「提督、意見具申。よろしいでしょうか」
「聞こう、大淀」
瑞鶴達を見送った後、執務室に戻った大淀が突如として玲司に意見を申し出た。
「ありがとうございます。第二艦隊の編成を考えたほうが良いかと思われます。敵としてはこちらに向かっていると言うのはまたとない好機です。これを逃すはずはないかと。瑞鶴さん達と交戦中の艦隊も強力なル級等が存在しています。ここに新たな艦隊が現れた場合、もたないと思われます」
「なるほど。ないとは言い切れない。よし、わかった。艦隊を編成し、直ちに瑞鶴達の下へ行かせよう。翔鶴を旗艦にして…あとはどうするか」
「雪風ちゃんを救出した際に出撃した夕立ちゃんと神通さんを加えるのはどうでしょう?あと、ここに強力な雷撃の北上さんを。空母も多数加わる可能性もあります。龍驤さんが言うには、摩耶さんが対空で良い成績を挙げていると言うことですが」
「わかった。それで行こう。旗艦翔鶴。摩耶、北上、神通、夕立。あと一人。ここで戦艦がもう一人欲しいところだな」
「はい…ですが、霧島さんも大和さんも建造して間がありません。演習もなしにと言うのは…」
建造されてまだ一週間も経っていない二人。いきなり戦闘に放り出すのは酷ではないか?まるで奴のようにも思える…。しかし、戦艦を抜いては心もとない…。かと言って空母はもういない。火力の鳥海か…いや、最上か…。
「提督。私に。この大和に行かせてください」
大和がはっきりと言う。その目はいつものおどおどと怯える目ではなく。キリっとした表情で名乗り出ていた。
「大和。いくらお前が最強の戦艦の生まれ変わりだと言っても、まだ海にもちゃんと立っていないんだ。いくらなんでも無茶だ」
「お言葉ですが提督。もしかすると瑞鶴さんをはじめ、仲間に危機が迫っているのかもしれないのに、『最強』と言われた私がここでじっと仲間の安否を祈る、などと言うことが我慢できません。確かにまだしっかりと何も学んではいませんし、怖いです。ですが、ただ黙って待っているなんて私にはできません!」
いつもの泣き虫でおどおどした性格はどこへ行ったのか。強い正義感と仲間を守りたいと言う意思がヒシヒシと伝わる。よく見ると大和は膝が笑っている。怖いのは承知だ。けれどそれ以上に、自分に優しくしてくれて、姉のように慕っている扶桑や雪風達を黙って帰りを待っていると言う状況が我慢できない。
「司令。私では確かに不安が残ります。ですが、大和さんのほうが私よりも装甲も厚く、攻撃力は比ではありません。ポテンシャルを測るにも良いのではないかと。私も扶桑さん達の下へ行きたいですが…それは憚られます」
霧島が大和を援護する。玲司としてはもっと練度を上げ、鍛錬を積んでから動かしたかったのだが…。
「わかった、わかったよ。大和、お前に任せる。見せてくれ、お前の力を。そんでもって、蹴散らしてこい」
「了解しました。この大和、必ずや勝利を提督のために持ち帰ってご覧に入れます」
「よし。大淀、招集!翔鶴、摩耶、北上、神通、夕立を執務室へ!」
玲司がそう言うと大淀は館内放送にて呼び出しをする。すぐさま集まった五人。
「よし、集まったな。瑞鶴達が出撃して間もないけど、敵の援軍の可能性があると言う。そうなったとき、瑞鶴達に危険が及ぶ。お前たちには敵艦隊の援軍を相手にし、これを殲滅してほしい。可能であれば瑞鶴達と協力してくれ」
「ほんとに増援は来んのかよ?」
「わからん。あくまでも予測だからな。もし来なかったらそれでいい。瑞鶴達に加勢して潰してくれりゃいい。だが、これで本当に敵の増援があって瑞鶴達に甚大な被害が出て、沈んだら?」
「……わぁったよ。鳥海がやられた分はあたしが借りを返してやるさ」
摩耶がそう言っている後ろで、神通の目が真剣だった。おそらく前日の失敗の名誉を挽回しようとしているのだろう。油断していたわけではない。だが、神通にはそう捉えてしまうのだ。まじめすぎて。そして玲司に恥をかかせるような情けない状態になったことが何より許せなかった。
「神通さん。夕立と一緒に前の時みたいにがんばるっぽい!」
「ええ、夕立さん。また、よろしくお願いいたします」
「よし、ぐずぐずはしていられない。旗艦は翔鶴。大和を含めて六人!絶対死ぬんじゃねえぞ。いいな!」
そうして初参戦の大和を加えて翔鶴以下六人での出撃となる。
……
大和は怖かった。本当は戦闘に参加するのなんて本当に生まれて初めてだし、何より海にもまともに立っていない。けれど、脳には海に立ち、艤装を装備して砲を撃つと言うことだけは記憶されている。摩耶や翔鶴が教えてくれると言うが、それでもやっぱり怖い。
(怖い…怖いよ…!でも…でも、私がいることで守れるかもしれない…なら、やるしかない!)
怖くて涙がこぼれる。それを無理やり抑え込むように涙を拭って、巨大な艤装を身に着ける。逃げてはダメ。必ず守って見せるから。
「大和さん、大丈夫ですか?」
「はい、翔鶴さん。行きましょう。もう、もう大丈夫です」
「…わかりました。第二艦隊、翔鶴隊出撃!!」
生まれて初めてだと言うのに当たり前のように海へ歩を踏み出し、そして滑り出す。怖がりで泣き虫の大和。サナギから蝶へ。羽化するかのように変わりつつある。
/
『悪いな。さっきお見通しみたいに言ったけど、全部大淀の受け売りだ。援軍は翔鶴の部隊が討つ。瑞鶴達は交戦中のほうを徹底して叩いてくれ』
「ごめん…提督さん。私、中破でもう戦えない…」
『…そうか。雪風、瑞鶴を頼む。お前もあまりよくない状況なら派手に動くな』
「は、はい…はぁ…はぁ…」
『名取、動けるか?』
「はい、私はまだいけます」
『よし、無茶すんなよ。遠くの戦艦や空母は大和と翔鶴がやる。お前は北上と共に動いて北上のサポートをしてくれ』
「わかりました!」
「言っとくけど、足手まといだとわかったら置いてくかんね。頼んだよ、名取」
「北上ちゃん。うん、任せて!」
無線でやり取りをしていると遠くで爆発音がする。翔鶴の放った艦攻隊の放った魚雷だろう。遠くの水雷戦隊目掛けて放ったものが炸裂。被害を与えたようだ。
「翔鶴攻撃隊、敵水雷戦隊に接触、魚雷直撃!数隻の駆逐艦と軽巡に被害大!!」
『よし、いいぜ翔鶴。瑞鶴が戦闘不能らしい。そのまま重巡や戦艦などの大物を大和と協力して潰してくれ』
「わかりました…!」
「さあ、いくっぽい!手始めに目の前にいる奴をやっつけるっぽい!」
「……行きます!!」
神通と夕立が駆けだす。夕立は眼を紅く爛々と輝かせて。神通は鋭い目で夕立よりも早く駆けだす。少し離れた所では水柱が上がる。夕立と神通を狙っていた敵艦隊の一部が魚雷で吹き飛ぶ。
「さあってと。んじゃやっちゃいますかー。さくっと潰すよ」
「名取、行きます!!」
……
神通が砲撃を繰り出すとそれを援護するように夕立も同じ敵を狙う。バラバラに倒すよりは集中して一隻ずつ倒して行った方が被害は少ないだろうと言う判断である。個別で敵を倒すやり方として宙を舞ったりもするが、夕立と協力する際はそれはしない。突飛な行動は夕立との連携を崩す。二人は無言で意思疎通を図り、連携して獲物を追い詰めるイルカか何かのようだった。
「神通さん後ろ!飛んで!」
夕立がそう言うと神通は飛び上がる。その空間を夕立と敵の放った砲弾がすれ違う。敵の砲弾は海面で爆発する。夕立の弾はそれを放ったロ級に突き刺さり、爆発。ロ級は青い血液をまき散らして沈んでいく。
神通は着地と同時にもう一度飛び、月面返り。着地と同時に正確にもう一隻いるロ級に砲を浴びせる。驚くほどのバランス感覚でよろけることもなく、それでいて正確に敵を沈める。着地の際の一瞬の隙は夕立がフォロー。
「がっ!?」
「夕立さん!!」
夕立が少し吹き飛ばされる。敵の数は多い。予期せぬところから弾も飛んでくる。最高の連携が取れたとしても全てを回避は難しい。致命傷さえ食らわなければいい。
「やってくれるっぽい。よくもやったな!!!」
中破ではなく直撃を本当に直前、勘でかわして小破。しかし、それによって夕立にスイッチが入り、牙を剝いて撃った相手に迫る。神通が夕立を狙う敵を撃ち、それでいて全速力。
夕立は勢いをつけたまま自分を撃ったヘ級に飛び蹴りを食らわせ吹き飛ばす。すぐさま追いかけて悶えているヘ級の腹に至近距離から12.7㎝砲を何度も撃つ。撃つたびに血が飛び散り、夕立の体にもかかる。
「よくも夕立を撃ったな!!お前なんか!お前なんか許さないっぽい!!!」
至近距離で撃たれては軽巡とは言え耐えられない。そうしてヘ級を一隻撃沈。青い血がべったりついたまま、今度は別のホ級エリートを紅い眼でにらみつける。それは深海棲艦を恐怖へ叩き込むには充分であった。
一方で夕立の狂気の行動に固まるチ級に近寄り、飛び上がると同時に顎に膝蹴りを食らわせる神通。さらにもう一撃蹴りを加えて蹴飛ばし、そのまま砲撃。チ級はよくわからないまま沈められることとなった。
「夕立さん。敵はまだいますが、いけますか?」
「全然。まだいけるっぽい…ちっ、臭い…」
顔についた深海棲艦の血を海水で洗い流す。服についた血の匂いが臭くて不快感を示す。顔を拭い終えたと同時に神通が指示を出す。
「そうですか。では、突撃しますよ」
「お任せっぽい!!」
二人はほぼ同時に走り出す。敵水雷戦隊、次の獲物を目掛けて。
……
「落チツケ!!体勢ヲタテナオブギャ!!!」
援軍として駆け付けた深海棲艦の隊は翔鶴の艦戦並の速度で飛来した艦攻隊と大和の強烈な砲撃により、早くも混乱を極めていた。指示を出そうとしたル級の一隻が撃沈。力の強いエリートのル級を一撃で葬る砲撃。
「ナンダ、コノアリエン火力は!?」
ふう…と息を吐き出す大和。同時に46㎝三連装砲から煙が吹き出る。息を吐く暇もあまりないほどの緊張感。胃の中身が飛び出そうな感覚を覚える。扶桑も負けじとル級を屠る。ル級の攻撃を受けてやや損傷が大きい。
「扶桑さん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ…。翔鶴さんの発艦を支援し、このまま援軍の主力艦隊に主砲を撃ち続けましょう。相手に攻撃の機会を与えずにいきましょう」
「わかりました…。主砲、斉射準備!薙ぎ払え!!!」
「主砲!撃て!撃って撃って相手を叩き潰して!!」
砲を構えると同時に扶桑の耳にはシュルルルル!!と言う音が入った。敵砲弾!!扶桑には見えていた。大和を狙う一発の弾を。すぐさま大和に体当たりを仕掛け、弾き飛ばす。大和はバランスを崩して体勢を崩す。同時に扶桑が爆発する。
「扶桑さん!!!!!」
「くう…」
扶桑の顔が苦痛に歪む。いけない、艤装から火の手が上がっている。妖精さんが大慌てで消火作業をしている。
「し、心配いらないわ…。これしき…まだやれます…」
「ふ、扶桑さん…私…」
「泣いている暇はないわ…。私はまだ戦える。大和さん、反撃よ。いくわよ!」
「シブトイ奴ダ。ダガ戦力は削ッタ。次ハ仕留メル」
「残念ね…。これしきのことでこの扶桑は沈まないわ…。私には行きたいと願う仲間がいる…。こんなところで沈むわけにはいかないのよ!!まだまだこれからよ、来なさい!!」
「あああああああああああ!!!!!」
大和が叫びだし、砲を撃つ。涙を流し、狂ったように。空からの攻撃も気にせず、ただひたすらに。リ級やネ級が吹き飛ぶ。ヌ級eliteが頭を残して吹き飛ぶ。
「大和さん!上!!」
扶桑の言葉が届いていない。完全に恐慌状態に陥った新兵のようにひたすら撃つしかしない。
「おらあああああ!!!!」
ダララララララ!!!!と機銃が空の敵艦載機にめがけて撃たれる。膝をついた扶桑を庇うように、摩耶が空を見上げて機銃を撃ち続ける。摩耶の機銃の雨に吸い込まれるかのように艦載機が入っていく。そしてぽろぽろと艦載機が墜ちていく。
摩耶はとにかく龍驤の生き物のような艦載機を相手にひたすら機銃掃射での防空訓練をやらされていた。失敗すれば容赦なく龍驤の罵声が飛ぶ、演習用のペンキを思いきりかぶることになる。
「そないなことで防空巡洋艦って名前を名乗んな!!次ぃ!!」
「うおっす!!」
「あかーん!!!!」
一日中空を見上げていたせいで首が固まって明石に泣きついたこともしょっちゅう。焦って一つも墜とせなくて悔しくて泣いたこともある。龍驤に「ええやん」と言われた時の嬉しさと言えば飛び上がるほどだった。そのせいで龍驤のシゴキレベルが上がってまた一機も撃墜できずにボロボロに怒られたりもした。
仲間を守るため、空からの攻撃を自分が守る。防空巡洋艦「摩耶改二」。名実共にそれを名乗ることを原初の艦娘から許されると言うのは至難の業だ。その厳しい試験を横須賀の摩耶は無事突破したのだ。
そのおかげか、次々と敵艦載機を撃墜。ほとんど残っていない。
「翔鶴さん!今だ!いけええええ!!!」
「ありがとう、摩耶さん!!行くわよ、全機突撃!!!」
水面ギリギリを飛ぶ九七式艦攻。かつての演習の際はフラフラと覚束ない飛行であったが、修行の甲斐あってほぼ完全に制御している。まだまだ精神への負担が大きいが、以前に比べれば遥かに長時間、数多くを飛ばすことができるようになった。
大和の攻撃と合わさり、翔鶴の艦攻隊の魚雷も多くの敵をなぎ倒す。大和は多少の傷を負うも、ル級の砲撃によるダメージが少ない。扶桑も続く。強烈な戦艦の攻撃、翔鶴の艦攻。そして、厄介なのが音もなく、気配もなく足元に忍び寄る魚雷。そして、それを気づかせまいとする砲撃。名取と北上のコンビが絶妙なコンビネーションを発揮する。
「ナンダ…アイツガ撃ッテイルノハワカッテイルノニ…何デ雷跡モナイ!?」
「クソ!アノ軽巡ヲヤレ!アイツガジャマダ!!」
「そうはいかないよ。残念だけど、あたしと名取は最強コンビだからさ」
「こ、こっちよ!当たってください!」
「ガッ!?」
名取は北上の気配をごまかすだけでなく、射撃も正確で敵を屠りもする。名取も北上を守るため、そして皆を守るために必死なのだ。名取だって厳しい鍛錬を時間が空いている時は積極的に参加している。自己流でやってきた安久野の時と違い、学ぶべきことがたくさんある。それを一生懸命吸収、学習した賜物だ。
「魚雷、来ルゾ!!!」
「はー?あんたに撃つなんてもったいないってーの」
ドン!と北上が砲撃。ホ級に直撃し、さらに横から名取が撃つ。それによりリ級撃沈。
「はぁ…はぁ…」
「ふぅ…はー、きっつー。名取、これであたしらの方、おしまいだよ」
「う、うん…お疲れ様…はぁ…」
「いやぁ、沈めた沈めた。名取、大丈夫?」
「だい、じょうぶ…。北上ちゃんは大丈夫?」
「んー、まあ小破ってとこじゃない?中破してたのに無茶しすぎだよ」
「え、えへへ。北上ちゃんがいるから大丈夫かなぁって」
「ったく、人任せなんだからなぁ。今度玲司と行ったって言う喫茶店でケーキってやつ奢ってもらうかんね」
「え、ええ…」
扶桑達も砲撃を終えた。敵はほぼ殲滅。あるいは撤退した。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「大和、さん…お疲れさまでした…。敵は撃滅しました」
「……う、ううう…扶桑さん…ごめんなさい…ごべんなざい…」
「…あなたが気に病むことはないのよ…。大和さんは初めての出撃なんですもの。私は生きていますし、敵も倒せました。あなたのせいじゃないわ…。これからいろいろと覚えて…強くなりましょうね」
「はい…はい!!」
「ふぅ…何とかなったなぁ…」
「摩耶さんすごぉい…」
「へっへーん。だてにあの龍驤さんの地獄特訓をやってたわけじゃないぜ。阿武隈達も守れてホッとしてるよ」
「ありがとう、摩耶…」
「おう!瑞鶴、大丈夫か?」
「うん、私は平気…。それより、電ちゃんが…」
「瑞鶴さん、電ちゃんはまだ戦っているみたいです。ですが…もう一対一です。あれでは手出しは…」
「うん…」
「電、何あれ。あの蒼い眼…」
「電ちゃん…一体?」
電の決意を無駄にすることなく、周囲に気を配りつつ扶桑たちは電と深海響の対決を見守ることにした。ここは加勢して響を沈めたほうが良いのだが、それをすることはあまりの気迫と、謎の蒼い眼をした電の近寄りがたい雰囲気に、固唾を飲んで見守るしかなかった。
……
「だああああああああ!!!!」
「ハアアアアアアアア!!!!」
蒼い眼を持って何か雰囲気が変わった電と、電に拒否されたことで憎しみと怒りに飲まれ、響の意識をより深くへ封印し、深海棲艦の強力な力を持った深海響との砲撃戦はお互い競り負けることなく、激しく続いていた。
ドォオン!とお互いの砲が火を噴く。
「うっ!?」
電の左肩をやや深く抉るように掠めた。その痛みに膝をつく。痛い…肩が灼ける。鋭い痛みに吐き気を催す。それと同時に全力で動き回っているため、意識が飛びそうなくらいに疲弊している。今まで意識していなかったが、自分が肩で息をしていることに気が付いた。
「フフフ、今ノハ効イタミタイダネ…次ハソノ胸ヲ撃チ抜ク…」
「と、とどめを言うにはまだ早いのです…」
同時に響の足元で魚雷が爆ぜる。強烈な爆発に足についていた魚雷発射の獣が吹き飛ぶ。
「グアアアアアアアア!!!!???」
獣が吹き飛び、傷だらけになり、だらしなく海に顔をつける。魚雷発射管はもう使い物にならない。右手の砲もひしゃげて使えない。電の魚雷はクリティカルヒットだ。しかし、電ももう余裕がない。左腕は上がらない。魚雷は撃ち尽くした。右手の12.7㎝砲の残りの弾もほぼない。痛む体を無理やり立ち上がらせる。痛い…疲れた。意識が飛びそうだ。
「クウ…コンナコト…コノ左腕ノ砲ダケカ…フフ…オ互イ最後ハ近イヨウダネ…」
響もよろよろと立ち上がる。膝が笑っている。動くのもやっとのようだ。だが、狂気を宿した青い眼はまだ諦めてはいない。
電も蒼い眼は疲労こそ見えるものの、まだ輝きは失っていない。迸る闘気は失われていない。強く響を見つめる。
「イナヅマ…フフ…楽シカッタヨ…。亡霊ノヨウニサマヨッテ、ヨウヤクイナヅマニ会エテ…。ヨウヤク楽シミヲ見ツケラレタガ…コレデオシマイダ」
「こんな形で出会いたくなかったのです。けど…響ちゃんの姿をして。大切な人を傷つけたこと。響ちゃんを苦しめていること。全部我慢ができないのです」
「フン。デハソロソロオ別レノヨウダ。決着ヲツケヨウ」
「………なのです…」
お互いが走り出す姿勢を取る。
「……決着をつけるつもりです。お互い、もうこれが最後の一撃のようですね」
「っぽい!?じゃ、じゃあ…」
「はい。これで勝負が決まるでしょう。勝つのは電さんか…。それとも…あの深海棲艦か…」
「響を…もう沈める気なんだね…電…」
神通の言葉に北上が俯く。誰よりも大事だったはずの姉を自分の手で沈める。それは…どれほどの重い覚悟か?
「サア、ユコウカイナヅマ…勝負トイコウジャナイカ」
「…絶対に負けないのです」
しばらくの静寂の後…
「アアアアアアアアア!!!!!!!」
「あああああああああ!!!!!!!」
お互いに大きな声をあげ、そして砲を構えた!!!
ダアアアアアアアアン!!!!
二つの砲撃音が辺りに響き渡った。両者の砲からは煙が上がる。しかし、二人とも動かない。
「ど、どっちだ…?どっちが…倒れるんだ!?」
摩耶が静寂を切り裂き、どちらが勝負を制したのか声を出す。その言葉のしばし後…ガクリと膝をつく…
「いなづまああああああああああ!!!!!!!!」
北上が悲鳴にも似た声で膝をついた電の名を呼んだ。
次回、決着の行方は?