その成長は玲司の料理も関わっているようです。
そんなほのぼのとした横須賀鎮守府のお話です。
「ふう、ふう…」
郵便物を抱えてゆっくりと歩くのは航空母艦、翔鶴。彼女は今、玲司との子をお腹に宿している。
明石の定期健診(思い切り勉強した)によると妊娠は今でちょうど7ヶ月。まだまだ赤ちゃんが生まれてくるには時間がある。
「わぁ~!翔鶴さん、ダメだよぉ!」
「翔鶴さん!物を持って歩いちゃだめだよ!」
「え、ええ?」
執務室へ向かう途中に突然皐月と文月に止められた。どうやら両手をふさいだ状態で歩かないで、と言うことらしい。
「で、でも…適度な運動をしないと私も赤ちゃんにもよくないから、ね?」
「転んだら危ないよぉ!文月が持つよ~!」
「ボクも持つよ!翔鶴さんはそのまま司令官のところへ行こうね!」
どうやら心配してくれているらしい。この子たちもそうだけど、霰に雪風…摩耶に五十鈴。とにかく多くの横須賀の艦娘に心配されている。
赤ちゃんが生まれる。このことで横須賀は騒然となったが、それと同時に多くの歓声があがった。お姉ちゃんになれると大喜びの皐月や文月。摩耶もそうだ。商店街で見かける小さな小さな赤ちゃん。
そんな子たちを見るだけで翔鶴はもちろんだが、ほかの艦娘も顔が思わず綻んでしまうくらい、みんな子供が好きだ。
だから、もし万が一…楽しみで楽しみで仕方ない赤ちゃんに。そしてひいては翔鶴に何かがあっては大変だからと艦娘一同が翔鶴に目を光らせている状態だった。
「それじゃあしゅっぱーつ!」
「しゅっぱぁつ♪」
優しい頼りになるお姉ちゃんがいっぱいよ…!と翔鶴は前を行く皐月と文月、頼もしいお姉ちゃんに笑顔になった。
………
「しつれいしまぁす」
「失礼しまーす!」
元気な挨拶と共に皐月と文月が入ってきた。その後ろには翔鶴。
「おお、皐月に文月。お手紙を持ってきてくれたのか?ありがとう」
「しれーかん!翔鶴さんに言ってあげてよ!翔鶴さんったら郵便物を両手で持って歩いてたんだよ!危なかったんだよ!」
「転んじゃったら赤ちゃんがぁ~…」
単純に翔鶴を心配してくれているのだろうと言うのがわかる。しかし、ちょっと過保護すぎやしないか?文月もちょっと顔がぷんすかしている。
「そ、そのぉ…ゆっくり気を付けて歩いていたんですけど…」
「「だぁめ!!」」
「は、はい…」
その光景がほほえましくて笑ってしまった。お姉ちゃんしてるなぁ、と思う。雪風も霰もかなり翔鶴に対して今敏感である。
「翔鶴さんをお守りします!」
そう言って翔鶴の前を歩き、転んだ際には下敷きになっても構わないと言う雪風。
「危ないから…おてて、繋ぎ、ます」
そういって横から支える霰。そこに夕立が加わったりともう翔鶴からしてみれば気を遣って仕方がない状況になっている。
「お疲れ翔鶴。ありがとな。そこに座って待ってて。もうちょいしたらご飯作るから」
「え、ええ…そうしますね。よいしょ、と」
「失礼しまぁす」
「ボクもー!」
皐月と文月が翔鶴の隣に座るのはもちろん、お腹を優しくさわるためだ。
「うわあ!翔鶴さんのお腹こんなに大きくなってる!」
「すごいよぉ。お靴はけるのぉ?」
「うーん、そうねぇ…もう前にはかがめないから玲司さんや瑞鶴に手伝ってもらっているわね…」
瑞鶴も姉がお母さんになると言うことで過保護全開である。「あー!いい!いい!翔鶴姉はじっとしてて!靴!はい!足上げて!」と靴を履かせてくれたり、物を取るときなどは結構な頻度で手伝ってくれる。
「ねえねえ翔鶴さん。お腹の赤ちゃんって、文月たちが呼んでも聞こえてるのかなぁ?」
「え?どうなのかしら…明石さんが言うには、そろそろそういう器官が発達して聞こえるようになってるかもって言ってたわね…私も…ふふ、呼んでみたりしてるのよ」
「そうなんだ!おーい!赤ちゃーん!お姉ちゃんだよー!」
「さっちん、そんな大きな声を出したら赤ちゃんがびっくりしちゃうよ~。文月お姉ちゃんだよぉ~。早くぅ、赤ちゃんに会いたいなぁ~♪」
「ふふふ、赤ちゃんも早く会いたいって」
「聞こえたの!?」
「そんなふうに感じただけよ」
「えぇ~!なーんだー!」
「皐月ー。心配しなくてもあと3ヶ月もすりゃ会えるよ」
「長いよ~!」
「もうちょいじゃないか…」
「しれいかぁん、3ヶ月だよぉ?長いよ~」
「そ、そうか…」
「ふふ、皆さん、本当に提督と翔鶴さんの赤ちゃんが待ちきれないようでして」
何度も赤ちゃんに呼びかける皐月たちに目を細めて大淀も笑っている。鳥海も霧島も、お腹を優しくなでる翔鶴と呼び掛けている2人に手を止めていた。
「どんな子が生まれてくるのかしら?男の子?女の子?」
「それは生まれてからのお楽しみ…と言うことにしてる。今ならもうわかるらしいけどな。でも、それだと何かこう…」
「テレビで見たことがあるんです。男の子ですか?女の子ですか?って旦那さんが聞いたら元気な男の子ですよって言われてとても喜んでいた光景…私たちもそれを楽しもうって思っているんです」
「じゃーあー。まだ弟になるのか妹になるのかはわかんないんだ」
「そうだな。生まれてきたらのお楽しみだ。それまで楽しみに待っててくれよ」
「赤ちゃん!早く生まれてきてね!」
「それはダメだ!」
「ふふふ」
「さっちんはせっかちさんだよ~」
「うー…」
「そう言えば司令、生まれてくる赤ちゃんにはもう名前は考えているんですか?」
「あー、そうだなぁ。いくつかは絞れたけど、まだ翔鶴とあれやこれやと話し合ってるよ」
「いっぱい浮かんできて玲司さんとも決まらないんです…」
「ふふふ、そういう楽しみも生まれてくるまであるんですね。楽しそうです」
「まあな」
「ま、まさかジュエルとかダイヤとか…」
「つけねえよ!!!鳥海、俺のことなんだと思ってんの…?」
「冗談です」
「えらく深刻そうな顔してたが…?」
人を某車ローンの歌のように言いよってからに…とブツブツ言う玲司。皐月と文月は元気に生まれてきますように、と謎の踊りを翔鶴の周りをグルグルしながら踊っている。期待がいろいろとうちの子高すぎない…?とちょっと不安にもなる玲司だった。
………
さて、と翔鶴専用の料理を作るために食堂へやってきた玲司。バランスよい食事を摂って母子ともに栄養を、と言うことで最近は玲司が専用料理を作っている。
「玲司、はよはよ!今日は何や!?」
「あのな姉ちゃん。翔鶴専用っつってんだろ!」
「ええやん!そういうてどうせようさん作って余らせるんがオチやん!」
ああ言えばこう言う…そしていつの間にかいる神通。瑞鶴。君ら、本当どこからかぎつけてくるの?そう言いたくなるのだった。
「まあいいや、作っていくぞー」
そう言って取り出したのはアサリ。大粒で食べごたえ抜群のアサリを源さんにもらってきた。それとハマグリだ。
「あっさりーしっじみー、はまぐーりさーん」
謎の歌を歌いながらアサリとハマグリを洗っていく。
「提督さん、今日は貝づくし?」
「んー?まあそうなるかな。貝類はミネラルなんかも豊富だし。あとはぶり照りか…鶏の照り焼きか…あとハマグリの潮汁だな」
「う、潮のお汁ですか!?わ、私でだしを…あわわわ…」
「潮、違う違う」
たまたま通りがかって耳に入ってしまった潮が戦慄していた。
「えー!?ご主人様うっしーの出汁を取るんですかー!!へー!じゃあお風呂でしっぽり…アガガガガガガ!!!!」
「司令、失礼しました。コレは処分しておきますので」
「ぬ、ぬいー!ゴミ扱いしないでー!あー!あー!頭が割れるーーーー!!!!!!」
不知火にアイアンクローをされたまま、漣は退場していった。潮には、潮汁とは「貝や魚から取ったうまみをそのまま活かしたお汁」としっかり説明し、決して潮からダシを取るわけではないよ、と説明し、ペコペコ頭を下げて不知火たちのもとへと向かっていった。
「………ドッと疲れたぞ」
「なんてーか…大変やね…」
「ま、まあ作っていくか…」
「提督、今日は何を作るのですか」
「神通目が怖い!今日は深川めし。簡単に言えばアサリの炊き込みご飯だ」
「何やそれ!また聞いたことない料理やで!」
「はいはい静かに…んじゃ作っていくか。まずはアサリを水から茹でていく」
小気味のいい音と共に鍋に放り込まれていくアサリ。
「そういえばタケノコの水煮があったな。あれ、徳さんが作ったやつでシャキッとしててうまかったな。入れるか」
たけのこを切っていく。
「玲司、アサリ余ってるやん?」
「ああ、これ酒蒸しにしようと思って」
「な、なんちゅう贅沢な…翔鶴はええ旦那さんを持ったやねぇ…」
「え、えへへ♪」
しばらくして龍驤たちがうっとりするくらい、濃厚なアサリのいい香りがし始める。
「うっわー…すっごいおいしそう…これだけでご飯いけるね…」
「まだまだ、酒と醤油を入れて…アクを取って…」
「ただ煮るだけやのに手間がかかるなー」
「アクは取らなきゃまずくなるからな。こういうところが大事なのさ」
「むむ、ここでアク取り…」
「間宮はまたメモかいな…」
気が付けば間宮がまた料理の作り方をメモしている。
「うっし、これであとは貝殻から取っていくと…姉ちゃん手伝って」
「えー!うちがかいな!」
「提督さん、瑞鶴がやるわ!」
「あの、玲司さん、私も…」
「おう、頼む!」
むしむし…と無言でアサリの身を外していく。何だかんだ言いながら、働かざる者食うべからずになってしまうことを悟った龍驤も加わっていく。
………
「なんやかんや言うて、うちらも食べる分も確保してるやんね、これ」
「どうせ来ると思ってな」
「クスン、私や茉莉ちゃんのご飯よりもやっぱりいいですよね…」
「ちゃうやん!これは試食!ちゃんと間宮たちのんも食べるって!」
「あ、あの…私もちゃんと食べますから…!」
何か間宮がナーバスになっているが、結局龍驤たちもペロッと間宮たちが作った料理を食べきるのだから気にしてはいけないんだろうな、と思った。
「よーし、このダシとアサリを研いだ米を入れた窯に入れて。タケノコも入れて…うん、ばっちりな水量だな」
「な、何これ…もうこれだけですごいおいしそうなんだけど…」
「だろー?よっしゃ、かまどに火を入れて…これを炊いていくぅ!」
「あかんー!これは絶対うまいやつやん!!」
「よーし、アサリの酒蒸し作るか。あとハマグリの潮汁を作る」
フライパンにごま油、しょうがとにんにくのみじん切りを入れて加熱。油がいい感じに香りついたらアサリを投入。しばらく火を通した後、日本酒を入れる。
「今回は『菊水の辛口』でいくか」
「玲司~、それちょーだい!」
「食う前から飲むんかい!」
「それおいしいねんもん!」
「さいですか…」
龍驤はアサリとごま油の香りを肴にチビチビお酒を飲み始める。神通はジュワー!と言う音と香り高いごま油の香りに酔いしれている。ごめんなーと言いつつ蓋をして蒸す。
ハマグリも水から煮ていく。
「ええハマグリやなぁ」
「茨城のいいハマグリだよなぁ。これは絶対うまいぜ」
ダシを活かすべく、ちょっと赤穂の塩を入れるだけ。
「翔鶴、塩辛くない?」
「…んっ、おいしいです!!」
「よしよし、これでいいな。酒蒸しもできるぞ」
こちらも余計な味は足さない。アサリの濃厚なエキスをそのままで。
「提督、ご飯、もう炊けてますよ!」
「オッケー、よっしゃ、これをもう上げて…10分くらい蒸らすか」
「早く!早く!」
「姉ちゃんが先じゃねえからなー」
こうして、翔鶴専用メニューが完成した。もちろん、翔鶴は艦娘であり、航空母艦である。これだけでは足りないのだ。当然、間宮と茉莉の料理も食べる。むしろ食べる量が増えてしまって大丈夫かしら…と思うのだが、不思議と太ったりもしない。
「翔鶴ぅ…最近なんかあれやんなぁ…胸、絶対でかなってるやんなぁ…なんやぁ、玲司から専用ご飯作ってもろて…間宮らのご飯も食べて…栄養が赤ちゃんとおっぱいに行っとるなぁ?」
「おい何言ってんだ姉ちゃん」
「見てみぃや!!このう、牛みたいな!牛みたいな乳!!!!」
言葉に出しては言わないが一緒に今でも風呂に入っている。その時に「翔鶴、その…大きくなった?」と聞いたことはある。「お腹ですか?」と聞かれて「いやその…む、胸…」と言ったら翔鶴は真っ赤になってしまった。
赤ちゃんに母乳を飲ませるために準備のためもある。やはり栄養がいっているのか…?
「うわ~!翔鶴さんおっきくてきれいな胸してますよねー!」
そう言って蒼龍にえらく遊ばれたりもしたものだ。
「く、くう…私も提督さんのご飯を食べれば大きくなるのかな…」
「うちも…」
「そりゃないだろ」
「何やとワレェ!!!!うちの真剣な悩みをそないに簡単に受け流しやがってなぁ!!!!うちかてなぁ!!!!龍驤さん大きくなったねー!とか言われたいに決まってるやろ!!!」
「ず、瑞鶴だってねぇ!姉がこんなおっぱいしてるのに私は何よこれぇ!!!!差別だと思わない!?」
「知らねえよ!!!」
神通もなぜか胸を触って、翔鶴の胸と見比べて…「い、いえ…鍛錬の邪魔…ああ!そんな失礼なこと!!!」と悶々としていた。間宮は苦笑するだけだった。
………
胸の談義のせいで蒸らしの時間から大きくかけ離れてしまったが…
「はい!それじゃあ蓋開けるからな!!!!」
ヤケクソになりながら蓋を開ける。その顔には思い切り詰め寄られた疲れが見えていたが。
蓋を開けた途端、湯気と共にアサリやタケノコ、そしてダシの豊潤な香りが龍驤たちを包み込む。
「すーーーーー…ふーーーーー…」
龍驤も瑞鶴も間宮も…大きく息を吸い込んで肺一杯に極上の香りを取り込む。
「これが…」
「深川めし…」
「おいしそ!!提督さん!このご飯も酒蒸しもお汁もすっごいおいしそう!!!」
そうして出来上がりましたのは
・アサリとタケノコの深川めし
・アサリの酒蒸し
・ハマグリの潮汁
・だし巻き
「だし巻きは蛇足だったかもなぁ」
「いやいや、これがあってこそやで。玲司のだし巻きは天下一なんやからな!」
「貝づくしなら刺身とかもいいなと思ったんだけどこれだけで十分かなって。間宮たちのご飯は唐揚げとかだし、これでいいだろ」
「せやせや、これで十分や!」
ご飯をしっかり混ぜる。それだけで香りがぶわっと舞う。んー…と誰もが幸せになる匂いだった。
「あ、あ!おこげ!おこげ食べたい!」
龍驤の語彙力が小学生のようになるほどの見た目と香りだった。へえへえ…と言いながらおこげを龍驤のために盛る。翔鶴のために作ってんだけどなぁ…と思いつつ、翔鶴にもおこげを少々。そしてアサリとタケノコは多め。ハマグリも贅沢に入れたので多め。
「ちぃ…嫁をひいきしよって…」
「当り前だろうが!かわいい嫁さんファーストに決まってんだろ!」
「か、かわいい!?えへ、れ、玲司さん、えへへ…えへへ♡」
「ちょっと、ご飯前にのろけないでくれる!?おいしいご飯が砂糖突っ込んだみたいになるからやめてほしいんだけど!!!」
翔鶴はお腹をさすりながらやんやんと照れながらテーブルに並ぶご飯とおかずを見るのだった。
「それじゃあ」
「いただきまーす!」
「いただきます…っ!」
そうして潮汁を飲んだり、酒蒸しを食べたり、ご飯にいきなりいったり。それぞれが食事を楽しむ。
「うっまあああああああ!!!!」
「おいっし!何これ!?」
「ほわぁ…おいしい…」
「な、なんやこれ?!ご飯にアサリの風味ががっつり…!しかもアサリもまだ噛めば噛むほどうまみが出る…!タケノコがしゃっきりしてて新しい食感やで!?」
「酒蒸しおいし!!!!スープにアサリのうまみが…あとニンニクがちょっとくる!おいしいよこれ!!」
「…ハマグリ…優しい味がしますね…身も噛めばぎゅっとおいしい味…」
「んおおおお!!玲司!香住鶴出して!うちのとっておき!!!」
「居酒屋じゃねえんだからさぁ…」
「うわぁ…うわぁ!ご飯おいしい!何これ!すっご!」
アサリのうまみがご飯にギュッと詰まり、かつアサリはしっかりとうまみを出す。タケノコはシャキッとしており、さらに姫皮の部分も使っている。
アサリの酒蒸しは余計な味付けはほぼしていない。ごま油の風味とガツンと来るニンニクの香り。それと同時にうまみを出すアサリが絶妙に酒が進むとは龍驤。
ハマグリの潮汁はハマグリのダシだけを使ったものなのだがそれだけでも十分なうまみを出していた。辛すぎず、薄すぎず、パンチのきいたハマグリの味が楽しめた。
「翔鶴姉…おかわりまで…間宮さん達のご飯食べれるの…?」
「んっんっ…?ええ。まだ食べられるわよ?」
「……赤城姉ちゃんみたいに食うなぁ」
「くっ、こんだけ食うてまた食うて…そしたらウチも翔鶴みたいに…」
「私もなれるかな…」
「いや、翔鶴の場合は赤ちゃんがいるからだろ」
「「ちぃいいいい!!!!」」
ちなみに神通はもっもっとひたすら無言でいろいろほおばっている。
「んでー?玲司はそんな翔鶴のお乳をいただいとるんやろー?」
「お前は何を言っているんだ」
「こーんなええお乳してるんやで?揉まな損やろ?」
「あのな。翔鶴は妊娠中なんだぞ。そんなことできるかっての」
「わー、提督さんってほんと翔鶴姉を大事にしてるよねぇ。妹としてはうれしいかな」
「うふふ…嬉しいです」
「翔鶴さんはお子さんを産んだら2人目はどうされるのですか?」
「ふぇっ?!」
「2人目かー。負担になるのは翔鶴だけだからな。まずはこの子が大きくなってから…かな」
「そ、そうですね…でも2人目か…」
「お?翔鶴姉は欲しい感じ?」
「そうね…でも、今はこの子を全力で育てたい…かしら」
「うんうん。まだ産まれる前だもんねぇ」
「………早く会いたいね…お母さん、待ってるから…」
「父さんも待ってるからな」
「へー、パパママじゃないんだ」
「ああ、翔鶴と話し合ってな。お母さん、お父さんって呼んでくれたほうが何かいいなぁって」
「商店街でもお母さんって呼んでいる子供を見たほうが何だかこう、わくわくするって言うか…」
「うち、龍驤おばちゃんとか呼ばれるんかな…」
「やっぱ龍驤ちゃんじゃね?」
「何やとオドレーーー!うちを子供扱いしたなぁああ!!」
「ぐえーーーー」
「れ、玲司さーーーん!!」
玲司はそのままチョークスリーパーをキメられて死にそうになったとか。
………
「んで、今日は夕立に…時雨に村雨に春雨。白露型勢揃いだな」
「ぽい!!!翔鶴さんの特別メニューがおいしいと聞いて参上したっぽい!」
「提督…そ、その…僕も特別メニューを…」
「はいはーい!村雨さんにもちょっといいものお願いしまーす!」
「へーへー…」
この翔鶴の特別メニューにあやかろうとする艦娘が増えてしまったが…玲司はまあ、いいか、とのんきに今日も翔鶴専用メニューを作る。
「そうだなぁ、駆逐艦に合うメニューだなぁ…」
そう言って玲司がごそごそと冷蔵を漁る。間宮は再びメモとペンを片手にスタンバイ。
「春とは言えちょっと冷えるからな。はいよ。今日はロールキャベツ」
「ぽい?ロールキャベツだけどお味噌がかかってるっぽい?」
「ああ、それ和風ロールキャベツ。白みそかけてあるんだ」
「お、おいしそう…」
「ほら、竹おばさんの白みそのどて煮あったろ?あれの応用だよ」
「うわー。おいしそう!いっただっきまーす!」
そうして時雨、村雨、夕立、春雨も加わってロールキャベツにかぶりつく。
「「「「んー!!!!」」」」
「お、おいしいです!優しい味がします…はい!」
「おいしいよ提督!」
「はは、そりゃよかった」
かじった先からあふれる肉汁に夕立がぽいー!と謎の叫びをあげる。
翔鶴も目をきらきらさせて食べているのを見て玲司の顔が綻ぶ。奥さんに最高の料理を振舞いたい。料理人として血が騒ぐのである。
「ほい、菜の花のおひたしな」
「おおっ、これって茉莉さんが育ててるやつじゃ…」
「正解。茉莉にはちゃんと許可もらってるよ。おひたしが合う合う」
「んっ、ちょっと後からくる苦みがおいしいね…うん?何ていうか…ビールに合うような…」
「ははは、俺のメニューは割と龍驤姉ちゃんのリクエストも多いからな。酒に合うおかずとか料理が多いんだよ」
「でもこれくせになるー…おいしっ」
「それは結構」
「甘辛くておいしいです…それにしっかり染みてるし…カツオですか?の風味もすごい…」
「おっ、春雨は試食係になれそうだな」
「提督さん!夕立も!夕立もー!」
「夕立は全部おいしいっぽいしか言わねーからなぁ」
「ぽいー!?」
そんな賑やかに騒ぐ白露型をにっこりと食べながら見つめる翔鶴。
かつて、ここは地獄だった。夕立は時雨と村雨を守るために死ぬ気になって戦い、時雨と村雨はいつ終わるかもしれない苦しみを味わった。春雨を失い、絶望に暮れていた時にさらに地獄が押し寄せ、3人は余裕をなくしていった。
それが今は姉妹がそろって…白露さんも顕現してくれればいいのだけど…と憂う気持ちはある。しかし、それはさておきで賑やかに舌鼓を打つ姉妹。その顔は幸せそうだった。
全て、この地獄からみんなを介抱してくれたのは旦那さん…玲司だった。彼が来てくれなければまだ地獄の真っただ中だったかもしれない。
妹も轟沈していなくなっていたかもしれない。もうそれは悪夢の中の1ページであり、そうなることはない。
「はいよ、名古屋コーチンの水炊きな。白菜としいたけ、豆腐、ヒラタケな。これ、ポン酢。ゆずポン酢な」
「おおー!グッドー!春雨!食べよ食べよ!」
「はい!!おいしそう…!」
「ぽーい!!!鶏肉やわらか…おいしい…!」
「うまいだろー。茂さんとこでいい名古屋コーチン入ったって言ってなー」
「玲司さん…本当においしです…はい、あーん」
「ん?あーん。んっうっま!」
「わー…ラブラブ…」
「ま、まあ提督と翔鶴さんは夫婦だし…」
「提督さん、翔鶴さん!赤ちゃんもきっと喜んでるっぽい!」
「ははは、そうだと嬉しいなぁ」
「栄養バッチリじゃないかな。おいしくて…赤ちゃんにも栄養がしっかりいく…本当においしいよ…僕、これ好きだな」
「時雨、いいね。うん、お父さんからできる今の赤ちゃんへの最大の愛情表現ってことで」
「ふふ、玲司さんの愛情がたっぷりですね…お豆腐がおいしい…!」
「よしよし、翔鶴のお気に入り料理が増えたぞ」
「提督、もしかして村雨達、翔鶴さんのお気に入りメニュー追加のための実験台にしてないですか?」
「と言うかみんなが翔鶴のために作る晩飯を食べたい食べたいって争奪戦になってるんだぞ…まあそれを見越して多めに作ってんだけどさ…」
「こんなの毎日食べてるんですか!?でも…翔鶴さん太らないし…あ、胸は大きくなりましたね」
「またそれか…」
「え?おっぱいについてはノーコメント?」
「提督さんがもんで大きくしてうぎっ!」
げんこつが夕立に一閃。当然の仕打ちである。時雨の目も冷ややかである。
「ったく、なんで俺が大きくしてるってみんな言うんだよ…」
「ご、ごめんね提督。夕立にはきつく言っておくから…」
「え、えっと…玲司さんのおかげも…あるかも…?」
「翔鶴ゥ!?」
「え。ええ!?提督…妊婦さんにそんな…」
「違う!誤解だ!濡れ衣だ!?」
「あ、あのぉ…司令官と翔鶴さんって本当に仲がよろしいのですね…」
「あはは、春雨顔が真っ赤っぽーい!」
「夕立はおじやなしなー」
「ぽいーーーーー!?し、提督さん!ごめんなさーーーい!」
「……夕立は放っておいてこの水炊きで鶏肉とかのいいダシが出たからこれでおじやな。名古屋コーチンの卵を使ってだな…」
夕立がわーわー騒いでいるが、そこは玲司。しっかりと夕立の分も作っている。名古屋コーチンや野菜、キノコのうまみをたっぷり含んだ汁をしっかりと吸っていく米。これも依佐美米穀店で選りすぐりの新潟県魚沼産コシヒカリ。材料に妥協はない。
黄金色に輝くかのような名古屋コーチンの卵が、火を止めた雑炊にたらりとたらされていく。そして、それは鮮やかな黄色に変わり、米を覆い隠す。その瞬間、鍋を凝視していた全員から「おおお!」と声が上がった。
「ほい!あとは有明産の刻み海苔をまぶして…完成!ポン酢をお好みでかけてな!」
「はふはふ…!ポン酢なしでもすっごくおいしいっぽーい!!」
「…うん、僕はちょっとだけ…すごいうまみが出てる…!」
「村雨もポン酢なしでいきまーす!」
「このポン酢もおいしいので…はい!春雨はたっぷりかけます!」
「ふふふ、今日もおいしいですよ、玲司さん」
「ああ、よかったよ」
今日は白露型が料理を堪能した。龍驤は「出遅れたーーーーー!!!なんでこないな日に出遅れんねん!!うちのアホーーーー!!」と叫んでいた。がっつりお酒が進む料理だったため、龍驤は泣き崩れた。
………
玲司と翔鶴の部屋にて。
「玲司さん、今日もお疲れさまでした」
「ありがとう、翔鶴もお疲れ様」
玲司に後ろから抱き着かれる形でくつろいでいる翔鶴。2人きりになったときの翔鶴の楽しみだった。
「お腹、本当に大きくなったよなぁ」
「ええ。ふふ、幸せの重みです」
「そっか。大丈夫か?しんどくないか?」
「ええ。順調に…健康に育ってくれているんだなぁって思うとつらくなんてないです…幸せですよ」
お腹を玲司が優しくさすってくれる。それだけで少し背筋がぞくぞくし、もっとしてほしい。抱きしめてほしいと思う。と思っていたら優しく抱きしめてくれた。玲司の体温がしっかりと翔鶴に伝わる。
「玲司さん。私、本当におっぱい…大きくなりました…?」
「そうだなぁ。妊娠前に比べたら確かに大きくなったかな?」
「んっ…そ、そうですか…玲司さんに…その…触ってもらったと言うのも…えっと…いっぱい…」
「あ、あのなぁ…」
「うふふ、冗談ですよ♪」
「冗談に聞こえないんだよなぁ…」
「ちょっとは…あるかも?」
「…かもな」
「玲司さんのえっち」
「翔鶴がもっと触ってーって「れ、玲司さん!?」」
ふふん、と玲司は笑った。も、もう…と翔鶴は顔を赤くして黙った。
「これからももっと大きくなるんだよなぁ」
「お、おっぱいですか…?」
「お腹だよ!」
「えっ!?ええ?!あ、ああ、そうですね!!!あっ!」
「いま…お腹蹴ったよな?」
「は、はい…お、お父さんのえっちって…思ったのかな…」
「え、ええ…マジか?そういう話はやめなさいってことか…」
「そ、そうですよね…えっちな話は胎教に悪いですよね!」
「そうだよな!よし、やめような。ごめんなー」
「うう…ごめんね…」
お腹の赤ちゃんに怒られつつも、しっかりキスをしたりするなどして、夫婦水入らずの時間を過ごす玲司と翔鶴。そんな幸せな日々。翔鶴はそれを毎日かみしめていた。
赤ちゃんはスクスクと育っています。翔鶴もお母さんとして日々変わっていっています。玲司のご飯を栄養に。そして優しさに身も心も癒されています。
実際に翔鶴が食べる量はみんなが「原初の艦娘」赤城が食べているよう(横須賀にいたときは通常の7割ほどの量)だとか。蒼龍や武蔵なんかも負けじと食べていますが。
出産が近づいてくる中、翔鶴は幸せの真っただ中ですね。
次回は…五ヶ丘提督のお話でも書こうかなと思います。次回もお待ちいただけますと嬉しいです。
それでは、また。