提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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思わぬ最強戦艦(超泣き虫)の登場でドタバタした玲司達。はたして大本営会議は何事もなく終わるのでしょうか?


第三十二話

大本営会議。数多くの鎮守府や泊地、警備府の提督が一堂に集まり海域解放の報告、諸外国との海上輸送ルートの模索などその話題は多岐にわたる。ここ最近では横柄な提督が数多く集まるために下らないどの海域を攻めた、攻略したなどの自慢話に発展し、会議にならないことも多いと聞く。

正直玲司はそんなことより自分の鎮守府の子たちとの交流を深めることに時間を費やしたいのだがそうもいかず、渋々大本営に行くこととなった。

 

「悪いけど、今日の帰りはたぶん夜になると思う。緊急時は連絡をすぐくれ。扶桑。すまんがそこは任せる」

「わかりました。この扶桑にお任せください」

 

「付き添いは大和。大淀。神通だ。大淀は俺と会議に参加。神通はいわばボディーガードだ。大和は…うん。初めてのことだからな…一応報告と言うか披露と言うか…」

 

戦艦大和。艦娘が現れて初めての大和型戦艦。連れて行くとろくなことにはならないが、隠していて後で発覚したほうが余計に厄介なことになりそうなので連れていく。心配事は尽きないが、そうも言っていられない異例の艦娘。不安そうにしているが、大淀がいるなら大丈夫、と健気に言う。大淀は大和を非常にかわいがっているからだ。姉妹のような感覚だ。大和は大淀をとても信頼し、夜も怖いからと戦艦寮で一緒に寝てほしいと言うくらいだ。

 

「しれーかん…さみしいなぁ。早く帰ってきてね…」

「ボクも寂しいよ…でも、お仕事だからしょうがないよね…」

「いい子にして…待っています」

 

文月、皐月、霰が寂しがっている。玲司が来て、玲司がほぼ丸一日いない日と言うのはなかった。ましてや一泊。いつもべったり甘えていただけに寂しさが募るらしい。雪風も寂しそうにしていたが、笑って「気を付けて行ってきてください!」と言われた。彼女は彼女なりに我慢しているらしい。

 

「ごめんな…なるべく早く帰って来るから。いい子にして待っててくれ。帰ってきたら、また遊ぼうな」

 

「うん!ボク達いい子にしてるからね!」

「いってらっしゃ~い」

「いってらっしゃい…」

 

「玲司。お父ちゃんらによろしく言うといてや。ここなら任しとき!」

 

頼れる姉、龍驤。原初の艦娘である彼女がいるなら、不測の事態にもほとんど対応できる。安心してここの留守を任せられる。

 

「提督…どうかお気をつけて。あなたがいないのは寂しいです。ですが、帰りをお待ちしていますね」

 

翔鶴が玲司の手を握る。翔鶴にとって絶対の安心さをくれる玲司がいないのはとても心細かった。奴が死したとは言え、何かと守ってくれる彼がいる、いないでは仲間がいれど心細い。わがままばかりも言えないが…。

 

「ああ、翔鶴。なるべく早く帰るから。待っててくれな」

「はい…お待ちしております」

 

「じゃあ、行ってくるから!よろしく頼んだ!」

 

そう言って車を出す玲司。翔鶴は車が見えなくなるまで門に立ち尽くしていた。

 

「心配せんでもちゃんと帰ってくるって。別に戦場へ行くわけちゃうんやから。ほんまあんたは玲司にゾッコンやなぁ」

 

「りゅ、龍驤さん…そ、そんな私なんて…」

「きひひ、顔真っ赤やで!もーかわいいなぁあんたは~」

「龍驤さん!!」

 

しばらく龍驤にからかわれた翔鶴であった。

 

/大本営

 

大本営は会議のために多くの提督や艦娘が集まっている。その中を悠々と歩く玲司と大淀、神通。初めて見るものばかりでおっかなびっくり歩く大和。周りの目はその見慣れない艦娘、大和に釘付けである。なんだあれは。新しい艦娘か?ぜひうちにほしい、などの声があちこちで飛ぶ。

その声と好奇の目に大和は目に涙を浮かべて歩いていた。大淀がそっと寄り添い、大丈夫だから…と何とか宥めている。玲司も無視しろと言ってはいるが大和には無視できないほどのものらしい。

 

パシャッ!と言う音と眩い光が玲司達に浴びせられた。その光に大和がひゃっ!と声をあげる。

 

「おおっ、見慣れない艦娘さんですねぇ。これは貴重な記事になりますよ~!ちょっとこっちを向いてもらえますか!」

 

「ちょ、ちょっと!やめてください!怖がっているじゃないですか!!」

 

大淀がカメラの主に批難を浴びせるも彼女は気にしていない。パシャパシャと写真を撮り続ける。やがて大和は耐えられなくなり…

 

「うっふぇぇ…こわいです…ぐすっううう…」

 

またへたりこんでうわああん!と泣き出してしまった。そのことに慌てるカメラの主。大淀と神通がへたりこむ大和を泣き止ませようとする。慌てておろおろするカメラの主の頭にゴツンと強烈な衝撃が走った。

 

「ぐあああ…」

「このバカタレ!毎度無理やり写真を撮るなって言ってんだろうが!」

 

玲司が悶絶する艦娘の首根っこをひきずり、大淀たちを呼びながら一室に入る。部屋には誰もおらず。玲司も大和の頭を撫でたりして泣き止ませている。大和はぐすぐすと言いながらも何とか泣き止んだ。

 

「い、痛いです~痛いです~…ううう、でも久しぶりにもらいましたね、この強烈なげんこつ」

「また食らわせることになるなんて思ってもみなかったよ。けど、ちったあ反省しろ」

 

「う…ごめんなさい…」

 

頭をさすりながら涙目で反省する何者か。大淀は知っている。この写真を撮るのが好きでその写真で何かと騒ぎを起こす重巡…。

 

「青葉…ですよね?え、提督とお知り合い…?」

「はい、その通りです。重巡青葉さんですよ。司令官とは海よりもふかーいお付き合いをしていました」

 

「何だそれ。しかしまあ、久しぶりだな青葉。もう大本営に落ち着いたのか」

「はい!古井司令長官のもとで新聞作りを楽しんでますとも!」

 

重巡青葉。その性格は好奇心の塊、取材に燃える艦娘。手にしたカメラで写真を撮っては何かと取材だネタだと走り回る存在。時にとてつもないトラブルを起こすこともある要注意艦娘と言う認識が強い。

 

「えっと…提督とはなぜ…?」

「はい!青葉はかつて司令官のもと、ショートランドに所属していた艦娘です!…青葉は100人いた艦娘のうち、生き残った最後の1人です」

 

言葉に詰まった。摩耶達と秘密の夜更かしをしていた時の話。提督から最上と五十鈴。鳥海と阿武隈が聞いた内緒の話。けれど、秘密の女子会ともなればそんな話は簡単に漏れる。特に、大淀は何かと玲司の話に興味を持っていたため、何かないのかと聞きだした結果がその話だった。

 

(提督、何でも100人中99人の艦娘を死なせちまったって…すごい過去があるんだよな…)

 

その言葉に神通も大淀も目が点になった。あの提督が艦娘を沈めるなどと…。摩耶の話を聞いて玲司の壮絶な過去を知った。沈めたのではなく、自ら死地に赴き戦って死していった英霊の話。提督と艦娘の信頼関係が強くなければありえない話。命を賭けて海を、この日本を、そして玲司を守り抜いた英霊たちの話。

 

(けどさ、その最後の生き残りって誰なんだろうね?ボク会ってみたいな)

 

最上が気にしていた最後の生き残り。その生き残りが今目の前で笑っていた。

 

「すみませんでした。まさか泣くほど怖がらせてしまうなんて…」

「ぐすっ…だいじょう、ぶです…」

 

「ったく…うちの大和は怖がりなんだ。一言かけてからやってくれ」

「や、大和!?ちょちょちょ、これはとんでもない大スクープですよ!司令官なら何だかやってのけそうでしたけどー…」

 

「どういう意味だ。俺は別にそんな大した提督じゃねえぞ」

「ええ!?司令官が普通だったら他の司令官は何だって言うんですかー!司令官はこの青葉を救ってくれた命の恩人ですよ!?絶対、絶対轟沈するはずだった青葉に司令官が「青葉!!!」

 

玲司がすごい剣幕と声量で青葉の続きの言葉をかき消した。青葉はしまった…と言う顔で目をそらした。一体何がそんなに玲司の表情を変えるほどのことを言おうとしたのか?大淀は隠し事をされているようで何か胸がもやもやする感覚を覚えた。

 

「悪い…驚かせたな」

「い、いえ…一体…何が?」

 

「すまん、今は言えない。いずれ…いずれ話す。すまん…ん、そろそろ会議が始まる。大淀にも来てもらおうと思ったけど、大和だけでいい。ついてきてくれ。大淀と神通はここで待ってな。青葉、余計なことはしゃべんなよ」

 

慌てて大和が立ち上がり、玲司と共に部屋を去っていった。部屋に残された神通と大淀。そしてかつての玲司のもとにいた青葉。

 

「いやぁ、すみませんでした。青葉も軽率でしたねぇ」

「一体…提督は青葉に何を…?」

 

「申し訳ないですけど、青葉の口からそれを語ることはできませんね。司令官があの様子でしたから。けど、青葉は司令官のおかげでこうして生きています。もう、戦闘は不可能ですけど」

 

「えっ?」

「それは、どういう意味ででしょう?」

 

「どうもこうも、青葉はもう艤装は装備できません。青葉は本来、司令官に助けてもらわなければ今こうしてお二人と話なんてできない存在ですからー。…そうですね。ちょっとお茶しませんか?青葉のお部屋で」

 

青葉はさっきまでのへらへらと笑っている顔ではなく、まじめな顔で大淀と神通を自分の部屋へ招こうとしていた。いいのだろうか…とも思ったが、提督の過去が何か聞けるのではないかとついていくことにした。

 

……

 

青葉の部屋は整理整頓がされている。本棚にはスクラップブックがびっしり。机には大きな写真。それは…

 

「これはショートランドの仲間と司令官と全員を写した写真です。毎日、これを見ては元気を出していこうと思っています」

 

寂しそうな顔をして青葉がそっと写真に手を触れる。青葉は決して行き過ぎた写真撮影はしなかった。時々トラブルを起こしたこともあったが、泊地の和が乱れるほどのことはしなかった。

 

「あとで大和さんにはちゃんとした謝罪をしなければなりません。泣かせてしまうなど言語道断の行為です。嫌がる行為はしない。そう決めていたルールを破ってしまいました。けれど、大和さんの顕現…ですか」

 

あごに手を当て、難しい顔で考え込んでいる。

 

「大和さんが顕現したことで、何か不都合が…?」

「司令官の苦労が増えるだろうなーと思っています。なんたって、今の権力に溺れてばかりいる無能が多い世界ですから。大和さんを隣に侍らせれば、それだけで自分が一番偉くなるんです。そう考えている奴らばかりなんです」

 

「あ、青葉!そんなこと言ったら誰が聞いてるか!」

「ここなら心配いりません。盗聴盗撮?そういった類に気づかないとでも?その辺の青葉と一緒にしないでくださいねー」

 

えっへん!とふんぞり返る青葉。しかし、その青葉から出る言葉は今の提督達を蔑む発言ばかりだ。

 

「大和さんを喉から手が出るほどほしがっている司令官がほとんどでしょう。それを若い三条司令官が連れているとしたら、なお気に入らないでしょうね。汚い連中ばかりです。どんな手を使ってでも大和さんを狙ってくるでしょう。建造で出ないなら他所から奪えばいい。そんな考えを持った意地汚い連中ばかりです。

会議に連れてこず、横須賀に隠しておくこともできたでしょうけど、どこからか必ず嗅ぎつけるんです。さすがは司令官です。隠すよりも大本営の司令官に味方をしてくれる古井司令長官、舞鶴の虎瀬中将のもとで披露したほうが安全ですから」

 

「提督のことを考えているんですね…」

 

「神通さん。青葉は司令官と司令官のもとにいる艦娘の皆さんを下衆な連中から守りたいんです。今の青葉の生きる意味はそれしかないんです。司令官には後で許可をもらって、大和さんのことを記事にするつもりです。提督以外の人間にも、三条司令官に大和さんが顕現したと言う記事を撒けば、うかつに強奪はできなくなります。なんで大和さんがそこの泊地にいる?などと疑問を持たれますからね」

 

青葉は玲司のこととなると物凄い真剣な表情で語る。下衆な人間。それは今の艦娘を兵器として、物としてしか見ずにいる提督達のことだろう。彼女には玲司と、玲司に味方する者以外は下衆と吐き捨てた。

 

「横須賀のことも知っています。クソみたいな豚が大淀達に何をしていたのかも。何度となくこの悪事を公にしてやろうと思っても、必ず何かの邪魔が入る。艦娘に守られて生きているくせに艦娘をぞんざいにしか扱わない下衆のせいで!!」

 

青葉は憎らしいと言わんばかりに机をドン!と思いきり叩く。ハッとなった青葉が首を横に振って気持ちを切り替える。

 

「すみません。汚い言葉を使ってしまって。ああ、そうそう。司令官のことでしたね。司令官を守る。青葉は司令官に命を救われていますので、その恩を一生をかけてお返しするつもりなんですよ。司令官はそんなことしなくていいと仰ってましたけど」

 

「何故、そこまで提督にこだわるのですか?それでしたら、横須賀に着任されては…」

 

「言ったはずですよ。青葉はもう艤装を装備することができません。艦娘であって艦娘でない。そんな青葉は横須賀に居ても何もできません。それよりも大本営でこうして広報として動いたほうが良いのですよ」

「艦娘のようで艦娘でない?青葉、どういうこと?」

 

「青葉は一度死んでいます。それを司令官が生き返らせた。こういった方が早いでしょう。結果としてイレギュラーな存在となり、青葉は二度と艤装を装備できません。海上を走ることもできません。体の頑丈さだけは艦娘ですよー」

 

「提督が青葉を生き返らせた!?ど、どうやって!?」

 

「それはさっき司令官に怒られてしまったので話すのはやめておきます。もしかしたら、司令官が大淀たちに話してくれるかもしれませんけど。青葉の口からはちょっと…司令官も人であって人でない、とだけ言っておきましょうか」

 

大淀と神通は訳がわからなかった。青葉は艦娘であって艦娘でない。提督は人間であって人間でないと言う。青葉はわかる。だが…玲司は?

 

「うーん…言っちゃっていいのかなぁ…でも、司令官は過去に青葉達に話してくれましたからー…」

「教えてください。提督は一体、どういうお方なのか」

 

神通が目つきを鋭くして聞く。絶対の信頼がおける主のことなら何でも知りたい。その一心だった。どんな些細な情報も聞き漏らさないように真剣な眼差しで。

 

「このことはお二人にお話ししますが、他の方へは他言無用でお願いします。あなた方は司令官を心から信用しているようですので。司令官は過去に九死に一生を得る事態に遭遇しています。そしてその時に…深海棲艦に助けられた、と言うことです」

「なっ!?」

 

「司令官からはそう聞いています。そして、これは絶対に秘密ですよ。その生き延びた理由が、深海棲艦が死にそうになっている司令官に血を分けたとか。そのおかげと言うか…司令官は人間と深海棲艦の血が混ざった人なんです」

 

「う、うそ…」

「嘘じゃありません。まあこれは、さっきの司令官から止められた話のヒントと言っておきますよ。聡明なお二方ですから、気づいたのではありませんか?」

 

合点がいく。ドックに入れても治せない時雨と村雨のこと。あの時、彼女たちは提督がその個所に血を垂らしたと言う。そうするとあっと言う間に傷や腐った個所が治ったとも。それがまさか、このような事実とは…。

 

「青葉が知っている司令官の過去はこれくらいです。助けてくれた深海棲艦には感謝はしている。でも、街を破壊し、家族を殺した奴らは許せない。そうも言っていましたね…。憎しみを持って復讐のために、好きな料理の職を目指すことをやめ、軍に入り、提督を目指したようですね。けれど、司令長官の艦娘達が優しくしてくれたことで、考えが変わり、艦娘を守る。艦娘のケアがしたい。そう思っていくようになったとも聞いています。

だからこそ、ショートランドではみんな家族のように接してくれました。笑顔が絶えず、みんなと一緒に歩んできました。本当に…本で読んだ人間のお父さんのようでした」

 

青葉の目から涙が流れる。目を閉じた彼女の瞼の裏には。かつての騒がしいショートランド泊地での日常が焼き付いている。駆逐艦に甘く、いつも霧島に怒られ。誰も彼を嫌う者はいなかった。子供のような笑顔で大鍋を抱えて「飯ができたぞ!」と言い、みんなでおかずの取り合いをし。戦いで痛いこともあった。つらいこともあった。それでも、彼がおかえりと言ってくれたなら、それだけで元気になれた。

楽しかった毎日はもうない。それでも。それでも青葉はそれを思い出し、今再び提督として走り出した彼を。今度は自分が守る番だと奮起して、誰に何を言われようと真実を写し、それを文字に起こして戦っている。

 

「司令官がここにいたときは食堂に行けば毎日会えました。けれど、やっぱり司令官は司令官でいることのほうがお似合いなんです。寂しいですけど、横須賀に行くと言った時は嬉しかったですねぇ…そこが最悪の場所だったこともあって…大淀や神通さん、大和さんを見て安心しました。やっぱり司令官は艦娘が好きで。みんなを幸せにすることができる最高の司令官だなって」

 

「ええ…本当に地獄から解放されて…毎日楽しくて。みんなが笑っているわ。ひどい目に遭った子も…みんな笑ってる。今度、ぜひ来て見てほしいわ。新しい横須賀の日常を。私たち…本当に幸せ…提督のおかげで」

 

「この神通も。提督に一生を捧げるつもりです。毎日が楽しいです。提督にお会いできて…よかったと思っています」

 

2人の笑顔は本物だった。嘘偽りのない心からの2人の言葉に、青葉は安心した。大和が玲司の下にやってきた理由も何となくわかった気がした。

 

(金剛さん。みんな。司令官はやっぱり、青葉達の司令官です。安心しました)

 

「お二人を横須賀の代表としてお願いしたいことがあります」

「代表ってそんな…」

 

大淀と神通が目を合わせる。そう言った自負はないのだが、青葉がそう言って聞かなさそうなのでとりあえず黙っておく。青葉は椅子から立ち上がり、深く頭を下げる。

 

「どうか。どうか司令官をよろしくお願いします。青葉では…青葉ではもう司令官を直接お守りすることができないんです。司令官は艦娘にとって太陽のようなお人なんです。汚い人間からは青葉が何とか守ります。ですが、直接何かあった時に司令官は無茶をする人なんです!命すら顧みず、艦娘と共にあろうとする人なんです!だから…だから司令官の命を守ってください!」

 

最後には嗚咽が混ざっていた。それだけ青葉は玲司のことを思っていた。大事にされ、そして命まで助けてくれた玲司のことを青葉はそれだけ思っていた。その言葉の重さは大淀も神通も。どれだけ重いものであるかもすぐに理解した。

 

本当なら青葉はどんな策を講じても横須賀に着任し、また共にやっていきたいと思っているだろうか?しかし、艤装を装備できず戦闘もできない。有事の際には守ることすらできない。そのもどかしい気持ちにどれほど身を焦がしただろうか。その思いを大淀達に託すしかないのだ。玲司は着任すれば喜ぶだろう。けれど、青葉がそれに耐えられない。だからこそ、ここから動かない。玲司のためにあえて大本営で戦う。

 

(玲司を守りたい気持ちは私も。そして陸奥をはじめこの子たちも同じだ。だからこそ、私と共に戦ってはくれまいか。青葉君の新聞を書き上げる能力は他の青葉君よりも素晴らしいものだ。高雄が集めた情報を君に広めてもらいたい。そうすることで抑止力になる。ペンは剣よりも強しだよ青葉君。共に戦ってくれるかい?)

 

古井司令長官からの誘いに玲司を守ると言う目論見で乗った。玲司を守るためには大本営に居たほうが有益だ。寂しい…。けれどこうすることで玲司と繋がっていられるなら。青葉の戦いはこうして始まったのだ。そして直接なことは大淀達に託したい。玲司の下にいて幸せと言ってくれる彼女たちに。

 

「青葉さん。提督は私が…いえ。神通も。大淀さんも。そして横須賀の皆さんが思うことだと思っています。ですから、青葉さんはここから見守っていてください。必ずや、私たちがお守り致します」

 

「神通さん…。大淀…」

「任せて。提督は私たちが必ず。約束よ」

 

「……はい。司令官を…よろしくお願いします!」

 

3人でがっちりと握手をする。彼女たちがいて。そして大和がいるなら。きっと大丈夫だろうと思った。

 

……

 

(死ぬな…!死なないでくれ青葉!お前まで…お前まで逝っちまったら…俺は!)

 

(青葉。こういう言い方もなんだけど…お前だけでも生きていてくれてよかった…。ありがとう…)

 

……

 

(司令官。青葉はずーっと。司令官をお守りします。それが青葉の生きがいですから。でも、全部は無理なんで、大淀達に託します。司令官には青葉達にいっぱい幸せをくれた分、幸せになってもらわなきゃ割に合いませんから)

 

もうすぐ会議が終わる。そうしたらまたうんと甘えて、これからの頑張りの動力源の燃料を補給しなきゃ。そう思いながら大淀達と玲司の帰りを待つことにした。大和の取材、泣かせないようにどんなことを聞こうかな。頭をフル回転して取材の内容を考えていた。




ショートランド最後の艦娘、青葉です。そしてちょこっとだけ明らかになった玲司の過去。いずれは玲司から語らせたいのですがタイミングをどうしようか悩んでいます

彼は彼で波乱の人生を歩んでいます。艦娘共々幸せな結末を書けるよう、頑張っていきたいと思います。

次回は玲司と大和パートとなります。お待ちいただけましたら嬉しいです

それでは、また

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