提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第三十六話

未知の深海棲艦と遭遇。最上、神通の中破。電の大破の報告。そして撤退。玲司は何がいけなかったのかを即座に考え始めた。編成か?作戦か?いや、自分の指揮がまずかったのか。考え出せばキリがない。とにかく状況を確認したいことと、全員の無事を祈りたかった。

 

「玲司は悪くないやろ。大淀と鳥海の三人で話し合って、うちもちょろっと参加してたけど、あれで間違いはなかった。指揮も問題はなかった。みんなやる気もあった。全部かみ合うてた。あんただけが悪いわけやない」

 

龍驤が玲司の考えを読んでいたのか忠告する。大淀も間宮も心配そうな顔で見つめていた。玲司の顔が憔悴しきっていたからだ。神通と電の大破で表情が変わった。

 

「提督、お茶をお入れしましょう。少し気を張りつめすぎです」

「いや、俺は…」

 

「飲んどけ。そんな顔で瑞鶴達出迎えに行ったらよけいあの子らの負担になるわ。その顔でどう思うやろな?間宮、頼むわ」

「はい。わかりました」

 

「くっ…」

「うじうじすんなや!毎度大破撤退でその顔して出迎えるんか!そんな顔して出迎えられる方がかわいそうやわ!」

 

「龍驤さん、やめてください!」

「甘やかしたらあかんねん!轟沈に敏感になるのはええことや。せやけど今のこいつはそれ以上やねん!こんな顔で大淀、あんたが出迎えてもろたらどう思う?」

 

「………。次の出撃で…大破しないようにと、気を使うと思います」

「せやろ。んでそれに気を取られすぎて他に手が回らなくなって、余計な動きが増えて大破するやろうな。それでええんか、玲司?そしたらまたそれが負担になって、最後は何もできんまま沈みそうやろ?」

 

「………」

 

龍驤の質問に答えられない。そうなる可能性があるから。死なせたくないと言う思いが強すぎて艦娘をより縛り付ける。余計な負担をかけることで艦娘の危険度が増してしまうことをするのは、提督が一番やってはいけないことだ。

 

「轟沈したわけちゃうねん。大破はしたけど生きとる。まずはそれを喜びいや。痛々しいやろうけども。『帰ろう。帰ればまた来られるから』ってよう言うやろ?轟沈したわけやないんやったら、司令官はドンと構えとけ。そうせな大淀も、間宮も。瑞鶴らも不安になるねん」

 

「提督。提督との約束、死ぬなと言うことは守ります。大破しても私達は生きて帰ります。帰ってきたときに、笑顔で迎えてくれたほうが生きて帰ってこれたと安心できます。ですから、そのようなお顔をなさらないでください」

 

ショートランドのことで心配性になりすぎたようだ。確かに総一郎にも言われた。

 

「例え大破で帰ってきても、生きて帰って来てくれたなら万歳だよ。笑顔で出迎えてあげれば、艦娘も安心する。泣きそうな、泣いた顔で出迎えたら陸奥や龍驤には怒られて、高雄や赤城には不安がられたものだよ。提督の鉄則だよ。轟沈者がおらず、大破していても無事で帰って来てくれたなら勝利だよ。だから、笑顔で出迎えてあげて、頑張ったねと褒めてあげればいい。それで艦娘は安心できる。いいね」

 

……雪風が一人で出て行った時も気が気でなかった。あの時はみんな無事で帰ってきた。雪風のことで頭がいっぱいではあったが。今回は思いつめすぎたようだ。こんなおろおろしている情けない姿を瑞鶴達に見せるわけにはいかない…。

 

パァン!と両の頬を自分で叩き、気合いを入れ直す。みんなを守る。笑顔にすると決めているのに、情けないったらありゃしない。頭をブンブンと振ってさらに気合いを入れる。

 

「…すまん。俺が弱気になったらダメだよな。姉ちゃん、ちょっと一発気合いをくれ。自分で入れただけじゃ足りねえ」

「ええで。歯ぁ食いしばれ!」

 

パァン!!と玲司が頬を叩いた時よりも派手な打音が部屋にこだまする。打たれた右の頬が真っ赤になる。

 

「~~~ってええ!くう…姉ちゃんの一発は効くなぁ…!」

「情けない顔は思いきり引っぱたきたくなるねん。どや、気合い入ったか?」

 

「ああ。サンキュ。とりあえず今は待つしかないな」

「提督…その、大丈夫ですか?氷か何かお持ちした方が…」

 

「いい。大丈夫だよ。うじうじした顔見せて悪かったな」

「そのようなことは…」

 

「大淀、ちゃんと言うといたほうがええで。しみったれた顔すんな!不安になるやろが!ってな」

「あ、あうう…て、提督!提督はドンと構えていてください!みんな必ず帰ってきますから!!」

 

「…そうだな。お前たちを信じなきゃな」

「はい!う、うう、ていっ!」

 

ぺちっと弱い力で左の頬を叩く大淀。叩いたのか、撫でたのかよくわからない行動に玲司もきょとんとなる。

 

「は、はわあああ!!す、すみません!すみません!!私も、その!提督に気合いを注入したくて!!出過ぎた真似を!すみません!」

 

目をぐるぐる回したような顔でペコペコと頭を下げては謝る大淀。大淀なりの気遣いなのだろう。とはいえ、提督に手を出してしまったことをやってから反省している。昔なら考えられないが、玲司とはかなり距離が近くなっていたので思わずやってしまった。玲司が立ち上がり、大淀の前に立つ。

 

「大淀」

「は、はい!罰ならどのようにも…」

 

出過ぎた真似のせいで殴られる、そう大淀は思って固く目を閉じた。しかし、衝撃も痛みもなく、ふわりと頭に何かが乗った感触。ひゃっ、と声をあげて目を開けると玲司は笑っていて、手が自分の頭に伸びていた。

 

「ありがとうな。不甲斐ない提督で悪いな」

「ひえっ…そ、そのようなことはありません!指揮も、執務も素晴らしい私たちの最高の提督なんです!そして…優しい、みんなに慕われる…本当に素敵な提督です。あなたがここに来てくれて…本当に…よかった。そんな、胸を張れるお方です!」

 

「そっか…ありがとう。これからも至らない俺を支えてくれ。よろしく頼むよ」

「はい!ふ、不束者ですが…」

 

「何やあんたらー。結婚でもするんかー?お姉ちゃんが許さへんでー」

「け、結婚?!」

「何言ってんだ…」

 

執務室に戻ってきた間宮は先ほどの重苦しい空気から一転し、顔を真っ赤にして身もだえている大淀と、その大淀をニヤニヤ見ている龍驤と。呆れ顔の玲司の姿に戸惑うも、先ほどの空気が消えて安心していた。玲司の右頬の真っ赤な手形に気づき、事情を聞いた間宮がなぜか怒り出し、龍驤がたじたじとするなどよくわからないことになった。

 

 

「提督。まもなく母港に瑞鶴さん達が戻ってきます」

「了解。夜だと俺の目じゃ見えないなぁ」

 

連絡を拾った大淀と共に母港で待つ。入渠の準備や艤装の整備のために多くの妖精さんも待つ。心配になった翔鶴と摩耶も一緒に待っている。間宮はおにぎりを作るために食堂に戻った。やがて照明に照らされた母港に、瑞鶴達が戻ってきた。皆の顔は暗い。

 

ふう…と一つため息を吐く最上。鳥海に肩を借りてよろよろと陸に上がる神通。そして気を失って扶桑に抱えられているボロボロの電。特に電がひどい。霰は泣いていたのか目が赤い。最上も同様だ。玲司の姿を見て、瑞鶴も最上も鳥海も。下を向く。自分たちは負けてきたのだ。大した成果もあげられず。大破者を二人も出して。悪い癖だ。帰って来て怒鳴られる。罵られると思い込んでいる。

 

「おかえり」

「おかえりなさい」

 

玲司と大淀が声をかける。その言葉にビクッとなる。この後の言葉が怖い…。おめおめと帰って来て。負けてきたのか。役立たず。そんな言葉が瑞鶴の脳裏を駆け巡る。

 

「お疲れさん。報告は後でいい。とにかく最上、神通、電は至急ドックへ。まずはゆっくり休んで傷を癒してくれ。よく帰って来てくれた。さあ、妖精さんについていってくれ」

「え、あ、うん…。行こう神通」

 

「はい…助かります…」

「私も電ちゃんを連れて行きます。提督…ありがとうございます」

 

電、扶桑、最上、鳥海、神通がドックへ向かう。残ったのは沈痛な面持ちで玲司を見つめる瑞鶴とうつむいたままの霰。瑞鶴は何と報告すればいいのかがわからない…。

 

「瑞鶴、お疲れ様。どうしたの?一体、何があったの?」

「翔鶴…姉…」

 

翔鶴の言葉にもあまり反応ができていない。そうしていると霰が玲司に駆け寄って抱き着いた。玲司の腹に顔を埋めて震え、しゃくりあげている。

 

「霰…どうした?どこか痛いのか?」

「し、しれい…かん…しれいかん…ひぐっ…ううう…」

 

霰の帽子を脱がせ、優しく頭を撫でる。膝をついて抱きしめて。翔鶴と大淀は霰がボロボロと大粒の涙を流している顔が見れた。一体何があったのだろうか…?瑞鶴も泣きそうな顔をしているし…。

 

「とりあえずここは寒い。執務室で話を聞こう。瑞鶴、それでいいか?」

「う、うん…」

 

ぎこちなく頷いて前を行く玲司についていった。霰は泣き止まないので玲司が抱き抱えていた。時折ぐすっ…と鼻をすすっている。大淀と翔鶴もついて行く。瑞鶴達に一体何があったのか?それが気になって仕方なかった。

 

……

 

霰が玲司から離れず泣いたまま、瑞鶴が戦闘時のことを語る。大淀や鳥海の読み通りの動きで進めたが、途中から一転。現れた未確認の深海棲艦が一撃で神通を大破。はじめは中破と思っていたが、先ほど妖精さんからの報告では大破、と言うことだった。神通曰く、気配に気づいた時にはやられていたと言う。

現れた深海棲艦。これがどうも厄介と言うか、恐ろしい偶然なのか。それとも必然だったのか…。横須賀鎮守府にかつて在籍していた特型駆逐艦、電の姉。響だと言う。電のことを知り、電に執着していたとか。

 

「あれは…間違いなく響ちゃんだった…。そいつの言葉に誘われて電ちゃんがフラフラと近づこうとしたところで…その…霰ちゃんが…電ちゃんを止めようと近くに向けて撃ったんだよ。行かないでって」

 

その言葉に霰がビクッとなり、玲司の服を握りしめる力が強くなった。

 

「そうか…電を止めてくれたのか。ありがとう、霰」

「…私…私…お友達に、向け…て…撃った…。怖くて…でも、電ちゃんに…行って、ほしくなく、て…。お別れ…嫌で…うう、でも、霰…電ちゃん…」

 

そうして激昂した響に狙われて集中砲火を浴び、何とか避けたものの転倒。もうダメかと思った時に庇ってくれたのが電。目の前で砲撃を食らい、吹き飛びボロボロになる電の姿が目に焼き付き、罪悪感に苛まれていると言う。

 

「霰の…霰のせいで、電ちゃん…電ちゃんが…。う、ううう…ううううう!!」

「大丈夫。電は生きてる。こういうのも悪いと思うけど、電が庇ってくれたおかげで霰も生きてる。みんな生きてる。だから、そう気にしたら駄目だ。な?」

 

「ごめん、なさい…電ちゃん、しれい、かん…ごめんなさい…!」

 

また泣き出してしまった。電があんな目に遭ったのは自分のせいだと思っている。瑞鶴もずっと霰のせいではないと言っているが、自分が悪いと言って聞かず、かなり頑固な性格をしていた。鳥海が執務室にやってきた。

 

「鳥海、電達は?」

「修復材を使い、損傷の修理は終わりました。最上と神通さんは体を休めたいとまだお風呂です。電ちゃんは吹雪ちゃんがお世話をすると。時雨ちゃんと村雨ちゃんも加わりますし、扶桑さんもいますから問題はないかと思われます」

 

「そうか。ありがとう、鳥海。おかえり」

「ありがとうございます…。申し訳ありませんでした。私の作戦が…」

 

「予想外のことが起きすぎだ。未確認の深海棲艦が戦力は未知数だったし。よりによってそれが、ここの犠牲者だったりとな」

「…はい。ですが、ある程度戦力は確認できました。これを大淀さんと確認し合い、作戦の練り直しをできればと思います」

 

「そうだな。佐世保や大湊からも討伐部隊が動いている。俺たち横須賀は今回はそっちのサポートに回りつつ、この響をどうにかしたいな。ヒキガエルの不始末だ。こちらで解決させておきたい」

「そう…ですね。ですが、どうにかとは…」

 

「もちろん、撃沈しかない…。残念だけど、深海棲艦に完全に成り果ててしまってはどうにも…な」

 

深海棲艦になってしまってはもう救いようがない。中には撃沈と同時に艦娘に戻る者もいるとは聞いている。だからと言ってこの響が元に戻るとは限らない。うちの電に強く執着しているが…。期待をしては駄目だ。そんなことをして手を緩めればこちらの艦隊がやられてしまう。

 

「そう、ですよね…」

「元に戻せるならそうしたい。けど、そうはいかないだろう。響は沈めるしかない…」

 

「わかりました。それでは早速、その深海棲艦の戦力などについてお話をし、その後大淀さんも交えて新たに作戦を」

「了解。大湊の報告も踏まえて練り直そう。ああっと…霰は…」

 

「ここ…に、いたい…です」

「ん、わかった。眠かったら、寝てていいからな」

 

そうして鳥海と瑞鶴の報告を聞く。火力は重巡並。これが一番危険だ。神通を一撃で大破させる火力だ。駆逐艦の見た目に反して恐ろしい火力を持っている。かつての響は計算高く、電を守りながら戦いつつも撃沈させる実力もあった。それを深海棲艦になっても引き継いでいたとしたら脅威だ。

そして電を探し求めているとなると、鎮守府のほうへ向かってくる可能性もあるか?電を守ると言うことだけを目的にしているのならあり得る。

 

「電ちゃんを求めてやってくるか…ですね。彼女は他の深海棲艦と目的が違います。彼女は電ちゃんを守りたいと言う目的のみで動き、それを邪魔する者を排除する。電ちゃんを見つけた以上さらに固執し、奪いに来る可能性が高いと思うわ」

 

「様子を一晩見よう。こちらに来るなら迎撃するし、来ないならもう一度こちらから赴く。瑞鶴と扶桑、鳥海にはもう一度出撃してもらうことになるかもしれん。今日はもう休め。最上達にもそう言っておいてくれ」

「わかりました。私はこれで失礼します」

 

「瑞鶴、どうした?」

「提督さん…。ごめん…、勝てなくて」

 

「気にするな。全員生きて帰ってこれたなら勝利だ。逃げるが勝ちって言うだろ?次に行って勝てばいい。瑞鶴の責任じゃあない。みんなの責任じゃない。瑞鶴達は一生懸命戦ったんだ。手を抜いたわけじゃないんだからさ。次は勝とうぜ」

「うん…うん…!」

 

「よし、今日はとりあえず解散。っと、霰?」

「……いや…、離れたくない、です…今日は…司令官と、寝たい…です。だめ?」

 

「うーん、雪風の前例があるからなぁ。わかった。んじゃあまずは霰の部屋かな。よし、行こっか」

 

ぎゅっと玲司にしがみついて離れない霰。苦笑しながら霰をだっこして執務室を出る。大淀や鳥海達も自室へ戻った。どうも大淀と鳥海はこの後巡洋艦寮のラウンジで日付が変わってもあれこれと作戦を話し合っていたようで…

 

「お前らいつまで起きてんだ!早く寝ろ!作戦なんざ明日提督と話しゃいいだろ!」

 

摩耶にこってり怒られたとか。

 

……

 

「んじゃあ電気消すぞ。今日はゆっくり寝るんだぞ、霰」

「はい…おやすみ、なさい」

 

電気を消してベッドに入ると霰がすぐに手を握ってきた。まだ震えている。電を直接ではないにせよ撃ったことへの恐怖と罪悪感が消えない。

 

「霰。電を止めてくれてありがとう。霰のおかげであいつに電を奪われなくて済んだ。怖かったな。仲間を撃つなんてこと、怖くてできないよな」

 

眠れない霰の頭を腕枕をしながら撫で、抱きしめるような形で背中を優しく叩く。温かく、落ち着く。震えは少し治まった気がする。

 

「霰…怖かった、です。でも…電ちゃんが、いなくなるのは…もっと怖かった…から」

「そうか。でもそのおかげで電は大破はしたけど帰ってこれた。霰のおかげだ。本当にがんばったな。偉いぞ」

 

頭を撫でることを止めない。またハラハラと涙が零れたが、少しずつ瞼が重くなっていく。

 

「司令官…電ちゃん、霰を嫌いになったり、しない?」

「しないさ。電と霰は仲良しじゃないか。これくらいで嫌いになるもんか」

 

「うん…でも、明日。ごめんなさいってします」

「そっか。きっと電は気にしないさ。さ、もう寝な」

 

「うん…司令官…ありが……と。いな、づまちゃ…」

 

電の名を呼び、そのまますぅすぅと寝息を立て始めた。服で涙をぬぐってあげる。服を握りしめたまま眠ってしまい、離れそうもない。頭を撫で、そのまま抱きしめる形で玲司も寝ることにした。

龍驤の一喝のおかげで何とかなった。これがなければきっと霰にこうして接することも、鳥海達にも不安を与えるだけになっていただろう。どぎつい一発をもらったとは言え、龍驤に感謝しつつ目を閉じる。

 

……

 

翌朝、食堂で気まずそうに電が起きてくるのを待っている霰。命に別状はなく、扶桑に連れられて食堂へ電がやってきた。

 

「霰ちゃん、おはようなのです~」

 

電は呑気にそういった。霰は少し驚いたが電に頭を下げた。

 

「はわわ、霰ちゃん!どうしたのです!?」

「ごめん、なさい…。昨日、電ちゃんを撃って」

 

「電を…ですか?」

「…電ちゃん、あのままだと…向こうに行ってしまいそうだったから…」

 

「あっ…」

 

響の言葉に巧みにそそのかされ、危うく響の下へ行こうとしていたから撃ったと言う。電はそのおかげで正気に戻り、狙われた霰を咄嗟に庇ったわけで。

 

「そ、それなら電もありがとうなのです!霰ちゃんに助けてもらわなかったら電も深海棲艦になって、霰ちゃん達とさよならしなきゃいけなかったのです!!」

「あ、う…電…ちゃん」

 

「助けてくれてありがとう、なのです!電は霰ちゃんに謝ってほしくないのです」

 

そう言って霰を抱きしめた。霰も抱きしめ返し、泣いていた。電に怒られこそすれ、感謝されるとは思っておらず、感極まって泣いてしまったようだ。最上や神通もその状況はわかっている。だから笑顔で見守っていた。

 

「提督。深海棲艦の一部が本土を目指し、まっすぐこちらへ向かってきているとの報告があります。おそらく、未確認の深海棲艦とその部隊ではないかと思われます」

 

朝食もままならず、大淀の報告が入る。横須賀の全員に緊張が走る。玲司は無言で立ち上がり、執務室へと向かう。

 

執務室では大淀、鳥海、霧島が待っていた。龍驤と明石もいる。早朝から深海棲艦の動きを張っていたのだ。

 

「敵はそこそこ強そうやで。おまけに未確認の深海棲艦付きらしいわ。電を追いかけてきたっちゅう感じか。変なところで記憶を忘れとらんみたいで、方角的にまっすぐここ目指して進行中。はよ出さな防衛ライン越えられるで?」

 

「わかった。よし、こちらも迎撃と行こう。瑞鶴、扶桑。それから名取と阿武隈。駆逐艦は…そうだな、雪風と…皐月…「待ってほしいのです!!」」

 

編成を考えていると電が執務室に飛び込んできた。いつもの穏やかな顔とは違う、何かを決意した目。

 

「電ちゃん?どうしたの?」

「電も行くのです!電を行かせてくださいなのです!!」

 

「電、お前は昨日大破したんだ。今日は大事を取って…「だめなのです!行かなきゃいけないのです!!」

 

「目的は電なのです。あれは確かに電の知る響ちゃんです…。だけど、もう響ちゃんは深海棲艦なのです。できれば助けたいのです…でも、もう助からない…のです。だから…だから…響ちゃんを…もうお休みさせたいのです。できるなら…電の手で!」

 

電は玲司を強い眼差しで見つめた。こればかりはどうしても外せない。絶対に折れないぞ、と言う覚悟を決めた目。

 

「いくら響ちゃんと言えど…神通さんを。最上さんを傷つけて、お友達の霰ちゃんを沈めようとしたことは許せない!!だから、だから行かせてください!!」

「電ちゃん…司令?」

 

「……わかった。電、お前の手で決着をつけろ。相手の一撃はお前の一撃とは比べ物にならないほど強力だ。みんなを信じて協力して響を…いや、深海棲艦を倒せ。いいか、死ぬなよ、絶対だぞ!!」

「司令官さん…!!」

 

「大淀!母港に瑞鶴、扶桑、名取、阿武隈、雪風を招集させろ!出撃準備!沖ノ鳥島は佐世保と大湊がやってくれる。俺たちはこちらへ向かってくる深海棲艦の迎撃をする!」

「了解しました!直ちに招集をかけます!!」

 

「電、行くぞ。お前も出撃だ。行け。行って終わらせて来い!!」

「な、なのです!!」

 

電と共に母港へ向かう。母港には早くも瑞鶴達が集まっていた。出撃準備も完了している。電も急いで艤装を装着。妖精さんに声をかけ、準備はできた。玲司が厳しい表情で語る。

 

「これからこちらに向かっていると言う深海棲艦の艦隊の迎撃。そしてこれを撃沈させる。瑞鶴達が昨日見た未確認の深海棲艦の存在も確認されている。決して気を抜かずに迎撃に当たってくれ。そして、響と思しき深海棲艦は電に当たってもらう。電、これを撃沈させろ。名取、阿武隈は電のサポートに。雪風は扶桑と瑞鶴の護衛と敵の殲滅を頼む」

 

「はい、わかりました!」

「提督さん、電ちゃんだけで大丈夫なの?」

 

「電が決着をつけると言った。俺はそれを信じる」

「…わかった。私も電ちゃんと提督さんを信じる。じゃあ、行ってくる!」

 

「ああ。いいか。全員で帰って来い。いいか、全員でだぞ!!」

 

「「「了解!!!」」」

 

六人全員で玲司に敬礼。玲司も敬礼で返す。後ろでは大淀達も続いていた。

 

「瑞鶴迎撃部隊、出撃!!さあ、行くよ!!!」

 

玲司達に見送られ、瑞鶴達は海へと出た。海を守るため。そして、過去の因果を断ち切るために。

 

(響ちゃん…待っててなのです。必ず…助けてあげるのです。お休みさせてあげるのです!守ってもらってばかりではいけないって、わかったから!)

 

電は強い決意と決別の覚悟を胸にしっかりと自分の砲を握りしめ、その時を待つ。姉にすがってばかりいた弱い自分との決別。その覚悟を姉に見せるために。




次回。激突。電vs響(?)

イベントが延長になりましたね…。まだ新艦娘をお迎えできていない提督さんにどうか新艦娘をお迎えできますように。お祈りをしておきます

当作品ではレアな艦娘と言えば磯風くらいでしょうか。これからちょいちょい秋月型や夕雲型、阿賀野型なんかも出していきたいですね。まあ、レア艦よりも何かぶっ飛んだ力を持った艦娘ばかりがほいほい出てきてしまっているのであれですけど(苦笑

次回もいい戦闘シーンを書けるようにがんばりたいと思います。

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