提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第二百九十話

初期艦ズもドン引き、木曾もドン引きし、長良が筋肉痛で動けなくなっている最中、五ヶ丘提督はなおもひたすら筋肉をいじめ続けた。彼はレンジャー、さらに第一空挺団の体力向上トレーニングを続けた。

 

「ちょ、ちょっと!!ロープを使って昇降訓練!?バカなことしてんじゃないわよこのクズ!!!危ないからやめなさい!!!」

 

「だーいじょうぶ。何かあって救助が必要な人が出た場合に必要な訓練だ!」

 

「高波!?あんた何やってんの!?」

 

「司令かーん!助けてくださいかもー!です!!」

 

「待ってろ高波!すぐ行くぞ!よし、降下開始!」

 

提督が高さ3階建ての艦娘寮を使い、その2階の部屋に取り残された高波を救助する、と言う体である。屋上からまるで飛び降りるかのように飛んだ。霞が「ああ!?」と叫んで青い顔をするが朝霜たちは…。

 

「しれー!高波を助けてくれー!!!」

「司令官!気を付けてーーー!!」

 

応援をしているだけである。それを遠巻きに見ているのが未だ五ヶ丘提督が信用できない戦艦、陸奥である。

 

(…何をしているのかわからないんだけど…)

 

頭を抱えるばかりである。

 

「青葉、撮ります!!これは広報活動になりますよー!」

 

青葉は五ヶ丘提督を撮影していく。鹿屋基地周辺の住人に新聞として配るとのことだ。提督は近隣住民の困りごとをちょこちょこ解決していることもあり、さらには前提督である刈谷提督の直接の後輩であり、刈谷提督が情に厚く、困ったことはいろいろと頼ると言い、とも近隣の方々に伝えていたため、人望は厚い。さらに「※この司令官は特殊な訓練を受けています」と言っておけば、より信頼を得ることができそうだ。

 

「ねえ、これは何の訓練をやっているの?」

 

「陸奥さん!今司令官は…消防隊の訓練だそうですよ!」

 

「陸軍の次は消防隊…?あの人、一体どんな訓練をいろいろとやっているの…?」

 

「よし、いくぞォ!15m!登はん開始!!!」

 

「しれいかーん!ここかも!です!!!」

 

「待ってろ高波!すぐ助けてやるからな!」

 

「いけー!提督ぅ!レンジャー訓練を思い出せー!!」

 

「レンジャーーーー!!!

 

手慣れた様子でスルスルと降りていく提督。これまた熟練の消防士の方がぜひ消防隊の試験を受けてくれ!と言うほどである。15mを一気に滑り降り建物に侵入。そして。

 

「救助者発見!確保!意識あり!」

 

「ひゃっ?!」

 

提督は高波を抱え上げ、そして。

 

「ご主人様!こちらの安全確保してありますぞ!こちらへ!」

 

「漣!行くぞ!」

 

「ほいさっさー!」

 

そうして非常階段から脱出。高波は救助された。

 

「救助成功!」

 

「し、司令官♡」

 

高波がすごく嬉しそうだった。鮮やかな救助劇だった。次は…登はん。地上から15mの高さにいる救助者、今度はイクだ。

 

「てーーーーとくーーーー!助けてほしいのーーーー!!!」

 

「イク!今行くぞ!登はん開始!」

 

人ではないような動きで体一つ、ロープ一本で登っていく。またしても霞は悲鳴をあげるが夕雲型は応援に熱が入る。

 

「司令官!!がんばってーーーー!!!」

「いけるぞいけるぞ!!!もう少しだー!!!」

 

長良や木曾まで熱が入っているじゃないか。それに応えるかのように提督は素早く登り切り、イクを保護。

 

「要救助者保護!!!!」

 

「「「わーーーーーー!!!」」」

 

それでも提督は訓練をやめない。隼鷹教官が続ける。

 

「次行くぞ提督!次はチロリアン渡過訓練だ!!!」

 

「レンジャーーー!!!」

 

「陸奥!要救助者やってくんね?」

 

「はあ!?嫌よ!なんで私が!?」

 

「そう言わねーでさあ」

 

「そうですよ!こんなことめったにないんですから!さあさあ」

 

「青葉まで!やめてよ!!」

 

抵抗を試みたが夕雲型や潜水艦の子たちまでグイグイ押してくるので拒否できなかった。実は陸奥、高所恐怖症なのである。だから宿舎でも駆逐艦たちが下の階を使っているのだが、特別に陸奥だけは一階を使用している。

 

「ちょ、ちょっと…こ、こわ…ひっ!?」

 

「陸奥!下をのぞくな!目を閉じててもいい!!待ってろ!!」

 

提督がそう叫ぶ。そして隼鷹が指示を出す。

 

「よし!渡過はじめ!!!」

 

「レンジャー!!行くぞ陸奥!!!」

 

「ええ!?司令官すご!?」

 

「速い!どのような訓練を積んだらこのようなことができるのだ!?」

 

艦娘たち全員がグラウンドで五ヶ丘提督の訓練を見学しているのだ。那智が驚愕の声をあげる。

 

「すごいわ提督…素敵だわ…!」

 

足柄が心酔している。陸奥は目を瞑っているので声だけしか聞こえないが、早く解放してほしい…そう思う。が、肩に暖かく、ゴツゴツした手が触れる。

 

「救助者保護!!陸奥!もう少しだからな!!」

 

陸奥は抱えあげられていた。それが提督であるとわかると目を開いた。真剣な顔で自分を運びながら階段を降りる提督。提督の汗の湿り気も肌に伝わる。提督の熱気。なぜか陸奥は機関部(心臓)がドクドクとうるさかった。

 

「次!セーラー渡りいくぞ提督!疲れたか!?休憩はいるか?」

 

「不要であります!まだやれます!!」

 

この人はどれほど自分を鍛えると言うか…もはやいじめているようにも思える。提督の表情は疲れが見えている。しかし、提督は一つもやめる気配がない。

 

「たすけてくださーーーい!」

 

「迅鯨!今行くぞ!!」

 

「行くぞ提督!セーラー渡過!渡過はじめ!」

 

「レンジャーーー!!」

 

また軽々とロープを渡る。彼は精鋭も精鋭。体力、パワー、精神力。全てにおいて海軍屈指の人間でももしかしたら深海棲艦を殴り飛ばせるのではないかと言う提督である。なぜ彼がこのような訓練をするのか?それは。

 

「艦娘だけが厳しい訓練や演習、実戦。提督がただ椅子に座って指示するだけってのも不公平な気がしてな。だから、せめて俺もこれくらいは苦労しようと思ってな」

 

隼鷹や白雪たちにだけはそう言っていた。ちなみに海上自衛隊時代でも特別部隊に来ないか!と言われたくらいの実力を持っている。

 

「救助ーーー!!」

 

こうして今日も提督は厳しい訓練を一日を通して励んだ。

 

……

 

「提督、今日はイクが背中を洗ってあげるの!」

 

「おー、頼むよ」

 

「イク、ずるい。私もやってみましょう?」

「姉1。それは同意するわ」

 

今日も提督は艦娘たちと風呂に入る。今日は潜水艦たちだ。そしてそんな提督を監視するかのように一緒に陸奥も入っている。

 

「ねえねえねえ!陸奥さんって本当は提督のことどう思っているの?」

 

「はあ!?」

 

伊26ことニムにそんなことを言われて焦る陸奥。何を言っているのこの子!?

 

「な、なにを…」

 

「あの…陸奥さん。提督といつもお風呂…入っているから…」

 

「えっえっ!?違うわよ!?」

 

伊47ことヨナにもそう言われて余計に焦りが増す陸奥。

 

「あーそうだよなぁ。あたい達が変なことされねーか心配だーっていっつも言いながら入ってっけど、ほんとは司令に頭とか洗ってもらいたいんじゃ?キヒヒ!わぷっ!?」

 

そう言われて朝霜にお湯をかける陸奥。違う違う違う!!そういうんじゃない!!

 

「しれいかーん!陸奥さんが背中洗ってほしいんだってー!!」

 

「ちょっと秋霜ちゃん!?」

 

「陸奥がか?おー、ちょっと待っててくれ。今俺が洗われてるし、イク達洗ったらな!」

 

「はやくしねーと陸奥さんのぼせちまうよー。顔真っ赤!」

 

「う、うるしゃい!!!」

 

 

陸奥は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。そうなのだ。陸奥は提督が駆逐艦や潜水艦と風呂に入るときはほぼ必ずと言っていいほど同行している。

 

「わ、私はただ単に!提督が駆逐艦の子やあなた達に性的なことをしないか見張っているだけよ!」

 

「陸奥さん?提督がそんなことしたっけ?」

 

「見なさいよあれ!性的な目で見て…」

 

そう言って提督を指さす陸奥。しかし提督はと言うと一心不乱にイクの髪の毛を洗ってあげているだけだった。

 

「んふー、提督に頭を洗ってもらうのは気持ちいいの!あ、いたっ!いたたた!お目目が~!」

 

「こらイク。シャンプーしてるときに目を開けたらダメだろう。洗面器に湯を張ってあるから顔を突っ込んでパチパチしなさい」

 

「んー!」

 

「いや、手をパチパチするんじゃなくて目をパチパチするんだぞ!」

 

「あれがえっちなことをニム達にするように見える?」

 

「う、うう…」

 

これまでずっと提督を見てきたが夕雲型もそうだし潜水艦たちと一緒に入っても性的なことをする気配は一切なかった。提督を忌避し、見るだけで過呼吸を起こしそうになっていた夕雲や、恐怖から当初、自分たちと一緒になって追い出そうとしていた巻雲までもが提督と一緒にお風呂に入ってお世話になっているくらいだ。

 

思い出したくもないのだが、潜水艦たちは安久野と言う薄汚い男たちから散々な目にあっていたにも関わらず、暗闇に幽閉されたのだが、彼が助け出したことにより厚い信頼どころかイクに至ってはもはや所かまわず甘え、果てにはフレイ達に「抜け駆け禁止」と言われるくらいキスをしようとしたり、胸を後頭部に押し当てたりとやりたい放題である。それでも提督は欲に駆られることはなく、イクを大事にして優しく面倒を見ている。イクはわかっているし、イタズラするのが愛情表現である。そして、イクはしっかりと提督がそういう目で自分を見ていないと言うのもわかってやっている。

 

それらを全てわかっていながらなぜ陸奥は提督を追いかけるのか?それは陸奥にしかわからないことであるが、一応名目は監視、と言うことになっている。

 

「ほんとは司令官のことを好きとかー?ニシシ!」

 

「そ、そんなんじゃないわよ!」

 

「どうした陸奥?大きな声出して」

 

「何でもないわよ!」

 

「むー!てーとく!今はイクを見てくれなきゃヤなの!」

 

「あー、はいはい…」

 

「提督、次は私」

「姉1、順番抜かしはダメ」

 

「ごっしゅじんさまーーーー!漣チャンといいことしま!ああああ!いっぱいいるじゃん!」

「だーから無理って言ったろー?予約必須なんだぜ、提督のメンテは」

 

「ちっくしょーーーー!今日は潜水艦かぁ…」

「なんだ漣、しばらく待っていればできるぞ。潜水艦のあとは陸奥だけど」

 

「「はあ?!!??!」

 

陸奥と漣が声をそろえて驚きの声をあげる。んふーっとニマニマしてる隼鷹。隼鷹も提督とよく風呂に入っているのは陸奥も知っている。抜群のスタイルを持つ隼鷹だが…たまにこれまたスタイルのいい鬼怒も入っている。

 

「提督があたしら見て欲情したか?逆にあたしゃ自信なくしたぜ…」

 

そう言ってガックリする隼鷹を見たことがある。余談ではあるが迅鯨も参加したことがある。しばらくゆでだこのようになっていたが。長鯨ものぼせてしまったか…。木曾と長良は洗ってはもらってないものの、語らいのために一緒に入ることもある。

 

「や、やらないわよ!!勝手に決めないで頂戴!わ、私は…!」

 

「よし、イク終わりだ!ゆっくり湯船につかって体を温めなさい!」

 

「はーいなの!」

 

「次はフーミィだな。よし、おいで」

 

「ん…お願いします」

 

陸奥は思う。こんなことでいいのか、とも思うけど…私は…まだ微妙だけど賑やかだとは思う。そして、駆逐艦をはじめとする艦娘に笑顔が戻った。無表情で淡々と命令をこなすよう言われただけ。そして夕雲や大井のように凌辱されることもない。むしろ提督に対してよからぬことを考えようとしている艦娘…と言ってもそこまでがっつりではないのだ。自分たちが甘えさせてくれるのだから、提督にも甘えてきてほしい。そういう艦娘…夕雲だったり大井だったりがそうだ。

 

もっとも、大井は危ない方向へ向かっている気もするが…。

 

「提督、お背中失礼します」

 

「ああっ!加賀さんヌケガケじゃないですか!ずるいですぞ!じゃあ漣チャンが流しまーす!」

 

「……そう」

 

「こっわ!!!加賀さんその声こっわ!!!!」

 

…これだけのいわば「女」がいて動じずにいる提督が逆に怖い…そう陸奥は思っている。同時に…この基地の艦娘をここまで明るくしてくれた提督には絶対に言わないが感謝はしている。提督のことを陸奥は決して嫌悪しているわけではないのだ。最近はチラチラ目で追うようになってしまっている。この提督が何をするのか…悪い意味ではない。いい意味で期待していたりするのだが、素直になれないでいるだけなのだ。

 

「ご主人様、明日も筋トレですかー?」

 

「おう。明日はアメリカ陸軍レンジャー部隊のトレーニングをちょっとしようと思ってる」

 

「まだ鍛えるの!?司令官そろそろ休みなよー!」

「し、司令、も、もう疲れてる、よね?や、やすも!」

 

「んー、明日を最後にするつもりだ。だから、徹底的にやるぞ!」

 

「浜波、秋霜~。提督はトレーニングバカだから止めたって無駄だぞー」

 

「隼鷹さんも止めてよー!」

「うんうん!!」

 

「だーいじょうぶだ!明後日は1日休むから!」

 

「ほんとぉ?」

 

「疑うなよ~。白雪に怒られるから休む」

 

「じゃあ漣チャンとお茶しませんか!?」

 

「おう、いいぞ。食堂でだけどな」

 

「やたー!ご主人様大好きー!」

 

「し、司令!あたし、あたしも行きたい、です!」

 

「うちもー!高波姉さん呼ぼうよ!」

 

「うん!」

 

いつもの提督大好き駆逐艦たちが盛り上がる。提督との語らいの時間はご飯、お風呂。どんな時でも彼女たちにとっては嬉しい時間なのだ。

 

この後も提督はフーミィ、フレイ、ヨナを洗い、漣までしっかりとメンテナンスを進めてゆっくり湯船につかり、疲れをいやした…?と言えるのだろうか?みんなの髪までしっかり乾かしてみんなは寮へ。提督は自室へ。しかし、さすがに疲れが回ったのかすぐに寝てしまったようだ。

 

……

 

「提督、今日は鬼トレーニングの最終日だ!今日が一番厳しいぞ!準備はできてるか!?」

 

「レンジャー!!!!」

 

「いい返事だ!いくぞ提督!」

 

この日の提督のトレーニングは徹底的だった。足柄や那智まで心配で見に来るくらい苛烈だった。水もほぼ摂らず、休憩もほぼなく、40kgの荷物を背負い、3kg近い銃の模型を持ち、とにかくグラウンドを歩く。最初は滝のような汗を流していた提督も途中から汗を流さないようになった。

 

「次!立ち泳ぎ40分!」

 

「レンジャー!!!」

 

それでも提督は1つも弱音を吐かない。

 

「次!ライフルを水の中に入れたから取ってくること!」

 

「レンジャー!!」

 

「隼鷹さん!これあんまりすぎじゃないかしら!?」

 

「そうは言ってもよぉ…提督自身に止めんな、厳しくビシビシいってくれって言われてんだぜ…?」

 

「しかしこれはやりすぎだろう!?何を考えておるのだあやつは!!」

 

「ブハッ!」

 

「止めなさいよ!!あのクズ何やってんの!?もう終わりよ!!こんなのトレーニングじゃないわ!!!早く上がりなさい!!」

 

「霞!俺はやめねえぞ!!今日で最後だ!俺は今精神力を鍛えてんだよ!」

 

「はあ!?」

 

何事にも刈谷さんのように動じない精神力がほしい。だから俺はどんな困難になろうとも挫けない心がほしい。オレは…そんな刈谷さんのようになりたい!!そう思っているのだが、刈谷提督はこういうだろう。

 

「テメエ結局テメエの体を鍛えてるだけじゃねえか」と。五ヶ丘提督のことをたまに刈谷提督は筋肉バカと言うが、間違いないのかもしれない。事務処理能力はピカイチ。艦娘にも慕われ、指揮能力も悪くはないのだが、いかんせんこういう根性論を重視する性格なのが玉に瑕…と思われている。

 

「テートクー!!がんばるのーー!!」

「ニムがプールにいるからね!溺れたら助けてあげるから!」

 

「人工呼吸をしてあげる」

「フ、フーミィちゃん。それは…ヨナの役目だから…」

 

「えっ」

 

朝から晩までこのトレーニングは続けられた。その間も陸奥はじっと提督を見ていた。どんな時でも、どんなことになろうとも。

 

「おい提督!大丈夫か!?」

「やべーぞ隼鷹!目が虚ろになってる!おい提督!名前!自分の名前言えるか!?」

 

「………えっと。わかりません、教官」

 

「あー、ダメだこりゃ…訓練中止!聞こえるか!訓練中止だ!」

 

「……教官、自分はまだやれます」

 

「ダメだよ!誰か!手を貸して!医務室に連れて行くから!」

 

「…鬼怒。私が手を貸すわ」

 

「陸奥さん!?」

 

「何よ。いけないの?」

 

「あ、いや…助かるんだけどね…」

 

「これ以上やって、見なさい。朝霜たちが泣きそうになってる」

 

「あ、ああ…オレはまだ…うぼぇ!!!」

 

「もう無理よ、提督。これ以上やったら朝霜たちが泣くわよ」

 

「あさ…しも?誰だ…?」

 

「ダメだこりゃ…」

 

……

 

「と、言うわけで提督は今医務室で治療受けてんだわ…申し訳ねえ…」

 

「申し訳ありません…」

 

隼鷹と白雪が執務室で頭を下げる。そこに立っていたのは。

 

「あなた達。ふ・ざ・け・な・い・で。Amiralはどこにいるの?」

 

「Ça m'est égal.私は気にしないけれど…Amiralは平気なのかしら?」

 

「はい。今少し意識が混濁しているようです…すぐに戻ると明石さんは仰っておられましたが…」

 

「リシュリューさん。少し、待ちましょう」

 

「Amiral、急病なのですか?それでしたら私たちを寮に案内してもらえれば…」

 

「そ、そうだね…!とりあえず寮に案内しよっか!加古ちゃん、加古ちゃん!寝てないで案内手伝って!!」

 

「んがー…」

 

「加古さん?」

 

「んおっ!?は、はーい!よし、あたしについてきなー!」

 

「……Es-tu fou?気は確か?Amiralに会わせないなんて…」

 

「リシュリューさん、えっと…とりあえず、待ちましょう」

 

「過労…?やはり日本のAmiralは働きすぎなのよ」

 

「了解しました。ひとまず私たちフランス艦隊、寮に行きます」

 

鬼怒と加古の案内でひとまずは艦娘寮に連れられて行った。大きなため息を吐く白雪と隼鷹。リシュリューと言う艦娘が随分と不信感をあらわにしていた。このままで艦隊運用は大丈夫なんだろうか…書類を見てリシュリューの妹であるジャンバール…それから水上機母艦のコマンダンテストだったか?彼女たちは冷静でしたね…と安心する。駆逐艦のモガドールは素直に受け入れてくれた。が、やはりリシュリューが心配である。

 

「提督の奴何やってんだよもー…今日艦娘が来るって予定をまあ…忘れてたってのはなぁ…」

 

「はい…司令官は自分を鍛えるとなると極限まで鍛え上げてしまうお人ですから…ですが、今回ばかりは司令官は…」

 

「まー霞にコテコテに怒られてんだろー今頃」

「そうですね。今は私は仕事に集中します…」

 

「無理せず叱りに行ってもいいんだぜー?」

 

「いえ。漣さんもいらっしゃいますし、私はそう強く怒れませんから…」

「あたしたちにはめっちゃ怒るのにな~」

 

「…今からおしかりしましょうか?」

「やめてください…あたしも手伝うからさ~」

 

「ふふ、お願いします」

 

白雪。随分と余裕が出て来たな~とちょっとホッとする隼鷹。ちょっと前だったら「詳しく説明してください。私は今、冷静さを欠こうとしています」とか言うのにな。改二になってちょっと余裕が出たか?ちょっと嬉しくなる隼鷹だった。

 

……

 

「もー!ご主人様の馬鹿!あんぽんたん!どうしてこうなるまでやったんですか!」

 

「漣…すまん…」

 

「すまんで済んだら憲兵も警察もいらないんです!今さっき、刈谷提督も怒ってたじゃないですか!漣知りませんからね!次会った時何かぜーったいされますから!逃げますからね!」

 

先ほど、刈谷提督から電話が来たのだ。もうフランスの艦娘はそっちに着任したかどうかの確認のための電話だった。が、五ヶ丘提督は無茶しすぎて意識朦朧となり、点滴を受けて医務室で寝ていると正直に話したら。

 

『アホかテメエは。今日着任のために行かせるっつったろうが。おい筋肉だるま。テメエは脳みそまで筋肉でできてんのか?下半身に脳が詰まってねえだけでテメエも同類かよ』

 

ボロクソに言われた。

 

『テメエ事務官の時もそうだったな?仕事が暇になったら事あるごとにレンジャーとかの訓練に参加して一週間後にトレーニング終えたら倒れて病院運ばれたな?懲りねえアホだなテメエは。それでフランス艦娘の信頼損ねて泣きついてきたらわかってんだろうな?』

 

「はい…」

 

『はいじゃねえんだよボケが。テメエの限界くらい把握しとけ。次に同じことが発覚したらテメエ提督から引きずり下ろすぞ。わかったかバカが』

 

ガチャン!と勢いよく切られてしまったのだった。

 

「怒られても仕方ないわね」

 

陸奥が椅子に座りながらそう言う。漣も不思議に思っているのだが、意識がしっかりするまで陸奥は付き添い続けた。そして、ちょっと怒った顔をして提督を責めているのだ。

 

「ねーえ提督?私が心配していた種だった夕雲型のみんな。それから潜水艦の子達。大井には悪いことをしてしまったけれど…最悪な状況から引き揚げてくれて…こうして夕雲型のみんなに笑顔が戻って。提督に甘えて毎日楽しそうにしてる。隣で泣き疲れて眠っている霞ちゃんもそう。潜水艦のみんなは?あなたにあれだけ…一緒にお風呂に入るのはどうかと思うけど…みんなが信頼している。加賀もそうね」

 

五ヶ丘提督がいなければ…かつてのリンガ泊地の艦娘のみんなはどうなっていただろうか。安久野の息子たちのおもちゃとなり、艦娘としての存在意義はなくなっていただろう。陸奥は少なからず感謝している。あの最低の場所から離れることもでき、笑顔の溢れる鹿屋基地で生活ができるようになったことを。

 

実際、陸奥は素直になれていないだけで提督に感謝している。初期艦ズを除いた鹿屋基地の艦娘たちのリーダー的存在であり、彼女たちをまとめやすくなったこと。そして…リンガで提督を追い出そうとしたことも後悔している。こんないい人を追い出そうとしただなんて…と鹿屋に来てから後悔の涙を流していた。

 

「陸奥、お前…」

 

「提督。私たち一同は全員。提督を信用しているの。あなたが体を鍛えたいって言うのは理解したけど…私たちを心配させないでもらえるかしら?」

 

長波は駆逐艦の寮で大泣きしているらしいと聞いた。それにつられて高波や浜波に秋霜に清霜。はてには早霜や早波まで泣いてしまっているらしい。提督が死んじゃうと長波が言ってしまったがために夕雲型はパニックに陥っている。大井は部屋に閉じこもり、ブツブツ言っているし、木曾と長良がそんな大井が変な行動を起こさないかを見守っている。足柄や那智まで取り乱し、迅鯨、長鯨も料理に手がつかない。ここも若手提督の艦娘たちと同じだ。提督が機能しなくなると艦隊も機能しなくなると言う事態に陥る。

 

「……すまん」

 

「私が何とかあの子たちをまとめるけど、霞ちゃんが起きたらちゃんと謝って、お礼を言うことね」

 

「陸奥さん、よろしくお願いします。極度の疲労、脱水症状…栄養不足!まったくもう!無茶ばっかりするんだからなぁ!」

 

「明石…」

 

「なんですか!?私だって怒ってるんですからね!もー!本当に私を病院の先生か何かと勘違いしてませんかねぇ!?」

 

明石が点滴のパックを吊るしながら提督にお説教をする。明石はリンガにいたときから提督の自分が壁に頭を叩きつけて頭を割った時から提督のお医者さんのようになっている。実はまんざらでもないのだが、とりあえず陸奥に倣ってお説教をしている。

 

「司令官、お体の具合は…」

 

「おお白雪…悪いな…とりあえず何とか動けるようになった」

 

「司令官、私も含め、隼鷹さんも、漣ちゃんも鬼怒さんも。加古さんも怒ってますからね?無理ばっかりして…」

 

「すまん…楽しくってつい…」

 

「あれが楽しいって…わけがわからないんですけど…」

 

「司令官。フランスから艦娘が着任しました。えっと、戦艦リシュリューさん。同じくジャンバールさん。軽巡洋艦のグロワールさん。水上機母艦のコマンダンテストさん。駆逐艦のモガドールさん。提督が執務室にいらっしゃらないことにリシュリューさんがお怒りで…」

 

「ん、わかった。今から行くから呼んできてくれるか?」

 

「え!?提督動けるんですか!?」

 

「ああ。ちょっとふらつくけど大丈夫だ。よいしょっと。点滴だけは持っていくな!」

 

「ええ!?ちょ、ちょっとぉ!?」

 

五ヶ丘提督はちょっと顔色が悪いながらも医務室を後にし、執務室へと向かった。明石が大丈夫なんだろうか…と心配していたが、艦娘を放っておく提督ではないことはわかっている。陸奥からも一定の信頼は得たらしいし、鹿屋はこれでもっと団結力が強くなって、また賑やかになっていくだろう…と明石は少し嬉しくなった。

 

……

 

『初めまして。オレがこの基地の提督をしている五ヶ丘だ。こんな状況で申し訳ない。よろしく頼むよ』

 

『あら、あなたフランス語が話せるのね?しかも聞き取りやすいわ。日本の提督は理解があまりないと聞いていたけれど…素敵ね』

 

『提督。よろしくお願いします。ですが、私たちは日本語も話せますし理解しています。ですので日本語で構いませんよ』

 

「ご主人様…今のフランス語ですよね?フランス語ペラペラの提督ってすごいんですけど…」

 

「何言ってっかさっぱりだったんだけどな!」

 

「ああ。一応語学はいろいろ学んだよ。英語、フランス語、中国語、ロシア語、ドイツ語…えーっとあと何だっけな。イタリア語にスペイン語にポルトガル語だろ?韓国語くらいか」

 

「す、すご…」

 

「それで…点滴?ですか?提督…お加減が悪いのでは…?」

 

「コマンダンテストだっけ?もう大丈夫だ」

 

「説得力がないわねぇ…リシュリュー達が不安がってないかしら?」

 

陸奥がなぜか執務室にいた。特に意味はないが、心配なので見に来ただけだ。なんだかんだで陸奥もこれから提督にベッタリになるだなんて予想だにしていないことである。

 

「司令官、とにかく制服を着てください。シャツのままでは…」

 

「おう。そうだな。ん?なんか…制服がきついな…」

 

「おいおい鍛えすぎて筋肉がまーた分厚くなったんじゃねーの?」

 

「むむむ…よし、着れた!」

 

「ちょっと、パツパツじゃない…」

 

「む、むむ…きっつ…んーーーーふん!!!!」

 

ちょっと提督が力んだ瞬間、制服がはじけ飛んでしまった。ついでにシャツまで弾け飛び、鋼鉄の肉体が露わとなる。

 

「きゃあああ!きゃあああああ!!?!?!?!」

 

白雪が悲鳴をあげる。隼鷹や加古はさらに鍛え上げられた体を見て顔を赤らめ「すっげ…すっげぇ…」と言葉を漏らす。漣と鬼怒はポカーンとしている。

 

「何やってるの提督!?こんなところで裸になるなんて何考えてるの!?」

 

「い、いや…すまん…」

 

「……très bien…!何て…何て美しいの…!?」

 

「リシュリューさん…?」

 

「C'est bon…!」

 

「ジャンバールさんまで!?」

 

リシュリューとジャンバールがうっとりした表情で提督を見る。モガドールは顔を覆いつつも指の間からチラチラ提督の鍛えに鍛え抜かれた体を見ていた。

 

「コマちゃん、どうしよう…リシュリューさん達…そういえばすごい筋肉の男性に関心を持つんだった…」

 

「グロワールさん…困りました…」

 

「え?こんなオチある?」

 

提督のハードな筋トレとも違う地獄のトレーニングで鍛え抜かれた筋肉。それがフランス艦娘の心をわしづかみにしたらしい。筋肉。筋肉は全てを解決するのだ。

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