提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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深海化した大府により、風前の灯火の足助氏。
大府の心情を交えてこの先を書いていきます。

足助氏は無残にも殺されてしまうのか…?


第二百八十六話

憎い。憎い憎い。憎い憎い憎い。憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいニクイニクイニクイニクイニクイニクイ。

 

               にくい               憎い

              に                                      

               くニクイ       憎いニクイ                         

  憎い          にくい 憎い    殺してやる    私の勝ち

許さない   破壊せよ   コワセ    コワレロ    死ね 

 

 

スベテコワセ。スベテコロセ。スベテオワレ。

 

私の頭の中からあらゆる負の感情が流れ込んでくる。憎しみ、怒り。憎悪。憤怒。今まで漠然と思っていた感情が明確に私の脳を侵していく。悪いものではない。むしろ、この感情に髪の毛の毛先から足のつま先。そして魂までもが侵されていくこの感覚に、私は感じたことのない清々しさまで覚えてきた。

 

足助さん。あなたも刈谷君と同じです。甘いですね。私が深海棲艦の因子を体内に取り込んだことに気づかず、みすみす私を深海化させてしまったこと。これによりあなたの死は決定的になりました。

 

そこの艦娘と共にここで仲良く朽ち果ててください。そうすれば刈谷君は怒りで私とそれこそ戦争状態になるでしょう。刈谷君の艦隊と…私が日本沿岸から呼び寄せた深海棲艦との戦争。大きな戦争になるでしょう。隙を見て本土を攻撃していけば、日本は確実に疲れ果て、陥落するでしょう。

 

刈谷君。私を哀れだと言いましたね。哀れなのはやはりあなたです。私をこのような甘い刑罰を課したがばかりに、あなたの敗北は決定的となりました。まずは足助さんの亡骸の一部でも佐世保に送って差し上げましょう。

 

次は…そうですね。堀内君が近いですね。呉鎮守府を完膚なきまでに深海棲艦の津波をもってして破壊しつくしましょう。あなたは黙って破壊されるのを見るしかできないでしょうから。

 

そして、最終的には佐世保を攻撃しましょう。そのころには深海棲艦の大艦隊があなたを襲いますよ。絶望のまま「クソッタレ」とでも私に言い捨てて…私の金剛の砲撃であなたを跡形もなく消し去ってあげましょう。

 

刈谷君と堀内君。この2人がいなくなれば海軍は機能しない。実に…ああ、この感情は初めてですね。楽しみです、と。

 

生まれて初めての楽しい、愉悦。この感情が芽生えています。もっとも、私を渦巻く感情はやはり、憎しみなのですが。

 

さあ、刈谷君。20年と言う長きに渡るあなたとの戦争の終結。私の勝利でと言う味わったことのない快感を得るために。私はこの突き上げた拳を振り下ろし、終わりの始まりを…楽しみましょう。私はあの時。あなたの空母を沈めたときのように降格を吊り上げながら、この手を—————振り下ろした。

 

ドォン!

 

勝利の咆哮のようだ。これで足助さんは死ぬ。バラバラになって。艦娘と共に。ああ、さようなら。

 

………

 

「………む、む?」

 

大府が無慈悲に手を振り下ろし、砲撃音まで聞こえたはずなのだが…なぜか足助は生きていた。冷たい風が彼の頬を撫でる。北上もどうして何もないのか?とキョロキョロと周囲を見回すが、事態がわかっていない。生きている、と言う考えにも及んでいないほど取り乱している。

 

「コンゴウ。ナニヲシテイルノデス。アソンデイナイデハヤクカレラヲコロシナサイ」

 

大府はもう一度手を振り上げ「ウチナサイ」と手を振り下ろす。しかし、今度は何の反応もない。やや遅れて聞こえてきたのは重い砲撃音。そして…。

 

「艦隊!!!この長門に続けェ!!!!相手は艦娘の見た目をしているがすべて深海棲艦だと思え!!!一切の容赦はいらん!!!!」

 

「ヴォオオオオ!!!挨拶代わりのグリングリーーン!!!!」

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…今日まで精いっぱい生きたかにゃ?まあ、それも今日で終わりにゃあああ!!!」

 

足助が耳にしたのは艦娘の怒号。そして砲撃音。長門…長門と言ったか?長門と言えば…清州副司令長官の長門を思い出す。そして、ここまで雄々しく、凛々しい透き通った声を出す長門と言えば…。

 

………

 

金剛たちが私の指示に従わなかった…?いや、違う。従うことができなかったのか?砲撃音と共に女性の声。そうして海を見やればそこにいるは艦娘。艦娘?なぜ?なぜここに艦娘が?

 

完璧にここまで事を運んできた大府であったが、予期せぬ出来事…艦娘の襲来。これにより、金剛は砲撃を受けて足助を撃つことができなかった。なぜ自分の艦隊が攻撃を受けているのか?ああ、軽巡が一隻、腹に砲を刺されてそこから発射。砕け散った。

 

金剛は足助を狙って命令を実行しようとしているが、黒髪の戦艦に阻まれ、傷を負っていく。

 

「この長門がお前と対峙している間はあちらに砲撃など…できんぞ!わが元提督、清州副司令長官を殺した者の艦隊。ましてや深海棲艦化した者に容赦はせんぞ!!!大鳳ォ!!!制空権を制圧しろ!!!一切の容赦はいらん!外法を以て堕とされた者たちだ!救う手立てなどない!沈めるしかないのだ!」

 

「わかりました!!さあ、艦載機たち、発艦!!!!」

 

空には空母の艦載機が飛び回り、戦艦含めすべての自分が従えている艦娘が攻撃を受けている。

 

「か、刈谷君…なのか?」

 

足助がそう言葉を発する。大府にとっては今、最も聞きたくない人間の名であった。しかし、ここまで周到に攻め入ってきたとなれば…もう…考えたくはないが…。

 

「よお」

 

その時、どこからともなく。まるで散歩中に偶然出くわしたかのような。そんな軽い感じで声をかけてきた男の声。その声を聞いた途端、大府は全身の血が憤怒と憎悪で沸騰したかのようになった。緊張した面持ちで声が聞こえた後ろに振り替えると…。

 

「面白そうなことしてんじゃねえか」

 

まるで自分を見下すかのように薄ら笑いを浮かべ、口角を吊り上げてこちらへ歩いてくる…不俱戴天の敵。

 

「俺も交ぜろよ」

 

怨敵、刈谷克己がそこにいた———。

 

………

 

「か、刈谷君…」

 

「足助さんわりぃ、ちょっと遅くなっちまったな」

 

「え、え?な、なんで?」

 

「おう、長門達引き連れて来たぜ。俺はボートで来たんだけどな。長門らに守ってもらいながらな」

 

そんなことは造作もないと言った感じでここへ上陸したのだった。

 

「ナゼ、アナタガ」

 

「お得意の盗聴もできねえみてえだったな。今から2週間ほど前にな、足助さんから話聞いてたんだわ。貴様の様子がおかしいってな。そん時にそろそろ化けるだろうなって思ってな。ククッ、まさか今日この日に完全に化けるなんてなぁ。貴様、本当に運がねえな」

 

絶妙なタイミングで前回、刈谷提督を殺し損ねている。殺す寸前までいった。しかし、そこで警察が父、大府康介を逮捕。それと同時に「この日に確実に自分を殺しに来る」とまで呼んでいた刈谷提督の慧眼により、憲兵に突入され、油断したところを捕まってしまった。今回も…刈谷提督にとってはやや失敗した感じだが完璧なタイミングで。大府にとっては最悪のタイミングでここへやってきてしまったのだった。

 

「確かにあなたがやってきたことは運がないと言えましょう。ですが、ここにいる金剛たちだけがすべてと思わないでくださいね…刈谷君」

 

「あ?」

 

「私が深海棲艦に呼びかけを行いました。呼びかけに応じ、日本めがけて深海棲艦が殺到するでしょう。そして、ここにいる艦隊だけでなく、瀬戸内海には艦隊を分散させています。四国、本州…そのどちらをも挟撃することが可能なのですよ」

 

「ほう?念話か。マジで人やめたなぁ。で?いつそいつらは攻めてくるんだ?」

 

「間もなく…でしょう。日本を今一度…きれいに…洗濯をするのです」

 

「使い方間違えてんだよ馬鹿。貴様は本当に、学はあるくせに頭悪いよな、ククッ!」

 

「ここで余裕ぶっていていいのですか?瀬戸内海の艦隊をここへ攻め込ませ、あなたの艦隊を滅ぼすことも可能ですよ?それと同時に、本土への侵攻が始まるでしょう。そうなれば終わりですよ」

 

大府は勝ち誇ったかのような顔をして刈谷提督を挑発する。ましてや、提督が鎮守府を離れれば指揮系統はおそらくだが機能していない。混乱に乗じればまず東シナ海から攻め入り、佐世保を破壊できる。鹿屋?佐伯湾?造作もない。

 

厄介とすれば呉、舞鶴、そして横須賀だろうか。だが問題はない。刈谷提督さえここで始末してしまえば彼らも混乱し、攻め入ることは可能。そう考えていた。口角が吊り上がる。完全な勝利だ。そしておそらく、彼は憤怒と絶望の表情になるだろう。そこを足助さんもろとも吹き飛ばしてしまえば…。

 

「何笑ってんだよ気持ち悪ぃな。ああ、まさか今俺を殺せば全てにおいて混乱が出る。その隙に日本の主要なとこ潰せるとか思ってんのか」

 

「ええ、私の想定通りに動いていますよ」

 

「クク…クククク…ハァハハハハハ!!!」

 

刈谷提督は大府のプランに大笑いをする。やはりこの男はいちいち私の神経を逆なでする。眉を顰める大府。

 

「はーあ。貴様って奴は本当に甘いな。何だ?俺がまさか、2週間前貴様の話を聞いてこれはやべえって何の指示も出さずに慌てて飛んできたとでも思ってんのか?だったら長門や球磨…あー、名前知らねえわな。艦娘覚えられねえもんな、金剛以外」

 

海で暴れまわっている刈谷艦隊。これが最強メンバーなのだろう。だから今から出撃させたところであとは問題はない。制圧はできる。そう考えていた。

 

「おう能代、そっちどうなってる」

 

刈谷提督は無線機を取り出し、何かを話しかけた。

 

「よく聞いとけ。俺が無策でここに突っ込んできたかどうか。しっかり耳で聞いて脳に叩き込め。こいつは妖精さんが作った無線機だ。こいつを使えば俺が執務室で指示してるのと同等の無線での会話ができる。ったく、横須賀の妖精さんの技術ってやべーよな」

 

刈谷提督は音量をマックスにする。大府にも話を聞かせるためだ。

 

『こちら佐世保本部、能代です。艦隊は展開済みです。東シナ海方面、九州北部、関門海峡への艦隊配備、完了しています。潜水艦隊が関門海峡を越えようとしていましたがこれを撃破。以降、深海棲艦に動きはありません』

 

「了解。気ぃ抜くなよ。特に東シナ海からの侵入が怪しいんだ。警戒を厳にさせとけ」

 

『了解しました』

 

「深海棲艦の攻撃、ねえってよ。潜水艦みてえなしょぼいのしか来ねえぞ」

 

足助はさすがは刈谷君…と驚かざるをえなかった。すでに万全の準備と布陣で大府が呼び寄せたであろう深海棲艦への対策が済んでいる。そうだ。刈谷君がこういう時、無策で来るはずがないのだ。常に敵の遥か先をゆく策を以て敵を弄する。さらに無線機は通信を拾っていく。

 

『こちら佐世保鎮守府です。各鎮守府、泊地、基地、警備府。報告をお願いします』

 

ここから先には大府にとっては絶望としか言えない報告が次々と舞い込んでくる。

 

『こちら鹿屋基地、五ヶ丘です。刈谷提督からの指示通り、九州南岸、および九州西部の防衛にあたっています。今のところ深海棲艦からの攻撃、侵入はなし。以上』

 

『佐伯湾泊地の七原です!こちら九州南東部と豊後水道の防衛にあたっています!豊後水道めがけて深海棲艦の艦隊がありましたが撃沈しましたぁ!豊後水道におきましては宿毛湾泊地の九重提督にも協力していただいてます!』

 

「七原、豊後水道は潜水艦一隻、イ級一隻たりとも通すな。いいな」

 

『は、はい!任せてください!!』

 

何だ。何が起きている。大府はその報告に頭がついていかない。豊後水道。これを抜ければ自分の艦隊と合流し、四国、呉を攻撃できるというのに。なぜここまで艦隊が展開されている?

 

『宿毛湾泊地の九重よ。四国南沿岸に艦隊を配備。同時に紀伊水道への艦隊配備も完了。指示通りイ級を通す隙間もないわ』

 

『舞鶴だ。山陰沿岸、および北陸、新潟、東北の日本海側への艦隊配備は済んでいる。いくつか艦隊がぶつかったようだが強力な艦隊ではない。おそらくは偵察だろうな。警戒はしておく』

 

『大湊の一宮です。東北東部、北海道北東部への艦隊の配備完了です。北西部へも動くことは可能です。ですが、こちらから攻め入ることはないでしょう。念のため、様子は見ておきます』

 

日本をグルリと警戒されている…いや、まだだ。あそこの名前が出ていない。あそこは…どうなった?

 

『横須賀の三条です。東北地方から潮岬沖まで艦隊を配備。同時に東は南鳥島、南は沖ノ鳥島。西は波照間島まで艦隊を配備。いずれも強力な艦隊です。負けることはないかと。交戦はありましたが強力な艦隊はなし。油断せずに配備を続けます』

 

「やるじゃねえか三条。いいとこ守ってんな」

 

『大淀と鳥海、霧島の指示です。それぞれが3つの島の防衛旗艦やってます』

 

「上出来だ。こいつは完璧だな」

 

さらに大府は目を見開くような言葉が聞こえる。

 

『こちら呉です。深海棲艦に化けた大府の艦隊を瀬戸内海にて発見。これを全て撃沈しました。虎瀬大将からお借りした『大鷲の目』利根さんと筑摩さんのおかげですね。残すは刈谷提督がいる例の島にいる深海棲艦だけかと』

 

「おう、ありがとよ。さすがは仕事が早えわ。能代、引き続き指示頼むわ」

 

『了解。提督、お気をつけて』

 

「あいよ。通信、終わる」

 

大府の足元がガラガラと音を立てて崩れていくような感覚。彼の布陣に不備は全くと言っていいほどない。まるでここまで全てを読み切っていたような配備だった。

 

「で、貴様ご自慢の深海棲艦の艦隊はいつになったら来るんだよ?」

「………」

 

「さっさと済ませて帰りてえなぁ。足助さんの足やべーしな。矢矧、そっちはどうだ」

 

『片付いています。望月さんが指示をしてくれているおかげで』

 

「ああ?テメエも指示しやがれ」

 

『やってます!ですけど、望月さんの指示のほうが早くて!』

 

「クックッ…さすが望月だな。矢矧はもっと頑張れや」

 

『~~~~!ああもう!わかりましたよ!!』

 

足助はフッと笑った。相も変わらず、この状況下でも冷静であり、軽口を飛ばすほどの余裕がある。絶対の自信。彼に敗北の文字はない、足助はそう思う。

 

「ま、あっさり片付く。さて、ゴチャゴチャ言うのはここまでだ。ブラックオアホワイトといこうじゃねえか、大府」

 

「戯言を…勝負、と言うのであれば私はもう人間をやめています。私をどう処すおつもりですか?」

 

「自分から人間卒業宣言か。馬鹿らしい話だぜ」

 

「その懐に忍ばせた拳銃で何ができるのですか?その程度では私は死にません。少々驚きましたが、私の勝ちに変わりはありません」

 

「そうかよ」

 

「誰かが私の行動を目にし、あなたを血煙にするでしょう」

 

そうして大府が再度手を振り上げた、次の瞬間。

 

パァン!

 

乾いた音と共に大府の振り上げた手のひらに穴が空いた。流れ出る青い血。

 

「へえ、中身も深海化してんだな。で、これ食らって本当に死なねえのか?」

 

深海棲艦が人間の脅威である。と言うのも出現した当初、艦娘もいなかった時代。いかなる最新の護衛艦の機銃掃射。戦闘機によるミサイル攻撃。傷一つつけられなかった。そうなれば、豆鉄砲のような拳銃の弾など通用するはずがない。ないのだ。

 

しかし、刈谷提督が放った弾丸は確実に大府の手のひらに穴をあけ、大府自身も痛みを覚えていた。ばかな、そんなはずがない。ここに来て大府は驚きしかない。まさかの刈谷提督の登場。艦隊は抑えられ、日本は守られており、そして自分は撃たれる。

 

「駆逐艦の12.7cm砲弾を妖精さんが溶かして作った9mm弾だ。実用すんのは初めてだけど、何とかなるもんだな」

 

日本の警察が装備しているありふれた回転式拳銃だった。しかし、特筆すべきはその弾丸。史上初、人間が深海棲艦を攻撃できる弾薬である。

 

「いや、横須賀の妖精さんの技術やべーわ。こんなんまで作れるんだもんな。そんでもって効果は貴様に抜群だな」

 

ダァン!ともう一発をお見舞いする。それは膝を正確に打ち抜いた。それにより、バランスを崩し、倒れる大府。退屈そうな目で大府を見下ろす刈谷提督。

 

「なんだ、貴様自身が何か兵器出して戦えねえのか。まあ、所詮指示するだけか。んじゃあ早く指示してやれよ。貴様の艦隊、とっ散らかってるぜ」

 

指示などとうにしている。早くここにいる刈谷君を殺しなさいと何度も指示を出しているのだ。だが、いつまでたってもこちらに砲撃が飛んでくることはない。当然である。

 

「提督と足助殿に絶対攻撃を向けさせないで!!」

 

「いいぞいいぞ、睦月と如月~。そのままそいつを足止めして。弥生と水無月でそこのー…深海棲艦になった朝潮沈めて。球磨さーん、そっちグリンしてー」

 

「任されたクマー!グリン大感謝デーだクマー!!!」

 

「グロい感謝デーだなぁ…」

 

「どうした金剛!七原提督のところの金剛はこの長門が驚愕するほど強かったのだがな…足元にも及ばん…残念だが、恨むのならお前を…お前たちをこうした提督を恨むのだな」

 

「……ショウリヲ…テイトクニ」

 

「……そうまでされても…まだ提督に続くのか…そうか、それがお前たちと提督の絆なのか。だが、それを言うなら私たちも退けんのでな…こうなったならば、お互いに退けんな。ならば我々がお前たちを討ち果たすのみだ!!」

 

長門達も。金剛達も互いに退けぬ状況。ならば、どちらかが討ち果たされるまでやるしかない。無論、長門達は自分たちが討ち果たすのみである、と思っている。練度はなきに等しい。その動きは練度1の艦娘たちのようなつたない動き。これがショートランド海戦の時のような大艦隊ならそれでもまだまかり通るだろうが、今回は少数精鋭。ならば、激戦を数多く超えてきた長門達が負けるはずがない。そして、提督からの命令がある。

 

「完膚なきまでに叩き潰せ」

 

これである。生半可な撃沈だけでは済まさない。そもそも瀬戸内海内で深海棲艦が一隻でも残っていればそれだけでも大問題である。完全なる撃沈。刈谷提督のオーダーはそれだけである。だからこそ、何者に対してもまるで容赦のない球磨や多摩まで連れてきたのだ。矢矧が制御しづらいからやめてほしいと懇願したにも関わらずだ。矢矧は深いため息を吐いたが、それならば仕方がない…と渋々引き受けた。

 

「ココマデ…ココマデヨンデイタトハ」

 

「読んでいたわけじゃねえんだがな。もしかして、を想定することは当然だ。どうせ貴様のことだ。自分とこの艦娘まで巻き込むだろうとは思ってた。そして日本を獲るじゃなくて破壊することに回るだろうともな。どうせ、ここで深海化するのを待ってるときも入念な準備してねえんだろ?挙句の果てに足助さん抹殺にも失敗。笑えねえな」

 

そして刈谷提督はこめかみを人差し指でトントンとつつきながら続ける。

 

「何べんも言わすんじゃねえ。貴様の脳じゃ俺にゃ勝てねえ。だから、俺に策を弄したところでこうして全部裏目に出るんだよ。俺のほうが圧倒的だからな」

 

徹底的に大府に対しての対策は万全だった。

 

「ナニヲ…ナニヲシテイルノデス…!ハヤク、ハヤクカリヤクンヲウチナサイ!!」

 

焦り。そう、大府は今刈谷提督を殺す手段が自分の艦隊しかいないのである。早く彼を殺さねばならない。そう思うも、大府は銃も持っていないし、相手は銃を持っている。しかも、自分を殺すことができるものをだ。近寄ろうとする前に撃たれる。動けないであろう足助は刈谷提督の背後。人質を取ることもできない。何より、膝の皿を撃ち抜かれており、立てない。

 

「20年前から続いてる貴様から売ってきたケンカだ。俺は別に興味がなかったんだがな。俺を標的にしている間だけな。けど事情が変わったんだよ。飛龍の件、そして…清州のおっさんの件」

 

この時、刈谷提督は飛龍を沈められた時のように明確に怒りの表情を露わにした。

 

 

「やりすぎなんだよ、テメエはよ…!」

 

 

その怒気は足助にも伝わった。ビリビリと刺すような殺気が。この自分でさえも圧倒される刈谷提督の怒気。殺気とも言うべきか。

 

「足助さんでもやれねえなら俺がやる。貴様だけはもはや生かしておけねえ。人類の敵に成り果てた。これで終わりだ、大府」

 

「……マダデス。マダワタシハオワッテナドイナイ…」

 

「南方海域で失墜してから貴様は終わってんだよ。これで一発逆転なんざねえよ」

 

「イイエ。ワタシニハマダ、コンゴウ!!!!」

 

「ああ?この期に及んでまだ貴様は自分で何かをしようとはしねえんだな。全て…他人任せだ。金剛?その金剛なら…もう終わってんぜ」

 

刈谷提督が指をさしたその先には…。

 

「ハードグリングリーーーーン!!!!!深海棲艦になり損!海の底行きイイイイイイイイ!!!!!!!」

 

ドォン!!!!!

 

球磨が盛大に金剛の腹から胸へ砲塔を突き刺し、そして…弾いた。同時に金剛だったモノも弾け飛んだ。使えないモノです。ならば、ほかには…と思ったが…。

 

「矢矧さん!全部終わりました!」

 

「キラリーン☆阿賀野もやっちゃいました~!」

 

「フン、つまらねえ相手だったにゃ」

 

「あい!終了終了!帰って寝る!!」

 

「まだに決まってるでしょう!?」

 

そうこうしている間に…あっさりと。大府の深海棲艦たちは海の底へと沈んでいった。

 

『提督、すべてこちらは終わった。仇を…仇を取ってくれないか』

 

長門は震える声で刈谷提督に要望を伝える。艦娘が人間に対して仇討を願うなど…ありえないことだ。しかし、長門は清州副司令長官を殺されたことに対して怒りを。そして大府に憎しみを抱いた。こんなことはあってはならん…と涙ながらに語ったのだった。

 

「お前にも心ってものがあり、感情ってもんがある。大事にされてきたおっさんを殺されたんだ。その怒りはもっともだ。それでいて正しい。艦娘にも心がある。お前の感情は正常だよ」

 

そう言われて救われた長門。そして、今回大府の姿を見てやはり感情が抑えきれなくなったようである。

 

「ああ、終わらせてやるよ」

 

長門との通信をしている隙を見つけたのか、大府が刈谷提督にとびかかる。刈谷君!と足助が叫ぶ前に…。

 

パン!パン!パン!

 

刈谷提督が銃を既に撃っていた。そのうち一発が…左胸に刺さった。

 

「ガッ!?」

 

「………」

 

「あ、ああ…」

 

グラリ…と後ろへ倒れこむ。そのまま仰向けになった。青い血液がジワジワとシミをつくって広がっていく。

 

「命中、か。危ねえな。クリーンヒットだけどよ、俺、これでも射撃うめえんだけどな」

 

「ハッ…ハッ…!」

 

「当たれば万々歳だな」

 

「刈谷君…やった…のか?」

 

「いや、こいつはしぶてえぜ?心臓撃ったくらいじゃ死なねえだろ」

 

「とどめを…!」

 

だが刈谷提督はすぐにはとどめを刺そうとはしない。拳銃を向けたまま、大府へと近づく。

 

「これで、決着だな大府。いい加減貴様の馬鹿に付き合うのも飽きた」

 

「ウグッ…ガハッ…!ナゼ…ナゼワタシハ…」

 

「俺に勝てねえってか?全部詰めが甘いんだよ。いくら提督だからとなりたての貴様に深海棲艦がついてくるもんかよ。はぐれのショボい艦隊しか寄り付くはずねえだろ。俺なら…本当に呼びかけに応じて日本が賑やかになったなら、足助さんもあわてふためくだろうからな。そしたら頃合いだ。ここを爆破してたな」

 

「……」

 

「俺に勝つなんざ地球が爆発してもありえねえな」

 

「ナラ…イツ、カラ…イツカラワタシハ…マチガエ…」

 

「最初から全部だ。俺が防衛大学に首席で入学してから全部だ。飛龍を沈めたことも。何より、清州のおっさん殺したことも。何かにつけて俺に突っかかってきたことも。まあ、あの飛龍をやられたときは負けを認めてやるが…それで俺をほったらかしてたらよかったんだよ」

 

「……ウソダ…ワタシハ…アナタニゴフッ、コレデ…カチ」

 

「負けだ。貴様が地に伏して俺が立っている。しかも貴様は心臓を撃ち抜かれてる。これで貴様が勝ち?笑わせんな」

 

「ウウ…ダレ、カ…ダレカ…カリヤク、コロセ…」

 

「ここまできたら大したもんだ。本当に貴様は一人じゃ何もできねえんだな。哀れだな」

 

「ソノコトバヲ…イウナ…」

 

「恨むなら貴様をそんな風に育てた亀一郎と康介に地獄で文句垂れるんだな。これ以上話しても無駄だ」

 

「カ、カリヤ、刈谷君…」

 

「あ?」

 

「し、死んでも…私は…あなた、をブッ、永遠に…恨み…」

 

恨み言を言っている間に大府の延髄に向けて残った弾丸を撃った。次の瞬間、大府は目を見開いて…それこそ、すべてを呪うかのような目で刈谷提督を見つめながら…死んだ。

 

「地獄でブツブツ言ってろ」

 

そうして大府は死体となったが、最後にはその死体すら、深海棲艦と同様、海に沈むかのように消えてなくなった。

 

「死体が残らねえのは楽だな。処理に困らねえ」

 

「火葬炉も…破壊されてしまったからな…」

 

「ならなおさら楽だ。海に沈めて復活でもされたら敵わねえからな」

 

「違いない…」

 

「提督、提督…!あ、足…早く。早く治療しないと…!」

 

「そうだな、ここで語らってる暇ねえな。その足はやべえからな」

 

「なに…私なら心配はいらん…だが、ありがとう刈谷君。治ったら飲みに行こうじゃないか。佐世保まで出張と銘打って行くとしよう」

 

「ふっ…期待してて待ってるよ。よし、俺の船乗ってけ。時間かかるのが厄介だけどよ」

 

「それしかないか…しかたあるまい。そこの材木を添え木に…」

 

「提督…大丈夫だからね…」

 

「北上君…すまんね」

 

北上が足助を介抱している間、刈谷提督は天を仰いだ。終わった。全て終わったと。長きに渡って自分の邪魔にしかならなかった相手を消した。最終的には司法の手に任せようとも思ったのだが、深海化したと言うのならもう消すしかない。

 

(こいつがくたばった後…深海棲艦の動きには気をつけておかねえとな…)

 

ろくなことしかしねえな、と内心毒吐いた。しかし、これ以上ろくなことが降りかからないと言うのは個人的には嬉しい話だ。ただ、こいつを殺したということを背負っていかなければならないのは頭が痛い。

 

(殺す気ではいたからな。殺さねえほうがめんどくせえか)

 

全てを撃ち尽くした拳銃を懐へしまい、んん!と背筋を伸ばす。ポキポキと背骨がなった。

 

「すまない、刈谷君、待たせたね。では、行こうか」

「はいよ。ほらつかまれ」

 

「ああ、すまないね。これで、ここに来ることももう二度とないな」

 

「あんたの大変な仕事はもう終わりだな」

 

「うむ。北上君が言うように、事務官として職務を全うするとしよう」

 

「そうしな。提督に戻ってもいいんだぜ?」

 

「あたしはそれさんせーい」

 

「はは…私はもうその資質はない。刈谷君たちに任せるとするよ」

 

「ちっ、そうかよ」

 

「ちぇー」

 

他愛ない雑談を足助と交わしつつ、刈谷提督はスッキリした気分で船へと向かうのだった。大府和雄。その最後は最後まで恨み言を残し、それでいて他人を頼ることしかできない最期だった。

 




大府との戦いはついに決着を迎えました。
結局彼は一人では何もできない男。刈谷提督は一人ではなくたくさんの人の力を借りて全てを解決していく男。さて、どちらが強いかは明確でしょう。

大府との対決が終わった刈谷提督の話を次回は書きます。
父への報告もあるでしょう。
次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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