提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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時は少し遡って響や電が鎮守府に帰ってくる前の玲司達の話になります


第四十一話

「こちら執務室。了解した。許可する。じゃあ、13人で気をつけて帰ってきな。待ってるからさ」

 

『了解いたしました。間もなく帰投準備に入ります。以上です』

 

翔鶴との交信を終え、ふう…と息を吐く。全員無事。そして駆逐艦『響』の保護。一人の轟沈者も出さずに戦闘を終えたことに安堵する。深海響を倒し『響』を保護したと言う翔鶴の報告はうまいこと大淀もごまかしてくれた。

一応佐世保や大湊にはまだ未知の深海棲艦としか認識されておらず、こちらで電達から聞いた「横須賀鎮守府に所属していた響」と言うことがわかっていたから、勝手に深海響と呼んでいるに過ぎない。

 

「響ちゃんが…帰ってくる…?それは深海棲艦なのでは…」

「わからん。翔鶴が言うには深海響は敵意はもうなく、響である、としか聞いていない。帰って来て実際に見て、それから詳細を聞いてみないことにはな」

 

「そう…ですか。でも響ちゃんが帰ってくると言うのは、私にとっても嬉しいことです。かつてのここでの仲間ですから…楽しみにしてもよろしいのでしょうか」

「ま、帰りを待とう。間宮。大淀、すまん。お茶を頼めるか?」

 

「司令、お言葉ですが翔鶴さんたちが帰投するまでまだまだ時間があります。私たちは問題ありませんが司令は人間です。しっかり眠らないと頭が働かず、効率は悪くなります。ですから、お休みください。帰投二時間前には食事の準備もあるでしょうから起こします」

 

霧島からの予想外の提案だった。確かに昨夜も電の大破などがあり、満足に眠れていない。今しがた気を抜いたところで眠気がドッと襲ってきたことは確かだ。しかし、自分だけ眠ると言うのはどうも気が引ける。

 

「俺なら心配ないよ。起きてても問題はな「ダメです。そう言って、みんなが戻ってきたときに眠くてフラフラの状態で出迎えるのですか?それこそよくないことと思いますが」

 

「ぐっ…」

「司令官さん。翔鶴さんたちとの連絡は私たちでも取れます。睡眠不足は脳にもお体にも悪いことです。お休みください。大淀さんと霧島さんもいますので、問題はありません」

 

「提督。私からも言わせてください。提督は無理をしすぎです。私たちのことを思って下さることは大変嬉しいです。ですが、提督が具合を悪くされますと、みんな心配になってしまいます。ですから、お休みください」

 

……横須賀のブレイン三人が揃いも揃って休めと言ってくる。ここまで言われてはこちらとしても引き下がらないとおそらく大変なことになるだろう。しかし、それでも翔鶴達が心配なのだ…。できれば帰ってからでも…。

 

「司令?私たちの話は聞いていましたか?やっぱり心配で俺が無線をと思っているんでしょうがいけませんよ。さあ、早く仮眠室へどうぞ!もう!しょうがない人なんですから!」

 

「き、霧島お前、それ…」

 

「何ですか?司令の意見は聞きませんよ。さあ、早くどーぞ」

 

霧島に肩を掴まれぐいぐいと仮眠室へ押しやられる。それはもう受け入れることにしたが、霧島が言った言葉。

 

 

――もう、しょうがない人ですね。

 

 

それは懐かしい口癖。よく霧島と言い合いをし、仲直りをしたり自分が無茶をしたときによく言われた言葉だ。またこうして叱られることになったか。そう思うと何だか笑えてしまった。もっとも、彼女自身は何もわからないだろうけど。

 

「何を笑ってるんですか!はい、仕事の邪魔です!おやすみなさい!」

「わかった。わかったよ霧島。ちゃんと寝る!」

 

「わかればよろしいです。では、司令。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ。ありがとうな、霧島。あとは頼む」

 

強引なのも何だか懐かしい。一度言い出したら一歩も引かない性格だったのだ。ここでやっぱ起きておくなどと言った日には大ゲンカだ。執務室で怒鳴り合いのケンカなんて日常茶飯事だった。その度に榛名が仲裁に入ってくれたな。

 

やっぱり何だか懐かしい気持ちだ。そうしてショートランドの霧島のことを思い出すが、それはそれ。今の彼女は自分が横須賀で建造した霧島なのだ。似ている部分は多くあるだろう。偶然なのか。それとも何かを受け継いでいるのか。それはわからない。何だかんだで面倒見がいい彼女の好意に甘えておくとしよう。ベッドに入るとストンと眠りに落ちた。

 

 

「霧島さん、助かりました。私では強く言えず…」

「いいえ。大淀さんももっと強く言ってもいいんじゃないかしら。私たちのことを気にしてくれるのは嬉しいけれど、体を壊したら元も子もないもの。押しに弱そうですし、ガツンといってやればいいのよ」

 

「は、はあ…霧島さんは何だか提督と古いお付き合いをされているように見えますね」

「私はまだ生まれて間もないですよ。確かに、初めて司令のお顔を見た時は、言いようのない懐かしいような気持ちになりましたけど」

 

「???」

「何でもありません。さ、お仕事お仕事」

 

そう言って霧島は書類に判をつき始める。本当に、不思議な感覚だった。先ほどの玲司とのやり取りも、まるで長年付き添ってきたかのような感じだった。言わずとも意思疎通ができているかのような。大淀はそう思った。

とにかく、前日も遅くまで話し合っていたし、ずっと神経を研ぎ澄ませて無線から離れなかったし、さぞや疲れているだろうと心配していただけに、眠りについてくれたのはありがたかった。まだ戻ってくるまでは数時間ある。ほっと胸をなでおろした。

 

……

 

夜が明け始める。もうそろそろ13人の仲間が帰ってくる。そう思って玲司を起こそうと仮眠室にゆっくり大淀が入ると、何かうなされているような声が聞こえた。

 

「う…うう…」

「提督?」

 

「うう…ごめ、ん…だれか…助けて…う、ゆき…の…ゆきの…かあ、さん…」

 

誰かの名前を呼んでいる。誰かはわからないがひどくうなされているようで。かあさん?お母さん?一体、何が…。いや、考えている場合じゃない。

 

「提督、提督!大丈夫ですか!?」

 

大淀が玲司を強く揺さぶり、耳元で提督と呼ぶ。その行為にガバッと勢いよく起き上がり、肩で息をしているかのようにはぁはぁと体を揺らす。

 

「はぁ…はぁ…」

「提督、大丈夫ですか?申し訳ありません。ひどくうなされていましたので…」

 

「お、大淀…か…?」

「はい。大淀です。提督、どこか具合…ひゃっ?!」

 

具合を聞いていると突然抱き寄せられた。あまりに突然のことでパニックになりそうになった。

 

「て、提督!?どうされたのですか!?」

 

玲司のことだから安久野のようにはしないだろうとは思っている。けれど、やはり過去を思い出してしまって少し怖い。大淀は気づいた。密着した玲司の体がガタガタと震えていることを。

 

「て、ていと…く?」

「ごめん…ごめん…怖がらせて…ごめん…。でも、少しでいい。少し…こうさせて…」

 

何かに酷く怯えているかのように、玲司が身を震わせている。言葉も弱弱しい。玲司の表情はわからない。けれど、どこか泣きそうな声。強くは抱きしめていない。おそらく、逃げられるようにしているのだろうと思った。大淀はいつもと違う弱った玲司から逃げようとは思っていない。

 

「私でよろしければ…構いません。怖い夢を見られたのですか?」

「………」

 

「さぞかし怖かったのですね…辛かったのですね…ですが、安心してください。大淀は。横須賀のみんなは。ずっと提督のお側に…」

 

その言葉に少しずつ震えが治まっていく。大淀を抱きしめる力が強まる。痛くも苦しくもない。

 

「うっ…ううう!ぐすっ!」

 

すすり泣く声がする。大淀は優しく玲司の頭を撫でる。数分の間、玲司は泣き、大淀はずっと頭を撫でていた。愛しそうに、優しく。

 

……

 

「すまん、大淀…怖かったろ、いきなり…」

「いいえ。提督を信じていましたから。もう大丈夫ですか?」

 

「ああ。ありがと。もうすぐみんなが帰って来るんだろ?だったらぐずぐずしてられない」

「そうですね。私もお供致します」

 

「サンキュ…昔の夢だ。まだ俺が10歳かそこらの頃の話さ。母さんと妹の夢だ。思い出したくもない…夢」

「そう…ですか。提督にとって辛い…ことなのですね」

 

「……艦娘が現れてすぐくらいの話だ。またいずれ、話をするよ。父さんも含めて三人とも死んじまった夢だ」

「………」

 

この人は一体何度辛い体験をしているのだろう。父さん、母さん、妹。それは人間にとってとても大切な『家族』と言うものだ。決して違えることのできない絆。繋がり。そして彼はショートランドの百人。これも彼は大切な「家族」と呼んだ。それも失い。普通ならば耐えられないだろうに。壊れてしまうだろうに。

 

それでも彼は。また私たちのことを「家族」と呼び。私たちに優しく笑いかけてくれる。温かいものをくれる。まっすぐだけど不器用で。優しくて。この人は家族の温もりを欲しているんだ。だからこそ、必死で「家族」と言うものを作り、守ろうとする。自分も、それを守れるように強くありたい。

 

神通のような戦闘のセンスはない。大和や扶桑のような火力も。翔鶴や瑞鶴のような航空能力も。摩耶のような対空能力も。北上のような強力な雷撃も。私は戦闘に関していえば弱いほうだとも思う。けれど、自分には鳥海でさえ舌を巻くほどの考える能力はある。ならば、それを最大限に活用し、玲司と共に皆を死なせない。守る作戦を考え、玲司に指揮してもらえばいい。

彼の側にいたいと言う気持ちは雪風や北上達に負けない。ならば私は。この頭脳で提督の心を安心させることができる作戦を考えよう。皆がちゃんと帰れるように。「原初の艦娘」の頭脳、高雄にも少しだけ認められたこの頭脳で、大淀は戦うことを決めた。

 

後に、「未来視」の高雄に並ぶ司令塔になる。まだまだ先の話ではあるが。

 

 

玲司の様子を気にしつつ、玲司の後について母港へと向かう。いつの間にか間宮も母港で待っていた。

 

「おはようございます、提督。あら…?目が赤いですが、大丈夫ですか?」

「おはよう間宮。何、ちょっと寝不足でさ」

 

「まあ、それは大変。提督、睡眠も仕事のうちですよ」

「あはは…霧島に怒られてちゃんと寝たから大丈夫だよ…」

 

「そうですか?なら良いのですが」

 

間宮も玲司があまり眠らないことを知っている。寝不足は敵であると言ってはいる。頭をぽりぽりかきながらごまかしていた。間宮も玲司に対しては結構強く言うこともある。もっとも、それは玲司が安久野のように怒鳴ったりしないからと信頼しているからである。

しばらく待っていると大和や扶桑の巨大な艤装が見え始めた。大淀は考え事をやめる。玲司が大きく手を振る。それに気づいたのか雪風が大きな声でおーいと呼んでいる。

 

「帰ってきましたね。提督、お米は研いでありますので、いつでも準備はできていますよ」

「ああ、ありがとう。さーて、今日は何の具にしようかな。あいつらの具材当てゲーム、全部不正解にしてやろ」

 

何かウキウキしながらおにぎりの具材を考えている。こういうところはとても子供っぽい。たぶん、摩耶や夕立達と遊んでいるのだろう。思わずクスリと笑ってしまう。だからこそ、駆逐艦のみんなに好かれるのだろうけど。

 

母港に戻るやいなや、雪風と夕立が飛びついてきた。

 

「提督さん!ただいま!夕立、帰投したっぽい!!!」

 

「しれえ!雪風、また生還しました!!しれえのおかげですね!」

「おかえり。夕立、雪風。よく頑張ったな」

 

二人を交互に見て、優しい顔をして頭を撫でる。二人とも目を瞑ってとても気持ちよさそうに撫でられていた。

 

 

「えへへ、ぽいっぽいっ!」

 

「えへー♪」

 

上機嫌で艤装を置いてドックへ行く準備をする雪風と夕立に代わって今度は北上がピースをしながらやってきた。翔鶴もそれに続く。 

 

「戻ったよー、玲司。今日も轟沈者なし。やったね」

 

「おう。みんな無事で何よりだった。翔鶴、瑞鶴、旗艦お疲れ様」

 

「はい、ありがとうございます、提督。電ちゃんも無事に」

 

「あ、うん…ありがとう…。………」

 

瑞鶴の様子がおかしい。いつもの元気な様子とは打って変わって、どこか沈んでいる。何かあったのだろうか?中破しているがそれに問題があるのかもしれない。今聞いてもきっと答えてはくれないだろう。それどころか激昂し、収拾がつかなくなりそうな気がしたので、今は軽く頭を撫でておく程度にしておく。

 

翔鶴に抱かれ、眠っている電。おそらく今回一番活躍したであろう子だ。ケガも多く、疲れたのだろう。眠っている。そっと電の頭を撫でる。その顔はとても優しく、慈しむような顔だった。大淀も翔鶴も、この玲司の顔が好きだ。

電はくすぐったいのかもぞもぞと動き、ふぁ…と言いながら目を開けた。

 

「んぁ…?しれいかん…さん?」

「電、おかえり。すごいぞ、よく頑張ったな」

 

「んっ…えへへ、しれいかんさんにほめられたのです…ひびき、ちゃん…?」

「私はここにいるよ、電」

 

低く、それでいて透き通った声が扶桑のほうから聞こえる。扶桑に連れられた薄い青い髪の少女。 

 

「よかった…夢じゃなかったのです…」

「私はここにいる。ずっと電の側にいる。心配しないでほしい。司令官、私が響だよ。元が何かは…わかっているだろう?」

 

扶桑から降り、玲司の前に立つ。その目は気だるそうに、信頼のない少し冷めた目で玲司を見つめている。まるで品定めをされているかのようだ。その姿は玲司の知っている駆逐艦 「響」だ。

 

「……ああ。知ってる。おかえり、響。お前も疲れただろ?電と一緒にドックに行ってきな」

「そう、か。ではそうさせてもらおう」

 

電は扶桑に抱かれたまま。響は電と共にドックへと向かって行った。摩耶も神通もそのあとを追う。

 

「阿武隈、瑞鶴をずっと守ってくれてありがとう。助かった。名取も北上とがんばったんだってな。疲れたろ。ゆっくり風呂に入ってきな」

 

「わあ、前髪が崩れちゃうー!えへへ、でもありがとうございます!」

「北上ちゃんの、みんなのお役に立てて嬉しいです。司令官さん、ありがとうございます」

 

名取と阿武隈も褒められては上機嫌で母港を後にした。

残るは大和。大和はぼんやりと玲司を見つめていた。が、一人になり。そして共に戦った仲間がいなくなったとなるや

 

「う、うう…でいどぐ…でいどぐ…」

「お、おい大和…どうしたんだ…?」

 

「ふそうさん…わらひ…こわくて、ふそうさん。ケガさせて…」

 

大和はもうボロボロと涙を流して声も上ずっているため要領を得ない。が、何となくではあるが玲司は理解した。きっと、扶桑に敵からの攻撃を庇ってもらったのだろう。扶桑が中破していたし、大和に傷は少ない。

 

「扶桑は怒ってなかったろ?たぶん扶桑のことだから、気にするなって言ったんじゃないか?」

「う、あうう…ごめんなさい…ふそうさん、けがさせちゃった…ごべんなさいいいい!!!うわああああああん!!」

 

「や、大和!?」

「や、大和さん!ああ、よしよし頑張りましたね!ここまで泣かなかったんですね」

 

泣き喚く大和を大淀と間宮が宥めている。出撃前のあの勇ましい表情はどこへやら。またしても子供のように大泣きする。初出撃とは言え、戦艦としての役目は果たせたのではないだろうか。扶桑に話を聞かないとわからないが、おそらくは泣きそうになりながらも勇敢に仲間を守ったのではないだろうか?

 

「大和。お前も風呂に入ってきな。その間にご飯作っておくからさ。ゆっくり温まって落ち着いて来な」

「グス…グス…はい…」

 

「がんばったな。大和。初陣、見事に頑張ったよ、大和。お疲れ様」

「は、はい…あっ…あっ」

 

頭を撫でてやるとまた大粒の涙が目からこぼれ出し、号泣三秒前。

 

「て・い・と・く!!大和さんをこれ以上泣かさないでください!女泣かせ!甲斐性なし!クソ提督!!」

「大淀、お前なー!」

 

間宮に連れられてドックへ向かう大和。大淀はまたしても頭をグリグリされることになった。いたいー!と大淀の悲鳴が母港に響き渡った。

 

 

厨房に行き、朝食と戻ってきた雪風達への食事の準備を開始。米は間宮が洗ってくれていたので火を起こし、米を炊いていく。やることは多い。間宮は帰投した艦娘以外の朝食を任せた。艦娘達のルールとして、出撃した艦娘は帰投したら玲司のおにぎりを食べる、と言う謎のルールを決めたらしく、おにぎりがないと嫌だと直談判を摩耶や最上、夕立がしてきたくらいだ。

帰ってきたときにすぐ食べてすぐ寝れる、そんなちょうどいいものがおにぎりらしい。できたおにぎりはどれがいいだのですぐ取り合いに発展する。普段おとなしい霰も。控えめな時雨や名取でさえ、夢中になって頬張るほどだ。なので、これだけは玲司の絶対の仕事になる。

 

「おはようございます!司令官!」

「おはよう…提督」

 

声の主は吹雪と時雨だ。

 

「おはよう、吹雪、時雨。今日は早起きだな」

「夕立や雪風…みんなが気になって、ね。まだお風呂かな?」

 

「そうだな。もうしばらくかかると思うよ。俺はあいつらが上がる前におにぎりをな」

「あら、吹雪ちゃん、時雨ちゃん。おはようございます。ごめんなさい。ご飯はもう少し待っててね」

 

「はい!あ、司令官。私もお手伝いします!」

「僕も手伝うよ。何をしよう?」

 

「お、そりゃ助かる。んじゃ、一緒に握ってもらおうかな。その前にたらこを焼こう。吹雪、手伝ってくれ」

「はい!吹雪にお任せください!」

 

「僕はお米の火の番をするよ」

 

こうして分担作業開始。時雨は間宮に以前教えてもらい、火の番ができるようになった。未だに夕立の顔真っ黒事件は語り草である。時雨は慎重派だけにそうはならないが。

 

「おっし、焼けたぞ。これをちょっとほぐして…あちゃちゃちゃ」

「あちっあちちち!んー、いいにおいですねぇ!」

 

「提督、お米炊けたよ。うん、いいにおい…。これ、昆布?」

「そう、ちょっと味を良くしようってな。おっし、おひつに移して…」

 

ご飯を釜からおひつに移し、よく混ぜる。ほっかほかの湯気が食堂を満たす。間宮の焼くアジの開きの匂いもまた、吹雪たちのお腹をすかせる。

 

「時雨、これちょっと混ぜてくれ」

「うん?何だい、これ?」

 

「ツナマヨ。シーチキンにマヨネーズであえたものさ。これがまたうまいんだな」

「へえ…。こんなのもあるんだね」

 

「摩耶や夕立がどうせおにぎりの具は鮭とか梅干しとかだろうって予想してくるだろうからさ、全然違う新メニューで対抗してやるんだ。二ヒヒ」

「ふふ、提督は子供みたいだね」

 

吹雪がたらこを冷まし、時雨がツナマヨを作る。塩やのりを玲司が準備する。

 

「おっし、握っていこう。お好みの量のご飯を手に乗っけるだろ。んで、俺はたらこをこうして真ん中にのっけて。んで、こう。こうすると三角形になる。熱いぞ、気をつけろよ」

 

「やってみます!えっと、こうあちっ!あつつつつつ!!」

「こう乗せて、あつ、熱い!」

 

「はははは!慣れればそうじゃなくなるかもしんないんだけどなぁ。んで、こうして海苔を巻いてできあがりっと!」

 

「あちっあちっ。あ、あれえ?丸くなっちゃった」

「うう、変な形…」

 

「ま、最初はそんなもんさ。ほら、気にせずどんどんやっていこう。早くしないと夕立達がうるさいぞ」

 

間宮が手早く朝食の準備をする中、せっせと負けずにおにぎりを握る吹雪と時雨。形はでこぼこ。大きさも玲司が並べた皿は整った同じ大きさの三角形のおにぎりが並ぶ中、大皿に乗せたおにぎりはでこぼこ。それでも、玲司に負けず、がんばったみんながおいしく食べてくれるといいな、と言う思いを込めて一生懸命握っていく。

手伝いもあってか思ったより早くできた。

 

「司令官、それは?」

「これは電と響の分だ。電は何も入ってないのが好きだからな。響と一緒にどうかなって」

 

「提督はみんなの好みがわかるんだね」

「まあなぁ。夕立は鮭が好きだ。雪風は意外にも梅干し。摩耶も梅干しだ。時雨はたらこが好きで、吹雪も鮭だな」

 

「わあ、正解です!えへへ」

「そ、そうかな…」

 

「気づけばたらこばーっかり食べてんだろ。お、そうだ。試作のツナマヨ、ちょっと味見してみてくれよ」

 

「いいんですか!やったぁ!」

「え、えへへ…実は気になってたんだ。じゃあ、いただきます…」

 

「手伝ってくれたからな。感想も聞かせてほしい」

 

大口を開けてぱくりといく吹雪と控えめにかじる時雨。それでも二人とも目を輝かせてさらに食べる。

 

「おいひいでふ!ひれいふぁん!」

「ん、おいしい…これ、いけるよ」

 

「そっかそっか。じゃあ気まぐれで入れるとするかな」

 

「あー!おい、吹雪に時雨、何勝手に食べてんだよ!ずるいぞ!あたし達もよこせよー!」

「時雨!ずるいっぽいー!」

「あたし的にもよくないと思います!」

 

突然の大声に喉に詰まりそうになる吹雪。慌ててお茶で流している。ズンズンと摩耶と夕立が詰め寄る。阿武隈もなぜか怒っていた。

 

「わりいわりい。手伝ってもらったからさ、ちょっとご褒美に」

「んだよ。へへっ、この大きいのもーらい」

 

「うーん、鮭がないっぽいー…」

「な、何でわかるんだい…」

 

そうしているとみんなドックから出てきたようだ。バケツを使ってすぐにみんな出てきたらしい。やってきたみんなはすぐにおにぎりの前に集まり、取り合いが始まる。あっと言う間に減っていくおにぎり。

 

「ん、んぐっ!んっんっ!」

「ゆ、夕立!?し、しっかり!慌てて食べすぎだよ、もう」

 

「おい、提督ぅ!あたしの予想を外すように新メニュー入れたろ!んっ、んめえ!!」

「はぐはぐっ、しれえ!このつなまよっていうのおいしいです!!」

 

「ううっ、おいひいです!私…無事に帰ってこれて、こんなおいしい…うう、うううう」

「や、大和さん?とりあえず泣かないで食べましょう?」

 

「おいしいわねぇ、瑞鶴。あら、瑞鶴?」

「ごめん、翔鶴姉。私、お腹いっぱい。疲れたから、先に寝てるね…」

 

いつもならもっとないの!?と文句を言うほどの瑞鶴が、あまりおにぎりには手をつけず、3つほど食べたところで部屋に戻っていった。瑞鶴の様子が気になる…。

 

「なんやぁ、瑞鶴。まあ、あの艦爆を実戦で使うんはめっちゃ疲れるからなぁ。まあ、それとは違うみたいやけど、何かあったんか?」

 

「いえ、それが…。母港に帰投する前からずっと何か、思いつめたような…」

「そうなんや。何やすごいきつい顔しとったなぁ。せやけど、あれは聞いても答えてくれんやろな。翔鶴、ちょっち気にかけて。何かあるで、あれ」

 

「はい、龍驤さん」

 

何かがあったのだろうと気にはなったが、その原因は翔鶴がわからないとなるともう瑞鶴にしかわからない。何かがあると見た龍驤。

 

(まーた何か一悶着ありそうやなぁ。姉妹揃って、羽ばたく障害が多いなぁ)

 

瑞鶴が食べなかったおにぎりを頬張りながら龍驤は瑞鶴のことを考える。考えたところで、答えは何一つわからないままだった。

 

 

瑞鶴は布団に潜り込み、頭までずっぽりと布団をかぶって静かに泣いていた。誰かに泣いている所を見られたくはない。これは大好きな姉、翔鶴にでさえ、だ。

 

(ほとんど何もできなかった…あんな簡単に飛行甲板をやられて…私は…私は守ってもらうしかできなかったっ!!!!)

 

戦闘時、最初に艦載機を飛ばして攻撃に成功したはいいものの、その後すぐにル級の砲撃で甲板をやられ、中破。そうして、何もできないままにただぼんやりと、雪風や阿武隈に守ってもらってばかりだった。結局、最後まで何の役にも立てずに帰投。

何が旗艦だ。空母が真っ先にやられて、ただの荷物になって…。雪風や阿武隈。果ては扶桑の足まで引っ張った。

 

(ちくしょう…ちくしょうちくしょうちくしょう!!!)

 

何もできなかった悔しさ。自己嫌悪。そればかりが瑞鶴を苛む。怒りの向けどころもなく、後悔を打ち明けることもできず。ただただ、瑞鶴は一人で誰にも見られないように泣いた。そうして、自分より練度も低いはずの翔鶴姉に後れを取るなんて…と言う最悪の考えまで思いつくに至った。




響の帰りを祝うと同時に瑞鶴の様子が…

飛べなくなった黒鶴ははたして何を迷うのか…

響と瑞鶴に焦点をあてたお話を次回は考えています。
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