村雨と雪風に曳航され、安全圏まで何とか戻ってこれた源。遠くで砲撃の音を聞いたことはあったりもしたが、艦娘と言う者が海に浮かび、戦う所は見たことがなかった。商店街できゃーきゃーとはしゃぐ彼女たちが艦娘と言われても、今ひとつピンとこなかったが、雪風や名取、瑞鶴。彼女たちが本当に、海に出て戦う艦娘であると改めて認識せざるを得なかった。
「たまげたぜ…あんたら、本当に艦娘だったんだな…」
「そうだよ。瑞鶴達は艦娘。海に出て深海棲艦と戦う艦娘だよ」
そうは答えたものの、内心は恐怖の対象と見られていないか、今後は冷たい対応をされるのではないか…。
時雨や村雨は、まだ商店街の人たちのことはあまりよく知らない。それ故に怖かった。何を言われるのか。何をされるのか。
「助かった。瑞鶴ちゃんやみんなのおかげだ。ありがとう。ありがとう」
船の上で深々と頭を皆に下げる源。海に生き、海と共に生きてきた源にとって、艦娘とはこの十年近くは自分や海を守ってくれる守り神であると思ってきた。彼女らがいるからこそ、自分は生活ができていると。海に生きて数十年。身近に存在する海の守り神。
彼はその守り神を自分達の脅迫の道具に使う前の提督が許せなかった。一度安久野に対して文句を言ったこともある。
「艦娘は海の守り神だ!うちにあるもんは神様に供物として捧げる!けどな、てめえらみてえな屑にくれてやったつもりはねえ!神様を道具のようにこき使ってりゃ、いずれてめらにゃ罰が下るからよ!」
「守り神だ?馬鹿馬鹿しい。艦娘は道具だ。深海棲艦から我々を守る武器であり、戦う兵器だ。神と崇めるなら艦娘を使役し、海を守ってやってる儂らを崇めろ。儂らがいなければ貴様など海に出ることも叶わず、野垂れ死ぬだけだろう!ワハハハハ!!!」
「てめえ!!!!!」
殴りかかろうとして、憲兵と称したゴロツキのような奴らに公務執行妨害と称して散々殴る蹴るの暴行を受けたことがある。その時の艦娘の悲しそうな顔は忘れられない。
新しい軍人がやってきた。こいつも艦娘を連れて物を買いに来たと言った。厭らしい顔でもない、軍人らしからぬ若い青年。肉屋の女将、梅に現金を押し付けて逃げ出した変わり者。彼は今までの「くそったれた嫌みったらしいクソ軍人」と言うイメージを一気に吹き飛ばし、遠い存在だと思っていた海の守り神、艦娘との距離をうんと近くしてくれた。
彼を中心に艦娘はいつも笑っている。手を繋いで連れられ、はしゃぐ子どもみたいな子。座敷わらしみたいと言われ、年寄りに拝まれる子。松子の店でかわいい服を見て決めかねている子。コロッケをを頬張って満面の笑顔の子。誰もが輝いている。
でも、こうして海を守るのだ。自分たちと変わらない姿で海上を走り、砲を撃ち。自分たちが安穏な生活を送れるように。どこからやってきたのかもわからない。兵器?馬鹿げてる。やっぱり、彼女達は自分にとって守り神なのだ。
「ありがとうよ…うまくは言えねえ。でもやっぱり、あんたらは、艦娘は。俺にとっちゃ守り神だ。神様直々に助けられたなんてよ、本当にありがてえ…ありがてえよ…!」
深々と頭を下げ、雪風のお守りを持ったまま手を合わせる。瑞鶴と最上は目を合わせてしばらく考える。
「源さん!雪風のお守りが効いたなら嬉しいです!源さんのために一生懸命雪風の幸運をお守りに吹き込みました!源さんをお守りできてよかったです!」
「あー、うん。その。瑞鶴達は神様だなんてそんな大それたものじゃないからさ…そんな手を合わせられたらなんて言うか…恐縮しちゃうよ」
「源さぁん。どこか痛いの?文月がよしよししてあげようか?」
「ボクもしてあげようか?えへへ!あ、そうだ、源さん!今どんなお魚がおいしいの?ボク、源さんのところで買ってきてくれるお魚だーい好き!お刺身とか焼き魚とか。ぜーんぶおいしいよ!」
「み、みんな…」
「源さん。瑞鶴達はこれが役目なんだよ。海を守って、そしてみんなを守る。これが私たちのやるべきこと。でも、こうして、源さんや梅さん、商店街のみんなと一緒にお話したり、お買い物するのが楽しいんだ。源さんのお店の魚はおいしいし。神様って言うんじゃなくて、普通に見てくれると嬉しいな」
顔を上げると、皆が源を見て笑っていた。そこで笑うのは。夕日を背景に、何よりも美しい女神のように見えた。でも、彼女たちは普通の女の子として見てほしいと。そう言った。
「おう。わかったよ!皐月ちゃん。今ならやっぱりカツオだな。刺身もうめえし、ちっと藁で炙ってたたきにしてもうめえぞ!よし、助けてくれたお礼だ、カツオをたんまりやるからよ、玲ちゃんにカツオ尽くしにしてもらいな!」
「やったー!文月、楽しみだね!」
「うん!たのしみたのしみ~♪」
源の言葉に文月と皐月が飛び上がって喜ぶ。時雨や村雨達駆逐艦と最上がそこに混ざって喜んでいる。五十鈴はやれやれ、と言った顔。鳥海も何だか期待した顔をしている。
「はい。わかりました。ではそのようにお伝えします」
「翔鶴姉、どうしたの?提督さん?」
「ええ、源さんを乗せたままでいいから、船を運べと。明石さんに修理してもらうと」
「お、おい。そこまでしてもらわなくったってよお。どうせこいつはもうダメだ。直せねえよ」
「それを可能にできそうなのが一人いるのよね。まあ、一回見てもらおうよ。船がなくっちゃ、どうやってお仕事するの?」
「うっ、そりゃそうだけど…」
「はーい、雪風ちゃん、時雨ちゃん。源さんを鎮守府へごあんなーい」
お任せください!と速度をあげる雪風と時雨。幸運艦同士、息はぴったり。この小さな体のどこからそんなパワーが出るのか不思議だった。文月と皐月がやたらと源に懐き、鎮守府に戻るまでずっと源と話をしていた。主に玲司の話ばかりで、いかに玲司が彼女たちに愛されているかがわかった。
「それでねそれでね。文月はしれーかんが大好きなんだよ♪でもね翔鶴さんはねぇ、もーっとしれーかんが大好きなんだよぉ♪」
「れいじさんって言ってるんだよ!かわいいね!」
「ふ、二人ともやめてー!」
慌てふためく翔鶴に大笑いする源だった。
/
母港に帰ると、玲司が立っていて出迎えていた。戻ってきた艦娘は一糸乱れずに敬礼をし、玲司もそれに敬礼で返す。制服姿の玲司は、いつも見ている少し頼りない兄ちゃんと言うイメージとは違い、キリッとした表情で頼もしく見えた。
「源さん。無事でよかった。今からこの明石って子が見ますから、待っててくださいね」
「はじめまして!工作艦明石です!さっそく直しちゃいますね!」
背中からたくさんの工具やクレーンが現れ、エンジンに手を置く。誰にもさわらせたことのない自分の相棒の心臓。今は彼女に任せるしかない…とやや心配そうに見つめていた。
「おー?これならまだいけるかな?源さん二時間ほど時間もらっていいです?」
「に、二時間だ!?馬鹿言ってんじゃねえ!オーバーホールだぞ!?どれだけ時間がかかると思ってるんでえ!!」
そう言っている声がもう聞こえていないのか、明石が修理に取りかかる。固定されたエンジンをすいすいと取り外し、何よりも源が驚いたのは「よっこいしょ」のかけ声と共に軽々と持ち上げてしまったこと。細い女の子腕でありながら、機械でも使わなければいけない鉄の塊を軽々と持ち上げたのだ。それもまるでダンボールに入った小物でも持ち上げるかのように。
「よいしょっと。んー!ひさしぶりに面白そうなのきたー!よーし、ついでに整備も全部やって、40ノットくらいかるーく出るようにしちゃお!」
「まてまてまて!普通に直せ!」
「えー!そんなぁ…」
何を言っているのかさっぱりわからないが、あのおんぼろで40ノットも出せば、船体がもたない。勘弁してほしい。
「よいしょー!」と言う掛け声と共に、一瞬でバラけるエンジン。こっちの心臓が止まりそうだった。直るのか、これは…と不安がよぎる。
「うっわー!うっわー!すっごいきれい!真面目にメンテナンスしてる人の船のエンジンっていいなー!もうきったない人のだとヘドロ化した冷却水とか出てきて最悪でしたよー!あとドロッドロのシリンダーとか。うーん、船を愛してる人っていいですね!」
「あったりめえだろ!こいつは俺が漁師になったときからの付き合いよ!大事に大事に乗ってきたんだ!こいつが俺の嫁でえ!」
「いいですねいいですね!ほら、このまめに換えられたガスケット!愛を感じますよー!」
「おうおうおう、わかってくれるか!姉ちゃん、あんた最高だぁ!」
何だかよくわからない話で明石と源が意気投合。船をぞんざいに扱う奴は海の男じゃねえ!と口を揃えて言ってたり。明石はベラベラと会話は止まらないが手は猛スピードで動き、艤装の工具やクレーンもめまぐるしく動いている。
源が途中で息をのんでいた。圧倒的スピードで直されていくエンジン。
「な、なあ、壊れた箇所のパーツはどうやって調達してんだ…?」
「ん?ああ、私の艤装で作ってますよ。取り寄せだとこれ、もうパーツないでしょうし。レストア品なんて怖くて使えないですし」
「つ、つくる?」
「はい!ばっちり新品のパーツですよ!」
「マジ?」
「マジです!」
源が白目をむいている。脳が明石の言うことについていけなくなったらしい。明石はそんな源を後目にルンルンと歌いながら修理を続ける。そして…
「よっこいしょ…こうしてこうして、はーい!修理完了でーす!時間は、うん!1時間52分!予定よりも早く終わりましたー!。さっそくエンジンをかけてみてくださいね!」
おそるおそるエンジンを起動する。エンジンは力強く音を鳴らし、ドッドッドッと早く回せと言わんばかりに船を揺らす。
「うおおおお!!すっげえ!すっげえ!!!」
「提督に怒られるので普通に修理しただけですよー」
「ありがてえ!ありがてえ!あんた最高だ!」
オイルや汚れでドロドロの手だったにも関わらず、明石の手を握って涙を流していた。彼にとって船は命の次に大切なものであり、食うためには船がなければならない。修理の間は生活にもやや影響が出るところであったが、それがものの2時間ほどで解決してしまった。
「わあ、嬉しいなあ。そう言ってくれて。さあ、あとは無事港に帰るだけですね!雪風ちゃん達、頼んだわー!」
雪風、時雨、村雨、皐月、文月、それぞれが待ってましたと言わんばかりに海に立ち、源を誘導。後ろも護衛する。船は今までよりも驚くほどパワーを発揮。力強く波をかき分けて進んだ。
雪風の探照灯が港を照らし、船の音が近づくと陸から声があがった。
「きた!源ちゃんだ!帰ってきたぞ!」
「おお!ありゃ雪風ちゃん!」
徳三や茂が声を上げた。幼い頃からそれぞれ悪友としてやってきた。その一人が命の危機に瀕していると聞いたときは気が気でなかった。いつも無邪気でかわいらしい雪風が。皐月が、文月が。勇ましい顔で源を誘導していた。
やっとのことで港に着き、陸に上がると徳三と茂が泣きながら源に抱きついた。
「うおおおおおん!源ちゃん!無事でよかったよおおお!!」
「ばっかやろう!無茶しやがってよお!馬鹿やろう!」
「泣くんじゃねえよバーロー!俺ぁ海の男だ!危険は隣り合わせだっつの!けど、今回は雪風ちゃん達に助けられたよ!」
そういって雪風たちを見る。源と目が合うと雪風たちは源たちに敬礼をする。
「横須賀鎮守府!駆逐艦一同!源さんを無事にお守り致しました!ご無事で何よりでした!以上で源さん救助作戦を終了し、帰還致します!!」
「ありがとう!雪風ちゃん、みんな!明日、うんとお礼すっから!玲ちゃんと一緒に来てくんな!」
「みんな、ありがとうね。あら、そっちの二人は…玲ちゃんと一緒においで。初めて玲ちゃんが来てくれた時に一緒に来てくれてたでしょ?そのとき、冷たくしちゃったから謝りたくて」
「え、僕たちですか?」
「え、ええと…私たちは別に…」
「あたし達が謝りたいのさ。悪いことはしっかり謝らなきゃ。無理にとは言わないから、ね?」
「わかりました。では、提督に伝えておきます」
「よろしくね。梅がそう言ってたって言やぁいいよ」
「はい!わかりました!」
「それでは、雪風達は帰還致します!」
もう一度敬礼をし、去る雪風達。ありがとう!またおいでね!と暖かい声がずっと聞こえていた。皐月や文月はずっと笑顔で。雪風も誇らしげに。
「何だろう。胸がとっても温かいや…」
「うん!村雨も一緒!ありがとうって言われるって、こんなに嬉しいことなんだね!」
時雨も村雨も笑顔で帰還した。帰ってくると今度は玲司が「ありがとうな」と五人の頭を撫でる。雪風や皐月、文月は嬉しそうに抱きつき、村雨も嬉しくて飛びつき。時雨は顔を真っ赤にしていた。疲れを取るため、風呂に入って部屋に戻って布団に入ればすぐに寝息を立てて眠った。胸の温かいものは消えないまま。
……
眠る前に水を一杯飲もうと食堂に来た瑞鶴。食堂は明かりがついていて、誰かいるようだった。
(間宮さん?それとも提督さん?)
中に入ると居たのは玲司だった。玲司は瑞鶴に気づいて「よお」と声をかける。
「瑞鶴か。どうした?水か?」
「うん。寝る前に飲んでおこうかなって。提督さんは何してんの?」
「俺は包丁を研いでから寝ようかなってな。これ研いだら終わりさ」
シャコシャコと包丁を研いでいた。玲司が大本営でコックをやっていた頃から使っている年季の入った包丁だ。いつもピカピカで。どんなものもスッと切れる。間宮が使わせてもらったら感激していた。間宮の包丁も玲司が研いでいる。研いでもらってからと言うもの、間宮はいつも嬉しそうに包丁を握っている。
水を飲んで一息。玲司が終わるまで待とうと思っていた。何か話をしたいが…気まずい。ここ最近のことが後を引いてとても話しかけづらいのだ。わずかに水道から流れる水の音。そしてシャコシャコと刃を研ぐ音が衝動に響く。
「マスターとは」
「ひゃっ?!」
突然玲司が声をあげたので驚いてしまった。そのせいで一緒に変な声が出てしまった。玲司は笑っている。
「う、うううう…」
「マスターと話をして。俺やここの皆とは違う第三者と話をしてみて。何か得られたものはあったか?」
手を止めずに瑞鶴に声をかけていく。瑞鶴はその質問にわかってるくせに…と思った。言うとまた笑われそうだったのが気に入らないので口に出すことはやめた。
「……あった。マスターと話して。車の中で提督さんに言われたことも。私が…間違ってた。あいつに。あいつに言われたことを馬鹿みたいにやり続けて。みんなや…翔鶴姉を見下して。自分は強いって思い込んで。龍驤さんに言われたことも何一つ理解できないで。自分が弱いだなんて考えもしなかった」
手を動かしながら瑞鶴の話を聞く。独りよがりの強さの限界を。最上と本当に、初めて手を組んで戦った感覚。最上とのくだらないやりとりがとても楽しかったこと。
「結局唐揚げは考えておいてやるーなんて言っておいてきっちり取っていくんだもん。ひどいと思わない?」
「ははっ!また今度多めに作ってやるから。今回はガマンしな」
「え、ほんと?やったぁ!さーんきゅ!」
「いろいろと見つけられたんだな。そいつはきっとお前にとって本当に強さを得ることができるだろう大事なもんだ。絶対にそれを見失うなよ」
「うん…わかってる。私、みんなと。提督さんと。ここでやっていきたい。誰も沈ませたくない。だから。だから、もう間違えない」
「間違えないのは無理だな。俺もそうだし。お前だって。皆だって、人の心がある。心があるから間違える。でもな。間違えた時にちゃんとそれに気づいて正せるかどうか。それにかかってる。間違えて迷うことはある。車の中でも言ったろ。迷った時は下を見るな。上を見ろ。太陽を見ろ。星を見ろ。案外簡単に見つかるもんさ。答えなんて」
包丁を研ぐ音は終わり、水で洗っている。しっかり洗って包丁を眺める。相変わらずきれいに輝いた包丁だ。
「何かあれば翔鶴でも、俺でも。最上でもいい。誰かに頼れ。俺たちは仲間だ。一人で考えるよりきっと答えに辿り着くのは簡単になる。約束だ。俺もがんばる。一緒にやっていこうぜ」
「うん…うん!ありがとう、提督さん。私、提督さんが来てくれてよかった。何だか今までよりも、もっとここでみんなとわいわいするのが楽しくなった!!」
「そうかい。最上と蒼い眼なんてのを見せようとしたときはほんとに笑わせてくれたぜ」
食後に最上が今日の瑞鶴の眼のことを話していた。電が見せたと言う蒼い眼。それが一体何なのかはわからなかったが、それが出たと言っていた時から、艦爆を飛ばしても物凄く集中して飛ばすことができた。一体何なのか自分でも見てみたくなった。
……
「ふんんぬぬぬぬ!!!」
「瑞鶴がんばれ!もっと力を入れたらきっと出るよ!」
「ぬぬぬぬぬぬ!!」
「電。がんばれ。電は両目だった。それはそれはきれいな眼だったよ」
「ぬぬぬぬぬおおおおおお!!!!」
蒼くなるどころか顔も眼も力が入りすぎて真っ赤になっていった。玲司は電と瑞鶴がそれを必死でやっているのを見て腹がよじれそうなくらい笑っていた。
「て、提督…そんなに笑っては瑞鶴さんと電ちゃんがかわいそうです…」
「ひー!ひー!だ、だってよぉ!」
「はあああああ!!!!はぁ…はぁ…どう!?最上!」
息を切らせて最上から鏡を借りる。目が赤く充血しているが瞳の色はちっとも変ってやしない。電は力みすぎて酸欠になったのか、響に膝枕をされ、頭を撫でられて目を回していた。
「は、はにゃあ…頭がクラクラするのです…」
「残念だったね、電。次はきっとできるさ」
「響、あまりそういうことは言わない方がいいんじゃ…」
時雨に制止され、少し悔しそうだった。
「くっそー!最上の嘘つき!何が気張れば蒼くなるよ!大体あんた、唐揚げのことも考えておいてやるって言っておきながら結局取っていくし!」
「考えておくとは言ったけど、ボクはやめとくとは言ってないよ。ごちそうさま♪」
「キー!何よそれ!返せ!私の唐揚げを返せ!」
「いひゃいいひゃい!やめへよ!!もうはらあへははえっへほないっへば!(もう唐揚げは帰ってこないってば!)」
……
「ありゃあ傑作だってぜ」
「うー…あんなこと…」
「ま、今までいろいろと壁を作ってたのがなくなって、ああいうことができたんなら、いいんじゃねえか。また多く作ってやるからさ、今日は忘れようぜ」
「わかったわよぉ。ってか私が何だかいつまでも根に持つ奴ーとか思ってんじゃないの?」
目を逸らして口笛を吹く。
「ごまかすなー!もう!それより、明日商店街に行くんでしょ?だったら早く寝たほうがいいんじゃない?」
「ん、そうだな。んじゃ、瑞鶴。寝小便しないようにな」
「な、なななななな!!!私は子供じゃないわよ!爆撃するわよ!このスケベ!!!」
「わー!逃げろー!!」
玲司はイラズラっ子のように笑って逃げて行った。まったく…とため息を吐く。それでも、そんな親しみやすい性格だからこそ、彼もまた壁を取っ払ってくれた一人だった。姉を救ってくれ、鎮守府を変え。本当に感謝している。何かお返しをしてやろうかとも思ったが、今の態度がムカついたのでやっぱりやめた。クスクスと笑って部屋に戻った。
……
「あら、おかえり。遅かったわね。玲司さんでもいた?」
「ただいま。うん、包丁研いでた。そうね。いろいろと…話せたかな」
「そう…」
「翔鶴姉。私ももっとがんばる。今までサボった分を取り戻して、翔鶴姉に並べるように頑張るね」
瑞鶴の眼はもう迷いはない。しっかりと仲間を守ると言う信念を持った眼だった。その眼に翔鶴は安心した。これならきっとうまくいける。姉妹共々羽ばたいていけると。
「ね、ねえ。翔鶴姉…」
「どうしたの?何かあったの?」
「その…この間弓道場でひどいこと言ったこと…本当に…私を殴っても…」
「そんなことをしたところで何も意味はないわ。瑞鶴はしっかりと私に謝ってくれたじゃない」
「それは、その…そうだけど」
「それはもう瑞鶴が反省して謝ってくれた。だからお終いよ」
瑞鶴の頭を撫でる。子供じゃないんだけど…と思ったが、意外に撫でられることで安心したのか抵抗はやめた。弓道場でやってくれたように、そっと優しく自分を抱きしめてくれる。
「瑞鶴なら私を軽々と超えていけるわ。でも、私も甘んじて抜かれたくないから、一緒に頑張りましょうね。玲司さんが言っているでしょう?最強の空母を目指そうって。姉妹でそうなれたら、私も嬉しいもの」
「うん、がんばろ!翔鶴姉!提督さんがいるならやれるよ!」
「そうね。頑張りましょう!」
そうして今日は布団をくっつけて眠ることにした。
「なんかこれ、ちょっと恥ずかしいわね」
「そうかしら?私は瑞鶴が近くて嬉しいわよ?」
「そ、そう…で、でもさ。翔鶴姉は提督さんとこうして寝たほうがいいんじゃない?」
「ず、ずいかく!?なにをいいだすの!!!????わ、わた、わたし…わたし…あ、あう、あ、あう…」
「あー、ごめんごめん!冗談だって!さ、電気消すよー」
「ちょ、ちょっと瑞鶴!待ちなさい!」
「はい消した!しりませーん!」
布団に潜り込む。翔鶴はずっと瑞鶴の名前を呼んでぽかぽかと布団の上から叩いてくる。明日からは今までと違う、楽しい毎日が始まるんだと思うと、嬉しくてたまらなかった。明日に期待をして、今日はもう寝よう。翔鶴姉にごめんごめんって謝って。ふくれていじける姉を宥めるのに苦笑をしつつ、夜は更けていく。
瑞鶴のお話はこれで終わりになります。最強の空母の一角として、今後大活躍!と言ったところをまた書きたいですね。剣と剣、刀と刀などの近接での鍔迫り合いと違い、航空戦や砲撃戦を書くのは何度と書いても難しいものがありますね…
そこをうまく書ければいいのですが、なかなかうまくいきません(汗。もっと精進してがんばっていこうかと思います。
次回はほのぼの回。「ゆきかぜのにっきちょう」を書いていこうかと思います。
それでは、また。