提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第二百八十九話

「やっぱ司令の体ってすげーな!バッキバキだもんな!」

 

「司令官マジすごいよ!見てこの腕!うちの足より太いよ!」

 

「こらこら、女の子がそんなはしたないことするんじゃない」

 

「高波の腕の倍以上あるかも…です!

 

「ねえちょっと?どうして提督が私たちのお風呂に一緒に入っているの?」

 

「え?陸奥さん、何って…司令に体や頭洗ってもらうためだけど?」

 

「朝霜ちゃん、それってどうなのかしら?」

 

「最高に気持ちいいんだぜ!」

 

「う、うん。とて、とてもきも、気持ちいい…」

「浜波ちゃんまで…」

 

「細かいことを気にしてはいけないのよ、陸奥さん」

 

「男女なんだから気にしたほうがいいと思うんだけど…」

 

鹿屋基地、五ヶ丘提督は夕食後のお風呂タイム。それも夕雲型駆逐艦の甘えん坊な面々が提督に体や頭を洗ってほしいし、一緒に湯船でのんびり語らいの時間が取れる素敵な時間なのでゾロゾロと集まってくるのだ。

 

筆頭は朝霜、秋霜、清霜。意外にも恥ずかしがって逃げだしそうな高波や浜波までついてくるのだ。人数が多いからと言って適当なことをしない几帳面(?)な性格の五ヶ丘提督。頭を洗うときは髪をいたわり、頭皮の汚れをしっかり痛くないように洗う。その時の頭皮マッサージが気持ちいい、とは夕雲型の誰もが言う言葉。そしてコンディショナーにトリートメント。

 

「女の子は髪がきれいでさらさらのほうがいいよな!秋霜もこれでいい髪になるぞ」

 

「やたー!司令官大好きー!」

 

裸で抱き着いてくるなんか日常茶飯事。おかげで早霜や風雲、朝霜など、髪の長い子たちはもはや提督の髪の整えがないと困るくらいになってしまっている。さらに駆逐艦たちを虜にしているのが体を洗うこと。彼女たちは最初こそなんだか恥ずかしそうにしていたのだが、今ではもう普通に提督に生まれたままの姿を腕を広げて見せるようにまでなってしまっている。

 

はたして、小学校高学年。場合によっては中学生くらいの見た目をしている夕雲型駆逐艦であるが、それでいいのか?とも思うが、提督が何をしても欲情もせず、一生懸命に体を洗ってくれることがいいのだと言う。時々朝霜がおしりを提督の顔にくっつけたりするのだが…。

 

「こら、じっとしてなさい。ちゃんと洗えないだろう」

 

これである。人間の女性が見たら枯れているのか…それとも男色なのかとも思うほど、彼は艦娘に対して一切の性的交渉なんてもちろん、性的に見ないのである。ちなみに、ここに加賀が加わり、髪を洗ってほしいのですが、や体を洗ってほしいのですが、と言うと。

 

「ああ、いいぞ。そこに座りなさい」

 

「………失礼します」

 

風呂場なのでわからないが、彼女は排熱が苦手である。ゆえに湯気に紛れて頭から蒸気を噴き出している。加賀と言えば実際豊満であった。しかし、それを見ても、彼はセクハラ一つしないし、発言もしない。

 

「すまん、ちょっとおしりを上げてくれるか?」

「は、はひ」

 

提督の手が加賀のおしりに吸い付く…しかし、彼はただおしりを洗うだけ…加賀はその瞬間ひゃぅ!?など、おおよそいつもの加賀からは考えられない声をあげるのだが…。

 

「どうした?背中に冷たいしずくでも落ちて来たか?」

 

これである。彼は加賀のおしりを鷲掴みにしながら懸命に足の付け根やデリケートな部分を何も気にせず洗う。その羞恥心と何とも言えない感覚に加賀はプルプルと震えだすのだが…

 

「ん?どうした、寒いか?湯冷めしちまうな。早いこと洗うからな!」

 

「い、いえ…いいのれす。ゆ、ゆっくりでも…あふっ」

 

「もうすぐ終わるからなー」

 

それを見ていた陸奥が口をパクパクさせて見ているのだった。

 

全てを洗ってもらった後、湯船に体を真っ赤にしながら入る加賀に朝霜が聞く。

 

「へへー♪加賀さんどうよ?司令の全身メンテ!」

 

「……気分が高揚します。とても」

 

「あ、あなたね…!駆逐艦とはわけが違うのよ!?何をしているの!?」

 

「…陸奥さん。あなたもやってもらうといいわ。私、胸がはじけそうよ」

 

「無表情で言われても…」

 

「おーい、陸奥もやるか?」

 

「やらないわよ!!!」

 

陸奥も提督に悪意はないとわかっているからこそ、強く言えないのだ。それでいて、夕雲型駆逐艦にも大人気。絶対にやめろと強く言えない。せっかくの楽しみをあの子達から奪うわけには…いいえ…これって倫理的にどうなの…!?とは思うのだが。

 

「司令官…ふふ…今度は…この早霜をお願いします…」

 

「おう。よーし、早霜の髪はメンテのしがいがあるからな!さ、座った座った」

 

「はい…ふふ…素敵です」

 

「んふー!早霜もあたいも髪がなげーから大変なのに、すげー丁寧だよな!」

 

「あ、あたし、あたしも…大変だと…思う」

 

「けどなー。ほんとに気持ちいいよな、浜波姉!!」

 

「う、うん…♪」

 

こうして提督の夜は夕雲型の髪と体のメンテナンス…?で時間が過ぎるのである。

 

「ごっしゅじんさまー!漣ちゃんもお願いしますおー!」

 

「おー漣。早霜が終わったらなー」

 

「……みんなタオルくらい巻いて体を隠しなさい!!」

 

しかし陸奥のこの言葉は誰にも聞かれることはなかった。

 

「と言うか、最近加賀までバスタオルを体に巻かずに素っ裸よね?!」

 

「湯船にバスタオルを巻いて入るのはマナー違反よ、陸奥さん」

 

「い、いやよ!!!私はそう簡単にあの人に裸を見せる女じゃないんだから!」

 

「そーれどぼーん!!!」

 

「コラー漣!飛び込むな!」

 

「おー何だまた今日も大勢いんな…ってわああああ提督!?」

 

「うるさいわね!静かにしなさいよ響くんだから!…今は早霜…その次は?」

 

「漣チャンでーす!」

 

「ならその後ね」

 

「か、霞ぃ!?おま、提督いるんだぞ!?すっぽんぽんはやべーだろ!?」

 

「なんでよ?体を洗ってもらうのにバスタオル巻きながらなんて無理でしょう?」

 

「……お前だけはあたしや陸奥さん側だと思ってたのに…」

 

長波は陸奥と同じである。しかし、ここ最近は長波もあの絶対に隙を晒さないと思っていた霞でさえ、今はタオルを体に巻かず、提督に全てを委ね、徹底的メンテを施してもらうのである。結果として最近、長波も提督に任せていいんじゃねえか…?と思い始めている。

 

2200。今日一緒に入浴した艦娘の髪の毛を乾かしてメンテ終了。

 

「じゃあおやすみ、司令官!」

「し、司令、おや、おやすみなさ…い」

 

「おやすみなさい、提督。お疲れさまでした」

 

「おやすみ、みんな。扇風機の風を直で浴びながら寝るんじゃないぞ!」

 

朝から夕方までは執務。夜は艦娘と一緒にお風呂。これがすっかり五ヶ丘提督の日常になった。なお、五ヶ丘提督には本当に性的な行為はないのである。

 

(……また勇気を出せなかった…私のばかぁ…)

 

秘書艦である白雪はいつも勇気が出せずに朝霜たちに手を引かれて大浴場へ行く提督を見送ってはクソデカため息を吐いている。

 

……

 

「なあ白雪。今日の事務仕事を片付けたらあんま仕事ないよな?」

 

「はい。しばらくは…司令官の努力の賜物ですね」

 

「白雪がいてくれたからな。白雪がいてくれると本当に事務がはかどって助かるよ」

 

「えへへ…そ、そんな…」

 

ある平和な昼下がり。少なくなった書類を見て白雪は思う。やっぱり司令官は事務仕事がすさまじく早い…と。大本営勤務時代も彼は事務仕事のプロフェッショナルと言うほど仕事が早かった。それでいて艦娘との交流もうまく、仲が良い漣たちを見た刈谷提督が鶴の一声をあげて彼を提督に押し上げたのだった。実際、まだたどたどしくはあるが、艦隊運用が艦娘とのコミュニケーションも良好なためにうまくいっている。そして…。

 

「浜波ぃ…!早波…!改二おめでとう!」

 

「う、うん…し、司令のおか、おかげ…!」

 

「そうじゃない!浜波ががんばったからだよ!」

 

「ねーえー司令!早波も~!」

 

「ああっ、そうだったな、ごめんごめん。早波も改二…おめでとう。これで藤波に並んだな、早波!」

 

「えへへ♪ううん!まだまだお姉ちゃんには敵わないもん!でも、浜ちゃんと一緒にお姉ちゃんを支えるんだー!」

 

「そうだな!みんなで支えあって頑張っていこうな!」

 

「もち!あたしも浜ちんと早ちんに負けないようにしなきゃ!」

 

「あ、司令!今日は一緒にお風呂はいりたーい」

 

「し、司令、あた、あたしも…」

 

「じゃあ藤波もー!」

 

「よしよし、一緒に風呂に入ろうな!」

 

玲司のところでは日常茶飯事な突然何の前触れもなく改二になる現象。最近では三条現象とまで呼ばれているこの現象は五ヶ丘提督のいる鹿屋基地でも頻発している。早霜や清霜、朝霜もそうであるし藤波、早波、浜波も三条現象によって改二になった。提督の艦娘の信頼度が一定以上に満ちるとなる、とのことであるが、一緒に風呂に入って…ご飯も一緒に食べて、朝の寝ぐせ直し…それだけである。まあそれだけ五ヶ丘提督が艦娘に対して惜しみない愛情を注いでいると言うことになる。

 

この日は三十二駆全員と風呂に入って、全員のメンテを施した。以前は難色を示していた玉波や涼波もすっかりメンテの虜になり、夕雲型の中でもなかなかたわわなものをお持ちである彼女たちもバスタオルを巻く?何それ?状態であった。

 

余談ではあるが、たわわな夕雲も一切タオルを巻かない。むしろ提督に裸で抱き着いて甘えてくれてもいいんですよ~?と言うことをしたりもするが、提督は一切動じないことが夕雲の悩みの種でもあるらしい。

 

……

 

「なあ司令?司令ってどうやって体鍛えてんだ?この体、やべーよ」

 

また朝霜や秋霜、清霜に高波、巻雲たちとお風呂に入っているときに朝霜に尋ねられる。五ヶ丘提督の体は朝霜が遊びで提督の尻に蹴りを入れても朝霜が「いってええええ!?」と弾かれるくらいである。自衛隊時代から鋼鉄の男。銃すらも弾きそう。サイボーグ。そんな名で呼ばれることもあった。

 

「あー、この体なぁ…昔から筋肉がつきやすかったのもあるし…弱い人を守れるようになるには体を鍛えねえといけねえな!ってずっと筋トレしてきたからな」

 

「その結果が陸上自衛隊って呼ばれてた頃のレンジャーや第一空挺のトレーニングだっけ…調べてみたけどあたし、見てただけで気分が悪くなったぜ…」

 

提督の横で実にたわわなものを湯に浮かべながらくつろいでいる隼鷹がちょっと顔を青くしながらそう言った。

 

「れんじゃー?だいいちくうてい?なんだそりゃ?」

 

「最近鍛錬サボって鈍ってるからなぁ…よしっ、明日から1週間は事務仕事は白雪が任せてくれていいっていいくらいの量しかねえし、やるか!!!」

 

「は?は???おい提督、マジで言ってんのか!?」

 

「おう、マジでやるぞ。無人島に行ったりとか、山には行けねえからなぁ…」

 

「なあなあ、れんじゃーってどんなことすんだ?」

 

「よーし、じゃあ俺が明日からそれをやってみるからな」

 

「キヒヒ!あたいもやってみよー!」

「うちもやるー!」

 

「まあ、まずは提督のを見とけって…艤装を持たねえあたしらがやったら死ぬ…」

「そんなにすごいかも…ですかぁ!?」

 

「見りゃわかる…」

 

こうして、五ヶ丘提督は鈍りきった(自称)体を鍛えなおすべく、厳しい訓練を自分に課すのだった。

 

……

 

「司令、おはよー!」

「おはよう、秋霜。朝霜。今日はちゃんと自分で寝ぐせを直したんだな。えらいえらい」

 

「えへー!」

「へっ、たまにゃあな!」

 

「けどここが朝霜、跳ねてるぞ。こっちへおいで」

 

「えー!?マジかよぉ…」

 

結局朝霜はグラウンドで寝ぐせを直してもらうことになった。グラウンドにはみんなが集合している。トレーニング大好きな長良がブルマに体操着と言う格好で参加する気満々である。

 

「ていとくさんがおのぞみのくんれんをできるようにぐらうんどにいろいろとはいちしました」

 

「妖精さんナイス!!!ありがてえ!!」

 

「…一体何をする気?」

 

「…いろいろと増えてますね」

 

「隼鷹、頼む」

 

「お、おう…よし!これより訓練を開始する!!提督!準備はいいか!?」

 

「レンジャー!!!!!」

 

「れ、れんじゃー?」

 

「レンジャー部隊は上官への返事はレンジャーなんだよ」

 

「じゃあかがみ跳躍を開始する!」

 

「レンジャー!!!」

 

「ねえ?この鉄の塊?」

 

「ああ、それは重さ3.5kgの銃を模したもんだ。妖精さんに作ってもらった。それで、これをこう持って…隼鷹!」

 

「はいよ!」

 

ピッ!と笛を吹く。すると五ヶ丘提督は飛び上がり、そしてかがみこむ。

 

「いーち!」

 

ピッ!

 

「にーい!!」

 

これを隼鷹が延々と笛を吹き、それを五ケ丘提督が15cm飛ぶ。5分を超えたころ、長良が遅れ始める。

 

「長良!遅れてんぞ!」

 

「はい!」

 

「返事はレンジャーだ!!」

 

「レ、レンジャー!!!!」

 

なお、五ヶ丘提督は汗は流すものの涼しい顔でこれを繰り返している。

 

「…バケモンかよ提督のやつ…」

 

木曾はそれを見て驚愕するだけである。ちなみに、朝霜は3分でダウン。

 

「む、むりー…」

「休め休め!俺は続けるけどな!」

 

長良、ダウン。提督は見事な屈み跳躍を繰り返し、50回を成し遂げた。

 

「ふう。いい汗かいたな!」

 

「はひっ…はひっ…な、長良…まだやります!」

 

「おい、無理しなくていいんだぞ…?」

 

「やるの!」

 

長良は折れるつもりがないらしい。明日はこれ、動けねえなと思う。隼鷹が次のメニューを発表する。

 

「次!胴回し!!!」

「レンジャー!!!」

 

「レ、レンジャー!!!」

 

胴回しとは仰向け姿勢で両足を垂直に上げ、左右に足を振り、腹筋に負荷をかける訓練。

 

 

ピッ!

 

「いーち!」

 

「いーーーーーーーーーぷぁ!?」

 

長良、横に体を向けて転がってしまった。五ヶ丘提督?当たり前のように元の格好、脚を上げて待機。何とか長良はついていく。

 

「ノルマは8回な!」

 

「8回!?」

 

「レンジャー!!!!」

 

…うっぷ…と木曾が言う。何だこれ…厳しすぎんだろ…木曾も試しにやってみたが1回やったらぜーぜーと言うし、腹筋が悲鳴をあげた。五ヶ丘提督は15回やった。長良は何とか8回やったが、それ以上は起き上がれなかった。

 

次は基地内にある道場へと向かう。長良はふらふらしているが休む気はないらしい。

 

「次!キックミットインターバル!」

 

 

「レンジャー!!!」

「れ、れんじゃー…」

 

「長良!元気がない!キックミットインターバル!!!!」

 

「はい!!!」

「返事はレンジャーだ!!!真面目にやれ!腕立て伏せ用意!!!」

 

「レンジャー!!!」

「ええ!?れ、れんじゃー!」

 

なぜか始まる腕立て伏せ。上官の真似をしている隼鷹にはいと言ってしまったからである。これは連帯責任の罰則である。がっつり胴が地面につくほどの深い腕立て伏せを何回もやらされる。これは隼鷹がよし、と言うまでだ。40回だった。

 

「う、腕が…」

「長良、大丈夫だ。次は足を使うから」

 

「さっき屈み跳躍やって足がくがくなんだけど!?」

「よしいくぞ!まず右足!はじめー!」

 

前蹴り回し蹴りを30秒ごとに左右の足で蹴り続ける訓練を行う。これを息つく暇もなくである。

 

「はっはっはっはっ!」

「はっ…はっ!?」

 

「長良ー!足が遅い!」

「れんじゃーーーーー!!!!」

 

「次!左足!いくぞー!」

「レンジャー!!!」

 

「れ、れんじゃー!」

 

長良は必死である。もう目を回しているが、必死についてくる長良に目を見張る提督だった。

 

訓練は一息も入れない。またグラウンドに戻る。グラウンドには様々な障害物が用意されている。

 

「武装障害走を行うー!」

「レンジャー!!!」

 

「れ、れんじゃー…」

「長良、声が小さい!」

 

「レンジャーーーーーーー!!」

「長良いいぞ!いい声だ!頑張れ!」

 

提督に励まされ、どこか元気が出た。

 

「これを5分以内でクリアするように!五ヶ丘提督!!!」

 

「レンジャー!」

 

銃を模した鉄の塊を背負い、全長400m。6つの障害物をクリアし、150mをダッシュ。これを5分以内にゴールせねばならない。

 

「よっ!懐かしいな…!楽しいぜ!ほっほっほっ!!」

 

「なあ加古さん…司令の体力ってどうなってんだ?」

 

「あー朝霜ぉ、提督の体力は無限じゃねえかなって思うときがあるよ。見ろよ…長良なんかもう提督待ってる間目が虚ろなのにさぁ…提督、目が輝いてんだろ?レンジャー部隊の人がなんで海軍なんかに行っちまったんだって歯ぎしりするくらいだったからなぁ…」

 

「ええ…あたい最初のやつで足がプルプルしてるし…2回目のあれでお腹が痛い…」

 

「まあ訓練してなきゃそんなもんだろ…提督の体見てるだろ?あのバッキバキの筋肉」

 

「うん…なんてーか…ごっつい…あたい背中まで手回らないんだぜ?」

 

「抱き着くとかうらやま…じゃない。すげーだろ」

「司令官、すごいかも…です」

 

「次、長良ー!」

「レンジャー!!!」

 

「おい長良!無理すんな!もうやめとけって!!!」

 

「オラー!早くしないと時間超えるぞー!」

 

「あっ!?」

 

雲梯から長良が落ちる。

 

「長良!ペナルティ!腕立て伏せよーい!!!」

「れ、れんじゃ…」

 

腕立て伏せをして走ってゴール。

 

「結果を発表するぞ。提督は文句なし。長良は不合格!」

 

「うう…」

 

「提督?」

「俺だけ合格しても意味がねえ。やり直し!!!」

 

「れ、れんじゃー…」

 

「えっ!?提督もやり直し?」

「連帯責任だ。俺と長良は今チームだ。長良の失敗は俺の失敗でもある」

 

「よーい!スタート!!!!」

「レンジャー!!!!」

 

提督は涼しい顔で余裕のクリア。しかし、長良は…。

 

「あっ!?」

 

「コラー!!!水筒落としたな!!!!!戻ってこい!!!!」

 

水筒を落とした。所持品を紛失することは言語道断。よって不合格。もう一度やり直しとなった。しかし、長良は疲労困憊。タイムは3度目も不合格だった。

 

「これ以上は無理だなぁ。よし、腕立て伏せ用意!!」

「レンジャー!」

 

「れ。レン…ジャー!!!」

「長良いいぞ!いい気合いだ!頑張るぞ!」

 

「は、はい!!!」

 

木曾がいくら止めてもやめない長良。提督に励まされ…もう赤疲労を超えた疲労だろうに…。

 

腕立て伏せを終えた提督たち。

 

「よーし、5分休憩!」

 

長良は大の字になって倒れ伏している。提督はと言うと…。

 

「いい感じだなあ!いい感じで筋肉が悲鳴をあげてるぜ!!」

 

「いや、それっていいことなのか…?」

 

「提督の体力、マジぱない…」

 

「おー鬼怒。次綱投降だけど、やるか?」

「あー、あたし艤装の整備しなきゃー…」

 

「逃げんな鬼怒ー!長良も頑張ってんだぞー!!!」

「いや隼鷹さん、無理っしょ…漣チャン達…女の子だもん☆」

 

「長良は女の子じゃねえって言いたいのか!?」

 

「え?かわいい女の子だと思うけど…」

「じゃあ漣!参加で!「ノーサンキューーーー!」」

 

わずか5分の休憩を終えて、訓練は続く。

 

「なんじゃああの綱登り!人間じゃねえ…!」

 

「よーし提督はもう一回!」

「レンジャー!!!長良!頑張れ!」

 

「れ、レンジャアアアアアアア!!」

「いいぞ!!!登れ登れ!!!こうだ!」

 

「う、うううううう!!!」

 

長良の折れない心を評価し始める提督。折れない心を養う鍛錬ではないのだが…長良は決してあきらめなかった。

 

「あきらめ…ないいいいいい!!!」

 

「おー、すげえ!長良ごうかーく!!!」

 

長良はあきらめずに登り切った。だが、鍛錬はまだ終わらないのだ。

 

「今日の最後は10マイル武装走!!!」

 

「てんまいる?」

 

「距離16kmをあの銃みてーなの持って走るんだ。大丈夫。距離は妖精さんがちゃんと図ってくれるから」

 

「え、ええ?これだけのことをやって…それだけ走るの…?」

 

「そうだよ陸奥さん」

 

「な、長良!もうダメよ!体を壊すわ!」

 

陸奥がやめるように呼び掛ける。顔は虚ろだが…長良は首を横に振った。

 

「まだ…やれます…諦めたら…海での戦い…負ける」

「これとは関係ないでしょう!?」

 

「あきらめない…!絶対…司令官と…最後まで…走りぬく…かりゃ…!」

 

呂律も回っていないじゃない…と思う。

 

長良は木曾のような重雷装巡洋艦でもないし、改二もない。鬼怒のような遠征に行ってもいっぱい物資を持って帰れる能力もない。このままではお荷物になってしまう。だから…せめて根性だけは…!と思っている。戦場での折れない闘志。それは、五ヶ丘提督が着任して間もないころに…大府に騙された時の戦い。あの時、霞たちは心を折った。漣たちは心を折らなかった。自分もきっと絶望して砲を手放すだろう…そう思った。漣や鬼怒達の折れない心。それが…羨ましかった。

 

いい機会だと思った。司令官がどんな訓練を積んであんな見惚れる体になったのか。そして…恐ろしいあの目をした司令官相手にも絶対に負けないで自分たちを守るために立ち向かえる強い心を持っているのか。それを確かめたかった。

 

過酷極まりないと思った。これを涼しい顔でこなしていく司令官…。すごい…なら…長良だって折れたくない…みんなにやめろとかあきらめろとか言うけど…諦めない…やめない!

 

「長良!!二人でゴールしような!」

「はい!!」

 

走るのだけは絶対折れたくない!長良は武装をせず走ることにさせてもらったが…あれだけのことをやった後だ。もうフラフラである。しかし、提督が横にピッタリ付き添い、一緒に走る。

 

ピッピッピーーーー!!

 

「ええ!?何!?」

 

「これが鳴ったら全速力!!!」

 

「ええええええええ!?」

 

「いくぞ長良ーーーー!!!」

 

「はひっ!!はひっ!!!!」

 

日も暮れだしたころ…もう長良は歩くよりも遅い速度だった。それでも長良はあきらめなかった。それは隣に司令官がいてくれたから。足はもう棒でも何でもない。感覚がわからないくらいだ。それでも足は止まらない。

 

「長良、もう少しだ!もうすぐだぞ!!頑張れ!!!」

「長良さん!ガンバレ!!!もうすぐだ!もうちょい!」

 

「いいぞ長良!!もう少しだ!!!」

「レ、レンジャーーーー!!!!!」

 

そうして…。

 

「ゴールだ!!やったぞ長良!!よく走りきったな!!!すごいぞ!!」

「はぁ…はぁ…えへへへ…司令官…長良…頑張った…よ…!」

 

「ああ!よし、今日の訓練は終わりだ!風呂に入ろうな!」

 

「は、はい…!」

 

こうして訓練初日は終わった。長良は汗だくでスケスケになった体操服のことも気にする余裕もない。提督に抱きかかえられて長良は大浴場へと向かうのだった。

 

……

 

「はああああ…」

 

「よくやったなぁ長良。これ、本気で陸軍の人らでも死にそうになるような訓練だ。本当によく乗り切ったよ。根性がすげえよ!」

 

「えへへ…負けたくなかったから…漣ちゃんたちみたいな…強い心を…折れない心を養いたかったんだ…」

 

「うーん…まあこれ乗り切ったら確かに強い心は持てるかもなぁ…」

 

長良は提督に体を洗ってもらいながら話す。体が思うように動かないからだ。出撃の後よりつらい。それでも…達成感がすごかった。司令官と一緒に何かをすることなんてないから。あるとしたら…前の司令官のような性的なこと…?そんなのは嫌だ…今の司令官となら…いろんなことをやって絆を深めていきたいな…。そう思う。

 

「明日は休んでもいいからな?」

 

「え?司令官はまだやるんだよね?」

 

「ああ。俺は明日は空挺式体力向上運動をこなそうかなって」

 

「え、ええ…今日これだけしんどかったのに…まだやるの?」

 

「鈍ってるからな!」

 

「長良ー。もう明日は参加しないほうがいいぞ?マジで体壊すからな」

 

「隼鷹さん…」

 

「見てるあたしまでハラハラしたぜ…でも長良は頑張った!無理にこれやったら体壊すから!」

 

「そういうわけだ。見学ならオッケーだすぞ。これは司令官命令だ」

 

「レンジャー!!!」

 

「ぷっ、もうレンジャーはいいって!」

 

「あ、ああ!」

 

そのあと、しっかり風呂に入って疲れを取り、髪を乾かしてもらったりする長良だった。

 

「ちょっと!?なんでしれっとまたこっちのお風呂に入ってるのよ!?」

 

「陸奥ー。いまさらだろー?もう夕雲型達は全員入っちまってるし、加賀だって…なぁ」

 

「気分が高揚します」

 

「それしか言えないわけ!?」

 

「陸奥さんも洗ってもらえばいいと思うわ」

 

「嫌よ!!」

 

陸奥は提督と一緒に入る艦娘が駆逐艦や潜水艦だけじゃなくなってきたことに頭を悩ますのだった。

 

……

 

「て、提督…言われた通りのお米の量を炊きましたが…なくなりそうです…と言うか…提督が召し上がられるんですね…」

 

「ああ。この訓練の後ってめっちゃ腹減ってな!!おかわり!」

 

「提督、これで最後です…」

 

「どんぶり飯いくら食ってんだ…提督の奴…」

 

「くうう、イクもいっぱい食べるのー!」

 

「張り合わなくていいって!」

 

「あむっ、おいしー!」

 

「長良さんもタフだな…」

 

……

 

「今日は空挺団体力向上訓練を行う!」

 

「レンジャー!!」

 

「よし!まずは1番跳躍!用意!」

 

「レンジャー!!」

 

翌日も行われたトレーニングを見た長良は…。

 

「ウギギギギ…体が動かない…」

 

「そりゃ超筋肉痛にもなるよ…って言うか長良ちゃん、マッチョになっちゃうよ!?」

 

「えっ?!えーと…マッチョなのは司令官だけでいいかな…」

 

「いち!に!さん!いちー!!!」

 

溌溂とトレーニングを行う提督に若干の恐怖を覚える長良と、見ていて体が痛くなってきた見物していた艦娘たちだった。




お久しぶりです…。
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