提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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大府を倒した刈谷提督。
ようやく刈谷提督が息をつける状態になりました。

大仕事を終えた報告など、今回はちょっとしんみりしたお話になりそうです。


第二百八十七話

「お、大府君を殺害した…?」

 

「ああ。深海棲艦の因子を自分に取り込んで人間でなくなったからな。殺すのに何のためらいもいらなかったぜ」

 

 

大府を監獄島で始末してから数日後。刈谷提督は長門と阿賀野を連れて大本営へと来ていた。古井司令長官に今回の経緯を全て報告するためだ。

 

「大本営の職員も大慌てだったよ…日本全土を本土の提督が総出で取り囲み、瀬戸内海では戦闘も確認されたからね…本土侵攻を手引きしていたとは…」

 

大府は深海棲艦の因子を自分に打ち込み、深海化。さらに金剛達自分の艦隊にも因子を打ちこんでいたらしく、深海棲艦化。しかし、時限式であったために深海棲艦として認識ができないうちに瀬戸内海へと忍び込ませていたのだ。

 

結果として不意打ちのように深海棲艦の反応が現れ、大本営は混乱に陥った。しかし、冷静にそれを鎮圧に出した呉の堀内提督。そして、刈谷提督の指示により瀬戸内海へ入り込んでいた長門達によって、日本の沿岸に攻撃を浴びることはなかった。

 

刈谷提督の独断で玲司たちにも指示を出していたこともあり、深海棲艦を呼び寄せたとしても、すべて日本本土へ近づけることなく壊滅が可能だった。

 

「黙ってて悪かったよ。大本営へはどうしてもな。司令長官だけに話したとしてもどこからか話が漏れるんだ。だから黙ってた。信頼できる奴らだけで今回は話を進めた。三条達なら絶対漏らさねえからな。漏らしたらどうなるかわかってるし」

 

「ま、まあそうだね…君がそういうことに厳しいのは玲司も一宮君たちもよく知っているからねぇ…」

 

「そういうわけだ。申し訳ない」

 

「いいんだ。日本が未曽有の危機に陥る前にこれを始末した。これは大きなプラスだ。高浜君も一安心だね」

 

「フン。国を守るだとかそんなもんは俺には関係ない。あのクソ野郎だけは絶対に始末しなきゃいけなかった。飛龍と…清州のおっさんの仇だ。そのついでに日本を守っただけだ」

 

フッと横で長門が笑っていた。長門にとっても、大府と言う男は敵であった。本来ならば持ってはいけない人間への感情。憎しみ。それを持ってしまったことに随分と苦悩していたが、それも終わった。

 

「でも、怖いですよねぇ。何であそこまでして、提督さんをその…貶めようとしたのか…」

 

阿賀野がぽそりと刈谷提督に質問をする。

 

「さあな。防衛大学の入試で負けたことへの腹いせにしちゃ、やりすぎだが…ま、もう知らねえ」

 

「清洲が言っていたよ。大府は…刈谷君はいろいろと恵まれている。とね。それを羨んだのか。まぶしかったのか…光を閉ざしたかったのだろう。壊したかったのだろう。同期で一番輝いていただろうからね」

 

「はぁ?当時一番の問題児だった日陰者だぜ?」

 

「そうとは限らんよ?刈谷君の噂は私もよく知っているが…それでもにぎやかだねぇとは思ったよ。それに、あの清州が目にかける者がいるだなんて驚きだったからね」

 

「堀内だって目にかけてたろ?」

 

「違うんだ。堀内君は刈谷君がどうしてか暴力も振るわない、暴言も吐かない。食事を一緒にと言ったり飲みに行ったり…だから堀内君の面倒も見ていたんだよ。刈谷君が近づいていなければ堀内君をかわいがることもなかったさ」

 

「………」

 

古井司令長官が言うには、清州一馬と言う男は部下にそう目をかけることなどなかった男だった。上官と下士官。その線引きをはっきりとさせていた。しかし、そこにひどく協調性もなければ暴力的な下士官がいると聞いた清州氏が刈谷提督を見た際に、この者は優しさや愛情に飢えているのではないか、と思ったらしい。

 

結局清州氏が刈谷提督の父親のような存在になったことで、刈谷提督はだいぶ丸くなった。暴力沙汰の後始末、説教…懇々と不器用ながらに優しさを注いできた。

 

「あんたみてーな人が親父だったらな」

 

「お前の父親なんぞになったら胃に穴が空くわ」

 

「ケッ、せっかくほめてんのによ」

 

「そうかそうか。ではその気持ちに感謝して飲みにでも行くか」

 

「自分が飲みたいだけだろうがよ」

 

そんなこともあったか。刈谷提督はフッと少し笑う。

 

「……提督は確かに、駆逐艦たちから父親のようだと言われていたな。困惑はしていたが、嬉しそうだったとも」

 

「あのおっさん、何だかんだで世話好きだからな。娘ができた気分だったんだろうさ」

 

「私が酒が飲めんと言えば、上等なジュースを買ってくれてな。いつもよくやった。さすがは自慢の長門だな、とほめてもらったものだ」

 

「俺に酒を送るのと一緒じゃねえか」

 

「不器用だったとも。だが、その不器用な優しさでもみんなわかっていた。だから慕っていたのだ。舞風を沈めて艦隊を解散したのも、必要以上に情を持ってしまっては悲しみにい囚われてしまって艦隊の運用に支障が出るからとな。優しすぎるのだ」

 

「何度艦隊運用に戻ってくれと言っても首をもう縦には振らなかったね…」

 

「あのおっさん、俺が飛龍をやられた時も、無理に戻らなくていいって言ってたんだけどな」

 

「そうか、刈谷君も…」

 

「それよりも大府が他の提督にも同じことをしようとしてんじゃねえかって思ったらやめてられねえわと思ってな。まあ、艦隊は解散して訳アリの龍田拾って1からスタートしたわけだけだ。まあ、おっさんみてえに艦娘突き放すなんざやっぱ俺には無理だったわ」

 

「え、ええ?提督さん、結構突き放してなかった?あ、でも提督さんは優しいよ☆」

 

「阿賀野テメエ、フォローしてんのか貶してんかどっちだ」

 

「ひっ!?ちゃんとほめてるもん!!」

 

「時に阿賀野君はずいぶんとオシャレをしているねぇ…」

 

「あはっ☆でしょ~?提督さんのコーデなんですよ~!」

 

「おい阿賀野」

 

「はっはっは!そうかそうか!大事にされているねぇ!」

 

刈谷提督は艦娘に甘い。それは矢矧や能代にも言われていることだ。そして、その妹たちには内緒にしているが、割と阿賀野に甘かったりする。

 

「提督さーん!阿賀野、この服がほしいんだけどっ!」

 

「ああ?ケツ入んのかよ」

 

「入るもん!」

 

「入らなかったら覚えとけよ」

 

「やったー☆提督さん、ありがとっ♪」

 

しかし、能代や矢矧に見つかるととても面倒なので阿賀野の服は龍田の部屋の使っていないクローゼットに保管されている。なお、妖精さんが大事に虫退治やクリーニングまでしてくれるのできれいである。

 

大本営の職員。女性にはかわいいともてはやされ、男性は「うっ…」だとか「いい…」だとか言われていた。「艦娘ごときが浮ついた服を着よって…」などとヤジを飛ばす職員はもういない。一部は「職員の風紀が乱れますので…」と注意をする者がいたが、否定しているわけではない。何せ「あの…その服はどこで?」と聞いてくるくらいだ。

 

「横須賀に艦娘のコーデしてる店があるって言うからちっと横須賀まで足を運んでくるわ」

 

「そうかね。あそこには宗…安城元提督がバーを開いているようだよ。横須賀で一泊するのなら一度言ってみてはどうだい?」

 

「ああ、カフェだけじゃねえのか。カフェばっかり雑誌で取り沙汰されてるから知らなかったぜ。へぇ、いいじゃねえか」

 

「提督よ…私は飲めんぞ」

 

「ノンアルくらい出してくれんだろ。プロならノンアルカクテルも極めてねえと話にならねえからな」

 

「元気にしているかどうか、また教えてくれたまえ」

 

「ああ。そんじゃ、行ってくるぜ」

 

横須賀鎮守府にも顔出してみるかとも思ったが、そこは気を遣う刈谷提督。いきなり行ったら迷惑かかるだろうしな、と鎮守府への訪問は見送った。時間もねえし。

 

………

 

青山墓地。ここに育ての親、清州副司令長官の墓がある。真っ白な菊や百合の花束を刈谷提督、長門と共に手にやってきた。

 

「ようおっさん。朗報を持って来たぜ」

 

いつものように気さくに声を掛ける。これが刈谷提督だ。飾らない。そのほうがおっさんも喜ぶだろうから。

 

「それから、おっさんの右腕連れて来たぜ」

 

「久しぶりだな…提督。葬儀のとき以来…ですね」

 

長門は口元がひくひくとしている。泣くのをこらえているのだ。生前はまったく会えず、いざ再開の時は永遠の眠りについているとき。そして、今度は墓石だ。話したいことがいっぱいあるのに。この提督と歩んできた日々。これを報告したかったのだ。そして、ほめてほしかった。だがそれはもう叶わない。

 

刈谷提督と長門で献花をする。阿賀野はお墓周りの掃除。そして、丁寧にお墓に水をかける。きれいになった。

そして刈谷提督が静かに線香に火をつけ、長門と阿賀野に手渡す。そして、線香を墓前に。

 

「おっさん。いい酒持って来たぜ。あんたの好きだった『路上有花(ろじょうはなあり)・葵』だ。まあ飲んでくれや」

 

「提督。提督が好きなどら焼きも持ってきたぞ。提督は甘いものを食べながらお酒も飲むと刈谷提督から聞いたのでな。一緒に召し上がってくれ」

 

どら焼きに日本酒と言う変わった組み合わせが好きだった清州副司令長官。どら焼きを食べる前には魚やら肉やら食べて、デザートとしてどら焼きは食べていたそうだ。それも飲みながら。それを聞いた長門は唖然としていたそうだ。刈谷提督は笑いながら言っていたが、一緒になってどら焼きを食べながらバーボンを飲んでいたりしたそうなので一緒なのだが、それは黙っていた。

 

合掌。黙祷。1分ほどした後、刈谷提督が口を開く。

 

「親父、終わったぜ。全部。全部だ。大府一族は全滅した。康介は自殺。和雄は…俺が仕留めた。会社は真っ黒でもうすぐ終わる。大府の問題は…全部片付いた。もう何も気にしなくていい。ゆっくり…してくれや」

 

「提督。刈谷提督が提督の仇を取ってくれたぞ。私ももちろん参加した。人を恨むなど…考えたくもなかったが、やはり提督を殺されたとなったら…胸をかきむしりたくなった。だがそれも終わりだ…心配しないでほしい。これからも…刈谷提督と共に…戦ってゆく……うっ…ううう…」

 

長門はもう涙を流していた。もう無駄なことで神経をすり減らさなくてもいい。終わったの言葉。そして、胸を張って報告したかったのに。ダメだった。

 

「提督…うっ、ぐっ…提督…!!!!」

 

刈谷提督が優しく長門の頭をなでる。何かあって泣きそうになった時、失敗して泣いてしまった時、清州副司令長官も優しく頭をなでてくれた。この長門は涙もろい。何かあればすぐ泣いている。泣いてしまう。そんな長門を優しくなでるのは2人とも変わらず、やはり親子のようだな、と長門は思った。阿賀野は長門を何も言わずに抱きしめている。

 

阿賀野も優しい。こういう時はそっと何も言わずとも抱きしめてくれたり、飲み物をくれたりと気を遣ってくれる。いい女になるぜ、お前はよ…と阿賀野に声に出しては言わないが、刈谷提督はそういうところを評価している。

 

「これからどうなるかわかんねえけどよ。長門をはじめ、ここにいる阿賀野や龍田たちとやっていく。海軍は大府一派は全員たたき出す。だからそう心配しないで見ててくれよな」

 

「うぐっ…ていどぐ…見てて…くれ…」

 

最後に「路上有花」をかける。半分はもらっていくぜ、と刈谷提督。墓前報告は終わった。語りたいことは山ほどあるが…とりあえず今回は終わったという報告だけでいいだろう。今回の目的の1つは達成した。横須賀に行けばいい時間だろう。

 

「いつまで泣いてんだ…行くぞ。おっさん、またな」

 

短い報告だったが、おっさんはうむ、と微笑みながら頷いてくれているような気がした。

 

………

 

横須賀 Bar「ルーチェ」

 

カフェの時間を終え、夜の時間を迎えたマスターはグラスをしっかりと磨き上げ、夜のバーの装いをしてカウンターに立つ。クローズドからオープンへ看板を裏返して、さて、今日はどんなお客様が来られますかね、と準備をしていた時、カランとベルが鳴る。

 

「いらっしゃいませ…おや、これはこれは…」

 

「久しぶりだな、安城さん。もういいかい」

 

「ええ。どうぞどうぞ。長門さんと阿賀野さんもどうぞ」

 

「あ、ああ…ありがとうございます」

「ありがとうございま~す」

 

「おやおや、阿賀野さんも長門さんもおめかしをされて。まさか「Velvet Lounge」へ行かれたので?」

 

「ああ。だがあの店主は何なんスか。阿賀野のケツや胸を延々と撫でまわすもんだからアームロックキメて憲兵呼んだぜ」

 

「あ、ああ…」

 

テレビでもやっていた艦娘から幼児、老人まで女性のコーディネートは任せろと豪語するすごいブティックがあると聞いていたので、瀬戸内海でリーダーシップを発揮した阿賀野へのご褒美で以前からずっと行ってみたいと要望があったので行ったのだが。

 

「こ、これは…艦娘ちゃん!?うひひひひ!!!これは想像が捗るぅ!気が高まるゥ…溢れるゥ!」

 

こういって阿賀野に対してセクハラ全開。果てには長門の尻まで触ろうとしていたのでアームロックをキメて阻止。ガアアアア!!と叫ぶ女店主だったが、その叫びを聞いた憲兵がやってきたのだ。

 

「松子さん、この人の艦娘に手を出すなんて恐ろしいことをするねぇ。まったく羨ましくないねぇ…」

 

「おい憲兵さん、こいつしょっ引いてくれ」

 

「今月12回目の指導だねぇ。いい加減逮捕されたほうがいいねぇ」

 

結局、お詫びに阿賀野も長門も服の代金はタダでいい、と言うことで阿賀野はオフショルダーのニット。黒いミニスカートにオーバーニー。かわいい若草色のブーツ。長門は刈谷提督が「これ似合うんじゃね?」の一言で決まった阿賀野とおそろいの衣装となった。

 

「て、提督…!阿賀野!?こ、こんな服など…!?」

「え~?長門さんスタイルすっごくいいから、似合ってる似合ってる♪」

 

「おう、斬新だな。阿賀野。いいことするじゃねえか」

「きらりーん☆コーディネートは阿賀野にお任せっ☆」

 

「阿賀野!?もっと私らしい服を用意してくれ!?」

「あー、もうそれ着ちまったらねぇ。しょうがないね…もうそれを持って行ってもらわねえとねぇ…」

 

「!?」

「はーい長門さん!阿賀野とおそろいでいこうね☆」

 

「く、くうううう…!!」

 

そして現在に至る。

 

「よし、お前ら俺のおごりだ。好きなだけ食って飲め」

「おやおや、これは今日は良い売り上げが期待できそうですな」

 

「やったー!じゃーあー、阿賀野はこのマルゲリータピザとぉ…」

「…お、おでん?バーで…おでん…いや、なら大根とちくわと…」

 

「酒も頼めよな。マスター、ジントニック」

「阿賀野はカシスオレンジ!!」

 

「の、ノンアルコールのカシスオレンジを…」

 

「かしこまりました」

 

ついてきてよかったー☆と大満足な阿賀野とやや戸惑い気味。そしてスカートのすそとスースーする肩を気にして恥ずかしがる長門。見ていておもしれえもんだ…と刈谷提督は出されたスモークの具合が完璧なナッツを少し食べる。

 

「今日は大本営会議か何かですか?」

 

「いや。あー…安城さんなら言っていいか…大府を潰したのでそれを清州のおっさんに報告に来たんス」

 

「大府…そうですか。長きに渡って海軍を妨害していた彼ら…特に海軍に入り込んでいた息子がいましたね…」

 

飲み物を置き、顔をしかめながら大府の名を口にする。マスターも知らないわけがない。自衛隊時代には傍若無人で多くの自衛官を泣かせ、やめさせた大府亀一郎。それをバックで支援していた息子康介。自分が抜けてから、友人たちの頭を悩ませた孫、和雄。長きに渡る独裁政治体制もようやく終わりか。

 

「あのクソ野郎共は全員地獄行だ。まったく、ようやく落ち着いて酒も飲める」

 

「ここ最近はレイテや大府のことでほとんど飲めていなかったんじゃないか?」

 

「酒飲んでる暇があるなら大府を潰す工作してたからな。ん、うめえなこのジントニック」

 

「だからと言って一気に飲むのは…」

 

「いいんだよこれくらい。ジンライム」

 

「かしこまりました」

 

久しぶりと言っているが論功行賞のあとにカパカパと鳳翔の店で酒を飲んでいたりするのだが。しかし、こうして何の気兼ねもなく飲めるのは本当に久しぶりな気がする。

 

「大府…特に亀一郎は…海軍創設時から大変口うるさくてですね…彼のせいで、『原初の艦娘』を動かす権利は防衛大臣にある、となってしまいまして。そのせいで湘南の大侵攻を許してしまった。そのせいで…玲司君…三条君のお父さんを失うことになりましたね」

 

「何だそりゃ」

 

「湘南方面へ侵攻をしていることに気づいた古井君や三条君が艦娘の出撃をしようとしたのですが、どういうわけか防衛省から待ったがかかりましてね。そうしている間に攻撃が始まり…三条君が飛び出して行ったんですよ。ご家族を守るために」

 

「そんなことまで…その、清州提督は…」

 

「もちろん亀一郎氏に抗議にいきました。古井君は防衛省に掛け合いました。防衛省は当時、亀一郎氏の傀儡でしてね…ダメでした。清洲君も話にならなかったようですね」

 

「クソだな」

 

「三条君は清洲君や古井君に出撃を任せて湘南へ大急ぎで飛んでいきましたが…MIAになってしまいましてね。街中で砲撃や爆撃を受けたようで…遺体も見つからず…」

 

「KIAになったと。チッ、どうせ新進気鋭、しかもテメエに逆らう古井さんや清州のおっさん、三条の親父さんたちが頭やってんのが気に入らなかったんだろ。そこで清州のおっさんが馬鹿に従うフリをした。頭の回転が早えからな、おっさん」

 

「その通りです。そうして対応が遅れてしまったことで国民から大バッシングを受けた防衛省と猛抗議をした古井君たちのおかげで艦娘の指揮権はようやく各鎮守府に所属する提督の手に渡りました」

 

聞けば聞くほど、大府一族の話を聞くのはうんざりする。ジンライムを飲みながら、奴らのことを思い出す。酒がまずくなるな…と思うが、もう思い出話にしかならないのは不幸中の幸いか。

 

「しかし、もう古井君も虎瀬君も…そして刈谷君や玲司君たちも、大府のことで悩まなくて済むようになったのは僥倖でしょうな」

 

安城さんの言う通りなのだ。もうこれであの馬鹿が若手にちょっかいかけて若手の艦娘を轟沈させるとか成果を横取りしようとする心配はもうない。大府派の連中も8割くらいはいろいろやらかしを追い詰めて潰した。大本営に残ったとしても、窓際でせっせと資料をファイルするだとか、直接関係ない仕事ばかりやらせる役目を押し付けた。パワハラ?テメエらがしてきたパワハラや女性職員、艦娘へのセクハラ行為を全部公表してやろうか?と言ったら黙った。

 

「ああ。おかげさんで。これで三条もやりやすくなるだろ。ああマスター、ブルームーンってできるか?」

 

「ええ。もちろんですとも。お待ちください」

 

「ねえねえ提督さん。阿賀野もおかわりほしいんだけど何かオススメなーい?」

 

「お前意外に酒強えのな。かといってカパカパ飲んでたら潰れんぞ。強えのは一杯だけにしとけ。マスター、そこのバイオレットフィズ」

 

「渋いですね。ふふ、阿賀野さんには合うのかもしれませんが」

 

「ふん、長門にはベリーブリーズ」

 

「お、おい提督…私は酒は…」

 

「心配すんな。ノンアルだ」

 

「長門さんはノンアルコールで全てご提供いたします。ご安心ください」

 

「ん~、ピザおいし~☆」

 

「おい、ソース服にこぼすなよ」

 

「はーい!」

 

お酒が飲めなくともバーの雰囲気を楽しんでほしいということもあり、マスターはノンアルコールドリンクの研究も力を注いでいる。そうこうしているとお客さんも集まり、ノンアルコールなのだがマティーニなどを飲むオシャレをばっちり決めた長身の女性、長門にすっかり男性は見惚れているし、女性もそれを真似してカクテルを飲む。夜でも艦娘がいてくれるとやはり売り上げが伸びますねぇ…と嬉しいマスターである。

 

同時に、食べ物をちょこちょこ頼む阿賀野はどれを食べても「あはっ、これおいしいよ!長門さんと提督さんも食べて食べて!あっ、カシオレおかわりー☆」と天真爛漫にふるまうかわいらしい女性にこれまたカップルの女性などが真似をして食べたり飲んだり…。

 

「マスター、バラライカ」

 

今度は刈谷提督が渋いカクテルを頼むとそのオシャレさとカクテルのセンスにより、男性も惹かれるものがあるらしい。

 

「提督さん、それおいしい?」

「ジンだからきついぞ」

 

「一口~☆」

「テメエな」

 

気が付けば阿賀野は首から上が真っ赤になってきている。

 

「阿賀野テメエ飲みすぎじゃねえのか」

「え~?阿賀野酔ってないよ?顔がちょーっと暑いけどぉ」

 

「水飲んどけ。しばらく。んでから酒頼め」

 

「はぁい」

 

「提督…次に飲みたいものを探しているんだが…」

「苦いのいけるか?カンパリオレンジ」

 

ゆっくり飲んでいるはずなのに飲み物が進む。長門はつい誘惑に負けておでんを頼んでしまった。味の染みた大根がうまいのだ。刈谷提督もちくわや卵を頼んでいるし、阿賀野も厚揚げ豆腐を楽しんでいる。

 

「マスター!阿賀野ねぇ、このロングアイランドアイスティーが飲みたいでーす!」

「………」

 

刈谷提督がよし、ともダメだとも言わずにニタリ…と笑っている。

 

「よろしいのですか?これは…「あーマスター。いいんだ。アイスティーをご馳走してやってくれ」」

 

刈谷提督がニヤニヤしながらマスターに作ってもらうように頼んでいた。長門は直感で思った。絶対によからぬことを企んでいると…。

 

「俺はグレンフィディック15年。長門にはピニャコラーダかな」

 

「かしこまりました」

 

「忙しいのに悪いな」

 

「いえいえ」

 

刈谷提督はオールドファッションドと言うカクテルを飲みながら阿賀野が頼んだ「ロングアイランドアイスティー」と言うものができあがるのを待っていた。

 

「そういえば、三条は来るんすか?」

「ええ。来てくださりますよ。お昼だけですがね」

 

「何だよ、こんないいバーがあるなら飲み来いよ」

「車で来られますからねぇ。飲酒運転はいけませんよ。ランチやケーキを楽しんでくださってますよ」

 

「そうか。地域密着してるって言うからどうなんかなって思ったんだけど」

 

「ふふ。商店街の売り上げにかなり貢献してもらってますよ。玲司君と艦娘の皆さんのおかげで商店街へ来る方もものすごく増えました。うちも昼も夜もいい感じですからね」

 

「そうか。へぇ、やるじゃねえか」

「先日翔鶴さんと来られましたよ。翔鶴さんが身籠った、と報告に来られましたよ。はい阿賀野さん、ロングアイランドアイスティーですよ」

 

「やたー!んっんっ…!んーーー!!おいしい!!!おいしい紅茶だよ提督さん!!」

「クク…ああ、そうだな…」

 

「おい阿賀野…お前、このアイスティーを作っているとき紅茶の葉を使っているところを見たか…?」

 

「んー?阿賀野わかんなーい☆」

「提督よ!これはまずいんじゃないのか?!」

 

「ふにゃー☆ん~暑いー…脱ぐのぉ」

「阿賀野!阿賀野!その下は下着だけだろう!?脱いではいけない!!!」

 

「やーだー!!長門さん、暑いから脱ぐ~!」

「ダメだ!」

 

「何やってんだお前ら」

「提督のせいだろうが!!!」

 

騒がしくなってきたな。それよりかおもしれえ話を今耳に挟んだぞ。

 

「翔鶴が身籠った?」

「はい。私もちょっとわからないのですが、翔鶴さんが玲司君の子を妊娠したと商店街の皆さんに報告にと」

 

「ほぉ~?あいつやるじゃねえか。そりゃあ何か祝ってやらねえといけねえなぁ?ついでに詳細も聞かせてもらおうかな」

 

「何かよからぬことをお考えの顔をしておりますが?」

「しねえよ。うちだって龍田とかが子供作れるかもって身体になってっからな」

 

「ほう。では刈谷君も?」

「さあな。龍田たちが望むならだ。俺もいろいろあって三条と一緒のようなもんだ。あいつよりは薄いだろうけどな」

 

「では刈谷君のお子さんを清洲君に見せてあげてはいかがですか?」

「……そうだな。嫁の一人でも連れてこいって言われてたんだぜ?」

 

「やはり清洲君は刈谷君を本当にかわいがっていますね。お父さんのようですな」

「ああ。まあ、口は悪いけどいい親父だ」

 

「そうですか…」

「ああ。マスター、ギムレット」

 

横では服を脱ごうとする阿賀野とそれを阻止しようとする長門の攻防が見れておもしろい。バーで騒ぐんじゃねえよ…と注意したらおとなしく阿賀野はちうちうとロングアイランドアイスティーを飲んでいる。マスターはシェイカーを鮮やかに振っている。

 

「どうぞ、ギムレットです」

「どうも。最後はあれだな。ジャック・ター」

 

「飲み終えてからご注文ください」

「はいよ」

 

「れーろくひゃーん、あがのー。これおかーりー」

「の、飲み切った…」

 

「呂律回ってねえな。水飲んどけ」

「や!阿賀野もおひゃけのむのー!」

 

「………マスター、ニコラシカ」

「…良いのですね?」

 

「こうなったらもう潰すしかねえだろ」

「いやしかし…」

 

「まひゅたー!おしゃけー!」

「おい阿賀野!落ち着け!ほら水だ…」

 

「んぐっんぐっ…おいひー☆はいお水飲んだよ!おかわりー!」

 

ニコラシカ。スライスされたレモンの上に上白糖を乗せ、これをまず口に含み、ブランデーを流し込む強烈なカクテルである。と言うかブランデーを一気に薄めたりもせずに流し込むので危険である。よい提督さんは自己責任でお願いします。

 

「長門にはモヒート。阿賀野には…水だな。俺は最後にジャック・ター」

 

結構酔いが回ってきたので刈谷提督も最後の注文。阿賀野は肩から胸元まで真っ赤である。大きな胸部装甲の谷間が服がずれてくっきり見えている。飲みに来た男性陣が阿賀野の胸元に視線が集まる。別の所に血液まで集中しなければいいが。

 

「ほら、服が着崩れている…女の子がそう胸元を大胆に開けるもんじゃない」

「んふふー。ならとおねーひゃーん♪」

 

「む…こんな手間のかかる妹がいるのも悪くはないが…」

 

「横須賀の娘たちと一緒ですね。目が輝いています」

「そうか。安城さんが言うならいいんだろうな。今度は三条と飲みてえなぁ」

 

「よいお父さんになるために飲んでいる暇があるかどうかですねぇ」

「チッ、お預けかよ。あいつと話すんの楽しいんだけどな。まあ電話でとりあえずおめでた祝ってやるか」

 

そう言って嬉しそうにジャック・ターを口にする。阿賀野は寝てしまったようだ。ジャック・ターを飲みきり、席を立つ。

 

「ごちそうさん。飯も酒も最高だった。また来るよ」

「またお待ちしておりますよ」

 

「おい阿賀野。阿賀野起きろ。帰るぞ」

「むにゃ~☆」

 

「チッ…俺が負ぶって帰るのかよ」

「提督、私が負ぶる。気にするな」

 

「そうか、悪いな」

 

こうしてタクシーに乗り込み、ホテルへと帰る刈谷提督たち一行。難しいことを考えずに酒を飲む時間が楽しめたことを心から嬉しく思う刈谷提督だった。




しんみりどころか阿賀野のおかげでどたばたになりましたね(笑)

刈谷提督も命の洗濯。そして今までのストレスを発散させる場がほしい。でも鳳翔で飲むとうるさく言われるから安城マスターのところをテレビと鳳翔さんから聞いていたことで知っていたのでここで飲むことにしました。
彼のお酒の知識はなかなか深い設定にしていますが、私自身が未熟なので有名どころで済ませております。
かわいらしい阿賀野もかけたので満足ですね。

次回は…何にしようかな?お腹の大きくなった翔鶴姉のお話にしようか考え中です。
次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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