提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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龍驤と明石が語る玲司との出会い、過去その2です
今回はそこまで重くないかと…


第四十三話

「さーてほな次はうちらのとこに来てからの話やなぁ。そらもう家族は亡くすわ、研究所のクソッタレ共にはめちゃくちゃにされるわ、ほんま不憫な子やわ…あー、クソ。思い出しただけで腹立ってきたで」

 

「うん、私も思い出してムカッとする」

 

その研究所と言うところで何をしていたのか。想像はできないが、彼女たちがここまで腹を立てるくらいなのだ。相当にひどい場所だったのだろう。

 

「まあその話はドギツすぎるからあかんわ…大淀らに話したら腰抜かすやろうしなぁ。まあ、この研究所はお父ちゃんと虎瀬のおっさんがきっちりシメたよ。研究所員もほんま腐ってたし」

 

「うん…それは置いておいて玲司君がうちに来たときはもうほんとにみんな啞然としたよ。目が死んでたし、何をするにしても私たちの顔色を伺って怯えてたし。誰かが座ってたのを立ち上がっただけで悲鳴上げて震えて怯えるんだよ」

 

人間の悪意を受け続けた玲司。それは…どこか自分たちと似ている、と翔鶴は思った。あの男がため息を吐くだけで何をされるか怯えた日々。立ち上がって部屋を出ていくのでさえ、突然振り向いて服を破られ、行為に及ばれるのではないかと怯えたあの頃。彼は、それを体験していたのか。本当に似ていた。目の前で大事な人を失う悲しみも。悪意に晒され続けると言う絶望も。それは自分たちも体験したことだ。

自分はそれを乗り越えて笑ったり、人の痛みを助けることができず塞ぎこんだ。彼はそれでも笑い、自分たちを助けてくれた。その差はあまりにも大きいと思った。

 

「そんなんやからなっかなか心を開いてくれんかったわぁ。うちらに笑ってくれるまで数ヶ月。ほんまに姉やん言うて気さくに話しかけてくれるようになるまで一年近く。笑ってくれた時はほんま嬉しかったなぁ」

 

「そうだね。いろいろあったよね…」

 

そう言って龍驤は目を閉じて昔を思い出しながら語りだした。

 

 

玲司がうちにお父ちゃんと帰ってきた時はうちらを見てまずめっちゃ怯えとったな。そら当たり前やけど。お父ちゃんはブチギレてるし。明石は泣きながら帰って来るし、何やねんと思ったわ。

 

「おかえりお父ちゃん。その子…」

「ただいま、龍驤。無事…とは言い難いがちゃんと連れ帰ったよ。今日からうちの家族になる玲司君…いや、玲司だ。仲良くしてあげてくれ」

 

「う、うん。おーっす!初めまし「わあああああああ!!!!!」

 

初対面でこれや。ちっと大きい声で言うたうちもあれやけど…。怯えて部屋の隅で頭抱えてなぁ…。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…痛くしないで…痛いの嫌だ…血を抜かないで…ごめんなさいごめんなさい…」

 

「あ、う…な…」

「大丈夫、玲司。大丈夫だよ…ああ、ちょっとびっくりしてしまったねぇ。ほら、怖くない。あの子は龍驤と言うんだ。玲司のお姉ちゃんだよ。大丈夫。何もしないよ」

 

「うううう…」

 

あはは…最悪の対応やろ。まあ悪意はないってわかってくれたんか、うち見て同じことはしてくれなくなったけど…最初に思うたんは…うちは同情やった。かわいそうにってな。こないな酷い目に遭うてかわいそうにって思った。そう思ってなかったんはお父ちゃんと陸奥姉やんやった。

陸奥姉やんの献身的な世話は、ほんまに「この子をどうにか笑って生活できるようにしてあげたい」の一心やった。かわいそうにって言うた時、めっちゃキレられたわ。

 

「かわいそうにって何?ふざけるのもいい加減にしなさい。そんな気持ちで玲司君に接するならやめてくれる?同情なんてしたってあの子には何の足しにもならないわ。そんな気持ちで接したところで玲司君は癒されないのよ。ふざけないで」

 

姉やんがほんまに献身的に世話しとった。怯えて拒絶されても、何度でも玲司に優しくして。時に気が動転した玲司に噛みつかれたり、引っ掛かれたりしても絶対に声を荒げたり、手を出そうとはせんかった。自分は玲司の味方やでって。一日に百回でも同じこと言うてたわ。そのおかげか、しばらくして姉やんには甘えるようになってたな。

 

「玲司くーん、ただいまー。いい子にしてたかしら?」

 

姉やんが帰ってきたら、ベッドの隅から動こうとはせんかったけど、姉やんがそばに寄ったらちょっと期待した目で見とった。そっと手を握ってた時は健気やったで。甘えることができんかった雪風みたいやった。そしたら姉やんが抱きしめてまうんやけど。

 

「なーに?もう、遠慮しなくていいのよ。ほら。あったかいでしょ?んー…今日もちゃんと、帰ってきたわよ。玲司君とお話がしたいから、ね?」

 

「……おかえ、り…むつ、お…ねえ、ちゃん」

 

「……ただいま。玲司君。私のこと、お姉ちゃんって呼んでくれるの?」

「うん……やさ、し、い…おねえ…ちゃん」

 

「そう…うふふ…ありがと」

 

陸奥姉やんのおかげで言葉も少ししゃべれるようになって、うちや高雄が話しかけても頷いたりはしてくれるようになった。その時はめっちゃ嬉しかったなぁ。お姉ちゃんって呼んでくれるようになるんはもっと先やったけど、それだけでも進歩やった。

 

それでも毎日のように悪夢見ては叫んでた。うちか、姉やんが必ずどっちかはおるようにしてな。そのたんびに落ち着かせとった。時には叫びすぎで血が出るくらい叫んでた。立て続けで心がぶっ壊れるくらいの出来事を体験しとるからな…。

 

「ああああああああああああ!!!!やあああああ!!!!」

「玲司!こわない!大丈夫や!お姉ちゃんがおるからな!よーしよしよし…怖かったなぁ。お姉ちゃんが来たからもう安心やでー。ほーれほれ。うちの式神があんたを守ったげる。もちろん、お姉ちゃんも守ったるでな!!!」

 

少しずつ、うちや姉やんには笑うようになってった。それがまた少しずつ動くんはもうちょい後の話。ある日、玲司の周りを一人の妖精さんがうろつきだして。玲司をちょんちょんつついたり、覗き込んだりしとったんよ。玲司は気になるんやけどちょっと見知らぬもんやから怖かったみたい。

 

「お、妖精さんやん。こんなところに珍しいなぁ」

「ようせい…さん?」

 

「そ。うちらと一緒に戦う味方や。ちっこいけど、ちゃーんと言葉もわかってくれるし、うちらのためにいろいろと役に立ってくれるすごい子らなんやで」

 

「だれがちっこいんだー。そっちだってちっこいくせに」

「な、何やて!?うちが小さいってどういうこっちゃ!」

 

「……いつもくるもうひとりにくらべて…ぺちゃ「それ以上言うたら艦載機に乗っけてキリモミ飛行の刑にすんで」

 

「きゃー、こわい!おにいさんたすけてー!」

「お、おねえ…ちゃん。やめて…あげて」

 

玲司は妖精さんが見えとるし、声も聞こえる子やったわけよ。お父ちゃんもびっくりしとった。まあこの頃は妖精が見える人間つっても重宝されんかったけど。それはええんやけど、この妖精さんが来てくれたことで玲司の心は大きく変わっていったな。

 

 

「それは…なぜでしょう?」

 

「ざっくり言うと、私たちは人間の姿恰好でしょう?だから、やっぱり抵抗感があったみたい。人の姿をしているからまた裏切られる。そう思ってたみたい」

 

「あっ…」

「妖精さんは小さい姿だし、打算のない性格な子達ばっかりだから。妖精さんは楽しいこと。自分たちに危害を加えず、優しくしてくれる人間とはあっと言う間に親しくなるからね。玲司君と一緒に妖精さん、来なかった?あの子たちはこの時からずっといる妖精さんだよ」

 

妖精さんは小さく、性格は言い方は悪いが単純だ。自分たちに優しくしてくれたり、遊んでくれる人間にはとても懐く。逆に命令ばかりしたり、ひどいことを艦娘や自分たちにする人間からは離れていく。玲司には今ではワラワラと妖精さんが集まり、鎮守府はリフォームでもしたかのように綺麗になった。

 

そういえば、いる。玲司の周りを飛び回り「れいじさん」と呼ぶ数人の妖精。料理の最中も調味料を運んだり、食器を運んだりして玲司をサポートしている妖精さんが。何も言わずとも玲司は妖精さんの。妖精さんは玲司の意思をくみ取り、阿吽の呼吸ができるパートナー。

 

「毎日玲司の下におっては踊ってたり、飛び回ってたり。仲良くしようって一点の曇りもない善意で玲司に好意を向けてたっていうんが大きいわ。一人増え、二人増え…いつの間にか今もおる三人の妖精さんは絶対玲司から離れんかったな」

 

「打算も何もない好意って、すごく安心するよね。本当に自分に向けて純粋な好意って言うのは嬉しいよ。玲司君は笑うようになってから私たちにそれを向けてくれた。本当に嬉しかったなぁ」

 

ふふふ…と明石が笑う。玲司から向けられる好意は純粋な好意である、と確かに翔鶴も思う。霰や雪風の頭を撫でて笑っている時も。文月や皐月を抱き上げている時も。心の底から笑っているように見えた。自分や瑞鶴に笑いかけてくれるときもそうだろう。それを築き上げたのは妖精さんや龍驤達。少し羨ましかった。

今は踏み入れられない玲司に近い場所。そこに自分も入りたかった。

 

「何しかこの妖精さんのおかげで割と早く状況は変わったな。ほら、心を閉ざした子が動物と触れ合うたら心を開いて笑うようになったってあるやろ?」

 

「アニマルセラピー…でしたっけ?」

「そうそれ。妖精さんがそんな役目を果たすって言うんがまた他の人と違うねんな。普通、そんな気やすく目の前で遊んだり、話しかけたりなんて人間にはせえへん。今でも玲司は妖精さんに懐かれるんやなぁくらいしかわからへんわ」

 

「それのおかげで玲司君は少しずつ心を開いていったよね。ご飯を食べる時でもチラチラ様子を伺わなくなったり。わがまま言ってお父さんのおかずをせびる赤城お姉ちゃんにおかずをわけてあげるようになったり」

 

「あーあれかー!あれはほんまになぁ。健気やよなぁ」

 

 

「うう…お父さん。足りません…」

「そうは言ってもなぁ…今日も多めに作ってもらったんだが…」

 

「足りないんです!私の胃がもっとと言っているんです!」

「赤城。ご飯を五杯、どんぶりで食べて。野球ボールみたいな唐揚げを散々食べておいてよく言えるわ。胸やけしそうよ。我慢しなさい」

 

「ええっ?そ、そんなぁ…」

「あ、赤城…お姉ちゃん。僕のを食べていいよ…よかったら…だけど。僕、こんなに食べられないし…」

 

「れ、玲司君!?い、いいの!?わぁい!いっただっきまーす!」

「もう、玲司君ったら…」

 

赤城の泣きそうな顔を見るんが嫌やったんやって。赤城も何だかんだで玲司が放っておけんで、あいつなりの好意を玲司に伝えてたからな。

 

「れ、玲司君…!こ、この…この…私のとっておきの…一日限定10食のとろふわたまごのプリン…あ、あげます!さ、さあ…受け取るのです!」

 

「赤城、手ぇブルブル震えとるで。あげるんか自分が食べたいんか…って汚いなぁ!赤城、よだれ!!!」

「あ、赤城お姉ちゃん…食べていいんだよ…?」

 

「だ、だめです!これは玲司君のために買ってきたんです!だ、だから…ううう、早くぅ!」

「…ありがとう…赤城お姉ちゃん」

 

「はううう!か、かわいい!」

「よだれ止めえや!」

 

結局半分こしとったな。それから赤城に自慢のオムライスを振る舞って神様のように扱われてたり。川内と絶対みつけられんかくれんぼしてたり。島風と絶対勝てんかけっこしたり…。まあ語ればキリはないけど、みんながみんな、玲司と一緒に遊んだもんや。

ふとしたときから、怯えた目はなくなって。ちゃーんと挨拶もしてくれるようになって。料理人を目指すんやめて、軍に入る言うてお父ちゃんとじっくり話し合って。陸奥姉やんとこれで大ゲンカしたり。いろいろあったんよ、ほんま。

 

せやけど、夢だけはどうしても見てまうんやな。ショートランドでもよう見とったみたいやわ。青葉が言うとった。顔面蒼白で執務室に来た思ったら椅子に座ってずっと震えとったって。子供の頃に根付いたトラウマって言うんは、大人になってもずっとずっと引きずるんやね。玲司の場合強烈すぎ…なんやろうけど。

 

 

「まあ、ちゅーわけや。玲司がまた悪夢見たり、何か思い出してたら助けてあげてな。玲司からまた喋ってくれるかもしれんけど。ほんまに頼むわ…」

 

「私からもお願い。みんなのおかげで玲司君、大本営でコックやってたときより充実した顔してるから。毎日楽しそうだから。お願いします」

 

龍驤と明石が翔鶴達に頭を下げる。頼まれなくとも、もちろんこの三人は玲司と共に毎日を歩みたいと強く思っている者達だ。特にその中でも、翔鶴の胸の奥で燻っていた感情に火が付いたと言うか。玲司への思いが止められなくなっているような感覚。左胸に手を当て、強く握りしめる。

 

(玲司さん…あなたの力になりたい。あなたが私を癒してくれるなら、私もあなたを癒したい。私では…ダメでしょうか?)

 

「さ、酔いもすっかり醒めてしもうたけど、もう寝よっかなー。うち、もうちょっち喋り疲れたわー」

 

「ふぁあ…お姉ちゃんに付き合わされて遅くなっちゃったよー。げげ、もうこんな時間じゃなーい!起床時間決まってないけど遅すぎるよ!」

 

気が付けば日付が変わった頃だ。結構な時間が経っていた。時計を見るや脳は眠気を促し、翔鶴も一つあくびをする。大淀は慣れているのか問題なさそうだが、間宮も辛そうだ。こうして解散となったわけだが、翔鶴は寮に戻る前に。大きな銀色に輝く月を眺め、玲司への思いを募らせる。

 

(どうしたのかしら…玲司さんのことを想うと…胸が痛い…?でも、玲司さんの笑顔を思い浮かべるとスッとする…私はどこか壊れてしまっているのかしら…?玲司さん…どうしてしまったの…私?)

 

考えれば考えるほど、玲司が頭から離れない。そして胸がチクチクとするような感覚。考えても、何を調べようにもわからず、もやもやした気分のまま自室へ戻り、横で布団に潜ったまま出てこずに眠っている瑞鶴を起こさないようにしながら眠れない夜を過ごした。

 

 

……前日に見た夢のせいで、眠って夢を見てしまうのではないか、と言う恐怖に駆られて微睡んでは起き…微睡んでは起きを繰り返してしまい、よく眠れなかった。自分にとってはいつまで経っても忘れられないであろう光景だった。それと同時に見る無数のチューブに繋がれ、恐ろしい笑みを浮かべた男たちが自分を取り囲む夢。全身から何かを吸い出されていく感覚が鮮明に蘇り、体を震わせる。

 

思い出したくもないが思い出してしまう…。血を全身から抜かれながら母や妹の助けの悲鳴を聞く光景。その恐ろしさはあの時からずっと一緒だ。とにかく気を紛らわせるためにみんなの朝食を作ろう。そう思って食堂へと向かった。

 

……

 

食堂ではすでに間宮がせっせと朝食の準備を始めていた。

 

「おはよう間宮。なんだ、今日は早いな」

「おはようございます。そういう提督も…です。提督?お疲れの様子ですが大丈夫ですか?」

 

「ん?おお、俺なら問題ないよ。大丈夫だよ」

「そう…ですか。お体が優れないのではありませんか?何かありましたら仰ってください。必ず、私が支えになりますので」

 

「ん、お、おお?そ、そうか。ありがと間宮…」

 

間宮の様子が妙であることに首を傾げながら朝食の準備に取り掛かった。途中、何度も何度も大丈夫か?と聞かれ、困惑する玲司。

 

(い、一体間宮はどうしたんだ…?また龍驤姉ちゃんや明石に何か聞いたんかな…)

 

とにかくよくわからない間宮の大丈夫か攻撃に首を傾げつつ朝食を作っていく。今日はパニックにもならず、寝坊もせずに優雅な足取りで大淀がやってきた。いつもより起床時間も早い。

 

「お?大淀じゃないか。今日は珍しいな」

「おはようございます、提督。はい、今日も一日提督の支えになる右腕を目指し、精進をして参ろうかと」

 

「お、おお…そりゃあ参謀としては助かるな…」

「はい。ですので、この大淀をもっと頼っていただければと思います。必ずや提督の支えとなります」

 

「お、おう?」

 

間宮に続いて大淀の様子もおかしい。元々どこかズレている大淀ではあるが、今回は何の脈絡もないし、どこからどうそんな言葉が出てくるのか?間宮と言い、一体どうしたんだろう?その間宮は大淀の言葉に笑みを浮かべながら大きく頷いていた。

……大淀のぽんこつが間宮にうつったのか…?本当にどこかおかしい間宮と大淀。いや、こういうのは二人に失礼か…。

 

二人はMVPでも取ったかのようにキラキラ…いやギラギラしているように見えた…。あまり関わらないでおこう…。そう思いながら朝食を作り始めた。

 

「提督!私に何かお手伝いはできませんか!」

「いや、妖精さんが手伝ってくれてるから特には…」

 

ガックリ肩を落として席に着く大淀。そして捨てられた子犬のような目で玲司を見つめていた。

 

(いや、そんな目をされても…)

 

(間宮さんだけずるい…間宮さんだけずるい…ずるいですよ!)

(ごめんなさいね、大淀さん。ここは私の特等席なの)

 

かと思えば間宮と見つめ合い、何かバチバチと火花を散らしているような雰囲気。何なのだ、本当に…。肩身の狭い玲司であった。

 

 

妙な雰囲気のまま朝食は終わった。終始龍驤がニヤニヤと見てきたことが気になった。間違いない。絶対に犯人は彼女以外にない。問い詰めようと思ったが駆逐艦と軽巡の演習に付き合うと言って逃げられてしまった。見かねた明石が話をしてくれた。

 

悪夢のことを知りたがった大淀のこと。そういえばあまりの恐怖に抱きついてしまった。申し訳ないことをした。

そうして玲司の過去を話してしまったこと。そこに間宮と翔鶴もいた事。決してふざけてではなく、玲司が悪夢を見てしまった時に支えになればと思って話したこと。

 

「というわけなの。許可もなしにごめんなさい…」

 

「いや…まあいずれは話そうかと思ってたんだけど踏ん切りがつかなくてな…俺の事を思ってくれて話したんなら怒りはしないさ。ありがとな」

 

「えへへ…よかった」

 

ホッと胸を撫で下ろす明石。頭を久々に撫でてもらってご機嫌だった。大淀と間宮はしばらく暴走しそうではあるが、まあ…仕方あるまい。

 

いつも陸奥や龍驤、時には高雄。ショートランドでも金剛や比叡、榛名、霧島に助けられた。十数年経っているのに未だに忘れられない。いや、忘れられるはずもない。

 

(お母さん、雪乃!早く!早くこっちにこなきゃ…)

 

そう言い終わった時、玲司の世界は白一面になった。何も見えない。何も聞こえない。それなのに腹だけは何か焼けたものでも押し当てられているのか異様に熱く。

母とかわいい妹の名を呼ぼうとすると激しく咳き込んだ。口から何かが溢れてくる。ようやく視界が開けるとそこには絶望しかなかった。名を呼ぶことを遮るもの。それは自分の血で。腹から鉄筋が生えていて。

身動きが取れず、寒くなっていく体。ああ、死ぬのか…死にたくない…と冷静になっていた時に現れた者。うっすらとしか思い出せない。ボヤけた視界で見つめ、血を吐きながら掠れた声で放った言葉。

 

「たす…け、て」

 

玲司は必死に死から逃れようとしていた。手を伸ばし、必死に助けを乞う。握られた手。そこから伝わる感触はひどく冷たく。耳にはどこか冷たくも透き通った声が鼓膜を震わせる。

 

「……イイワ。助ケテアゲル。ケレドアナタハ普通ノ人ニハ戻レナイ。ソレデモ。ソレデモ生キタイ?」

 

薄れゆく意識の中で玲司は懸命に首を縦に振った。生きられるのなら…。

 

「ソウ…ナラ、生キナサイ。コレモ何カノ運命…ナノカシラネ。生キテ、マタ会エタナラ私トオ話シマショウ?待ッテイルワ…」

 

何かが体に降りかかった感覚と同時に猛烈な熱さが襲う。中から焼かれているような。息もできず、のたうち回る。

 

「姫様。ソレ以上ハ危険デス!オ体ニ障リマス!」

「グッウウ…心配ハイラナイワ…コノ子ヲ助ケタイノ…!」

 

ひとつ大きな痙攣を起こすと玲司は気を失った。最後に聞こえた言葉は。

 

「約束ヨ…待ッテイルワ…ズット」

 

次に目が覚めた時は白い天井だった。そこから先のことは思い出したくもない。

 

……

 

待っている。そう言ったのは誰だったのか。今となってはもう朧気でわからない。探そうにも情報が何一つなく、手詰まりだった。せめて一言。一言ありがとうと言いたいのに…。

 

必死に助けてくれた人の事を思い出そうとしている時

 

「玲司さん」と声をかけられた。声の主は翔鶴。心配そうな表情で玲司を見つめていた。

 

「翔鶴か。どうしたんだ?瑞鶴はどうし」

 

玲司が言い終わる前に、翔鶴が玲司に近寄り、胸に顔を埋めるように抱きついてきた。

 

「翔…鶴?」

 

暫しの間、無言。そして

 

「あなたは私の心の羽を休ませることができる場所…玲司さん…私はあなたの羽を休める場所になれませんか?」

 

優しく透き通った。温かな言葉が玲司の胸に響いた。




玲司の過去が明らかになりました。はたして陸奥達が来る前に彼を助けてくれたのは何者なのでしょう?
そして翔鶴と玲司は?

続く!!
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