
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