提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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魚屋の源

商店街の三馬鹿の一人。漁師兼魚屋としてこの道三十年。あらゆる魚介に精通するスペシャリスト(自称)
三馬鹿の中で、彼だけは唯一妻帯者ではなく、独身。海に出る男は海でいつ死ぬかわからない。自分が死んで妻だけ残して逝くなんざできるかと独身を貫いている。茂や徳三とは幼馴染。あの手この手で松子に迫られている。松子の家庭的な一面に惹かれつつあり、竹美や梅に早くくっつけとせかされている。

自称魚介のスペシャリストと言われているが、瞬時に新鮮、かつ質のいいものを見つけることに長けており、源が来ると安物しか残らない時もあるくらいの目利き。その鮮度と品質の良さとそれでいて安いと言うことから、人気が高い。

お気に入りの艦娘は瑞鶴。


第四十八話

瑞鶴と共に執務室に到着した玲司。執務室には真剣な目をした艦娘達が全員集まっていた。狭苦しいが、皆が皆、魚屋の源を助けに行きたいと言う気持ちがビリビリと伝わってくる。

 

「悪い、待たせた。早速だけど源さんを救出、及びはぐれ深海棲艦の討伐部隊の編成をする。まずは戦闘部隊は旗艦翔鶴。続いて鳥海。五十鈴、神通、皐月、文月。はぐれとあらば潜水艦もうろついている可能性が高い。五十鈴と皐月、文月は対潜装備を持て。鳥海、神通は水上の深海棲艦をぶっ潰せ。救助隊に敵を近づけさせるな」

 

了解!と敬礼をする。すぐさま戦闘準備の為に母港へと向かう。

 

「次は源さん救助部隊。最上は瑞雲を使った捜索。名取は万が一の戦闘。村雨、時雨、雪風は源さんの船を発見次第救助、そのまま引っ張って戦闘海域からの離脱。時雨は対潜装備で。そして…旗艦は…瑞鶴」

 

その言葉に瑞鶴が覚悟を決めたかのような目で玲司を見つめ、頷いた。先日の時のように、迷いや悩みを持った上の空でもない。しっかりと玲司を見て、自分に任せろ、と言うような目だった。

 

「……大丈夫なのかよ、瑞鶴?」

「摩耶。この間は…ごめん。もう私は迷わない。源さんも見つけて、みんなで必ず帰って来るから。だから、待ってて」

 

瑞鶴の目を見た摩耶は明らかに今までと違うことが分かった。今までのように、どこか奥で冷めていて、自分達を下に見ていたような目とは違う。何かを守りたいと言う強い眼差しだった。

 

「よし、瑞鶴。敵はそう強くないとは言え、油断は禁物だぞ」

「わかってる。源さんも連れて、必ず帰るから。みんなで待ってて」

 

「ああ。行ってこい、瑞鶴!お前の本当の力を見せてやれ!」

 

バン!と背中を叩き、送り出す。それを見た名取や時雨もどこか安心した顔つきで出て行った。摩耶達も見送りに母港へと向かう。残った玲司、大淀、龍驤。そして霧島。

 

「誰に何を言われたか知らんけど、いっちょ前にええ顔つきになってたやん。見せてもらおうやないかい。この鎮守府のもう一羽の鶴が飛び立つとこを」

 

「頼むぜ、瑞鶴。見せてやれ、お前の力を。お前は十分強いんだ。後は、お前次第なんだ。大空を飛べるか。それとも、地べたを這いつくばったまま終わるか…お前は飛べる。その姿を見せてくれ…!」

 

……

 

「瑞鶴…」

 

翔鶴が心配そうな表情で瑞鶴に声をかけた。瑞鶴は翔鶴を見るなり深々と頭を下げた。

 

「ず、瑞鶴…!?」

 

「翔鶴姉…ごめん。あんな、あんなひどいこと。打たれて当然だよ。あれくらいじゃ足りないくらい。私が馬鹿だった。翔鶴姉に嫉妬して、やけくそになって。戻ったら、またぶん殴ってもいい。好きなだけ言っていい。でも。今は待って。源さんを助けなきゃ。そして、みんなで帰らなきゃいけないから」

 

瑞鶴の目は驚くほどキラキラと光っていた。それでいて、迷いが一つもない曇りのない目だった。何があったのかはわからない。けれど、瑞鶴はきっとあの男の呪縛から解き放たれたのだろう…と思った。翔鶴は笑みを浮かべて抱きしめた。

 

「…そうね。みんなで戦って。そして、みんなで帰りましょう。そのために、私達も頑張らなきゃね!」

 

「うん。翔鶴姉、やるよ!私たちが空からみんなを守ろう!私もやるよ!」

 

そうして、瑞鶴は弓の弦を張り直し、左手でしっかりと握りしめた。仲間を見て瑞鶴は思う。

 

――共に戦う仲間。この手にはその仲間と大切な人を守るための武器。胸には提督さんとマスターからもらった勇気。心細い?……少しね。けど、もう迷わない。私は私のやり方を見つける。仲間…家族を守る。何があっても…絶対に守り抜く!!

 

深呼吸。そして、カッと目を開いて、瑞鶴は海に立つ。それに翔鶴や最上達が続く。瑞鶴を迸る闘気が包み込む。それに中てられた仲間たちも闘気を漲らせ、嵐のように母港を渦巻いていた。行こう。そして必ずまたここへ、皆と。今、皆の心がようやく一つになったような感覚。

 

「瑞鶴、救助部隊。出撃します!私に続いて!!」

「翔鶴、戦闘部隊、出撃!警戒を厳として、いきますよ!」

 

気持ちは逸る。早く早くと焦る気持ちを押さえつけ、出撃。皆気持ちは同じだ。冷静に…冷静に。心は炎のように熱く。けれど、頭は氷のように冷静に。師匠である龍驤から散々言われていたこと。それすらもできていなかった。

基本に立ち返る。不思議なくらい落ち着いている。けれど、胸に灯った炎は消えない。

 

(おう!瑞鶴ちゃん!鯛持ってけ!振袖がすげえかわいいから特別!)

(また来てくれよ!俺瑞鶴ちゃんのファンになっちまった!また来てくれよな!)

 

……待ってて。すぐ行くから!無事でいてね!

 

 

「さーて、かわいい弟子の飛び立つところを期待しとこうっと」

「瑞鶴さん、目に見えて雰囲気が変わっていました。どこか近寄りがたい雰囲気があったのですが、先ほどの瑞鶴さんは違っていました」

 

出撃後の執務室。龍驤がソファーに寝転がり、大淀は随時無線を気にしながら瑞鶴の変わり様に驚いていた。一言で言えば別人。瑞鶴の口からあそこまで仲間を守ると言う言葉は聞いたことがない。勝利にこだわり、負ければ誰よりも不機嫌になった瑞鶴。勝利と言う言葉は使わず、みんな帰ってくる。その言葉は力強く、迷いがない。

 

「ようやくこれで、横須賀のみんなはスタートラインってとこかな。失敗を経て、一皮むける。なまじ戦闘についてはセンスがあったから、失敗らしい失敗はしてこなかったんだろうな」

 

玲司が瑞鶴について語る。確かに瑞鶴の戦闘に関しての能力は驚くほど高く、長門や特に加賀が危険視していたほどだったと大淀から聞いている。

 

(瑞鶴の戦いぶりは確かに強い。だが、あれでは必ずいずれ大きな失敗をするだろう。我が強く、プライドが相当に高い。それでいて能力が高いから、挫折と言うものを知ることがないのだろう。いずれ、それが露呈すれば、あとは折れるだけだ)

 

(才能はあるのだけれど…あの子は誰かが気づかせてあげないといけない。でなければ、取り返しのつかないことになるわ…)

 

プライドが高い故の独りよがり。強いからこその驕り。そうしてふんぞり返っていたことで、玲司や龍驤がやってきて、メキメキと成長が目覚ましい皆に比べてスタートラインにすら立とうとせず、見下してしまった。結果として、他の仲間の成長ぶりに気が付かず、置いていかれてしまった。

 

過ちに気づいたことでようやくスタートをし、必死にこれから追いつこうとしているのだ。まずは意識から。

 

「間違ってもええ。失敗してもええ。問題はその間違いや失敗に気づくか。そんでもってそれを失敗と認めて次に生かせるか。ここなんよ。ここの子らはみんな素直でええ。間違いを指摘したらすぐに考えたり、練習が終わったあとに十でも二十でもどうしたらええかって聞いてくる」

 

龍驤が体を起こし、嬉しそうに語る。扶桑も、摩耶も吹雪も。大真面目に龍驤と議論する。どんな些細なことでも自分が納得するまで。龍驤も相手が納得するまでとことん付き合う。そうすることで、他の所では考えられないくらい成長が早い。

 

「そんな中でおもっくそ伸び悩んでたんが瑞鶴やな。翔鶴に追いつかれてプレッシャーもあったやろうけど、自分の才能を鼻にかけて失敗してもそのまま強引に押し切った。練習でそれを反省せんやつが実戦で失敗したらどうなるかなんかわかるやろ?大淀も」

 

「はい…小さなまあいいか、を放っておくと大きなことまでまあいいかになり…最後には取り返しのつかないことになります。これは安久野提督の仕事がそうでした。もう取り返しのつかない事態に…」

 

「せやろ。時間はかかったけど、瑞鶴が間違いに気づいてくれてよかった。まあええか、が大事になってしもたけど、もう大丈夫やろ」

 

雲一つない空を窓から見つめる。龍驤は龍驤で心配のタネだった瑞鶴のことが気になって仕方なかった。

 

「帰ってきたらどないやったかわかるよ。見んでもわかるけどな、うちは。瑞鶴は、空を高く飛ぶよ」

 

 

その言葉に玲司もうなずいた。大淀も、霧島も。玲司と龍驤がそう言うなら間違いないだろうと信じていた。

 

 

「目標地点に到達したわ!翔鶴姉、そっちをお願い!最上!お願いね!名取さんは時雨ちゃん達と待機!見つけたらすぐに救助へ!ああ、でも時雨ちゃんの潜水艦の探査次第!時雨ちゃん、ソナー用意!」

「ああ!まっかせてよ!瑞雲、頼んだよ!」

「わかりました!村雨ちゃん、雪風ちゃん、みんな複縦陣で周囲を警戒してくださーい!」

 

力強く指示をする瑞鶴。今までとは違う、独りよがりの指示ではない。それに呼応し、てきぱきと陣形を組み、体勢を整えていく。何の迷いもなく、呼吸をするかのように矢を放ち、艦戦「紫電改二」を発艦。明石改ではあるが、負担を抑えめにしたものだ。上位の艦戦に劣らず、高い索敵能力、制空力を持つ。天高く飛ぶ紫電。それは翔鶴の紫電改二よりも高く飛ぶ。一糸乱れず飛ぶ様は海を渡る鳥のよう。

瑞鶴は空からの捜索と、水上から自分の目でもしっかりと漁船を探す。時雨が水面を見つめて潜水艦に警戒。仲間の様子を見つつ、空と水上から探すことはとても疲れる。けれどそんなことは言っていられない。瑞鶴は最上と連携を取りつつ、船を探す。

 

 

「翔鶴さん、どう?こっちに漁船は」

「いません、ね。敵影もありません」

 

五十鈴はどこを見ているのかわからない。じっと水面を見つめている。

 

「いるわ。五十鈴達をコソコソと狙ってるのがね。五十鈴の目は絶対に潜水艦を逃がさない。文月、皐月、こっちよ!逃がさない!」

 

「五十鈴さん、見えているのですか?」

「ふふっ、五十鈴には丸見えよ!何でかしらね。よくわからないけど、見えるのよ。これなら、アイツの時に何もできないで鬼怒をやられた時のようにはいかないわね!」

 

「五十鈴…あなた…」

「愛宕もそうだったわね、鳥海。もうあんな情けなく黙って仲間を死なせるのは終わりよ。この眼があれば、もう五十鈴がいる限り潜水艦から守って見せるわよ!」

 

そう言って手に持った爆雷を海にばらまいた。文月と皐月もバラバラと周りに爆雷を落としていく。足元からドンドンドンと足の底を叩くような衝撃が伝わる。アアアアアと言う悲鳴が水中から聞こえる。

ふと気がついた時に、五十鈴の眼には水面の潜水艦を捉えることができるようになっていた。潜水艦によって仲間を失うところを見てきた五十鈴にとっては願ってもない力だった。潜水艦にいいようにやられるだけの戦いは終わりだ。今度はこっちから攻める番だ!!

 

五十鈴、文月、皐月の容赦ない爆雷の攻撃に潜水艦ヨ級はなす術なく泡沫と消えていく。

 

「五十鈴さぁん。こっちから何か反応があるよぉ~」

「でかした文月!行くわよ!」

 

五十鈴は決して慢心はしない。駆逐艦達の安全を最優先に、潜水艦を屠っていく。

 

「水上艦隊…気配はありませんね。あとは、瑞鶴さん達の朗報を待ちましょう」

「そう、ですね。警戒は怠らず。待機しましょう」

 

鳥海と神通は周囲に気を配りつつ、翔鶴を囲むように待機。五十鈴達も殲滅を終え、しばしの待ち。

 

(瑞鶴。後はお願いね…)

 

先ほどの様子なら心配はいらないだろうとは思っているが、まだ不安はある。瑞鶴の無事を祈りながら、瑞鶴の下へと進んだ。

 

 

「瑞鶴、やばいよ!源さんの船を見つけたけど、まっすぐ敵も向かってるよ!このままじゃ鉢合う!」

 

「くっ…!」

 

まずいことになった。このままでは深海棲艦に見つかり、やられてしまう。どうする…?

 

「瑞鶴さん!雪風達が大急ぎで向かいます!援護をお願いします!」

 

雪風、時雨、村雨がすぐにでも駆け出せる状態で待っている。しかし、下手に動かせばもしかすると危険なことになるかもしれない。

 

……いや、仲間を信じよう。自分は自分ができることをやろう。駆逐艦のみんなのほうが足は速い。そうして源さんを避難させ、あとはこちらで動けば…。

 

「……わかったわ。けど、絶対無理はしないで。源さんの船を戦わずに遠くへ避難させて。私が…皆が撤退するまで艦載機で足止めする。いい?絶対に戦わずに逃げること。時雨ちゃんは逃げると同時に潜水艦に注意して。名取さん、時雨ちゃん達をお願い」

 

「はいっ、私も後ろから援護するからね」

「僕は瑞鶴の下にいるよ。すーぐ無茶するからね」

 

「言ってくれるじゃない!しっかり頼んだわよ、最上!みんな、やろう!源さんも守って、みんなで帰るよ!」

 

おー!とノリの良い村雨、雪風、最上。恥ずかしそうな名取と時雨。それぞれが一気に行動を開始。全速力をもって漁船へ近づく駆逐艦。後を追いかける名取。そして、砲を構えて待つ最上。

 

「ふふっ、瑞鶴がどっか行っちゃったーって翔鶴さんが大変だったんだけど、もう大丈夫かな」

「……心配かけたわ…。帰ったら説教でも何でも聞くわ。今は、それどころじゃない」

 

「めんどくさいからする気はないよ。ボクはそんなキャラじゃないし」

「あっそ。それは助かるわ」

 

「今日の晩ご飯、唐揚げだって。お詫びに一個もらうからね」

「はあ!?何それ!」

 

「説教はしないけど、心配かけさせたお詫びはほしいなぁ」

「くっ…貴重な私の大好物が…!」

 

「無事にみんな帰れたら考えてあげるよ」

「…わかったわよ。見てなさい!瑞鶴攻撃隊!発艦!!」

 

緊張感があるのか、ないのか。最上は飄々とした性格だけにつかみどころがわかりにくい。だが、心配はしてくれたようだ。そのことは嬉しかった。最上に言われるまでもない。全員で帰る!

 

空高く撃ちあげた矢は艦爆「彗星」となって飛ぶ。その高度はやはり高く、速度は通常のものよりも遥かに速い。数も多く、瑞鶴に負担がかかる。

 

(……こんなことで、私を仲間と言ってくれる皆を放りだすわけにはいかないでしょ!!!)

 

彗星はグンッと速度を上げる。瑞鶴の意思が彗星に伝わった。不思議と今までのような頭痛と吐き気はない。頭はスッキリしていて視界はクリアだ。先日まで何をやってもフラフラとして頼りなかった彗星は、一目散に敵にめがけて飛んでいく。

 

漁船を見つけて砲撃を開始しようとしている軽巡ホ級が空を見上げる。空高くを飛ぶ何か。それは猛スピードでこちらにめがけて急降下をしていないか…?やがて空を切り裂いて聞こえてくるプロペラの音。気づいた時にはもう遅い。

 

(敵を捉えた!急降下!やらせはしないよ!!)

 

「いけえええええええ!!!!!」

 

そう瑞鶴が叫んだ瞬間、瑞鶴の右目が蒼く輝いた。それに呼応し、彗星達もさらに加速。驚異の集中力で敵めがけて急降下する様は、獲物を見つけた大型の猛禽類のように見えた。

 

「ず、瑞鶴…その眼…!?」

 

瑞鶴は聞こえていない。蒼くゆらめく炎のような眼。摩耶が言っていた電のような眼だ。不気味さは一切ない。不思議な魅力に捉われる。ポカンと眺めていると彗星の後を追うように、どこからともなく水面を飛ぶ艦載機。翔鶴だ。天高く飛ぶ艦載機。水面を飛ぶ艦載機。そのどちらもが一糸乱れぬ陣形で飛ぶ。その時の美しさは、最上を虜にするほどだった。

 

やがて轟音と共に水柱が何本も見えた。同時にこちらにも砲撃が繰り出される。最上が応戦する。

 

「瑞鶴、気を付けて!ねえ、聞いて…」

 

少し前の瑞鶴は、至近距離で水柱が立ち、自分を掠めただけで混乱し、立ち尽くしていたのに。今はどうだ。何も気にせずに矢をつがえ、射撃の体勢に入っている。蒼く輝く右目が、遠くから砲撃を繰り出しているであろう方角を見る。

 

「紫電のおかげでどこから撃ってるか丸わかりよ。今の私は、空から。そしてこの双眼から、すべてを見通す!!どこから撃とうとも!隠れても、無駄よ!!!肉薄する!くたばれ!!!」

 

やがて彗星も蒼く輝きだした。敵艦目掛けて急降下し、蒼い光が帯となり、さながら本物の彗星のように見えた。

 

「す、すご…すごいよ、瑞鶴…!」

 

蒼天を駆ける彗星。そしてそれは一斉に爆弾を投下。強烈な爆弾が雨のように降り注ぐ。もちろん、逃げることも叶わなかった敵艦隊は壊滅的な打撃を受ける。敵の砲撃は止み、やがて艤装の無線から時雨の声が聞こえてきた。

 

『こちら時雨。源さんは無事だよ。瑞鶴さんの爆撃で遠くの敵も壊滅みたい。僕たちはこのまま合流ポイントまで要救助船を曳航して待つよ』

 

『こちら本部。了解。最後まで気を抜かないようにな』

 

「ふう、瑞鶴。瑞鶴のおかげでみんな無事だって。さすがだね、瑞鶴」

「……うん。ありがとう」

 

「ってか、キミ誰!?瑞鶴じゃないな!?」

「は、はあああ!?何言ってんの!?爆撃されたいの!?」

 

「あ、あれ?そ、それは瑞鶴の口癖…!な、なんだ、やっぱり瑞鶴…ぐえっ!ぎ、ギブギブ!リボンがほどけてたから誰かわかんないよ…そ、それにキミがそんな素直にありがとうなんて…ぐええええ!!!」

 

「あーそう。そうなんだぁ。じゃあ素直に最上を〆墜としてあげましょうかねぇ!」

「ギ、ギブ…し、沈んじゃう…ぐふっ」

 

「ず、瑞鶴!?何してるの!?まだ安全と決まったわけじゃないのにふざけないの!!!」

「げっ、翔鶴姉!?」

 

酷く怒られてしまった。元はと言えば最上が悪いのに…と理不尽な姉にややご立腹な瑞鶴だったが、それがかえって翔鶴を怒らせてしまったようで、後が怖い瑞鶴であった。

 

 

「す、すまねえ!みんなに迷惑をかけちまった!!!」

 

「いいよ、源さん。源さんが無事で何よりだったよ。はぁ…ほんとよかった…」

 

合流地点にたどり着いた瑞鶴は源の安否が気になって仕方なかったが、見ての通り無事でケガ一つなく元気そうだったので安心した。

漁業組合の面子で集団で漁をしていたのだが、はぐれ艦隊と遭遇。組合員を逃がすために、自分がわざと囮になって何とか逃げ回っていたそうで。結局、エンジン全開で逃げ回っていたため、何とか振り切ったがエンジンが焼き付き、修理の甲斐もむなしく、漂流するしかなかったのだと言う。

 

「な、なんて言うか…運がよかったんだねぇ…」

「おうよ…船は駄目になっちまったけどよ、生きてるだけ儲けもんだよ。この雪風ちゃんが作ってくれたって言うお守りのおかげかねぇ」

 

何やら不格好なお札のようなもの。これは海が好きで、海に仕事で出るからと聞いた雪風が源に作ったお守りだった。源がいつでも無事に帰って来れるよう、幸運の女神のお守りだ、と言う。これが功を奏したのか、源自身は何ともなかった。

 

「無線が繋がってよかったよ…もしかしたらほんとにやられちまってたかもなぁ。ああ、やべえ…松子に怒られちまう…」

 

「ま、まあ何とかなるわよ…きっと。それにしても雪風ちゃんのお守り。それに幸運艦時雨ちゃんに雪風ちゃん本人。そりゃあ幸運も発揮するわよねぇ…」

 

「瑞鶴もね。瑞鶴も幸運艦でしょうに」

 

瑞鶴、時雨、雪風。幸運艦が三人もいれば、それは偶然ではなく必然になりそうなくらいの幸運をもたらすのではないだろうか。

 

「ま、まあ、私もそうだけど…私は…別に…」

 

「瑞鶴ちゃんが真っ先に助けに行くって言ってくれたみてえじゃねえか。ありがとう。あんたらのおかげで俺はまだ生きていられる。海には出れなくなっちまうけど、また店であんたらに会えるだけで嬉しい。だから、ありがとう。瑞鶴ちゃん。皆」

 

その言葉に瑞鶴の心は晴れていく。助けて当然。言い方は同じでも、以前の瑞鶴と今の瑞鶴とでは捉え方が違う。瑞鶴はその言葉に胸が熱くなった。そうして…

 

「お、おいい!?何で泣くんだよ!!俺、何か酷いこと言ったか!?」

「……泣かせてあげてください。妹、きっと今、源さんのお言葉に救われたのでしょう」

 

人は変わる。艦娘も変わる。心があるなら艦娘とて同じ。泣くじゃくる瑞鶴は、名取や最上に宥められながら。少しだけ、仲間や大切なものを守り抜けたと言うことが、こんなにも嬉しいことなんだ、とわかった気がした。その心からは、安久野に捉われたものは消えた。変わる変わる。変われば変わるほど彼女は強くなる。少しずつ。大切なもので心を埋めていくのだ。そうして、彼女も。横須賀の艦娘は強くなっていく。

 

安久野の束縛は、今完全に消えた。

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