提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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箸休め的なほのぼのパート第三弾です

駆逐艦のほのぼのをお楽しみください


第三十話

「え?提督に恩返しがしたい、ですか?」

 

ある日、間宮に一つの相談を持ちかけられた。相談の主はいつも玲司に全力で甘えるようになった雪風。いつも元気いっぱいの同じく甘えん坊皐月。ほんわかした雰囲気でみんなを和ませる文月。無表情のようで意外に感情豊かな霰。4人が間宮に迫る。と、言うのも…

 

……

 

「雪風、しれえに恩返しがしたいです!!」

 

と言う雪風の言葉から始まった。駆逐艦寮で何か楽しいことはないか?と新たに仲間に加わった吹雪も交えて雑談をしていたときのことだ。その言葉に全員が賛成。では何をしよう?と言う議論がスタート。

「かいぎ中 たちいりきんし」と言う札を作って談話室のドアにでかでかと貼って本格的(?)に会議を始める。

 

「ぽい!提督さんと一緒にお外で遊びたいっぽい!ぽーい!!」

「夕立、それじゃあ恩返しにならないじゃないか…」

「単に遊びたいってだけでしょ…」

 

犬の耳のような髪がしゅん、と垂れてしょんぼりする。お外で遊ぶ。却下。

 

「司令官さんのお仕事のお手伝いはどうですか?なのです」

 

電の意見。確かに書類整理や身の回りのお世話は役に立てる。おおっ、と声があがったが…

 

「大淀さんには…勝てない、し。書類の分け方を教えてもらったりするのに、司令官、大変じゃあ…ないかな」

 

霰が言う。秘書艦はやることも多く、その仕事は書類整理や記入のエキスパート大淀がいる。身の回りの世話と言っても、神通や扶桑などがやっているが忙しなく動き回らないといけないし、覚えているからこそ素早く処理ができるが、電達がやれるかと言うと、おそらく玲司は「遊んでていいぞ」と断られそうな気もする、と時雨につっこまれた。

 

「はうぅ…残念なのです…」

「ごめんね電…。うーん、そうだね…。どうしようか…提督に料理を作ってあげるのはどうだい?」

 

そう言うと「おおお」と声があがった。

 

「おお、いいねそれ!でも、それこそ司令官に言うとだめって言われそうだよ?」

「間宮さんに聞いてみようか。提督に内緒で作りたいんだけどって」

 

「うん!ボク聞いてくる!」

「文月もー!」

「抜錨、です」

「雪風、いつでも出撃できます!」

 

ダッと突撃を開始する甘えん坊四人組。時雨も村雨もクスクスと笑って見送った。

 

「さすが、すごいのです…」

「さ、私たちも続こっか」

「うん、そうだね。じゃあ、吹雪も行こうよ」

「う、うん」

 

そうしてかいぎ中の張り紙を剥がして時雨達も食堂へと向かった。

 

 

「と言うことで恩返しがしたいです!」

 

いつもおいしいご飯を作ってくれたり遊んでくれたり。そして鎮守府をこんな楽しい毎日に変えてくれた玲司に何かお返しがしたいとかなり興奮しながら間宮に伝える。

間宮は唇に指を当てて考える。彼女たちの熱意は伝わった。しかし、玲司一人のために9人全員で何かを作るとなると人が多すぎる。少し逡巡した末、雪風達に告げる。

 

「わかりました。皆さんの熱意は伝わりましたよ。では、駆逐艦のみんなでハンバーグを作ってみましょうか。9人いれば、全員分も作れるでしょう。私も協力しますよ」

 

その言葉に雪風達の顔が綻ぶ(霰は見えただが)。

 

「お、おもしろそうじゃん。あたしも手伝うぜ」

「わぁ、摩耶さん。ありがとぉ~」

 

助っ人になると言う摩耶に文月が抱きつく。摩耶の顔を見てにぱーっと笑う文月。その顔に摩耶は思わずかわいすぎてニヤけてしまう。

 

「じゃあボクも手伝おうかな。ボクも提督にはお世話になったし協力するよ」

 

「最上さん、ありがと!」

 

皐月が最上に飛びつく。最上もニコニコで皐月をなでる。んっふふーと皐月はご機嫌だ。大淀が立ち上がる。

 

「では、私が提督を食堂に近づけないようにお仕事を張り切って片づけますね。書類もある程度落ち着いてきたのですが、まだまだ先が見えませんので…」

 

フフフ…と何やら暗い笑みを浮かべる大淀。大淀と玲司の必死の書類の処理に何とか光が差しては来たが、まだま処理の終わっていないもの。古井司令長官からの資材の援助に関する書類の追加。吹雪に関する書類などまだまだ膨大な量がある。玲司が新人でないことが救いだった(とは言えブランクがあるが)。

 

「わかりました。大淀さん、お手数ですが、せっかくですから提督を食堂に近づけさせないようお願いできますか?」

「はい、この大淀にお任せください。フフフ…書類がはかどるわ…」

 

「む、無茶はなさらないでくださいね…」

「うふふ、冗談ですよ。私も直接的ではありませんが、間宮さんや駆逐艦の皆さんのお手伝いができて嬉しいです。当日はお任せください」

 

ドンと胸を叩いて強く言う。そっと霰が大淀の手を両手で握りしめ、じっと大淀の目を見つめる。

 

「大淀さん。ありがとう…。よろしく、お願い…します」

「うふふ、霰ちゃん。がんばってね!」

 

「それでは2日後に作戦、開始です!皆さん、がんばりましょうね!」

 

「おー!」

 

提督への恩返し大作戦が。スタートである。

 

/2日後

 

「提督。今日は間宮さんがしっかりご飯を作ってくれるそうなので1700まで書類の処理、よろしくお願いしますね」

 

昼食後に突然の大淀のもちかけに玲司は怪訝な顔をして大淀に言葉を返した。

 

「え?そんな話聞いてないぞ。一体何だってんだ」

「書類が今日もたんまりあるんです!今日は徹底的に片づけて、後日ある大本営での会議に仕事を残しておきたくないんです!」

 

「そ、そりゃあそうだけど、何だ?何か隠し事か?」

「ち、違います!なんでそうなるんですか!と・に・か・く!会議で書類仕事ができなくなるとまた溜まるんです!しっかり今日で減らしますからね!」

 

なんともめちゃくちゃな言いがかりのようなごり押しであった。めちゃくちゃでありながらも物凄い剣幕の大淀に玲司は渋々ではあるが、このまま押し問答をしても仕事しか言わなさそうな大淀の神経を逆撫でし、仕事を放り出されても困る。確かに大本営での会議に行かねばならない。その際には大淀も秘書艦として出ねばならず、仕事は滞る。書類も滞ってくれればいいがそうもいかない。なので、莫大に書類が増える前に片付けておく必要があったことは確かだ。

 

「わかったわかった!何を隠してるのか知らないけど、付き合いますよ、お嬢様」

「は、はあ!?にゃ、にゃにを言っているんですか!?私は隠し事など誓ってしておりません!」

 

「俺の目を見てから言おうな?それと、口笛吹けてねえから。ほら、行くぞ。間宮、頼むな」

「はい。ここはお任せくださいませ」

 

そう言って玲司が食堂を後にする。後ろを振り向き、やりました、みたいな顔をして親指を立てているが、完全に玲司に何かあるとバレているとは露とも思っていない大淀。これに苦笑いしながら手を振って見送る間宮。食堂には肘をついて大淀を見送る摩耶と間宮と同じく苦笑いで手を振る最上。ボーっと窓の外を見ている北上が残った。

 

「北上は戻らなくていいのか?」

「んー?何か摩耶と最上と間宮さんで面白そうなことする気がするから残ってんのー」

 

「あはは、相変わらず鋭いねぇ、北上は」

「お手伝いさんは多いほうがいいですね。北上さんもよろしくお願いします」

 

ふりふりと手を振って返事をする北上。きっと何かおもしろいことを企んでいるに違いないと睨んだ北上。その予想は大当たりで、楽しい一時を過ごすことになるのだ。

 

「間宮さん、玉ねぎこれでいいのかー?」

「はい。そこに置いておいてください」

 

「間宮さん、これかわいいねー!ボクもやりたいよー」

「うふふ、あとで聞いてください」

 

「間宮さーん、包丁全部洗えたよー」

「ありがとうございます、北上さん。準備も早くできましたねぇ」

 

何やら大量の食材を机に並べていく。食器もたくさん。まるで料理会でもやるかのようだった。

 

「では、これで準備は万全ですね。そろそろ時間です」

 

間宮がそう言っているとぞろぞろと村雨や雪風、電たちがやってきた。鎮守府の駆逐艦全員が絶好調で出撃する前のようにキラキラと輝いているように見えた。

 

「おー?くちくが勢ぞろいだねぇ」

 

「間宮さん!今日はどうぞよろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いしまーす(っぽい)(なのです)!!」」」

 

雪風の挨拶に全員が続く。北上は察した。料理を教えてもらって何かを作るつもりだ。たぶん、玲司にだろうと思ったが…。量が多い。と言うことは全員分作るつもりか…。大変な大仕事になる。でも、みんなとても楽しそうで、最上や摩耶まで楽しそうにしていた。

 

「はい。よろしくお願いします。今日は提督のために皆さんでおいしいハンバーグを作りましょうね。摩耶さん、最上さん、そして北上さんがサポートしてくださるのでよろしくお願いしますね」

 

そういうと摩耶たちのほうに振り向いてお願いしますとお辞儀をする。何だか恥ずかしい…。それでも駆逐艦達のかわいさに笑ってしまう。

 

「では、役割を決めましょう。玉ねぎを切るのは一番お姉さんの時雨ちゃんと村雨ちゃんね。包丁は危ないから。お二人ならしっかりしてるから大丈夫と思いますけど。私が見ていますが、手を切らないように気を付けてね」

 

「わかった。村雨、がんばろうね」

「はいはーい!がんばろー!」

 

玉ねぎのみじん切り係:時雨、村雨。補佐:間宮

 

「次はにんじんとジャガイモの皮むきと型抜きね。これは雪風ちゃんと電ちゃんにやってもらおうかしら。この皮むき器を使うけれど、刃物ですから気を付けてくださいね」

 

「はい!がんばります!」

「なのです!」

「おーし、あたしも手伝うからな!」

 

ニンジン、ジャガイモ係:雪風、電。補佐:摩耶

 

「皐月ちゃん、文月ちゃん、霰ちゃんは少しの間待っててね。あとでタマネギとひき肉を混ぜてこねこねしてもらうからね。安全だし、楽しいから♪」

 

「うん!まっかせてよ!ボク、頑張っちゃうから!」

「文月もがんばるよぉ~!楽しそうだね♪」

「霰も…がんばる」

 

「じゃあボクはここでスパイスを加えたりするお手伝いをするね。よろしくね」

 

タネをこねこね係:皐月、文月、霰。補佐:最上

 

「夕立ちゃんと吹雪ちゃんはご飯を炊くかまどの火の番ね。妖精さんが作ってくれた特製かまど。ご飯がほんとにガスや電気で炊くのよりおいしいんだけれど、火をしっかりみないといけないから。あとでちゃんと教えるわね」

 

「ぽーい!おまかせっぽーい!!」

「はい、がんばります!」

「なーんか危なっかしいから、あたしも手伝うねー」

 

かまどの火の番:夕立、吹雪。補佐:北上

 

「焼いたり、ニンジンのグラッセやポテトは私も手伝うからみんなでそれぞれやっていきましょう。では、始めましょうか!みんな、頑張って提督をあっと言わせる素敵な料理を作りましょう!おー!」

 

「おー!」

 

こうして、駆逐艦の恩返し。ハンバーグ作成教室が始まった。

 

/玉ねぎ

 

「……ぐすっ…んあああ、目がいたーい!」

「…ううっ…な、何だいこれ…」

 

「一旦手を止めましょう。手を切りそうです。そのまま見ていてくださいね。ここをこうして、切れ目を入れて。向きを変えてこうするとほら、きれいに細かくなるでしょう?これがみじん切りです」

 

さすがは給糧艦、料理のプロ。すばらしい勢いで玉ねぎを細かく切り刻んでいく。鮮やかな手さばきに時雨も村雨も舌を巻くばかりだ。

 

「わー、さすがだねー」

「す、すごいね…よ、よし。僕たちもやってみよう」

 

「わ、これ何だか楽しいね♪」

「………」

「時雨…、うん…大きいと触感が楽しめるよね…」

「笑えばいいよ…」

 

要領の良い村雨はきれいに細かくみじん切りにできたが、時雨はぎこちなく切り方が大きい。ボウルには大小さまざまな玉ねぎのみじん切りが盛られていった。

 

/ニンジン、ジャガイモ

 

軽くやり方を教えてもらった摩耶が雪風と電に手本を見せる。ジャガイモはちょっと危なっかしいが、摩耶がケガをしないように目を光らせる。けれども電も雪風もスルスルと楽しそうに皮をむいていく。

 

「ニンジンさんの皮がスルスルむけて楽しいのですー♪」

「ジャガイモさんはデコボコしてて難しいです!」

 

「手ぇ切るなよー?おし、あたしはこれをこう切って切り抜く準備だな♪」

 

摩耶は手先が器用で包丁さばきもなかなかだ。厚すぎず薄すぎず。ちょうどいい厚みで輪切りにしていく。ふんふんと鼻唄を歌いながら二人がむいた野菜を切っていく。

 

「じゃあ、これをこうして…こうやって押せば!ほら!」

「わぁ、桜の形になったのです!」

「楽しそうです!雪風は星さんです!!」

 

一度皮をむき終われば楽しいくり抜きタイム。桜や星、ハートの形にニンジンやジャガイモをくり抜いていく。摩耶も楽しそうに型を抜いていた。

 

……

 

「はぁ…やっと終わったぁ…目が痛いぃ…」

「ふう、これは大変だったよ…」

 

「二人ともお疲れ様。うふふ、大変だったわね。でもおかげでようやく皐月ちゃんたちの出番よ」

 

「うん。皐月たちにあとは任せるよ…」

 

/こねこね隊

 

「さあ、お待たせ。ここは私がやりますね。まず牛乳にひたしたパン粉を入れます。ひき肉を入れて、玉ねぎも入れて。あとはにおい消しにナツメグ、塩コショウを適量。さあ、これであとはよくまぜてくださいね」

 

「まっかせて!」

「は~い」

「がんばる」

 

大きなボウルに入ったハンバーグのタネを小さな手で一生懸命こねる。最上がぎこちない三人の様子を見守っている。

 

「わわわ、飛び出ちゃった!」

「力を入れすぎだよ。もっとこうぐにゃっと…うへえ、変な感触ぅ…」

 

「えへへ~、これ楽しいよ~♪こねこね~。間宮さん、司令官においしく食べてもらうにはどうしたらいいかなぁ?」

「しっかりおいしくなーれって愛情をこめてこねるのよ。そうすればきっとおいしいって言ってくれるわ」

 

「は~い♪んしょ、んしょ、おいしくな~れ♪」

「…おいしく…なぁれ…おいしく…なぁれ。…楽しい♪」

 

一生懸命こねたものを今度は少しずつちぎって形を整えていく。皐月たちは手が小さいので小さいハンバーグができていく。時々並んでいる大きなものは最上が作ったものだ。

 

「へへ、これボクが頂き♪大きいのをいただいちゃえ」

「あ、こら最上!ずるいぞ!あたしのもでっかく作れよな!」

 

「えい、えい!あはは、これ楽しい!」

 

そうしてできたものはしばらく冷蔵庫へ入れる。少し寝かしておくとふっくら仕上がると玲司から聞いていたためだ。

 

そうこうしているうちに電と雪風も無事にニンジンとじゃがいもの型抜きが終わったようで、間宮が次の準備を始めていた。ニンジンはグラッセに。雪風の大好物。ジャガイモはそのまま揚げてフライドポテトに。電と摩耶の大好物。これも自分たちで調理をすると言うことで俄然やる気が出ていた。

 

/お米隊

 

「げほっげほっ…け、煙がぁ…」

「ふー、ふー…ぽい~…火を消さないように。でも強くしすぎないようにってすごい難しいっぽいー」

 

吹雪と夕立はかまどで火の番。米の炊け具合などは北上が見ている。

 

「ほれー、ふぶきちー。火が消えちゃうよー」

「ふぶきちってなんですかぁ!?あ、ああ!ふーっ!ふーっ!」

 

「ぽいぽいー。ちょっと火が弱くなってきたよ。しっかり吹きなさいよー」

「ぽ、ぽいー!」

 

火の強さの調節が難しい。妖精さんも何やら小さな筒のような何かでかまどに向けてふーふー息を吹きかけているようだが、本当にこれで効果があるのかは定かではない。酸欠になりそうなくらい顔を真っ赤にして思いきり吹いているが、火はぴくりとも揺らぎもしない。単におもしろそうなので真似をしているだけだ。

それを見た夕立がひらめいたのか、大きく息を吸って…

 

「ま、待って、夕立!駄目だよ!もっと弱く!」

「わわわ、夕立待って!」

 

夕立の様子を見にきた時雨と村雨の制止も聞かず、ブーッと思いきり息を吹いた結果…火まで吹き出し、さらには煤や灰が夕立に襲い掛かる。辺りにも灰が舞い散る。

 

「ゴホッゴホッ…ゆ、夕立ちゃん、大丈夫!?」

「ぽいぽい…あんたさぁ…」

 

火で前髪が縮れ、顔を煤と灰で真っ黒にした夕立…。何が起きたのかわからないような顔で目をパチパチとさせて茫然としていた。それを見た北上がぶっと噴き出して後ろを向いて笑いを必死にこらえていた。吹雪はわたわたしながら首に巻いていたタオルを水道で濡らす。

 

「ぷっ、あはははは!夕立、なにその顔ー!」

「ふふ、だ、駄目だよ村雨…笑っちゃ…ふふふ!」

 

「ああ、黒いの落ちないよぉ!」

「くくく…ぽいぽい、ご愁傷様。ほらー、火!」

「ぽいー!北上さんの鬼畜ー!」

 

時雨たちの協力もあり、何とか米は炊けていく。辺りにはいい匂いが漂ってきた。いよいよ料理も終盤である。

 

……

 

長く時間はかかったがようやく仕上げに入っていた。まず雪風と電がグラッセとフライドポテトを作っている。その様子を文月たちが見守っていた。間宮の指示も熱が入る。

 

「雪風ちゃん、もういいでしょう。お水を入れてください」

「はいっ!じゃばー!」

 

「電ちゃん、そうそう。そうやって油の中で優しくかき混ぜてね」

「なのです!はにゃあ!」

 

パチンと弾けた油にびっくりし、声をあげるも決して逃げずにがんばる電。火を扱うことはとても危険です、と釘を刺されていた二人の目は真剣だ。小さな体で一生懸命作る姿は、気になって様子を見に来た名取や扶桑にもかわいらしく見えて笑顔で見守っていた。

 

「揚がったのですー!」

 

からりと揚がった星やハートのポテト。塩を適量まぶして…と思ったら摩耶と電がつまみ食い。

 

「あー、摩耶も電もずるい!ボクもー!」

「悪いな最上!これはつまみ食いじゃないて味見!おいしくできてるかのな!」

「なのです!おいひいのれすー♪」

 

「雪風もできました!いい匂いです♪一つ…ん、おいしいです!」

 

さて、ついにいよいよ今日のメイン。ハンバーグを焼く時が来た。これを焼くのは文月達だ。間宮指導のもと、大きいのは皐月と霰。小さいハンバーグは文月がフライパンで焼く。じゅううと良い音と共に、少しずついい匂いが食堂に充満していく。

 

「ぽいー、ご飯炊けたっぽいー!」

「はひぃ…疲れたぁ…間宮さんと司令官、こんなに大変だったんだ…」

 

疲れた様子の吹雪となぜか顔が黒い夕立。夕立の顔を見て最上や名取が吹き出す。何せ黒いのだ。笑うしかない。

 

それはさておき、ハンバーグはひっくり返され、良い焼き加減のいい色をした肉が見える。

 

「うんっしょ。わぁ、間宮さん、できたよぉ!」

「霰もできました」

 

「まあ、大きいのを頑張ってひっくり返したわね。じゃあ、蓋をして少し待ちましょうね。ゆ、夕立ちゃん、こっちへいらっしゃい」

 

煤まみれの夕立の顔をていねいに拭いてきれいにしていく。火を消して蒸らすこと10分。白く輝くご飯。思わず吹雪も北上もおお、と声を漏らす。

 

「うん、いいわね!あとはお肉だけね」

 

「おー、これはおいしそうだねぇ♪」

「すごいすごい!お腹減っちゃいました!」

 

皐月たちも待つことしばらくして。そろそろと言われたハンバーグにかぶせた蓋を開ける。湯気と共にとてもお腹が減るいい匂いがする。

 

「おいしそう…」

「わぁ~。早く食べたいよぉ~♪」

 

いい焼き目はついている。間宮の目ではもう完全に焼きあがっていたので、皐月たちにハンバーグをお皿に移すよう指示。ニンジンとポテトの前にデンとハンバーグ。仕上げに間宮がフライパンでソースを手際よく作っていく。さらにいい匂いが食堂を満たす。

これでもか、とハンバーグにソースをかけていけば、間宮が拍手をする。

 

「駆逐艦のみんな、お疲れ様。ハンバーグの完成よ!よく頑張ったわね!」

 

間宮の言葉に駆逐艦がわぁっと大きな声をあげる。ハイタッチをしたり飛び上がったりと忙しい。

 

「さあ、ちょうど夕飯の時間ね。提督と大淀さんを呼んできてもらえるかしら!」

 

「はーい!ボクが行くー!!」

「あ~文月もぉ~!」

「霰も…行きます」

「雪風、いきまーす!」

 

そう言うや否や飛んでいく4人。摩耶や最上もクスクス笑っていた。

 

 

「なあ、大淀。そろそろ晩飯なんだけど」

「まだ書類は終わっていません」

 

「なあ…晩飯の時間、遅くなっちまうぞ…?」

「承知の上です。ですが、会議のためですから」

 

「なあ、何を隠してるんだ、大淀?」

「し、知りません!」

 

あえて聞いてみたがここまで頑なに自分を執務室から出さないのには何か理由はあると思う。というかバレバレである。きっと、艦娘たちで何かをやっているのだろう。

 

「大淀を囮にして何をやっているのやら…」

「お、囮だなんて心外です!何ですかそれ!」

 

「わ、悪い悪い。そう怒んなって…」

「提督、あまり大淀さんをいじめないでください…」

「神通までかー…参ったなぁ…」

 

頭をぼりぼりとかく。何かをやっているのだろうが、悪いことではないと思う。神通は笑っているし、大淀も真剣な表情で言うものの、鬼気迫るような顔ではない。とにかく、今目の前にある書類をもう少し片付けないとこの監視役二人はテコでも動かないであろうし、渋々次の書類に手をかけていった。

 

しばらくして廊下を数人が駆ける音がした。それは執務室のドアの前で止まり、控えめに小さくノックの音が鳴る。どうぞ、と言うと目をキラキラさせ4人の駆逐艦。

 

「お、どうしたんだ?悪いな、ご飯なら間宮に…」

 

「しれえ!お仕事まだ終わらないですか?」

「ん?おお。実はまだ終わらないんだ。もう少し待ってもらえるか?」

 

玲司がそう言うと何やら雪風も皐月たちもしゅんとしていた。目に見えて元気がなくなる。

 

「どうしたんだ?何か俺に用か?」

「お仕事、どれくらいで…終わりますか?」

 

「んー、そうだなぁ…あと2「あー!終わりました!霰ちゃん雪風ちゃん!お仕事は終わりましたよ。提督はこれで自由です。どうされましたか?」

 

言葉を遮って大淀が仕事の終了宣言を出した。ぽかーんとする玲司。その言葉を待っていたかのように文月と皐月が両手に飛びかかる。

 

「やったー!司令官!ご飯ができたよ!早くいこいこ!」

「ほーらー。はやくぅ~」

 

「しれえ!急がないと冷めちゃいます!さあ、早く行きましょう!」

「……早く」

 

文月と皐月に引っ張られ。雪風と霰には後ろから押され。何が何だかわからないまま連行されていく。後ろを振り返って雪風が「大淀さんたちも早く行きましょう!」と元気な声で呼びかける。大淀と神通はしばし目を合わせていたが笑って後を追いかけた。

 

/食堂

 

皐月たちに連れてこられた玲司。ドアを開けると一列に時雨、村雨、夕立、電、吹雪。そして列に並びだす雪風、皐月、文月、霰。後ろで摩耶と最上がこちらを見つめてニヤニヤと笑っていた。北上も心なしか嬉しそうだ。間宮が一歩前に出る。

 

「さあ、みんな。提督に一言どうぞ!」

 

『司令官!いつもありがとうございます!私たちが心を込めて作りました!!』

 

一同が玲司にぺこりと頭を下げる。駆逐艦の子達が道を開けるとそこには食事が。玲司がいつも座るところには大きいのと小さい形の整わないハンバーグ。星やハートに型抜きされたニンジンとポテト。釜には白いご飯。

 

「みんなが…作ったのか?」

 

「なのです!司令官さんにいつもご飯を作ってもらったり、優しくしてくれたりのお返しを駆逐艦のみんなと間宮さんと最上さん、摩耶さんと北上さんに手伝ってもらって作ったのです!」

 

「私と時雨は玉ねぎをいーっぱい切ったよ!この大きな玉ねぎは時雨のだよ」

「村雨…いいじゃないか、ちょっとくらい…」

 

「これは電と雪風が作ったんだぜ。あたしもちょっと手伝ったぞ!」

「型抜き楽しかったのです♪」

「一生懸命作りました!」

 

「夕立と吹雪ちゃんでご飯を炊いたっぽい!」

「途中で顔を真っ黒にしたけどね」

「ぽ、ぽいー!北上さん、その話はなしっぽい!」

「あはは…。おいしく炊けましたよ、司令官!」

 

「ハンバーグをこねてがんばって焼いたのは皐月と文月と霰だよ。おいしくな~れってかわいかったよ」

「ボク達もがんばったよ!」

「一生懸命こねこねしたよ~」

「…おいしい、と思います…」

 

みんなの笑顔に玲司は涙が出そうになった。そんな、見返りがほしくて料理を作ってもいない。おいしいと言ってくれるだけで十分だ。遊ぶのだってみんな楽しそうにはしゃいで慕ってくれるから遊んでいるだけだ。なのに。なのにこうして自分にありがとうと言ってくれて。一生懸命ケガもなく作ってくれて。…嬉しかった。

 

「みんな…みんな」

 

まずひざをついて皐月と文月、霰と雪風を目いっぱい腕を広げて抱きしめる。小さな体でよく頑張ったなぁ…と優しく撫でていく。

 

「ありがとうな。頑張ったな。偉いぞ。俺は今すごく嬉しいよ」

「えへへ…!ボクも嬉しいな」

 

順番にみんなを抱きしめては褒めていく。その笑顔はとても眩しいもので。大淀たちも嬉しくなった。

 

「おっと、悪い悪い。お腹減ったな!よし、じゃあみんな席につけー!」

 

『はーい!!』

 

「じゃあ、手を合わせて!いただきます!」

 

『いただきまーす!!』

 

駆逐艦達ももう待てなかったのか号令と同時にハンバーグにかぶりつく。摩耶や最上も。扶桑達もみんなおいしそうに食べていた。

 

「司令官!みんなで食べるご飯っておいしいですね!」

 

吹雪が口の周りにお米をつけながら嬉しそうに食べている。それを取ってあげて、メインのハンバーグを食べる。

 

「ん、うまいな!」

 

その日のハンバーグの味は自分が作ったものより。どこのレストランで食べたものよりも、格別の味だった。




駆逐艦の恩返し、おしまいです。カレーにしようと思ったのですが、アニメとかぶったりと無茶があるかな?と思いつつもまあ何とかなるだろうと思ってハンバーグにしてみました。

私も食べたいです。

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